• 検索結果がありません。

医療法人の発展と医療法人制度改革の展開 : その活性化をめぐって

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "医療法人の発展と医療法人制度改革の展開 : その活性化をめぐって"

Copied!
18
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

医療法人の発展と医療法人制度改革の展開 : その

活性化をめぐって

著者

塚原 薫

雑誌名

名古屋学院大学論集 社会科学篇

49

3

ページ

107-123

発行年

2013-01-31

URL

http://doi.org/10.15012/00000165

(2)

Ⅰ はじめに  よく知られているように,日本の医療提供体制は「公」的な国民皆保険制度の下,「私」的な 民間医療機関を中心に構築されている。こうした医療システムは戦前に基盤が形成され,戦後, 医療崩壊からの再建を経て築きあげられた。なかでも「私」を中心とした医療提供体制は,1874 年に公布された医政を発端とする自由開業医制度の確立と,1950 年に創設された医療法人によ る医療機関の隆盛によるところが大きい。もちろん,これらに起因する様々な弊害,たとえば地 域における医療機関の偏在なども抱えてはいたが,地域医療政策の基幹医療機関としての役割を 主に公的病院等が担うことで,これを日本の医療サービス提供体制の基礎としてきたのである。  その一方で,医療を取り巻く環境は,急速な少子高齢化の進展や医療の高度化,長引く経済基 調の低迷などから大きく変化し,医療費の伸びと経済成長との間の不均衡が拡大した。このよう ななか,近年,経済・社会構造改革が推し進められ,医療分野では医療費の適正化を主軸に,こ れからの医療提供体制のあり方が大いに問われることとなった。そして,国立病院ならびに国立 診療所の整理・合理化や公立病院改革も含め,民間活力の導入を視野に,医療機関に係わる経営 の近代化・効率化と医療サービス提供体制の確保が急務とされた。  こうした動向は,民間医療機関の中心的な存在であった「医療法人」に大きな影響を与えた。 なぜならば,それまで医療法人の医業経営は非営利性の原則の下に置かれていたが,「民間でで きることは民間に」という構造改革の基本的な方向から,医療サービスの提供主体に営利法人の 参入が検討されるに至ったからである。また,これまで公的医療機関が担ってきた地域医療の担 い手を,今後どのような経営形態の医療機関に委ねていくのかといった問題もあわせ,既存の医 療法人のあり方を大きく見直すよう外側から重圧がかかった。そして,2006 年の医療法人制度

医療法人の発展と医療法人制度改革の展開

―その活性化をめぐって―

塚 原  薫

目  次 Ⅰ はじめに Ⅱ 医療法人の誕生ならびにその特性 Ⅲ 医療法人の発展と潜在的営利性の諸問題 Ⅳ 求められた医療法人制度の改革と活性化 Ⅴ 新たな医療法人制度の確立にむけて    ―残された課題と今後のゆくえ―

(3)

改革では,医業経営における「非営利性の確認」と,地域医療の新たな担い手となる「社会医療 法人」の新設を柱として,医療法人の活性化を目指すこととなったのである。  そこで,本稿では,こうした医療法人制度改革を,法人の制度運用や経営環境にみる歴史的経 緯の側面に内包されてきた諸問題から見直し,あらためて提供主体としての医療法人のあり方と 制度の検討をおこない,今後に求められる医療法人の課題とゆくえを考察する手がかりとしたい。 Ⅱ 医療法人の誕生ならびにその特性 1.医療法人誕生の背景  日本の「医」は,古来の祈祷と仏教伝来に伴った僧侶等による病人への薬事と看病をベースに, 中国や韓医学など諸外国から多くの医学輸入が盛んにおこなわれた。庶民の臨床の場では,漢方 医らが薬をひさぐことを家業とした開業医が活躍していた。その後も医療技術として和蘭医学や 西洋医学が移入されたが,明治政府は「医制」の発布(1874 年)により西洋医学一元化を目指し, 医師の資格の制度化とともに自由開業医制がはじまった。ただ,広く一般の人々に医療を施すと いう開業医の役割は変わることなく,これらが今日の医療提供体制の基礎となっている。  現代医療システムへの進展は,戦後に重要となった衛生問題を含む医療対策,すなわち戦災に より荒廃した医療提供体制の回復と医療水準の向上を目指すことから発展する。政府は,民主化 政策の下,医学教育と医療サービスの近代化を示唆するGHQ(連合国総司令部)の主導を受け, 1948 年 7 月に「医療法」を制定した。ここでは,人々に,近代の科学的でかつ適正な医療の提供 をおこなうため,医療施設の管理,人的構成および施設構造等の面から規制を加え,近代的な「病 院」での医療に重点が置かれた。一方で政府は,国民皆保険の樹立を視野に国の支援による経済 的安定性を有した自治体立病院や日赤,済生会などの公的医療機関制度を設け,これを充実させ ることを念頭に置いていた。当初は,これらの医療施設を中心とした医療機関の整備が計画・実 施され,戦後の社会情勢下でその役割を担った。しかし,各々の整備は必ずしも同一の立場から の総合的な計画(計画的配置)として進められたわけではなく,くわえて,国や地方財政の不足 もあり,医療提供体制の整備確立のため,開業医ら私人による民間医療機関の寄与が望まれた。  ところが「医療法」では,病院の要件として,患者収容施設 20 床(従前は 10 床)以上を有し, 一定の医師ら医療従事者および診察室,処置室,エックス線装置,調剤や給食その他所定の施設 を有すべきこととしていた。また,当時の建築基準法において,防火地域内では延べ面積100m2 を超える場合は,主要構造部および外壁を耐火構造に,準防火地域内や木造の建築物にも各々の 防火構造基準が定められたことから,病院施設の建設には千数百万円程(当時)の費用が必要と みられた1) 。そのため,一個人の財をもって病院を建設,維持経営していくことは非常に困難で あったと言わざるを得ず,かといって戦後の国家財政では国庫による私人の医療機関への補助も ほとんど望めない状況にあった。そこで,これらの対策として,医療機関の開設主体に独立の人 格を有する法人格を付与することで共同出資を図る途が考慮された。  さらに,1948 年に施行された相続法の改定において,家督相続を中心とする「家」制度の廃

(4)

