• 検索結果がありません。

Powered by TCPDF ( Title Sub Title Author Publisher 経営の意思決定 釜口, 祥子 (Kamaguchi, Shoko) 高木, 晴夫 (Takagi, Haruo) 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 Publicatio

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "Powered by TCPDF ( Title Sub Title Author Publisher 経営の意思決定 釜口, 祥子 (Kamaguchi, Shoko) 高木, 晴夫 (Takagi, Haruo) 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 Publicatio"

Copied!
73
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Title 経営の意思決定 Sub Title

Author 釜口, 祥子(Kamaguchi, Shoko) 高木, 晴夫(Takagi, Haruo) Publisher 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 Publication year 2012 Jtitle 修士論文 (2013. 3) Abstract Notes

Genre Thesis or Dissertation

URL http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=KO40003001-00002012 -2742

(2)

慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程 学位論文( 2012 年度) 論文題名 経営の意思決定 主 査 髙木 晴夫 教授 副 査 大林 厚臣 教授 副 査 清水 勝彦 教授 副 査 2013 年 2月 28 日 提出 学籍番号 81130310 氏 名 釜口 祥子

(3)

論 文 要 旨 所属ゼミ 髙木 晴夫 研究会 学籍番号 81130310 氏名 釜口 祥子 (論文題名) 経営の意思決定 (内容の要旨) チェスター・I・バーナード(C.I. Barnard)が意思決定(Decision-making)という行政用語をビ ジネスの世界に持ち込んで以降、多くの経営学者が様々に意思決定を議論してきた。 伝統的なミクロ経済学の立場からは、生産量や価格の決定に一つの指針を与える経済理論が展開 されているし、マネジメント・サイエンスの分野においては多くの数学的決定技術を開発し、企業 の実践の中に応用されている。対して、経営学、社会学および心理学は、組織における人間の意思 決定問題の究明に取り組んでいる。経営戦略や環境変化への対応という戦略的課題が浮上するとき、 同時に取り組むべき問題として意思決定が取り沙汰され、それに呼応するために経営に携わる者へ の意思決定支援を目的とした研究が数多く行われてきた。結果、現在では意思決定に関する研究や 著述は膨大な数にのぼる。 現実の経営者の欲求に応えようとする努力は一方で、意思決定分野を、広く蓋然性の高い経験的 法則が乱立する状態に陥らせてもいる。個別事象を対処療法的に解決するような研究も多く、普遍 性や汎用性に乏しい手法が跋扈している状況にある。本稿の問題意識は、このモザイク的様相を呈 している「経営の意思決定」を、一つの軸によって整理することにある。「経営の意思決定」を一つ の「かたち」として示すことができれば、研究者が何に立ち向かおうとしているのか、またこのテ ーマにはどのような抜け落ちや問題があるのかを再考する手立てになるであろうと考えたからであ る。 本研究の最終的な目的は、「経営の意思決定」の跋扈的状況を明らかにして、いかにしてこれを乗 り越えるかを検討することにあるが、本稿はそのための第一歩として著したものであり、「経営の意 思決定」の全体像を示すことを試みている。具体的には、ハーバート・A・サイモン(Herbert A. Simon) の意思決定の理論を軸に、これ以降の代表的な議論についての考察を加え、体系的な整理した。こ の結果、「経営の意思決定」は、(1)サイモン理論を軸に整理をすることができる、(2)サイモン理論 の枠を大きく逸脱してはいない、(2)サイモン以降に意思決定現象を演繹的に説明する理論は登場し ていない、ということが見えてきた。また、本稿の最後には、これからの「経営の意思決定」の研 究には、人間の心的営みを十分に反映した新たな経営の意思決定の「理論」が必要ではないかとい う問題提起を行っている。

(4)

1

目次

目次 ... 1 図表目次 ... 3 第 1 章 序論 ... 4 1-1 本研究の内容 ... 4 1-2 「意思決定とは何か」という問題への興味 ... 4 1-3 本研究の目的 ... 5 1-4 本研究の範囲と限界 ... 6 1-5 本稿の構成 ... 7 第 2 章 「経営の意思決定」についての一般に行われる議論 ... 9 2-1 意思決定の定義とプロセス ... 9 2-2 意思決定の類型 ... 10 2-2-1 意思決定の性格による分類 ... 10 2-2-2 意思決定の主体による分類 ... 12 2-3 小結〜「経営の意思決定」の理論的混迷〜 ... 15 2-4 要約 ... 17 第 3 章 サイモンの意思決定の理論 ... 18 3-1 理論の源流を辿る ... 18 3-1-1 「管理の原理」への批判的検討という出発点 ... 18 3-1-2 バーナードの経営思想という出発点 ... 19 3-2 理論構築の方略 ... 21 3-2-1 理論は如何にして構築されたのか ... 21 3-3 サイモンの意思決定の理論 ... 22 3-3-1 価値と事実 ... 22 3-3-2 選択をめぐる客観的な環境 ... 23 3-3-3 人間の合理性の限界と可能性 ... 25 3-3-4 組織の影響過程 ... 28 3-4 小結〜経営の理論を構成するには至らず〜 ... 31 3-5 要約 ... 32 第 4 章 「経営の意思決定」の展開 ... 33

(5)

2 4-1 何に注目すべきか?---調査対象の特定 ... 33 4-1-1 組織行動から人間行動へ ... 34 4-1-2 論理的過程への傾倒 ... 35 4-1-3 新たな人間モデルの追求と組織理論への回帰 ... 37 4-1-4 調査対象の特定 ... 37 4-2 アンゾフによる意思決定の議論 ... 39 4-2-1 アンゾフの戦略的意思決定 ... 39 4-2-2 アンゾフの議論に対する考察 ... 41 4-3 マーチ=オルセン「あいまいさと決定」 ... 42 4-3-1 組織はあいまいさにどのように対処しているか ... 42 4-3-2 マーチ=オルセンの「あいまいさと決定」に対する考察 ... 45 4-4 ミンツバーグによる意思決定の議論 ... 48 4-4-1 経営を「あるがまま」に描写する ... 48 4-4-2 ミンツバーグの議論に対する考察 ... 51 4-5 トヴェルスキー=カーネマン「プロスペクト理論」 ... 53 4-5-1 「プロスペクト理論」―不完全な人間による意思決定 ... 53 4-5-2 トヴェルスキーとカーネマンの共同研究に対する考察 ... 55 4-6 小結〜心的営みを説明する理論の登場はまだない〜 ... 58 4-7 要約 ... 59 第 5 章 結論と考察 〜「よき理論」の構築をめざして〜 ... 60 5-1 「経営の意思決定」のかたち ... 60 5-2 「経営の意思決定」についての考察 ... 62 5-3 将来の研究をスケッチする ... 63 謝 辞 ... 64 参考文献など ... 66

(6)

3

図表目次

〔図表 1-1〕本稿の構成 ... 7 〔図表 2-1〕意思決定のプロセス ... 9 〔図表 2-2〕意思決定プロセスが関連する領域 ... 10 〔図表 2-3〕意思決定における伝統的技術と現代的技術 ... 11 〔図表 2-4〕企業における主たる意思決定の種別 ... 11 〔図表 2-5〕合理的な意思決定のプロセス ... 12 〔図表 2-6〕組織の中の意思決定分類 ... 14 〔図表 2-7〕決定科学の学問的基盤 ... 16 〔図表 4-1〕意思決定研究の歴史 ... 38 〔図表 4-2〕戦略を形成するための意思決定フローの概略 ... 40 〔図表 4-3〕組織の選択の完全サイクル ... 43 〔図表 4-4〕選択の完全サイクルの四つの関係 ... 47 〔図表 4-5〕ミンツバーグの戦略的意思決定の一般モデル ... 49 〔図表 4-6〕ミンツバーグらによる意思決定の 6 モデル ... 50 〔図表 4-7〕意思決定に到達する 3 つのアプローチ ... 51 〔図表 4-8〕プロスペクト理論_編集フェーズ ... 54 〔図表 4-9〕プロスペクト理論の価値関数 ... 55 〔図表 4-10〕直観に関する進化論的な考え方 ... 56 〔図表 5-1〕経営の意思決定のかたち ... 61

