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高齢者における認知・運動能力と脳内ネットワーク

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DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.36.28

高齢者における認知・運動能力と脳内ネットワーク

川 越 敏 和

島根大学医学部

The cognitive-physical association and functional brain network in older adults

Toshikazu Kawagoe

Faculty of Medicine, Shimane University

Many reports have associated aging with deterioration in a number of cognitive functions. These reports have also demonstrated the beneficial effect of physical fitness on cognitive function, especially executive function. Here, studies related to cognitive-physical association in older adults are reviewed and I also report our recent studies for such association. In our study, we utilized task-based and resting-state functional magnetic resonance imaging tech-niques. The mechanism of the relationship between physical fitness and cognitive function could be further investi-gated by functional brain network.

Keywords: aging, older adults, physical fitness, executive function, brain network は じ め に 内閣府 (2015) によると,本邦の高齢化率は世界一で あり (26.7%),加齢によるさまざまな変化について理解 し対策を立てることは重要な課題となっている。加齢に よる衰えがさまざまな領域に及ぶことは周知の事実であ るが,そこには個体内での日内変動や機能特異的な減 衰,それらの交互作用などもみられ,多様な個人差が存 在する。本稿ではまず広義の認知機能と運動機能に着目 し,高齢者におけるそれらの特徴と関連性について議論 する。また,それらを生み出す脳機能や脳内ネットワー クの関連性についての知見も含め,認知機能と運動機能 がともに優れる「高機能な高齢者」の脳科学的な特徴に ついて論じる。 高齢者の認知機能と運動機能 ス ウ ェ ー デ ン の映 画 監 督 で あ っ た Ingmar Bergman (1918–2007) は「老いは山登りに似ている。登れば登る ほど息切れするが,視野はますます広くなる。」と述べ ている。これは,加齢には息切れに喩えられる機能低下 だけではないポジティブな側面があることを指してい る。実際に結晶性知能と呼ばれる,過去の経験が土台と なる専門的あるいは個人的な能力や知識などは,加齢に よって維持ないしは向上することが示されている (e.g., Baltes, Staudinger, & Lindenberger, 1999)。しかし,やはり 種々の機能低下があることは明らかである。物忘れに代 表される記憶能力の低下をはじめとして,流動性知能と 呼ばれる大半の認知機能は加齢により確実に低下する (Park et al., 2002)。この低下はすべての認知機能におい て一様というわけではない。例えば単なるリハーサルが 求められるような短期記憶課題では若年者と比しても大 きな成績の低下はみられないが,記憶の更新や操作が必 要とされるワーキングメモリのような認知機能になる と,途端に高齢者で成績が落ちることはよく知られてい る (Reuter-Lorenz & Park, 2010)。

運動機能に関しても加齢による機能低下は避けられな い。病気やケガ等がなくとも,概して高齢者の運動は ゆっくりとしたものになる。筋肉量の減少や神経制御能 の低下による筋力の低下 (Clark & Manini, 2008),バラン ス能 力 の 低 下 (Sheehan, Greene, Cunningham, Crosby, & Kenny, 2014),酸素摂取量の低下 (Ogawa et al., 1992) など は正常加齢により低下し,歩行速度に代表されるような 全般的な運動機能も着実な低下を経験するのである (Schimpl et al., 2011)。世界保健機構 (WHO) は「成人は Copyright 2017. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Correspondence address: Department of Neurology, Faculty

of Medicine, Shimane University, 89–1 Enya-cho, Izumo, Shimane 693–8501, Japan. E-mail: toshikazukawagoe@ gmail.com

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30分以上の中強度の運動を可能であれば毎日行うのが 好ましい」としているが,米国心臓協会(AHA)は65 歳以上の高齢者と50∼64歳の臨床的な機能低下が進む 成人に対しては異なった運動の指南をしており,統一さ れたグローバルな提言は確立されていない。また,早い 時期からそのような身体活動を行った場合でも,機能低 下を免れることはできない (Manini & Pahor, 2009)。