止により均等相続へ移行されたことで,これまで家業として医業を営んでいた開業医,すなわち 個人医師による医療機関の永続性が危惧されはじめていた。たとえば病院開設者が死亡した場 合,相続の対象となる病院の土地・建物等の財産の散逸や納税のため,病院の現状維持が不可能 となり閉鎖もやむない事態となる。そこで,安定した医療提供体制を構築するために,このよう な個人の生死から医業を切り離し,永続性を担保する一方策として法人制度によることが考えら れた 2) 。以上のことから,近代的な医療を提供する民間病院の建設ならびに,これを維持運営し ていくための配慮と対策が必要とされたのである。 2.医療法人の創設とその特性  こうして医療法人制度は,医療法制定から 2 年を経た 1950 年 5 月,同法の一部を改正する法律 により創設された。制度発足当時の趣旨は,第1 に,戦後間もない経済情勢では,近代医療を提 供する病院の建設資金等を個人集積するのは困難であり,医療機関の経営主体が法人格を取得す る道を開くことにより,他方面からの資金調達を容易にする。第2 に,医療機関の経営の持続性 を担保することを可能にする。第3 として,私人による医療機関の経営安定化を図る,というも のであった。そのため,医療機関の運営により生じた利益,すなわち余剰金の配当がおこなわれ るならば,財務内容の悪化により資本の集積と継続性が失われる可能性が生じ得ることから,医 療法第54 条に「医療法人は,剰余金の配当をしてはならない」と規定されたのである。  医療法人の特徴は,当時の厚生事務次官通達 3) に示された「病院又は一定規模以上の診療所の 経営を主たる目的とするものでなければならないが,それ以外には積極的な公益性は要求されず, この点で民法上の公益法人と区別され,又その営利性については余剰金の配当を禁止することに より,営利法人たることを否定されており,この点で商法上の会社と区別されること」にあらわ されている。つまり,医療法人は,①医業の非営利性を原則とし,②営利を目的とした経営をお こなう商法上の会社のような営利法人ではなく,他方,③とくに積極的な公益目的を要求される 民法上の公益法人でもない,④社団または財団たる社会的実体を有するいわゆる「中間法人」と いう特徴をもって誕生したのである。  もともと医療は,公共性の高いサービスという性質をもつが,医業経営には自由開業医制のも と自由競争による営利的な側面がある。とくに私人による医療機関の経営は,私的な財産を原資 とするものだけに,医療の非営利性の理念を損なうことなく法人格を定めるには,当然に曖昧さ や矛盾が生じやすい。医療法人制度創設当時,営利目的の病院経営は禁止されたが,具体的な営 利的行動の内容や行為規制は明確化されておらず,また,剰余金の配当を禁止し営利法人との区 別を示すものの,これは非営利組織体であることの一条件にすぎない。くわえて,法人経営から の社員退社時や法人解散時における出資持分たる財産の分配権が認められていた点においても整 合性に欠けていた。医療法人制度は,このような医療と医業のはざまで,営利的な経営要素を内 包した制度であり,発足当時,すでに国民皆保険の達成が視野にあるなか,公的医療機関を中心 とした医療提供体制を整えることが難しく,かといって私的医療機関の参入への要請にはなんら かの規制が必要だったこととの妥協の産物として生まれたのである。

(5)

Ⅲ 医療法人の発展と潜在的営利性の諸問題 1.私的医療機関の拡充と医療法人の発展  日本の医療需要は戦後一貫して増え続け,これとあわせて医療機関の絶対数は年々増大し,な かでも私的医療機関は年を重ねるごとに着実に拡充した。この私的医療機関が,今日の医療提供 体制の中核となった背景には,1950 年に創設された「医療法人制度」を起点としたいくつかの 施策がある。  医療法人制度の創設により,個人開業の病院から医療法人に転換する医療機関や,新たに開業 をおこなうものが医療法人として開設するケースが増加した。もちろん,一方で政府は公的医療 機関の整備も進めてはいたが,医療法人は,戦前からの自由開業医制を生かしつつ,医療機関の 荒廃した戦後の医療供給の急速な立て直しと,安定した医療提供体制の確保に大きく寄与するこ ととなった。  こうした医療法人の発展を後押しする要因となった施策として次の 3 つが考えられる。第 1 に いわゆる「医師優遇税制」である。これは,社会保険診療報酬につき72%の所得控除が開業医 師等に認められたものである。当初は個人開業医を対象とした暫定措置であったが1954 年には 医療法人にも認められた。その後,不公平税制の代表として問題視されたが,是正されるまでの 30 年余りほど手厚い税法上の優遇措置が続いた。第 2 は,1960 年の「医療金融公庫」の設置である。 それは,当時,政府が国民皆保険の実現を目指していたこともあり,国民医療の第一線の場であっ た私的医療機関の整備と拡充に必要な,長期の低金利融資をおこなうための政府金融機関として 設置された。そして,第3 に,1962 年のいわゆる「公的病床規制」の制度化があった。当時,無 医村地区等が存在する反面,すでに充足している地域にさらに医療機関が集中し,とくに公的性 格を有する医療機関が乱立する傾向にあったことから,公的医療機関の新設や増設に規制をかけ たのである。以上のような,私的医療機関への法的優遇と公的医療機関の抑制という医療政策が 主な要因となって,私的医療機関を中核とする日本の医療提供体制が1960 年代中頃には整った とみてよいであろう。  これら一連の動向の背景にあった 1961 年の国民皆保険の実現は,その後の経済成長ともあい まって高まる医療需要と出来高払いの社会保険診療報酬から,医療機関に経済的な安定と発展を もたらした。とくに,1973 年に老人医療費支給制度,いわゆる老人医療費の無料化が実施され ると,高齢者の受診や入院が増加した。そのため,診療所や病院の病床不足が生じ,全国で医療 機関の新設や増設が相次ぎ,病床数は増加の一途をたどった。このとき医療費の増加とともに増 大したのが,「社会的入院」といわれた,いわゆる「老人病院」問題であった。老人病院はすで に1960 年代に確認されていたが,一般社会に周知の事実となったのは,医療法人の営利化を問 題とする告発からである。ここで,高齢者への「薬・点滴・検査漬け」や「寝かせきり」をはじめ, 医師や看護師を極力削減するとともに付添婦を多用することで患者から高い自己負担金の徴収を 横行し,こうして生じた利益を,医療事業以外に投資運用していた実態が指摘されたのである4)  このような老人医療費の増大は,急速な高齢化の進展と経済基調の変化のなかで大きな社会問

(6)

