【第 1 回九州橋梁・構造工学研究会シンポジウム 2013 年 12 月】
圧縮力を受けるアルミニウム板の座屈挙動と最大強度特性の検討
Study on Ultimate Strength and Buckling Behavior of Aluminum Plate under Compression Force
井上 天*,山尾 敏孝**,葛西 昭*** Takashi INOUE, Toshitaka YAMAO, Akira KASAI
*学生会員 熊本大学大学院自然科学研究科(〒860-8555 熊本市中央区黒髪 2-39-1) **正会員 熊本大学大学院教授 自然科学研究科(〒860-8555 熊本市中央区黒髪 2-39-1) ***正会員 熊本大学大学院准教授 自然科学研究科(〒860-8555 熊本市中央区黒髪 2-39-1) 鋼橋における構造部材の構成要素として板要素があるが,鋼材の代わりにアルミニウム合金を使用した 場合を想定し,圧縮力を受ける板の座屈挙動と耐荷力について述べる.使用するアルミニウム合金は,熱 処理アルミニウム合金 A6061-T6 および非熱処理アルミニウム合金 A5083-O である.初期不整は初期たわ みと MIG 溶接および FSW(摩擦攪拌接合)によって生じる残留応力を考慮し,汎用 FEM 解析プログラム ABAQUS を用いて荷重‐変位関係および耐荷力を算出した.板の幅厚比と境界条件を変えてパラメトリッ ク解析を行い,接合位置や残留応力および板幅が座屈挙動や耐荷力に影響することを明らかにした.また, 鋼材についても同様のことを実施し,アルミニウム板と鋼版の座屈挙動と耐荷力の相違点を明らかにした. 1. はじめに 鋼橋における構造部材の構成要素として板要素があるが,圧 縮力を受ける鋼板の設計法は多くの研究者によって検討され, ある程度完成されている.近年,軽量で耐食性が良く,押出加 工が可能なアルミニウム材が注目されつつあり,アルミニウム 歩道橋および歩道用アルミニウム床版等が建設されるようにな ってきた1).しかし,アルミニウム部材の設計法は,鋼構造部材 に比べると確立されていない.そこで,本研究では,構造部材 の構成要素である板要素としてアルミニウム合金および,鋼材 を使用し,圧縮力を受ける板の座屈挙動および耐荷力を解析的 に調べた.パラメトリック解析では,板の幅厚比と境界条件を 変えて行い,接合位置や残留応力および板幅が座屈挙動や耐荷 力に影響することを明らかにするとともに,既往の研究結果と の比較検討を行った.以上の結果から,アルミニウム板と鋼板 の座屈挙動と耐荷力の相違点も明らかにした. 2. 解析モデルと数値解析の概要 解析モデルは,図-1 に示すような初期不整を有する 4 辺単純 支持の正方形無補剛板(a/b=1)と 3 辺単純支持 1 辺自由の長方形 板(a/b=4)を用いた.なお,a は非載荷辺,b は載荷辺の板幅の長 さを表している.載荷辺の板幅 b は,4 辺単純支持板において 960mm~250mm,3 辺単純支持 1 辺自由板において 310mm~55mm とした2).幅厚比パラメータ R は(1)式を用いて 0.3~1.8 とした. 𝑅 =𝑏 𝑡√ 𝜎𝑦 𝐸 ∙ 12(1 − 𝜈2) 𝜋2∙ 𝑘 (1) なお,σy=σ0.2:0.2%耐力,t:板厚,ν:ポアソン比(=0.3),k:座屈係数 (4 辺単純支持板:4,3 辺単純支持 1 辺自由板:0.425)である. 使用材料は,構造用アルミニウム合金である非熱処理アルミ ニウム A5083-O(以後 A5 系アルミと呼ぶ)と熱処理アルミニウ ム A6061-T6(以後 A6 系アルミと呼ぶ),溶接構造用鋼材 SM490 と SM400 とし,機械的特性を表-1 に示す.構成則は図-2 に示す ように,アルミニウム材に関しては Ramberg-Osgood 式に基づい た応力σ‐ひずみ ε 関係を,鋼材に関しては降伏棚の後硬化域の ある応力‐ひずみ関係を用いた.
