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特集 ビジネス視点から見たロシア社会 ロシア ビール市場の予期せぬ不振 MINI REPORT ロシア ビール市場の予期せぬ不振 はじめにロシアでは1990 年代の後半ごろからビールの消費量と生産量が急増し始め 同国は早晩世界有数のビール大国になるとみられていた ところが 2008 年ごろからロシア

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Academic year: 2021

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ロシア・ビール市場の予期せぬ不振

はじめに

ロシアでは1990年代の後半ごろからビール の消費量と生産量が急増し始め、同国は早晩世 界有数のビール大国になるとみられていた。と ころが、2008年ごろからロシアのビール業界は 突然低迷期に突入し、そこからの脱却の兆しは 2015年春時点では見えていない。それどころか、 業界内では、今後不振がさらに深刻化するので は、との懸念の声も広がっている。ロシアのビ ール市場では、一体何が起こっているのだろう か。本稿では、低迷を招いた要因に着目しなが ら、ロシアのビール業界の現状を紹介する。

消費・生産動向

消費量 かつてロシアではビール愛好家は 少数派であった。ウォッカに代表される強い酒 の愛好家の方が圧倒的に多かった上に、肝心の 味の方がいまひとつだったからだ。ところが、 外資系のビールメーカーの本格的なロシア進 出に伴い美味しいビールが市場に出回るよう になったことや、健康志向の高まりの影響もあ って、1990年代半ばごろからビール愛好家の数 が急増し始めた。その結果、その頃からロシア のビール消費量は急激に伸び始め、2007年には 1995年の実に3倍以上の115億5,000万ℓに達し た。 しかし、2008年ごろから、後述の政府による ビールの販売と広告に関する規制の強化の影 響などもあり需要が低迷し始めた。2013年以降 は、それに経済状況の悪化という要因も加わり、 ビールの消費低迷には出口が見えておらず、 2014年の消費量は2007年を15億ℓ以上も下回る 100億1,000万ℓにとどまった。 生産量 ロシアのビール生産量はソ連時代 もそれほど大きなものではなかったが、ソ連解 体後しばらくの間はさらに減少する。それは、 市場の一部を安価な輸入ビールに侵食された ためであった。ただ、1997年ごろより外資系ビ ールメーカーの現地生産が本格化し始めたこ ともあって、徐々に生産量が回復していった。 そして、1998年8月の経済危機に伴うルーブ ル・レートの大幅下落を契機に輸入ビールが市 場での競争力を完全に失ったことに加え、若い 層を中心にビールの人気が急激に高まったこ ともあって、1999年以降生産量が加速度的に増 加しはじめ、2007年にピークに達した。 しかし、その後は、消費量の低迷に伴い生産 量も減少し始めており、2014年の生産量は2007 年の数字を約33億ℓも下回る81億6,000万ℓにと どまった。ここで非常に気になるのは、この数 字が、ロシア連邦国家統計局が発表している同 年の消費量(小売販売量)の数字よりも20億ℓ も小さい数字であるという点である(図表1)。 ロシアではビールの輸出入がほとんど行わ れておらず、しかも輸出量と輸入量がほぼ同じ 水準にあるという状況下で何故このような差 異が生じたのかは謎であるが、①ビールの物品 税が大幅に引き上げられた2010年から消費量 が生産量(物品税をきちんと納付して、生産さ れるビールの量)を大幅に上回る傾向が顕著と なっている、②やはり高い物品税が課せられて

