一考察 : グループインタビュー調査の及ぼした影
響について
著者名(日)
坂田 伸子
雑誌名
東洋大学社会学部紀要
巻
50
号
1
ページ
129-142
発行年
2012
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00003131/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止調査報告
市町村における高齢者虐待防止体制の促進に関する一考察
∼グループインタビュー調査の及ぼした影響について∼
A Study of Developing an Effective Action Plan to Prevent Elder
Abuse in Municipalities
―From Findings of Focus Group Interviews―
坂田 伸子
Nobuko SAKATA
はじめに 「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(2005年11月 9 日法律第124 号)(2006年 4 月施行)(以下、高齢者虐待防止法)において、高齢者虐待の定義を明文化するととも に、国及び地方公共団体の高齢者虐待の防止、高齢者虐待を受けた高齢者の保護、養護者に対する支 援、また市町村における高齢者虐待の防止、虐待を受けた高齢者の迅速かつ適切な保護などが義務付 けられた。 また、2006年 4 月からの改正介護保険法に、「虐待の早期発見・防止などの権利擁護」の機能を担 う地域包括支援センターの設置が盛り込まれ、業務内容に「高齢者虐待防止ネットワーク」の早急の 構築が掲げられる等、高齢者虐待防止の基盤が急速に整備されつつある。 高齢者虐待問題に対して、高齢者虐待防止法の成立後は厚生労働省による全国調査が実施され、 「平成18年度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に 関する調査結果」からデータが蓄積されるようになってきた。(毎年ほぼ同じ項目での調査であるが 多少変更された項目があることと、合併により市町村の数が変化していることを考慮する必要があ る。)さらに、市町村と連携して地域において高齢者虐待対応を行う地域包括支援センターも全国に 設置され、市町村における高齢者虐待対応の体制が整備されてきている。 しかし、市町村における高齢者虐待防止対応のための体制整備状況を厚生労働省の全国調査からみ ると、実施率が高い項目と低い項目があり、すべての体制が整備されているとは言えないのである。 厚生労働省の各年度の報告書の「 3 .市町村における高齢者虐待防止対応のための体制整備等につ いて」において、高齢者虐待防止のための体制整備状況を報告している。 高齢者虐待防止のための体制がほぼ整備されたといえる項目として「高齢者虐待の対応の窓口となる部局の住民への周知」があげられるが、体制整備が進まない項目として「独自の高齢者虐待対応の マニュアル、業務指針、対応フロー図等の作成」、「『介護保険サービス事業者等からなる保健医療福 祉サービス介入支援ネットワーク』の構築への取組」、行政機関、法律関係者、医療機関等からなる 「『関係専門機関介入支援ネットワーク』の構築への取組」、「法に定める警察署長に対する援助要請等 に関する警察署担当者との協議」(平成22年度調査項目)などがある。また、これら体制整備が進ま ない項目は、他の項目より調査を始めた2006年度からの実施率の増加速度が遅い。 すでに筆者は、2006・2007年度に地域包括支援センター担当部署の全国調査、2008年度に 3 市の職 員と地域包括支援センター職員への自記式質問紙郵送調査を実施している。 3 市に調査を実施して、 高齢者虐待対応の地域包括支援センター職員の現状と課題、行政職員と地域包括支援センター職員の 高齢者虐待に関する認識の相違、 1 つの市内での各地域包括支援センターにおける高齢者虐待に関す る認識の相違について明らかにしている。しかし、郵送による自記式質問紙調査で現状を把握するこ との限界を感じ、 1 つの市町村において行政職員とすべての地域包括支援センター職員にフォーカス グループインタビューを実施し、高齢者虐待対応の現状と課題、高齢者虐待の認識の相違を明らかに することにした。 フォーカスグループインタビュー調査終了後約 6 カ月経過した時点で、グループインタビュー調査 に参加した行政職員と地域包括支援センター職員に郵送の自記式質問紙調査を実施し、グループイン タビュー調査後の高齢者虐待対応に関する認識の変化等について調査した。 図 1 インタビュー調査イメージ(例: 4 地域包括支援センター)