(a)4 辺単純支持板 (b)3 辺単純支持 1 辺自由板 図-1 解析モデル 表-1 材料の機械的特性
(a)アルミニウム材 (b)鋼材 図-2 応力‐ひずみ関係 (a)4 辺単純支持された端部接合板 (b)4 辺単純支持された等厚中央接合板 (a)4 辺単純支持板 (c)3 辺単純支持 1 辺自由の端部接合板 (b)3 辺単純支持 1 辺自由板 図-3 アルミニウム板における残留応力 図-4 鋼板における残留応力 初期不整としての初期たわみは,図-1 に示すような形状で仮 定した.4 辺単純支持板では,式(2)の最大初期たわみ値 w4=b/150 を有する正弦波を,3 辺単純支持 1 辺自由板では,式(3)の最大初 期たわみ値 w3=b/100 を有する正弦波とした. {𝑤4= 𝑏 150sin 𝜋𝑥 𝑎 sin 𝜋𝑦 𝑏 (2) 𝑤3= 𝑥 100sin 𝜋𝑦 𝑎 (3) また,残留応力分布は図-3,4 に示すような矩形分布を仮定した. アルミニウム板については,端部接合板は MIG 溶接,等厚中央 接合板では FSW(摩擦攪拌接合)で接合されており,この二種 類の接合方法は,I 型断面部材を製作するときに用いられる.図 -3(a),(b)に示すように,アルミニウム材を用いた 4 辺単純支持 板において,載荷辺 25mm または 50mm と一定の範囲で引張残 留応力rt = j0.2が作用するが,圧縮残留応力rc = 50j0.2/b-50 は載 荷辺の板幅 b に依存する.図-3(c)に示すように,3 辺単純支持 1 辺自由板においても同様に,載荷辺 25mm と一定の範囲で引張 残留応力rt = j0.2が作用するが,圧縮残留応力rc = 25j0.2/b-25 は 載荷辺の板幅 b に依存する.鋼板については,MIG 溶接で接合 された端部接合板を対象とし,図-4 に示すように,4 辺単純支持 板および3辺単純支持1辺自由板において,引張残留応力rt = y , 圧縮残留応力rc = jが作用する.なお,アルミニウム材を用い た等厚中央接合板において,FSW による接合部の疲労強度は従 来の MIG 溶接のそれより格段に高くなり改良されている3). 数値解析では,汎用有限要素法解析プログラム ABAQUS4)を 使用した.シェル要素で構成された有限板要素モデルを用い, 要素分割数については,分割数を変化させて検討した結果,4 辺 単純支持板では,載荷辺,非載荷辺共に 50 とし,3 辺単純支持 1 辺自由板では載荷辺 20,非載荷辺 80 とした.また,図-1 に示 すように載荷辺に圧縮等分布荷重を変位制御で与え,アルミニ ウム板と鋼板の座屈挙動および耐荷力を比較検討し評価した.
3. 解析結果と考察 (1) 4 辺単純支持板 図-5,6 はそれぞれ,アルミニウム材と鋼材を用いた端部接合 板(b=250mm)と等厚中央接合板(b=250mm)の荷重 P/Pp0.2 -
変位
δ/δp0.2の関係を示したものである.Pp0.2は圧縮荷重の上限 値,δp0.2は Pp0.2が作用した時の変位である.図-5 からわかるよ うに,アルミニウム合金の荷重‐変位関係は明確な降伏点がな く,0.2%耐力の近傍で曲線を描く.また,R=0.3 のような幅厚比 パラメータ R の小さいモデルではひずみ硬化の影響が見られた. 一方,鋼材の荷重‐変位関係では,ひずみ硬化の影響が大きく 明確に見られた.さらに,図-6 から,幅厚比パラメータ R が大 きい場合,等厚中央接合板の最大強度は,A5 系アルミより A6 系アルミの方が大きく,R=0.3 のモデルでは,A6 系アルミの方 がひずみ硬化域が長いことがわかる.この要因として,FSW に よって結晶組織が細粒化することにより強度が上昇するためで あると考えられる.また,幅厚比パラメータ R が大きな板では, A6 系アルミの方が最大強度以降の強度の低下が急激であり,比 較的小さいひずみで応力が低下することがわかる.以上の結果 から,A6 系アルミの挙動は溶接および接合方法に影響されると 言える. 