教育講演 (東女医大誌第
5
5
巻 第2
号
)
頁1
7
1
-
1
8
0
昭和6
0
年2
月(1)免疫学の進歩
ヨシ オカ 教 授 吉 岡 東京女子医科大学微生物学教室叶 正
引 守
(受付昭和5
9
年1
0
月1
3
日〉 Progress in Immunology Morimasa YOSHIOKA,
M.D. Department of Microbiology (Director: Prof. Morimasa YOSHIOKA) Tokyo Women's Medical CollegeImmunity
,
the term being originated from “the escape from the contagious diseases",
is now un -derstood as the specific immune response against the antigen conducted in the body,
inc1uding the im -munological phenomena which are harmful to the host or host tissues. Such immunological events as the defense mechanism due to vaccination, and also as unbeneficial incidents due to allergy or autoimmune disease, are remained to be elucidated in refined respects, a1thoug a number of hypotheses are sub -stituted the defects at the present time.As a matter of fact, however, knowledges on the function of lymphocytes and lymphoid tissues are rapidly being piled up, resu1ting appropriate treatments are able to be applied to the patients of many immune diseases. In this lecture, modern interpreatations on a few topics of immunology, e.g., im -munological tolerance, autoimmunity, transplantation immunity, have been presented.
緒 言 腸管内の正常徴生物叢(フローラ〉を構成する 微生物聞には,常時措抗作用が働いて,特定の徴 生物が異常に優勢になることを防いでいる.その 機序を試験管内で探究することによって抗生物質 が発見された.フローラの均衡ポテンシャルは外 来微生物の侵襲に対しても機能して,生体防御の ための障壁となる. かかる異物に対する生体の正常の防御機構と時 を同じくして,または引き続いて起こるのが免疫 現象である.免疫とは,その名の示す如く,外来 者に対する生体の特異防御現象と考えられた.パ ストウールが免疫を学問の体系にするべく先鞭を つけて以来,百年を経過した現時点での「免疫」 現象の理解は,抗原に対して生体が起こす特異の 免疫応答という,生物学的な反応を包括するもの であって,その反応が生体にとって益となるか, または害となるかは副次的な影響とみなされる. 身体の持ち主である生体の体内で,宿主の意志 とは無関係に作動している免疫機構について,学 問の内容は著しい進歩を遂げているものの,不明 の事象が余りにも多い. 本講演では,種々の免疫事象のうち
2
,3
の問題 を選んで解説を加えることとする. 1.免疫応答に深〈関わる臓器と細胞 1) 免疫中枢器官 イタリ一人Fabriciusの発見した鳥類の尾の近 くに存在するリンパ性器官であるファブリシウス 嚢 (F嚢〉の機能は, Glick and Chang(
1
9
5
6
)
によって液性免疫の中枢器管であることが明らか にされた.またM
i11er(
1
9
6
1)はマウスの細胞性 免疫の中枢器官は胸腺であることを証明した(図 1). ヒトの胸腺は10-15
歳で最も発達し,その後次 第に退行変性し,2
0
歳台で機能は大きく低下する (図2
)
. F
嚢もトリが成熟する頃には胸腺の場合-171-と同様に変性し,機能は果してしまったかに見え る. ヒナ僻化後そのF嚢または胸腺を摘除し,全身 性に放射線を照射(リンパ球分裂を抑制〉すると, それぞれ液性免疫,細胞性免疫が著明に低下する (表1). リンパ球だけでなく,赤血球,白血球,それに 単球の源は,胎生期においては,卵黄嚢ついで肝 とされ,総称して幹細胞
s
t
e
mc
e
l
l
