言語音声にみられる音楽的特徴について
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(2) . 言語音声 にみられる音楽的特徴について. 藤. 1. 勝. 志. は じ め に. 音声という共通の素材を用いておこなわれる 「うた」 と「ことば」 との関連については, 例えば, 「うたはことばの兄弟としてうまれた」 と言われるような, 音楽の史的考察における一つの論点と. してばかりでなく,「歌唱」 を基本とした音楽教育においても, 子ども個々の音楽的発達に関与する 一つの要因として, ことばのもつ音楽的特性に着目することが, コダーイ, オルフなど, 西洋の音. 楽家, 音楽教育家などの提唱もあっ て, 広くおこなわれてきたように思われる, 音楽教育全体が様々 な角度から見直されようとしている近年, 我が国においても, ことばを音楽的な観点から把え直し, ) これを教育的手法として積極的に取り入れて行こうとする動きが頻々感じられる1 .. うたもことばも, 複雑な発声メカニ ズムを通して産出され, 長短, 高低, 強弱, 音色などの如き 諸特徴を有する音声を用いておこ なわれることは疑う余地のないところであろう.とは言いつつも, うたやことばの音声に認められる物理的特徴を詳細に検討したうえ での, 両者の関連に対する考察 は, 必ずしも充分とは言い得ないように思われる, 言語音声の特徴を音楽的な側面から把えつつ, 科学的に体系化された指導法のもとで利用するた めには, うたとことばの音声を様々 な角 度から把え直し, 科学的な分析をも試みるこ とが, 当面の. 課題でもあろう.. 1 1. うたと こと ば. 筆者は先に, 言語獲得以前の段階にある一幼児の音声について, 聴覚のみを手がかりと して 「こ とば(禰語) 」 と 「うた」 の二種類に判別 し, 音響分析を通して得られた各音声にみられる物理的特 うと試みた, これによると, 徴の諸相から, ことばとうたとの違いを明 らかにする手がかりを得よ・. うたっ ている如く 聞こえる音声 では, 唖語のおしゃ べり のように聞こえる音声に比べ, 全体の発声 j ・さいこと, など 時間や一音節の持続時間が長いこ と, 又, 同一持続音内 における周波数の変化も′ 2 ) 生に依頼し, づく分類を3 6人の大学 a 9 79 ) が確認された(伊藤 1 , この点は, 聴覚的な判断にもと 一致率80%以上を得た音声のみを分析した結果においても確認された. さらに, 分析結果をもとに. i t ch 曲線を描いて比較すると, 「…… (うたの場合は) 同じ高さは同じに保ち, 次の高さには断崖 p 状に移り……, ス ピーチでは, 高さは丘や山が起伏するようになだらかに, 時にけわしく, 曲線状 ) 」と言われている, うたとことばの音声 的特徴が, ある程度ではあるが明確に 示された に起伏する3 } 言語獲得以前にあ ) (伊藤1 97 9b4 . とはいえ, これらの研究において分析の対象とされた音声は, 221.
(3) . 伊 藤. 志. 勝. る幼児の発声によるものであり, 従っ て, ここで用いられた音節の概念も, 日本語における音節と は相当異なっ たもの であっ た. 又, 言語音と歌唱音との対比を, 同一の音韻を用 いて検討すること. も不可能 であっ たなど, 不充分な面が多かっ た. 本小論においては, このような点を補いながらも, これまでの研究において得られた点を, もう一つ別な面からも確認することによっ て, ことばとう. たとの関連を追究したい. ( 1 )音声の持続時間. 日本語の話しことばにおける音節一 つの持続時間 (一音節を発音するに要す時間) つまり話す速 さは, 談話や朗読弱るいは演説などのような口調の違いや, 同じ朗読 でも散文か韻文かと言うよう な素材の違い, その他, 話す人の個人間あるいは個人内にある様々 な条件によっ て異なるが, 一般 1 2sec くら /5s / には, 音節一拍の長さが, ゆっくりした話し方 では1 cり 非常に速い話し方 では1 e ) い と 言 わ れ る3 .. ) は, 「日本語のリズム」 の中 で, 数人の大学生に文章を朗読させ, 所要時間を測 別宮貞徳 (1977 ) この測定結果をもとに 童謡 「赤い靴」 の 定すること で, 日本語の拍子リ ズムを検討しているが5 , , 歌詞 (一番30音節) 及 び 「方丈記」 の一節 (冒頭の26音節) 各々における, 一拍当りの所要時間 63 を求めてみると, 両者とも同じ長さの1 .2m sec.及 び163.3 m sec. であ っ た.(い ず れの 場 合 も, 区切り, 休息の時間は含まない) 又, 切替一郎等 (1975) は, 子 どものことばの発達を, 発音の速. さと正確さとから説明する中 で, 「むかしむかしあるところに……」 の文章より, ところ, 三音節の } 測定方法その他については不明 であるが ここ では成人の場合 朗読に費した時間を示している6 , , . 三音節で0.3 0s c e .しか要しておらず, 同じ朗読でも別宮の場合よりも速い読み方と言えよう. 