学校教育における熱力学指導の諸問題(1)
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(2) . 学校教育における熱力学指導の諸問題 ( 1 ). 若. 目. n U. 菜. 博. 次. はじめに -- 本研究の課題と目的. T ▲. 熱力学とその基本諸法則について. 1 1 熱学史からのいくつかの分析 -- 永久機関 へ温度差″ 概念を中心に と\. 1 古典熱力学の適用対象とその限界. 1 エネルギー則形成における永久機関の役割. 2 熱力学におけるブラウン運動 (ゆらぎ) の. 2. 位置 ( 1 ) ブラウン運動 (ゆらぎ) 研究の歴史的役 割 -- 古典熱力学から不可逆過程の熱力 学への発展 ( 2 ) 熱力学的世界像におけるゆら ぎの位置 -- nゆらぎを介しての秩序″ ( 3 ) 平衡形成過程におけるゆらぎの位置. 、集 中″ ミ クロ か らマ クロ へ の エネ ル ギー の\. の必要条件としての温度差 1 1 1 熱力学の授業書化のための基本視点 1 熱力学指導 における 基本諸 法則 の抽出 -- 教育内容の設定 2 熱力学の授業書化への基本視点 I V 授業書 「熱力学」 とその解説 V 授業書 「熱力学」 の評価と今後の展望. 熱力学の体系構成とゆらぎ <以上, 本稿〉. 0. はじめに -- 本研究の課題と目的. 古典物理学は, 古典力学, 電磁気学, 熱力学の3つの構成部分をもつが 熱力学はその中でも次 , のような際立った特徴を有する. 第1に, 熱力学は, その対象が多体的構造をもつ系であれば そ , の系の構成要素のもつ運動の質に関わりなく, 広い適用範囲をも つことである 熱力学の2つの 基 . 本法則がそれぞれ永久機関不能の原理という nega i t veな表現をとることも,適用範囲の広大さを示. 唆している. 第2に, 系のも つ多体的構造という特性のゆえに, 不可逆性という独自の過程が現れ ることである. 力学・電磁気学の基本方程式 が時間反転 (t→-t) に対して不変であり 力学的 , あるいは電磁気学的過 程が可逆であるのと対照的 である 第3に, 上のことか ら 対象の分析手法 . , として, 熱力学は現象論的方法をとることがあげられる このような特質をもつ熱力学は 力学 . , , 電磁気学とともに現代自然科学の中 でも重要な位置を しめている 。 さて一方, 物理学教育の場面においては, 熱力学の指導プランの研究は 力学・電磁気学のそれ ,. と比べて大きく立ち遅れていると言わざるをえない 本研究は, そのような中で 熱力学の指導体 . , 系の確立へ向けて, 次の点を課題とするものである. 第1に, 熱力学における基本概念・法則を抽 出し, 熱力学の教育内容を設定すること である。 その際, ここで言う熱力学は 古典熱力学に限定 , 183.
(3) . 若 菜. 博. することは できず, 現代の熱力学の発展を含めてその基本諸法則が抽出されなければならない. 第 2に, 現代の熱力学の発展を考慮しつつ, また, その基本的概念・法則の認識の過程を熱学史にお けるそれらの形成過程から検討することによ って, 熱力学の体系構成の再検討を図ることである.. 最後に, 上の考察を踏まえて, 熱力学指導の基本構想を提示し, それを授業書という 形へ客観化す ることと, 授業書による実験授業を介して, 上の基本構想が妥当性をもちうるか否かを判定するこ と であ る.. 本研究では, エントロピーの指導については直接の課題とはしなかった. この問題については, iusに 関 す る 熱 学 不可逆過程の熱力学の 立場からの検討と, エントロピーの導 入者 である R. C1aus 史的検討 -- 特に彼の気体分子運動論研究とエントロ ピー概念の形成との関 連性についての分析 -- が不可欠 であると考 えるが, これらの課題については, 改めて, 別の稿を予定している.. 1. 熱力学とその基本諸法則について 1. 古典熱力学の適用対象とその限界. 古典熱力学とは, 「物質を, 原子や分子の集合とはみずに, 連続体としてとらえ, マクロ な熱的な 性質, とくに熱平衡と, それからわずかにはずれ, ゆっくりと変化する過程 (準静的過程) を把あ 1 ) 」 く しようとした理論体系 である( . ね h t としての熱力学は 元来, e rmo吻〃の” , 複数のマクロな系同士が熱的・機械的あるいは化学的 ) を扱うもの roce s s p に相互作用するときに, その系がどのように変化していくのか, 言わば過程 ( 2 ( ) )と 以下 単に平衡状態と言う 態が熱平衡状態( であった , この相 互作用の中で到達 した新たな状 , 3 ( ) して定義され, この平衡状態の指標として「温度」という実数変量が定義 さ れる . この実数 変量が 「温冷」という人間の感覚に由来する「温度」 に 対応するためには, この変量が 「高低」 の全順序関 係をもたねばならない (セ氏温度を導入したセシルウスが, 永点を100度, 沸点を0度であるよう. に温度定点を定めたように, その向きは, この(経験)温度の段階 では, 本質的な意味をもたない) . 古典熱力学は, 平衡状態を基底に して, 言わば非平衡状態をそ の枠組から除去することによっ て, その体系を組み立てていく. そして, 古典熱力学の目的は, その枠内で, 系の状態の時間的変化(過 程) を捨象し, 最初と最後の状態を内部エネ ルギーおよびエン トロピーという2つの量で規定する ことにある. 従って, 古典熱力学の体系では, その対象を本質的に平衡状 態 (さらに言えば, 準静 的過程という可逆過程) に限定せ ざるをえなかった. ここ では, 非平衡状態から平衡状態へと移行 する過程, すなわち平衡形成過程そのものは, 背後に退いてしまっている. 過程が退いていることを端的に示しているのが, 古典熱力学の体系に時間変数tが陽に入りこむ. ことのほとんどないことである.また,先に触れたように,古典熱力学の対象となる過程は,唯一, 準 i i tat 静 的 過 程 (quas )のみである. 例えば, 一般に高校の教科書や大学教養程度の熱力学 cp s roce s s のテクストなどに見られる P-V図 (P;圧力, V;系の体積) もその曲線に対応する変化 (過程) が準静的過程であるときにのみ意味をもつのであるが, そのことに注意しているものは少ない. 一 般の過程では, そもそもP -V曲線自体を描けない. そのとき熱力学的に 指定しうるのは, 始めと 終わりの(平衡)状態を表現する P-V空間における2点のみ でしかない. 従って, 古典熱力学は, 状態の時間的変化 (過程) を問題に しえない 「(平衡) 状態の学」 であると言うことができる. その i l i i b r um) と 意味で, 古典熱力学は 「静熱力学」 とでも言う べきものである. 平衡 (均り合い, equ 184.