本論は、フォーカスグループインタビュー調査が行政と地域包括支援センター職員に及ぼした影響 についての報告である。
Ⅰ.フォーカスグループインタビューについて
フォーカスグループインタビュー後に実施した調査報告ではあるが、まず、グループインタビュー の内容と結果について概要を以下に述べる。 1 .調査方法 フォーカスグループインタビューを、 3 層にわたって実施することにした。 3 層とは図 1 に示したように、①市町村内全地域包括支援センター別職員対象、② 3 職種別地域包 括支援センター職員対象、③行政職員である。図に示したのは 1 つの市町村に 4 ヶ所の地域包括支援 センターがある場合である。フォーカスグループインタビューの回数は、①の行政職員グループ 1 回、 3 職種別グループの②主任ケアマネジャーグループ、③保健師・看護師グループ、④社会福祉士 グループの 3 回、各地域包括支援センター職員⑤A地域包括支援センター∼⑧D地域包括支援センター の 4 回となり、合計 8 回になる。 インタビューガイドを作成し、筆者と記録者の 2 名で 8 回のフォーカスグループインタビュー調査 を実施した。 2 .調査概要 ( 1 )調査目的 市町村内各地域包括支援センター間の高齢者虐待対応の認識の格差の把握、地域包括支援センター 職員間の高齢者虐待対応の認識の格差の把握、行政職員と地域包括支援センター職員の高齢者虐待対 応の認識の格差の把握を目的としている。 ( 2 )調査対象 X市Y行政区内 4 地域包括支援センター職員、行政職員 <参加状況>①行政グループ:10名、②主任ケアマネジャーグループ: 4 名、③保健師・看護師グ ループ 5 名、④社会福祉士グループ 4 名、⑤A地域包括支援センター 4 名、⑥B地域包括支援セン ター 4 名、⑦C地域包括支援センター 3 名、⑧D地域包括支援センター 4 名。 ( 3 )調査期間 2010年 8 月10日∼ 8 月26日 ( 4 )調査場所・時間 場所:役所内会議室・各地域包括支援センター内会議室インタビュー時間:約 1 時間 ( 5 )倫理面への配慮 人権および権利に十分注意して実施し、個人・自治体が特定されないように統計処理を行い、デー タを研究以外に利用しないことを説明して同意を得てから開始した。 インタビュー調査に関しては、録音することの許可を得てから実施し、本人が特定されないように 番号で発言を処理し、発言の中の地域名、個人名等は特定できないように処理した。 3 .職種別インタビュー調査結果の考察 各地域包括支援センターのインタビュー調査終了後に、職種別のフォーカスグループインタビュー (行政グループ、主任ケアマネジャーグループ、保健師・看護師グループ、社会福祉士グループ)を 実施した。高齢者虐待対応の連携について行政と地域包括支援センターでの認識の差が明らかになっ た。 主任ケアマネジャーグループからは、ケアマネジャーの質の向上が必要であるという課題が出され た。高齢者に接して虐待の把握が容易なヘルパーからの情報がケアマネジャーに集約され、ケアマネ ジャー自身も定期的に高齢者と会っているにもかかわらず、虐待を見逃している事例が多いとの事で あった。ケアマネジャーの高齢者虐待に対する知識・技術の向上が必要であるという意見があった。 保健師・看護師グループからは、介護予防事業等で忙しく高齢者虐待に関わる時間が取れないとの 意見があった。高齢者虐待対応は社会福祉士中心に動いてもらっているが、看護師としての判断が必 要な場合は一緒に訪問しているとの事であった。 