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知能検査・発達検査の施行状況の実態と心理職の感じる苦労と醍醐味-関西圏の臨床心理士への質問紙調査から-

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* 兵庫教育大学(Hyogo University of Teacher Education)

**  地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪精神医療センター(Osaka Psychiatric Medical Center) ***  地方独立行政法人大阪市民病院機構大阪市立総合医療センター(Osaka City General Hospital) **** 日本福祉大学(Nihon Fukushi University)

***** 独立行政法人国立病院機構 原病院(National Hospital Organization Sakakibara Hospital) 兵庫教育大学 教育実践学論集 第22号 2021年 3 月 pp.59−68 Ⅰ 問題の背景と目的  心理職が行う専門的技術の中で心理アセスメントがそ の一翼であることには議論の余地はない。日本臨床心理 士資格認定協会(1)は,臨床心理士の仕事の4分野の一つ として臨床心理査定を挙げており,また公認心理師法概 要(2)は「心理に関する支援を要する者の心理状態の観察, その結果の分析」として心理アセスメントをその業の一 つに数えている。しかし心理アセスメントの実施法や検 査結果の分析方法については専門の学術雑誌を中心に活 発な議論がなされ豊富な知見の蓄積がある一方で,岩野・ 横山(3)が指摘するように,実際のクライアントを前に心 理職がどのように検査を施行しているのか,そしてそれ はどのような形でクライアントに伝えられ,どのように 支援に活かされているのか,という検査実施前後を含め た手続きややりとりの詳細が明らかになるような研究は, 少数の事例研究が報告されているのみで,その数は非常 に限られている。さらに心理アセスメントの中でも,特 に広汎な領域で使用されている(一般社団法人日本臨床 心理士会の第7回動向調査(4)では,実施している臨床心 理アセスメントの中で,最も多い行動観察59.4%に続いて, 2番目が知能検査の54.8%であり,発達検査も39.2%が実 施している)知能検査・発達検査の実施の実態と従事す る心理職が実施において感じる苦労と醍醐味についても, これまで明らかにされてきたとはいい難い。このように, このテーマについての研究が少ない背景には,一つには 心理アセスメントの範囲が広範で多様であり,かつ心理 アセスメントを行う職種が多岐にわたることがあるだろう。 Cook et al.(5)は,米国の子どもを対象とした臨床家への調 査で,主に標準化されていないアセスメントを行う査定 者率が最も高く(76.7%),標準化されたものと標準化さ れていないものとの両方を定期的に使う査定者率(11.9%) が続いたと述べている。「子どもを対象とした臨床家」と

知能検査・発達検査の施行状況の実態と

心理職の感じる苦労と醍醐味

−関西圏の臨床心理士への質問紙調査から−

隈 元 みちる*,竹 内 直 子**,石 田 喜 子***,

稲 月 聡 子****,岡 尾 裕美子*****

(令和2年7月2日受付,令和2年12月23日受理)

How Certified Clinical Psychologists Conduct Intelligence Tests

and Mental Development Tests at Their Workplace?

KUMAMOTO Michiru*

,TAKEUCHI Naoko**,ISHIDA Yoshiko***,

INATSUKI Satoko****

,OKAO Yumiko*****

Two hundred certified clinical psychologists in Kansai area participated in the questionnaire survey that examined how they conduct intelligence and mental development tests at their work place. Although there are many studies about psychological tests, most only focus on data reduction and interpretation of four stages of the tests, namely, preparation, administration, data reduction and interpretation, and feedback. Thus, we revealed the real situation of all these four stages as well as psychologists views thereof. According to the results, the situation differed for each facility and psychologist. The psychologists used various tests that had not been utilized during graduate school. The participants paid attention to all the four stages of the tests, even though they did not seem to learn much with the exception of data reduction and interpretation during their training period. Moreover, they endeavored to use the intelligence and mental development tests to support their clients.