(4) . 学校教育における熱力学指導の諸問題 ( ) 1. いう静力学のタームをその理論の基本概念に 据えていることも 古典熱力学の静力学的特徴を示 す , ものである さて, 古典熱力学のこの「静力学性」から何がもたらされる であろうか 第1に出てくる限界(制 . 4 ) あえて古典熱力学 約)は, 古典熱力学 では, 熱 (Q) とは何かを語ることが できないことである( , の枠内で熱Qを定義しようとすれば, エネルギーの相互転化と保存の法則を容認した上 で 熱力学 , 第1法則そのも のが熱Qの 「定義」 であるとみなすことになる すなわち 一般に2つ (以上) の , , 物理系を接触させ ると, 両者の間にはエネ ルギーの移動が生 じ そのときのエネ ルギーの変化は , , 次の熱力学第1法則により記述される; △U= Q + W + Z. (ただし,△ U;系の内部エネ ルギーの変化, 仕事W ;運動量変化に伴うエネルギー変化 Z; , 物質量の変化に伴う エネ ルギー変化) 。 この第1法則を考察すれば, 「熱量 (Q) とは運動量変化も物質量変化も伴わないエネ ルギー変化 5 } 量( 」 として, 熱が消去法的に 「定義」 されることになる しかし これだけでは熱の 「質」 すな 。 , , 、暖″ か ら \ \冷″ へと向かい そして平衡状態に到達し わ ち, 熱 の 移 動 は \ , , その逆は自然には決し. て起こりえないという 「不可逆性」 という質が捨て去られてしまう ことになる 。 6 )を加味すれば 古典熱力学の枠内でも熱を定義 できるであろうとす る論者 では, 熱力学第2法則( , がいるかもしれない。 確かに, 第2法則は熱の不可逆性について述べた法則 であり その意味で熱 , の「質」について触れてはいる。 しかし, それはもともと, 朝永振一郎の言うように 「高温物体だ , けでは動力 が得られないという熱の奇妙な性質について トムソンは 『なぜか』 と問いな がら答え ,. られず, また, それがエネルギー保 存則と両立するかについても答えられず 困っていたのですが , , クラウジウスは『なぜか』というのをやめ, それこそは熱の本性である としてそのまま受け入れ( 7 ) 」 . , , それを, 第1法則と相ならぶ熱力学の基本法則に設定したものである . 8 ) 結局, 古典熱力学は「熱の本質を明らかにすることを目標とした理論ではない( 」と言うことが で きるのであり, その枠内では熱とは何かを明らかにしえないのである . . 古典熱力学の 「静力学性」 から出てくる第2の制約は, 先に触れたよう に 熱過程を準静的過程 , という 「静力学的」 過程に限定し, 不可逆過程 (平衡形成過程) の動因を把握しえないこと である . この点について, H.B.キャレンは次のように言う ; 「われわれの主要な興味は しばしば状態より , は過程にあるということは認めざるを得ない (中略)確かに 熱平衡論には過程についてある程度 . ,. の情報を推定することを可能ならしめる方法が2つある;いずれも間接 的でかつその手応えは非常 に貧弱なものではあるが. その第1は, 初期の平衡状態と最終の平衡状態を研究することにより , 過程を両端で押え, それによって過程の効果を全体として裁定するやり方がある 第2は ある過 , 。 程が極度に緩慢 に進行する場合, それを理想化された, 非現実的な準静的過程によってなぞらえる やり方である。 しかし, いずれの方法も, 現実の物理的過程の速さという中心問題に立ち向かうも 9 )」 の では な い( 。. そして, 第1の制約とも関連するが, 熱は (平衡) 状態によっ て決まる量ではなく 系の状態変 , 化の道筋, すなわち過程を指定して, 初めて量的に決ま るものである 熱そのものを明らかにしよ 。 うとすれば, 過程そのものに関心を向けなければならない 過程に目を向けることにより 熱現象 . , の特異性および熱の本質について明らかにすること が可能になるのである . 古典熱力学の第3の制約は, それが 「元来マクロな量だけを用いて閉じた記述を行なおうとする 理論 であり揺 らぎの目立たないような系に適用されるべきものと いう意味でその適用範囲が制限さ l o ) れている( 」 ことである。 この制限のために古典熱力学は準静的過程のような特殊な過程を扱わね 185.