社会福祉士グループからは、高齢者虐待防止の住民への啓発活動より、地域包括支援センターの周 知をする事が必要であるとの意見があった。 3 職種の中で中心的に社会福祉士が権利擁護を担当する 立場にある。しかし、高齢者虐待に関する研修会への参加についてのインタビュー時に、社会福祉士 の職能団体である日本社会福祉士会の加入者が少ない事がわかった。しかし、行政が主催する高齢者 虐待を含めての権利擁護の研修会には参加していた。 3 グループで共通していた課題は、高齢者虐待と疑わしいグレーゾーンの判断基準であった。現在 は共通の基準・指標がないため各地域包括支援センターの職員間、あるいは行政職員間で検討して見 守りを継続するか、虐待としての介入を始めるか等の判断がされていたが、共通認識のため、高齢者 虐待のグレーゾーンの基準・指標の必要であるとの意見が出た。 行政グループからは、 4 つの地域包括支援センターに高齢者虐待の認識や対応の質のバラツキがあ ることが課題としてあげられた。 4 つの地域包括支援センターがすべて異なる社会福祉法人に委託さ れていることや、在宅介護支援センターがそのまま地域包括支援センターに移行していることも一因 と思われる。行政職員もバラツキをなくそうとしているが、委託先の法人の職員であるため対応が難 しいとの事であった。また、地域包括支援センターに対応能力のバラツキがあるため、行政との役割 分担を一律に決める事が難しいとの意見が出た。
地域包括支援センター職員からは、 4 つの地域包括支援センターとも行政との連携が良好であると いう話であったが、行政職員からは対応の困難なケースは引き継がれるが、地域包括支援センター職 員と一緒に高齢者虐待を対応した事がそれほど多くない等の意見が出された。この両者の認識の相違 の要因についてはこの調査ではわからなかった。
Ⅱ.フォーカスグループインタビュー調査後の評価アンケート
1 .調査の概要 ( 1 )調査目的 自記式質問紙調査やインタビュー調査は個人が回答するのみで、質問内容やインタビュー内容につ いて他者と話し合いを持つことや、他者の回答を知ることはほとんどない。しかし、フォーカスグ ループインタビューは、グループで質問を受けるため、他者の発言を聞くとともに自分も回答するこ とになる。一時間の時間内で共通のテーマのインタビューが行われるので、相互作用がありそれぞれ に気づきや共感、一体感が生まれると思われる。 この調査は、高齢者虐待に関するフォーカスグループインタビューが、個人や各グループに対して 与えた影響を把握することを目的としている。 なお、2010年 6 月に行政職員・地域包括支援センター職員対象の高齢者虐待予防に関する研修会を 実施しているので、参考のため研修会とインタビュー調査との比較も質問項目に取り入れている。 ( 2 )調査対象 X市Y行政区において2010年 8 月に実施した「フォーカスグループインタビューによる地域包括支 援センター職員の高齢者虐待対応に関する調査」を受けた行政職員と地域包括支援センター職員 ( 3 )方法:自記式質問紙を用いた郵送調査 ( 4 )調査期間:2011年 3 月 1 日∼ 3 月14日( 3 月11日に東北大震災が発生したため回収期間を年度 末の 3 月31日まで延長した) ( 5 )回収状況 回収数:18、有効回収数:17 自治体職員の回収率: 6 (回収数)/10(参加者)・ ・60% 地域包括支援センター職員の回収率は、各地域包括支援センターグループの参加者数と 3 職種別 グループ参加者の数が合わなかったため出すことができなかった。 地域包括支援センター職員の回収数は、11であった。 ( 6 )倫理面への配慮 本調査は、人権および権利に十分注意して実施し、個人・自治体が特定されないように統計処理を 行い、データを研究以外に利用しないことを明記して実施した。表 1 研修会と 2 つのインタビューで影響を受けた順とその理由 ID 影響を受けた順 影響を受けた順の理由 1 1 C−A 虐待について、改めて意識する機会になった。 1 2 C−A−B 他の地域包括支援センター職員の方の対応や考え方を改めて知ることができたため。 