Title
ニワトリの不整脈に関する心電図学的ならびに心臟病理学
的研究( 内容の要旨 )
Author(s)
藤澤, 真
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(獣医学) 甲第033号
Issue Date
1997-03-14
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/2087
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏 名(本籍) 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与年月 日 学位授与の要件 研究科及 び専攻 研究指導を受けた大学 学 位 論 文 題 目 審 査 委 貞 藤 澤 真 (広島県) 博士(獣医学) 獣医博甲第33号 平成9年3月14日 学位規則第4条第1項該当 連合獣医学研究科 獣医学専攻 東京農工大学 ニワトリの不整脈に関する心電図学的ならびに 心臓病理学的研究 主査 東京農工大学 副査 岐 阜 大 学 副査 帯広畜産大学 副査 岩 手 大 学 副査 東京農工大学 授 授 授 授 授 教 教 教 教 教 治 昭 夫 助 久 啓 利 通 幸 義 生 木 川 田 椴 桐 柵 中 岡 山 論 文 の 内 容 の 要 旨 ニワトリに自然発生する不整脈を心電図学的に明らかにし,その発生要因を追求する目 的で心臓の病理組織学的検索を実施した。併せて,ニワトリにおける不整脈の発生とビタ ミンBl欠乏との関連性についても検討した。 1.ニワトリに自然発生する不整脈の心電図学的観察 ニワトリの純血種群として3種類:ロードアイランドレッド種(RIR,n=125),シヤモ 種(JG,n=101),白色レグホン種(WL,Il=52),RIRの交雑種群として4種類:RIRXJG(n=44), (RIRXJG)×JG(n=10),RIRXWL(n=73),RIRXDAL(デカルプアンバーリンク)(n=56) の計7種類461羽について心電図検査を実施し,ニワトリに自然発生する不整脈の発生状 況を検索した。その結果,107例(23.2%)に9種類の不整脈が観察された:洞性不整脈(SA) 66例,心房性期外収縮(APC)19例,心室性早期興奮症候群(VPE)9例,心室性期外収縮 (VPC)7例,第2度房室ブロック2例,心房細動(AF)1例,心室内変行伝導(AVC)1 例,心室内伝導障害1例,電気的交互脈1例であった。一般的に生理的な不整脈であると されているSAを除いた場合には,RIRにおける不整脈の発生率はRIR以外の純血種群 (p〈0.001)あるいはRIRの交雑種群(pく0.01)と比較して有意に高かった。今回の検索結 果からRIRに不整脈が好発していることが明らかとなった。
2・自然発生性の不整脈を有するニワトリにおける心臓の病理学的観察 RIRにおける不整脈の好発性の原因を明らかにするために,RIRの不整脈例(VPC,AVC, VPE,APC,AF)18羽とJGの不整脈例(VPE,APC)4羽,ならびにRIRを含む4種類(RIR, JG,WL,RIRXJG)の正常洞調律例161羽を用いて心臓の病理学的検索を実施した。心臓に 観察された主な病変は,壁内冠状動脈における細胞性あるいは細胞・線維性内膜肥厚とそ れらに随伴して認められた問質性および血管周囲性の心筋線維化であった′⊃重度の血管病 変は不整脈例の72・7%(RIR:83.3%,JG:25.0%)に,そして正常洞調律例の16.8%(RIR: 48・5%,JG:8・2%,WL:13・6%,RIRXJG:2.9%)に観察された。重度血管病変の発生率 について不整脈の有無および品種間で比較したところ,RIRの不整脈例はJGの不整脈例お よびRIRの正常洞調律例よりも有意に高い発生率を示した(p〈0.05)。以上の結果から, RIRにおいて壁内冠状動脈の硬化性変化がより高率に見出された現象が,RIRにおける不整 脈の好発性に関わっていた可能性が指摘された。 3・ロードアイランドレッド種ニワトリにおける自然発生性不整脈および壁内冠状動脈病 変の出現時期 RIRにおける不整脈の好発性と壁内冠状動脈の硬化性変化(内膜肥厚)との関連性を明ら かにする目的で,RIR60羽および吼60羽を用いて,不懲脈と心室の壁内冠状動脈における 硬化性変化の発生時期に注目しつつ,卿ヒ直後から12カ月間にわたって経時的な心電図検 査および心室の病理学的検索を実施した。,不整脈は7カ月齢∼12カ月齢のRIRlO羽に観察 された(APC3羽,VPC3羽およびVPE4羽)。しかしながら,WLでの発生は認められなか った。また,壁内冠状動脈病変の発生率および程度はRIRにおいて月齢とともに増大する 傾向を示した。,重度内膜肥厚病変の累積発生率について両品種間で比較すると,RIRは吼 よりも有意に高かった(pく0.001)。さらに,RIRにおいて不整脈例での重度内膜肥厚病変 の発生率は,非不整脈例に比べて有意に高かった(pく0.01)。これらの検索結果から,RIR における不整脈の好発性には壁内冠状動脈の硬化性変化が密接に関わっていることが示唆 された。 4・ロードアイランドレッド種ニワトリの実験的ビタミンBl欠乏における心電図の変化 RIRにおける不整脈の好発性が,RIRのVBl欠乏に対する高感受性に関わっているか否か を検討する目的で,解化後30日のRIRと吼の雛20羽づっにVBl欠乏飼料を,対照群とし