図-7,8 はそれぞれ,アルミニウム材と鋼材を用いた端部接合 板(b=250mm,960mm)と等厚中央接合板(b=250mm,960mm) の耐荷力σu/σp0.2 - 幅厚比パラメータR の関係を示したものである.本 解析による耐荷力を各記号で表し,既往の耐荷力算定式2),5)を点線で表 している.σuは最大圧縮強度,σp0.2は圧縮強度の上限値である.4 辺単純支持されたアルミニウム板の圧縮強度の上限値σp0.2は,表 -2(a)の式 A および B から得られる.この圧縮強度の上限値 σp0.2 は残留応力の影響を考慮して耐荷力を評価するために導入した. 鋼板における圧縮強度の上限値σp0.2は,σp0.2 =σyとして導入して いる.図-7,8 から,アルミニウム材と鋼材を用いた端部接合板 および等厚中央接合板の耐荷力は,既往の耐荷力算定式とほぼ 同様な結果を示しており,本解析結果は妥当であると思われる. また,A6 系アルミの耐荷力は,載荷辺の板幅 b が小さくなる と幅厚比パラメータ R の大きい領域において A5 系アルミの耐 荷力よりも低下した.これは,A6 系アルミの耐荷力に残留応力 が影響していることを示している. A6 系アルミの端部接合板の耐荷力は,幅厚比パラメータ R の 小さい領域において A5 系アルミの耐荷力と同様であったが,幅 厚比パラメータ R の大きい領域においては載荷辺の板幅 b によ って異なった.また,A6 系アルミと A5 系アルミの等厚中央接 合板の耐荷力は,端部接合板の耐荷力よりも大きくなった.載 荷辺の板幅 b が小さい等厚中央接合板では,FSW によって接合 され中央部に発生した引張残留応力の影響範囲が全体面積に対 して大きくなり,圧縮応力が相殺されたためであると考えられ る.また,板中央に接合部が存在しているため,板が面外変形 を起こしてもその影響が小さい点も要因として考えられる.し たがって,今後アルミニウム部材に FSW を用いることが期待で きる.そして,図-7 に示すように,アルミニウム板と鋼板の耐 荷力を比較したところ,鋼板の耐荷力は載荷辺の板幅 b の影響 を受けないことがわかった.(a)A5083-O (b)A6061-T6 (a)A5083-O
(c)SM490 (d)SM400 (b)A6061-T6
図-5 アルミニウム材と鋼材を用いた 図-6 アルミニウム材を用いた 端部接合板の荷重‐変位曲線(b=250mm) 等厚中央接合板(b=250mm)
(a)アルミニウム材 b=960mm (b)アルミニウム材 b=250mm (a)b=960mm (c)鋼材 b=960mm (b)鋼材 b=250mm (a)b=250mm 図-7 アルミニウム材と鋼材を用いた 図-8 アルミニウム材を用いた 端部接合板の耐荷力 等厚中央接合板の耐荷力 表-2 アルミニウム板の圧縮強度の上限値 (2) 3 辺単純支持 1 辺自由板 図-9 は,アルミニウム材と鋼材を用い た端部接合板(b=55mm)の荷重 P/Pp0.2 -変位δ/δp0.2の関係を示したものである. アルミニウム材を用いた3辺単純支持板 も 4 辺単純支持板と同様に,荷重‐変位 関係は明確な降伏点がなく,0.2%耐力の 近傍で曲線を描く.図-9(a),(b)から,幅 厚比パラメータ R≧1.0 のアルミニウム 板の最大強度にほとんど差が見られず, 最大強度以降の低下が緩やかである.図 -9(c),(d)から,鋼板の方がひずみ硬化の 影響が大きく明確に見られることがわ かる.また,A5 系アルミの R=1.0 のモ デルでは,δ/δp0.2=10 周辺において強度の 低下が見られたが,これは,塑性域の移 り変わりによる剛性の低下が要因とし (a)4 辺単純支持板 材料 端部接合板 等厚中央接合板 A6061-T6 B B A5083-O A A SM490 A SM400 A A:𝜎 2= 𝜎 2 B: 𝜎 2= 𝜎 2 𝜎 2 (b)3 辺単純支持 1 辺自由板 材料 端部接合板 A6061-T6 B A5083-O A SM490 A SM400 A A:𝜎 2= 𝜎 2 B: 𝜎 2= 2 𝜎 2 2 𝜎 2 (a)A5083-O (b)A6061-T6 (c)SM490 (d)SM400 図-9 アルミニウム材と鋼材を用いた端部接合板の荷重‐変位曲線(b=55mm)