ロシア・ビール市場の予期せぬ不振

MINI REPORT

特 集

ビジネス視点から見たロシア社会

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図表1 ロシアのビールの生産量と消費量の推移 (出所)ロシア連邦国家統計局。 おり闇製品が大量に流通しているといわれて いるウォッカ部門においても同様の傾向が見 受けられる1)といった状況証拠から推察する に、物品税の支払いを回避するために非合法な 形で生産された「闇ウォッカ」ならぬ「闇ビー ル」が市場で流通していることにより生じた差 異である可能性が高いと判断される。その理由 は定かではないが、恐らく、ロシア連邦国家統 計局が発表するウォッカやビールなどのアル コール飲料の生産量の数字には闇アルコール 飲料の分は含まれていないが、消費量の数字に はそれが含まれているのであろう。 ちなみに、最近、ロシアのビール市場では、 大手メーカーの生産する全国ブランドのビー ルの販売の不振を尻目に、地方部の中小のメー カーが生産する「地ビール」が販売を伸ばすと いう傾向が顕著になっているが、「地ビール」 といわれるものの中に「闇ビール」が相当量紛 れ込んでいる可能性も十分に考えられる。 業界地図 ロシア・ビール醸造者連盟によれ ば、現在ロシアでは200近いビール醸造会社が 活動しているとされているが(工場数は約850)、 寡占化が進行しており、バルチカ(カールスバ ーグ)、サン・インベヴ、モスクワ・エフェス、 ハイネケンの上位4社の2014年時点の市場シ ェア(数量ベース)は合計で86.5%に達してい る(内訳はバルチカ38.5%、サン・インベヴ 19.0%、モスクワ・エフェス15.0%、ハイネケ ン14.0%:『Russian Food & Drinks』誌、2015.4)。 ただ、最近になり、それら最大手4社は苦戦を 強いられるようになっており、この2~3年の 間に4社合計で12のロシア国内の工場を閉鎖 している。

政府による規制強化の流れ

なお、ロシアのビール業界関係者の間では、 「2008~2009年ごろから顕著となったビール の消費量の停滞傾向の主因は、ロシア政府によ る規制強化にある」との見方が優勢となってお り、たとえば、バルチカの親会社のカールスバ ーグの幹部は、「2008年秋のリーマンショック の後、ロシア政府のビールに対する規制が強化 された結果、この数年間で市場規模は30%以上 も縮小した」という主旨のことを述べている (『ヴェードモスチ』紙、2015.4.14)。2000年 1990 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 生産 307 213 516 910 1,001 1,147 1,140 1,085 984 994 975 889 816 消費 307 358 525 892 1,003 1,155 1,138 1,062 1,004 1,012 1,018 984 1,001 0 500 1,000 1,500 単位:1 ,0 00 万ℓ