高齢者における脳活動の特徴 高齢者では,若年者と比して特徴的な脳活動がしばし ば確認される。そのような脳活動は,とくに課題を選ばず 一般的に見られるようである。ここではDedifferentiation (脱分化)とCompensation(補償) について簡単に述べ, 認知加齢におけるモデルをいくつか紹介する。 脱分化はすでに分化した細胞が未分化の状態に変化す ることを指す。脳は部位ごとに異なる機能を持つという 考え方が一般的であり (機能局在論),それを達成する ために特異的な機能を担うよう発達過程を経て神経細胞 が変化する。それが再び特異的な機能を持たない状態に 戻ることを脱分化と呼んでいる。もちろん,植物細胞の 培養で見られるカルスのように完全に未分化の状態に戻 るわけではないが,それに似た現象が確認されている。 Park et al. (2004)は,腹側視覚領域の脱分化現象につい て報告している。彼らの実験では,実験参加者は5つの 種類の画像を呈示され,それらを覚えるように教示され た。実際は記憶のテストはなく,これは注意を画像に向 けてもらうための教示であった。画像の種類は人の顔, 家,無意味綴り(単語),椅子,統制のためのスクラン ブル画像の5つであった。顔・家・単語の3つはこれま でに局所的な領域で処理されていることが報告されてい るものである。機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)を用 いて画像を観察中の若年者と高齢者の脳活動を調べ,各 画像を呈示した時に集団レベルで最も活動した領域をそ れぞれの刺激に特異的な領域とした。それぞれの部位に ついて,各画像を呈示したときの脳活動量を比較したと ころ,とくに顔・家・単語について若年者では各画像に 対応した領域で明らかに活動が大きかった。一方で,高 齢者では各領域の対応した刺激に対する活動量が低下し ており,さらに例えば顔領域に対する家画像など,ほか の刺激に対しても各領域が比較的大きな活動を示した。 このことは,高齢者の脳における特異性が低下したと解 釈でき,脱分化を示していると考えられる。このような 脱分化は,種々の課題を用いた複数の研究によって確認 されており(Grady et al., 1992; Reuter-Lorenz et al., 2000; Voss et al., 2008),加齢による神経レベルでの処理効率の 低下を反映していると考えられている(Goh, 2011)。 もう1 つの特徴的な脳活動として,補償が挙げられ る。高齢者は種々の課題において,若年者よりも多くの 脳部位を活動させ,機能の低下を補う。その際の若年者 に比しての余分な脳活動は成績と関連することが多く, このような場合それは補償的脳活動であると考えられ る。Grady et al. (1994) は,若年者群と高齢者群を対象に 顔と位置刺激を使用したマッチング課題を行い,陽電子 放射断層撮影 (PET) を用いて課題中の脳活動を測定し た。両群ともに,単純にボタンを押すだけのコントロー ル課題と比較すると,顔を刺激とした場合には特異的な 脳活動が腹側視覚野に見られ,位置を刺激とした空間的 課題の場合は背側視覚野の活動が見られた。ここで若年 者と高齢者を比較すると明らかな群間差が確認された。 若年者では視覚連合野の一部である前有線皮質の活動が 高齢者よりも有意に大きかった。一方で高齢者では,特 に成績が低かった空間課題に関して若年者よりも前頭前 野と頭頂葉の活動が有意に増大していた。この結果は, 若年者は効率的に後頭領域,すなわち比較的低次な脳機 能により課題を遂行していたのに対し,高齢者がそのよ うな部位の活動減少をより高次な機能を司る脳部位の活 動により補っていることを示すものである。この研究を 皮切りに,高齢者における補償的活動に関する研究が多 く報告されることとなる。Cabeza, Anderson, Kester, & McIntosh (2002)はエピソード記憶課題で,Davis, Den-nis, Daselaar, Fleck, & Cabeza (2008)では,エピソード記 憶課題と単純な選択反応課題でこのような過活動を確認 している。後者の研究ではさらに,過活動を示した部位 は難易度の異なる2種の課題に共通していたことを報告 している。Cabeza (2002)は,彼らの実験で補償的活動 が生じた部位が若年者でも活動が見られた前頭の部位の 対側だったということから,認知的加齢におけるhemi-spheric asymmetry reduction in older adults (HAROLD)と いうモデルを提唱した。一方でDavisらは,高齢者では 後頭葉の活動が低下し前頭葉の活動が上昇していたこと から,posterior anterior shift in aging (PASA) モデルを提唱 した。これらの仮説は前頭葉が補償的に活動していると いう点で共通している。また,Reuter-Lorenz & Cappell (2008)は認知的訓練や運動介入,食事制限などのポジ