(7)

4

第 1 章 序論

1-1 本研究の内容

本研究は文献調査による理論研究である。また、本研究は、経営の分野にお ける私自身の研究の理論的基礎を構築するための試みでもある。経営組織*研究 の分野には、人間現象への真の理解と、そこからの正当に推論された理論がこ れまで以上に必要であると確信しているが、原理に立ち返って問いただそうと する研究は殆どない。それゆえ本研究では、経営の核心である意思決定を題材 に、この問題に取り組むことを試みている。本稿は、その第一歩として、経営 分野の意思決定研究についての考察にあてた。最後に、私が到達した結論を記 してあるが、この結論は私自身への問題の提起であり、今後の研究において新 たな視点を得るための出発点となる。

1-2 「意思決定とは何か」という問題への興味

筆者は、2005 年の 3 月に知人と共に会社を立ち上げ、現在も経営に携わって いる。会社を始めて間もなく、「経営とは意思決定の連続である」という「格 言」を実感するようになった。私は、うまく経営したかったし、誤りなく決定 を下せるようになりたいと思った。だから必死で勉強した。経営や意思決定の スキルは、訓練することで向上すると信じていたのである。 設立から 3 年目の終わり頃だと思う。会社経営が軌道に乗り始めた頃、受注 先の大手企業とちょっとしたトラブルが起きた。先方の法務担当者と話をする ことになり、私が担当者として対応にあたることとなった。契約内容の半分程 度は履行していたし、この売上が取れなければその期の予算は未達となる。絶 対に負けられない。だから、事実関係の洗い出しから、シミュレーションの実 施、シナリオの作成までを行い、万全の態勢で話し合いに臨んだ。 * 組織 組織とはここでは、「人間の集団内部でのコミュニケーションその他の関係の複雑な パターン」(サイモン,1945)を指す。サイモンによれば、このパターンは集団のメンバーに、 その意思決定に影響を与える情報、過程、目的、態度、の殆どを提供するし、また、集団の 他のメンバーが何をしようとしており、自分の言動に対して彼らがどのように反応するかに ついての、安定した、理解できる期待を彼に与えるのである。

(8)

5 結果は、私たちの主張の殆どを受け入れてもらう完全勝利であった。本当に 嬉しかった。私たちは、準備の時に話し合った決断を一つひとつ取り上げ、あ れは正しかった、あれはこうすべきだったのかも、と笑いあって喜んだ。 しかし、喜ぶことができたのは初めのうちだけだった。仲が良かった担当者 とは疎遠になってしまったし、当たり前かもしれないがその会社からの発注は 止まった。個々の決断が正しくても、全体的には良くなかったとか、担当者の 面子を斟酌すべきだったとか、いろいろと説明はつけられる。しかし、理解は できるが、全く納得がいかない。未だに、あの時の個々の決断が間違っていた とは思わない。しかし、今私の心に残っているのは、喜びとは真逆の、全くの 不幸な記憶だけだ。 意思決定とは何なのだろう、と考え始めたのはその時からだったように思う。 それまでは、「意思決定」とは存在する何かであって、「意思決定力」なるも のが存在し、知識と経験を増やせば「上手く」なると信じていた。しかし、そ んなものは存在しないということがわかった。それならば私は、何に取り組も うとしているのだろうか。何を起点とすれば良いのか。意思決定というのは何 なのか。そんな素朴な疑問から私はこの研究に取り掛かった。

1-3 本研究の目的

チェスター・I・バーナード(C.I. Barnard)が意思決定(Decision-making) という行政用語をビジネスの世界に持ち込んで以降、多くの経営学者が様々に 意思決定を議論してきた。 伝統的なミクロ経済学の立場からは、生産量や価格の決定に一つの指針を与 える経済理論が展開されているし、マネジメント・サイエンスの分野において は多くの数学的決定技術を開発し、企業の実践の中に応用されている。これら の数学的決定技術の補強として、ゲームの理論や統計的意思決定論が研究され、 開発されている。対して、経営学、社会学および心理学は、組織における人間 の意思決定問題の究明に取り組んでいる。経営戦略や環境変化への対応という 戦略的課題が浮上するとき、同時に取り組むべき問題として意思決定が取り沙 汰され、それに呼応して経営に携わる者への意思決定支援を目的とした研究が 行われた結果、その数は膨大な数にのぼる。 しかし一方で、経営において「意思決定とは何であるか」という点は御座な りに扱われ、理論† 構築への試みは甚だ不十分である。実践的な法則の抽出に † 理論 ここでは理論とは、科学の構成要素としての理論を指す。ハル(Hull, C.L., 1943)は 「観察可能な諸現象から帰納される二次的な諸法則を、比較的少数の一時的原理から演繹的 な推理によって組織的に説明するもの」と定義している。

(9)

6 注意を奪われ、広く蓋然性の高い経験的法則が乱立している状況にある。この ような状況が実際の経営問題の解決に役立っているかといえば、私はそうでは ないと思う。安定した社会環境であれば、個別事象に対応できる「実践的法則」 の適用は有効であるかもしれない。しかし、これが帰納されるもとになった諸 条件が変わると無力化されてしまうことがある点を考えれば、我々は対処療法 的にしか問題を解決していることにならず、経営問題全体への建設的な提言か ら遠ざかるばかりであるといえる。 「経営の意思決定‡ 」に必要なのは「実践的価値の高い理論§ 」ではないだろ うか。例えば構造力学的な法則は、それに適合しない技術の着想と改善を促し、 災害に強い建造物の構築に役立つ。論理的整合度が高い法則があれば、そこか ら推理して新たな技術を着想することもできる。そのような、論理的に整合し、 現実適合度の高い理論があれば、これが新しい着想や技術を引き出し、新たな 経営価値を生み出す原動力となるであろう。変化の激しい今の時代こそ、「経 営の意思決定」の理論的成熟が必要とされているのではないかと思う。 本研究の目的は、「経営の意思決定」の跋扈的状況を明らかにして、如何に してこれを乗り越えるかを検討することにある。そのための最初のステップと して本稿では、現在の「経営の意思決定」のかたちを示すことを試みた。具体 的には、ハーバート・A・サイモン(Herbert A. Simon) の意思決定の理論を起 点に、後続する代表的な議論を体系的な整理し、考察を加えた。この結果が読 者に「経営の意思決定」の一つのかたちを示すことができれば、そしてこれが 内包する問題を示すことができれば、本稿はその目的を果たしたことになる。

1-4 本研究の範囲と限界

本研究は文献調査に基づく理論研究である。「経営の意思決定」に関連する ものは全てこの範囲となるが、ここでは、「サイモンの意思決定の理論(以下 「サイモン理論」)」と、これに影響を受けた、あるいは影響を与えた議論に 的を絞る。具体的には、サイモンが『経営行動』(Administrative Behavior: ‡ 「経営の意思決定」 本研究のために私が使用する用語である。ここで取り扱うのは、学問 と実践の両方であることを明確に示すために、「経営」という表現を使っている。 § 実践的価値の高い理論 この段落の記述は、森正の「相互チェック・システムの一翼として の理論」(2004)を参考にしている。森正によれば、「あるべき理論は現実の写像であって、 よき理論とは論理的整合度も現実適合度も高い理論である。現実適合度の高い理論とは、現 実を支配する法則に適合しない技術・実践の質を改善するきっかけをつくり出すことができ る。論理的整合度の高い理論とは、原理から推理される新たな条件での法則を導く力によっ て、新しい技術を着想し実現する原動力となる」。この主張を纏めてここでは「実践的価値 の高い理論」とした。