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して調査の対象となった査定者の専門領域は様々である が,心理士psychologistは,精神科医やカウンセラー,結 婚・家族療法士やソーシャルワーカーに比して標準化さ れた測定法を用いる頻度が高いことが示されている。日 本でも,全ての臨床家がアセスメントに心理検査を使う わけではなく,さらに使う検査の内容やセッティングは 多岐にわたるため,なかなか実態把握や実際のやりとり の詳細にまで踏み込んだ研究が少ないのだと考えられる。  ここで,今一度なぜ心理アセスメントにおいて,検査 実施前後の手続きややりとり,検査者の感じる苦労と醍 醐味が重要なのか,についてまとめておきたい。心理検 査を用いた心理アセスメントの施行は,大きく次の4段階 に定義される;1)事前準備,2)心理検査の実施,3)検 査データの整理および分析,4)検査結果のフィードバッ ク。このうち,先述したように心理アセスメントの多く の文献は,3)検査データの整理および分析(スコアリン グ,コーディング)について論じたものだと考えられる。 もちろん,心理アセスメントがアセスメントたり得るに は,これらのデータの整理と解釈に資するような研究が 欠かせず,実際の心理検査場面でもそれらの研究に基づ いた正確なデータの整理と妥当な解釈が重要であること は当然である。一方で,心理アセスメントを単なる「評価」 としてではなく,クライアント本人の支援に役立てるた めのもの,と考えると,データの整理や解釈における統 計的な正確さや標準的な回答との比較だけでは事足らず, 心理アセスメントを必要としたまさにそのクライアント に応じた柔軟なアプローチや解釈が必要になる。このこ とについて高瀬(6)は,心理アセスメントでは,「むしろ 一般的な傾向から外れた事例にこそ光を当て,その個別 的な意味を探っていかねばならない(P33)」と述べている。 そして,個別的な意味を探るためには,クライアントが 受検に至った背景情報を集めるなどの事前準備,検査実 施時の(多くは数値データとはならない)クライアント とのやりとりや行動観察が欠かせない(隈元(7))。つまり,3) 検査データの整理および分析(スコアリング,コーディング) の段階で,心理職は数値や回答された言語データに加え これらの生きたデータを整理し,そのクライアントのオー ダーメードの解釈を導き出していくことが求められる。4) 検査結果のフィードバックの段階でも,クライアントの 治療・支援に活かすためには状況によって様々なバリエー ションが必要となろう。医師や関係者に書面でのフィー ドバックを行うこともあれば,検査結果をクライアント 本人やその保護者に直接フィードバックすることもある。 どの場合でも何をどう伝えるかが課題になる。つまり, 心理アセスメントをクライアントの支援に活かそうと考 えるならば,データの整理方法やその一般的な解釈の理 解だけでは不十分であり,それらを踏まえつつ目の前の クライアントごとの個別的な対応を行うことが肝要なのだ。  個別性の高いクライアントにその都度応じるもの,と いう意味では,心理アセスメントは,心理職のもう一つ の仕事分野である臨床面接と相通ずる面が多いともいえ る。ただし,臨床面接については数多くの事例研究がな されているのに比して,心理アセスメントについては心 理職がどのようにこの「個別の意味」に迫り,支援につ なげようとしているのかについての研究は,先述のよう にほとんど見当たらない。さらに,心理職の養成課程でも, 心理検査のデータの整理や解釈は教えられても,心理ア セスメントをどう目の前のクライアントへの支援に活か すかについては,現場で即活用できるほどには十分な時 間が割かれていないことも指摘されている(依田(8))。田 島(9)は,臨床心理士養成指定大学院修了生への面接調査 から,養成時代にもっとやっておけばよかったこととして, 「心理検査・面接技法の習熟」と次いで「見立ての立て方 についての学習」との回答が多かったと述べている。こ れらの指摘からは,標準的な検査の施行やデータの整理 の習得だけでも多くの時間が必要であるために,養成段 階ではそれに専ら時間が割かれており,心理職は現場に 出てからそれぞれの状況下で,目の前のクライアントの 支援に活かすための工夫をしようとするのだと考えられる。  諸外国と同じく,日本でも心理アセスメントを行うの は心理職だけではない。そのような状況にあって,心理 職が心理アセスメントを行う意義とは,単なる情報収集 や評価としてだけではなくどのように心理援助として成 り立たせ得るか,ということになろう。筆者らが心理ア セスメントの手続きややりとりの実態のみならず,従事 する心理職の感じる苦労と醍醐味を重視する理由がここ にある。ただし,感じる苦労と醍醐味は多義的で広範な ものであるため,本論文では心理職の感じる苦労と醍醐 味を,実際の施行段階で何を重視しているか,また施行 にあたりどのような点に苦労し,また醍醐味を感じてい るか,という点に絞って考えることとする。  本研究では,このような問題意識に立ち,研究の目的を, 1)心理職がどのような現場でどのような知能検査・発達 検査を行っているのかその実態,2)実際の施行の各段階 において心理職が重視するポイント,そして3)心理職が 感じる施行の苦労と醍醐味,を明らかにすることとする。  目的を達するため,本研究では関西圏の臨床心理士に 質問紙調査を行うこととした。なお,調査にあたって, 検査対象を心理アセスメントの中でも特に広範囲で用い られている発達検査・知能検査に絞ることとした。苦労 と醍醐味については,筆者らで質問項目を検討する中で, 検査を施行する際に支援に必要だと感じるからこそ苦労 しても行うし,それがうまくいけば醍醐味となるだろう と考え一つの問いとした。また,臨床心理士以外の方が 知能検査・発達検査を行っている実態についても把握し ていたが,対象の選定が困難になることが考えられたため,