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代後半から始まった規制強化(物品税の値上げ 措置を含む)の流れと、そのことがロシアのビ ール市場に及ぼした影響は以下の通りとなっ ている。 物品税 ビールの物品税は2008年に32.4% 引き上げられ、アルコール度数が0.5~8.6%の ビール(ロシアでは度数8.6%を超えるビール はほとんど生産されていない)に課せられる税 率は2007年の1ℓ当たり2.07ルーブルから2.74 ルーブルにまで上昇した。また、2009年も約 9%の引き上げが実施され、物品税率は1ℓ当 たり3ルーブルとなった。さらに、歳入不足を 懸念する財務省の強い主張を受け、2010年1月 1日からはそれまでの3倍の9ルーブルにま で一挙に引き上げられた。その後も物品税率は ほぼ毎年値上げされ、現時点(2015年春時点) では18ルーブル/ℓに達している。 各ビール会社は物品税率の引き上げ分を小 売価格に転嫁することを余儀なくされており、 ロシアのビールの小売価格は2008年から2015 年春までの間にほぼ2倍に上昇したという (『ヴェードモスチ』紙、2015.4.14)。この物 品税率の引き上げを背景とするビールの小売 価格の上昇が、ビール消費量の停滞の一因とな ったことはほぼ間違いない。ちなみに、ビール の物品税率は原則、年1度の頻度で見直される ことになっており、2015年こそ値上げが見送ら れたものの、2016年には20ルーブル/ℓに、2017 年には21ルーブル/ℓにそれぞれ引き上げられ る予定となっている。 広告規制 ビールを高アルコール飲料と同 一視し、その生産・流通等に関する規則を高ア ルコール飲料と同じレベルにまで厳格化する ことを前提とした新法「エチルアルコール、ア ルコール製品、アルコール含有製品の生産と流 通に関する国家規制法の改訂について」(以下、 単に「新法」と称す)が2011年7月に採択され、 それまでビールの生産・流通を規定していた法 律「ビールの流通について」が失効することと なった。 その結果、ビールの広告に関する規則が一定 の準備(猶予)期間を経た後に、以下のような 形で厳格化されることになった。 それまで、ビールの広告は、テレビに関して は22時から7時、ラジオに関しては24時から9 時まで許可されており、活字媒体(教育雑誌は 除く)と屋外広告に関しては、人物や動物を登 場させない限り自由に行えるようになってい たが、「新法」の制定に伴い、2012年7月以降 はテレビ、屋外広告、ラジオでのビールのCM が全面的に禁止されることになった。さらに、 活字媒体への広告掲載も、2013年1月1日より 全面的に禁止されることになった。 ただ、最近になり、ビール会社という重要な 広告主を失い大幅な収入減に見舞われていた マスコミ業界による積極的なロビー活動が奏 功したことなどもあってか、条件付きではある もののテレビや活字媒体でビールの広告を行 うことが再び認められるようになっている。た とえば、2014年夏には、テレビのスポーツ中継 番組でのビールのCM放映と活字媒体への広 告の掲載を2018年末までの期限付きで許可す ることを規定した法律が採択されている(2018 年にロシアで開催されるサッカーのワールド カップを意識した措置だとの説が有力)。また、 2015年1月1日からは、22時から7時までテレ ビとラジオでロシア製のビールとワインの CMの放映を行うことが許可されている(恐ら く、これも2018年末までの時限的措置だと推測 される)。このビールのCM規制の緩和の流れ は今後も続くとみられており、2018年末までの 期限付きではあるが全面解禁される可能性も あるといわれている(『コメルサント』紙、2015. 5.13)。

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販売規制 上記の「新法」の採択に伴い、ビ ールの販売にも規制がかかることになった。ま ず、2012年7月から、23時~8時の間のビール の販売が禁止されることになった。ただ、この 時間帯に販売されていたビールの量は全体の 約1%程度といわれており、この規制がビール の販売量に大きな影響を及ぼすことはなかっ た。 それよりもはるかに大きな影響を及ぼした のは、2013年1月1日により導入されたキオス ク等の屋外の仮設店舗でのビールの販売を全 面的に禁止するという措置であった。屋外の仮 設店舗がロシアのビール販売量に占めるシェ アは2012年時点で約20%と非常に大きかった ため、この措置はビール(特に安価なビール) の販売不振に直結した。その他、「新法」の制 定に伴い2012年7月より、屋外でビールを飲む ことが禁止されることになったが(レストラン やバーの屋外スペースは対象外となった)、ロ シアでは路上等でビールを飲む人が結構多か ったため、この規制もビールの販売量に否定的 な影響を及ぼしたとみられている。

今後の不安材料

ロシアのビール業界の関係者の多くが、販売 不振が今後も続くとの見方を しているが、彼らによれば、油 価の下落に伴う経済状況の悪 化の他、以下に示すファクタ ーも市場に否定的影響を及ぼ す危険性があるとされる。 ペットボトル制限措置 その 根拠がいまひとつはっきりし ないのだが、ロシア政府はペ ットボトル入りビールの流通 制 限 の 方 針 を 打 ち 出 し て お り、ロシア・ビール醸造者連盟 に加盟するビール醸造会社(合計で約80社)は、 2014年初頭から2.5ℓ以上の容量のペットボト ル入りのビールの生産を自粛することを余儀 なくされた。ロシア政府は今後も規制を強化し、 2016年の夏からは1.5ℓ以上の容量のペットボ トル入りのビールの販売を禁止する意向を示 している。さらに、時期は未定であるが、0.5ℓ 以上の容量のペットボトル入りのビールの販 売が禁止される可能性もあるといわれている (これは、事実上、ペットボトル入りのビール の販売の全面禁止を意味する)。 ある業界関係者は、「ペットボトルの他の容 器への切り替えに伴う小売価格の上昇は避け られず(ロシアで販売されているビールの約半 分がペットボトル入りとなっている)、1.5ℓ以 上の容量のペットボトルが禁止されれば、ビー ルの消費量は8~10%減少することになるだ ろう」との意見を述べている(『ヴェードモス チ』紙、2015.5.20)。 統一国家自動情報システム アルコール飲料 を生産する工場に生産量の自動測定装置を設 置し、そこから送られてくる情報を総合的に政 府が管理するというシステムで、アルコール飲 料の非合法生産を阻止することを主目的とし

