• 検索結果がありません。

社会イノベーション研究会ソーシャルキャピタルWG 報告書

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "社会イノベーション研究会ソーシャルキャピタルWG 報告書"

Copied!
18
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

平成 20 年度内閣府経済社会総合研究所委託事業 『イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究』 成果報告書シリーズ No.6

社会イノベーション研究会

ソーシャルキャピタル WG 報告書

山内 直人, 松永 佳甫,佐藤 浩介,木原 裕子,

奥山 尚子,韓 明東,川島 浩誉,李 嬋娟

平成21 年 3 月

(2)

本報告書は、内閣府経済社会総合研究所の平成20 年度委託 事業「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共 同研究」の研究成果として、財団法人未来工学研究所が取り まとめたものです。 本報告書の複製、転載、引用等には内閣府経済社会総合研究 所の承認手続きが必要です。

(3)

はじめに

「ソーシャル・キャピタル・ワーキンググループ」は、内閣府経済社会総合研究所の社会イノベーション研 究プロジェクトを推進するために設置された研究グループの一つであり、社会イノベーションを生み出す地域 資源の一つとして、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)に着目して研究を行ってきた。この報告書は、 本ワーキンググループの研究成果をとりまとめたものである。 本研究に先立ち、平成17 年度内閣府経済社会総合研究所研究調査報告「コミュニティ機能再生とソーシャ ル・キャピタルに関する研究調査報告書」がとりまとめられているが、本報告書に収録された諸研究はこれを さらに個別テーマに関して発展させたものである。 ソーシャル・キャピタルに関する研究の進展は著しいが、我が国において、ソーシャル・キャピタルが様々 な政策の効果に与える影響について研究した事例は少ない。しかし、知的クラスター政策などの地域科学技術 政策の目的などを読み返してみると、「産学官の連携とネットワークの形成の重視し、地域イノベーションの 環境を整備すること」など、地域における新たな社会関係性の構築と定着を当初から目的としていることが見 て取れる。 実際、海外のクラスター政策の評価ではソーシャル・キャピタルは重要な評価項目となっており、我が国に おいても政策立案や評価の視座としてソーシャル・キャピタルを導入する必要は今後高まってくるだろう。 このような政策実施者のニーズに応えるためにも、政策研究としてのソーシャル・キャピタルに関する研究 が蓄積されなければならない。本報告書に収められているいくつかの調査研究はそのような試みの可能性と方 向性を示しているものである。 最後に、ソーシャル・キャピタル研究と地域科学技術政策の評価を結び付けるきっかけを適切な助言ととも に与えていただいた前内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官干場静夫氏と、政策研究としての視座につい て様々な助言をいただいた現総括政策研究官川原田信市氏に謝辞を表して、序文の結語としたい。 平成21 年 3 月末 座長 山内 直人

(4)

目 次

第 1 章 ソーシャル・キャピタルと社会イノベーション 6 1-1 はじめに . . . 6 1-2 ソーシャル・キャピタルと経済効果 . . . 6 1-3 ソーシャル・ファイナンスにおけるソーシャル・キャピタルの役割 . . . 7 1-4 途上国における社会イノベーション . . . 8 1-5 ソーシャル・キャピタルが賃金決定に与える影響 . . . 9 1-6 大学発ベンチャーの成功要因 . . . 10 1-7 クラスター政策は起業を活発化させるか . . . 10 1-8 地域科学技術イノベーションとソーシャル・キャピタルの役割. . . 11 1-9 まとめと政策提言 . . . 12 第 2 章 ソーシャル・ファイナンスにおけるソーシャル・キャピタルの役割 13 2-1 ソーシャル・バンク、NPO バンクの概要 . . . 13 2-1-1 ソーシャル・ファイナンスとは何か. . . 13 2-1-2 ソーシャル・バンク、NPO バンクの特徴. . . 14 2-2 ヨーロッパにおけるソーシャル・バンクの取組み . . . 16 2-2-1 オランダ トリオドス銀行(Triodos Bank) . . . 17 2-2-2 イタリア エチカ庶民銀行(Banca Etica) . . . 18

2-2-3 ドイツ GLS 銀行(Gemeinschaftsbank f ¨ur Leihen Und Schenken) . . . 18

2-3 わが国における NPO バンク . . . 19 2-3-1 NPO バンクの歴史 . . . 19 2-3-2 現状. . . 19 2-3-3 NPO バンクのケーススタディ . . . 21 2-4 ソーシャル・バンクと NPO バンク発展に資する政策的インプリケーション . . . 24 2-4-1 一般ファイナンス機関のソーシャル・バンク化の可能性 . . . 24 2-4-2 NPO バンクと既存のファイナンス機関とを峻別する法制度の構築 . . . 24 第 3 章 開発途上国における社会イノベーション 27 3-1 はじめに . . . 27 3-2 開発途上国における社会イノベーションの推進力 . . . 28

3-2-1 国連ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals) . . . 28

3-2-2 先進国企業による開発途上国市場の開拓 . . . 28 3-2-3 貧困層向け金融サービスの拡大 . . . 29 3-3 貧困層向け金融サービスの先進事例 . . . 29 3-3-1 【事例1】ガーナの伝統的な金融システムを進化させた、バークレイズ銀行の貧困層向 け金融サービス . . . 30 3-3-2 【事例2】携帯電話を利用した送金サービス「M-PESA」 . . . 31 3-3-3 【事例3】セルペイ(Celpay)の、携帯電話を利用したオンライン・バンキングサービス 32 2

(5)

「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」 3-3-4 【事例4】非営利組織のマイクロファイナンス機関から、貧困層向け商業銀行へ成長し た、ミ・バンコ(Mibanco) . . . 33 3-3-5 【事例5】アフリカ発の送金サービス事業「マネーエクスプレス(Money Express)」 . 33 3-4 おわりに . . . 34 第 4 章 ソーシャルキャピタルと賃金 36 4-1 はじめに . . . 36 4-2 ソーシャル・キャピタルと人事評価 . . . 37 4-3 ソーシャル・キャピタルを加味した賃金関数 . . . 38 4-3-1 ソーシャル・キャピタルの定量化 . . . 38 4-4 賃金関数の推定結果 . . . 40 4-5 おわりに . . . 46 第 5 章 大学発ベンチャーの発生要因分析 48 5-1 はじめに . . . 48 5-2 分析視座 . . . 48 5-2-1 大学発ベンチャーの定義 . . . 48 5-2-2 先行研究 . . . 49 5-3 データ. . . 50 5-3-1 調査方法 . . . 50 5-3-2 分析モデル . . . 52 5-4 分析結果 . . . 53 5-4-1 実証分析結果 . . . 53 5-5 結び . . . 55 第 6 章 地域活性化における地域イノベーション政策の効果 57 6-1 はじめに . . . 57 6-2 クラスター政策の概要. . . 58 6-3 開業率の推移 . . . 59 6-4 先行研究 . . . 60 6-4-1 需要要因 . . . 60 6-4-2 労働需給要因 . . . 60 6-4-3 人的資本要因 . . . 61 6-4-4 産業集積・産業構造. . . 61 6-4-5 コスト要因 . . . 61 6-4-6 資金調達 . . . 61 6-4-7 インフラ要因 . . . 62 6-4-8 公的部門要因 . . . 62 6-5 分析方法 . . . 62 6-6 データ. . . 64 6-7 推定結果 . . . 66 6-8 結語 . . . 68

(6)

