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多職種協働の実践をめざして

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 647 ~ 648 頁(2015 年) 多職種協働の実践をめざして. 647. 合同シンポジウム 2(日本医学教育学会). 多職種協働の実践をめざして* 松 井 俊 和**. 今年(2015 年)「ベビーブーム世代」が前期高齢者(65 ~. る推進が必要である。また,高齢者の医療・介護および保健・. 74 歳)に到達し,2025 年には高齢者人口が約 3,500 万人に達す. 福祉における多様な需要に対し,「チーム医療」・「チーム介護」. ると推計される。これは 4 人に 1 人が 75 歳以上となり,社会. の必要性が高まっている。保健,医療,介護,福祉分野の専門. 構造が大きく変わることになる. 1). 。高齢者の身体的な特徴とし. 職が,疾病予防,医療,介護,福祉の課題に対する解決策を共. て高血圧や糖尿病などの健康問題を抱えている人が多く,とき. 有し,各自の専門性を発揮して,すべての医療・介護・福祉. として複数の疾患を同時に罹患していることも多い。内蔵機能. および保健専門職が連携することが重要である 5)としている。. や運動機能の個人差が大きく,環境適応能力も低下している。. 医療・介護は病院から地域包括ケアへさらに幅が広がり,さら. 高齢者の将来推計を見ると 2025 年には高齢者世帯に占める割. に多くの専門職と協働しなければその目的を達成できなくなっ. 合は一人暮らし 36.9%,夫婦のみ 33.1%と独居の高齢者が多く. てきている。. なると推計されている. 2). 。秋山らによれば加齢に伴う自立度の. 変化パターンの検討では 80 歳,90 歳まで自立を維持する人が. 医療・介護における多職種間の問題点. 1 割,大多数の 7 割は 75 歳ごろから徐々に自立度が落ちてい. 多職種協働や地域包括ケアを実効あるものにするには,医. く。女性では 9 割の人たちが 70 台半ばから緩やかに衰えてゆ. 療,介護,福祉など関係する多くの職種間で一定の範囲で価値. く。男性は脳卒中など疾患により急速に動けなくなったり,死. 観や認識を共有してゆく必要がある。現在は専門職の間で価値. 亡する人が多いが女性は骨や筋肉の衰えによる運動機能低下に. 観や認識に少なからず差があるものと思われる。基本的な概念. より自立度が徐々に落ちる。男女合わせると約 8 割の人たちが. では医療では専門的能力を用い病気を治すこと,福祉は生活の. 後期高齢期に入る 70 代半ばから徐々に衰えはじめ,なんらか. 安定や充足に寄与することになる。卒業しいろいろな関係分野. の介助が必要になる. 3). ,と解説している。. の資格を取得することになるが現行の卒業前教育では医療,介. そのため今までより地域に密着した支援形態が求められるこ. 護,福祉にかかわる多職種間の認識をお互いに深めるような取. とになる。そしてこれらを実効あるものにするため連携や協働. り組みははじめられようとしているがまだ全国的な広がりを見. の重要性が指摘されている。当然職場や地域の現場だけではな. せているものではない。また病院では医療職は対象者を“患者”. く,職域団体や将来医療人を養成するような教育機関でも例外. と呼ぶが,在宅や地域包括ケアの現場では“利用者”と呼んで. ではない。. いる。異文化の多様な人間の協働が求められている。欧米では 多職種協働を行うためのどのようなコンピテンシーやフレーム. 病院から地域包括ケアへ. ワークが必要か検討され公表されている。それらを比較検討し. 厚生労働省は 2025(平成 37)年を目途に,高齢者の尊厳の. た研究では医療倫理,患者・利用者中心性,チームとしての活. 保持と自立生活の支援の目的のもとで,可能な限り住み慣れた. 動,コミュニケーションなどが共通した項目になっている. 地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができ. 医療人としてのプロフェッショナリズムのコンピテンシーとも. るよう,地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケ. 共通の部分が多くみられ,社会構造や文化の差でその違いが現. アシステム)の構築を推進すると述べている. 4). 。日本学術会議. 臨床医学委員会 老化分科会からの提言でも急性期病院(発症 間もない急性期の患者に,一定期間集中的な治療をするための. 6). 。. れるのではないかとも思われる。. 医師から見た理学療法士. 病床をもつ病院)の在院日数の短縮をはかり,そこで働く医師. 我が国の状況に合わせ,医療,介護,福祉の分野での多職. の負担を軽減し,かつ住み慣れた自宅での生活を継続したいと. 種連携教育 / 協働に関する共同研究が吉本らにより行われて. いう多くの高齢者の希望を満たすためには,在宅医療のさらな. いる 7)。この事業は高齢化での在宅療養などを支える介護・. *. To Achieve the Goal of Practicing Inter-Professional Work ** 藤田保健衛生大学医学部臨床医学総論 (〒 470–1192 愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪 1–98) Toshikazu Matsui, MD: Fujita Health University School of Medicine, Introduction of Clinical Medicine キーワード:多職種協働,地域包括ケア,医師から見た理学療法士. 看護職などの質の向上と多職種連携が不可欠であることを前 提に多職種協働を行ってゆくための課題を抽出し,課題解決 を行うとともに連携能力を評価することが目的とされている。 その中で本邦における大学・専門職養成学校における多職種 連携教育カリキュラムを実施しているのは回答を得た 548 校.