てそれぞれ10羽にVBl含有配合飼料を給与し,その療に発生する不整脈について17日間に
わたって詳細な心電図学的検索を行った。実施期間中,RIR,札ともに対照群では不整脈お よび心電図波形の異常は全く認められなかったが,VBl欠乏群ではRIR8羽および札4羽 に4種類の不整脈が見出され[洞性徐脈(RIR‥2羽,吼:3羽),洞房ブロック(1,0), 洞停止(3,0),SA(2,1)],さらにRIR,札それぞれ6羽に心電図波形の異常が 認められた[T波の変形(5,3),S-′rの上昇あるいは下降(1,3)].。これらの 不整脈および心電図波形の異常の発生率について,VBl欠乏群は対照群よりも有意に高かっ たが(pく0・001),VBl欠乏群のRIRとWLの間に有意な差は認められなかった。以上の結果-116-から,RIRにおける不整脈の好発性には,RIRのVBl欠乏に対する高感受性が直接関わって いた可能性は低いものと考えられた。 結論として,1)ニワトリにもヒトを含めた他の動物種と同様の不整脈がみられること, 2)ニワトリの中でも特にRIRに不整脈が好発すること,3)RIRにおける不整脈の好発性 には,心筋線維化を伴った壁内冠状動脈の硬化性変化が密接に関わっていること,ならび に4)RIRが不整脈の病態動物モデルとして有用である可能性が示唆された。 審 査 結 果 の 要 旨 医学および獣医学領域における不整脈の研究は古くから行われており,多くの研究成果が報告されて いるにもかかわらず,不整脈の発生機序ならびに病態の解明は未だ十分ではなく,不整脈の実験モデル の開発が望まれているQ特に不整脈作出のために実験的に供用されているピーグル犬を含む家庭犬など の動物は・倫理的観点から実験動物としての使用に制約が設けられている現状にある。このような背景 のもとに,著者は,心電図学的ならびに心臓病理学的立場から,家禽としてのニワトリを不整脈の病態 モデルとして用いることの可能性および不整脈の病理発生を検討するため本研究を実施した。 1)ニワトリに自然発生する不整脈の心電図学的検討:純血種としてロードアイランドレッド種(RIR), シヤモ種(JG)および白色レグホン種(WL)の3種類,RIRXJG,(RIRXJG)×JG,RIRXWLおよびRIR XDAL(デカルプアンバーリンク)のRIR交雑種群の4種類,計7種類461例において,107例(23.2%) に9種類の不整脈が認められた0最も注目された点は,不整脈がRIR純血種に最も頻発していることで ある0また,ニワトリにおける自然発生性不整脈として認められた中で,心房性期外収縮,心房細動, 心室早期興奮症候群・心室内変行伝導,心室内伝導障害,電気的交互脈,および第2度房室ブロックに 関する報告はいまだ見あたらない。 2)不整脈例における心臓病理学的検討‥RIRおよびJGの不整脈例(22例),RIRを含む4種類の正常 洞調律例(161例)の心臓病理学的検索の結果,不整脈例においては壁内冠状動脈における重度の病変 として,細胞性あるいは細胞・線維性内膜肥厚と,それら血管病変に随伴する心筋線維化が認められた。こ れらの病変は先人がブロイラー等で指摘している所見と一致していたが,本研究ではRIR例により高率 に見出され,RIRにおける不整脈の発生と病変とは密接な関係にあるものと思考された。 3)RIRにおける自然発生性不整脈および壁内冠状動脈病変の出現時期:RIR例における不整脈好発性と壁 内冠状動脈の硬化性変化(内膜肥厚)との関連性を明確にするため,RIR60例および吼60例を卿ヒ直後から 1カ年の間に及び・経時的に心電図検査および心室の病理組織学的検索を実施した。不整脈の発生はRIR例 のみに認められ,重度の動脈病変はWLよりRIRに頻熱こ認められ,実験的にRIRにおける不整脈例の好発 性には壁内冠状動脈の硬化性変化が重要な役割を演じていたものとみなされた。 4)RIRの実験的ビタミンBl(VBl)欠乏における心電図の変化:VBl欠乏に対する感受性はWLよりもRIR がより高い傾向を示すという先人の報告を踏まえ,矧ヒ後30日齢のRIRと札について,Ⅶ1欠乏群と対照 群に大別し,心電図学的検索を実施したQその結果,不整脈および心電図波形の異常の発生率は,Ⅷ1欠乏群 が有意に高かったotしかし・RIRと札間には有意差が認められなかった。このことから,RIRにおける不整
脈の好発性には,RIRのⅦ1欠乏に対する高感受性が直接関わっていた可能性は低いものと思考された。 今回の研究結果は,鳥類の心臓刺激伝導系の形態は噛乳類のそれと異にするが,ニワトリにはヒトを含め た他の動物種と同様の不整脈が認められ,特にRIRには各種不整脈が好発し,RIRは不整脈の病態モデルと して十分に有用性が有ることを明らかにしている。そして,RIRにおける不整脈の好発性には心筋線維化を 伴った壁内冠状動脈の硬化性変化が密接に関わっていることが示され,不整脈の病理発生に新知見を加え た。また,今回の成果は伴侶動物としての鳥類の臨床分野においても有効な基礎資料を提示しているものと 思われる。 以上について審査員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合獣医学研究科の学位論文として十分価値あ るものと認めた。