ティブな生活因子によってこれらの補償的活動に利用可 能な領域が増える可能性を指摘している。これらStern (2009)が提唱した認知的予備力の概念に基づくもので

あり,彼らの説はcompensation-related utilization of neural circuits hypothesis (CRUNCH)と名づけられた。CRUCH では,課題負荷と個人の予備力の程度から過活動量が決

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定されると予測され,このようなトレードオフの関係は 多くの研究で実証されている (Maillet & Rajah, 2013; Mat-tay et al., 2006; Reuter-Lorenz & Cappell, 2008)。

高齢者における認知と運動の関係 一般的に,特に高齢者においては認知機能と運動機能 は相関関係にあることが知られている。この関係性は, まず日常生活における運動量と認知機能の関連を調査す ることから始められた。普段の運動量に基づいて高・低 群を設定し,参加者に対して行った認知機能検査の成績 を比較することで群間差について検討する。このような 方法では,概して運動量が高い高齢者の方が認知機能が 優れているという結果が得られている (Clarksonsmith & Hartley, 1989; Weuve et al., 2004)。また,縦断的方法に よっても,運動と認知機能の正の関連は確認されてい る。例えば6年にわたる中規模な追跡調査では,運動機

能の指標として最大酸素摂取量 (VO2MAX) が研究開始

時のベースライン測定で低い人ほど終了時の認知機能が 低下していることが明らかになっている (Barnes, Yaffe, Satariano, & Tager, 2003)。この研究では年齢や教育歴, 生活習慣等の要因などの特性を考慮した解析でも,全般 性認知機能と注意・実行機能系課題の低下には運動機能 が関連していることが示されており,高齢期の運動能力 が,比較的長いスパンにおいても認知能力の維持と関連 していることを示唆するものである。 認知と運動の関係性については,介入研究によってさ らに踏み込んだ提言がなされている。Kramer et al. (1999) は60∼75歳の高齢者を対象に,運動群には歩行を基本 としたエアロビック的介入をおこない,統制群にはスト レッチを基本とした非エアロビック的介入を行った。そ の結果,歩行による介入によってのみ実行機能課題の成 績が向上することを報告している。同様にエアロビック な運動の効果を複数の課題を用いて検討した10か月間 (週に3回,1時間程度) の介入研究では,特定の課題に 限局した影響である可能性が示唆されたものの,実行機 能の向上が認められている。Colcombe & Kramer (2003) は1966年から2001年までの18の介入研究を対象にメタ 分析を行い,それぞれの介入研究の効果量を算出した。 この研究では,「実行機能」,「コントロール (運動学習 などの精緻な動作に関する認知機能)」,「空間認知」,「知 覚速度」の4つの認知機能に着目しており,分析の対象 とした研究で使用されていた評価課題をこれらに分類し 各機能別に検討していた。全体的には,統制群が介入期 間前後で1/8 SDの能力向上が見られていたのに対し,介 入群は平均1/2 SD程度の認知機能の上昇が得られていた ということが明らかになった。さらに個別に機能を見て いくと,「実行機能」において運動介入の効果が最も大 きかったということが確認された。この結果は実行機能 と運動との強い結びつきを示しており,「運動により実 行機能が向上する」ことを実証したものである。これら の知見から,運動機能と認知機能は高齢者において密接 に関連していること,それらがともに優れる「高機能な 高齢者」が存在すること,また,運動→認知という方向 性が想定されることが示されている。 高齢者における認知・運動関連に関わる脳領域 著者らは,高齢者の認知運動機能間の関連についての 脳領域について検討した (Kawagoe et al., 2015)。課題関 連の脳活動を検討するのに適している手法としてまず挙 げられるモダリティとして機能的磁気共鳴画像法 (func-tional Magnetic Resonance Imaging: fMRI) がある。fMRIは 神経細胞の活動に伴う細胞周辺の血中オキシヘモグロビ ン濃度を測定することで神経活動を推測するものであ る。しかし,fMRIの測定は大きな装置の中で極力体動 を起こさないようにして行われるため,運動課題中の脳 活動測定には不向きである。これまでの運動中の脳活動 に着目したfMRI研究では,手首を曲げるだけなどのご く単純な運動を行わせるというものや (Heuninckx,