表-1は, 男女各7名の大学生に35音節からなる民話の一節 を朗読させ, こ れをサウン ドスペク. トロ グラフ で音響分析し, 各文節毎に所要時間を測定した結果 である. 表より解る通り, 個人差が 大きいとは言うものの, 平均 では一拍が140ms ec .(但 し, 区切りや休息などの時間は含まれない) 表-1 むかしむかし. 男. ) 朗読の速 さ (単位msec .. あ る と こ ろに. たい へ ん に. なか のよく ない. A. 917. 267. 767. 217. 533. 0. 967. B. 900. 467. 800. 67. 675. 0. 925. 83. C. 1000. 400. 933. 667. 850. 167. 1017. 300. D. 833. 33. 700. 383. 417. 0. 900. 133. E. 900. 333. 767. 400. 627. 0. 933. 300. F. 1050. 333. 733. 467. 650. 100. 783. 133. G. looo. 0. 800. 117. 717. 0. 933. 167. 133. 平 均. 女. H. 1087. 250. 900. 333. 733. 50. 950. 117. 工. 917. 150. 850. 467. 683. 0. 917. 117. J. 1250. 467. 983. 650. 800. 217. 983. 300. K. 817. 83. 917. 100. 567. 0. 767. 117. L. 1017. 500. 900. 667. 0. looo. 250. M. 1075. 400. 850. ,783 533. 700. 0. 1025. 250. N. 875. 0. 759. 283. 533. 0. 867. 200. 平 .均. 全体平均. 222. ,.
(4) . 言語音声にみられる音楽的特徴. と, 別宮の資料より得られた結果よりは僅かに速く, 又, 切替らの報告よりもゆっくり である. このよう 縄 文章の朗読を通して知り得る発話速度は, 読まれるべき文章や読む者の特性などに. 従い, 必ずしも一定した結果を得るとは言えないよう である. しかし, 何れの場合においても音節 一拍の長さは, 一般に認められた範囲, しかも非常にゆっ くり話す場合の範囲を越えてはいない.. 朗読よりは速度が速いと言われる談話調の語音にあっ ては, 音節一つに要する時間が, これより長 くなることは考えられないであろう.. 一音節の発声に要する時間が, 発話速度によっ て決められることは, 歌唱においても何ら異なる ところはない, ただ, この場合の発話速 度, つまり, 歌詞を唱える (ことばを発する) 速さは, 多 くの場合作曲者によっ て指定されるのが普通 であり, 既製の歌曲であれば, 一音節を発声するに必 要な時間は, す でに決められている (理論的には) と言い得るであろう. したがっ て, 歌唱時にお いて, 歌詩の一音節に要する平均持続時間は, ある特定数の音節に与えられた, 一定速度の下での t を知ることによっ て求め得る. 拍節数 (be a 表 - 2 は, こ の よ う な観 点 か ら, 幼 児 の 歌 曲 105. 曲を抽出し, t empoと歌詞 の音節数, それに拍節 数を調査した結果をまとめたものである (この場. 表-2. 一音節の発音所要時間. 合も拍節数の中に休止は含まない) .表からも解る ように, 歌曲中におけ る一音節を発音するに要す る時間は, 最も速いものでも約25 0m sec ,と, 最 もゆっくり話す場合(200m s )よりも長くな e c っ . ており, しかも20 0ms ec ,未満で発音さ れるよう な比較的しゃべる曲は, 10 5曲中7曲 (6.7%) と. 非常に少ない. 全体的に眺めると, 平均409 ,9m s e c ,と, ゆっくり話す場合のほぼ2倍, 又, 先に検. しゅうとめと. よめがあった. 700. 0. 文節合計. 247~ 296. 5. 297~ 346. 22. 4,8 21,2. 347~ 396. 27. 397~ 446. 21. 447~ 496. lo. 497~ 546. 9. 26.O 20.2. 547~ 596. 6. 9,6 8,6 5,8. 597~ 646. 4. 3.8. 104 409.9. 合 計 5268 5184. 600. 0. 667. 4567. 883. 0. 1083. 5766. 7300. 567. 0. 700. 4117. 4666. 767. 33. 867. 4851. 5917. 767. 217. 733. 4716. 5966. 850. 133. 817. 5117. 5534 169.59. 100. 833. 5249. 150. 767. 4984. 5868. 217. 800. 5533. 7384. 67. 650. 4434. 4801. 0. 833. 5201. 6734. 0. 883. 5316. 6499. 83. 825. 4558. 5124. 140,93. %. 計. 4651. 143.97. 曲 数. 平 均. 767. 137.89. 幼 児歌曲における歌詞 の発音速度. 6099. 173,50 168.04 223.
