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犯罪リスクと刑罰

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Academic year: 2021

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特集

社会的リスクのOR

犯罪リスクと刑罰

所一彦

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刑罰による犯罪の抑止 「犯罪リスクと刑罰」というと,犯罪にはリス クとして刑罰がともなう側面での問題ともとれる が, r社会的リスクの ORJ とし、う全体の表現に照 らすと,犯罪が社会にとってのリスクとして刑罰 によるオペレーションの対象となる側面での問題 ともとれ,どちらについて書いてよ L 、か迷うので あるが,考えてみると,両側面は互いに深く関連 し合っているから,その関連するあたりに焦点を あてて書けば,当らずとも遠からぬことになるか と思う. 関連というのは後者の側面,つまり犯罪という リスクの刑罰によるオベレートは,前者の側面, つまり犯罪を犯そうとする者にとっては刑罰がリ スクであり,かれはそのリスクを,犯罪を犯さな いことによってオベレートするはずだ,という仮 定のもとに行なわれる,という点である. \,、 L 、か えれば,人々は,犯罪による利益を刑罰による不 利益と比較し,前者のほうが小さいと昆れば犯罪 を犯さないであろう.だとすれば,犯罪による利 益をいくらか上回る不利益をもたらす程度の刑罰 を犯罪者に科すことにしておけば,人々は犯罪を 犯さないに相違ない.つまりは犯罪を刑罰の威嚇 によって抑え込もうとするわけであるが,刑法学 では,これを,少しもったいぶって,心理強制と ところかずひこ 立教大学法学部

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(18) いっている. 心理強制は,しかし,万能ではなく,さまざま の限界のあることが指摘されている.ここでは, そのいちいちを紹介しないが,ただ,私には最も 基本的だと思われるにもかかわらず,一般にはあ まり触れられていない点が 1 つあるので,以下そ れについて述べておこう. 心理強制は,人々が犯罪を犯さないことによっ て刑罰のリスクをオベレートすることを期待す る.しかし刑罰のリスクは,必ずしも犯罪を犯さ ないことによってばかりでなく,犯罪の証拠を残 さない工夫によってもオベレートできる.もしそ の結果,刑罰のリスクが犯罪による利益より小さ くなれば,犯罪は行なわれるであろう.したがっ て社会の側では,犯罪を犯そうとする側のそのよ うな工夫にもかかわらず,なおかつ刑罰のリスク が十分小さくならないようにしなくてはならな い.つまり,十分な警察力をもたなくてはならな い.そのコストは,しかし,これを投ずることに よって抑え込まれる犯罪のリスクより小さくなく てはならない.もし犯罪者に刑罰を科すためのコ ストが,これによって減らされる犯罪のリスクを 超えるとすれば,犯罪者に刑罰を科すことは,あ きらめられねばならないだろう. しかしそうだとすると,犯罪を犯そうとする者 にとっては刑罰のリスクをオベレートする手がも う l つあることになる.すなわち刑罰のリスクを がまんしてどんどん犯罪を犯し,社会の側に刑罰 オベレーションズ・リサーチ © 日本オペレーションズ・リサーチ学会. 無断複写・複製・転載を禁ず.

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表 1 fflJ罰による威嚇の利得行列 Al A2 A 処犯 処犯

ムド:

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~I 犯罪を

5 -4 2 犯す 1 +2 はコストばかりかかって犯罪のリスグを減らすの に役立たない,と思わせればよいわけである. しかし社会の側としては,おいそれとその手に 乗るわけにはいかない.そうし、う手があるとすれ ば,それを封じるために,損失を覚悟で,断固刑 罰を科すことにしなくてはならないだろう.つま り刑罰は,たとえコストばかりかかって犯罪のリ スクを減らすのに役立たないように見えても,や はり科されなくてはならない.刑法学では,この コストばかりかかって犯罪のリスクを減らすのに 役立たないように見えてもなお科される刑罰を絶 対的応報刑といっている.絶対的応報刑は,それ だけを見るとはなはだオベレーショナルでなく, したがって行動科学者には概して評判が悪いが, 一定の仮定のもとでは,上のようにオベレーショ ナルなモデルのなかに必然的に姿を現わす.その メカニズムを,いま少し定量的に,利得行列で表 わしてみよう.表 l がそれである.

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威嚇ゲーム 単純化のため,社会 A と反社会集団 B が, B は A の損失となる行為,つまり犯罪を行なえば利得 を得る対立関係にあり, A は,若干の損失を覚悟 すれば,犯罪を犯した者を処罰する,つまり B が 犯罪を犯せば B~こ損失を加えることができるとす る .B が犯罪を犯した場合の B の利得を 2 , A の 損失を 4 ,つまりマイナス 4 の利得とし,同様に 1984 年 9 月号 A が犯人を処罰することにした場合の A の利得を マイナス 1 ,それによって B が処罰された場合の B の利得をマイナス 3 としよう. きて A が犯人を処罰することにしたとする (A

