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新規材料による高温超伝導基盤技術 研究代表者 平成 20 年度実績報告 高野義彦 物質 材料研究機構 グループリーダー FeSe 系超伝導体の機構解明と新物質探索 1. 研究実施の概要 鉄系超伝導体の中でもっともシンプルな結晶構造をもつ FeSe 系超伝導体に着目し 試料合成 結晶構造解析 超伝導物

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平成20 年度 実績報告 「新規材料による高温超伝導基盤技術」 研究代表者

高野 義彦

物質・材料研究機構・グループリーダー

FeSe 系超伝導体の機構解明と新物質探索

§1.研究実施の概要

鉄系超伝導体の中でもっともシンプルな結晶構造をもつFeSe 系超伝導体に着目し、試料合成、 結晶構造解析、超伝導物性評価、NMR 測定、光電子分光測定を行った。超伝導転移温度は、 常圧ではTconset=13K であるが、1.5GPa の圧力で 27K まで上昇することを示し、FeSe がさらな

る圧力でさらに高い超伝導転移温度を示す可能性を示唆し注目を集めた。ごく最近の研究により、 超伝導転移温度は37K に上昇することも分かってきている。さらに、FeSe と類似構造を持つが超 伝導を示さないFeTe にも注目して研究を行っている。最近、FeTe に S をドープすることにより超 伝導転移温度約 10K の新超伝導体になることを新たに発見した。この発見により、FeAs, FeP, FeSe, FeTe 面が超伝導を示すことが分かり、物質のバラエティーが豊かになった。 NMR 実験では、FeSe0.92ならびに関連物質SrFe2As2の常圧および高圧下測定の実験を行っ た。FeSe0.92では、Se-NMR 緩和率にコヒーレンスピークが見られず、べき乗温度依存性を示すこ とから、単純な非 BCS 超伝導ではないことを示した。また、圧力下での電気抵抗ならびに NMR 実験から、磁気相関の強さが超伝導転移温度と関係している可能性を見いだした。SrFe2As2で は、3.7GPa の高圧下で 34K 級の超伝導が発現することを明らかにした。 光電子分光測定によりFeSe 超伝導体の電子状態を世界で初めて明らかにした。FeSe の電子 状態の大枠はバンド計算とよく対応すること、フェルミ準位近傍の電子構造が Fe3d 由来であるこ とを見いだした。また、温度低下による EF近傍の電子状態の減少も観測された。これらの電子状 態の特徴は鉄ヒ素系超伝導体とよく似ており、FeSe 層が高い超伝導を生み出す可能性を持つこ とが示唆された。