1 3 Bのみ 虐待のサインの察知のしかた、実際に察知したときの対応の仕方など聞けると良かっ た。 1 4 Cのみ 参加時には虐待に対する意識が高まったが、それ以降継続していない。保健師の会議 で先生の DVD(高齢者虐待予防プログラム)を見たが次に続かなかった。 3 1 C−B 他の地域包括支援センターの方の事例をきいて、今まで関わったことのないケース だったため。 3 2 C−B 他の地域包括支援センターの状況を知ることができた。同職種での話し合いだと、自 分の立ち位置を確認でき、共感できる。 3 3 A−C−B 住民に対して「起きてしまった対処法」というものでなく、「予防」するための「工 夫」や「気付き方」を学び、無意識に」できそうな内容だったため、是非実施してみ たいと思いました。 4 1 C−B−A 保健師職といえ日々相談対応や困難ケース、虐待ケースに関わっていて、その対応に 苦慮していることを共有できたため。虐待のアセスメントシートの存在を確認し、今 後区内のアセスメントシート作成やマニュアル作りにつながるようなので良かったの ではないかと思う。 4 2 C−B 介護予防事業の業務以外に保健師職も総合相談を受けている中で、支援困難なケース や虐待ケース等への対応において大変な事などを共有できてよかった。 4 3 B−C 相談が多く、一つ一つの対応を振り返る事は少ないので、適切だったかどうか見直す 事は良かった。 5 1 C 今まで積極的に動いてなかったことを実感する機会となった。 5 2 C 対応経験が少なく話し合いに参加しても余り意味はないかとも(議論に参加できない と思っていた)思っていましたが、虐待リスクを察知する力が必要だと再認識した。 研修は受けた事があるが、定期的に考える時間をもたないと、アンテナも下がってし まうと感じた。また、虐待と言葉に出さないでも認知症や介護者支援の様々な事業も 予防に貢献できると改めて感じた。 5 3 C 虐待について全体で話し合う機会はあまりなかったので、良い機会でした。 5 4 A−C 住民への「虐待とは……」といつものをスムースに伝えられるなと思ったこと。 5 5 A 住民向け講座が 急がば回れ なのかと感じたため。 5 6 C−A 外部からの問いかけにより、虐待のとらえ方や対応について、区として共通のものさ し、標準化された対応がないことに気づかされた。(市としてのマニュアルはある が、区として血肉化されておらず、実践版になっていない) A:研修会「高齢者虐待予防のための住民向け講座について」参加 B:地域包括支援センター内 3 職種へのフォーカスグループインタビュー参加 C:職種別(主任ケアマネジャー、保健師・看護師、社会福祉士)フォーカスグループインタビュー参加
2 .調査結果 ( 1 )影響を受けた順(表 1 ) 地域包括支援センター職員に、A:高齢者虐待予防の研修会、B:地域包括支援センター職員 フォーカスグループインタビュー、C:職種別フォーカスグループインタビューのなかで、影響を受 けた順について質問した。 8 名の回答があったが、Cの職種別フォーカスグループインタビューが一 番影響を受けたと 6 名が回答した。 職種別インタビューから影響受けたという回答が多かったが、行政区では月 1 回職種別のグループ 会議を設けている。影響を受けた理由の自由記述欄から、他の地域包括支援センターの高齢者虐待対 応の状況を知ることができたとの記入があり、グループ会議の中であまり高齢者虐待に関する議題が なかったように推測された。 ( 2 )地域包括支援センター職員フォーカスグループのインタビュー後の高齢者虐待に関する意識の 変化について(行政職員は、地域包括支援センターのインタビューに参加していないので、調査対象 から除いている。) 地域包括支援センター職員対象のフォーカスグループインタビュー後、センター内での意識の変化 があると 2 名が回答し、どちらとも言えないと 7 名が回答していることから、地域包括支援センター 別のインタビューは、高齢者虐待情報を共有しているため、あまり意識の変化にはつながらなかった と思われる。