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今回は対象を「臨床心理士」に絞って調査することとした。 Ⅱ 方法 研究対象:『臨床心理士に出会うには 第3版』(10)に掲載 されている関西圏の機関(305機関)及び関西圏にある 臨床心理士のいる公的機関(10機関)に勤める臨床心 理士(機関により1∼10名)。 質問紙:対象者が知能検査・発達検査を施行する主な臨 床現場1つを念頭に,無記名自記式で選択式(経験年数, 主に知能検査・発達検査を施行する臨床現場の領域, 頻度,対象,目的,施行する検査名,テストバッテリー で使う検査名,情報収集の種類・情報源,本人・家族 への検査結果の伝達方法,結果書面の内容・宛先,結 果書面の利用者負担額,書面作成所要時間)および自 由記述(Q1「知能検査・発達検査を施行する際に重視 するポイントをお教えください」,Q2「知能検査・発達 検査を施行する際にご苦労や醍醐味があればお教えく ださい」)の設問への回答を求めた。 配布・回収方法:郵送による。 実施期間:2018年2月∼2018年3月。 倫理的配慮:調査対象者には,書面にて,調査の趣旨, 匿名による調査であること,回答は研究目的のみに使 用することを明記し,同意する場合のみ質問紙に回答・ 返送するよう求めた。さらに,主著者所属大学の研究 倫理審査委員会の承認を得た。 分析:択一・多重設問は,それぞれの回答を計数し経 験年数および領域との関連を分析した。統計分析には SPSS24.0を使用した。また自由記述回答については筆 者ら臨床心理士5名でQ1,Q2のそれぞれについて合議 しながら下記の手順でKJ法を行った。1)回答をすべ てデータ化し印刷する,2)回答者ごとに切り離す,3) 同じ回答者でも意味内容が複数あるものは意味内容で 切片化する,4)意味内容が似たものを小グループに分 ける,5)小グループにカテゴリー名をつける,6)意 味内容の似た小グループをさらに大グループに分ける, 7)大グループにカテゴリー名をつける。 Ⅲ 結果と考察 1.回収率と有効回答率  機関ごとに「勤務する臨床心理士にお渡しください」 として1∼10部を郵送したため,正確な配布数がわからず 回収率は求められない(中には,質問紙を機関でコピー して回答し,返送されたものもあった)。201名より回答 を得,回答に不備のある1部を除いた200部を対象に分析 を行った(有効回答率99.5%)。 2.調査協力者のプロフィール  回答者の経験年数の内訳は,10-20年未満が37.5%と最 も多く,次いで5-10年未満が23.5%,5年未満が22.0%, 最も少ない20年以上が17.0%であった。  一般社団法人日本臨床心理士会の第7回動向調査(4) は,経験年数ごとの割合は,5年未満(10.9%),5-10年未 満(21.1%),10-20年 未 満(37.0%),20年 以 上(24.1%) となっており,今回のデータは5年未満の割合が10%ほど 高く,20年以上が7%ほど少なかったといえる。  主な臨床現場の内訳は,保健・医療が61.5%と過半数以 上を占めた。次いで教育(11.5%),福祉(10.5%),大学・ 研究所(8.5%)と続いた。少なかったのは,私設心理相 談(4.5%),司法・法務・警察(2.5%),産業・組織・労 働(1.0%)だった。  一般社団法人日本臨床心理士会の第7回動向調査(4) は,多い方から保健・医療(41.9%),教育(36.0%),大 学・研究所(25.3%)となっており,今回のデータは,保 健・医療が20%ほど多く,逆に教育領域は25%ほど,大 学・研究所領域は16%ほど少なかったといえる。その他 の領域もそれぞれやや少なかった。これは,一つには『臨 床心理士に出会うには 第3版』(10)に基づいたため,もと もとの配布先に医療機関が多かったこと,そして他の領 域と掛け持ちして働いている対象者も「知能検査・発達 検査を施行する主な臨床現場」としては医療機関を想起 しやすかったこと,が考えられる。  次に,主な臨床現場での知能検査・発達検査の施行頻 度は,最も多かったのが月に1-3件の36.0%だった。つい で,週に1-3件が28.0%,年に10件未満が27.5%であり, 週4-9件が6.5%,週に10件以上が2.0%だった。  今回のデータの領域と頻度の関連について検討するた め,領域7群(保健・医療,教育,福祉,大学・研究所, 私設心理相談,司法・法務・警察,産業・組織・労働) と頻度5群(年に1-10件,月に1-3件,週に1-3件,週に 図 1 領域と頻度との関連(N=200)

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4-9件,週に10件以上)のクロス集計表を作った。次に, この集計表についてコレスポンデンス分析を行った(図1)。 各軸の寄与率は,第1軸76.1%,第2軸14.7%であった。 保健・医療は週に1-3件および週に4-9件の近くに付置さ れ,教育,大学・研究所,福祉領域は年に1-10件の近く に付置された。また週に10件以上と多くの検査を施行す る傾向が,保健・医療,福祉領域に一定程度あることが 示された。 3.知能検査・発達検査の施行状況 1)施行する知能検査・発達検査  本調査協力者が施行する知能検査・発達検査は,ウェ クスラー式(WPPSI,WISC,WAIS)が95.5%と最も多く, 新版K式発達検査(48.0%),ビネー式知能検査(17.0%) と続いた(多重回答,表1。なお,質問紙に選択肢として 挙げられていたものは表中の選択肢欄にカタカナが記載 されたものである。その他として記載された検査の中で 回答が5個を超えたものはなかった)。テストバッテリー では,バウムテストが71.5%と最も多く用いられ,PFス タディ(49.5%),SCT(37.0%),ロールシャッハテスト (34.5%)と続いた(多重回答,表2。なお,質問紙に選択 肢として挙げられていたものは表中の選択肢欄にカタカ ナが記載されたものである。その他の選択肢を選び自由 記述したものも個別に集計した。多岐にわたるため,5% 以上の回答があったものを抜粋した)。  依田(8)によれば,首都圏の臨床心理士の第一種指定 大学院での臨床心理査定演習の中で扱われることの最も 多かった心理検査は,調査対象とした9校中で,WISC・ WAISが計8校,田中ビネー5校,新版K式3校,バウムテ スト3校,PFスタディ2校,SCT5校であった。また,加 藤(11)による指定大学院47校のシラバス分析によれば, 本調査で施行率が上位だった心理検査の授業時間は必修 科目全体の899回のうちで以下の通りであった:ウェクス ラー式(計150回),新版K式(19回),ビネー式(計26回), バウムテスト(22回),PFスタディ(19回),SCT(24回)。 一方で,シラバスの中でもっとも多く取り上げられてい たのは,ロールシャッハ法で225回と飛び抜けて多く,次 いで知能検査(36回),投影法(32回)であった。  これらからは,大学院での教授内容・時間数と関西圏 の臨床現場で実際に用いられている心理検査にずれがあ ることが指摘できる。もちろん今回の結果は,知能検査・ 発達検査を軸として,そのテストバッテリーとして挙がっ た検査名であるため,単純な比較は意味をなさない。そ れを差し引いても,例えばほとんどの臨床現場で使われ ているウェクスラー式が取り上げられていない大学院が あることや,同じく広く施行されているバウムテストに ついても取り上げられる頻度が非常に低いことが指摘で きる。これらから,現場の心理職は養成段階で習得が十 分でない検査を現場に出てから習得し,自分なりの方法 で心理検査を施行していると推察される。  一方で,本調査結果には関西圏という地域特性も反映 された可能性がある。例えば,新版K式発達検査は検査 そのものが関西圏で生まれたものであり,関西圏は他の 都市よりも使用率が高いことが推察される。 2)被検者本人・保護者からの情報収集  心理検査の準備段階にあたる被検者本人・保護者から の情報収集では,91.0%の回答者が現在の困りごとを尋ね, 受検の経緯(82.0%),検査歴(81.0%)もよく尋ねられて いた。  これらの情報収集は,検査データそのものからだけで はなく,クライアントに応じた個別の解釈を支えるもの 選択肢 検査名 数 % カ バウムテスト 143 71.5 オ PFスタディ 99 49.5 イ 文章完成法(SCT) 74 37.0 ア ロールシャッハテスト 69 34.5 ミ その他 65 32.5 キ HTP(P) 49 24.5 ハ PARS 46 23.0 セ エゴグラム 41 20.5 ヘ SM社会生活能力検査 34 17.0 ク 風景構成法 33 16.5 ノ ADHD評価尺度(CAARS) 32 16.0 コ (動的)家族画 29 14.5 サ 自由画 21 10.5 その他 AQ 21 10.5 ネ ADHD-RS日本語版 20 10.0 ケ DAP 19 9.5 ホ KIDS乳幼児発達スケール 17 8.5 ツ ウェクスラー記憶検査(WMS-R) 16 8.0 ナ ベンダーゲシュタルトテスト 16 8.0 ス MMPI 13 6.5 シ YG性格検査 11 5.5 その他 MSPA[発達障害の特性別評価法] 11 5.5 チ POMS 10 5.0 選択肢 検査名 数 % ア ウェクスラー式検査 191 95.5 イ 新版K式発達検査 96 48.0 ウ ビネー式知能検査 34 17.0 エ K-ABC 23 11.5 オ 津守式乳幼児精神発達検査 15 7.5 カ 遠城寺式乳幼児分析的発達診断検査 5 2.5 キ その他 16 8.0 表 1 施行する知能検査・発達検査(多重回答) 表 2 テストバッテリーとして施行する検査 (多重回答)(5% 以上の回答があったもの)