内閣府経済社会総合研究所委託事業 「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」 第 7 章 ソーシャル・キャピタル (SC) と地域科学技術イノベーション (STI) 82 7-1 ソーシャル・キャピタルから見た地域科学技術イノベーション政策 . . . 82 7-1-1 問題設定 . . . 82 7-1-2 先行研究と問題点 . . . 83 7-1-3 分析枠組み . . . 84 7-2 政策の成果とソーシャル・キャピタルへの影響の定量分析 . . . 84 7-2-1 分析のデータ . . . 84 7-2-2 分析方法 . . . 85 7-2-3 分析結果 . . . 85 7-3 クラスター中核機関へのヒアリングによる定性分析 . . . 87 7-3-1 ヒアリング対象と目的 . . . 87 7-3-2 ヒアリング方法 . . . 87 7-3-3 ヒアリング結果 . . . 88 7-3-4 地域STI 政策の問題点 . . . 88 7-4 結論 . . . 90 付論 韓国の社会イノベーションに関する視察報告 93 1. はじめに . . . 93 2. 視察結果概要 . . . 93 2-1 韓国科学技術院 (KAIST) . . . 93 2-2 創業振興院 . . . 97 2-3 三星経済研究所 (SERI) . . . 101 2-4 延世大学 . . . 104 2-5 韓国ベンチャー産業協会 (KOVA) . . . 106 7-4-1 2-6 韓国産業団地公団 (KICOX) . . . 108 2-6 韓国産業団地公団 (KICOX). . . 108 7-5 3. 視察結果の振り返り . . . 110 3. 視察結果の振り返り . . . 110 4. まとめ . . . 112 社会イノベーション研究会SCWG 2008 年度報告書 4

(7)

「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」 執筆者一覧 第1章 山内 直人 大阪大学大学院国際公共政策研究科 教授 第2章 佐藤 浩介 株式会社日本総合研究所 主任研究員 第3章 木原 裕子 株式会社野村総合研究所 経営戦略コンサルティング部 副主任コンサルタント 第4章 松永 佳甫 大阪商業大学総合経営学部公共経営学科 准教授 第5章 韓 明東 大阪大学大学院国際公共政策研究科博士課程後期 第6章 奥山 尚子 大阪大学大学院国際公共政策研究科,日本学術振興会特別研究員 第7章 川島 浩誉 早稲田大学理工学術院 助手 付論 李 嬋娟 大阪大学大学院国際公共政策研究科NPO研究情報センター研究員 韓 明東 大阪大学大学院国際公共政策研究科博士課程後期

(8)

1

章 ソーシャル・キャピタルと社会イノベーション

山内 直人1

1-1

はじめに

世界には、高い成長を続ける国・地域と、逆に停滞や貧困の悪循環から抜け出せない国・地域が存在し、相 当額の国際援助を実施してもなお顕著な経済効果が見られないことが少なくない。国内に目を転じても、地域 間の成長格差は相当大きく、自律的な成長を記録する地域もあれば、様々な政策的てこ入れにもかかわらず停 滞を続ける地域もある。 こうした国際間あるいは国内の経済パフォーマンスの地域差はなぜ生じるのか。成長した地域には何が備 わっており、衰退した地域には何が欠けているのか。 経済成長に関わる研究の蓄積は膨大であり、その要因は多岐にわたるが、一般的には、資本蓄積、労働供給 の増加、人的資本蓄積による労働の質の向上、技術革新などが主要な要因と考えられ、実証分析においても、 成長率をこうした要因に回帰することにより、成長の格差を説明しようとしてきた。 しかしながら、このような要因だけでは説明しきれない部分が残ることもつとに指摘されてきた。これは、 「ソロー残差」と呼ばれるものであり、さまざまな解釈がありうるが、筆者は、地域や組織におけるメンバー 間の信頼関係やネットワークの密度といったいわゆるソーシャル・キャピタルの差によって説明できる部分が 大きいのではないかと考えている。最近の地域再生のための構造改革特区や産業クラスター計画のアイデアを 見ても、地域によって構想力、提案力の差は歴然としている。たとえ政府が同じような地域再生策をとろうと しても、効果が顕著に現れる地域と現れない地域が出てくる。このように、ソーシャル・キャピタルは地域の 潜在成長力や再生力に深く関わっていると考えられる。 ソーシャル・キャピタルは、様々なルートを通じて経済成長に結びつく可能性があるが、重要なルートとし て、社会イノベーションがある。人的信頼関係とすう密なネットワークに根ざす豊かなソーシャル・キャピタ ルが、情報やアイデアの共有・融合を通じて、技術革新を生み出し、それが経済成長に結びつくというルート である。 この報告書の各章においては、ソーシャル・ファイナンス、発展途上国の貧困層向けビジネス、企業内の人 事評価と賃金、大学発ベンチャー、クラスター政策などのトピックを取り上げ、ソーシャル・キャピタルの蓄 積が、社会イノベーションの活性化を通じて、地域や組織の発展や再生を促すかどうか検討している。 以下、ソーシャル・キャピタルの意義とその経済効果について概説した後、各章の内容を要約・紹介しなが ら、このプロジェクトの総括を試みたい。

1-2

ソーシャル・キャピタルと経済効果

ソーシャル・キャピタルとは何か。このことばの意味は極めてあいまいであり、多くの論者がすこしずつ違っ た使い方をしているように思われる。ただ、ここでは、あまり定義に深入りせず、人々の協力関係を促進し、 社会を円滑・効率的に機能させる信頼、互酬、ネットワークといった諸要素の集合体を意味すると理解してお こう。 1大阪大学大学院国際公共政策研究科 教授 6

(9)

第1 章 ソーシャル・キャピタルと社会イノベーション 「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」 信頼には、もともと面識のある人に対する信頼と、知らない人に対する一般的な信頼があるが、ソーシャル・ キャピタルの構成要素としてより重要なのは後者であるとされる。 フランシス・フクヤマが強調するように、信頼の水準は競争力や民主主義の質を規定する。信頼はあらゆる 取引において重要な要素である。たとえば、契約を結ぶとき、互いの信頼が薄い社会だと、品質や納期に関す る情報を集めるのにコストがかかるが、信頼の厚い社会では、そうした取引コストを抑えることができる。 規範とは何だろうか。様々な社会規範の中で、ソーシャル・キャピタルの構成要素として重要なのは、互酬 の規範である。日本の伝統社会には互酬の慣行が深く根付いており、日本語の「お互い様」という言葉には、 直接的な見返りを求めない他者への奉仕の気持ちと、将来自分が困難に陥った時に他者が助けてくれるかもし れないという期待が込められている。 ネットワークもソーシャル・キャピタルの構成要素として不可欠である。ソーシャル・キャピタルにとって 重要なのは、会社組織のようなヒエラルキー構造をした垂直的ネットワークよりも、地域コミュニティ、クラ ブ、市民団体のような水平的ネットワークである。 信頼、互酬性規範およびネットワークは、ソーシャル・キャピタルを特徴付ける三大要素といえるが、これ らは相互補強的な役割を果たしていると考えられる。コミュニティにおける信頼関係が互酬的な慣行を普及さ せ、ネットワークを強化し、それがまた信頼を生み出すといったメカニズムである。 ソーシャル・キャピタルには、同質的なグループ内の結束を固めるような「ボンディング型ソーシャル・キャ ピタル」と、異なるグループの関係を橋渡しする「ブリッジング型ソーシャル・キャピタル」があるとされる。 ボンディング型ソーシャル・キャピタルは、地域、民族、社会階層などが同じグループの間で形成される社会 的結びつきを指し、他方ブリッジング型ソーシャル・キャピタルは、異なるグループ間で形成される社会的結 びつきを指すとされる。 ソーシャル・キャピタルは、経済活動にどのような影響を与えるだろうか。まず、ソーシャル・キャピタル は、起業を促し、雇用を創出し、経済再生を助けると考えられる。ソーシャル・キャピタルが蓄積され、コミュ ニティに信頼関係が醸成されていれば、取引相手を知るための情報費用や取引費用が軽減され、経済パフォー マンスに好影響を与えるだろう。また、ソーシャル・キャピタルが、産業、観光、建築、街並みなど個性的な 地域づくりに貢献するなら、ひいては経済発展にプラスの効果をもたらすことが期待される。 日本の企業社会では、これまでどちらかというと内向きのソーシャル・キャピタルが中心だったように思わ れる。例えば企業間の信頼関係が一度確立されると取引がスムーズにいく半面、新規参入に対しては排他的に 作用することがありうる。また、あまり内向きのソーシャル・キャピタルが強過ぎると、組織が暴走し始めた 時に、これを制止する人がおらず、結束を固めて不祥事をもみ消すようなケースも起こり得る。 イノベーションについても、同じような専門分野の技術者がチームを組んだのでは、本当に独創的な技術開 発にはつながらない。しかし、異業種の人との付き合いを奨励し、全く異分野の技術を自社に応用しようと考 える人が相当数育ってくれば、良好なソーシャル・キャピタルが形成され、長期的にはそういう企業の方が競 争力を持つ可能性が高い。