と呼ぶ.幹細胞 は牌を通って骨髄に移動して分裂分化する.幹細 胞の供給源はやがて骨髄となる.好中球とともに 重要な食細胞である単球は血液あるいはリンパ中 で循環するもの以外に,種々の組織に分布して, 遊走マクロファージ,固定マクロファージ,組織 球などになる(図3). ~--BF(7 ァプリンウス嚢) ‘ 尾 部 同一一横切開 , 総 排 池 腔 図l 胸 腺 お よ び フ ァ ブ リ シ ウ ス 嚢 の 解 剖 学 的 位 置 お よ び 切 開 部 位 〔 山 口 , 昭57) 造血組織 牌 骨髄 赤 血 球 ふ一
母
⑧
⑤
咽 頭 嚢 幹細胞 リンパ球 30 A u n , “ 重 量ω
10 4 6 8100 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 胎 令 (月) 図2 胸 腺 の 重 量 と 構 成 成 分 の 年 齢 に よ る 推 移 ( 菊 地 , 昭56) 年 令 表1 免 疫 不 全 症 の モ デ ノ レ ー 胸 腺 摘 除 とF嚢 摘 除 の 影 響 放射線照射ニワトリ Fabri- 細免胞疫性 相免疫当するヒト 胸 腺 cius嚢 液 性 抗 体 不 全 症 有 摘 除+
Bruton型 無y・ グロプリン血症 摘 除 有 十 DiGeorge症 候 群 (菊地,昭56) リンパ組織 流血中のリンパ球 および末梢のリンパ組織 1旬腺 細胞性免疫 ブァブリシウス嚢 抗 体2) B細胞と T細胞 リンパ系幹細胞はその大部分がつぎの支流の何 れかに乗って分化する.その一つは胸腺内での上 皮性の細胞から分泌されるホルモン様物質によっ て,
T
細胞C
t
h
y
mus
のT
)
と呼ぶリンパ球に分化 する.他方 F嚢(晴乳類にはF嚢はなく,肩桃, バイエル板,虫垂,骨髄などがF
嚢の機能を分担 するとされる)に流入したリンパ球もおそらく何 らかの誘導物質の刺激を受けて,形質細胞の前駆 細胞となる.これをB
細胞C
b
u
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s
a
のB
,またはb
o
n
e
m
a
r
r
ow
のB
)
と呼ぶ. T
細胞B
細胞 (図 4)とも末梢リンパ組織に分布される.免疫中枢 が機能を減ずる以前に体内に十分な両細胞のス トックができると考えられている. B細胞の表面は一般にT細胞に比べると繊毛が 多いといわれるが(図4),この性状だけで区別で きない.両種細胞の表面には特有の色々の抗原a
n
t
i
g
e
n
C
A
g
)
があるので,それらの抗血清を用い れば,両者を区別できるばかりでなく,更に細か い分類も可能である.またT
細胞にはヒツジ赤血 球C
SRBC
)
に対するレセプターがあるので,両者 を合わせると細胞周囲にSRBC
を結合して花輪 状に見えるC
E
-r
o
s
e
t
t
e
)
.
一方B
細胞にはC
3
レセ プターがあるので,SRBC
,同抗体a
n
t
i
b
o
d
y
C
Ab
)
及び補体が存在すると,これまた血球が花輪状に 図4 ""?ウスのリンパ節リンパ球の走査電顕像:T細 胞は繊毛が少なく比較的平滑, B細胞は繊毛に富ん でいる.(東海大病理,玉置憲一博士)(山口,昭57) 配列する(EAC
・r
o
s
e
t
t
e
;
E
は赤血球,A
はA
b
,C
は補体の略).A
b
産生細胞と骨髄腫細胞を試験管内で融合さ せ,目的とする単一のA
b
のみを産生する細胞C
h
y
b
r
i
d
o
m
a
)
を選び出し,その細胞培養からえら れるA
b
, いわゆる単ク ローンAb
,mon
o
c
l
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n
a
l
Ab
は,広く生物学研究に正確な情報を斉す優れ た武器となった 3) B細胞の分化B
細胞は始め細胞表面にimmun
o
g
l
o
b
u
l
i
n M
(IgM
)
をもち,対応する特異A
g
の刺激を受ける リ ン パ 節・パイニ・レ破・'J何'ji; 第1;k免疫応答 図5 B細胞の分化増殖と細胞表面免疫グロプリン(菊地,昭56) -173と
IgM-Ab
を産生するが,やがて遺伝子に予め組 み込まれているI
g
D
,I
g
G
……へと順次スイッチ されて,表在I
g
が置き変わる.再び同じAg
の刺 激があると, T細胞の協力作用を受けて,すでに 分化し保有されているAg
特異B細胞(記憶B細 胞memoryB
c
e
ll)が直ちに分裂してI
g
を分泌す る(図5
入本機序は確立されたものでなく,他に も幾つかの仮説がある. 正常新生児のI
g
産生能は極めて低く,胎生後期 に始まった弱し、IgM
産生と,胎盤を通して移行し た母体由来のI
g
G
だけがみられる.従って新生児 の抗体産生能も非常に弱い. 4)抗体産生に関する説E
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c
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(19
0
0
)
のAb
産 生 に つ い て の 側 鎖 説S