(5) . 若 菜. 博. ばならないのであるが, それはともかく, 平衡状態においても, その系には 外界からの影響によら ない自然発生的なゆらぎが常に存在している. また, 2つ (以上)の系が接触 したときには, 当然, 両系の境界を中心としてゆらぎは無視しえぬほどのものに なる. 次節で詳述するように, 不可逆過. 程の動因, メカニ ズムを考察するとき, ゆらぎは不可欠な役割を果たすの であるが, 「静熱力学」で はこれを最初から排除しなければならないの である. 熱の本質をとらえ, さらに熱力学の 適用領域を拡大するためには, 過程に焦点をあて, 熱力学を, ゆらぎを含めた 「動熱力学」 とすることが必要である. なお, 上記のように古典熱力学がいくつかの 限界と制約をもちながらも, その根底に据えられて いる平衡状態という概念は依然として重要である. 物質の熱的な性質 を把握するには, 温度という 物理量が不可欠であるが, 温度概念は平衡状態の概念が成立して初めて認識されうる ものだからで ある. ただ, この平衡状態も 「動」 的に, すなわち, 非平衡状態による 「秩序」 の形成として, ゆ らぎの定常状態として, 把握していくことが必要 である (この点についても, 次節で詳述する) . 2. 熱力学における ブラウン運動 (ゆらぎ) の位置. 1 ( ) ブラウン運動 (ゆらぎ)研究の 歴史的役割 -- 古典熱力学か ら不可逆過程の熱力学への発展 さて, ゆらぎ現象が典型的に 現れるのが言わゆる ブラウン 運動 である. ブラウン運動は, 1827年にイ ギリスの植物学者, R .ブラウンによ って発見された, 彼は花粉から 出てくる微粒子が水中 で不規則に動き回ることを観察 し, それを端初として, 有機物であれ, 無機 物であれ, 微粒子に 分割 できる物質であればあまねく, 同じよう な不規則運動をするという 普遍的 1 1 ) ブラウン自身は この運動の 原因を結論的に述べなかったが, ブラ な現象を発見したのである( , . 905年, A.アインシュタインが ブラウン運動の原因を理論的に解明し ウンの発見から約80年後の1 た. すなわち,「微粒子がそれ自身のみで孤立しているのではなく, その周囲で熱運動をしている 液 1 2」 ことを定量的に 示 体分子と相互作用しているために, ゅらぎをともなった不規則な運動が起る() した の であ る. そ の 後, ア イ ン シ ュ タイ ン の ブ ラ ウ ン 運動 の 理 論 は, J .B.ペ ラ ン の 実 験 に よ り, そ の. 誰の目の前にも明らかとなり,「分 19 08年) 正当性が確認された( . このことから, 原子論の正しさが 1 3 ) { たのである. 最後ま 」 あること が世界に宣言せられ 子が無用の仮説どころか,れっきとした実在で で原子論の排撃を主張し続けてきた F .マッハも, この事実の前に, とうとう .W.オストヴァ ルトや E. 原子が実在することを承認したことは, 有名 である. ブラウン運動の研究の意義はこれだけにと どまらなかっ た. それは, 統計力学がす でに予言して いたゆらぎの存在を示すことによって,「古典熱力学は, 顕微鏡に識別可能な領域に対してす でにも 1 4 ) 」 を明確にした. はや正確に妥当するものとは見なしえないこと{ ブラウン運動に典型的に現れるゆらぎ現象は, 古典熱力学の適用限界を明らかにする一方, それ はまた, 不可逆過程・非平衡状態をも対象とする新しい熱力 学の建設の出発点となった. その最初 の歩みが,1931年の L .オンサーガーのゆらぎと不可 逆現象との関係の考察である. 彼は, この考察 1 5 )線形不可逆過程の熱力学の創始 者となった. 現代の不可 から 「オンサーガーの相反定理」を導き( , 逆過程の熱力学研究の第一人者である1 .プリ ゴジーヌらは言う;「相反定理は古典熱力 学を拡張し, 線形非平衡熱力学″ と呼ばれるにふさわしいものにした. そして, それは不可逆過程の流れ (あ るいは速 度) が ブラウン運動的力″ (例えば温度勾配や 濃度勾配) の線形関数であるような局面の 1 6 )」 領 域 ま でお お う よ う に な っ た( .. このように, ゆらぎは古典熱力学を新しい熱力学へと発展させる 契機となったのであるが, この. 186.
(6) . 1 ) 学校教育における熱力学指導の諸問題 (. ことは, 同時に, 古典熱力学の土台とも言うべき平衡概念の変革をも迫っ た.「ここでわれわれはい わゆる平衡状態にある流体の主要な1つの特性に到達する. すなわち, この外見上の静止はわれわ れの感覚の不完全からくる錯覚にすぎないのであって, 実際は無秩序の激しい活動の定常状態に相. 1 8 1 7 ); 一 般 に エ ネ ル )」 こ の こ と を 統 計 力 学 的に 表 現 す る と 次 の よ う に な る( 当 して い る の であ る( , .. ギーEをもつマクロな物理系について,そのエネルギーのゆらぎの確率分布が指数関数 exp(-βE) に比例する形になっているとき -- 詳しく言えば,その物理系の行動を確率過程で近似することが でき,確率分布関数の時間変化 がなく なって, exp(一βE)に 比例 する定常形に落ち着いたとき -- この系は一定温度の定常状態, すなわち, 平衡状態にあるといい, β=1/たT. で定まるTをこの系の絶 対温度という(ただし, 々はボルツマン定数) . こうして, 平衡状態はゆら ぎ (の確率分布) が定常になった状態として 「動」 的に把握されることになった. ( 2 ) 熱力学的世界像におけるゆらぎの位置. 一ゆらぎを介しての秩序″. さて, 今まで簡単に ブラウン運動とゆらぎの役割を歴史的に見てきたが, この項では熱力学的世 界像の上で両者がどのような位置をしめるのかを考察していくことにする. その考察の際, 鍵概念 luctuat ions と な る の は, プリ ゴ ジ ー ヌ ら の 言 う ゆらぎを介しての秩序 order through f ) とい う視点である. 彼らは, 一ゆらぎを介しての秩序″について, 下から熱せられる鍋の中の液体の流れ の問題 (流体力学においては 「ベナー ルの不安定性問題」 と言う) を例にとりながら, 次のように. 言う. その液体には,「平均状態からのゆらぎとして現れる対流が常に存在する. しか し温度勾配が 一定の臨界値以下では, これらのゆらぎが弱められ, 消滅するといったイメージをもつことができ. る, 逆に, 臨界値以上では, 一 定のゆらぎは増幅され, マクロ的な流れを発生させる. 