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B が犯罪を犯さない場合には A は犯人を処罰 することにしたマイナス l の利得(右上.以下同) だけですむが, B がそれでも犯罪を犯す場合(皿) には,それによるマイナス 4 の利得が加わって計 マイナス 5 の利得となる.他方 B は犯罪を犯さな ければ(I ),利得もないが処罰も受けないから利 得は結局 o (左下.以下向)であるが,犯すとすれ ば,それによる利得 2 と処罰による利得マイナス 3 を合わせ,計マイナス l の利得となる.ならば B は犯罪を犯さないであろうし,それは A にとっ ても幸いである.そうであろうか. A は犯人を処罰しないことにすることもでき る.この場合 (A 2)A の利得は B が犯罪を犯さな ければ (II) 0 ,犯せば (IV) マイナス 4 であり B がそのどちらを選ぶにしても,犯人を処罰するこ とにした場合より大きい.つまり B が,犯罪を犯 すにせよ犯さないにせよ,もしそのいずれか一方 に態度を決めてしまったとすると, A としては犯 人を処罰しないことにするほうが利得が大きいこ とになる.では B はどちらの態度をとることに決 めてしまうであろうか.いうまでもなく犯罪を犯 すほうに決めてしまうはずである .A がそれを見 てマイナス 5 よりマイナス 4 を選ぶとすれば B は 可能な中の最大の利得プラス 2 を得るであろう. しかし事情は A にとっても同様である.彼がも しこの結果を避けたけれぽ, B より先に犯人を処 罰することに決めてしまえばよい.そうなれば B は犯罪を犯さないほうを選ぶほかなくなるであろ う.しかしもし B もまた犯罪を犯すほうに決めて しまっていたとしたらどうであろうか .A も B も 結果として最悪の選択をしたことになる. A に とって最も望ましいのは E であるが,それを狙っ て A2 を選ぶと B はこれ幸いと B2 を選び,結 局面の, A にとってはあまりかんばしくない結果 (19)

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になる.そこで A としては次善の I で我慢するこ ととし,

A 1

~を選ぶことが考えられるが,もし B があくまでN を狙って B2 に固執すると最悪の E がおこりかねない.もっとも B にとっても E は最 悪であるから,

B

2 に固執するには相当の覚悟が いるであろう.その最悪の事態の覚悟がで、きるか できなし、かで,いわば勝負が決まる.その覚悟が もしできて, A があくまで Al に固執したとすれ ば,それが先述の絶対的応報刑である.

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威嚇の機能条件

とはいえ上の利得行列は,威嚇する側とされる 側とが対立関係にあること,すなわち一方の利得 が他方の損失になることを前提としている.とこ ろが今日の国家が用いる刑罰は,その威嚇によっ て犯罪を控える人々自身によって,観迎はされな いまでもやむをえないものとして広く受忍される のがふつうであるから,威嚇する側とされる側と の対立関係は,さほど端的でない. 仮にその場合,一部にこの威嚇を受容せず,抵 抗を試みる者があるとしよう.かれらは威嚇に屈 しない態度を示すことによって威嚇をあきらめさ せる希望をもつことができるであろうか.否であ る.威嚇をやめれば,他の多くの人々が犯罪に走 るだろうからである.先の利得行列でいうと, A 2 が選ばれた場合には一般の公衆が犯罪を犯すよ うになるため A の利得が減り,

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, N の場合の A の利得が,たとえばそれぞれマイナス 2 ,マイナ ス 6 ぐらいに下がるわけである.そうすると A と しては B の態度いかんにかかわりなく Al を選ぶ ほかなく,したがって B も Bl を選ぶほかない. ではこの場合,威嚇に ht~ しまいとして抵抗する 者たちだけに対して威嚇をやめ,残りのー般公衆 に対しては威嚇をつづける,と L 、う選択がなされ る可能性はどうであゐうか.やはり,ない.もし そうしたら,残りの公衆も,にこの抵抗夜たちの真 似をして,威嚇に屈しまいとするだろう.たとえ 威嚇をやむをえないものとして受忍していても,

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(20) である.もっとも,これらの公衆が,全面的に B と行動をともにするとすれば,話は別である.そ の場合には,先の利得行列にもどることになる. つまり,威嚇が,威嚇される多くの人々に受忍 され,かれらは,威嚇されなけれぽ犯罪への誘惑 に抗しきれないが,威嚇をやめさせようとする抵 抗に加わるおそれまではない,とし、う場合には, 威嚇に屈しない抵抗によって威嚇をあきらめさせ ることはできず,したがって威嚇する側として も,そのような抵抗にわずらわされることなく, 威嚇を率直にその効果に即して用いることができ る.これに対し,威嚇される人々の多くがその威 嚇を不当と考え,やめさせたいと思う場合には, かれらは結束して威嚇に屈しない態度を示すこと により威嚇者に威嚇をあきらめさせる希望をもつ ことができる.威嚇者はやがて,威暗に屈しない 大衆を前にして,かれらとの泥沼の戦いに突入す るか,さもなければ威嚇をあきらめるかの二者択 ーに直面するであろう. 刑罰の威鵬による犯罪リスクのオベレートは, これによって行動を制約される者の多くに受認さ れる場合にのみ,円滑に機能する.そこでは,し たがって,そのような受忍が,どのようにして得 られるかが,致命的に重要な課題となる.刑罰の 使用が民主的に決定されること,刑罰が一定のル ールにしたがし、一貫して用いられること,刑罰の リスクが不公平に分布しないこと,刑罰が不必要 に重くないこと等は,そのような受忍の獲得に大 きく貢献するであろう.刑法学のこれまでの成果 は,こうしたオベレーショナルな考究と,結論的 に一致するところがはなはだ多い.行動科学と刑 法学とのあいだを架橋するきっかけに,本稿が多 少ともなるところがあれば,望外の幸いである. 参芳文献 所 一彦:犯罪の予防と刑罰.現代刑罰法体系 1 (石原 一彦ほか編), 日本評論社 (1984) ,

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および同 :抑止刑の科刑基準. 団藤重光博士古稀祝賀論文集 2 , 有斐閣 (1984) ,

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表 1 fflJ罰による威嚇の利得行列 Al  A2  A  処犯 処犯 ムド:会集 す罰 人るを し、 罰人なしを u r  ‑1  1  I  ;JI!さない 。 I I I  W  ~I 犯罪を 5  ‑4  2  犯す 1  +2  はコストばかりかかって犯罪のリスグを減らすの に役立たない,と思わせればよいわけである

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