Wen-deroth, & Swinnen, 2008),運動課題を試行しているとこ ろをイメージしてもらうという手法がとられている (Blumen, Holtzer, Brown, Gazes, & Verghese, 2014)。

このような工夫から,これまでに運動課題の難易度や パフォーマンスと脳活動には相関関係があることが明ら かにされてきた。例えば,握力を測定しているときの脳 活動量は握力の大きさに比例し,特に高齢者では広い範 囲での成績に相関した活動が確認されている (Noble, Eng, Kokotilo, & Boyd, 2011)。この研究は,筋力コント ロールの際の運動関連領域などの脳活動量は算出する大 きさと比例すること,高齢者は筋力コントロール能力に 関連する機能低下を補うために補償的な活動を行ってい ることを示した。Heuninckx et al. (2008)では,手足関 節の協調性運動をfMRI装置内で行い,運動制御に関す る脳活動の測定を試みている。課題は,手足関節の屈曲 と伸展を同時に fMRI装置内で繰り返すものであるが, 手足の運動の組み合わせ (手は屈曲で足は伸展など) を 変えることで難易度を実験変数としていた。実験の結 果,運動中の脳活動が運動関連領野で確認され,高齢者 において難易度の高い運動の場合には前頭葉での活動が 特徴的に見られた。さらにその活動量は,運動課題成績 と正相関しており,活動量が高い高齢者ほど運動成績が