題となり,高齢者の医療制度の枠組みと財政の調整を図る老人保健法が1983 年に施行された 5) 1985 年の第一次医療法改正では,公的医療機関のみならず医療法人を含む医療機関に病床規制 が適用されたが,現実には「駆け込み増床」という逆効果となって現れた。また,この病床規制 の見返りと目される医療法人の開設要件の緩和,すなわち従来の医師ら常時3 人以上での勤務が 常時1 人以上の勤務に規制が緩和され,いわゆる「一人医師医療法人 6) 」の設立が可能となり医 療法人の裾野が広がった。現在,このような一人医師医療法人は医療法人の8割以上を占めている。  1986 年以降,すでに私的医療機関の多くを占めていた医療法人が老人保健法による老人保健 施設の設立を政策誘導された経緯から,1990 年代前後には医療機関による,介護,福祉分野へ の参入が多くみられるようになった。1997 年には医療法人の附帯業務に老人居宅介護や在宅福 祉事業が追加され,さらに,2000 年に施行された介護保険制度の創設が,医療機関における保健・ 医療・介護の複合化への動きを加速させた。このような医業経営の複合・多角化モデルは,医療 費抑制政策が促進されるなか厳しさを増す経営環境において,患者の囲い込みを伴った収入の増 大や,関連施設の有効活用,医療従事者等のコスト削減効果を狙えたのである。こうして医療法 人は,医療政策や一段の高齢化の進展に伴う外部環境の変化を受けながらも,公立病院が淘汰さ れるなか独自の事業経営ノウハウを積み重ねながら,拡大発展をみることとなった。 2.医療事業における法人格取得と税制の問題  このような発展を遂げてきた医療法人の前身は,古くからの日本風土に根ざした家業の延長に よるものが多い。医師が個人財産を投下した資本をもとに医業を起こし,剰余金を貯蔵し,無床 診療所から有床診療所,そして病院へと規模を拡大してきたことから,典型的な経営形態として 家計と経営の分離がなされていない。医療法人はこうした医師らによる法人格の取得を容易にす るもので,法人に成るために必要とされる資金や労務の調達を,医師やその家族と親族等に依存 することが多く,同族色の強い組織体であった。そして,医師ら開設者は,個人財産を法人へ移 行するものの,その財産権に対する同族支配を継続しつつ,法人税や相続税の軽減を望んでいた。 もっとも旧厚生省は,1950 年の医療法人制度の創設にあたって,「医療法人に対する課税上の特 例を設けることは,本法の直接目的とするところではなく,これについてはむしろ医業一般の問 題として別途考慮すべきもの」としていた7) 。そのためもあったのであろう,医療法人制度によ る法人格取得に際し,多くの開設者は医療法人のなかでも財団形態による法人格取得を目指した。  ところが,1952 年 3 月の相続税法一部改正により,財団等,公益を目的とする事業をおこなう 法人に対する財産の贈与または遺贈に因り,親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続 税の負担が不当に減少すると認められるとき,この法人を個人とみなし相続税が課せられること になった。さらに,この改正規定は同年1 月 1 日以降に遡及して適用されたため,当該日以降に 認可を受けて設立された財団医療法人(全国で約160 法人)がその影響を受けることになった 8) そこで国税庁は医療法人に対し,寄附行為から出資による社団に切り替えるならば法人として課 税しない旨通知したことから,資金力が十分でない法人は出資に切り替えざるを得ず,ほとんど の財団たる医療法人と財団による設立を申請していた開設者は,持分の定めのある社団に切り替

(7)

えることとなった。以後,医療法人の設立は「持分の定めのある社団医療法人」が主流となった のである。同時に,旧厚生省が示した当該法人のモデル定款には,「社員資格を喪失した者は, その出資額に応じて払戻しを請求することができる」と示されたため,多くの開設者が同様にこ の文言を記載した定款を定めた9)  しかしながら,この「持分の定めのある社団医療法人」は,前述したように相次ぐ医師優遇税 制やその後の経済成長と医療保障の充実により,医療法人の経営基盤が安定拡大するとともに大 きな税制問題を抱え込むことになった。医療法人は,その運営が順調に進むと内部留保の剰余金 が累積され,また,保有する土地などの資産評価額が高くなると資産の総額が増加し,出資分の 時価が増加する。ところが,こうしたことは一方で,たとえば相続時の出資持分に対する課税評 価や実際の相続・みなし贈与に関する税負担に問題が生じたり,社員の退社時において定款に定 める出資持分の払戻しに関し争いを生じさせる因子ともなった。これらは,結果的に事業承継の 障壁となって,医療法人創設の趣旨でもあった医業の継続性を揺るがすことに繋がった。このよ うに,医療法人は医療法上の法人組織であったため,医業の公益性・公共性,財産の帰属,そし て税制との整合・調整が図られないまま,制度の運用が続いたのである。  こうしたなか,医療法人の税制問題を解決する一選択肢として租税特別措置法による「特定医 療法人」が1964 年に創設された。特定医療法人は,出資持分に相続税が課されないという相続 税対策の側面をもち,かつ,法人税の軽減も実現した。また,既存の医療法人からの移行に対し ても,当時の大蔵省・国税庁・厚生省の3 者の覚書により課税関係は生じないとされた。ただし, 出資持分の放棄や非同族化,社員・役員の報酬制限などの設立要件が規定され,公的な運用によ る医療の普及および向上,社会福祉への貢献その他公益の増進に寄与することを国税庁より要求 された。さらに,1997 年には同族支配の制限や残余財産の帰属先の制限を設け,法人の財産が 個人に帰属することなく公的な運営を確保し,地域において安定的かつ公正な医療を提供できる 主体として,厚生労働大臣の定める収益事業をおこなうことができる「特別医療法人」が制度化 された(ただし,法人税の軽減は無く,2012 年 3 月廃止)。しかしながら,多くの医療法人開設 者は出資持分の保持と同族支配を継続しつつ,法人税や相続税が軽減されることを望んでいたこ と,くわえて,役員等の報酬制限や高い施設要件への抵抗もあり,結果,双方の医療法人を選択 するケースは極めて限定的となったのである。 3.医療法人の潜在的営利性の諸問題  日本の医療サービス市場の多くは,社会保険診療を基礎とした国民皆保険下にあり,公的規制 が強い。この市場において医療法人には自由な医療事業活動が許されているが,自由なりに,た とえば社会保険診療報酬の不正受給や医師等による脱税行為が後を絶たないといった側面もあ る。もちろん,社会的仕組みとして医療法(第7 条,第 54 条)上に,非営利性規定(営利を目的 とせず,利益の配当禁止)を謳い,利益や蓄積される余剰金の獲得を目的とする行為により,医 療の質を落とすことがないよう求めている。しかしながら,出資持分の放棄にまで及ぶ公益性を 求めなかったことから,税法上は,一般の営利法人と同等とされた。このことが,医療法人を中

(8)