新しい分子 的秩序は, 外界とのエネルギー交換によって安定せられるマクロ的なゆらぎに基本的に対応してい. ることは明らかである. これが散逸構造の発生によっ て特徴づけられた秩序である. われわれは, この秩序のことを, 平衡構造の理解にとって基本となるボルツマンの秩序原理 〔S=たl og W のこ. と. た だ し, S ; エ ン ト ロ ピ ー, 々 ; ボ ルツ マ ン 定 数, W ; 熱 力 学 的 重 率 … … 引 用 者〕と 対 比 して, 1 9 )」 な お uゆらぎを介しての秩序″ と 呼 ぶ( i ipat ivestructure)″ は 固相・液相・ ss , 散 逸 構 造 (d . ,. 気相や結晶などの平衡構造と対比して導入されたものであり,「十分な物質流とエネルギー流を通し 0 2 } てのみ平衡から遠く離れた状態に維持されうる( 」 構造のことである. その例として, 台風や海流 の構造あるいは生体構造などがある.. この視点は, 古典熱力学で扱うことのできなかった, 内部の変動する物理系 (非平衡状態の系) を解析するために, 強調さ れたのであるが, マクロ な系と構造との関係を考察するとき, 重要な意 義をもっと思われる. 岩崎允胤・宮原将平は, 構造と要素というカテ ゴリーの分析の中で, 「系は,. 要素に還元されえないとともに, 要素から分離されえない固有な構造をもっている. ここに系のも 2 1 ) i l i br i 」とし,その上で系と均衡(平衡equ um)について次のように述 つ構造と要素との統一がある( べる. 「均衡は -- たとえば結晶のように相対的な安定性がはなはだ長く保たれるにせよ, やはり なんとしても -- 条件的・相対的であり, 均衡を定立し揚棄する 運動 は, 無条件的 であり, 絶対 的である. このかぎり, 動的な契機をまったくもたない均衡系というものは存しないのである. (中 略) 系自身はさらに,環境との相互作用 のもとで,その内的根拠 (矛盾) によって, ある構造から他. の構造への転化をおこない, それ自身を揚棄する. すなわち, ある場合には, その構造の瓦解と再 2 2 ) 組織により, 他の場合には, 新しい構造への飛躍と発展によ って( 」 ……と, このことを, 平衡構造をとる系およびその近傍の状態にある系について見てみることにする. 187.
(7) . 若. 菜. 博. まず, 平衡構造, すなわち平衡状態にある系を考える. 先に述べたように, 平衡状態においても t ) は常にゆらいでいる. c 熱力学的諸量 (例えば, 温度T, 内部エネルギーE, 圧力P, 体積V, e . このゆらぎは, 物理量の観測値に比べて平衡状態では通常無視される場合 が多いのであるが, しか 2 3 ) 温度Tの熱源に囲まれている 系を考える し, 平衡状態においてもゆらぎは重要 である. 例えば( , と, その系の熱容量Cは, その系のエネルギーEのゆらぎとの間に 次の関係が成立する 〉/たT C = <(E - 〈E〉)2. (た ; ボ ル ツ マ ン 定 数).. また同様の条件に ある体積Vの系 (物体) の帯磁率 尤 は, その物体の磁化Mの熱的なゆらぎとの間 に次の関係があることが知られている 2 元 = 〈M 〉/3たTV. > はAのゆらぎの2乗の平 )2 ただし, ここで 〈A〉 はある物理量Aの統計平均を示し, <(A- 〈A> 均 で, ゆらぎの大きさを測る 尺度の1つである. これらの関係は, 平衡状態においてもゆらぎが系 のミクロ的状態 (右辺の温度Tにそれが反映する) と系のマクロ的状態 (左辺の熱容量Cや帯磁率. 尤)を結 びつける役割を果 していることを示している. ゆらぎは統計的量のその平均からの偏りとし て統計力学によ って導入されたもの であるが, それ自身はミクロ的なものではない. さりとて, 古 典熱力学の対象となるようなマクロな階層に属 するものでもない. ゆらぎは, 自然のミクロとマク ロの階層を結ぶ独自の質をもった中間の 「階層」 であり, この独自の 「階層」 であることが, ゆら. ぎを土台に した現象論的な不 可逆過程の熱力学成立の基盤となっているのである. かつて, 古典熱 力学が自然のマクロ な階層に固有に現れる平衡状態という概念を基盤に成立したように. さて, 平衡状態からそれほど離れて いない状態 (もちろん非平衡状態) では, ゆらぎがどのよう な位置をしめるであろうか. この領域においては, 線形応答理論の統計力学 が一応の体系を完成さ せている. 線形応答理論は, 平衡状態を乱す原因 -- 熱力学的力″ -- と, それに対する 系の 応答の間には 一般に線形関係があるとして, その線形関係をミクロの立場から理論的に計算する 基 i i ipat luc ion‐d f tuat ve theorem) と 呼 ば ss 礎 と な る 一 般 公 式 を 与 え る. そ れ が 「揺 動 散 逸 定 理」 ( れ る も の で, 前 に 述 べ た 2 つ の 式 は そ の 特 殊 な 例 であ る. ま た, か つ て ア イ ン シ ュ タイ ン は, ブラ l i i i ty) ” と 拡 散 係 数 D と の 間 に, t chke ウ ン 運 動 を して い る 粒 子 の 易 動 度 (Bewegl , mobi D =〆左T. という一般的な関係のあることを見い出した (アインシュ タインの関係) が, この関係式も媒質溶 液が平衡状態にある場合の 揺動散逸定理となっている. アイ ンシュ タインの関係に即して言えば, この定理は「摩擦というエネルギー散逸の機構が熱平衡状態でのゆらぎと密接に関連していることの 2 4 } 」 であり, 一般には 「可逆不可逆を問わず 外力 の効 果の波及の仕方が熱平衡状態の 事実の表現( 2 5 } 」 も の で あ る. ゆ ら ぎの 仕 方 と 密 接 に 結 びつ い て い る こ と を 主 張 す る(. 以上, 平衡状態と平衡状態近傍 での非平衡状態におけるゆら ぎの役割を見てきた. 次に, プリ ゴ ジーヌらの問題意識にそいながら, ゆらぎを介しての 秩序″について検討し, 新しい不可逆過程の 熱力学の中 で果たすゆらぎの役割を考察していくことにする. ま ず, プ リ ゴ ジ ーヌ ら の 問 題 意 識 は, 次の よ う な も の であ る. ボ ルツ マ ン の エ ン ト ロ ピー の 表 現. ″ S = たl og wに代表される古典統計熱力学では, 生体構造に典型的に現れる 散逸構造 の起源を説. 明 しえない. 例えば, タン パク質の生理的機能はその構 成要素であるアミノ 酸の連鎖の仕方によっ て規定されるが,任意の初期分布から出発して,生理的機能を果たしうる編成を獲得するための確率 \ ″ 1 0のオー ダー である \ 3 - その構造の変化 は単純に計算しても10 . 初期 タン パク質が形成された後, 8 ‐ パ ) としても, 希望のタン ク質を形成するの ! (例えば突然変異によ って) が10 秒毎に起こる (? 1 7秒 であ る こ と を 考 え る と こ の い く ぶ ん 小 1 2 2秒 も の 時 間 が 必 要 であ ろ う 地 球 の 年 齢 が 10 に t =10 , .. 188.