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なし あり なし あり 度数 15 2 10 7 % 88.2% 11.8% 58.8% 41.2% 度数 5 0 5 0 % 100.0% 0.0% 100.0% 0.0% 度数 113 10 12 111 % 91.9% 8.1% 9.8% 90.2% 度数 17 4 20 1 % 81.0% 19.0% 95.2% 4.8% 度数 14 9 23 0 % 60.9% 39.1% 100.0% 0.0% 度数 2 0 2 0 % 100.0% 0.0% 100.0% 0.0% 度数 7 2 7 2 % 77.8% 22.2% 77.8% 22.2% 私設心理相談 別の心理士がフィードバック 主治医がフィードバック 大学・研究所 司法・法務・警察 保健・医療 福祉 教育 産業・組織・労働 としてなされていると考えられる。これらの情報が,検 査データと有機的に結びつき解釈され,次の項のフィー ドバックにつながると考えられる。 3)フィードバック  被検者本人・保護者にフィードバックするのは,検査 者自身(73.0%),主治医(60.5%),別の心理職(13.5%), 治療・支援機関の関係者(1.5%),伝えない(1.0%)と なった(多重回答)。領域別の傾向を調べるために,各回 答の有無と領域のクロス表を作り,Fisherの正確検定を行っ た。その結果,領域毎に別の心理職がフィードバックす るとした回答に有意差が見られた(p<.01)。クロス表(表 3)からは,司法・法務・警察及び産業・組織・労働で回 答者のすべて,また保健・医療領域で91.9%が「なし」と し,教育領域で39.1%が「あり」と答えたことが示された。 司法・法務・警察,産業・組織・労働および保健・医療 領域では,検査者以外の心理職がフィードバックする傾 向は低く,教育領域では他の領域に比して検査者以外の 心理職がフィードバックする傾向があるといえる。  また,領域毎に主治医がフィードバックするとした回 答にも有意差があった(p<.001)。クロス表(表3)をみると, 保健・医療領域の90.2%が「あり」と答え,司法・法務・ 警察,福祉,教育,産業・組織・労働領域で1名を除き全 て「なし」だった。一方で,大学・研究所,私設心理相 談領域では,主治医がフィードバックするとする回答も それぞれ41.2%,22.2%見られた。この結果から,保健・ 医療領域では主治医からのフィードバックが行われる可 能性がある率が高く,また大学・研究所及び私設心理相 談領域でも主治医に結果が伝えられ,主治医からフィー ドバックされることもあり得ることが示された。一方で, それ以外の領域では少なくとも知能検査・発達検査につ いては主治医から独立して行われ結果がフィードバック されていると考えられる。  検査者自身が直接行う検査結果は,書面+口頭でフィー ドバックされている率が高く,伝える相手は,主治医 (59.5%),保護者(54.0%),成人の本人(41.0%)そして 本人・関係者(36.0%)と続いた(多重回答)。  フィードバックの一環としての所見について,1件当 たりの作成所要時間は以下の通りだった。2時間未満が 34.0%,2-3時間が22.5%,3-4時間が16.5%,4時間以上が 22.0%,その他・無記入が5.0%だった。  経験年数と所見作成時間のクロス集計では有意傾向 が見られた。クロス表(表4)から,経験年数の各群に ついてもっとも高率だったのは,5年未満で4時間以上 (32.5%),5-10年未満で3-4時間(28.9%),10-20年未満・ 20年以上で2時間未満(38.9%・54.5%)であった。各群 内でもばらつきはあるものの,総じて経験年数が増える ほど,所見の所要時間が短くすむ傾向が見られた。  記載内容は渡す相手によって書き分けられ,本人・ 保護者への書面では,支援方法(80.0%),結果の分析 (79.5%),数値(68.5%)だった。一方で,主治医や関係 者向けの書面では,数値(91.5%),結果の分析(90.0%), 行動観察(84.5%)だった(多重回答)。  また,検査結果書面の利用者負担額は,無料が55.5%, 2000円 未 満 が5.5%,2001-4000円 が13.5%,4001-6000円 が5.5%,6001円以上が3.0%,その他・無記入が17.0%だっ た。半数以上が無料である一方で,負担がある場合には ばらつきが大きいことが示された。 4.知能検査・発達検査施行の際に重視するポイントお よび苦労と醍醐味 1)施行の際に重視するポイント  次に,心理検査を施行する心理職の感じる苦労と醍醐 味に焦点を当てる。まず,知能検査・発達検査を行う際 に「重視するポイント」を自由記述で尋ねた。これを分 析可能な299個の切片にわけ,意味内容の近い小カテゴ リー20個を得た。さらに小カテゴリーは大カテゴリー4 個【準備(切片数49,以下同じ)】【実施(88)】【分析(78)】 【フィードバック(84)】に集約された(表5)。  【準備】には小カテゴリー4個「検査目的の明確化(19)」 「被検者の動機付けの確認と向上(17)」「検査者の心構え 表 4 経験と所見作成所要時間のクロス集計 表 3 領域と別の心理士/主治医による フィードバックの有無のクロス集計 2時間未満 2-3時間 3-4時間 4時間以上 度数 11 12 4 13 % 27.5% 30.0% 10.0% 32.5% 度数 11 11 13 10 % 24.4% 24.4% 28.9% 22.2% 度数 28 17 13 14 % 38.9% 23.6% 18.1% 19.4% 度数 18 5 3 7 % 54.5% 15.2% 9.1% 21.2% 5年未満 5-10年未満 10-20年未満 21年以上