て考えられる.図-10 は A5 系アルミの R=1.0 の モデルのδ/δp0.2=10 前後の変形モードを示したも のである.赤い領域が塑性域を示しており, δ/δp0.2=10 以降の変形モードを示した図-10(b)で は,塑性域が移動している様子がわかる.この 現象は,幅厚比パラメータ R の小さいモデルで は見られず,A6 系アルミでも見られなかった. 図-11 は,アルミニウム材と鋼材を用いた端部 接合板(b=55mm,310mm)の耐荷力 σu/σp0.2 - 幅 厚比パラメータRの関係を示したものである.3 辺単 純支持 1 辺自由のアルミニウム板の圧縮強度の 上限値σp0.2は,表-2(b)の式 A および B から得ら れる.図-11(a),(b)から,アルミニウム材と鋼材 を用いた端部接合板の耐荷力は,既往の耐荷力 算定式2),5)とほぼ同様な結果を示しており,本解 析結果の妥当性が示された. アルミニウム板と鋼板の耐荷力を比較すると, 3 辺単純支持 1 辺自由板における違いは,載荷辺 の板幅 b に関わらず幅厚比パラメータ R の小さ い領域において鋼板の耐荷力が明らかに大きい 点である.一方,幅厚比パラメータ R の大きい 領域においては,ほぼ同じような傾向を示して いることがわかる.この結果から,アルミニウ ム材は鋼構造部材の設計法と同じような手法で 利用できると考えられる.しかしながら,幅厚 比パラメータ R の小さい領域においては,アル ミニウム板と鋼板の耐荷力算定式の再検討が必 要であると思われる. 4. 結論 本論文では,圧縮力を受けるアルミニウム板と鋼板の耐荷 力と座屈挙動を数値解析により明らかにし,既往の耐荷力算 定式と比較検討を行った.以上の結果から,アルミニウム板 と鋼板における耐荷力と座屈挙動の違いは明らかになった. 以下に得られた結論を列挙する. 1) 幅厚比パラメータ R=0.3 のアルミニウム板ではひずみ 硬化の影響が見られた.一方鋼板では,ひずみ硬化の影 響が大きく明確に見られた. 2) 幅厚比パラメータ R の大きい領域におけるアルミニウ ム板と鋼板の耐荷力は,ほぼ同じような傾向を示した. そのため,アルミニウム材は鋼構造部材の設計法と同じ ような手法で利用できると考えられる. 3) 幅厚比パラメータ R の大きいA6061-T6 の等厚中央接合 板の耐荷力は,A5083-O のそれより大きい.しかし, A6061-T6 の方が最大強度以降の強度の低下が急である. 4) 本解析によるアルミニウム板と鋼板の耐荷力は,既往の 耐荷力算定式とほぼ同様な結果を示した. 参考文献 1) 大倉一郎,萩澤亘保,花崎昌幸:アルミニウム構造学入 門,2006. 2) 大倉一郎:アルミニウム合金板の耐荷力,アルミニウム 合金材の土木構造物への活用に関するシンポジウム, pp.44-64,2012. 3) 萩澤亘保,大倉一郎:アルミニウム合金 A6005C-T5 の 母材と摩擦攪拌接合部の疲労強度に応力比が与える影 響,土木学会論文集 A,Vol.65,No.1,pp.117-122,2009. 4) Dassault Systèmes Simulia Corp, ABAQUS Analysis User's
Manual, Version 6.11, 2011. 5) 土木学会:座屈設計ガイドライン,鋼構造シリーズ 12, 鋼構造委員会,pp.159,162,2005.10. (2013. 11. 8 受付) (a)アルミニウム材 b=310mm (b)アルミニウム材 b=55mm (c)鋼材 b=310mm (d)鋼材 b=55mm 図-11 アルミニウム材と鋼材を用いた端部接合板の耐荷力