1-3

ソーシャル・ファイナンスにおけるソーシャル・キャピタルの役割

近年、起業家的な手法を用いて、新たな福祉サービスや環境配慮につながる「社会イノベーション」を生 み出すことを通じて、数々の社会問題の解消に貢献するソーシャル・ベンチャー(あるいは社会的企業)と呼 ばれる組織が数々と誕生してきており、世間の注目を浴びるようになっている。このようなソーシャル・ベン チャーの活動を資金面から支えているのが、「ソーシャル・ファイナンス」と呼ばれる新しい金融の仕組みで ある。このファイナンスを行う機関において、「信頼感」や「ネットワーク」といった特徴に代表されるソー シャル・キャピタルが重要な役割を果たしていると考えられる。 佐藤論文(第2 章)では、ソーシャル・ベンチャーを金融面で支えるソーシャル・ファイナンスのなかでも、 特にソーシャル・バンクとNPO バンクという2つの「ソーシャル・ファイナンス機関」に焦点を当てて、ソー

(10)

第1 章 ソーシャル・キャピタルと社会イノベーション 内閣府経済社会総合研究所委託事業 「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」 シャル・キャピタルの役割を分析している。 ソーシャル・ファイナンスにおいては、様々な側面で、ソーシャル・キャピタルが重要な役割を果たしてい る。たとえば、資金提供者は、経済的収益に加えて、社会的収益に関心を持っており、可能な限り信頼に足る ソーシャル・ファイナンス機関に資金提供しようとするという意味で、ソーシャル・キャピタルの存在が重要 である。また、ソーシャル・ファイナンス機関は、融資先のソーシャル・ベンチャーとの信頼関係をベースに、 様々なインフォーマル情報を得て、事業の成功可能性を判断することが可能となる。 このように、NPO バンクのようなソーシャル・ファイナンス機関は、資金提供者や融資先との関係でソー シャル・キャピタルが大きな役割を果たしている一方、制度的には消費者金融やノンバンクなど既存のファイ ナンス機関と同様の位置づけになっている。 たとえば、NPO バンクは、一般の貸金業者と同じく貸金業法に基づき活動している。同法は、多重債務問題 の解決等を目的として2006 年に改正が行われ、貸金業を営むのに必要な純資産額が従来の 500 万円から 5,000 万円へと引き上げられることとなり、低利・少額ファイナンスで財政的に余裕がないNPO バンクにとって、 貸金業登録を更新できない可能性が発生した。また、借り手の総借入残高を把握できるようにするため指定信 用情報機関への加盟、さらには、法令遵守のための助言・指導を行う貸金業務取扱主任者という資格の保有者 を営業所に配置することを義務付けられ、基本的にボランティアによって運営されているNPO バンクに追加 的な事務的コストが生じる可能性も発生した。また、NPO バンクは、いわゆる金融商品販売法の対象となり、 継続的な会計監査や情報開示が義務付けられる可能性が生じた。NPO バンクはこれを回避するため出資金に 対する配当を支払うこと自主的に放棄している。これにより、活動の制約は受けなくて済んだものの、資金提 供者にとっては経済的なメリットが全く無くなってしまっている。わが国でも、NPO バンクへより多くの資 金が集まるようにするために、資金提供者の出資金に対して、なんらかの経済的なメリットを付与できる仕組 みを講じる必要があるだろう。 今後、日本において、ソーシャル・ファイナンス、とりわけNPO バンクの活動領域を拡大するためには、 NPO バンクの位置づけを制度上明確にすることが必要である。様々なソーシャル・ベンチャーが社会イノベー ションを生み出すためには、十分な資金が継続的に提供される必要があり、そのためには、NPO バンクのよ うなソーシャル・ファイナンス機関を、いわゆる消費者金融やノンバンクなどといった既存ファイナンス機関 と明確に峻別できるよう、法制度を早急に構築することが求められよう。

1-4

途上国における社会イノベーション

社会イノベーションは、発展途上国においても重要な役割を果たしている。たとえば、ムハマド・ユヌス氏 は、バングラディシュの貧困層が、担保をもたず銀行から融資を受けられないために、高利貸しからお金を借 りざるを得ず、高い利子を返済できずに借金を重ねて貧困から抜け出せないという「貧困の悪循環」に陥って いることに着目して、マイクロクレジットの仕組みを開発し、彼自身が設立したグラミン銀行を通じて貧困層 へ金融サービスを提供し、貧困層を「貧困の悪循環」から脱却させる社会イノベーションを実現している。グ ラミン銀行が、貧困層向けの金融サービスであるマイクロクレジット(無担保小額融資)を開発したように、 近年、開発途上国においては慈善活動ではなくビジネス活動を通じた社会イノベーションが活発になっている。 木原論文(第3 章)においては、開発途上国におけるビジネス活動を通じた社会イノベーションについて、 その背景や最近の動向を概観するとともに、貧困層が「貧困の悪循環」から抜け出すために不可欠な金融サー ビスへのアクセスに着目して、興味深い具体的なビジネス事例を紹介している。 国際開発機関や主要先進国の政府セクターでは、2000 年に貧困削減など 8 項目からなるミレニアム開発目 標(MDGs)が設定されたのを契機に、民間セクターとのパートナーシップを強化して、開発途上国社会の開 発活動を加速しようとする動きが活発化している。これは、2015 年までに MDGs を達成するには、国際開発 機関や政府セクターだけでなく、民間企業やNPO など様々なセクターの協力が不可欠という考え方にもとづ くものである。 社会イノベーション研究会SCWG 2008 年度報告書 8

(11)