(表 2 ) フォーカスグループインタビュー後のセンター内の意識の変化はあまりなかったが、個人の意識の 変化については 6 名があると回答し、 3 名がどちらとも言えないと回答した。自由記述欄では、高齢 表 2 センター職員フォーカスグループインタビュー後のセンター内の意識変化の内容 ID 意識変化の内容 1 1 個人的意識が高まったと思う。 3 3 自然に予防できているのでは……と。リスクを感じた時にプランの変更をしている点。 4 1 包括内での虐待事例に対する認識や対応についての考え方がここによって異なる部分があると思う。そ ういった所で統一を図る必要があると思うが、なかなか難しいところがあると考えている。 表 3 センター職員フォーカスグループインタビュー後の回答者の意識変化の内容 ID 意識変化の内容 3 1 線引きは難しいという気持ち、いっぱいいっぱいで介護しているという気持ちは今でもありますが、ご 本人はもちろん、介護者の方が一人で抱え込まないよう、予防の点からこれからも、相談しやすい関係 作りに努めていきたいと思いました。 3 2 虐待と聞いて当初は驚きも強かったが、冷静に考えられるようになった。 3 3 「アセスメント」「リスクマネジメント」とが、同時に行えている。(全てのリスク) 4 1 インタビューで聴き取り中心であった為、特にアドバイスを受けたという印象はない。意識の変化とい うところでは、自分の認識が合っているのか等の再認識をする機会になったと思う。 4 3 傷やあざを見つけたら、見逃さないようにすること。
者虐待に対する積極的な関わりへの変化も見られた。(表 3 ) ( 3 )職種別フォーカスグループインタビュー後の高齢者虐待に関する意識の変化について 職種別フォーカスグループインタビュー後のグループ内に変化があったと17名中 8 名が回答し、ど ちらとも言えないと 5 名が回答している。 自由記述欄(表 4 )には、インタビュー後にグループ内で自主的に議論され、行政職員と社会福祉 士グループのメンバーが、共同で行政区内の高齢者虐待ケース調査の実施、行政区独自のアセスメン トシート(チェックシート)の作成をすることになったと記入されていた。これは各フォーカスグ 表 4 職種別グループインタビュー後のグループ内の意識変化の内容 ID 意識変化の内容 1 2 区内の虐待ケース数、実態把握のアンケート調査を区と区内地域包括支援センターの社会福祉士と共同 で実施することになった。また、アセスメント(チェックシート)を作成することになった。 3 2 同職種としての取り組み方など今後の話題・議題に入れていきたいと思っている。 3 3 個人で虐待の判断をしていない。しない。 4 1 虐待事例に対応した事がある者と無い者によって、関心や持っている情報量に差があると感じた。その 後は特にひきつづいて虐待に対する議題はでていない。(社会福祉士グループではマニュアル作りなど 進行している) 5 1 チェックリストについて話し合った。 5 2 ・虐待リスクを察知する指標をきちんと持つ必要性。 ・高齢者支援に関する多くの事業が虐待予防に貢献してる。 5 3 取り組みが始まった。 5 4 区独自のアセスメントシート等を、他市町村を参考にしながら作成中。 5 5 ・区としての共通のものさしづくり、対応の標準化についての取り組みを始めた。 ・包括と協働して①「区版気づきのサインチェックシート」を作成。②ケアマネが抱え込んでいる事例 がないか、サインシートを使ってアンケート調査実施。③コアメンバー会議用(当面)を想定して、事 実確認シート∼アセスメントシート∼会議録の区版を検討中。 表 5 職種別グループインタビュー後の回答者の意識変化内容 ID 意識変化の内容 1 2 虐待ケースの発掘に、どのような働きかけができるか考える時が増えるようになった。 3 2 とても深いと思った。いろいろな場面での対応がスムースにできるよう勉強していきたいと思っていま す。 3 3 リスクのレベル(基準)を再確認すること。 4 3 傷やあざを見つけたら、見逃さないようにすること。 5 1 ケースと関わる際に、今まで気にしていなかったものを気にするようになった。 5 3 虐待が疑われる時には、スクリーニングのチェックリストを用いることは客観的指標としてよいと思い ました。 5 5 生じた事例について、実際に事実確認シートやリスクアセスメントシートを試用してみています。(他 部署との共通認識をつくるのに有効だと実感)