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(8)」「事前の情報収集(5)」が含まれ,【実施】には,小カ テゴリー7個「能力を発揮しやすい施行(24)」「ラポールの 形成(17)」「被検者負担を考えた施行(16)」「否定的体験に ならない配慮(11)」「正確な施行(8)」「スムーズな施行(8)」 「テストバッテリーの組み方(4)」が含まれる。【分析】に は,小カテゴリー4個「行動観察の重視(40)」「課題に取り 組むプロセスの重視(19)」「多角的理解(16)」「数値の正確 さ(3)」が含まれ,【フィードバック】には,小カテゴリー 5個「今後の生活に役立つ方針を示す(42)」「わかりやすい 伝え方(14)」「現状の困りごとへの支援(12)」「被検者の自 己理解の支援(10)」「肯定的側面への言及(6)」が含まれる。  経験年数,領域,施行頻度によって,各項目への言及 に差があるかを検討するため,Fisherの直接法により分 析した。その結果,領域と「被検者の自己理解の支援」 (p<.01),「肯定的側面への言及」(p<.01)に有意差が見ら れた。クロス表からは,「被検者の自己理解の支援」は大 学・研究所及び私設心理相談領域で言及が多く,保健・ 医療領域で少ないことが認められた。「肯定的側面への言 及」は大学・研究所,教育及び産業・組織・労働領域で 言及が多く,保健・医療領域で言及が少なかった。これ らから,保健・医療領域以外で知能検査・発達検査を実 施する際に,より被検者のエンパワメントに力点が置か れる可能性があることが示唆された。保健・医療領域では, 診断の補助としての検査の利用も多いと考えられ,それ ゆえ,より客観的なデータとして検査を使用しようとす る傾向があるのではないかと推察された。  頻度と「ラポールの形成」(p<.05)でも有意差が認められ, 週に 1-3 件実施している群で言及が多く,年に 1-10 件の 群は言及が少なかった。週に 1-3 件と比較的定期的に知 能検査・発達検査をしている群は,検査のためにクライ アントと出会うことが多いと考えられ,より毎回の被検 者とその場でラポールを作ることに心を砕いていると推 察される。  知能検査・発達検査の実施の際には,心理検査の4段階 【準備】【実施】【分析】【フィードバック】の各段階に満遍な く注意が払われ,中でも【フィードバック】の中の「今 後の生活に役立つ方針を示す」ことに重きが置かれてい ることが示された。先述の依田(8)の調査の中では,大学 院生がフィードバックに関する訓練が全く足りていない と感じていることが報告されている。また,木村・田口(12) でも,指定大学院の修了生に心理査定について身に着け たい力を問うたところ,6割近くが 所見の書き方やフィー ドバックの仕方 検査の正確な読み取り と答えたと報告 している。養成段階には十分に習得できなかったとしても, 大カテゴリー 小カテゴリー(切片数) 自由記述例 検査目的の明確化(19) 主治医から検査についてどのように聞いて理解されているか、ご本人が結果やその後の フォローをどのように望まれているかなども確認するようにしています。 被検者の動機付けの確認と向上(17) 意欲を保ってもらうための関わり方、低い場合には実施の意味を伝えるなどして意欲を もってもらうこと。 検査者の心構え(8) 基本的に目的が判定であるので、そのことを重視する。 事前の情報収集(5) 事前の聞き取り。どんなことで困っているのかなど詳細に聞き取る。 能力を発揮しやすい施行(24) 子どもの疲れ具合も見つつ、普段の力が発揮できるような環境を整える。 ラポールの形成(17) テスト実施前にできるだけ和やかな雰囲気づくりをすること。 被検者負担を考えた施行(16) 無駄に時間をかけすぎず、疲れさせない。 否定的体験にならない配慮(11) 検査が傷つき体験にならないように励ましや声かけを適宜行う。 正確な施行(8) マニュアル通り実施すること。 スムーズな施行(8) およそ1時間30分でとれるように、テンポよく実施する。 テストバッテリーの組み方(4) 発達年齢や知りたい特性に見合った検査の選択 行動観察の重視(40) 検査への取り組み方。(集中力、答え方、粘り強さなど) 課題に取り組むプロセスの重視(19) どのような取り組み方で問題を正解、不正解に至るか。 多角的理解(16) 本人や保護者から収集した情報と結果を常に照らし合わせること。 数値の正確さ(3) 数値間違いがないこと。 今後の生活に役立つ方針を示す(42) 今後の方針や検査結果のフィードバックの仕方、検査結果の活かし方を伝えることで、今 後の治療につながるようにする。 わかりやすい伝え方(14) 結果を伝える際は、専門用語ではなく日常語にして説明する。 現状の困りごとへの支援(12) 困っていることと結果との関連。支援の手がかり。方針に役立つ情報。 被検者の自己理解の支援(10) 受検者自身が自己の特性を理解できるようにすること。 肯定的側面への言及(6) 強みと支援方法をフィードバックできること。 準備(49) 実施(88) 分析(78) フィードバック (84) 表5 知能検査・発達検査施行の際に重視すること(切片数 299)