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§2.研究実施内容

研究目的: FeSe は、超伝導を示す鉄面のみで構成されており、層間に構造を持たないことを特徴とする。 シンプルな結晶構造と二元素系であることは、鉄系超伝導のメカニズム解明に向けた研究におい て、大変適した試料であると考えられる。FeSe がつくる二次元面の結晶構造は、鉄ヒ素1111系や 122系における鉄二次元面と大変良く類似している。この結晶構造の類似性は、そのまま電子構 造や物性の共通性に繋がるのであろうか。FeSe 系と他の鉄系超伝導体の共通点や相違点を明ら かにし、FeSe 超伝導の発現メカニズムを明らかにし、鉄系超伝導に共通するメカニズムを解明す ることが大きな目的である。FeSe 超伝導体の電子状態を研究するために、SPring8 や HiSOR な どの放射光施設を用いた光電子分光を行う。さらに、圧力下の超伝導物性を検討し、圧力と構造、 そして超伝導手に温度の変化を検討する。 FeSe 超伝導体は、単相試料を得ることが現段階で は大変難しい。NMR は、原子核をプローブとするために不純物相からの信号と本質的な信 号を分離して調べることができるという特長がある。これを生かし、ミクロな観点から FeSe に本質的な Se の信号を分離し、常圧・高圧下において、常伝導状態と超伝導状態の電子相関を 調べ、高温での SDW の有無の確認、超伝導状態での超伝導秩序変数に関する情報を引き出す ことを目的とする。 方法: 試料合成は、石英ガラス管封入による固相反応法である。出発原料を秤量し、石英ガラス管に真 空封入し、およそ 600-700 度で加熱焼成した。単結晶育成については、基本的にセルフフラック ス法を用いて加熱条件を検討した。圧力下物性測定は、ピストンシリンダー型圧力セル、およびイ ンデンターセル型圧力セルを使用した。圧力の校正には、鉛やスズの超伝導転移温度の圧力効 果を用いた。NMR測定は、主として広帯域フーリエ変換核磁気共鳴装置、および高均一超伝導 磁石(7テスラ、および 9テスラ)を用い、約250ケルビンから1.5ケルビンの温度範囲、さらに高 圧セルを用いて行った。価電子帯光電子分光は広島大学放射光科学研究センターの BL5(岡山 大学ビームライン)および SPring-8 の BL27SU で行った。エネルギー分解能は 200meV である。 一方、レーザー光電子分光は物性研究所辛研究室において行った。エネルギー分解能は5meV に設定した。 結果: FeSe および FeTe 系超伝導体の試料合成、結晶構造解析、超伝導物性評価、NMR 測定、光 電子分光測定を行った。FeSe は他の鉄系超伝導体同様に、圧力に対して大変敏感であることが 明 らかに なった 。図 1 に FeSe の圧力下の電気抵抗を示す。常圧の超伝導転移温度は、 Tconset=13K であるが、1.5GPa の加圧により Tc=27K へ急激に上昇することが明らかになった (図1)。1.5GPa 程度の圧力で、超伝導転移温度が2倍になることは、これまでに例のない大変大

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きな圧力効果といえよう。しかも、測定圧力範囲において、超伝導転移温度が常に上昇傾向であ るので、更なる圧力を加えたなら、さらに高い超伝導転移温度が期待される。本加圧にはハイブリ ッド型ピストンシリンダーセルを用いた。圧力の静水圧制が高く扱いやすいことが特徴であるが、最 高圧力が 2GPa 程度にとどまることが欠点である。さらに高い圧力を発生できる装置、例えば、ダ イヤモンドアンビル、インデンターセル、ブリッジマンセルなどを用いた実験を現在遂行している。 圧力効果を詳しく見てみると、1GPa 程度の圧力下で、超伝導転移シャープになっている。一般に、 加圧すると転移はブロードになるものだが、FeSe は一旦シャープになる。これは、珍しい現象であ り、構造変化や磁性との因果関係があるものと考えている。 圧力下の構造解析により、FeSe は室温では tetragonal、100-70K で構造相転移を示し、低温 では、orthorhombic であることが分かった。また、磁性は低温まで磁気転移を伴わない。一方、 FeSe と結晶構造が類似している FeTe は超伝導を示さず、約 70K 付近で、tetragonal から monoclinic に構造相転移し、それに伴って磁気転移も示す。この11系は、おそらく構造相転移と 磁性、超伝導が競合する系であると期待される。 FeTe は、構造相転移と磁気転移を示し、超伝導は発現しない。何らかの方法により、磁気転移 と構造相転移を抑制すれば、超伝導が出現するものと期待される。そこで、我々は、FeTe に圧力 を加えて、圧力励起超伝導の可能性を模索した。現在実験が進行中で詳しいことはまた分かって いないが、圧力だけでは超伝導の出現は観測されていない。そこで、ケミカルプレッシャーを印加 するために、小さな元素である硫黄Sをドープすることとした。10%Sをドープした FeTe0.9S0.1 は、 相転移温度が低下し、低温でブロードな電気抵抗の落ちを観測した。そして、20%Sをドープした FeTe0.8S0.2は、約10Kに電気抵抗とマイスナー効果の明瞭な超伝導転移を観測した。このように、 我々のグループは、SドープしたFeTe が超伝導になることを新たに発見し、鉄系超伝導の物質群 を一つ豊かにすることに成功した(図2)。すなわち、鉄系超伝導体の超伝導面は、FeAs, FeP, FeSe, FeTe と豊富であることは、今後の新物質開発に向け大変興味深い。 図1.FeSe の Tc の圧力効果 図2.S をドープによる FeTe の超伝導化