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優れていた。 以上のような研究から,我々は運動課題成績と脳活動 レベルは相関するという前提に立ち,視覚的ワーキング メモリ (VWM) と歩行課題成績間の相関 (Kawagoe & Sekiyama, 2014) について,VWM課題中の脳活動量と運 動課題の行動成績との相関を算出するというパラダイム によりVWMと運動に共通するであろう神経基盤を求め ることとした (Kawagoe et al., 2015)。以下に概要を紹介 する。 研究対象は60歳以上で独立して生活している精神病 歴や神経血管障害,心肺筋骨格系等の異常のない高齢者 であった (N=32, Age: M=73.06, SD=4.83, Female=12)。 fMRI 中の認知課題として,VWM を測定する N-back 課 題 (Kirchner, 1958) を用いた。ワーキングメモリは実行 機能の中でもUpdating (情報の更新) に関するものであ り,毎試行ごとに N個前の刺激を更新する必要がある N-back課題はその測定に適したものである。本研究で は高齢者を対象としたことから,ある程度の正答率が期 待できる1-back課題を使用した。装置外での運動課題と してTimed Up and Go test (TUG; Podsiadlo & Richardson, 1991)を採用した。TUGは短時間で測定できる簡便な 歩行をベースとした機能的運動機能指標である。参加者 は椅子に着座した状態から実験者の合図で立ち上がり, 3 m先に置かれた目標(コーンなど)へ向かって歩き, その目標を周ってもとの位置まで戻り,再び元の椅子に 着座する。実験者の合図から着座までの動作にかかる時 間がTUGの成績となる。TUGは臨床場面でよく採用さ れるものであり,測定者間での妥当性の高さや転倒リス クをよく予測する (Podsiadlo & Richardson, 1991; Shum-way-Cook, Brauer, & Woollacott, 2000)。以上の指標を測定 し,N-back課題成績と課題中の脳活動に対してTUG成 績との相関分析を行った。行動データについて,TUG とVWM成績間には有意な相関が得られ,先行知見と同 様に運動成績が優れている者ほど認知機能も優れてい た。脳画像データについては,TUG成績が良い高齢者 ほど基底核や視床などの皮質下領域の活動が高く, TUG成績が悪い人ほど前頭葉の活動が高かった。すな わち,高機能な高齢者は皮質下領域を中心とした活動に より十分に課題がこなせたが,そうでない高齢者は前頭 葉による補償を行っていたと考えられた。基底核や視床 は運動と実行機能双方に深く関連する部位であることが 知られており(Albin, Young, & Penney, 1995; Baier et al., 2010; Sommer, 2003; Van der Werf et al., 2003),また先述の 通り,高齢者の補償は認知機能に対してだけでなく運動 課題中にも起こることが示されている。これらを踏まえ ると,本研究では運動機能と認知機能に共通する高齢者 における機能低下と補償のパターンが描出できたのでは ないかと考えられる。機能低下と補償という過程は,運 動・認知の両方に共通したものであり,少なくとも VWMと歩行の関連については皮質下領域と前頭前野の 活動パターンが関与している可能性が考えられる。 fMRIではなく実運動中の糖集積を測定できるFDG-PET などを用いたさらなる検討が待たれる。 高機能高齢者の脳内ネットワーク 近年注目が集まっている脳研究手法の一つに,安静時 におけるBOLD信号の自発的変動を調べるという方法が ある。これまで紹介したようなタスクベースのアプロー チとは異なり,被験者に閉眼もしくは固視点を注視して もらった状態で安静にするよう教示し,その際の脳活動 を測定する。このような測定によりデフォルトモード ネットワークの存在 (Raichle et al., 2001) や,それがアル ツハイマー型認知症をはじめとした様々な神経疾患と関 連することが明らかにされてきた (例えばGreicius, Srivastava, Reiss, & Menon, 2004)。高齢者における安静時fMRIを用 いた研究からは,有酸素運動が加齢による安静時脳内 ネットワークにポジティブな影響を与えていることが明 らかにされている (Voss et al., 2016)。著者らは,高機能 な高齢者における安静時脳活動の特徴にグラフ理論に 基づいたアプローチにより迫った (Kawagoe, Onoda, & Yamaguchi, 2017)。 グラフ理論に基づいたアプローチでは,脳を複雑系の ネットワークとして捉え,点 (ノード) と線 (エッジ) に よる記述でその挙動や構造を説明する。ノードが解析者 が設定する脳領域で,エッジがそれら脳領域間の時系列 相関にあたる。Kawagoe et al. (2017) では,グラフ理論 の代表的な指標であるGlobal Efficiency (GE) とLocal effi-ciency (LE),Betweenness Centrality (BC) の3つを脳機能 データとして採用した。GEはあるノードと他のノード の最短距離を全組み合わせについて平均した数値の逆数 であり,脳の全体的な効率性のよさを示す。LEはある ノードに結合しているノード間のGEを算出することに より計算されるもので,局所的なサブネットワークの効 率性を示す。BCはあるノードがどの程度「ハブ」とし て機能しているかを示す指標である。本研究では,高齢 者における運動・認知機能関連に関する脳内ネットワー ク に着 目 し た。 解 析 対 象 者 は 60–79 歳の高齢者 57 名 (Age: M=68.3, SD=5.62) であり,実行機能の指標は言 語流暢性課題,前頭葉評価バッテリー,ウィスコンシン カード分類課題,かなひろいテストの4つの指標を統合