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ている。ウォッカなどの高アルコール飲料の工 場では2006年から自動測定装置の設置が義務 付けられているが、2016年7月からは年間生産 量が300万ℓ以上のビール工場にも設置義務が 生じる見込みとなっている。ロシアの場合、中 小のビール工場が多いので、設置義務の対象と なるのは全体の2割前後に相当する150~200 工場とみられているが、大手傘下の工場はほぼ すべて対象となる。 大手ビール会社は、統一国家自動情報システ ムのビール工場への導入に強い警戒心を示し ている。実はこのシステムには不備な点が多く、 2006年にウォッカ工場に導入された際には、技 術面での支障が生じ多くの工場が生産の休止 を余儀なくされたのだが、大手ビール会社は、 ビール工場においても同様の事態が生じるこ とを恐れているのである。また、彼らは、統一 国家自動情報システムへの対応には1工場あ たり100万ルーブル以上のコストがかかり、さ らにほほ同じ額の年間維持費が必要となると いう点も問題視しており、この措置もビール業 界に否定的影響を及ぼすとみなしている。 人口の年齢構成の変化 旧ソ連諸国のビー ル市場に関する情報専門誌「ビール・ビジネス」 (2015.1)によれば、年齢別にみた場合、ロシ アのビール市場の核を形成するのはヘビーユ ーザーの割合が高い20~39歳の年齢層の人々 で、2000年代前半にビール消費量が急増した理 由のひとつは、「2002年から2010年にかけ、こ の年齢層の人口が150万人以上も増加したこと にある」とされている。ただ、同誌によれば、 「2010年を境に20~39歳の年齢層の人口は減 少に転じており、2018年には2010年の数字を約 100万人下回る可能性がある」とされており、 そのことが今後、ロシアのビール市場に否定的 影響を及ぼす可能性も十分に考えられる。

おわりに

国民の平均寿命を引き上げることを国家的 目標として掲げるロシア政府が、ロシアの人々 の平均寿命の低さの元凶のひとつとみなされ るアルコール飲料の一種であるビールに厳し い目を向けるのは当然のことかもしれないが、 その厳しさと平均寿命をめぐる状況を改善す るという目的が必ずしも直線的に結びつかな いとの印象は拭いきれない。たとえば、ペット ボトル入りのビールの生産・販売を禁止する措 置が当該の目的の達成にどの程度貢献するの か、いささか疑問である。 また、政府は、闇ビールの流通を問題視して、 大規模ビール工場も統一国家自動情報システ ムの適用対象にすることを検討しているよう だが、本気で国民の健康を気遣っているのであ れば、同システムがすでに導入されているにも かかわらずウォッカの非合法生産が一向に止 む気配がないという状況をもっと深刻にとら え、そこにメスを入れることを優先すべきであ ろう。 ビール業界へのバッシングの背景には、別の アルコール飲料業界の積極的なロビー活動が 存在するという噂を時折見聞するが、ロシア政 府の動きをみていると、それが根も葉もないも のだとは思えなくなってくる。

【注】

1)ロシア連邦国家統計局によれば、2014年のウォ ッカの生産量(物品税をきちんと支払って生産 されたウォッカの量)は6億6,600万ℓであった のに対し、消費量の方は12億4,700万ℓだったと されている。 (坂口 泉)

参照

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