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FeSe0.92試料において、その超伝導機構を探るためにてSe-NMR 実験を行った。NMR スペク

トルが低温まで変化しないことから磁気秩序は起きていないことが明らかになった。図3に示すよう に超伝導転移温度以下で、核磁気緩和率が急激に減少する。フォノン機構の超伝導体であれば、 転移温度以下で、ヒーベル・スリクターピークと呼ばれるピークを示した後、指数関数的に緩和率 が減少するが、本物質ではそのような振る舞いは見られず、緩和率はT3に従うことが明らかとなっ

た(H. Kotegawa et al., J. Phys. Soc. Jpn. 77 (2008) 113707)。この振る舞いは、異方的超伝 導体で見られる振る舞いである。詳細な機構については現時点では明らかになっていないが、引 力機構が非BCS 的である1つの証拠であると言える。

SrFe2As2の圧力誘起超伝導について研究を行った。層状 Fe 系超伝導体の関連物質である

AFe2As2(A=Ca,Sr,Ba)は、常圧で反強磁性を示すが、A サイトを K で置換したり、Fe サイトを Co

で置換することで超伝導を示す。特にSrFe2As2は、常圧では198K で構造相転移とともに反強磁 性状態に秩序化する。高圧下では反強磁性が消失し超伝導を示すことが報告されていたが、温 度圧力相図は混沌としていた。この系について、フラックス法で作製された単結晶についてインデ ンター型圧力セルを用いて電気抵抗の測定を行ったところ、3.7GPa 付近で反強磁性が突然消失 するとともに、ゼロ抵抗が観測され超伝導を示すことが明らかとなった(H. Kotegawa et al. J. Phys. Soc. Jpn. 77(2009)013709)。図4に示す相図から、磁気揺らぎが超伝導に密接に効いて いることが示唆される。 図3.核磁気緩和率の温度依存性 図4.SrFe2As2の圧力誘起超伝導の相図

次に、図5に光エネルギー140eV と 1100eV で測定した FeSe 超伝導体の価電子帯スペクトル を示す。また、図2 はバンド計算結果である。価電子帯スペクトルは、フェルミ準位(EF)近傍にシャ

ープな構造(A)と、それより高結合エネルギー側に 3 つのブロードな構造(B-D)を示す。これらの構 造は計算結果とよく対応させることができ、FeSe の電子状態の大枠が一粒子描像で記述できるこ とを示す。また、バンド計算との比較と光エネルギー依存性測定から、構造A は Fe3d 由来である ことが同定された。一方、構造 A のエネルギー位置はバンド計算の予測よりも低結合エネルギー

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側にシフトしており電子相関の効果を示唆する(図6挿入図)。このエネルギーシフトの大きさは鉄ヒ 素系超伝導体とほぼ一致しており 2 程度の質量増大効果が示唆された。図7にレーザー光電子 分光で測定したEF近傍の電子状態を示す。温度低下により、Tcより高い温度からEF近傍の電子 状態が減少することが観測された。FeSe の電子状態は、EF近傍のシャープな3d 由来の電子構 造の存在、Tcより高い温度から温度低下によるEF近傍の電子状態の減少等、鉄ヒ素系超伝導体 との類似点が多いことがわかった。 光電子分光によりFeSe 超伝導体の電子状態を世界で初めて明らかにした。FeSe の電子状態 の大枠はバンド計算とよく対応すること、EF近傍の電子構造が Fe3d 由来であることを見いだした。 また、温度低下による EF 近傍の電子状態の減少も観測された。これらの電子状態の特徴は鉄ヒ 素系超伝導体とよく似ており、FeSe 層が高い超伝導を生み出す可能性を持つことが示唆された。 こ の 結 果 は 、 「Electronic Structure of Superconducting FeSe Studied by High-Resolution Photoemission Spectroscopy」と題し J. Phys. Soc. Jpn. 78, 034708 (2009)に掲載された。