(10)

7

a Study of Decision-Making Processes in Administrative Organization, 1945)を著した 1945 年以降の文献が対象になる1 1945 年から現在までの期間に為された研究は、膨大な数に上るが、本稿では そのほんの一部を抽出し、分析を加えていることに留意されたい。文献を多く 収集する方法によっても、研究の目的を果たすことが出来たかもしれないが、 今回はテーマと文献数を絞り込んで、入念に考察を加える方法を選択した。文 献選択の過程そのものが、「経営の意思決定」の像を結ぶことに繋がるであろ うと考えたからである。この試みが成功しているかの判断は読者に任せるが、 何れにせよ文献の網羅性が低いことは否めない。また、サイモン理論を中心と するスコープで行うことの妥当性や、文献の選択の客観性は担保されない。さ らに言えば、近年の研究についてはレビューを行っていない。調査対象の文献 が少なく恣意的に偏っていることは、本研究の最大の弱点であることは認めざ るを得ない。 また、考察の対象とする文献は意思決定に関連するものに限定していること、 考察の方法をサイモン理論との紐づけとしていることが、読者の混乱を招く原 因となるかもしれない。本稿では、研究者が生涯を賭して行った一連の研究群 のほんの一部を抜き出し、「経営の意思決定」という範囲にはめ込む作業を行 った。すなわち、本稿の解釈や位置づけは、研究者が本来意図したものと異な る可能性もあることを意味する。この点にも注意して読んでいただきたい。

1-5 本稿の構成

〔図表 1-1〕本稿の構成 (筆者作成)

(11)

8 「経営の意思決定」のかたち示すことを目指して、本稿は次のような構成を とる〔図表 1-1〕本稿の構成。本章に続く第 2 章では、現在広く一般に認めら れている「経営の意思決定」の議論を概観する。これは現在に視点を定めて眺 めたときに見えてくるものそのままを描写したスナップショットである。第 3 章では一旦、過去に戻り、『経営行動』で示されたサイモン理論を整理する。 これは、「経営の意思決定」の源流を辿り、原点を確認しようという目論みで 行われる。続く第 4 章では、サイモン理論以降の代表的な議論を抽出し、これ らをサイモン理論と対比することで、その位置づけや意義について考察を加え る。 第 5 章は結びの章である。第 3 章と第 4 章の分析から導き出される「経営の 意思決定のかたち」を示し、これに対する考察を加える。最後に、今後の研究 課題や進むべき方向性についての私の意見を述べる。

(12)

9

第 2 章 「経営の意思決定」についての一般に行われる議論

「経営の意思決定」の議論は一般的に、意思決定行為の洗練が経営の改善に 繋がるものだという文脈のもとで行われる。個別事象において一定の行為を確 保するための諸原則や処方として提示されることが多く、その結果、同種の現 象について複数の前提や仮説が並立しているように見える。 本章の役割は、「経営の意思決定」の現状を概観することにある。意思決定 の一般的な定義を示すこと、続いて「経営の意思決定」についての一般に行わ れる議論を記すことで、これを行う。

2-1 意思決定の定義とプロセス

一般的に意思決定は、「問題を特定し解決するプロセス2」と定義される。も う少し詳しく言えば「一定の目的を達成するために、ふたつ以上の代替手段の 中から一定の(一つの)手段を選択する論理的な過程(process)である3」である。 一般的に意思決定プロセスを構成する諸要素には、(1)意思決定の環境、(2) 意思決定者、(3)目的ないし目標、(4)代替案、(5)各代替案を順位づける評 価基準による代替案の評価、(6)代替案の選択、がある。そして、意思決定の プロセスは、意思決定の諸要素のどこに中心的なウェイトを置くかによって、 または依拠するフレームワークや方法論によって異なるが、一般的には凡そ、 ①目的設定、②代替案作成、③代替案評価、④選択、の 4 段階とされる。 〔図表 2-1〕意思決定のプロセス (中島 一. (2009). 意思決定入門 (p. 228). 日本経済新聞出版社.) また、意思決定プロセスが関係する領域の全体像は、〔図表 2-2〕に示すと おりである。図の上部にある【手続きおよび技術】のボックスは、意思決定プ ロセス改善のための方策を示し、この下にある大きなボックスは、意思決定の 主要特性を(問題のコンテクスト、正当化のためのプロセス、問題の発見、問 題の解決)を示している。

(13)

10

〔図表 2-2〕意思決定プロセスが関連する領域

(Kleindorfer, P. R., Kunreuther, H. G., & Schoemaker, P. J. H. (1993). Decision

Sciences: An Integrative Perspective (p. 484). Cambridge University Press.(p.9))より筆者 作成

2-2 意思決定の類型

意思決定の類型化は、これまでに多くの研究者によって行われてきた。ここ では一般的な類型として、(1)意思決定の性格による分類と、(2)意思決定の主 体による分類を紹介する。 2-2-1 意思決定の性格による分類 サイモンの意思決定の 2 分類 サイモンは、組織において行われる様々な意思決定を、「プログラム化し うる意思決定(programmed decision)」および「プログラム化しえない意思決 定(non-programmed decision)4」と呼んだ。プログラム化しうる意思決定とは、 反復的・常規的に行われる、明確な問題解決手順が既に定められているもの を指す。プログラム化しえない意思決定とは、いままでに全く経験したこと がなく、内容が明確化されておらず、既存の問題手順がないものである。

(14)

11

〔図表 2-3〕意思決定における伝統的技術と現代的技術

(H.A. Simon, The New Science of Management Decision, Harper & Row, 1971, サイモン H. A., 稲葉元吉, & 倉井武夫. (1979). 意思決定の科学. 産業能率大学出版部.p.66)

アンゾフの 3 種類の意思決定

イゴール・アンゾフ(H. Igor Ansoff)は、企業の意思決定を、 (1) 戦略 的決定、 (2) 管理的決定、および (3) 業務的決定の 3 種類に分類した。

〔図表 2-4〕企業における主たる意思決定の種別

(H.I. Ansoff; Corporate Strategy, p.8, 広田寿亮訳. (1969). 企業戦略論. 産業能率短期大学 出版部.p.12)

(15)

12 2-2-2 意思決定の主体による分類

個人の意思決定

個人の意思決定では、経営問題に直面した個人がどのように振る舞うかと いう人間行動が問題として扱われる。心理学、経済学、オペレーションズ・ リサーチ(OR: Operations Research)などの基礎学問の研究手法が適用される ことが多い。 ロビンス(2009)は、(1)意思決定はどのように下されるべきか、(2)意思決 定は実際にはどのように行われているか、という 2 つの視点から個人の意思 決定を整理した。 意思決定はどのように下されるべきか、という視点のもとでは、合理性を 前提とした意思決定プロセス〔図表 2-5〕が導き出される。最大限の結果を 出すための理想的なモデルの提示と、このモデルに意思決定者を近づけるた めの処方が議論の中心である。 〔図表 2-5〕合理的な意思決定のプロセス

(Bazerman, M. H., & Moore, D. A. (2008). Judgment in Managerial Decision Making (7th ed., p. 230). London: John Wiley & Sons Ltd.)より筆者作成