e
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e
n
k
e
t
t
e
n
t
h
e
o
r
i
e
は,古典的なものであるが, 現在の有力な学説はこの側鎖説の流れを汲んでい る.それはAg
は,すでに体内に存在しているAg
特異のAb
を産生すベく準備されている免疫担当 細胞を選択・刺激し,刺激を受けたAg
特異リンパ 球は分裂分化してAb
産生に至るという,選択説 である.B
u
r
n
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t
(
1
9
5
9
)
のクローン選択説は,上記の抗 原による選択がリンパ球クローン(分枝系〉レベ ルで、行われるとの考えである(図6).この説はー 抗 原 非 依 存 性 に) 幹細胞 /~\\。。
/ ¥
(
Q
)
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Q
)
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Q
)
(
Q
)
村 山 的 内
φ
抗原・---¥ 抗 原 依 存 性 図6 岨@) /~\@
)
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ゐ
e
j
冶
/ ¥ / ¥ (
@ ⑬ ⑬ @
抗 体4 田 クローン選択説(大谷,斉藤,吉岡,昭58) 時期学会を風醸したが,生体が,無数に存在しう るAg
の一つ一つに対応したリンパ球クローンを 準備しておくことは不可能であり,せいぜい1
0
4 -105のクローン止まりであるとの反論が出た.L
e
d
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b
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g
ら(19
6
9
)
は選択を遺伝子レベルにお いた遺伝子選択説を提唱し 1細胞が複数のAg
に対応しうるとした.何れにしても証明はされて おらず,仮説に留まる.5
)
T
細胞の分化 異種系統マウス聞で,あるいは一卵性双生児以 外のヒト間で,皮膚の移植を行うと,数日後に拒 絶反応が起こって移植片は脱落する.再び移植す るとこんどは速やかに脱落する.一度拒絶反応を 起こした個体 (A) のリンパ球をとり出して,同 系の正常個体(A')に移入し,先に用いた他種の 皮膚 (B) を移植すると,初めての皮膚移植にも 拘らず速やかに拒絶反応を起こす.この受身の移 植反応はA
の血清をA'vこ移入したのでは起こら ない.すなわち移植免疫は細胞性免疫が主体であ り,細胞性免疫応答もAb
産生の場合と同じく一 次及び二次免疫応答のあることがわかるー 細胞性免疫にはT
細胞だけが関与し,Ag
の刺 激によってT
細胞は分化して,ヘルパーT
,サプ レッサーT
,細胞傷害〔キラー)T
,感作T
など となり作業を分担する.一部は記憶T
細胞として 残留してAg
による二次刺激に直ちに反応して増 殖する.感作T細胞は再びAg
刺激を受けると他 のリンパ球,組織細胞,マクロファージ (MP)に 作用する種々の物質を産生放出する.これらを総 称してリンホカインL
y
m
p
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k
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s
と言い,イン ターフエロンもその一種である(図7). 6)細胞性免疫が主役をなす生体現象 免疫反応による細胞(移植組織,腫蕩細胞,正 常組織,徴生物などを含む〉傷害作用はキラーT
細胞だけでなく, リンホカイン, リンホカインに よって活性化されたマクロファージのほか,B
細 胞, T細胞でもB細胞でもないリンパ球であると ころのK
およびNK
(
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a
l
k
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l
l
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)
細胞によっ ても起こる. 細胞性免疫は遅延型アレルギー,ウイルス・真 菌・一部の細菌・寄生虫感染症防御反応に重i要なB cell
im-RNA: immune RNA hel. T : helper T cell suppr. T: suppressor T cell 感作リンパ球 │細 !胞 i性 細胞傷害リンパ球
1
:
(kller T cell) J 形質細胞 体 液 LAF: M Pの 1ymphocyte activating factor 図7 細胞レベノレの免疫応答過程(山口,昭57) 役割を果たす(表2). 7)免疫応答の調節 直接B細胞に働いて Ab産生を促すAg(胸腺非 依存Ag)を除く多くのAg(胸腺依存Ag)は,MP