図5.FeSe の価電子帯スペクトル 図6.バンド計算との比較 図7.EF近傍の電子状態

§3.研究実施体制

(1)「物質材料研究機構 高野」グループ ① 研究分担グループ長: 高野 義彦 (物質・材料研究機構、グループリーダー) ② 研究項目 (1) 多結晶および単結晶試料合成 (2) 超伝導特性の評価 (3) 圧力下の物性評価 (4) 中性子とメスバウアー効果による磁性と超伝導の相関の検討 (5) 新超伝導体の探索 (2)「神戸大学 藤」グループ

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②研究項目 (1) 常伝導状態のNMRスペクトル測定から静的な磁気状態を明らかにする。 (2) 常伝導状態のスピン格子緩和率から磁気相関を明らかにする。 (3) 超伝導状態でのNMRから超伝導秩序変数について調べる。 (4) 圧力下測定から超伝導メカニズムに関する情報を得る。 (3)「岡山大学 横谷」グループ ①研究分担グループ長: 横谷 尚睦 (岡山大学、教授) ②研究項目 (1)FeSe 超伝導体とその関連物質の放射光光電子分光(価電子帯、内殻準位) (2)FeSe 超伝導体とその関連物質のレーザー光電子分光(超伝導ギャップ、擬ギャップ)

§4.成果発表等

原著論文発表 ① 発表総数(発行済:国内(和文) 1 件、国際(欧文) 7 件): ② 未発行論文数(“accepted”、“in press”等)(国内(和文) 件、国際 (欧文) 2 件)

1. Superconductivity in S-substituted FeTe

Yoshikazu Mizuguchi, Fumiaki Tomioka, Shunsuke Tsuda,Takahide Yamaguchi, Yoshihiko Takano

APPLIED PHYSICS LETTERS, 94 巻 1 号, P. 012503-1~012503-3, 2009/01/01 2. Superconductivity at 27 K in tetragonal FeSe under high pressure

Yoshikazu Mizuguchi, Fumiaki Tomioka, Shunsuke Tsuda, Takahide Yamaguchi, Yoshihiko Takano

APPLIED PHYSICS LETTERS, 93 巻 15 号, P. 152505-1~152505-3, 2008/10/1 3. Crystal structure of the new FeSe1-x superconductor

Serena Margadonna,Yasuhiro Takabayashi,Martin T. McDonald,Karolina Kasperkiewicz,

Yoshikazu Mizuguchi, Yoshihiko Takano,Andrew N. Fitch.Emmanuelle Suarde,Kosmas Prassides CHEMICAL COMMUNICATIONS, 43 巻 43 号, P.5607~5609, 2008/9/1

4. Evidence for Unconventional Superconductivity in Arsenic-Free Iron-Based Superconductor FeSe: A 77Se-NMR Study

Hisashi Kotegawa, Satoru Masaki, Yoshiki Awai, Hidehki Tou, Yoshikazu Mizuguchi, Yoshihiko Takano

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2008/11/1

5. Abrupt Emergence of Pressure-Induced Superconductivity of 34K in SrFe2As2: A Resistivity Study under Pressure

Hisashi KOTEGAWA, Hitoshi SUGAWARA, and Hideki TOU, Journal of the Physical Society of Japan, Vol. 78 (2009) 013709.

6. Electronic Structure of Superconducting FeSe Studied by High-Resolution Photoemission Spectroscopy

R. Yoshida, T. Wakita, H. Okazaki, Y. Mizuguchi, S. Tsuda, Y. Takano, H. Takeya, K. Hirata, T. Muro, M. Okawa, K. Ishizaka, S. Shin, H. Harima, M. Hirai, Y. Muraoka, and T. Yokoya

J. Phys. Soc. Jpn. 78, 034708 (2009).

7. Study of the optical gap in novel superconductors by coherent THz radiation

P Calvani,S Lupi,M. Ortolani ,L.Baldassarre,C.Mirri,R.Sopracase,U. Schade, Yoshihiko Takano, Tsuyoshi Tamegai

参照

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