間法人として営利性と非営利性のはざまに置く大きな要因となったといっても過言ではない。  もっとも,営利,非営利を分別する基準を明確に示すことは難しい。非営利の概念を活動上の 目的として捉えると,利益はミッション(医療サービスの提供)の最大効果を得るための手段と なる。これに対し,利益獲得の最大化が目的となれば営利とみられるが,営利目的であるかどう かを事業目的や内容により区別するのか,それとも社員(出資者)に対して利益を配分するか否 かで判断するものか,はたまた,このような区分の双方ともに要件とするべきという考え方もあ る。また,利益配当に関しても,実際の会計期間における一定期間の利益配当のみならず,記念 配当などの特別配当や残余財産の分配も,内部留保された利益や蓄積されてきた利潤の配分にあ たる。つまり,「持分の定めのある社団医療法人」に危惧される,法人の解散や事業承継問題の 要となる社員権の相続,社員の離脱時に生じる残余財産権の処分,さらに,法人のM & A によっ て将来の利得を含んだ評価で譲渡されることも,実質的な配分にほかならない。  この持分の定めのある社団医療法人を中心に,その経済的行動について property rights(所有 権)10) の経済学的アプローチから研究をおこなった知野(2009 11) )は,非営利性規則が所有権の 内容の一部,すなわち残余利益請求権を制限することを意味しているとした上で,「制約条件で ある非営利性規制が医療法人にとって営利追求の経済的インセンティブを弱めるものではないと いう経済的合意が得られる」と述べている。その経済的合意として,①現実の政策的観点から経 営主体の利益追求行動の監視に関する経済的問題,②非営利性の経済的機能を弱める制度的要因 がわが国の場合に存在,③医療サービス提供の収入を通じた独立採算性の確保のため経済的イン センティブが相対的に強く働く,ということをあげている。そして,たとえば②制度的要因とし て,先に触れたように残余利益請求権が最終的に医療法人の出資者に帰属するという意味では, 非営利性規制が現行の医療法人に対して剰余金獲得の動機を抑制させるものではないとしている。  実際,出資者は投下した資本の回収目的もあったであろう,理事長をはじめとする構成社員へ の高額な報酬や,社員若しくはその親族らが所有する医業用土地・建物に高額な賃借料が支払 われるといったケースが数多く指摘されている。また,医療法人の関係者らがMS 法人(メディ カルサービス法人)12) と呼ばれる医療周辺サービス事業をおこなう営利法人を設立し,合法的に 医療法人の所得をMS 法人に分散して,その MS 法人において配当行為を可能にすることができ た。このようなMS 法人は,節税を目的に医療法人の業務の一端を担わせる外注先として登場し, 1960 年代後半に「薬局法人 13) 」や「医療設備法人 14) 」と称され,全国的に広がったものがその 前身となっている。このような医療法人と関係の深いMS 法人は,診療行為以外の医業の合理化・ 効率化,医療法人関係者の雇用の確保といった側面もあるが,多くは医療法人の節税対策の有効 な手段として,拡大・発展した。やがてMS 法人のなかには,たとえば株式会社であれば医療法 人関係者等が出資した株式を売買譲渡の対象とし,これを外資系医療機器会社等が高額な対価で 買取ることで子会社化したMS 法人を媒介し,当該医療法人の実質的な経営権を持つなど,医療 法人と不適切な取引をおこなうケースも発生した。こうした医療法人の経営に伴う様々な行為は 医療の非営利性を浸食し,医療法人の営利性を潜在化させたが,これらを監視する制度的な方策 や機能もなく,いいかえれば,腐敗ともいえる構造が医療サービス市場で成り立ってきたのである。

(9)

Ⅳ 求められた医療法人制度の改革と活性化 1.医療サービス提供体制の構造改革  近年,医療システムを取り巻く環境は,少子高齢化の進展,経済基調の変化,医療技術の高度 化,そして,疾病構造や人口構造なども大きく変化している。くわえて,人々の医療や介護への ニーズも多様化し,また一方で,医師や看護師をはじめとする関係従事者の不足と偏在もある。 こうした医療・保健・福祉分野の問題は国民医療費の高騰という形で顕在化し,1980 年代はじ めには行財政改革のなかで,その抑制が大きな課題となった。そして,医療費の伸びと経済成長 との不均衡の是正を図るため,医療費の適正化を主軸とした医療保険制度の見直しのみならず, 医療提供体制にも効率的な医療サービスの提供が求められた。そこで,先述した第一次医療法改 正(1985 年)において,病床規制の導入をはじめ,医療機関に関する医療提供体制の計画的整 備と国立の医療機関の整理・合理化に向けた措置を順次講ずることとなった。  まず,国立病院ならびに国立診療所については,1987 年 9 月に制定された「国立病院等の再編 成に伴う特別措置に関する法律」を起点に,その役割を高度専門医療へ特化させるとともに,国 が担うべき政策医療 15) について,その機能を適切に遂行できない施設には,統廃合や合理化, 若しくは地方自治体への委譲を促進した。その後,2002 年 12 月に成立した「独立行政法人国立 病院機構法」により,2004 年 4 月には,国立高度専門医療センターおよび国立ハンセン病療養所 を除き,全国の国立病院・診療所が独立行政法人化された。この間,公立である全国の地方自治 体病院においても,全体の約7 割が赤字経営といわれるなかで,自治体が提供する公共サービス のあり方を含め,抜本的な見直しが求められた。しかし,これまでと同様,全面的な公営に依拠 する形態のままでは経営の改善に限界があることから,地方公営企業法の一部・全部適用,地方 独立行政法人化の他,指定管理者制度やPFI 事業方式といった民間手法の導入が積極的に活用さ れることになり,あわせて民間委譲も促進された。  こうした動向と同時期,他方では,国内外の要請でもある内需拡大,市場開放を前提とした日 本経済活性化を目指す規制緩和・改革が進められた。従来,医療分野は,人々の生命に直結する も不確実性が伴い,公平性が求められるも情報の非対称性があることなどから公的規制の強い分 野とされてきたが,今後は公私の適切な役割分担と民間活力の導入による,効率的なサービスの 提供が目指されたのである。そこで,企業の経営ノウハウを生かした医療の質の向上,医業経営 の効率化・合理化を探るため,多様な経営形態による医療サービスの提供が模索されていく。  このようななか注目された医業経営への営利法人参入の問題は,もともと,1989 年に経済企 画庁医療ビジネス研究会が提案した「営利法人による病院経営の解禁」が発端であった。その後, この是非をめぐる検討がトーンダウンすることもあったが,2000 年代に入ると経済・社会構造 改革のなかで,医療分野の新自由主義的な抜本改革の大きな柱の1 つとして,国内外の政府や経 済産業界,医療関係機関やその関係者,有識者等を交え,神学的論争を繰り広げることとなっ た 16) 。営利法人による医療サービスの提供が,非営利の法人のそれよりも社会的に望ましいもの となり得るのか否かが大いに問われたこの論議は,結局,営利法人の参入を認めるべきとの論拠

(10)