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現場に出て様々なクライアントに出会う中で,各心理職 が検査の各段階がそれぞれに重要なことを感じ,個々の クライアントを前に工夫し奮闘しているのだと推察される。 2)苦労と醍醐味  知能検査・発達検査を施行する際の「苦労や醍醐味」 への自由記述からは,212個の切片が得られた。これらか ら小カテゴリー14個が得られ,大カテゴリー3個【施行の 工夫(70)】【分析と支援(110)】【費用対効果(32)】に集約さ れた。【施行の工夫】には,小カテゴリー7個「被検者の 特性・障害による対応への苦慮(25)」「検査者の技量不足 と向上の要請(11)」「被検者に合わせて柔軟に関わる工夫 (10)」「検査前の被検者の動機付けの向上への配慮(9)」「被 表6 知能検査・発達検査施行の苦労と醍醐味(切片数 212) 大カテゴリー 小カテゴリー(切片数) 自由記述例 被検者の特性・障害に よる対応への苦慮 (25) 集中力がなく、立ち歩いたり、検査にのらない子供に、うまく注意を引きながら、タイミングよく検査を行うこ とが難しいと思います。/教示が理解しにくいクライエントに対して、かみ砕いて伝える範囲を考えるのに 苦労する。(かみ砕きすぎると答えを教えるようなものでもあるし、そうでなければわかりにくいことによる 不備が生じると思われるため) 検査者の技量不足と 向上の要請(11) 力量不足のため所見作成に時間がかかってしまう。オーダーが頻回ではないので慣れない。そのため自 分自身で検査時に勉強しないといけない。/臨床現場で経験値をあげる。力量を磨いていく機会を確保 すること。検査を通して、又一歩その子の特性を一緒に捉えなおす機会、関係を深める機会となる可能性 を感じます。 被検者に合わせて柔 軟に関わる工夫(10) 中立的立場を維持しながらも,受検者をリラックスさせること。/検査に取り組むこと自体が難しいお子さ んに、どのように関わると取り組みやすくなるか工夫すること。 検査前の被検者の動 機付けの向上への配 慮(9) 受検することへの抵抗が強い人への対応に苦労する時がある。/受検に強い不安や拒否感を持たれて いる被検者に心理アセスメントの治療上の意味やご本人にとってのメリット、受検をやめることも可能であ ることを誠実にお伝えしていくこと。このような話し合いが治療上の転機や方針の理解につながることもあ る。 被検者の特性・障害に 応じて施行する達成感 (6) 未就学児の多動の子などは施行が困難であることが多いが、様々に工夫することで関係を作り実施でき た時は達成感がある。/教示を教科書通りに読んでも伝わらない時に理解しやすく伝える。協力的でな い人、こだわりが強い人への施行。苦労するが力の見せ所。まとまりのない会話をする人に対して、検査 時間をいかに短くするか。 事前情報不足による 苦労(5) 過去の成績表など必要なものが集まらない。両親と死別しているなど必要な情報がわからないケースで 苦労します。/主治医それぞれが心理検査をどう考えているかを把握すること。 被検者の時間的負担 への配慮(4) 患者様によっては長時間の検査による疲労が大きく、配慮が必要です。/とにかく時間はかかるので、お 互いに負担は大きい検査なので、両者ともに興味を保ちながらやれるように、とは思ってます。 支援に活かせる実感 (39) 対象者や保護者の困り事について、どこでつまずいているかを解説し具体的な工夫点をお伝えできるとこ ろを醍醐味だと感じています。/特にお子さんの場合、もう少し学校の先生やSCの方と連携が取れたらと 思うことがあります。反対に上手く繋がり、結果を生かして対応を工夫していただけたときは醍醐味を感じ ます。 被検者理解の促進 (30) 日常生活の中ではわからない個人の能力や困りごとがわかるところもあるところは醍醐味です。/同じ設 問に対する応え方にそれぞれ本人のオリジナリティが出るので見立てにとても参考になる。 所見内容への苦慮 (18) 苦労としては、書面を作成する際、本人のレッテルにならないように、前向きな気持ちになってもらえるよう に表現することが難しく、責任を感じます。/クライエントへの個人的な共感度合いが所見に反映されて しまうこと。 検査を通した交流の 実感(15) 検査開始時はやや拒否的、表面的な方でも、検査が終わる頃には打ち解け、来院の経過を自ら語ったり, 表情が柔らかく体の力を抜けていたりすると良かったなと思います。/相手が持っている力を充分に出せ たと感じ、こちらもその手伝いが少しでもできたと思えて、協力してひとつのことを仕上げたと気持ちを共 有できた時は楽しいです。 支援へつなげる困難 (8) 逆に困り感が推測できない時(アンバランスがない時も含めて)は、苦労というか戸惑います。/検査結 果は、主治医からクライエントさんと保護者に伝えるシステムになっていますので、直接心理士から伝えら れないのが残念です。 時間の捻出の難しさ (27) 検査機関ではないため、通常の相談業務を行いながらの検査実施の負担感は大きい。/所見はこだわ りだすとキリがなく、時間がかかる。持ち帰りになるので負担が大きい。 料金の安さ(5) かける時間や苦労に対して報酬が低い。/FBに対しての診療報酬がないため、時間を確保しにくいとこ ろがあります。 施行の工夫 (70) 分析と支援 (110) 費用対効果 (32)