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したものを成績とした (EF-Z)。運動機能については, 有酸素運動能力のゴールドスタンダードとされる VO-2MAXを算出した。脳画像データの解析としては,脳を 90のノードに分割し,各ノード間の安静時脳活動の相 関を算出した。その相関係数に基づき結合の2値化を行 い,1ノードにつき1つのGE, LEとBCを計算した。それ らを全ノードで平均することで 1 人につき 1 つずつ, GE・LE・BCのグラフ理論指標を割り当てた。相関分析 の結果,EF-ZとVO2MAXの間には有意な正相関があり, 先行知見を支持するものであった。行動指標とグラフ理 論指標との相関については,行動指標のレベルが高い人 ほどGEが高く,反対にLEは低いということが明らかに なった。これらの相関は年齢と性別,全般性認知機能な どの影響を除外しても有意であった。BCはいずれの変 数とも有意な相関関係は得られなかった。さらに,運動 がGE・LEを介して実行機能に影響しているとするモデ ルをたて媒介分析を行ったところ,個別のパス係数は全 てが有意とはいかなかったものの,間接的効果とモデル のフィット率は有意であり,GEとLEを介した運動能力 の認知機能への波及が確認された。 Kawagoe et al. (2017) における運動・実行機能双方と GE・LEとの相関関係は,高齢者の特徴である補償と脱 分化を反映したものと思われる。補償とは,若年者であ れば課題遂行には無関連なはずの領域が課題遂行の際に 活動し,本来活動すべき領域の機能低下を補うというも のであった。GEの増加は,ある領域がなるべく多くの 領域と効率的に繋がろうとした結果であり,補償的活動 につながるものであろう。反対にLEの低下は局所的な ネットワークの効率性が低下していることを示すもので あり,脱分化に通じるものである。安静時の脳の振る舞 いは課題遂行時のそれと酷似しているという研究がある ことから (Tavor et al., 2016),今回の結果は高齢者の補償 と脱分化を反映したものであると捉えられるだろう。し かし,LEが高機能高齢者で低下していた今回の結果は, 解釈しがたいかもしれない。高機能であるなら全体効率 だけでなく局所効率も優れているべきであるからだ。こ のことについては,高齢者においてワーキングメモリを 測定した研究が示唆を与える。Stanley et al. (2015) は, N-back課題を用いて測定したWM成績と課題中の脳内 ネットワークの関連について検討し,WM成績の個人差 は年齢だけでなくGEとLEに依存していたことを明らか にした。WM成績との関連はLEで負であり,我々の研 究と整合するものであった。また,局所的指標の効率性 だけでは脳機能を説明するには不十分であるという指摘 もある (van den Heuvel & Sporns, 2013)。これらのことか

ら,LEの低下は直接課題成績に影響するものではなく, 例えばGEの上昇に伴う副産物である可能性も考えられ る。ただ,高齢者では一般的に LEは減少することを踏 まえると (Gong et al., 2009),やはり本研究結果における LEについての解釈は難しいと言わざるを得ない。また, 個別のノードに関しての分析では,皮質下領域のGEと LEが運動・認知機能双方と関連しているようであった が,多重性を踏まえると統計的な有意性は残らなかっ た。個別の領域についてのグラフ理論的考察にはサンプ ルサイズを十分にとった検討が必要である。 ま と め 高齢者の運動と認知機能の関連については,多くの研 究から因果関係が特定されるまでに至っている。そのメ カニズムについても複数が提唱されているが,コンセン サスを得るには至っていないようである。近年の脳画像 研究の発展によって,安静時からも脳活動を評価できる ようになり,それが運動・認知機能の個人差に関連して いることが明らかとなってきた。運動と認知機能の関連 についてより詳細に調べるには,様々な認知機能や運動 機能に着目する,それらの相関関係に影響している要因 を調べる,安静時脳活動データも併せて検討するなどの 工夫が必要であろう。 謝 辞 本論文にて紹介した研究においてご指導,ご協力を賜 りました共著者の皆様,ならびに関係者の皆様に厚く御 礼申し上げます。 引用文献

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