第1 章 ソーシャル・キャピタルと社会イノベーション 「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」 一方、民間セクターでは、世界金融危機を契機に先進国市場が失速し、企業は新たな市場可能性を模索する 必要に迫られていること、また中長期的には人口動態の変化により今後さらに新興国・開発途上国の市場ボ リュームが拡大していくと見込まれるため、新興国・開発途上国市場への参入が活発化している。いわゆる貧 困層市場は巨大であり、一人当たり年間所得(購買力平均換算)が3000US ドル以下の世帯は、世界の総調査 対象人口55 億 7500 万人の 72 %を占め、その家計所得は総額年間 5 兆 US ドルに達するとの試算もあり、こ の大きな未開拓市場に着目して様々な企業が動き始めている。このように新興国・開発途上国市場の攻略とい う企業ニーズと、開発途上国社会の開発という国際開発機関・政府機関のニーズが合致することで、ビジネス 活動を通じた開発途上国社会の開発が、世界的な潮流になっている。 このように、新興国・開発途上国市場へと市場を拡大しようとする先進国企業の動きが活発になっているこ と、さらに新興国・開発途上国市場を攻略したい先進国企業のニーズとMDGs の達成に向けた国際開発機関 や政府の民間セクターへの期待が合致して開発途上国社会の開発における官民パートナーシップの取り組みが 強化されていることなどが、開発途上国におけるビジネス活動を通じた社会イノベーションの潮流を生み出す 原動力となっている。 さらに既存の金融サービスへのアクセスをもたない世界の貧困層向けに開発されたマイクロクレジット(無 担保小額融資)が急速に普及・改良されてきており、現時点でも世界中で10,000 もの機関が、貧困層・低所 得者向けに小額融資サービスを提供していることが、貧困層の所得水準の向上を促し、開発途上国の消費者の 購買力を高める役割を果たし、開発途上国におけるビジネス活動を通じた社会イノベーションを推進している といえよう。

1-5

ソーシャル・キャピタルが賃金決定に与える影響

労働者の賃金が社会的属性や人的資本により決定されることは、すでに多くの先行研究で明らかにされてい るが、それらだけでは賃金を十分説明できない。 松永論文(第4章)は、労働者の保有するソーシャル・キャピタルに着目し、これが人的資本と同様に賃金 に影響を与えると考え、賃金プロファイルに、ソーシャル・キャピタルがどのような影響を与えるか、定量分 析により明らかにしている。 人的資本、物的資本を生産活動のエンジンに例えるなら、ソーシャル・キャピタルはそのエンジンを効率的 に動かすのに必要不可欠な潤滑油としての役割を果たすものであるとみなすことができる。労働者間の円滑な コミュニケーション無しには生産活動の効率性アップは望めない。ソーシャル・キャピタルは取引費用の減少 や労働者の折衝能力および交渉能力の向上を介して、企業に有益な効果をもたらすことから、企業は、労働者 のソーシャル・キャピタル保有量を人事評価に反映させ、ソーシャル・キャピタル保有量の多い労働者を高く 評価するはずである。そしてその評価は賃金増加という形で労働者にフィードバックされるであろう。合理的 な労働者であれば、ソーシャル・キャピタルの醸成に努め、賃金の増加を図ろうとするはずである。 この論文では、ソーシャル・キャピタルが賃金に影響をあたえるかどうかということに焦点を当て、この論 文では、日本版総合的社会調査(JGSS)のマイクロデータを用いて、ソーシャル・キャピタルを明示的に組み 込んだミンサー型賃金関数の推定を行っている。 推定結果より、労働者の社会的属性や人的資本以外にもソーシャル・キャピタルは年収を上昇させる重要な 要因であり、その醸成により年収の増加が期待できることが支持される。また、人的資本が賃金に与える影響 の程度は男女間で差があり、ジェンダー問題が存在するが、ソーシャル・キャピタルが賃金に与える影響は同 程度であり、ここにジェンダー問題は存在しないことも明らかとなった。 この論文は、ソーシャル・キャピタルが賃金に与える影響を実証的に分析した先駆的な論文として注目され る。今後の課題として、ソーシャル・キャピタルが企業の生産性を向上させるかどうか検討する必要があるだ ろう。ソーシャル・キャピタルが取引費用の減少や労働者の折衝能力および交渉能力の向上を介して、企業の 生産性を向上させるという因果連鎖が成り立っているのなら、ソーシャル・キャピタルの効果をより直接的に

(12)

第1 章 ソーシャル・キャピタルと社会イノベーション 内閣府経済社会総合研究所委託事業 「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」 観察できるのは、労働者の賃金ではなく、企業の生産性そのものだからである。

1-6

大学発ベンチャーの成功要因

国際経営開発研究所の国際競争力ランキングによると、日本は米国に次ぎ、科学的インフラ基盤の分野で世 界第2 位となっている。しかし、各省庁が大学発ベンチャー創出のための様々な政策・制度を整備、支援を行っ ているにもかかわらず、株式公開は23 社にとどまっている。なぜ日本は米国のような大きな経済価値があり、 競争力のある大学発ベンチャーが創出できないのだろうか。 韓論文(第5 章)では、このような問題意識から、日本の大学発ベンチャーの実績を評価し、ソーシャル・ キャピタル、あるいは地域資本がどのような影響を与えるかという観点から実証分析を行っている。大学発ベ ンチャーに対する体系的且つ精細なデータの構築を通じた更なる再分析の必要性があるのは言うまでもない が、大学発ベンチャー創出のために重要視されてきた要素が日本ではどの程度その役割を果たしているか実証 分析の結果に基づいて調べると共に、大学発ベンチャー創出に関わる各セクターの政策・制度の効果について も考察を試みた。 具体的には、「大学発ベンチャーに関する基礎調査報告書」掲載の大学発ベンチャーの新規設立数を被説明 変数とし、これを、資金源(出資金、科研費、民間寄付)、政策要因、大学個別要因などに回帰する形で、実 証分析を行っている。 結果を見ると、ベンチャービジネスラボ整備事業の対象大学では、大学発ベンチャーの設立が活発である。 また、大学の大学発ベンチャー育成方針など、大学本部が果たす役割を多い。一方、発明者に対するロイヤリ ティ配当率が低いほど、大学発ベンチャーを刺激するという効果も見られた。これについては、日本の研究開 発能力が集中している国立大学では2001 年までロイヤリティ配当率は 10 %であり、年間一人当たり 150 万 円という限度額で設定され、かつ教員等による兼業禁止規定があったため、大学発ベンチャー創出に適切なイ ンセンティブとしての役割を果たせなかった可能性も示唆される。さらに、当然ながら、大学の質も重要であ り、優秀な教員・研究者が所属する大学では、付加価値の高い研究成果を多数生み出すことができ、特許の出 願・取得を通じて、大学発ベンチャーの設立に貢献している。 今後の課題として、技術移転を通じた地域活性化・大学財政健全化への波及効果をより迅速に進めるために は、既存の大学発ベンチャー振興策を超えた、新しく有効な枠組みの構築及びそのための政策の開発が必要だ と考えられる。

1-7

クラスター政策は起業を活発化させるか

人と人との間にソーシャル・キャピタルが形成されるように、企業と企業の間にもソーシャル・キャピタル が形成される。 最近、クラスターと呼ばれる企業の特定地域への集積に注目が集まっている。古典的な例を挙げれば、ハ リウッド周辺への映画関連企業の集積やシリコンバレーへのIT 関連企業の集積がある。また、北イタリアの ファッション産業のクラスター、イギリス南部の自動車レース関連産業のクラスターなどがある。日本では、 経済産業省が中心となって、広域的な人的ネットワークの形成、起業家育成のためのインキュベーター整備な どを中心に、全国で19 の産業クラスター計画を推進している。大阪を中心とするバイオ産業クラスターや、 名古屋を中心とするものづくりクラスター、首都圏西部のTAMA クラスターなどが代表的なものである。 一般に、クラスターは、営利企業だけで構成されるのではなく、大学、研究機関、公的機関、NPO なども 参加していることが多い。こうした参加者が狭い地域内に集積することによって、取引コストが軽減され、共 同の技術開発が可能になり、優秀な労働力を確保することも容易になると考えられる。こうしたクラスターが 成功するためには、こうした集積のメリットに加えて、その地域にソーシャル・キャピタルが蓄積されている 社会イノベーション研究会SCWG 2008 年度報告書 10