ループインタビュー時のグレーゾーンの判断が難しいという意見を基に、新たなアクションを起こし たものと考えられる。 また、ケアマネジャーが抱え込んでいる事例について新たに調査することが検討されていた。これ は、主任ケアマネジャーフォーカスグループインタビューの中で、ケアマネジャーが虐待事例を抱え ていても、高齢者虐待と認識していない事例があるかもしれないという意見に基づいていると思われ る。 職種別のフォーカスグループインタビューは、個人の意識にも変化を及ぼしていた。職業別フォー カスグループインタビュー後に、回答者の意識に変化があったと 8 人が回答し、 2 名がどちらとも言 えないと答えていた。 自由記述欄(表 5 )には、初歩的なことであるが、基本的に重要な「リスクのレベル(基準)を再 確認すること。」「傷やあざを見つけたら、見逃さないようにすること。」「ケースと関わる際に、今ま で気にしていなかったものを気にするようになった。」等の記述あった。高齢者虐待対応の経験の有 無や、経験年数により、様々な対応レベルがあることがわかった。 また、試作段階のアセスメントシート等に関しても、「生じた事例について、実際に事実確認シー トやリスクアセスメントシートを試用してみています。(他部署との共通認識をつくるのに有効だと 実感)」という意見が書かれていた。 ( 4 )フォーカスグループインタビュー参加後に自ら起こした行動 フォーカスグループインタビュー参加後に自ら起こした行動に関する自由記述欄には以下のような 記載があった。(表 6 ) 表 6 フォーカスグループインタビュー参加後に自ら起こした行動 ID 自ら起こした行動の内容 1 2 区内社会福祉士グループにて共同のアセスメントシート作りに着手することになった。 3 3 虐待という言葉が言いやすくなった。 4 3 疑いのある人の担当者会議に参加させてもらった。 5 4 アセスメントシートなどの作成に参加。 5 5 社会福祉士グループでは、包括ごとのヒアリングで各職員の認識や地域の実態にバラツキがあることが 判明したため、ケアマネ対象のアンケートを実施。区内での虐待または虐待が疑われるケースの実態把 握を行った。ケアマネが一人で抱えているものを区と包括で連携していくようにした。 5 6 <表 4 と同回答:再掲> ・区としての共通のものさしづくり、対応の標準化についての取り組みを始めた。 ・包括と協働して①「区版気づきのサインチェックシート」を作成。②ケアマネが抱え込んでいる事例 がないか、サインシートを使ってアンケート調査実施。③コアメンバー会議用(当面)を想定して、事 実確認シート∼アセスメントシート∼会議録の区版を検討中。 <表 5 と同回答:再掲> ・生じた事例について、実際に事実確認シートやリスクアセスメントシートを試用してみています。 (他部署との共通認識をつくるのに有効だと実感)
アセスメントシート作成、ケアマネジャー対象の調査等のグループ作業に参加した職員が多いが、 個人の感想として「虐待という言葉が言いやすくなった。」「疑いのある人の担当者会議に参加させて もらった。」というものがあった。地域包括支援センター職員でありながら、“虐待”という言葉を使 うことに躊躇していた職員のいることがわかった。また、自分が担当していない事例の担当者会議に 参加した職員など、様々な行動を起こしていた。 ( 5 )フォーカスグループインタビュー後の行政あるいは地域包括支援センターとの関係の変化 Y行政区は、行政職員と地域包括支援センターが担当制で決まっていて、連携して定期的な会議を 実施している。今回は、通常行政職員が参加する地域包括支援センターの職員会議から行政職員に席 を外していただいて、地域包括支援センターの職員のみでフォーカスグループインタビューを実施し た。 表 7 フォーカスグループインタビュー後の行政あるいは地域包括支援センターとの関係の変化 ID インタビュー後の行政あるいは地域包括支援センター同士の関係 1 2 行政と包括で虐待ケース対応時(初動)に共通の認識が持てるようにシートを作成することになった。 