他方、組織で意思決定にあたる者の実際の意思決定のなされ方を描写しよ うというアプローチがある。ここでの意思決定者は、「限定された合理性* を持つと仮定され、バイアスやエラー、直観、個人的な差、組織の制約、文 化の相違などの、内外刺激による影響によって合理性から逸脱する人間像と ともに描かれる。ここでは、人間行動の特徴を踏まえた上での処方的アプロ ーチの追求が議論の中心である。 * 限定された合理性 サイモンは、現実の人間の選択における「合理性」があくまでも限定さ れたものに過ぎないと主張し、これを限定された合理性(bounded rationality)と呼んだ。

(16)

13 集団の意思決定 経営における集団の意思決定の議論は、より良い成果を達成するために行 われる。集団の意思決定とは何かを明らかにし、特徴や問題点を踏まえて具 体的な手法の確立に踏み込む研究も多数存在する。 集団の意思決定の議論は殆どの場合、個人が行う意思決定との比較によっ て行われる。例えば集団が行う意思決定は、より多くの情報を得て、より良 い知識を生み出す一方、個人による意思決定に比べて迅速性、能率性、責任 の明示や、一貫した価値観の維持という点では劣るといった具合である。た だし、より良い経営の成果を得るために意思決定の有効性を問うのであれば、 個人と集団の意思決定に優劣をつけることはできない。迅速性では個人が勝 るという研究結果もあるが、正確さや創造性5という点ではどちらが有効であ るかの決定的な証拠はない。 個人との比較から得られるのは、個人と集団の意思決定は「異なるのでは ないか」という仮説である。そして、諸議論において着目されているのは、 集団はどのようにして個々人の相違する選好を統合するのかという問題と、 集団内の個人の意思決定に対して集団における社会的諸力がどのように影響 するかという問題である。 ここでいう集団とは、「特定の目的を達成するために集まった、互いに影 響を与え合い依存し合う複数の人々6」である。一方、集団を構成する個人は 一般に、(1)各人がコントロールする行動変数、(2)各人が意思決定のために 用いるあるいは用いることのできる情報、(3)各人の選好、について異なると される7。つまり集団は、違いを持つ個人によって構成されるが、このように 違いを持つ個人の集団であっても、集団として意思決定を行うことができる。 集団として意思決定を行うことができるのは、なぜか。記述的アプローチ によれば、集団が統合した意思決定を行うことができるのは、集団が、(1)無 反応、(2)権限による決定、(3)少数決ルール、(4)多数決ルール、(5)合意、 (6)全員一致などの意思決定の方法を持つからであり、その過程においては集 団における権力の分布や、メンバー間における取引、交渉、結託の形成、妥 協などのプロセス、メンバーの選好を結合するプロセス、メンバーのパーソ ナリティによる違いといった諸々の力が働くという7。一方、規範的アプロー チからは、この問題に対する解答は、今のところ提示されていない。 集団による意思決定の特徴として、集団内の個人が受ける社会的圧力によ る影響が挙げられる。この影響の重要なものとして同調行動があるが、ジャ ニスによれば、構成メンバー間での和合感と団結心が強ければ強いほど独立 的な批判的思考が集団思考(group think)にとって変わられる危険性が高まる という。またグループシンクの特殊な例としてグループシフトがある。集団

(17)

14 による決定と集団のメンバー個人による決定の比較結果は両者に違いがあり、 集団による決定のほうが個人の決定よりも慎重になる場合があるし、集団決 定のほうが大きくリスクを取る傾向も強い8という。 組織の意思決定 組織における意思決定のプロセスは、いくつかの要因、とりわけその組織 に独自の内部構造や、外部環境の安定度によって影響を及ぼされる9 組織の中での意思決定モデルは、意思決定者を単数と捉えるか複数と捉え るか、または組織の目標構造が単一であるか、複数を持つか10によって大きく 4 つのモデルに分類できる。そして、代表的な組織の意思決定モデルである (1)マネジメント・サイエンス・アプローチ、(2)カーネギー・モデル、(3)漸 進段階的意思決定プロセスモデル11、および(4)ゴミ箱モデル12は、この 4 つの 分類に当てはめて理解することが可能である。 〔図表 2-6〕組織の中の意思決定分類 (筆者作成) マネジメント・サイエンス・アプローチは、問題の分析、変数の数量化、 解決策の代替案の定量化ならびに解決の確率を、線形計画法、ベイズ統計学、 PERT チャート、コンピュータ・シミュレーションなどを用いて行う組織の意 思決定の手段である。単一の目標構造が想定されており、マネジャーの意思 決定を補助することが役割とされる。 カーネギー・モデルは、リチャード・サイアート (Richard Michael Cyert)、ジェームズ・マーチ(James Gary March)、サイモンの三者による研 究に基づく。彼らの研究により、組織レベルでの意思決定がマネジャーの合 同に基づいて行われること、この合同構築が組織における意思決定の重要な 構成要素であることが示されている。

同じく複数の意思決定者による単独の意思決定が行われる様子に着目した のが、漸進段階的意思決定プロセスモデルである。これはヘンリー・ミンツ

(18)

15 バーグ(Henry Mintzberg)により提唱されたものであり、意思決定の動的な 側面に注目した分析である。 ゴミ箱モデルは、組織における複数の意思決定のパターンや流れを扱うモ デルである。極めて高い不確実性にさらされている組織の意思決定パターン を説明するもので、組織全体について、また組織のマネジャーが行う意思決 定を扱っている。

2-3 小結〜「経営の意思決定」の理論的混迷〜

意思決定を扱った経営分野の書籍を読むと、大体は何らかの基準によって分 類されている意思決定の姿を見ることができる。例えば、意思決定を科学的に 研究するアプローチとして、規範的アプローチ†、記述的アプローチ、および 処方的アプローチ§ に分けるという方法や、前項 2-2-2 に見られるような、意 思決定主体によって分けるという方法によって整理された姿である。分類され た意思決定は通常、別々のものとして議論されるから、それぞれの領域で断片 的仮説が乱立することになる。 意思決定という一つのテーマを扱っているにも関わらず、なぜこのような状 態に陥るのか。この理由を、「経営」と「意思決定」に分けて考察してみたい。 サイモンは、「経営は通常、「物事を成し遂げること」の技法として論じら れる。特に機敏な行為を保証するための過程や方法が強調される13」と述べた が、このように「経営」という文脈においては、より良い成果を求めることに 向かうのであり、その方法が何であるかには拘らない。「経営」においては、 いかなる原理、法則、方略をも受容することが必然なのである。 「意思決定」も同様に、様々なものを受け入れる。より正確に言えば、「意 思決定」という人間の営みは、多くの学問分野での研究結果の集積なのであり 〔図表 2-7〕、これが学際的なテーマであると呼ばれる所以である。 不確実性に直面した人間が占星術に頼った古代バビロニアから現代にいた るまで、我々は「組織の意思決定」について考えてきた。だれが、いつ、ど † 規範的アプローチ 人々が客観的合理的意思決定を行うことができると仮定し、そのために は何をどのように行うべきかを追求し、その方法(モデルなど)を提示する。モデル提案 (すなわち結果)を重視し、プロセスの内容は殆ど分析対象にしない。 ‡ 記述的アプローチ 限定された合理性の下、人々が実際どのように意思決定を行い、行動し ているかを理解するために、人々を観察し、その様子や行動傾向を記録する。結果思考では なくプロセス思考 § 処方的アプローチ 記述的アプローチにおいて探究される「制約された合理性」下での人々 の実際の行動を前提として、現実に実行可能な手法を模索、提示する。

(19)