(13)

第1 章 ソーシャル・キャピタルと社会イノベーション 「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」 ことが重要な要件になると考えられる。クラスター参加者が、相互に信頼し合い、オープンに交流することに より、集積の効果は一層高められるだろう。 したがって、クラスター計画を推進するに当たって、ソーシャル・キャピタルの形成を阻害するような政策 を抑制し、その形成を促進するような政策を積極的に採用することが重要になると考えられる。地域経済の活 性化や国内産業の国際競争力を強化するための政策として、このような産業クラスターの形成を目指す政策 (クラスター政策)が注目を浴びてきた。これは、産学官の連携をベースとして、地域に新しい事業や産業が 生まれるような環境づくりや、地域イノベーションのための環境づくりを支援し、新たな産業集積を起こして いくことをその目的としている。 奥山論文(第6 章)では、こうした産業クラスター政策が地域活性化に対して具体的な成果をもたらしたの かについて、これまで十分な客観的検証が行われてこなかったことを踏まえ、クラスター政策が、実施地域の 起業、具体的には開業率にどのような影響を与えるか定量的に明らかにしている。 この論文では、地域活性化の成果指標として民営事業所の開業率を用いて、クラスター政策(「知的クラス ター創成事業」「都市エリア産学官連携事業」)の実施地域と非実施地域で開業率に差があったかどうかにつ いて、全国の市レベルのデータを用いて検証している。開業率に影響を与える要因には、市ごとの地域特性な ど観測不可能な要素が含まれていることを考慮して、分析手法としてDifference in Difference 法(DID 法) を採用している。分析の結果、新規創業への需要の高さ、資本の蓄積の度合い、および自治体の支援体制が開 業を促進することが明らかになるとともに、クラスター政策の実施によって、開業率が押し上げられるととも に、政策実施からの経過時間が長いほどその効果が大きくなっていることを明らかにしている。 クラスター政策は、行政主導による事業実施主体(中核機関)への補助金交付という実施・運用形態を有し ている。その目的は、コスト削減や生産活動の効率化といったハード面による産業活性化ではなく、産学官の 連携や交流など産業集積におけるソフト面を重視し、人的資源のネットワーク構築と活用への支援によって、 地域におけるイノベーションの環境整備を目指すことであるから、地域の構成員のイニシアティブと地域特性 の活用に基づく、自律的で内発的な地域振興策として、これが新規開業にプラスの影響を与えていることは、 クラスター政策が地域活性化に一定の効果をもたらしていると見ることができるだろう。 ただし、クラスター政策は、その性格上、成果を確認するまでにある程度の時間を要することも考えられる。 したがって、拙速な評価を避け、中長期的な視点で成果を見極め、政策評価をすることが重要である。

1-8

地域科学技術イノベーションとソーシャル・キャピタルの役割

近年、地域の産学官が持つ資源を連携によって活かし、科学技術分野でのイノベーションによって地域経済 の活性化を目指す地域科学技術イノベーション政策が全国的に展開されている。 川島論文(第7 章)では、奥山論文(第 6 章)と同様に、地域科学技術イノベーション政策(地域 STI 政策) の例として「知的クラスター創成事業」および「都市エリア産学官連携促進事業」を取り上げ、聞き取り調査 および定量分析を通じて、それらがもたらした成果を、ソーシャル・キャピタルの観点から再評価することを 目的としており、地域STI 政策にソーシャル・キャピタルがどのような役割を果たすか検討している。 地域STI 政策による地域のネットワークの強さの変化に関する定量分析および事業の実施主体へのヒアリン グから、イノベーションの創出に地域のソーシャル・キャピタルがプラス要因として働くことが明らかにされ た。具体的には、地域の産学官の連携が、それらの相互の信頼関係を通じて進展してゆくということである。 他方、地域STI 政策の実施によって地域のソーシャル・キャピタルが向上したことも示された。すなわち、地 域STI 政策の成功要因となるソーシャル・キャピタルは、逆に地域 STI 政策の実施を通じて増加している。定 性分析から、少なくとも互いの存在を認識し連携の相手として想定することができる程度には地域のネット ワークは強まっている。すなわち、地域STI 政策の推進とソーシャル・キャピタルの涵養には、好循環のルー プが存在しうるということである。 以上の分析は、政策の意義を裏付けるとともに、現状の制度や実施体制が内包する問題点も明らかにしてい

(14)

第1 章 ソーシャル・キャピタルと社会イノベーション 内閣府経済社会総合研究所委託事業 「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」 る。たとえば、文部科学省の知的クラスター創成事業と経済産業省の産業クラスター計画は、連携をとりつつ も、地域STI のフェーズの違いで棲み分けているとされているが、実施主体からは、縦割りの弊害もしばしば 指摘される。また、各事業の中核機関としては、事業化や製品化の数値目標を要求されていることもあって、 数値目標を意識して、性急な起業化など数値目標を意識した無理な事業展開も見られ、それぞれの地域の実情 とフェーズを考慮した計画と評価が必要である。さらに、地域STI 政策の問題点として、研究者と企業の間の 信頼関係に問題があるケースも見られ、中核機関の研究調整機能やマネジメント権限の強化などの制度改革が 必要と考えられる。

1-9

まとめと政策提言

ソーシャル・キャピタルに関する研究は、様々な分野で進展しているが、社会イノベーションとの関係につ いて考察したものは、まだまだ少ない。本WG は、そのような研究の空白を埋めるために設置され、本報告 書に収録されたようないくつかの注目すべき研究成果を生み出した。 本報告書の目的は、信頼や互酬といった人間関係根ざすソーシャル・キャピタルの形成が、社会イノベーショ ンを促し、社会変革や地域活性化に貢献するか、またどのような社会経済的条件の下でそれが成功するか、さ らには、そうしたプロセスを促進するにはどのような政策が必要か、といった点について、データや事例の検 討を通じて明らかにするとともに、政策的インプリケーションを導き出すことにあった。 その目的はひとまず達成されたと考えるが、今後、一層の研究の進展と政策の改善を促すためには、以下の ようなことが必要であろう。 地域振興政策、あるいは社会イノベーションに関わる政策は、長年にわたり複数の省庁や自治体が縦割りで 実施してきており、全体的な評価をするのが難しいといわれてきたが、適切な評価を行うためには、投入され た予算や資源から事業成果にいたるまで詳細な情報を開示し、総合的な評価を行いうる条件を整える必要が ある。 そのうえで、本研究報告書で先駆的に試みたような分析手法や新しいトピックについて、さらに実証的な研 究を深め、有用と判断されれば、今後の政策評価に積極的に取り入れることが望ましい。 特に、ソーシャル・キャピタルの視点から、既存の政策をレビューし、ソーシャル・キャピタルを破壊する 政策を見直し、ソーシャル・キャピタルを結果的に育成する政策を再評価することは有用と考えられる。 以上、むすびに代えて、本報告書の政策提言としたい。 社会イノベーション研究会SCWG 2008 年度報告書 12

(15)

