沿革 当所は公益財団法人であるが,名刺交換時に 「トヨタ自動車の R&D Lab.の一つですか」と 尋ねられることがある(私もそう思っていた)。 そこで先ず,研究所の沿革を豊田理研創立60 周年記念誌や豊田研究報告70周年記念特集を 参考にして紹介する。 財団の設立者はトヨタ自工(トヨタ自動車の 前身)を創業した豊田喜一郎である。昭和の戦 時体制下で国際交流が途絶え科学技術が孤立し た厳しい状況を思慮し,「根本原理の探求」, 「自由研究」,「閑却されがちな学理も重視」, 「人物主意」とする高い理想を掲げ「我国独自 の科学技術の振興開発を図り,学術・産業の発 展に貢献すること」を目的にして1940年に財 団法人として東京芝浦に設立されている。30 名余の職員でスタートし,電池の研究を始め無 線方向探知機の実用化,ロッシェル塩結晶の製 作など32分野の研究が活発に推進され,1943 年には職員数が69名に達している。戦後の混 乱期には,研究財団法人として国の助成を受け るとともに豊田関係会社の支援を得て,研究所 の規模を縮小した上で自立への取り組みを行っ てきた。1960年には名古屋に株式会社豊田中 央研究所が設置されたのを機に財団法人として 再出発している(1961年,名古屋)。限られた 財源で設立主旨を効率的に実現すべく,事業主 体を自前研究から助成事業と研究者育成に切り かえ,研究嘱託制度(大学の物性関係研究者へ の援助,嘱託期間:3 年,2010年までに累計 450名以上の採用),奨励研究員制度(学位を もち大学教員を目指す者で 3 年を限度,累計 100名以上の採用)および物性懇話会(名大と の共催で,東海地方の物性物理学研究者の啓 発)が実施されてきた。その後も特別研究制度 (特定の指導者の下に研究チームを形成,1990 年からの10年間で 5 テーマを実施)や分子科 学フォーラム(分子科学研究所との共催,現在 も継続)も立ち上げられてきた。研究所の所在 地も1980年には名古屋市内から現在地である 長久手市に移転している。新しく研究棟(写真) も完成しているし,来年初めには,隣接して 〒480―1192 愛知県長久手市横道 41 番地の 1 TEL 0561―57―9516 FAX 0561―63―6302 Email : [email protected]
Toyota Physical and Chemical Research Institute, Fellow
Masayuki Nogami
Toyota Physical and Chemical Research Institute
野上 正行
公益財団法人 豊田理化学研究所 フェロー
公益財団法人 豊田理化学研究所
研究機関紹介
200名規模の会議が可能なホールも竣工する予 定である。2011年には公益財団法人への移行 登記も完了し,研究活動・研究助成・学術交流 それぞれの事業も発展的に展開しており飛躍期 に入ったと言えよう。現在の事業内容は以下の ようになっている。 *研究事業 フェロー制度(常勤と客員)別に述べる。 *研究助成事業 豊田理研スカラー 所属大学の推薦を受けた優秀な若手研究者 の中から研究課題が当所の設立主旨・目指 す方向と合致する方(30名/年程度)を 選定し研究費用の一部を助成する。助成 額:年100万円で 1 年間 特定課題研究 中長期的な視点から見て重要と思われる萌 芽的研究課題に取り組んでいる研究者を奨 励することで,新しい研究領域の開拓を目 指す。助成額:年200万円以内で 2 年間 *学術交流事業 豊田理研懇話会(主催)および物性談話会, 分子科学フォーラム(共に共催)の開催 フェロー制度 「研究を行う法人」として人的・財政的基盤 をもっており,他の財団にない特徴的なもので ある。「我国では優秀な研究者でも年齢が来る と研究現場から離れざるを得なくなるし,定年 退職により研究活動の中止を余儀される残念な 状況にもある。継続して研究できる場を提供 し,設立理念に沿った社会貢献をする」という 考えで2004年に発足した。当初は推薦による 選考採用制で,共に基礎科学を専門とする常勤 と非常勤フェローで構成されていた。