16 のような意思決定を下すのか---この行為によって、各国の政治システムや 司法、社会秩序を形成されてきたともいえる。アルベール・カミュは「人生 は選択の集積である」と述べたが、歴史はまさしく人類による選択の集積で ある。 そして、数学、社会学、心理学、経済学、政治学など、数多の知識の集大 成は意思決定研究の賜物にほかならない。なるほど哲学者は意思決定がどの ような価値観を生み出すかについて熟考する。歴史家は、危機に直面した時 のリーダーの決断を分析する14 ところで、学問は、その取り扱う主題や研究ポリシー、モラルによって分類 されている。理論とは、ここでは「形式的に表現された仮説や方法の集合15 であるとしよう。そうであるならば理論とは、研究される学問領域において、 学問上のポリシーやモラルに大きく影響を受ける宿命にある。例えば心理学と 経済学は共に選択行動を研究の対象とするが、心理学では選択行動の原因を探 ろうとする一方で、経済学では選択を所与として経済現象を知ろうとする。こ れは、心理学と経済学の学問上の基盤が全く異なることに起因しており、基盤 が全く違えば理論の統合は極めて難しいものとなる。 「経営の意思決定」分野において、全く相容れない議論が乱立しているのは、 「経営」も「意思決定」も、多くの学問や研究を取り入れる性質をもつ一方、 その前提の違いにより統合が難しいという理由による。 〔図表 2-7〕決定科学の学問的基盤

(Kleindorfer, P. R., Kunreuther, H. G., & Schoemaker, P. J. H. (1993). Decision Sciences: An Integrative Perspective Cambridge University Press. (p. 4).より筆者作成)

(20)

17

2-4 要約

本章では、「経営の意思決定」の広く一般に行われている議論が研究された。 ここには、議論にはどのようなものがあり、どのような特徴を持っているかの 記述と、そしてなぜこうした様相を呈しているかの考察が含まれている。 意思決定とは一般的には「問題を特定し解決するプロセス 」であり、例え ばそのプロセスは「(1)目標設定、(2)代替案作成、(3)代表案評価、(4)選択」 のような段階として説明される。このような定義は一般的に認められていなが らも、経営のような現実の出来事を描写するには極めて不十分であった。その ため、これを克服する目的で経営における意思決定は、各種各様に議論される ようになった。 この様子を概観するために、本章では一般的に容認されている議論をピック アップし、これを「意思決定の性格による分類」と「意思決定の主体による分 類」に分けて整理した。先の分類では、サイモンによるプログラム化を基準と した分類とアンゾフによる対応しなければならない問題を軸とした議論を紹介 し、後の分類ではこれをさらに「個人、グループ、組織、社会」に分け、その 中での代表的な議論を紹介した。 最後に、こうした理論的混迷の様相が何故起こるのかを考察した。「経営」 の議論は「より良い成果を求めること」を主目的として行うものであるから、 いかなる理論、方略をも受容する。そして「意思決定」現象の解明は、そもそ も学際的な取り組みである。すなわち「経営の意思決定」とは、複数の前提や 仮説が並立しやすい基盤に立っており、それが為に議論の乱立の様相を呈する のである。

(21)

18

第 3 章 サイモンの意思決定の理論

前章では、一般的に認められた意思決定を概観し、多種多様な議論が乱立し ているさまを確認した。「経営の意思決定」は、共通した意思決定という主題 を扱うが、各種各様の興味と仮説に導かれる様々な議論により成り立っている ことがわかった。 この章では、サイモン理論(1945)に立ち返り、その内容と意義を確認する作 業を行う。本研究の目的の一つは「経営の意思決定」のかたちを示すことにあ り、その「かたち」はサイモン理論を中核とした体系として表現されるのであ るから、ここでサイモン理論を十分に理解することが必要だからである。我々 はここで、サイモンの理論について、理論構築の出発点と方略、理論の内容な らびに意義を理解する。

3-1 理論の源流を辿る

3-1-1 「管理*の原理」への批判的検討という出発点 サイモンの初期における研究の関心は、組織現象の本質を捉えうる新たな理 論の構築にあった。彼は、初期に行ったリクリエーション施設の行政に関する 実証研究16を通じて、既存の経済原則論や経営原則論では実際の組織現象を十 分に説明し得ないことに疑問を抱き、これを問いとして自らの理論的体系を構 築した。 サイモン以前にあったいわゆる「管理の原理」は、「一般的な経験によって 試され確かめられた原理、規則、方法、手続きの集合17」として纏められた。 例えばフランスの企業経営者で経営学者ジュール・アンリ・ファヨール(Jule Henri Fayol)は、マネジメント理論の必要性を主張し、彼の職業生活で得られ た経験と観察を活用して「管理過程」を(1)管理者の行うものと説明される計 画化、組織化、命令、調整、統制といった要素に関する理論、(2)マネジメン トのやり方に対する指針となる原則、として整理した。その後、アメリカの行 政学者ルーサー・ハルセー・ギューリック (Luther Halsey Gulick)は、ファヨ ールの「管理過程」を拡張し、一般に認められている「管理の原理18」の体系

的整理を行っている。サイモンは、管理行動の健全な理論をどのように打ち立

* 管理 本稿では「管理」を、「経営」に対比する用語として使用している。企業の経営を行

(22)

19 てることができるかを議論するにあたって、通常の「管理の原理」について批 判的検討を加えることから行った。すなわちこれらの原理の多くが一義的な原 理ではなく、互いに相矛盾する二つまたはそれ以上の原理が見いだされるとい う点を指摘したのである。 これらの批判的検討を通じてサイモンは、一般に認められてきた「管理の原 理」とは、管理の状況を叙述し診断するための基準であるということを指摘し た。同時に、管理の研究に有効なアプローチをするには、関連する診断的基準 のすべてを識別すること、この全部の基準を用いて各管理の状況を分析するこ と、そしていくつかの基準が互いに矛盾した場合には、それらにどれだけの重 みを割り当てるかを決めるための研究が必要であるという結論を導き出した。 さらに、管理の研究には、記述的および経験的研究と理論とを結び付ける 「橋」の部分が欠落しているのであり、この欠落を埋めるようとすることが 「管理理論の再建設---適切な用語と分析のための体系の建設19 」に到達する 道であると示した。この管理理論を再建設する第一歩の試みとしてなされたの が、意思決定という過程を理論として整理することであった。 3-1-2 バーナードの経営思想という出発点 『経営行動』において、私は、オーソリティ、無関心圏、需要、誘因と貢 献の均衡など多くの中心概念の源泉がバーナードにあることを認めた。バー ナードは、意思決定の体系的理論を構築するまでには至らなかったが、彼の 議論は、経営者の意思決定過程に向けられていた20 サイモンは、『経営行動』の著述にあたって(1941~42 年)、バーナードから 多くのアイディアを得ていた。そこでここでは、サイモンが理論を構築するに あたって影響を受けた、バーナードが示した概念の一部を紹介したい。 まず、個人や人間についての取扱い方についての捉え方を挙げる。当時の 「管理の原理」においては、組織の中での個人は「機械への付属物」や「受動 的な用具」と捉えられる見解が支配的であった。一方でバーナードは、個人を 単に受動的なものと見做す立場を認めると共に、選択の自由や意思の自由を認 め、個人を独立な存在とする立場の両方を受け入れる必要性を主張した。 次に、個人の能力についてである。バーナードは、個人には(1)経験の能力、 すなわち「記憶」あるいは「条件付け」と呼ぶことができる能力があり、さら に、(2)「限られてはいるが、重要な選択力があるものと考えた 」。これらの 能力が存在することにより、個人は他の人々が含まれる情況の中で、①能力 (「どんな人か、どのようなことができるか」)についての評価と、②決断力 または意欲(「何を欲するか、何をしようとしているか」)についての評価を受