(8) . 学校教育における熱力学指 導の諸問題 ( 1 ). さなタンパク質の編成 でさえ, 平衡系を扱う古典統計熱力学の考えでは, 自発的に起こりえないこ とが結論される。 すなわち, 生物学的秩序と物理法則なかんずく熱力 学第2法則との間の明 白な矛. 盾は, 生体系を平 衡熱力学の方法によっ て理解しようとする限り, 除去することはできない この . 矛盾を解決し, 新しい熱力学の体系を作るためには, 適切なゆら ぎの増幅を通して現れる 散逸構 造″ によ って規定される非平衡系における自 己形成 ( Se l f i i t ) の研 究 が課題 と なる。 - o rgan za on. \散逸構造″をもつすべての対象に共通なものである( 2 6 ) プ この課題は生体構造の解析だけでなく, \ . ゴ リ ジーヌらの問題意識は上記のようなものであるが, その基本思想を端的に表現したものが彼ら の著書の題目 である; 「非平衡系におけ る自 己形成 -- ゆら ぎを介しての散逸 構造か ら秩序 へ f ion m nonequi (Sel l ibr ium systems - - From ‐organizat. di ipat ive structures to order ss. l throughf ions )」 uctuat 。. プ リ ゴ ジ ー ヌ ら は 人 間 社 会 の 領 域 に ま でこ の 理 論 の 適用 を 図 ろ う と し て お り こ の 点る こつ い て は ,. 安易な適用に十分警戒を要するのであるが, その適用領域を当面, 自然における 散逸構造″ をも つ対象に限定するならば, 彼らの視点は極めて野心的であり, 価値のあるものと思われる 特に , 。 この20年間の生物物理学が 「生物の形質にはそれをになう分子が存在するという考えにのっ とっ て」 発 展 して き た が,「n形 質″= u分 子″ という考えに立ちながらその段階をのりこえた 物理的な意 , 幼今日 「新しい生物のとらえ方」に1つの方向を与 味で新しい生物のとらえ方」力滋是起されている〈 , えるものであろう。 少くとも, 生体機能をゆら ぎとの関連でみることは妥当なこと であると言われ. ている. 例えば, 大沢文夫は次のように言う. 「最近, リゾチームなどのタンパク質分子について , 一定の環境の中 で, その立体構造が大きくゆらいでいることがわかった リゾチーム分子が全部特 . 定の立体構造をとっ ていると思われていた生理的環境 でも, 各分子はときどきほ どけた構造をとっ ており, ある瞬間をみると, 平均して百万個に1個の分子はほどけている 一般に生物の生理的機 . 2 8 )」 (傍点引用者) 能とは, タン パク質分子の環境に応じてのゆれ であるといえる( 。 なお, プリ ゴジーヌらは, 「構造」’「機能」o「ゆらぎ」の三者を相互規定的にとらえることを提起 している; 「どんな系でも構造的には安定ではない 散逸構造の時間発展〔進化〕は 次のシェ ー マに .. よる自己規定的な連鎖 である。 機能 ( func ion) t. t 構造 ( ) ructure s 9リ f l ion) α ゆらぎ ( uctuat 。 ご. 3 ) 平衡形成過程におけるゆら ぎの位置 ( さ て, ゆらぎを介しての秩序″の思想の原形は オンサーガーが相反定理を証明す るときに採用 , した ゆ ら ぎの 消 退″ ( ionoff luctuat ion) の 思想にあると考えられる この思想が古典熱 regress . 力学では扱えなかった不可逆過程 (平衡形成過程) の解析にどのような意義をもったのかを検討し て みよ う。. オンサーガーは, 彼の相反定理を証明するために 3 つ の 足 場 を 利 用 した。 1 つ は, ブ ラ ウ ン 運 動. に 関 す る アイ ン シ ュ タイ ン の ゆ ら ぎの 理 論 であ る 2 つ は, 。. i 微視 的 可 逆 性″ (mi ‐ croscop creversi. i l b i t )の仮定と呼ばれるもので, 微視的粒子の運動の可逆性をゆらぎに反映させたも のである 最 y . 後は き ゆらぎの消退″の仮定と言われ, ゆらぎの消退速度 』 誓 (α“ 熱力学的諸量のゆらぎを 表わすパラメータ。 平衡状態では = 0。 Z = 1, 2, …-, ”。 ” は 系 の 自 由 度)が 巨視 的 な 流 れ″Jぎと 力″×ブとの間に結ばれる関係式に従うとする仮定 である その関係式とは J 1L“×ブ . , f=1 189.