2 1 区と包括で協働し、虐待のサインチェックシートを作成。 ケアマネジャーが虐待ケースを抱え込んでいないか把握するきっかけとなった。 3 3 チェックシート、マニュアル等作成を予定。 5 3 もともと連携ができているので変化はない。 5 4 作成中、アセスメントシートなどをためしに使って判断するようになってきた。 5 6 <表 4 と同回答:再掲> ・区としての共通のものさしづくり、対応の標準化についての取り組みを始めた。 ・包括と協働して①「区版気づきのサインチェックシート」を作成。②ケアマネが抱え込んでいる事例 がないか、サインシートを使ってアンケート調査実施。③コアメンバー会議用(当面)を想定して、事 実確認シート∼アセスメントシート∼会議録の区版を検討中。 表 8 地域包括支援センター職員の高齢者虐待の啓発や意識の変化等に最も必要と思うこと ID 地域包括支援センター職員に最も必要と思うこと 1 1 虐待については、かなり指揮していると思います。(ケースがあがっているいないにかかわらず) 1 2 実態の把握、データとして数値化すること。 3 2 勉強会などにより、認識レベルの幅を少なくしていく。 3 3 虐待という判断を一人でさせないようなネットワークの構築。 4 4 高齢者虐待の実態は、デイサービスやショートステイでわかることが多いので、もっと現場の職員に意 識が持てるよう研修等を実施してほしい。 5 3 統計的なもの、事例を使って虐待に関する話をする機会を定期的に持つこと。 5 4 自立性 5 6 ・与えられる役割に自発的になること ・行政との役割分担が具体的になること ・実践的な区としてのマニュアルが作成されること
従って、行政職員と地域包括支援センター職員とが同席したグループインタビューを今回は実施し ていない。その理由は、お互いがどのように考えているのか、別々の場所で率直な意見が聴きたかっ たからである。また、その後の業務に悪影響が出ることも避けたかった。 別々にフォーカスグループインタビューを実施したが、結果として行政と地域包括支援センターで 共同作業を実施し、アセスメントシート(チェックシート)の作成や、アンケート用紙の作成を実施 するなど、より関係が深まり効果があったと思われる。 自由記述欄には、表 7 のような意見が記入されていた。 ( 6 )地域包括支援センター職員の高齢者虐待の啓発や意識の変化等に最も必要と思うこと 自由記述欄には、表 8 のような意見が記入されていた。 Y行政区における高齢者虐待の実態把握、地域包括支援センター職員や施設職員の個人の知識やレ ベルアップのための勉強会の実施、行政区独自の実践的なマニュアル作成、定期的な事例検討会の実 施などが意見としてあがっていた。 ( 7 )フォーカスグループインタビュー後の感想 フォーカスグループインタビュー後の感想は、表 9 のような記載があった。 3 .考察 Y行政区では、以前から地域包括支援センターごとの会議や 3 職種別の会議、行政の会議が定期的 に開催されていた。いつもの会議のメンバーに調査者が参加し、高齢者虐待について話題を提起した 表 9 フォーカスグループインタビューの感想 ID フォーカスグループインタビューの感想 1 1 包括内の情報は共有しているので、共有という意味では、包括内のインタビューの必要性は感じなかっ たが、職種毎のインタビュー調査は、他の包括の状況がわかったので、その点はよかったと思いました。 2 1 就労していない娘、息子からの年金搾取でサービスが充分受けられない方々が増えています。就労して いない理由として、リストラや、統合失調等の病気があります。両親を担当するケアマネジャーだけで は解決できない状態にあると思います。 3 1 改めて、考える機会を頂き、よかったです。 3 2 それぞれの職種の中で、上手にききだせているなぁ……と思いました。話しやすかったです。 3 3 一人ひとり虐待に対する考え方が少々異なっていたところに驚きました。 5 1 インタビューの中で他の職員の虐待への関わりを聞けたことが参考になりました。