を論証・確認するには至らなかった。最終的には,特区での自由診療で高度な医療17) について のみ営利法人の参入が可能となったにすぎなかった18) 。ところがその一方で,この論争によって 焦点となった医療の非営利性の原則,すなわち医療法上,営利を目的として医療事業をおこなっ てはならないという建前のもと法人化を認められている医療法人の経営実態に,様々な疑義が生 じたのである。 2.医療法人制度改革の 2 つの課題  いわゆる「医業経営への株式会社参入問題」は,推進派が「日本の医療機関の多くを占める医 療法人の現状が,欧米諸国でいう非営利医療機関19) とは異なり,形式上は利益の配当が禁止さ れているが実態的には営利組織との中間に位置され,実質の配当行為が横行している」という切 り口から議論を進めていたこともあり,医療法人に関して詳細な精査がおこなわれる。医療法人 制度は,1950 年に非営利性を基本理念とする医療法上に定められたが,すでに創設から半世紀 を過ぎ,制度疲労の状態に陥っていた。人々は,医療法人が非営利組織である,もしくは,そうあっ てほしいとする存在と認識していたが,医療法人の多くは財産の帰属先が出資者にある,同族支 配の極めて強い家族的で閉鎖的な経営形態にあったことから,財産権に起因する税制問題が制度 創設時より内包されたままに発展した。そして,唯一,この医療法人の非営利性を担保する剰余 金の配当禁止規定が,先述したように報酬や賃借料等の様々な名目による高額な支払いを通じ事 実上の配当をおこない得ること,また,剰余金の内部留保による個人財産の蓄積や解散時の残余 財産の分配が可能であり,その機能が失われていることも確認された。さらに,MS 法人等を媒 介し,事実上,医療法人の経営が営利法人に支配されているという事例が存在することなどから, 医療法人制度における「非営利性」の形骸化が指摘された。株式会社参入論議の反対派は「株式 会社形態をとる医療機関によって自己利益追求に向けた行動をとる結果,患者の利益が損なわれ る恐れや全体として医療費の増加を招く」と論じていたが,すでに,非営利とされる医療法人と いう法人形態において,潜在的に利益追求的な経営行動が数多くみられることから,法人の「非 営利性の在り方」が改革の大きな課題となった。  また,一方で,国立病院・診療所の統廃合や地方自治体への委譲が推進されるなかで,地方自 治体病院では民間の積極的な活用や民間委譲が相次いでいることから,民間非営利部門である私 的医療機関には重要な役割が期待されるようになっていた。そこで医療法人には,国民が求める 医療サービスのなかでも,これまで公的医療機関が担ってきた地域の救命救急医療やへき地医療 など,採算性の厳しい,しかし地域社会になくてはならない医療サービスの提供の新たな担い手 となることが望まれた。こうした動向の背景には,これからの日本の社会システムとして,政府 部門や市場経済を中心とした民間営利部門だけでは対応が困難な様々な社会ニーズに対応してい くため,その役割を個人や法人の自由で自発的な民間非営利部門に積極的に位置づけ,公益的活 動を促進する取り組みがあった。もちろん,既存の医療法人が地域医療の中核の医療機関として 救急医療の要となっていたり,公益性の高い医療事業への貢献や公的な運営を趣旨とした特定・ 特別医療法人の存在もあった。しかしながら,公的医療機関や医療法人の医業収入となる社会保

(11)

険診療報酬の体系には差がなかったものの,医療法人には,公的医療機関のような補助金や赤字 補てん,そのほか各種の非課税制といった措置はなかった。そのため医療法人のなかからも,医 療に公共性や公益性があるにもかかわらず官のみ公があるということのないよう,施策を整のえ る必要性があるとの声があがっていた。こうしたことから,医療法人にも公益法人や社会福祉法 人と同様,官民イコールフッティングが目指せる「新たな医療法人の創設」という制度そのもの の活性化が,医療法人制度改革のもう1 つの重要な課題となったのである。 3.医療法人の活性化と新たな役割  2006 年 6 月に成立した第五次医療法改正における医療法人制度改革の目的は,地域の医療提供 体制が行政主体から民間主体へと転換しつつあるなか,「営利を目的としない」民間非営利部門 の医療法人の使命として,公的な医療機関と同様「地域で質の高い医療サービスを効率的に提供 する」ことである。くわえて,「公益性の高い医療サービスの提供」を医療法人が自主的に担っ ていけるよう制度を再構築していくことにある。  そのために,まず,医療法人の非営利性の在り方に疑念が生じないよう,「営利を目的としない」 とする考え方の整理と方策が求められた。この「営利を目的としない」については,2004 年 11 月に公表された「公益法人制度改革に関する有識者会議報告書」で示された,社団形態の非営利 法人の社員における権利・義務の内容について,ア)出資義務を負わない,イ)利益(剰余金) 分配請求権を有しない,ウ)残余財産分配請求権を有しない,エ)法人財産に対する持分を有し ない,とし営利法人との区別を明確にするべきことが再確認された。そのため非営利を原則とす る医療法人のなかでも,財産の帰属先が個人の出資者たる「持分の定めのある社団医療法人」へ の対応が必要となった。そこで具体的な方策として,非営利性の徹底のため,①持分の定めのあ る社団医療法人の廃止と,②新法施行日以降の医療法人の設立申請は財団または出資持分なしの 社団に限定された。また,③「残余財産の帰属先」の制限が示され,帰属先には,国,地方公共 団体,公的医療機関の開設者,財団または出資持分の定めのない社団医療法人,そして,都道府 県医師会または群市区医師会のうちから選定することが定められた。さらに,④持分の定めのあ る社団医療法人に代わるものとして,基金拠出型医療法人 20) という仕組みが医療法人に含まれ るかたちで制度化された。ただし,既存の持分の定めのある社団医療法人(含む出資額限度法 人21) )には,「当分の間」これら新法の適用はなく,経過措置型医療法人として存続し続けるこ ととなった 22)  一方,地域医療の新たな担い手となる「社会医療法人」が創設され,「救急医療等確保事業」 として不採算医療ともいわれる救急医療,周産期医療,小児(救急)医療,へき地医療,災害医 療のいずれか等を担う役割が求められた23) 。同法人には,公益性の高い医療サービスを提供する 主体という位置づけから,その認定や公的運営に関し高い要件が規定されたが24) ,その反面,法 人の自主的な経営基盤の強化と安定的な経営を図るための方策として,法人税や固定資産税など の税制面において格段の優遇措置25) が講ぜられるとともに,社会医療法人債の発行,所定の収 益業務や第1 種社会福祉事業の一部実施も認められた。こうして,漸く医療法人制度のなかに医

(12)

療事業の非営利性と公益性と税制の整合性がとれた,社会医療法人が登場することになり,同時 に既存の特別医療法人は2012 年 3 月末をもって廃止された。再構築された医療法人制度の体系を 図解すると,以下のようになる。  社会医療法人は,もともと同族要件などの法人要件が類似する特定・特別医療法人からの移行 や,関西圏のように以前から地域の救急医療の多くを私的な民間医療機関が担っていた都市部に おいて申請認定が順調に進んだ。そして,2012 年 4 月 1 日現在,168 法人 184 施設となったが, いまだ社会医療法人が存在しない地域もある26) 。また,法人認定の必須要件とされる救急医療等 確保事業のうち,精神を含む救急医療事業での認定を受けるケースが多い反面,社会問題ともなっ ている周産期や小児救急医療事業での認定は捗々しくない 27) 。社会医療法人が公的医療機関に代 わる役割を十分に果たすためには,たとえば都道府県単位での必要な医療に似合う施設数や病床 数が必要となるであろう。一方,社会医療法人の創設は,医療法人に「社会」という冠が配され たことで法人組織に対する透明性が高まり,地域からの信頼のみならず法人職員一人一人の意識 や責任感を向上させる原動力ともなっている。また,税制をはじめとする各種の優遇措置によっ て社会医療法人の財務状況が大きく改善,好転し,経営の安定化が図られることで,十分な施設 整備や高度医療機器の充足,医師・看護師等の人材育成・確保についても注力できるようになり, 総じて地域での医療事業の継続性が担保されやすい環境づくりが可能となった。  今後は,医療法人制度を地域の特性や実情にあった運用と利用しやすい魅力的な法人類型に改 善していくことが行政に求められ,医療法人には,これまで培われた民間の経営ノウハウを生か しつつ,質の高い医療サービスを効率的に提供することが求められる。そして,地域の人々(地 域住民や患者とその家族)から信頼されること,くわえて,地域住民への目にみえる貢献が医療 法人に期待されている。 図 1 医療法人の新体系 筆者作成