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検者の特性・障害に応じて施行する達成感(6)」「事前情報 不足による苦労(5)」「被検者の時間的負担への配慮(4)」 が含まれ,【分析と支援】には小カテゴリー5個「支援に 活かせる実感(39)」「被検者理解の促進(30)」「所見内容へ の苦慮(18)」「検査を通した交流の実感(15)」「支援へつな げる困難(8)」が含まれる。【費用対効果】には小カテゴリー 2個「時間捻出の難しさ(27)」「料金の安さ(5)」が含まれ る(表6)。  経験年数,領域,施行頻度によって,各項目への言及 に差があるかを検討するため,Fisherの直接法により分析 した。その結果,経験年数によって「時間捻出の難しさ」 への言及に有意差が見られた(p<.05)。クロス表からは, 5-10年未満で言及が少ないことが示された。先の所見作 成時間への回答で,経験年数が増すと所見所要時間が減 ることから,5-10年未満の経験者はそれ以前と比べて検 査にまつわる時間のやりくりに慣れてきていることがこ の背景にあることが推察された。  また,施行頻度と「被検者の特性・障害による対応へ の苦慮」でも有意差が見られた(p<.01)。クロス表からは, 年に1-10件で言及が少なく,週に1-3件で言及が多いこと が認められた。件数が多くなると,知能検査・発達検査 を受けに来るさまざまな特性・障害をもつクライアント への対応を迫られることにより,言及が増えたのであろ うと推察された。  質問紙を作成する際,著者らは知能検査・発達検査を 行う際の苦労と醍醐味は表裏一体であり,分かちがたい ものではないかと議論し,一つの問いとした。それにより, 苦労と醍醐味の回答が混在したことは否めない。しかし, 著者らの思いと同じく,回答の中にも一文の中に「苦労 であり醍醐味である」とされた記述も散見されたことは 指摘しておきたい。カテゴリー分けの際には,「苦労」の みを書いたものはそれと分かるような名称にし,「達成感」 等明確に醍醐味とわかるものと別カテゴリーとした。そ の結果,「被検者の特性・障害による対応」に「苦慮」も する一方,うまくいくと「達成感」が得られ,「支援に活 かせる実感」があるものの,そうするには「困難」もある, といった対応関係があるものが生まれた。結果的にこれ らの視点を含むものが,それぞれの大カテゴリーの中で 最も多くの切片数となった。知能検査・発達検査の施行 の場合には,臨床面接と異なり,被検者とは数回限りの 出会いとなることがほとんどである。その意味で,限ら れた時間の中でさまざまな特性・障害のあるクライアン トに出会い,それに対応しながら,支援策を考えることが, 知能検査・発達検査を施行する苦労であり醍醐味である といえるのではないだろうか。さらに,日常場面や臨床 面接とは違った「被検者理解の促進」がなされることも, 心理職にとっての知能検査・発達検査を施行する醍醐味 になっていることが示された。また費用対効果について は,時間の捻出が難しく,それに比して料金が安いこと が指摘されており,心理職の働き方や報酬を考える上で, 今後参考にすべき部分になると考えられる。 IV まとめと今後の課題 1.機関や個人によってことなる実施状況  本調査は,関西圏の幅広い経験年数・領域の臨床心理 士から回答を得ることができた。本調査が明らかにした 実態として,知能検査・発達検査の実施状況は,機関や 個人によって大きく異なることが指摘できよう。施行頻 度は保健・医療領域が教育/福祉/大学・研究所領域よ りも多い傾向にあるが,各領域内でもばらつきは大きい。 またテストバッテリーとして施行される検査も多岐にわ たる。そのため,自由記述で「オーダーが頻回ではない ので,慣れない」という声も聞かれた通り,心理職自身 が各検査に十分習熟したと自信を持てないまま検査を実 施せざるを得ない状況もあるのではないかと推察される。  また,これらの実情と,養成段階で行われる心理アセ スメント教育のずれについても,本調査から明らかになっ た。限られた授業時間の中で全ての検査や検査の各段階 におけるポイントなどに触れることは困難ではある。し かし,少なくとも現場で使う頻度の高い検査を優先し, 検査横断的なポイントを伝えること,等は養成段階の教 授内容として検討に値するのではないだろうか。 2.知能検査・発達検査を通して「個別の意味」に迫る  本質問紙の結果から,心理職らが知能検査・発達検査 の1)事前準備,2)心理検査の実施,3)検査データの整 理および分析,4)検査結果のフィードバックの各段階に おいて,様々な側面に目を配り,クライアントそれぞれ についての「個別の意味」に迫ろうとする様子が確認さ れた。これらはこれまでその実態が明らかにされていなかっ た部分であり,本研究の成果といえる。  近年,心理検査を単なる情報収集の手段としてではな く,検査者との協働的な関わりを通して治療的な効果を もつものとして用いようとするFinn&Tonsager(13)に端を 発した一連の流れが広がってきている。本調査の結果か らは,日本の心理職達もそれぞれの現場で,いかにクラ イアントを支援し検査を役立つものにできるかに腐心し, 醍醐味を味わってもいるといえるだろう。知能検査・発 達検査が,クライアントの「今後の生活に役立つ方針を 示す」ものとなるためには,「正確な施行」や「数値の正 確さ」といった標準に基づくことは当然のことながら, 本回答者達が指摘するようにクライアントに応じて【施 行の工夫】をし,結果をどう【分析と支援】につなげる かが肝要といえよう。そして,この部分については,問 題の背景で述べたように,これまであまり教育・研究が 進んでこなかった部分といえる。心理職の裁量は尊重さ