2

章 ソーシャル・ファイナンスにおけるソーシャル・

キャピタルの役割

∼ソーシャル・バンク・

NPO

バンクを中心に∼

佐藤 浩介1 〈要旨〉  近年、起業家的な手法を用いて、新たな福祉サービスや環境配慮につながる「社会イノベーション」を生み出すことを 通じて、数々の社会問題の解消に貢献するソーシャル・ベンチャー(あるいは社会的企業)と呼ばれる組織が数々と誕生 してきており、世間の注目を浴びるようになっている。このようなソーシャル・ベンチャーの活動を資金面から支えてい るのが、「ソーシャル・ファイナンス」と呼ばれる新しい金融の仕組みである。実は、このファイナンスを行う機関におい て、「信頼感」や「ネットワーク」といった特徴に代表されるソーシャル・キャピタルが重要な役割を果たしていると考え られるのである。  本章では、ソーシャル・ファイナンスを行う機関のうち、ソーシャル・バンク、NPOバンクに焦点を当てて、これらに おけるソーシャル・キャピタルの役割を分析する。構成は以下の通りである。はじめに、ソーシャル・ファイナンスの概 要とその特徴について説明する。その後に、先進的に取り組まれているヨーロッパのソーシャル・バンク、そしてこの数 年で取組みが拡大しつつある、わが国のNPOバンクについて考察する。そして最後に、わが国でソーシャル・ファイナ ンスが発展していくために求められる政策的インプリケーションについて触れることとする。

2-1

ソーシャル・バンク、

NPO

バンクの概要

2-1-1

ソーシャル・ファイナンスとは何か

まず、ソーシャル・ファイナンスがどのようなものかに確認しておこう。ソーシャル・ファイナンスとは、 ヨーロッパを中心として発達したファイナンスである。アイルランドのソーシャル・ファイナンスの状況を取 りまとめたTSA Consultancy Ltd(2003)によれば、ソーシャル・ファイナンスは「金銭的収益と同様に、社 会的収益もしくは社会的配当を追及する機関によって提供されるファイナンス活動」と定義されている。その うえで、さらにソーシャル・ファイナンスを行う組織や形態を、

(1) マイクロ・ファイナンス基金(Micro Finance Funds) (2) 共同保証基金(Mutual Guarantee Funds)

(3) ファイナンス協同組合(Credit Unions)

(4) 地域ファイナンス基金(Community Loan Funds)

(5) 地域ベンチャーキャピタル(Community Venture Capital Funds) (6) ソーシャル・バンク(Social Banks)

(16)

第2 章 ソーシャル・ファイナンスにおけるソーシャル・キャピタルの役割 内閣府経済社会総合研究所委託事業 「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」 という6 つに細分化している2 マイクロ・ファイナンス(あるいはマイクロ・クレジットとも呼ばれる)とは、開発途上地域の低所得者層 を対象に、貧困緩和を目的として1980 年代に定着したファイナンス形態のことであり、2006 年にノーベル平 和賞を受賞したムハマド・ユヌスが創設したバングラデシュのグラミン銀行の名称とともに広く世間に認識さ れていよう。他方でソーシャル・バンクとは、その定款に環境配慮や福祉支援等といった社会問題の解消を目 的することを謳い、行政当局より免許を取得して正式に銀行業を行うファイナンス機関の総称である。ソー シャル・ファイナンスを行う形態がこのように多様になったのは、もともとヨーロッパでは行政や企業と異な るサード・セクター(市民社会)が発達しており、様々な分野において相互扶助的な組織が古くから存在して きたという、歴史的な経緯にも深く関係していると考えられる。 わが国でもソーシャル・バンクと似た組織が各地で設立されつつある。個人からの資金を元にして地域社会 や福祉、環境保全のための活動を行う団体や個人等に対してファイナンスを行っているのである。それらの組 織は、ソーシャル・バンクと異なり銀行の免許を持たない点、あるいは、非営利組織である点に着目されて一 般に「NPO バンク」と呼ばれている3 以上のとおりソーシャル・ファイナンスは多様な組織・形態であるため、以下ではヨーロッパにおけるソー シャル・バンク、およびそれとの類似性を探る形でわが国でのNPO バンクに焦点を当てて考察を進めていき たい。

2-1-2

ソーシャル・バンク、NPO バンクの特徴

ソーシャル・バンクとNPO バンク(以下では、総称して「ソーシャル・ファイナンス機関」と呼ぶことと し、「SF 機関」と略する)によるファイナンスは、一般のファイナンス機関とそれと大きく異なる。 SF 機関が一般のファイナンス機関とどのように異なるのか、一般のファイナンス機関のスキーム(図 2-1) とSF 機関のスキーム(図 2-2)の略図と共に、「資金提供者(預金者)とファイナンス機関/SF 機関の関係」、 「ファイナンス機関/SF 機関とファイナンス先との関係」、そして、「ファイナンス機関/SF 機関自身」の 3 つに 分けて整理しよう。結論を先取りすれば、SF 機関のスキームおいては、3 つの関係全てでソーシャル・キャピ タルが活用されているのである。 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 ⾗㊄䋨䍪䍅䍐䍣䍻䍛㪀 ⾗㊄䋨㗍㊄䋩 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 ⾗ ㊄ ឭ ଏ 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 వ ⾗㊄䋨䍪䍅䍐䍣䍻䍛㪀 ⾗㊄䋨㗍㊄䋩 ㊄೑ ೑ᕷ㩿⚻ᷣ ⊛෼⋉㪀 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 ᯏ 㑐 ⾗ ㊄ ឭ ଏ ⠪ ᖱႎ 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 వ ⾗㊄䋨䍪䍅䍐䍣䍻䍛㪀 ⾗㊄䋨㗍㊄䋩 ㊄೑ ೑ᕷ㩿⚻ᷣ ⊛෼⋉㪀 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 ᯏ 㑐 ⾗ ㊄ ឭ ଏ ⠪ 䉸 丶 䉲 䊞 䊦 䊔 ⾗㊄䋨䍪䍅䍐䍣䍻䍛㪀 ⾗㊄ 䋨㗍㊄䊶಴⾗㊄䋩 ⾗ ㊄ ឭ ଏ ೑ᕷ ᖱႎ 䌓 䌆 ᯏ 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 వ ⾗㊄䋨䍪䍅䍐䍣䍻䍛㪀 ⾗㊄䋨㗍㊄䋩 ㊄೑ ೑ᕷ㩿⚻ᷣ ⊛෼⋉㪀 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 ᯏ 㑐 ⾗ ㊄ ឭ ଏ ⠪ 䉸 丶 䉲 䊞 䊦 䊔 䊮 䉼 䊞 丶 ╬ ⾗㊄䋨䍪䍅䍐䍣䍻䍛㪀 ⾗㊄ 䋨㗍㊄䊶಴⾗㊄䋩 ㊄೑ ⾗ ㊄ ឭ ଏ ⠪ ೑ᕷ ␠ળ⊛෼⋉ 䉸 䉲䊞䊦 䉨䊞䊏䉺䊦 ᖱႎ ᖱႎ ᖱႎ䊶ା㗬 䌓 䌆 ᯏ 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 వ ⾗㊄䋨䍪䍅䍐䍣䍻䍛㪀 ⾗㊄䋨㗍㊄䋩 ㊄೑ ೑ᕷ㩿⚻ᷣ ⊛෼⋉㪀 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 ᯏ 㑐 ⾗ ㊄ ឭ ଏ ⠪ 䉸 丶 䉲 䊞 䊦 䊔 䊮 䉼 䊞 丶 ╬ ⾗㊄䋨䍪䍅䍐䍣䍻䍛㪀 ⾗㊄ 䋨㗍㊄䊶಴⾗㊄䋩 ㊄೑ ⾗ ㊄ ឭ ଏ ⠪ ೑ᕷ ␠ળ⊛෼⋉ 䉸䊷䉲䊞䊦䊶䉨䊞䊏䉺䊦 ᖱႎ ᖱႎ ᖱႎ䊶ା㗬 䌓 䌆 ᯏ 出所:筆者作成 図2-1: 一般のファイナンス機関のスキーム 2他方で、米国においても1970 年代からヨーロッパと同様にソーシャル・ファイナンスが積極的に進められ、それらのファイナンス