(13)

Ⅴ 新たな医療法人制度の確立にむけて ―残された課題と今後のゆくえ― 1.「非営利性」原則に残された課題  古くから「医」という行為は「仁術」と「算術」という相容れぬ表現で語られてきた。医療法 では制定以来,医療が直接人々の生命や身体にたずさわることから,医業を利益目的としておこ なうことを禁止し,「医療法人は剰余金の配当をしてはならない」との規定をもって,営利性の 排除,すなわち非営利性の根拠の拠り所としてきた。その非営利性の形骸化を問われた大きな要 因が,出資持分の定めのある社団医療法人における社員の払戻請求権の行使に伴なう事実上の利 益配分や,法人組織の解散などで生じる残余財産の帰属先であった。  そこで,2007 年 4 月 1 日に施行された医療法人制度改革では,形骸化した医業経営の非営利性 の原則をあらためて強化するため,個人財産権を有する出資持分の定めのある社団法人形態によ る医療法人の新設を廃止するとともに,残余財産の帰属先を国や公的医療機関等とする制限を設 けた。しかし,既存の出資持分の定めのある社団医療法人については,「当分の間」経過措置と して特段の事情が生じない限り,期限の定めのない存続が認められたのである。そのため,制度 改正直前には当該医療法人の従前の既得権益を得るべく,駆け込みの法人成りという現象が数多 くみられた。厚生労働省の調べによれば2011 年 3 月末現在の医療法人総数 46,946 法人のうち, 問題のあるとされた既存の出資持分の定めのある社団医療法人が42,586 法人あり,全体の 9 割が 経過措置型医療法人と称され存続している。この現状からすれば,いまだ医業における非営利性 の担保は,その原則との間に大きな乖離があると言わざるを得ない。新制度への移行は,当該医 療法人の自主性に委ねられているが,本来であれば,一定の猶予期間と出資者への財産権保護の ための税制措置とを併わせて講じ,移行を促進する政策誘導が必要不可欠である。  もっとも,非営利性の形骸化はこうした医療法人の法人形式ばかりではなく,法人の運用面 にみるMS 法人など営利法人との不適切な利益供与の関係によるところも大きい。厚生労働省は 2012 年 3 月,「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認 28) 」において,原則,医療法人の役 職員と営利法人等の役職員を兼務していないこととした。しかし,これは技術的な助言にすぎず, ここで具体的に必要とされるのは,医療法人の社員や役員ならびにその親族,くわえて外部評議 員等への営利法人等を通じた特別な利益供与の防止策である。そのためには,たとえばMS 法人 を含めた連結財務諸表を導入する「医療法人会計基準」を適用し,その「情報開示」を一般に義 務付けることで,営利法人との取引内容の透明性や健全性を図ることが望ましいと考える。 2.医療法人制度の本質にある医業の「継続性」  人々に必要な医療サービスが,各々の地域で安定的に継続して提供されるためには,医療機関 の事業の「継続性」が欠かせない。戦後の厳しい環境のなか,医療法人を制度として整備し,法 人化した根底には,こうした医療提供体制を確保するという意図があった。そして,医療法人制 度創設はその後の国民皆保険の実現に大きく寄与し,今日では医療提供体制の中核を担うまでに 発展した。ただ,実際の制度運営にあたっては,税制をはじめ一人医師医療法人といった開業医

(14)

等への保護政策的な側面が色濃く映し出されたことから,医療法人の裾野が拡大するにつれ「一 定規模の要件を満たし地域の中核として医業展開することにより,公共にして希少性を有する」 という医業の公益法人的な性格は,薄れることとなった。  同時に,医療法人の多くは,個人的,家族・同族的な脆弱な組織体のままに医療や医療機関経 営の近代化が進み,潜在的な営利性を抱えた閉鎖的な経営形態に陥った。そのため,最も身近で あった地域の人々の必要とする医療サービスの提供にこたえることを見失いがちになったことも 否めない。本来であれば,医療法人制度の発展過程において台頭した,医療の普及や公的な運営 による公益増進への寄与等が求められた特定医療法人や,地域における安定的な医療の提供に資 するとされた特別医療法人が広く根付くことが重要であったと考える。こうしたことから医療法 人制度改革では,これまで医療法人に明確に示されなかった「地域医療の担い手」という役割を 課し,医療法人制度の運用をこの趣旨を主軸に再構築するに至った。今後,新たに創設された社 会医療法人を含め,必要に応じて制度を見直し,改善を重ね,地域医療の基盤整備と持続可能な サービスの提供を図るための施策として,医療法人制度が機能することが求められる。 3.おわりに  半世紀を経ておこなわれた医療法人制度改革は,これまで述べてきたような特殊性をもった医 療法人に,その理想像ともいうべき社会医療法人を創設させた。と同時に,新しい医療法人制度 下では出資持分の定めのない医療法人のみの認可となったことから,一見,これまでの医療法人 制度とは一線を画したようにみえる。しかしながらその実態は,医療法人のほとんどが既存の経 過措置型医療法人であったり,組織的に個人経営と同等な一人医師医療法人であることから,同 族支配の極めて強い家族的で閉鎖的な経営形態から脱皮できず,潜在的な営利性は払拭されてい ない。  医療法人には,自ら医業経営における透明性を強化するとともに事業の継続性を確保すること で人々との信頼関係を築き,なお一層,地域医療の中核を担う提供主体としての役割を十分に果 たすことが期待される。そのためには,本改革の画竜点睛を欠くことのないよう,先述したよう に外観から判断のつかない経過措置型医療法人に対し,新法における医療法人への移行を促すこ とが必要であろう。あえて言うならば,移行できない経過措置型医療法人や一人医師医療法人を 解散し個人経営に戻すことを検討するなど,最低でも,医療法人は医療法における医業の非営利 の原則を確保してしかるべきである。なぜならば,医業収入の大部分を占める診療報酬の多くが, 日本の医療保障を支える国民皆保険制度の財政,すなわち公的社会保険方式で成り立ち,くわえ てその保険財政への公費投入が拡大する現状からすれば人々の拠出した税金の使途の問題ともな るからである。  医療分野という社会的規制の強いなかにあって,医療法人は良くも悪くも民間の経営ノウハウ を十分活用し,医療提供主体としての存在を確固たるものにしてきた。このようななかで進めら れた医療法人制度改革は,規制緩和の流れに逆行して,ある意味,規制の強化につながるものと なったが,医療事業の継続性と地域医療の担い手という社会的使命との調和を目指す方向に進む