(2) 648. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 中 110 校(20%)で職種ごとに実施校数 / 回答校数(割合%). ようにしている。さらに団地住民の健康課題の解決にあたるた. で表すと医師 8/13(61.5 %), 看 護 師 40/223(17.9 %), 薬 剤. め“まちかど保健室”を開設し健康相談や公開講座を実施し,. 師 11/34(32.4%), 理 学 療 法 士 15/55(27.3 %), 作 業 療 法 士. そこでの活動の一部として学生とともに団地内のウォーキング. 18/43(41.9%)という結果でまだ多職種連携教育の実践には課. マップなども作成している。医療人としての資格を取得する前. 題があるものと思われた。第 47 回日本医学教育学会で春田ら. の専門職連携教育では市民との交流やチームとしての目標を明. は医師に対する認知度調査“医師の「職種に対する認知度・被. 確にした自主的な活動を通して一歩踏みだす力の涵養が大切な. 認知度」の 2 次元マッピングによる分析”を報告した。その中. 目的になるものと考えている。. で医師にとって看護師や薬剤師は認知度・被認知度が高く,心 理士や精神福祉士に関しては認知度・被認知度が低かった。理. ま と め. 学療法士はその中間に位置する,とされていた 8)。協働を充実. 多職種協働のためには,“職種間の垣根”を低くする必要が. したものにするため多職種間の認知をさらに高めてゆく必要が. ある。そのためには早期から協働の場に身を置くような教育環. ある。. 境をつくり,患者・利用者にかかわる医師・理学療法士などが. 多職種協働に向けた私たちの試み 本学は医療系総合大学として医学部,医療科学部で医学科, 看護学科,リハビリテーション学科など 7 学科の学生が同じ キャンパスで活動している。そして建学以来,専門職連携教育 に力を注いでおり,全学の共通学科として“アセンブリ”とい う教科を実施している。この教科は教員,学生がともに活動す るチーム活動を通して社会人基礎力を身につける,などを目 標としている。1 年次には運動・文化・研究などの班活動と初 期救命救急法,衛生手洗い,震災時の心理的初期対応,搬送 法の全学活動を行い,2 年次には“炊きだしボランティアを行 う”“1 年次行っていたスポーツを通して知的障害をもつアス リートの支援を行う”などチーム毎のテーマで活動する。医療 の知識を身につけてきた 3・4 年次には Team Based Learning (TBL)という学習手法を用い学生 600 名がいろいろな学科混 成の 90 チームでチームワークを行っている 9)。ここでは地域 指向型で健康問題などの課題を取り上げている。また大学とし て最初に設置された地域包括ケア中核センター(センター長 金田嘉清)は豊明市,日本都市機構(UR)と包括協定を締結し, 団地内に教員,学生が部屋を借り住みこんで市民と交流をもつ. 顔が見える関係を構築する努力が必要になると思われる。. 文 献 1) 厚生労働省:第 1 回介護施設等の在り方委員会.平成 18 年 9 月 28 日,資料 4. 2) 国立社会保障・人口問題研究所:日本の世帯数の将来推計─平成 15 年 10 月推計─.2003. 3) 秋山弘子:長寿時代の科学と社会構想.科学.2010; 80(1): 59–64. 4) 厚生労働省ホームページ.http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/ bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/(2015 月 10 年 25 日引用) 5) 日本学術会議臨床医学委員会老化分科会:よりよい高齢社会の実 現を目指して─老年学 ・ 老年医学の立場から─.2011. 6) Thistlethwaite JE, Forman D, et al.: Competencies and Frameworks in Interprofessional Education: A Comparative Analysis. Acad Med. 2014; 89(6): 869–875. 7) 国立大学法人三重大学:地域の医療・介護を支える「多職種連携 力」を持つ中核的専門人材育成プログラム開発事業~成果報告 書~ 平成 25 年度 文部科学省委託,成長分野等における中核的 専門人材養成の戦略的推進事業.2013. 8) 春田淳志,大石 愛,他:医師の「職種に対する認知度 / 非認知度」 の 2 次元マッピングによる分析.医学教育.2014; 45: 148. 9) Ohtsuki M, Matsui T: Large-scale team – based learning for interprofessional education in medical and health sciences. Medical Teacher. 2014; 36: 450–453..

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参照

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