(9) . 若 菜. 博. l i l h であ り, J≠= α ,と 考 え る の が こ の 仮 定 の 内 容 であ る. こ こ に Luは 現 象係 数(P enomenoogca co‐ i i f ) と 呼 ば れ る も の で あ る. ent ef c. この3つの根 拠をもとに, オンサーガーの相反定理;Lv=L“が証明される (その証明の実際は, 3 1 )では ゆ 3 0 〉 ない線形領域( ) 成書を参照されたい( , . 彼は, そこで少くとも平衡からそれほど離れてい 一 ″ 態へと駆動される ) て系は平衡状 によ の関係がある ら ぎ αぎに 帰 因 す る 力 ×た (Xた= - Z g 熊 っ 々 , ことを示し, 不可逆過程 (平衡形成過程) を時間的に追跡することを可能にした. かく して, 線形 領域での平衡形成過程は, ゆらぎの消退によっ て解明されることが示されたのである. 3. 熱力学の体系構成とゆらぎ. 自然界においては, 常にいたるところで, 様々 な仕方においてエネルギーの相互転化が生じてい る. エネ ルギーはその転化の中でも常に保存さ れるが, 転化の中に熱現象が介在するときには不可 逆性という独自の質が現れる. この不可逆性はその過程をになう対象の多体的構造の特性に根拠を. もつ. 多体性という特質は, 対象とする 系の構成要素 (原子・分子・電子等) の数が単に多いとい うだけでなく, 要素同士が複雑な相互作用を及ぼしあうことを含意している. 従っ て, エネルギー の転化を問題とするとき, 熱現象の介在するエネルギー転化は独自の扱いが必要となる.. この節は, 第1に, 熱力学を自然の階層構造の中でミクロとマクロの間のエネルギーの相互転化 を扱うものとして位置づけ, 第2に, その上で熱力学は前節で述べたブラウン運動とゆらぎを出発 点として構成されるべきことを述べる. まず, 熱力学をマクロの階層とミクロの階層間のエネルギーの相 互転化を扱うものとして位置づ け る こ と に つ い て 若 干 の 付 言 を して お き た い.. 通常, 熱力学は自然におけるマクロ な物質 (系) を取り扱うものとされている. 例えば, 久保亮 五によれば, 熱力学の対象は,「ふつうの観測手段によ って取扱わ れる程度の空間的, および時間的 なひろがりをもつ巨視的 なもので, 多数の物質粒子 (分子, 原子, 電子など) から成る場合, 電磁 場のよう な場である場合もあるが, いずれに しても力学的にいえば自 由度が極めて大きい系 であ 3 2 ) る{ 」 とされる. 熱力学をそれ自身で完結した 体系として記述し, その体系に現れる物理量にのみ 目を向ければ, 上の指摘は正しい. しかし, 熱現象そのものは, マクロ な階層に独自に発現するも のでありながら, ミクロ な分子運動にその根拠をもっ ている. ミクロとマクロ の運動形態は相対的 に独自のもの でありそのレベルに固有な運動法則をもちながら, 両者間には相互転化・相互移行が. 存在する. このことをエネルギーという側面から見れば, 例えば, マクロ な力学的エネ ルギーのミ クロな分子の運動エネル ギーへの 散逸″ (摩擦による系の 温度上昇等)があり,またミクロな分子運 動に散逸しているエネルギーをマクロな力学的エネ ルギーに 集中″ する (熱機関等) といったエ ネルギーの相互転化が存在している. これらの転化について, 古典熱力学では熱量Q, 仕事W, 内 部エネ ルギーUなどの巨視的物理量を用いて解析するのであるが, そこで用いられるタームが巨視. 的なもの であり, また対象とする系がマクロ なものに限定されていたとして も, その扱う現象の中 で実質的に起きている過程はあくま でもミクロ とマクロとの間でのエネルギーの相 互移行なの であ. る, その意味で, 熱力学の対象をミクロ・マクロ両階層間におけるエネ ルギーの相互転化として把 えていくことは自然なことであると思われる. 次に, 上に 位置づけられた熱力学において, ブラウン運動およびゆらぎが出発点となることにつ い て 述 べ て い き た い.. その第1の理由は, 前節で論じたように, 自然の階層構造において ブラウン運動という運動形態,. 190.