公益財団 法人への移行にともない現在は公募によって選 考されている。2017年 3 月時点で,常勤:9 名,客員(非常勤):8 名が在籍している。 常勤フェローは研究室に出勤しての業務であ る。事務系に加えて技術系スタッフも配置され ており研究アシストも十分である。研究成果は 公開することになっており,機関誌「豊田研究 報告」も毎年発行されている。年間一人 5∼ 6 件の論文が発表されており,研究所として の評価も上がってきている。評価を確実なもの にすべく,今後も常勤フェローの在籍者数を増 やしていく予定である。 フェロー募集を要項から抜粋すると(詳細は 研究所の HP),「大学,国公立研究所,企業を 定年退職された方で,基礎科学分野で顕著な業 績があり,今後も自ら手を染めて意欲的に研究 活動をしていただける方」で,主たる研究分野 は「機能性物質の科学」と「光と物質の相互作 用」になっている。勤務体系は常勤フェロー(任 期:4 年)と客員フェロー(3 年)に区分け されている。募集締め切りは採用年度の 1 年 半前であるので注意。 フェローの研究生活 研究分野としてのキーワード「機能性物質, 光と物質」が掲げられているが,研究のつなが りにフェロー間の連携は特になく,所としての 研究内容を一口で説明することはできない。こ こでは筆者の事例(2014年 採 用 で 3 年 が 経 過)を紹介することで代えたい。私は国研・大 学でガラスに関する研究を行ってきた。50歳 を越えるころから,研究をするというよりは, そのための仕事に追われてきた。退職でそのよ うな仕事がなくなり,今まで何をしてきたのか とやや後ろめたい気分に落ちた時に,研究者魂 を満たしてくれる環境を提供してくれる所のあ ることを知り応募した。採用されると 4 年間 あるので少し纏まったこともできると思い,ガ ラスとガスとの関わりについての課題を提案す ることにした。研究テーマに行き詰まった折に 幾度となく脳裏に浮かんだことはあったが,研 究グループで取り上げるには小さいとしまい込 んできたものであった。要領の「自ら手を染め て」に共鳴し,早速に計画内容を纏め応募し た。2014年 4 月,新人としてスタートした。 35
所には共通で使用できるごく一部のものを除い て実験設備は用意されていない。実験系で,前 勤務地で使用していた設備を移管して継続でき る場合はよいが,そうでない場合は少し気をつ ける必要がある。隣接している豊田中研の協力 で,手続きをしての測定依頼や設備使用が可能 になっている。更に最近では文科省の微細構造 解析プラットフォームのように手軽に利用でき る制度もあり,実験結果としてのデータを得る だけなら特段に不自由を感じることはない。そ れはそれとしてとに角,技術系スタッフのサ ポートはあるものの基本的には自分ひとりでの 仕事になる。研究内容を精査して取り掛からね ばと計画を練った。現象の追求だけではなく可 能であれば機能創出に結び付けたいと考えてい るので,対象ガスを水素とし,その強い還元力 を活かした特性変化を期待して,水素のガラス 中での移動速度が大きく且つ,ドープした金属 イオンを還元するようなガラス系と反応条件の 探索を始めた。幸いにも比較的早い時期にアル ミナ珪酸塩系ガラスを見つけることができた。 多くの方々の協力を得て満足のいくデータも取 れ,論文発表も順調に進んでいる。 研究リーダーとして大きなプロジェクトを組 織していこうというのでなく,「好きな研究で 仕事」という方にはこれ以上の環境はない。他 のフェローも素晴らしい研究業績を挙げてこら れた方ばかりで,専門の話を伺うことができ楽 しい。午後 3 時にはテイータイムも設定され, 高齢者どうしお茶を飲みながらの話もよく合 う。フェロー一同「ストレスなし健康状態も 上々」と日々よい日を過ごしている。研究とは 本来こういうものではと思えることもしばしば である。このような一時期に豊田理研で研究生 活を送ることができている者として最大に楽し み,そして研究貢献できればと考えている。 36