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れる一方で,本調査結果で得られたような知見をまとめ, 養成段階で事前準備や結果のフィードバック段階につい てもある程度のガイドラインを示しておくことは,若手 の心理職の負担軽減や技量向上に寄与し,またクライア ント支援に繋がると考えられる。クライアントをエンパ ワメントし,かつ検査者である心理職自身も醍醐味や達 成感を得られるような,検査実施の各段階にわたる知見 が今後も積み重なっていくことが望まれる。 3.今後の課題  最後に本研究の限界を記しておきたい。まず,本調査 によって,心理職の検査施行の状況は現場によって様々 であることが確認されたが,このことは調査協力者の心 理アセスメントの施行のイメージが統一されないまま, 回答することにつながった可能性は否めない。今後,養 成段階の充実や調査の積み上げにより,心理職の行う個 別のクライアント支援の一環としての心理アセスメント の施行のあり方がさらに明確になっていくことが期待さ れる。  また,本調査は対象が「関西圏」の「臨床心理士」であっ た。分析の中でも述べたように,心理検査の施行状況に ついて関西圏と首都圏や全国の傾向に違いがあることが 推察される。今後,地域特性などについても研究が必要 であろうと考えられる。また,様々な領域で,臨床心理 士以外も知能検査・発達検査を施行している状況もある。 さらに,回答者を募る元とした『臨床心理士に出会うに は 第3版』(10)に記載されている機関や公的機関以外の臨 床心理士のデータも含まれていないため,それらを含め た心理職全体としての傾向はわからない。クライアント にとっては,検査者がどんな資格を持っているのかは分 からないことが多いと考えられ,心理アセスメントの施 行の実態を調べるためには,今後はさらに大規模な調査 が必要であろう。 ― 付 記 ―  本研究は,JSPS科研費JPGA17K14415の助成を受けた。 この論文は,日本心理臨床学会第38回大会で発表したも の(隈元ら(14);岡尾ら(15))を再分析のうえ,大幅な修 正を加えたものである。 ― 謝 辞 ―  本研究にご協力いただきました臨床心理士の方々に感 謝致します。また,学会当日に様々なコメントを頂きま した皆様にもお礼申し上げます。 ― 文 献 ― ( 1 )日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士とは」 (http://fjcbcp.or.jp/rinshou/about-2/,2020年4月6日取得) ( 2 )厚生労働省「公認心理師法概要」(https://www.mhlw. go.jp/file/06-Seisakujouhou-2200000-Shakaiengokyokushoug aihokenfukushibu/0000116068.pdf,2020年4月6日取得) ( 3 )岩野香織, 横山恭子「心理検査の結果をフィードバッ クすることの意義:インフォームド・コンセントの観点 から」『上智大学心理学年報』 37,pp.25-35,2013 ( 4 )一般社団法人日本臨床心理士会「第 7 回「臨床心 理士の動向調査」報告書」2016(https://www.jsccp.jp/ member/news/pdf/doukoucyousa_vol7.pdf,2019 年 5 月 30 日取得)

( 5 )Cook, J. R., Hausman, E. M., Jensen-Doss, A., & Hawley, K. M.. Assessment Practices of Child Clinicians: Results from a National Survey. Assessment, vol.24 (2), pp.210-221, 2017 ( 6 )高瀬由嗣「心理テストを用いたアセスメントにおけ るサイエンスとアート」『明治大学心理社会学研究』14, pp.29-42,2018 ( 7 )隈元みちる「保護者支援としての協働的 WISC-Ⅳ フィードバック:自身も発達障害を有する保護者との 事例を通して」『心理臨床学研究』36(4),pp.377-386, 2018 ( 8 )依田尚也「臨床心理士養成大学院における大学院生 の心理検査訓練体験について」『人文』14,pp.169-177, 2015 ( 9 )田島佐登史 「修了後の心理臨床活動に役立つ学部・ 大学院教育の検討─臨床心理士養成指定大学院修了生 への面接調査─」『目白大学 心理学研究』 5,pp.35-42, 2009 (10)日本臨床心理士会(編),『臨床心理士に出会うには  第3版』創元社,2005 (11)加藤佑昌「臨床心理士指定大学院の心理アセスメン トおよび投映法教育のシラバス分析」『専修人間科学論 集 心理学 』9,pp.25-34,2019 (12)木村あやの,田口香代子「昭和女子大学大学院修了 生の臨床心理士としての自己研鑽─臨床歴からみた身 につけたい力とその取り組み」『昭和女子大学生活心理 研究所紀要』14, pp.41-56,2012

(13)Finn, S.E.&Tonsager, M.E..Information- gathering and therapeutic models of assessment: Complementary paradigms.Psychological Assessment,vol.9,pp.374-385, 1997 (14)隈元みちる,稲月聡子,岡尾裕美子,竹内直子,石 田喜子「臨床心理士の知能検査・発達検査の施行状況 に関する調査(1)―択一・多重回答の結果から」『日本 臨床心理学会第38回大会発表論文集』p.270,2019

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(15) 岡尾裕美子,隈元みちる,稲月聡子,石田喜子,竹 内直子「臨床心理士の知能検査・発達検査の施行状況 に関する調査(2)―自由回答から得られた施行のポイ ントおよび苦労と醍醐味」『日本臨床心理学会第38回大 会発表論文集』p.271,2019

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