(23)

20 けることができるのだと述べた。一方、これらの二つの評価は、目的行為の場 合には、①他の人の選択の限界を狭める(人間を制御可能な客体と見做す考え 方)かまたは、②選択の機会を拡大するか(人間を自ら欲求を満たすべき主体 と見做す考え方)、の何れかの方法で人間行動に影響を及ぼすことができると した。 バーナードが示した「個人」の概念は、上記の他にもサイモン理論の各要素 に広く反映されている。例えば「限られているが、重要な選択力がある」とは、 後にサイモンが「限定された合理性」と呼んだ概念と同様のものと考えられる し、人間を制御可能な客体と見做す考え方は「オーソリティの理論」に、主体 と見做す考え方は「誘因の経済」に繋がっていく。サイモンは『経営行動』の 中で、組織の影響の諸様式を整理しているが、この中心的概念がバーナードの 概念の延長線上にあることはサイモンも認めるところである。 一方で、サイモンを悩ませた記述もある。直観的判断(あるいは「非論理的 過程」)についての記述である。サイモンは、『経営行動』の初版(1946)では 直観または非論理的過程についての明確な記述を行ってはおらず、この主題に ついての議論は後年ミンツバーグとの論争として登場するものであるから、こ こで紹介するのは適切ではないかもしれないが、以下に簡単に纏めておく。

バーナードは『日常の心理†』(A Cyrus Fogg Brackett Lecture before the

Engineering Faculty and Students of Princeton University, March 10, 1936)の中で、日常業務にあたっての人の精神的側面について述べている。そ の主張は、「よくある非常に重要な実際的困難の起因」が、「知識とか経験と かにまったく関係のない精神過程の差異」にあり、この精神過程は、「非論理 的」ならびに「論理的」という二つのグループから成り立つという21。日常の 業務には「非論理的過程」が存在していること、しかも「論理的過程」と同様 に重要であることを明確に記ししている。 これに対してサイモンは、論理的過程と非論理的過程が存在すること、また、 意思決定の理論は意識過程と潜在意識過程の両方についての説明が必要である と認めながらも、この点ついての明快な記述は行わなかった。その理由は、 「これらの両方の過程が本質的に同じであると仮定することでその問題にうま く対処しようとした22」からであると、後に『経営行動』第 5 版(1997)のコメ ンタリーで述べている。 † 「日常の心理」 1936 年、プリンストン大学のローウェル研究所でなされたバーナードによ る講演録。『経営者の役割』(1938)に付録として収録されている。

(24)

21

3-2 理論構築の方略

3-2-1 理論は如何にして構築されたのか 当時のサイモンの興味が、組織現象を説明できる理論の構築にあり、この仕 事を「管理の原理」への批判的検討から始めたことは、前項で述べた。サイモ ンはどのような根拠で「管理の原理」を批判し、意思決定という概念はその中 でどのような役割を担ったのか。本節の議論はここから始める。 『経営行動』の第一章は、管理の一般理論のあるべき姿の記述から始まる。 すなわち「管理の一般理論は、効果的な行為を保証する諸原理を含まねばなら ないのとまさに同じく、適正な意思決定を保証する組織の諸原理をも含んでい なければならない」という記述であり、従来の「物事をなさしめること」の技 法として論じられていた「管理の原理」が不十分であることを指摘している。 ここで、「効果的な行為を保証する諸原理」が、それまでに論じられてきた 人の集団から一致した行為を確保するために設定された諸原理であるとするな らば、「適正な意思決定を保証する組織の諸原理」こそが、あるべき「管理の 原理」に欠けている要素となる。そこで、本稿の関心は、どのようにして組織 の諸原理を見出すのか、ということに移る。サイモンによれば、組織の構造と 機能は、従業員の決定と行動がその組織の中で、またその組織によって、どの ように影響を受けるかを分析することによって正しく洞察されるという。組織 における従業員の行動は、管理過程の中で記述される。管理過程とは、集団の 課業達成のために努力の適用を容易にする仕組み、すなわち集団をある目的遂 行へ向かわせる力を及ぼす装置と言える。よって管理過程を観察することによ って、従業員と組織の影響の過程を分析することが可能であることがわかる。 ここに至ってようやく管理過程に論が進むのであるが、サイモンは個々の管 理過程に目を向けるのではなく、管理過程の背景にある意思決定の過程に着目 する。管理過程で観察される「行為の過程」は情況ごとに変わるが、行為と不 即不離の関係にある「決定の過程」は一般化できる。もし、決定の過程を科学 的手続きによって説明できるのならば、サイモンの目指す「既存理論に代わる 首尾一貫した科学的理論の構築」に一歩近づく。そこでサイモンは、決定過程 を科学的手続きによって説明するために、意思決定前提と呼ばれる概念を導出 した。そしてこの概念を中心に、意思決定の理論を構築したのである。 次節において、サイモン理論について、内容の整理を行う。

(25)

22

3-3 サイモンの意思決定の理論

サイモン理論とは、意思決定の過程を説明する言語上、概念上の用具である と纏められる。そしてその功績は、決定過程は科学的分析の対象になる部分を 含んでいること、つまり「何を分析すべきか」を明確に示したことにある。す なわち「価値と事実」という概念、後に「意思決定前提」として纏められる考 え方を明確にしたことにあるといえる。 以下に、サイモンが示した理論、すなわち「用具」を、(1)「価値と事実」 という中心概念、(2)「選択をめぐる客観的な環境」として纏められる概念、 (3)「合理性」概念、(4)理論が組織においてどのように使われるか(組織の影 響過程)、という順番で記述する。 3-3-1 価値と事実‡§ 意思決定の理論化にあたってサイモンがまず取り組んだのは、「意思決定は 科学的であり得るのか」という問題であった。結論から先に言えば、サイモン は、「どの決定にもそれぞれ「事実的」と「価値的」と呼ばれる二種類の要素 が含まれている」という考えをもとに、意思決定過程は科学的に説明すること ができると主張した。このことを、以下で詳しくみてみたい。 科学的研究では、一定のテーマ・条件で括られる諸現象に関する法則性の抽 出・検証を目標として、可能な限り合理的な方法を活用しながら、慎重に結論 を導こうとする23。一方で、正しい、正しくないという倫理的な内容は、直接 に経験あるいは事実と比較できるものではなく、「倫理的命題の正当性を経験 的または合理的にためす方法は存在しない24」ものである。 人間の行う意思決定は、事実的要素を含むと同時に価値的要素をも含む25 この二つは別々に区分されて生じる訳ではなく、殆どの倫理的命題が事実的要 素を混合している。倫理的命題を含むのであれば、人間の行う決定が、科学的 手段によって評価することが「できない」ことになる。しかしサイモンはこれ ‡ 価値と事実 サイモンは『経営行動』の第 1 章と第 3 章で価値と事実という概念についての 説明を行っている。決定における価値と事実については、「決定が、この最終目的の選択に つながっているかぎり、これらの決定を「価値判断」と呼び、決定がかかる目標の実行を意 味するかぎり、それらを「事実判断」と呼ぶことにしよう」と述べている。更に第 1 章注記 (3)において、「実際の意思決定の基礎となっている「事実」が、通常、事実の実証的かつ 確実な表現よりは寧ろ予測や判断であることは明らかである」と述べた。 § 価値と事実(2) サイモンは「論理実証主義」の立場から、管理科学は事実的言明にのみ関 わるものであると主張した。それゆえ、倫理的言明が管理の問題に出てくる場合、それを事 実的側面と価値的(倫理的)側面とに分類し、前者のみを対象にするべきだと述べた。 (髙,2005)