とT細胞の協力をえてAbを産生する.Ag特異ヘ ルパーT細胞はAg特 異B細胞を活性化し,Ag特 異サプレッサ- T細胞はAg特 異B細胞の活性化 を抑制する.またこれらT細胞は非特異B細胞に, 増強または抑制的に働く物質を分泌する.これら
T.B
細胞聞の作用の普段の均衡が破れてAb産 生が起こると考えられる. またリンパ球は胎生期以来,他の体細胞より蓬 かに速やかに分裂増殖し,成人には常時1
0
12偲位 存在している.尼大なリンパ球のストックのある ことは,常時多数の遺伝子レベルの変異が行なわ れ,従ってリンパ球表在の Ag,これら Ag~こ対す るレセプター (Abなど〉が極めて多種類存在して いると考えられる. このことはリンパ球同志が調 和を保って,特定のクローンだけが異常に優勢に 表2 細 胞 性 免 疫 の 生 体 内 表 現 1 遅延型アレルギ一反応(過敏症〉 a)感染アレノレギー(ツベルタリン型皮内反応〕 b) ]ones-Mote型反応 c)接触過敏症 d)自己免疫病の一部 e)実験的アレノレギー性脳脊髄炎および甲状腺炎など 2.同種移植免疫 a)同種グラフト拒絶反応 b)グラフト対宿主反応CGVH.R) 3. 免疫監視および腫蕩免疫 4.細胞性防御免疫 a)細胞性寄生菌感染防御 b)ウイノレスに対する感染防御 (山口,昭57) ならないように,自律的調節が働くことを可能に していると推察される.これをリンパ球のネット ワーク network説 :T-T細 胞 相 互 作 用 な ど と 呼 んでいる(図8
)
.
Agはこのようなリンパ球の調 和を破る刺激を与えるものと理解される.175-内 部 イ メ ー ジ セy卜
す
C
CY
非 特 異 的 反 応 セyト 図8 T細胞ネットワークの基本型〔多田,昭58) 2.自己抗原に対しては通常なぜ免疫応答を起 こさないか. 特定のAgに対する特異的免疫応答が欠除また は 著 る し く 抑 制 さ れ る こ と を 免 疫 寛 容i
m
-munological toleranceとL、い,免疫能低下や薬剤 による非特異免疫抑制を合わせて免疫不応答とい う.正常個体は通常自己Agに対して終生免疫寛f-
♂)
抑制 r1: T 剥1I 11~ 図9 T細胞の免疫寛容の機構(大谷,斉藤,吉岡, 昭58) 容となるばかりでなく,免疫能の未熟な胎生期に 導入された非自己Agに対しても寛容となる.寛 容を導入する Agを寛容原という.寛容は免疫能 の完全な個体にも後天的に,特定のAgを反復し て投与することによってもえられるが,この場合 は,寛容はやがて消失して正常の免疫応答に戻る. 寛容を細胞レベルで解析するとT
細胞はB
細胞に 比べてより早く,より長く寛容となり9 ときにはT
細胞の寛容だけに留る(図9
)
.
寛容が成立する機序については種々の説がある が,該当するリンパ球クローンが排除される;サ+
+
川 品 川
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抗 体 r)j[.'t. 細胞の 可;i,
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研 究-(判・
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‘1 クローンが排除きれる 図10 B細胞の免疫寛容の機構(大谷,斉藤,吉田,昭58)プレッサーT細胞が強く働く :B細 胞 の 機 能 が Ag によって封鎖される;などが有力である(図 10).
3
.
人によっては自己抗原に対して免疫応答を 起こす. 元来自己Agに応答しないとされているもの が,何等かの破綻を来し,免疫応答することによっ て発病するものを自己免疫病autoimmune dis -easeという.腰原病の多く,自己免疫性溶血性貧 血,眼のブドウ膜炎などが挙げられる. 自己Agに対して自己 Abを生ずる場合と,細 胞性免疫応答を起こす場合があるが,かかる免疫 応答が発病の機序であるのか,附随現象であるか は明らかでないものが少くない.自己Abを認め ても発病しない例も珍しくない.抗核Abやリウ マチ因子は自己Abであるが,必ずしもSLE
や慢 性関節リウマチだけに現われるものでなく,他の 疾病でも出現する. 自己Agに対する寛容の消失には色々の機序が あるが, T細胞とくにサプレッサーT細胞の活性 の低下が重視されている. 4. 人はなぜ自己赤血球にはない赤血球抗原に 対する抗体を持つことがあるのか. 輸血は一種の移植である. ヒトは血液中に自己 にないABO式血液型の血球に対する Abを持っ ている(表3).その由来は血球物質と同じ Agを 有する食物などによって刺激されて生じたもので はなし、かと言われる. 0型血液中にはA及びB型 血球AbがあるのでO
型以外のヒ卜に輸血すれば AgoAb反応が起こる筈である.実際にはその副作 用は軽いので無視される.5
.