区版のチェックリス トの作成のきっかけになりよかったと思います。 5 3 全体的な意識づけに有効だったと思います。特に包括では社会福祉士が中心に虐待に関わっていると思 われた。それ以外の職種への意識付けがあったと感じました。 5 4 虐待への意識が低いのではなく、それ以外に抱えた業務が多すぎて取り組まれていないという事実を、 言い訳というだけでなく、具体的にどんなことをやっているのかまで考えた上で話をしてほしかった。 ただ単に、「取り組めていない」ではなく、「取り組めていないその阻害要因は。と突いていただきた かった。
<参考文献> 1 )高山忠雄・安梅勅江:グループインタビュー法の理論と実際∼質的研究による情報把握の方法∼:川島書 店,1998. 2 )平山尚・武田丈・呉裁喜他:ソーシャルワーカーのための社会福祉調査法:ミネルヴァ書店,2003. 3 )財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構:高齢者虐待防止法施行後の高齢者虐待事例 への対応状況に関する調査報告書,2007. 4 )水上然:「高齢者虐待防止に関する市区町村システムの調査」報告書,2008. 5 )財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構:市区町村における高齢者虐待防止のための 体制整備の取り組みに関する調査報告書,2008. 6 )財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構:高齢者虐待防止法施行後の高齢者虐待事例 への対応状況に関する調査報告書,2009. 7 )財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構:市区町村における高齢者虐待防止の標準化 のための体制整備状況の関連要因および支援のあり方の検討報告書,2011. 8 )社会福祉法人東北福祉会認知症介護研究・研修仙台センター:高齢者虐待防止・対応を促進する要因および に過ぎないが、参加者にとっては自分で主体的に高齢者虐待を考えるきっかけや、他者との認識の相 違に気付くきっかけになっていた。 高齢者虐待対応に取り組めていない要因まで話を踏み込んでほしかったという行政職員からの意見 があったが、担当地区では高齢者の虐待はないと言う地域包括支援センター職員を前にしては、そこ まで踏み込めなかった。しかし、結果として、フォーカスグループインタビューをきっかけに様々な 行動が始まったのは事実である。 4 .今後の課題 Y行政区では、フォーカスグループインタビューをきっかけに、職員個人の意識や職種別グループ において高齢者虐待対応について意識の変化が起きていた。例えば、行政職員と地域包括支援セン ター職員が協力して、ケアマネジャーへの調査や高齢者虐待のグレーゾーンのアセスメントシート (チェックリスト)の作成が始まっていた。 高齢者虐待対応に関して、この行政区においては行政と地域包括支援センターが協働し始めたこと は事実であるが、他の市町村においても同様の効果が得られるのか、また、この効果がいつまで続く のかということについても今後検証する必要がある。 フォーカスグループインタビューが市町村の行政職員と地域包括支援センター職員の高齢者虐待対 応の認識の相違の是正や意欲の向上につながるならば、低コストで実施できると考える。 第 3 者がフォーカスグループインタビュー調査を実施すればよいことになる。フォーカスグループ インタビューの実施自体が職員のエンパワメントにつながり、認識の相違が改善されれば、高齢者虐 待予防体制の促進にもつながると考える。 フォーカスグループインタビューの効果について、さらに職員のエンパワメントを引き出す為に有 効なインタビューのスキルについても研究を継続し、自治体における高齢者虐待防止体制の整備促進 に貢献したいと考えている。
具体策に関する調査研究事業報告書,2012.
9 )社会福祉法人東北福祉会認知症介護研究・研修仙台センター:高齢者虐待防止・養護者支援法施行後の 5 年 間,2012.