(15)

ことに期待したい。 注 1) 河野鎭雄,室三郎(1950)『醫療法人制度の解説』東京医政社,2 頁。 2) 『前掲書』,3 頁。 3) 「医療法の一部を改正する法律の施行に関する件」(昭和 25 年 8 月 2 日),第一(一般事項)2,発医第 98 号, 各都道府県知事あて厚生事務次官通達。 4) 岡本祐三(1996)『高齢者医療と福祉』岩波書店,72 頁。 5) 老人保健法は,老人医療費支給制度の実施に大きく影響を受けた老人医療費の急増による,とりわけ高 齢者の加入率の高い国民健康保険の財政負担の見直しを背景に,高齢者の患者へ医療費の一部負担を導 入するとともに各健康保険からの拠出金を設け,高齢化社会の到来と疾病構造の変化に対応する保険事 業を含む新しい制度として創設された。なお,これにより老人医療費支給制度は廃止された。 6) 一人医師医療法人は,既存の医療法人の範囲内にあり,法的に同じ存在,同じ意味をもっている。当該 法人の出現は,医療法制定以前から変則的に存在した有限会社による診療所の吸収,消滅を促す派生効 果があった。しかし,一人医師医療法人の法人成りは,医療法人制度創設時に意図された医療事業の継 続性や永続性よりも,個人事業における累進所得税と法人開設後における法人税とを比較し,どちらが 節税対策として有効であるかといった点に医療事業者の関心を移させることとなっていった。 7) 「医療法の一部を改正する法律の施行に関する件」(昭和 25 年 8 月 2 日),第一(一般事項)5,発医第 98 号, 各都道府県知事あて厚生事務次官通達。 8) 記念誌編集委員会委員長大塚量編著(2001)「医療法人半世紀の歩み―創立五十周年記念誌―」,社団法 人日本医療法人協会,142 頁。 9) 1957 年に示された同省の解釈例規では,当該払い戻しは,退社当時当該医療法人が有する財産の総額を 基準として,当該社員の出資額に応ずる金額でなくても差し支えないものと解するとされていた。 10) 一般に,経済主体の資産に対する property rights(所有権)は,その資産に対する最終的な決定権(残余 コントロール権),およびその資産から生じる所得に対する最終的請求権(残余利益の請求権)を含む。 知野哲朗(2009)「日本の医療提供システムと医療政策」東京学芸大学紀要 人文社会科学系Ⅱ 第60 集, 173 頁。 11) 「前掲誌」,173~174 頁。 12) MS 法人は,Medical Service(メディカルサービス)法人の略称であるが,厳密な定義はない。しかし, 医療関係者や税務・会計関連やコンサルタント業界では,一般に医療機関における診療行為以外のそれ らに附随するメディカルサービスを提供するために設立される法人とされている。なお,MS 法人は一般 の営利法人であり,もちろんのことながら医療法人とは異なり監督官庁の許可は不要である。 13) 薬局法人とは,医療法人の業務のなかの調剤や医薬品・診療材料の仕入れ販売を分業した,調剤・薬局 等を業とする営利法人である。当時は,医薬品・診療材料の仕入れ価格(実勢価格)と社会保険薬価基 準との差額(薬価差益)が大きく,これらの業務を別の営利法人に分業することで医療法人における利 益を圧縮し,法人税や累積される資産の内部留保を減殺し,これをもって税制対策としたのである。また, この薬局法人では,医療法人関係者の雇用を確保し,また,営利法人であることから生じた利益を合法 的に還元,配当することが可能であった。ただし,眼科,耳鼻咽喉科,泌尿器科など医薬品・診療材料 の必要性や頻度が低い医療機関では,その効果が薄い。反対に内科や人工透析をおこなう医療機関では,

(16)

薬剤や診療材料の依存度が高く,大きな効果が期待できた。 山林良夫(1989)『メディカル・サービス法人の実務 改訂版』ぎょうせい,参照。 14) 医療設備法人は,土地,建物および医療機器などの資産を,医療法人とは別の営利法人が所有し,当該 医療法人へ医療施設や駐車場,あるいは医療機器物品として賃貸・リースすることを業とする法人である。 従来,医療法人がおこなっていたこれらの設備等の維持・管理業務を分業し,これを業務委託として外 部化するのである。これにより,上の薬局法人と同様,医療法人関係者の雇用の確保,医療法人の利益 の圧縮や内部留保の減殺,合法的な利益還元,配当を可能とした。また,医療施設法人は,土地などの 資産の含み益を医療法人に帰属させないことで,医療法人の将来の事業承継,相続税対策に活用できる といった特徴があった。 『前掲書』,参照。 15) 現在,厚生労働省が位置づける医療政策として,「がん,循環器病,精神疾患,神経・筋疾患,成育医療, 腎疾患,重症心身障害,骨・運動器疾患,呼吸器疾患,免疫異常,内分泌・代謝性疾患,感覚器疾患,血液・ 造血器疾患,肝疾患,エイズ,長寿医療,災害医療,国際医療協力,国際的感染症」の19 分野があげら れている。 16) 推進派は,営利企業の参入によるメリットについて,①医療行為と経営の分化が促進され経営の効率化 や医療の質の向上が図られる,②資金調達面からも直接金融のメリットが受けられる,③閉鎖的といわ れる医療界が社会的に広がりをもち経営の透明化や健全化につながる,④競争促進により多様なサービ スが提供されるなど人々の医療の選択枝が広がる,ことなどをあげた。また,不採算部門の切り捨てと の考えに対しては経営形態ではなく公的な観点からの検討が必要との指摘をした。  一方,反対派の意見はデメリットとして,①生命や身体・健康に関わる医療はそもそも営利を目的と すべきものではなく株式会社の理論とはなじまない,②ましてや医療における強い公共性と株式会社の 株主への利益配当という2 つの要請を両立させるのは困難である,③収益性の高い医療分野には集中する が不採算部門の切り捨てや医療費の高騰を招きかねない,④株式会社参入がなくとも情報開示等が進め ば競争原理は働くであろうし,株式会社の経営形態をとらずとも経営の効率化・近代化等は図ることが できる,と指摘した。 17) 「高度医療」の具体的な範囲は,高度な技術を用いて行う倫理上及び安全上問題がないと認められる医療 であって,①特殊な放射性同位元素を用いて行う陽電子放射断層撮影装置等による画像診断,②脊髄損 傷の患者に対する神経細胞の再生及び移植による再生医療,③肺がん及び先天性免疫不全症候群の患者 に対する遺伝子治療,④高度な技術を用いて行う美容外科医療,⑤提供精子による体外受精,⑥その他 これらの医療に類する医療,のいずれかに該当するものである。 18) 特区での参入は厳しい参入条件が足かせとなり,いくつかの株式会社による医療機関参入の申請があっ たものの,実際に発足したものは2005 年 7 月 19 日認定の「神奈川バイオ医療産業特区」のみに留まって いる。現在,唯一認定されたバイオ分野のベンチャー企業として,株式会社バイオマスター(東京都千 代田区)によるセルポートクリニック横浜(神奈川県横浜市)が2006 年 7 月に開設されている。 19) たとえば,アメリカの民間非営利病院では,個人に財産が帰属しないことを原則とし,また,このよう な非営利組織を非課税とする税制度があり,組織上,税法上ともに調和がとれている。これに日本の医 療法人組織を当てはめると,法人の大部分が持分の定めのある社団によることから,営利法人という扱 いになりかねない。もっとも,アメリカでも非課税の扱いを受けるためには,上記原則の他,資産の分 配や解散時の財産分配の禁止,過剰な給与の支払いの禁止,政治活動・献金の禁止,公益事業の実施な どの要件を満たす必要がある。それでも歴史的に,民間の宗教団体や慈善団体の施設を起源とする病院 が多いアメリカでは,非営利病院のほとんどがこの要件に適合するため,医療事業の公益性,税制,そ