臓器や組織移植に対する免疫応答 1) HLA抗原 血液型物質,白血球,血小板,臓器,組織には 表3 ABO式血液型 遺伝子型 表 現 型 赤血球抗原 凝 集 素 AO,AA A A anti B BO,。
。
BB B B anti A O H anti A, anti B AB AB AB 他人とは抗原的に異なる多数のAg物質がある. これらを組織適合Agというが,そのなかでも臓 器移植の際, とくに重要な役割を演ずるものを主 要組織適合Agと呼び, ヒトでは第6番染色体の なかに組み込まれた主要組織適合遺伝子複合体 major histocompatibility (MHC) gene complex の支配を受けて作られる諸Agがこれに当たる. ここにはA,C, B, D, DRの遺伝子座が知られ, それぞれから作られる Agはリンパ球に表現され HLA Ag, human leukocyte A antigenと呼ばれ る.HLAAgは数十種が知られ,血清学的または a. !l't{f.のtHJ.:が 移fti(ffへμ人 b biii4EIITf11zri ℃剥HJ血'行l付 に は い る一 守
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斗鎧違卒去謹主詮三
jン ぐJ;<I 一 一一 一一一一一一一
一一一一
図llc Acute late rejection(菊地,昭56) リ ン パ 球 混 合 法 に よ る 細 胞 傷 害 反 応(MLC)
に よって決定される.各座は対立遺伝子から成るの で1
人について5
対00
個〉のHLAAg
がある. 1組をハプロタイプ haplotypeといい 1人に 2 組のハプロタイプが存在することになり,メンデ ルの法則に従って遺伝する.臓器移植ではdonor (供与者〉と recipient(受容者〉聞にHLAAg
の ハプロタイプが近似している程生着する可能性が 図12胎盤の栄養匪葉 (Beer&
Billingham, 1974)大であるとされている. またMHC遺伝子複合体には免疫応答の強さ を支配する
I
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遺 伝 子immuner
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も 存在する. 2) 移植免疫と拒絶反応 マウスに組織を移植する前に,予めd
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と同 系の胎児のリンパ球で寛容にしておくと,たとえd
o
n
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が異種であっても成熟ドナーからの移植片 は拒絶されずに生着する.移入するリンパ球を成 熟 ド ナ ー か ら 採 取 し た と き は , 被 移 植 個 体(
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)
のAg
に対して移植されたリンパ球が 免疫応答を起こして,r
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の発育を障害する ことがある. 組織の移植に際して起こる拒絶反応の機序には 色々ある.移植片Ab
が生成されれば1
1
型のアレ ルギーによる血栓形成も起こりうるが,一般には T細胞が主体となる細胞傷害反応が強く影響して いると考えられる(図l
l
a
-
c
)
.
6.腫傷免疫 腫虜細胞は通常自己細胞の腫虜変性したもので あって,正常細胞とは違う代謝経路をもつので, 新たなAg
を発現するものと考えられる.実験的 に健康動物に予め不活化した腫蕩細胞で免疫して おくと,腫湯細胞(移植片〉は拒絶される. 7.胎児はなぜ拒絶反応を受けないか. 胎児は母体とは異なる組織適合Ag
をもっ一種 の移植片と見ることができる.Rh不適合のよう な特殊な場合を除き,1
0
カ月の妊娠期間中母児聞 に免疫反応が起こらない事実は,免疫学上の大き な研究課題であるが,その理由は解明されていな い.妊婦では胎盤系ホノレモンによってある程度T
細胞の機能低下が認められるが,拒絶反応を抑え る程顕著な現象ではない.母体の循環血流と脱落 膜の械毛間腔で母児聞を隔絶しているフィブリノ イド層とトロホブラスト層(栄養匪葉)が両者の 接触を防ぎ, トロホブラストはAg
性を発揮しな いことが免疫応答を起こさない理由として最も注 目されている(図1
2
)
.