(26)

23 に対して「どの決定にも倫理的要素が含まれると主張することは、決定は倫理 的要素のみを含むと主張することではない」と述べ、この主張を根拠に、科学 的対象としての意思決定過程が確かに存在すると説いた。すなわち、倫理的要 素ではなく、事実的要素のみを対象にすれば、科学的分析は可能だという。例 えば、「決定それ自体ではなくて、決定とその目的との間に存在する純粋に事 実的な関係 」は合理的な評価の対象になるという考え方がそれである。 この考えを概念化したものが、「意思決定前提」である。ある個人がある決 定を下す場合、その決定内容は事実的要素と価値的要素の双方を含む。ここで 事実的要素が強い場合にはこれを「事実前提」と呼び、倫理的要素が強い場合 には「価値前提」と呼ぶ26。これらの「意思決定前提」はすなわち、科学的分 析の最小単位であり、組織そのものを説明する要素であり、組織が影響を及ぼ すことができる対象である、というのがサイモンの主張である。そしてこれこ そが、サイモン理論の中核なのである。 例えば、組織のコミュニケーションを意思決定前提という概念を使って説明 してみよう。意思決定者が検討しなければならない情報は、意思決定前提の受 け渡しという行為を経て、処理可能な規模に縮刷される。例えば、昨年度の売 上高という情報(事実情報)は、翌年度の営業計画を立案する際により正しい 選択を導くであろうし、会社のビジョン(価値前提)が明らかであれば、その 前提を所与として望ましい意思決定ができる。 また。意思決定とは、価値前提および事実前提から引き出される意思決定主 体の結論であると解釈できるし、組織とは、意思決定前提の提供により集団行 動を調整するものであると解釈できる。意思決定前提という概念を使えば、意 思決定についても組織現象についても説明ができることがわかる。 3-3-2 選択をめぐる客観的な環境 サイモンは、意思決定の構造を探求するために決定の客観的環境の検証に取 り組んだが、それはすなわち合理性の概念を明らかにすることでもあった。選 択の客観的分析とは、選択に続いて生ずる結果についての分析に他ならないし、 結果に力点を置くことは「経営の意思決定」においては選択の合理的側面への 集中を意味するからである。管理者の選択の正しさは相対的な事柄であるとす れば、合理的な管理者は効果的な手段の選択を追求する。ここに、合理性の概 念を明確にすることの中心的重要性がある。 ここでは、客観的側面から描写される合理性の概念について整理する。始め に古典的な「経済人」の持つ合理性について記述し、次に選択をめぐる客観的 環境を記述する。この対比により、「組織と経営の真の理論が成り立つ場所は、

(27)

24 人間の行動が、合理的であろうと意図されているが、その合理性が制約されて いるような現実世界に、まさに存在する27」ということがわかる。 経済人のもつ合理性 経済人モデルは、(1)企業の目的は企業家の目的であること、(2)利潤の極 大化のために、企業は必要なあらゆる情報を入手できること、(3)利潤の極大 化のために、企業は限界収益と限界原価が等しくなるように、生産量や価格 を決定すること、という仮説に成り立っている。経済人モデルの仮説の上で は、企業の行動は単純に経営者の行動に置き換えられ、あたかも企業それ自 体が意思決定主体であるかのように捉えられる。そのために、企業の意思決 定が企業という組織の中で行われる事実を捨象し、企業の意思決定に影響す る意思決定者の内外の環境要因は無視されることになる。 合理的な経済人は、完全で矛盾のない選好体系をもっており、それにより 彼にとって開かれている代替的選択肢から選択することがいつも可能になっ ている。さらに、彼はいつも、これらの選択肢がどういうものであるかを完 全に知っており、どの選択肢が最も良いか判断するために行うことのできる 計算の複雑さに関する制約は何もない28 選択を取り巻く環境 経営者の選択の正しさが相対的であるならば、目的が正しく設定されてい れば効果的手段を選ぶという合理的な選択ができることになる。しかし、手 段と目的との関係は、合理的選択を担保するような完全に統合された連鎖で はなく、しばしば不完全で内部的葛藤や矛盾があるものである。故に、手段 と目的の関係様式をもって合理的行動を分析するには限界がある。 また、意思決定の課業を行うにあたっては、経済人で想定されたように全 能であることは不可能である。この不可能性があるために、実際の行動と合 理的な経済人モデルとは異なる。すなわち、選択には時間の束縛があること、 選択において知識が機能すること、選択は集団の行動としての制約を受ける ことという経験的事実の記述から明示された。 加えて、選択の過程においても合理的な選択行動が行われていない。選択 の過程の合理的行動とは、すべての選択肢に対する価値づけが行われるもの をいうが、実際の選択行動においては、すべての価値を完全に説明すること なしに代替的諸行動を評価している。組織内の個人の行動は目的志向的であ り、この中で諸行動と諸価値は因果的に関連した要素の連鎖として最終的な 目的に繋がる。この中で、ある選択またはある行動は、この連鎖における中

(28)

25 間的な価値指標として働く。故に、実際の選択行動にあっては、最終的目的 あるいは価値を完全に説明することなしに、代替的諸行動を評価することが できるのである。 最後に、合理性は大ざっぱに「行動の諸結果がそれによって評価されうる ようなある価値体系によって、望ましい代替的行動を選択することに関係し ている」と定義できるが、ここで実際の状況に目を向けると、そのときどき の情況によって合理性の判定が変わってしまうという問題がある。例えば、 本人が実際にもっている知識のみで成果を極大化しようとするならば、それ は合理的であるが「主観的に」合理的であるし、ある意思決定が組織の目的 に向かってなされたならば、その決定は「組織にとって」合理的である。つ まり、合理的という言葉は、その意味が内容から明白である場合を除いて、 客観的、主観的、意識的、熟考した、組織としての、個人的などの副詞をつ けて用いられるということが理解できる。 3-3-3 人間の合理性の限界と可能性 意思決定をする人間の心の中で何が行われているかを見ると、制約された認 知能力によって合理性の行使に限界が課されていることがわかる。個人の選択 は「与えられた」環境の中で行われるのであり、行動は、この「与えられたも の」によって定められた限界内においてのみ適応したものとなる。しかし一方 で、管理者の行動は合理的であることを意図するのであり、最大化できるよう な理性を持たないがために、満足化を図る行動を取る。この行動についての理 論が経営理論であるとサイモンは説明した。 人間の合理性の限界 人間の実際の行動は、客観的合理性に、少なくとも 3 つの点において及ば ないという。 (1) 合理性は、各選択に続いて起こる諸結果についての、完全な知識と予 測を必要とする。実際には、結果の知識は常に部分的なものにすぎな い。 (2) これらの諸結果は将来のことであるがゆえ、それらの諸結果を価値づ けるに際して、想像によって経験的な感覚の不足を補わなければなら ない。しかし、価値は、不完全にしか予測できない。 (3) 合理性は、起こりうる代替的行動すべての中で選択することを要求す る。実際の行動では、これらすべての可能の代替的行動のうちほんの 二,3 の行動のみしか思い出さないのである。

(29)