(10) . 学校教育における熱力学指導の諸問題 ( ) 1. すなわちゆらぎはミクロとマクロの両階層の間 で独自の位置をしめ, 両階層間のエネルギーの相互 転化の過程において次の役割を果たすことである。「ゆらぎは微視的な運動そのもの ではないが, 微 視的レベルから巨視的レベルにむかってエネ ルギーが集中する機構をあらわすものであり, それは 逆に 巨視 的レベルか ら, 微視 的レ ベ ルヘエネ ルギーが散逸する機 構と表裏一 体をなす もの であ 3 3 )」 そして 熱力学を 「状態の学」 ではなく 「過程の学」 として把えていく立場 すなわち非平 る( , 。 , 衡状態・不可逆過程の熱力学では, ゆらぎがその成立基盤として位置づけられている. この新しい \ゆらぎの消 熱力学は, アイ ンシュタインに始まるゆらぎの理論を出発点として, オンサーガーの 、 退″ の 思 想 を 土 台 の 1 つ と し て, そ の 体 系 を 組 み 立 て て き た .. オンサーガーはゆらぎを問題にする際に次のことに注意を喚起した が, その指摘は重要である.. 「か つ て アイ ン シ ュ タイ ン が 指摘 し た よう に, (2。 1) 式 〔ボ ル ツ マ ン の エ ン トロ ピー の 表 式 ;△ S =たlogp 十cons t の こ と. こ こ で, △ Sは エ ン ト ロ ピー の ゆ ら ぎ, P は 系 を あ る ゆ ら ぎ の 下 に 見. l い出す確率〕 によるゆらぎの計算は, 素過程 ( ta ) を支配するであろう諸法則 e emen ryproce s s e s ( 3 4 に関するあらゆる特殊な仮定に独立である ) 」(強調はオンサーガー) . ここで言われる素過程とは ミクロな分子の個々の運動過程のことであり, またそれを支配する諸法則 とは系の構成要素の運動. を規定する古典力学あるいは量子力学の諸法則を意味する. こうして, 不可逆過程を視野に含む熱 力学は,ミクロな分子運動に還元しえないゆらぎという運動形態を基礎にして出発することになる。 そして, この新しい熱力学は, 古典熱力学をその1つの極限状態として包含する理論として建設さ れつつある。 以上のことが ブラウン運動およびゆらぎを出発点にすえることの第1の根拠 である。 第2の理由は, 分子の 「熱運動」 と言われるもの自体がブラウン運動 であることである。 ブラウ 6m の オ ー ダー の 大 き さ を も つ コ ロ イ ド粒 ン 運 動 の 発 見 の 経 緯 か ら し て, こ の 運 動 は 通 常 〆m =10-. 子 (ブラウン粒子) が周囲の媒質分子の熱運動によっ て不規則に動き回る運動であると言われてい 3 5 〉 しかし 「Brown 運動は Brown粒子に限らない 広く見れば 多数の粒子 多数の自由度を る( , . , , . 3 6 )」実 もつ力学系の中で, ある特定のモー ドの運動に注目すれば, その運動は Brovm 運動 である( 。 際, 気体分子を例にとってみても, 1つの分子に注目したとき, 他の分子がそれに1秒の間に衝突 0=100 億 回 の オ ー ダー であ る する回数 (平均の衝突頻度) は標準状態 (0℃, l atm) に お いて 101. ことが容易に計算される. このおびただしい回数の衝突を受けて, あらゆる分子が互いに極めて不 規則な衝突をくりかえしながら, 熱運動という ブラウン運動をしているのである. そして, この運. 動が実際の熱的過程をになっているのである.. 第3の理由は, ゆらぎがマクロな系の 「構造」 と 「機能」 と深く結びついていることである. こ こでいう 「構造」 とは, 例えば, 結晶構造などの平衡構造や散逸構造として秩序が維持されている 生体構造な どのことを意味する. また, 「機能」 とは, 元来は生理学のタームであるが, ここでは, 系にある刺激を与えたときのその刺激に対する系の応答という意味に限定して使う ことにする. 前. 節で述べたように, 系の応答を表現する物理量は 「対象である粒子系のゆらぎとの関係 で完全に統 3 7 } 一的に理解される( 」 (揺動散逸定理) . 構造についても, 相転移などの起こる場合のように, ゆら ぎが増幅され新たな秩序構造に転化することがよく知られている ( ゆらぎを介しての秩序″ ) 。 なお, 上のことと関連して, 多体系におけるゆらぎが 「物性の枠をこえてどれだけ の適用範囲を 3 8は 重要である 彼は まず 多体系のゆらぎがコンプライア もつか」 についての宮原将平の指摘( , , . ンス (特殊的には様々な物性定数) と深いかかわりあいがあり, それが線形でない場合には相転移 と 関 係 す る こ と を 述べ た 上 で, 「こ の こ と は, 原 子・分 子 か ら つ く ら れた ふ つ う の 固 体 な どに つ い て. のことばかりではなく,はるかに巨大な多体系についても適用されるものであろう」と言う。例えば, 星の集まりである銀河の運動などや, さらにまた極微の素粒子の世界においても 「多体系のゆらぎ 191.
(11) . 若. 菜. 博. がきわめて重要 な意味をもってくるかもしれない」 としている. 近年, 星の進化に対しても非平衡 3 9 ) このように 自然のそれぞ 熱力学の適用が図られ 「宇宙と星の熱力学」 が提唱されてきている( , . れの階層がそれぞれ一段下の構成要素からなる多体系で形成されており, しかもその系は閉じた系 ではなく 非平衡・開放系 である場合が自 然界には圧倒的に 多いことからしても, 非平衡・不可逆過. 程の熱力学の適用領域が今後さらに拡大していくことが予 想されるのである. 第4の理由は, ブラウン運動がモデルとしての (気体) 分子運動論ではなく, 実在する原子・分 子の運動の決定的な根 拠であること である. 熱力学的世界像の上 で, 自然の階層性の認識 -- 原 子・分子のミクロの 階層とわれわれの生活しているマクロな階層, またその他の階層にはそ れぞれ. 独自の運動形態があり法則があることの認識 -- は 極めて重要である.自然の階層性を認識するた めにも原子論的観点をリア ルにもつことが必要であり,その上でブラウン運動のもつ意義は大きい.. く注〉 88 78年 大月書店 P ( 1 ) 宮原将平 「物理学とはどういう科学か」 19 . . 9 礎月報 72年1 』N 0月) 『 岩波講座現代物理学の基 「 」( o ( 2 ) 高林武彦 熱力学の方法について .5 1 . ( 3 ) 温度が1つの実数変量となることが保証されることについては, 次の文献を参照されたい. 河島幸彦「熱力学」 948年 共立出版 ) pp.474-476 (伏見康治編 『量子統計力学』 1 . ( 4 ) 岩崎允胤,宮原将平は次のように言う. 古典熱力学の立場では 「熱Qについていえば, ほとんど定義不可能な 4 38 6年 大月書店 p 量であることに注意すべきである.」 