しかし母児聞に多少の細胞 移行が認められているので,他にも何等かの機序 が働いていると思われる. 分娩は拒絶反応ではなく,生理現象である.8
.
免疫抑制と免疫元進 1)免疫抑制剤(図13) リンパ球に対するAb(ALG: a
n
t
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g
l
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b
u
1
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など〉はリンパ球だけに作用する有効な 免疫抑制剤である.とくにヒトの細胞を用いて 作った単クローン性リンパ球Ab
は特定のリンパ 球だけに作用するので副作用が少いと思われる. X線や免疫抑制薬剤J
は,Ag
に非特異的なリンパ 球,そのほかの細胞にも作用するので,副作用と の兼ね合いで投与量・期間を加減しなければなら ない(図13).近年開発されたサイクロスポリンA,c
y
c
l
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s
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n
A
は副作用が低く,腎移植などの拒 絶反応抑制として高い評価が与えられている. ーー 。細胞避!t- 4 - 細 胞 岐 境 一 一 → ・ . 州 メ 〆 エ ー タ のu.成。州および1¥用抑制 ロ 細胞i!l,Eの 抑 制 一 一 . . 免fi't((Jプロック1¥,111--t> 不明の,Iq,lljによるプロγク 増殖抑制IJm子 X線,アルキル化部ICcycJophosphamide, chlorambucil などλ抗代謝河JC6-mercaptopurine, azathiopurine methotrexate, 5 -ftuorouracil, cytosine arabinoside), antibiotics (actinomycineなど). 図13免疫応答過程と免疫抑制因子の作用点(菊地, 昭56) 一一179-100 自 然 80 抗 {本 { 面 ♂ 60 比 活 性 (%) 素 集
一
時
¥
抗 、/ 大 .
¥ ム / 一
一
抗 女 抗 核 60自 己 抗 体 グ〉 40常
率 (%) 20。
、 、、 、 ‘ 、 ・ 阜 、 、 、 、 、 、 男 -_.j 20w
w
~ M 年 令 図 14 加齢に伴うヒトの抗A凝集素価,抗フラジエリン抗体価および抗核自己抗体検 出率の変動(山口,昭57) (%) 100 1,500 / 80 仮免疫想能曲線の強きの / 癌 / 。〉 免 / 頻 湾陪じ 60 / 1,000度 / / <7) ノ 人 強 40 J 口 き / 10 ノ 500 万 20H 癌(人の口頻10度万当たり) // ノ ノ 当 た ノ ~巴』ーーー』ιニ己o
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 午 令 図15 加齢に伴う免疫能の強さと癌の頻度との関係 (山口,昭57) 2) 免疫増強剤 抗体産生を増強する物質としては,明馨などの アルミニウム化合物,細胞壁の内毒素の主成分で あるリポ多糖,結核菌をはじめとする種々の抗酸 菌細胞壁成分,合成核酸ポリマーなどがある.コ リネパクテリウム菌体成分, A群レンサ球菌製剤 (ピシパニール),輩抽出物(グレスチン等),それ に 上 述 の 抗 酸 菌 成 分 で あ る muramyldipeptide はT
細胞に作用して細胞性免疫を増強するので, 抗癌剤として注目を注びている.9
.
加齢による免疫応答の修飾 加齢とともに液性免疫,細胞性免疫が低下し, それにつれて自己Abが出現したり(図14),癌の 発病率が高まる(図1
5
)
といわれる.とくにT
細 胞の機能の低下が関連すると思われるが個体差が 大きい. 結 語 ここ20年位の聞における免疫学の進歩には目を みはるものがある.免疫学の機序の解明は臨床へ の応用に直結し,遺伝子工学の技術を駆使して優 れた新薬が続々と産まれようとしている.かかる 医療の発展には医学だけでなく物理学,化学,工 学等多方面の協力が必要である. 本学も臨床免疫学を強化,発展させなければな らないと考える. 文 献 1)Beer,
A.E. and Billingham,
R.E.: in Adv. in lmmuno,.lVol.14, 1971 (サイエンス別冊,免疫 学II,病気と免疫,日本経済新聞社, 1978, p.112) 2)菊地浩吉編・医科免疫学. 2版 南 江 堂 〔 昭56)3) Lawton