26 個人による限界の緩和

現実の人間は不完全な合理性しか持ち合わせていないとしても、各意思決 定主体はその限定の中において、あるいは何らかの方法を用いて限界を緩和 して、最適な選択を行おうとする。これを説明しようとしたのが合理的選択 の理論(theory of rational choice)、満足化基準(satisfactory standard)、 個人合目的行動という概念である。 合理的選択の理論には、 (1)選択は常に、現実の状況についての、限定さ れ、近似的で、単純化されたモデル、すなわち「状況定義」に照らしてなさ れる。(2) 状況定義の諸要素は所与ではなく、選択者自らの活動と彼の環境 の中での他の人々の活動を含む心理学的・社会学的仮定の結果であるという、 二つの基本的な性格を組み込んでいる。つまり、状況定義の存在があるから こそ、合理性に限界のある人間でも合理的な意思決定することができるとす る理論である。状況定義は後述する組織の意義においても重要な役割を果た す。 不完全な合理性しか持ち合わせない人間が意思決定をするときの基準は何 であろうか。この問いに答えるのが満足化基準の考え方である。「たいてい の人間の意思決定は、それが個人的なものであってもまた組織内のものであ っても、満足できる代替的選択肢を発見し、それを選択することと関係して おり、例外的な場合にのみ、最適の選択肢の発見とその選択に関係している29 として、限定された合理性に支配された人間の選択行動は、満足化基準に従 わざるを得ないと説明している。 合理性が限定されるとしても、各意思決定主体は何らかの方法を用いて自 己の限界を緩和しようとする合目的行動を行うという。個人レベルでは、選 択の過程に現れる「順応性」「習慣」「記憶」などがその役割を果たすとさ れる。順応性は、自己の経験や心の中での観念的な経験を通じて、比較的わ ずかの経験を広範囲の決定に対する基礎として役立たせることができること に繋げられるし、記憶は新しい探究をする手間をはぶいてくれる。習慣は、 同様の刺激や状況が生じたとき、適切な行為をもたらした決定を意識するこ となく同様の反応と反作用を引き起こすことができる。これらは、意思決定 者が扱わなければならない対象世界を縮減し、合理性の限界を緩和する個人 レベルの働きであると捉えられている。 集団および組織による限界の緩和 合理性の限界は、人間的要因によってのみ縮減されるものではなく、それ は協働によっても軽減される。ここに、なぜ人間が組織をつくるのかという

(30)

27 問いへの答えがある。人間が、限られた範囲の決定問題については合理的な 選択を行うことができるのであれば、何らかの装置を使って問題を解決しう るサイズに縮減する方策をとることは可能である。組織は、「選択を狭める 技術」であり装置でもあるから、「組織の存在によって、個人が客観的な合 理性に無理なく近づくことが可能になる30」。かかる意味において組織は、限 定された合理性の境界を緩和するもう一つの有力な戦略となるのである。 このことを理解するためには、個人の限定された合理性という視点に加え、 組織の視点からの説明を加えなければならない。 (1) 選択を狭める技術としての組織 サイモンは『経営行動』のなかで、人間が組織をつくることの理由を、人 間行動の現象面から説明している。実際の行動においては、意思決定は定ま った方向に注目を向けさせる刺激によって始められる。問題は、実行するこ とができるよりも多くの行動への刺激が存在することである。ここで合理的 な選択を行うためには、「注目指向的な刺激の気まぐれな選択にまかせるこ とではなく、その代わりに、競合している「物事」の間で意識的な選択がな されること31」が必要となる。 ここで、刺激を適切に方向づけるために「行動の統合をもたらす機構」と いう概念が持ち込まれる。この機構によって人間を合理的行動に近づけるこ とができるという。 行動の統合をもたらす機構は、(1)行動がある方向へ向けさせられたとき、 それを持続させるもの(行動持続の機構)、(2)ある方向へと行動を起こさせ るもの(行動開始の機構)に分けられる。行動持続の機構は内的なものであり、 殆どが人間の心に由来する。対して、行動開始の機構は外部的なものであり、 それが故に人間相互のものとなりうる。すなわち、誰によっても利用可能な ものになりうる。 行動の統合をもたらす機構が作動すると、結果として行動パターンを生み 出すことになる。この過程には、①広範な意思決定を行う段階(実質的計画 立案)、②日々の意思決定の段階(手続的計画立案)、③計画遂行の段階が 含まれる。ここで注目すべきは意思決定が層別化されるということであり、 その結果として「より広い考慮を合理性について払い、直接または間接に各 選択を行うことが可能」となって行動パターンへと移行するのである。サイ モンは組織を「集団行動のパターン」と説明しており、我々はこれを人間が 組織をつくることの理由として理解することができる。

(31)

28 (2) 組織が個人に与える影響 組織が個人の選択を狭めるための技術として機能することは前述のとおり である。ここでは組織がどのように個人に影響を与えるかという逆向きの視 点からの記述を行う。 (1) 組織や制度は、その集団に属する各メンバーが、特定の状況のもとで他 のメンバーがどんな行動をするかに関する安定した期待を持つことを可 能にする。このような安定した期待は、社会的集団において行為の結果 についての合理的な思考をするための基本的な前提条件なのである (2) 組織と制度は、その集団のメンバーの行動を連携し、行為を刺激する中 間の目的を組織のメンバーに提供する全般的な刺激と注目させるものを 提供する。 第 1 の点は、組織の行動パターンさえ理解すれば、組織メンバーは他者の 行動や反応のみならず、行為の結果についてある程度予想ができると説明し ている。第 2 に、組織にあっては、それぞれの集団(部門)に対して全般的 (全社的)な目的と中間的な目的が、すなわち刺激と注目させるものが提供さ れる。すなわち、検討すべき代替案が縮減され、部門や個人の意思決定も処 理可能なレベルに具体化されるのである。 サイモンは「組織と呼んでいる行動パターン」は、人間の合理性の達成に 欠くことができないし、合理的な個人とは、組織された個人でありそうでな ければならない、と主張する。すなわち、集団の意思決定というときにはそ の人間が集団を形成したときの行動パターンについての研究が成り立つし、 組織の意思決定というときには、より合理的な意思決定に近づけるための装 置についての研究と分類することができる。 3-3-4 組織の影響過程 このサイモンによる理論化、あるいは概念化の最終的な目的は、組織現象の 本質的な理解にある。意思決定の環境を理解し、統制し、統合することは、個 人の行動を、社会的に課せられた刺激の型へと従属させることに繋げられる。 意思決定の諸形式の理解はすなわち、組織の意義と機能の理解を意味する。 前節までで、意思決定の理論についての整理を終えた。ここでは、本章の最 後の課題として、意思決定という観点から組織の影響過程の整理について言及 する。既述のとおり、意思決定は、価値前提および事実的前提から引き出され た「結論」と見做すことができるが、組織が影響を及ぼす対象は「結論」その ものではなくそれに先立つ意思決定の諸前提であることを示すためである。

参照

関連したドキュメント

東京工業大学

Because of the knowledge, experience, and background of each expert are different and vague, different types of 2-tuple linguistic variable are suitable used to express experts’

Since the optimizing problem has a two-level hierarchical structure, this risk management algorithm is composed of two types of swarms that search in different levels,

鈴木 則宏 慶應義塾大学医学部内科(神経) 教授 祖父江 元 名古屋大学大学院神経内科学 教授 高橋 良輔 京都大学大学院臨床神経学 教授 辻 省次 東京大学大学院神経内科学

1991 年 10 月  桃山学院大学経営学部専任講師 1997 年  4 月  桃山学院大学経営学部助教授 2003 年  4 月  桃山学院大学経営学部教授(〜現在) 2008 年  4

  中川翔太 (経済学科 4 年生) ・昼間雅貴 (経済学科 4 年生) ・鈴木友香 (経済 学科 4 年生) ・野口佳純 (経済学科 4 年生)

学識経験者 品川 明 (しながわ あきら) 学習院女子大学 環境教育センター 教授 学識経験者 柳井 重人 (やない しげと) 千葉大学大学院

経済学研究科は、経済学の高等教育機関として研究者を