岩崎・宮原 「科学的認識の理論」 197 . . ) 2 9 告B-3 』 1 9 7 0年1 1月 『 p ( 5 ) 鐸木康孝他「初等熱力学の諸問題」( 千葉大学教養部研究報 . . なお, この流儀 での熱量の定義はランダウ・リフシッツの教科書にも見られる;ランダウ・リフシッツ/小林稔他訳 「統計物理 6 5 6 6年 岩波書店 p 学 〔第2版〕(上)」 19 . . ( 6 ) 熱力学第2法則には種々の表現があるが, ここではその1つ, クラウジウスの表現を示しておく;「熱が高温 『岩波理化学辞典』第 度の物体から低温度の物体に他の何らの変化をも残さずに移動する過程は不可逆である」( 9 81年) 3版増補版 1 . 1 80 9 9年 岩波新書 P 7 ( 7 ) 朝永振一郎 「物理学とは何だろうか (上)」 1 . , 4 1 0 ( 8 ) 鐸木康孝他 前掲書 p . . 32 8 9 79年 吉岡書店 p ( 9 ) H.B . . ,キャレン/山本常信訳 「熱力学 (下)」 1 l ) 高林武彦 前掲書. ( o 1 1 ) 花粒から出る微粒子が水中で不規則に運動すること自体は, ブラウン以前に知られていたことであった. ブラ ( ウンも彼の論文の中でそのことに言及している. 彼のオリジナリティ は, 媒質中での大きさ数”m 以下の微粒子 tThe G Br ht us はあまねく不規則運動をする, ということを見い出したことにある. 次の文献を参照されたい;S . . ’ ’ i t l IHeat--- A Hi i tory ofthe Kine [ c TheoryofGasesinthel9thCentury Book KindofM s on 頓′ e Ca ot i l t b i i i IPhys erdam・ NeW York・OXford 2 t ses r rever s eProces ca csandl .およ び ロ s .657 ,1976 ,Ams ,p ,Stat. バート.ブラウン/伊藤篤子.板倉聖宣訳 「植物の花粉に含まれている微粒子について, また有機物・無機物を 27年の6,7,8月に顕微鏡によって察された事柄につ 8 通じて活性分子が普遍的に存在することについて --1 9 75年 仮説社) 『仮説実験授業研究』 第6集 1 いての短い考察」( . 77年 岩波書店 p 1 2 ( ) 堀淳一 「ランジュバン方程式」 19 .V 41 2 9 6 8年 培風館 p ( 1 3 ) 広重徹 「物理学史1」 1 . . 『アインシュタイン 1 4 ) A.アインシュタイン「熱の分子論から要求される静止液体中の懸渇粒子の運動について」( (. 218 選 集 1』 1971年 共 立 出 版) p . . I i i IRev i bl ionsinl IRe lat ew,VOI iproca ca seg’ s eProces r rever ( 1め L.onsage r“Rec .38 .37 , ,1931and VO ,Phys 1 193. i iveSt ium Sys i l ibr t s i i ructurer l f s s i igog i ems---From Di pat onin Nonequ ‐organ zat ne”Se ( 1 ) G.Nicol s 6 .Pr ,1 1 9 7 7 7 i p t . ons” New York・London・Sydney・Tronto o orderthrough F1uctuat . , ,. 1 6 3 78年 岩波文庫 p ( 1 ) ジャン.ペラン/玉轟文一訳 「原子」 19 7 . . 192.
(12) . 1 ) 学校教育における熱力学指導の諸問題 (. ( 1 め 鐸木康孝 「理工系物理学」 1 1 97 9年 開成出版 p 74 . . l i i ine Q ) G 9 co s gog .Pr .Ni .5。 ,エ ,前掲 書 p d ( 2 0 ) lbi . p .4.. 回 岩崎允胤・宮原将平 「現代自然科学と唯物弁証法」 19 72年 大月書店 p 2 03 . .. 棚) 前掲 書 pp 206-207 . ,. ( ) 久保亮五 「統計力学の歩み」(江沢洋他編 『量子物理学の展望 (上)』 1 2 3 9 205 7 7年 岩波書店)p . . α の 久保亮五 「Br own運動」 (戸田.久保編 『岩波講座現代物理学の基礎 〔第2版〕 5 統計物理学』 岩波書店). ) ( 2 5 鰯. 1 9 78年. 219一220 pp . .. 橋爪夏樹 「線形応答の統計力学」(注( 2 4 )の文献に所収) p 1 3 5 , .. l i i ine 前掲 書 p 以 上 の プリ ゴジーヌ らの 問 題意 識 の 概 略に つ い ては, G. Ni 22 を参 co s gog .Pr ,5およ び p . ,1 照さ れた い.. { 2 7 ) 大沢文夫「構造と機能」(大沢・寺本編『岩波講座現代物理学の基礎〔第2版〕 8 生命の物理』 1 97 8年 岩 波書店). 117一118 pp . .. 回 前掲書 p 28 . . i i i 2 9 13 { ) Nicol s ne 前掲 書 p gog . ,Pr . t ” igog i lnt ionto Thermodynami i bl 鎧 の 例えば, Pr net roduct cs of l r reve rs s ses3rd ed eProce . New York・ London.Sydney l967 pp 40一54 . 。. 例 j f=2L”×ノの線形関係の成り立つ領域のこと. ◎ 久保亮五他 「大学演習熱学・統計力学」 1 9 61年 裳華房 p .1. ◎ 鐸木康孝 注 ( ) の文献 p 16 5 1 8 . . “ lat i i l b i IRev i l 倦 め L 1“ onsi ni r rever s eProces ses1 ca ew Vo ・ .38 .2270 ・onsager Reciprocalre ,Phys ,1931 ,P 鱗 ) 例えば, 大学教養程度の教科書では, 「普通, 熱運動というときには原子の(または, いわゆるミクロ)規模で の運動を扱うが, 大きい, マクロな規模の粒子の運動を扱うこともある. このような例としてよく知られている のは, いわゆるブラウン運動 -- 液体の中に混った微小な粒子の無秩序な運動 一一 である」 とされている (ラ ンダウ他/小野周他訳 「物理学 -- 力学から物性論まで」 1 ) 1 43 96 9年 岩波書店 P . . 国 久保亮五 注 ( 24 ) の文献 p 2 2 0 , . 師 宮原将平 注 (1) の文献 p 1 6 6 . . 縄 ) 前 掲 書 pp 170~172 . .. 燈の 杉本大一郎「宇宙と星の熱力学と進化の源泉」(杉本編『現代天文学講座7 星の進化と終末』 1 9 79年 恒星 社) , (本学助手・岩見沢分校). 193.
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