機関は「コミュニティ開発金融機関」(Community Development Financial Institution: CDFI)と呼ばれている。CDFI はさらに、商業 銀行等の営利企業による「コミュニティ開発銀行」、組合員である個人等から預金を集めて個人事業者等にファイナンスする「コミュニ ティ開発クレジットユニオン」、機関投資家等から資金を集めてNPO 等にファイナンスする「コミュニティ開発ローンファンド」、ある いは、機関投資家から資金を調達して社会問題の解消のための事業を行う企業に投資する「コミュニティ開発ベンチャーキャピタルファ ンド」の4つの機関・形態に細分される。このうち、「コミュニティ開発ローンファンド」は、わが国のNPO バンクに近いと考えられる (藤井(2007))。 3ただしNPO バンクが民法上の組合である場合には組合員が無限責任を負うリスクが発生する。そのため、ファイナンス業務を行う 組織が別に設立され、NPO バンクが集めた人々からの出資金をその組織に一度ファイナンスし、無限責任を負うリスクを回避する手法 が実務上採用されている場合がある(図2-6 参照)。 社会イノベーション研究会SCWG 2008 年度報告書 14

(17)

第2 章 ソーシャル・ファイナンスにおけるソーシャル・キャピタルの役割 内閣府経済社会総合研究所委託事業 「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 ⾗ ㊄ ឭ ଏ 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 వ ㊄೑ ೑ᕷ㩿⚻ᷣ ⊛෼⋉㪀 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 ᯏ 㑐 ⾗ ㊄ ឭ ଏ ⠪ ᖱႎ 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 వ ㊄೑ ೑ᕷ㩿⚻ᷣ ⊛෼⋉㪀 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 ᯏ 㑐 ⾗ ㊄ ឭ ଏ ⠪ 䉸 丶 䉲 䊞 䊦 䊔 ⾗㊄䋨䍪䍅䍐䍣䍻䍛㪀 ⾗㊄ 䋨㗍㊄䊶಴⾗㊄䋩 ⾗ ㊄ ឭ ଏ ೑ᕷ ᖱႎ 䌓 䌆 ᯏ 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 వ ㊄೑ ೑ᕷ㩿⚻ᷣ ⊛෼⋉㪀 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 ᯏ 㑐 ⾗ ㊄ ឭ ଏ ⠪ 䉸 丶 䉲 䊞 䊦 䊔 䊮 䉼 䊞 丶 ╬ ⾗㊄䋨䍪䍅䍐䍣䍻䍛㪀 ⾗㊄ 䋨㗍㊄䊶಴⾗㊄䋩 ㊄೑ ⾗ ㊄ ឭ ଏ ⠪ ೑ᕷ ␠ળ⊛෼⋉ 䉸 䉲䊞䊦 䉨䊞䊏䉺䊦 ᖱႎ ᖱႎ ᖱႎ䊶ା㗬 䌓 䌆 ᯏ 㑐 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 వ ㊄೑ ೑ᕷ㩿⚻ᷣ ⊛෼⋉㪀 䊐 䉜 䉟 䊅 䊮 䉴 ᯏ 㑐 ⾗ ㊄ ឭ ଏ ⠪ 䉸 丶 䉲 䊞 䊦 䊔 䊮 䉼 䊞 丶 ╬ ⾗㊄䋨䍪䍅䍐䍣䍻䍛㪀 ⾗㊄ 䋨㗍㊄䊶಴⾗㊄䋩 ㊄೑ ⾗ ㊄ ឭ ଏ ⠪ ೑ᕷ ␠ળ⊛෼⋉ 䉸䊷䉲䊞䊦䊶䉨䊞䊏䉺䊦 ᖱႎ ᖱႎ ᖱႎ䊶ା㗬 䌓 䌆 ᯏ 㑐 出所:筆者作成 図2-2: SF 機関のスキーム 最初に、「ファインナンス機関/SF 機関と資金提供者の関係」においてである。一般のファイナンス機関の資 金提供者は、資金を提供する際に金利の高低や利息の多寡といった金銭的収益しか関心を持たない。言い換え れば、「経済的収益」のみがファイナンス機関の優劣、どの金融機関に資金を提供するかを判断するためのシ グナルにしかならないのである。そのため、一般のファイナンス機関にとっては、収益性を追求していないた めに、高い金利を取ることが難しいソーシャル・ベンチャーは、ファイナンスの対象にはなりにくいのである。 一方、SF 機関の場合には、その資金提供者は、資金が社会や環境を良い方向に変革させる事業に使われるこ とを願っている。言い換えれば、資金提供者は経済的収益だけでなく社会的収益に関心を持っていて、自分達 に代わってそのような事業にファイナンスをすることを「信頼」してSF 機関に資金を提供しているのである。 このような資金提供者との間に存在するソーシャル・キャピタルにより、SF 機関はソーシャル・ベンチャー にファイナンスが可能になっている。 このため、SF 機関は資金提供者とのソーシャル・キャピタルを構築・維持することを重視している。その表 れとして、SF 機関は一般のファイナンス機関には見られない、資金提供者に対する積極的な情報の開示・還元 を行っている。情報の開示とはSF 機関の「行動原則」の開示である。この行動原則には、どのような先、ど のような事業に対してファイナンスを行うかというファイナンス基準に加え、あるいは基準に抵触することが あればファイナンスを見合わせたり、資金を回収したりすることが明確に謳われているので、資金提供者は安 心してSF 機関に資金を提供できることを促す。また、情報の還元とは、実際にどのような団体、あるいはど のような使途に資金が使われているかについての定例的な情報のフィードバックである(図2-3 参照)。この ような情報の開示・還元は、SF 機関の経営の透明性を高めるだけでなく、資金提供者にとって SF 機関がより 身近な存在になること、言い換えればSF 機関との心理的な距離がより接近することに大いに役立つと考えら れる。 次に、「ファインナンス機関/SF 機関とファイナンス先との関係」においてである。一般のファイナンス機 関の場合、財務情報などのファイナンス先からの情報をもとにファイナンスの可否を判断する。しかし、ソー シャル・ベンチャーの場合、手がける事業は新規かつ斬新なものために、情報が乏しい。そのため、ソーシャ ル・ベンチャーは事業が成功する可能性(フィージビリティ)が判ったとしても、専門的な知識や経験が少な い外部からは分からないという「情報の非対称性」が成立する可能性が高い。この情報の非対称性と財務基盤 の脆弱性が相俟って、一般のファイナンス機関はソーシャル・ベンチャーのファイナンスに消極的になってし まう。 一方、SF 機関の場合には、ソーシャル・キャピタルを活用してこの「情報の非対称性」を解消することがで きる。なぜならば、SF 機関は自身のネットワークを通じて、ファイナンス対象となるソーシャル・ベンチャー と接点、あるいは、手がける事業に詳しい情報源を持つからである。その接点や情報源を活用して、一般には 入手しづらいインフォーマルな情報を収集し、ファイナンス先の事業の成功可能性を判断することが可能にな ると考えられる。 また、審査以外にもSF 機関はソーシャル・キャピタルを活用している。その一つがファイナンス後の状況

(18)