(17)

して財産の帰属との整合性がとれている。 20) 基金拠出型医療法人は,活動の原資となる資金調達手段として「基金」制度を活用するものである。社 団である医療法人が,基金の拠出者の権利に関する規定や基金の返還の手続きを定款に定め,これに従 い拠出金の返還義務を負うものである。拠出者へは,拠出時の価額に相当する金銭を限度として返還す るが利息の付与はない。なお,出資持分あり医療法人,社会医療法人,特定医療法人は,基金制度を採 用することはできない。 21) 出資額限度法人とは,出資持分の定めのある社団医療法の定款において,社員の退社時における出資持 分払戻請求権や解散時における残余財産分配請求権の法人財産に及ぶ範囲について,払込出資額を限度 とすることを明らかにするものである。出資持分の定めのある社団医療法人が当該法人に移行した場合 等の課税関係について国税庁と協議されているが,社員が出資払込額の払い戻しを受けて退社した場合 や,社員が死亡し相続人によって払戻請求権が行使された場合,残存する他の出資者の有する出資持分 の価額増加に係る,みなし贈与に対する不課税の取り扱いについては,①特定の同族グループで占めら れていない,②役員などへの特別な利益供与がない,などが認められる必要がある。 22) 当然のことながら,新法適用の医療法人から経過措置適用の医療法人への移行は不可とされている。 23) 社会医療法人は,医療提供体制の確保に関して都道府県や市町村,公的医療機関の機能を代替えするも のとして,一般の医療法人とは異なる特別な主体として位置づけられている。そのため社会医療法人の 主な役割としては,本文で触れたように公的医療機関と並んで都道府県が国の方針に即し,地域の実情 に応じて定める医療計画に記載された5 事業,すなわち「救急医療等確保事業」を担う主体となることで ある。もちろん当該事業をおこない得る構造設備,体制および実績が求められる。また,国,都道府県, 市町村と並び,地域のかかりつけ医を支援し連携しながら急性期医療を担う「地域医療支援病院」の開 設主体としての役割もある。さらに,公的医療機関,大学と並び,地域における医療の確保に関し地域 医療再生計画や医師不足地域への医師の派遣などに関する施策を協議する場として都道府県が開設する 「医療対策協議会」の構成員となることが求められている。 24) 社会医療法人の認定にあたっては,まず,県医療審議会または社会保障審議会に諮問し新法人にふさわ しいとの意見集約,救急医療等確保事業などの実施が必要とされる。さらに,特定・特別医療法人と同様, 統一的な規定ではあるが,役員・社員・評議員に関し配偶者及び三親等以内の親族,特殊な関係のある 者が総数の3 分の 1 を超えないことや,財産の帰属先の制限がある。また,公的な運営に関する要件とし ては,期末遊休財産額の制限(前期費用を超えない),株式などの保有の原則禁止,役員報酬の支給基準 の明確化などがあり,くわえて特別医療法人要件と同様,社会保険診療収入比率,自費患者に対する請 求基準,特別の利益供与の禁止などがある。 25) 税制の優遇措置としては,医療保健業のうち本来業務(病院等施設の運営)を非課税に,また,所定の 収益事業所得から収益事業以外への支出につき,所得金額の50%または年間 200 万円のいずれか多い金 額を限度に「みなし寄附金」として非課税となった。この他にも医療保健業のうち附帯業務及び収益業 務の軽減税率(22%)などの措置が図られた。さらに,2009 年度の税制改正により地方税である救急医 療等確保事業の用に供する固定資産税等(固定資産税・都市計画税・不動産取得税)および医療関係者 の養成所に係る固定資産税が非課税となり,他の医療法人にはみられない特段の税制優遇が措置された。 26) 社会医療法人の認定にあたっては,必須要件となる「救急医療等確保事業」を記載した都道府県の医療 計画の実施が2008 年 4 月からとなったことなどから,認定申請開始も同日以降となり,第 1 号認定は同年 7 月 10 日となった。その後,既存の医療法人からの移行や都市において申請認定が順調に進んだが,申請 認定開始から4 年を経ても岩手県,富山県,福井県,静岡県の 4 県では社会医療法人が存在しない。 27) 都道府県別にみると,へき地医療事業での認定が多い北海道 19 法人 22 施設をはじめ,救急医療事業での

(18)

認定の多い大阪市18 法人 23 施設が続く。救急医療等確保事業の業務区分別では,精神を含む救急医療事 業で認定を受けるケースが多くを占め,反面,周産期医療事業では全国で4 法人の認定と極めて少ない。 28) 各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局総務課長・厚生労働省医政局指導課長通知,医政 総発0330 第 4 号・医政指発 0330 第 4 号「医療法人の役員と営利法人の役員の兼務について」,2012 年 3 月 30 日。なお,本通知以前は,両法人等の役職員を兼務している場合,医療機関の開設・経営に影響を与 えることがないものであること,とされていた。

参照

関連したドキュメント

医師の臨床研修については、医療法等の一部を改正する法律(平成 12 年法律第 141 号。以下 「改正法」という。 )による医師法(昭和 23

 医薬品医療機器等法(以下「法」という。)第 14 条第1項に規定する医薬品

3 諸外国の法規制等 (1)アメリカ ア 法規制 ・歯ブラシは法律上「医療器具」と見なされ、連邦厚生省食品医薬品局(Food and

次に、第 2 部は、スキーマ療法による認知の修正を目指したプログラムとな

独立行政法人福祉医療機構助成事業の「学生による家庭育児支援・地域ネットワークモデ ル事業」として、

旧法··· 改正法第3条による改正前の法人税法 旧措法 ··· 改正法第15条による改正前の租税特別措置法 旧措令 ···

在宅医療の充実②(24年診療報酬改定)

(3)各医療機関においては、検査結果を踏まえて診療を行う際、ALP 又は LD の測定 結果が JSCC 法と