第2 章 ソーシャル・ファイナンスにおけるソーシャル・キャピタルの役割 内閣府経済社会総合研究所委託事業 「イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究」 㧔಴ᚲ㧕 ࡎ࡯ࡓࡍ࡯ࠫ ᰴߦޔޟࡈࠔࠗࡦ࠽ࡦࠬᯏ㑐 ᯏ㑐ߣࡈࠔࠗ࠽ࡦࠬవߣߩ㑐ଥޠߦ߅޿ߡߢ޽ࠆޕ৻⥸ ߩࡈࠔࠗ࠽ࡦࠬᯏ㑐ߩ႐วޔ⽷ോᖱႎߥߤߩࡈࠔࠗ࠽ࡦࠬవ߆ࠄߩᖱႎࠍ߽ߣߦࡈࠔࠗ࠽ ࡦࠬߩนุࠍ್ᢿߔࠆޕߒ߆ߒޔ࠰࡯ࠪࡖ࡞࡮ࡌࡦ࠴ࡖ࡯ߩ႐วޔᚻ߇ߌࠆ੐ᬺߪᣂⷙ߆ ߟᢾᣂߥ߽ߩߚ߼ߦޔᖱႎ߇ਲߒ޿ޕߘߩߚ߼ޔ࠰࡯ࠪࡖ࡞࡮ࡌࡦ࠴ࡖ࡯ߪ੐ᬺ߇ᚑഞߔ ࠆน⢻ᕈ㧔ࡈࠖ࡯ࠫࡆ࡝࠹ࠖ㧕߇್ߞߚߣߒߡ߽ޔኾ㐷⊛ߥ⍮⼂߿⚻㛎߇ዋߥ޿ᄖㇱ߆ࠄ ߪಽ߆ࠄߥ޿ߣ޿߁ޟᖱႎߩ㕖ኻ⒓ᕈޠ߇ᚑ┙ߔࠆน⢻ᕈ߇㜞޿ޕߎߩᖱႎߩ㕖ኻ⒓ᕈߣ ⽷ോၮ⋚ߩ⣀ᒙᕈ߇⋧଼ߞߡޔ৻⥸ߩࡈࠔࠗ࠽ࡦࠬᯏ㑐ߪ࠰࡯ࠪࡖ࡞࡮ࡌࡦ࠴ࡖ࡯ߩࡈࠔ ࠗ࠽ࡦࠬߦᶖᭂ⊛ߦߥߞߡߒ߹߁ޕ ৻ᣇޔ ᯏ㑐ߩ႐วߦߪޔ࠰࡯ࠪࡖ࡞࡮ࠠࡖࡇ࠲࡞ࠍᵴ↪ߒߡߎߩޟᖱႎߩ㕖ኻ⒓ᕈޠ ࠍ⸃ᶖߔࠆߎߣ߇ߢ߈ࠆޕߥߗߥࠄ߫ޔ ᯏ㑐ߪ⥄りߩࡀ࠶࠻ࡢ࡯ࠢࠍㅢߓߡޔࡈࠔࠗ࠽ ࡦࠬኻ⽎ߣߥࠆ࠰࡯ࠪࡖ࡞࡮ࡌࡦ࠴ࡖ࡯ߣធὐޔ޽ࠆ޿ߪޔᚻ߇ߌࠆ੐ᬺߦ⹦ߒ޿ᖱႎḮ ࠍᜬߟ߆ࠄߢ޽ࠆޕߘߩធὐ߿ᖱႎḮࠍᵴ↪ߒߡޔ৻⥸ߦߪ౉ᚻߒߠࠄ޿ࠗࡦࡈࠜ࡯ࡑ࡞ ߥᖱႎࠍ෼㓸ߒޔࡈࠔࠗ࠽ࡦࠬవߩ੐ᬺߩᚑഞน⢻ᕈࠍ್ᢿߔࠆߎߣ߇น⢻ߦߥࠆߣ⠨߃ ࠄࠇࠆޕ ߹ߚޔክᩏએᄖߦ߽ ᯏ㑐ߪ࠰࡯ࠪࡖ࡞࡮ࠠࡖࡇ࠲࡞ࠍᵴ↪ߒߡ޿ࠆޕߘߩ৻ߟ߇ࡈࠔ 出所:http://www.apbank.jp/lending/index.html 図2-3: 資金提供者に対するファイナンス先の情報提供(ap bank の例) 管理であるモニタリングである。ファイナンスの場合、資金が確実に回収できるかも重要となるため多大なコ ストが割かれている。一方、SF 機関の場合には、自身がもつネットワークを活用しながら、あまり労力をか けずに効率よくファイナンス先の状況確認や情報収集している。 さらには、ファイナンス先の発掘である営業でも活用している。商品差別化が働きにくいファイナンスでは 競争が激しく個別に訪問するなどの営業スタイルが一般的に採られている。一方、SF 機関の場合には、ネッ トワーク内での認知度が高いので、新たに自らが積極的に新たなファイナンス先を探さなくても、ファイナン スを申込む団体が現れるようになる。これは結果的にSF 機関にとっては時間と経費両面からコストを抑制す るのに貢献すると考えられる。 最後に「ファイナンス機関/SF 機関自身」について見てみたい。SF 機関というのは、ソーシャル・キャピタ ルを通じて創設されるのである。まず現行の社会の制度やあり方等に疑問を感じ「社会を良い方向に変革した い」といった、同じ価値観や同じ想いを持つ人々が集まることを通じてSF 機関が創設される。また、ファイ ナンスするの可否を行う審査などの専門的な業務に携わる人材は、SF 機関の創設に当たって中心的な人物の 個人的な人的ネットワークを通じて集められることが一般的である。

2-2

ヨーロッパにおけるソーシャル・バンクの取組み

それでは実際にSF 機関の活動として、ヨーロッパにおけるソーシャル・バンクの取組みについて見てみよ う。ヨーロッパでは、わが国とは異なり、多くのソーシャルバンクが存在し、かつ、相応の規模に拡大しつつ ある。この背景として重頭(2004)が指摘するように、 • ヨーロッパ各国では福祉システムが危機に直面する一方で、サービスの質が重視されるようになったた め、ビジネス的手法を用いながら社会や環境の幅広い問題に取り組む社会的企業が関心を集めるように なったこと • 一般のファイナンス機関が不採算とみられる分野から撤退してきた中で、逆に、社会、環境、倫理側面 に配慮した社会的責任投資の活動に対して人々の関心が高まっていたこと 等の要因が存在することが考えられる。 以下では、ヨーロッパの代表的なソーシャル・バンクとして、オランダのトリオドス銀行、イタリアのエチ カ庶民銀行、ドイツのGLS 銀行の 3 行を取り上げよう。 社会イノベーション研究会SCWG 2008 年度報告書 16

参照

関連したドキュメント

・場 所 区(町内)の会館等 ・参加者数 230人. ・内 容 地域見守り・支え合い活動の推進についての講話、地域見守り・支え

波部忠重 監修 学研生物図鑑 貝Ⅱ(1981) 株式会社 学習研究社 内海富士夫 監修 学研生物図鑑 水生動物(1981) 株式会社 学習研究社. 岡田要 他

また、当会の理事である近畿大学の山口健太郎先生より「新型コロナウイルスに対する感染防止 対策に関する実態調査」 を全国のホームホスピスへ 6 月に実施、 正会員

・ホームホスピス事業を始めて 4 年。ずっとおぼろげに理解していた部分がある程度理解でき

会社名 住所 TEL FAX 主要事業内容 情報出所 Niigata Power

社会学文献講読・文献研究(英) A・B 社会心理学文献講義/研究(英) A・B 文化人類学・民俗学文献講義/研究(英)

社会学研究科は、社会学および社会心理学の先端的研究を推進するとともに、博士課

同総会は,作業部会はニューヨークにおける経済社会理事会の第一通常会期