(5) . 伊 藤 勝 志. 討した, 朗読の場合の2.8倍にも達している. このように, ことばを話す場合においては, 朗読のような比較的速度の遅い発話であっ ても, 速 いt empo で多くのことばをしゃ べるような歌曲をうたう場合よりもなお, 音節一つの発音に要する. 時間は短い. この点は, 幼児の発声における噸語音と歌唱音との相違点の一つとして報告されたと 977 ) が 「歌というのは引きのばし ころと一致す るところ である. このことは又, 例えば金田一 (1 7 ) て歌います -- 」と述 べるように, 語音(正しくは母音 であるが)を引っ 張っ て発音すると言われ, あるいは又,「素材はことばであり, 本来の音声構造はス ピーチ態と変わりはないが……高低, 遅速. などの要素力切口味されたもの」 とも言われる 「うた」 の, 音声的特徴をある程度示しているものと 思われる. } 」 もの, あるい ところ で, 歌 (歌曲) とは 「声に節をつけて唱える」 もの で 「すべて旋律をなす8 9 ) 「 時には うたが旋律を意味することも な は 「詩に曲がつけられた一つの音楽形式 」 どと定義され, 0 ) ある1 」 と言われる程に, 旋律 (ふし, 曲) が大きな要因となっ ている, ここに旋律は, 一本の棒 のようにいつまでも鳴り つ づける音から生じるものではなく,「種々 の音高と長短とをもっ た音が継 起 して できる」 ものである. したがっ て, 歌唱音や語音を検討する限り, 音の時間的側面ばかり で なく, 高低の側面をも同時に考察すべきもの であろう.. ( 2 )語音及 び歌唱音の高低 歌唱における旋律を構成する個々 の音は, す でに体系化された (あるいは慣習的となっ ている). 音楽の音階にもとづいてそれぞれの高さが決められ, ある程度厳密とも言える時間的秩序によっ て ・したがっ て, 産出されるべき音高は, 特に既製の曲を歌うような場合であれば, 形づくられている. 最初に歌われた音の高さによっ てすべて決め られるし, 又, 即興的に歌う場合においても, このよ. うな枠を跳 び越えることが難しいと言われる.. ・ないに しても, 文中にあらわれ 言語音にも又, 音楽において守られているような厳密なもの では 特に高低アクセント (音楽アクセント) を る種々の抑揚のように, あるいは単語や句の音節中に, 特徴とする日本語独得の, かなり明確な高低関係が認められているよう である. 図-1に示すのは, i i t t 談話調の音声から得た p c ch 曲線の全ては, 周波数変化の傾向を把 ch 曲線である.(以下に示す p 握しやすくするために, n=5の単純移動平均 で処理した結果 である) . 図- l a は 「ノ・シ」 と 第 二 HZ 300-. HZ 300‐ Y. し ー ′ 、 、 ′ 、 ′ ・ 、 、-- K. 200-. 200-. ′′〆. 、 、 、 、. ・ . ′ 、 ′ ′ ‐ ′. ioo- ノ、. 100- ′、. 100. 2 00. 300. 100. 40o msec. a 橋. 200. 300. b 箸 図一1. 224. .-・K. Y. 「 ノ・シ」 の抑揚. 400. 500 r ns eC.
(6) . 言語音声にみられる音楽的特徴 HZ 200-. 1. ls eC 1 O .. 1 0 5 .. 0. a 語音の抑揚 HZ 200-. 100一. オ. ン. ナ. 1 0. ノ. コ. 1 0 5 ,. 1 1 0 .. eC ls 2 o .. 1 1 5 .. b 歌唱音の抑揚 図一2 譜. 例. 「オンナノコ」 の抑揚. 1. , .. ・. オ. ン. ナ. ノ. ー. ‐. コ. 音が高く発音される 「橋」 , 図1-bはその逆 で 「ハシ」 と第一音が高い 「箸」 . 何れもY (実線, 女性) 及 びK (点線, 男性) の成人二人により発音されたものであるが, アクセントの高低が周波 数の変化として明瞭にあらわれている.. i 次に図-2は, 童謡 「赤い靴」 の歌詞より, 「オンナノコ」 の p t ch 曲線である. aは普通の談話 調に発音したものであり, bは歌唱によるものである. この詞のアクセントはオンナノコ, と第一 拍が低く, 第二拍, 第三拍目が高くなる低 高高型である. このような関係は図-2 a に お い て,「オ」 401セ から 「ンナ」 にかけての1 の冒頭1 80HZへと, 音程にしておおよそC#ーf# の4度も上昇し て い る こ と に 示さ れ る,. とはいえ, ハシの場合も同様 であるが, 語音の周波数は例えば図-lb (K) において 「 ノ・シ」. の シ が 165~130HZの間を,ほぼ直線的に下降していることにもみられるように 極めて連続的に変 ,. 化するため, 音の高さを確認する場合にはかなりの困難をともなう. 一方, 図-2bにみられるよ うな歌唱音では, 次の音への移行部分を除いてほぼ一定の高さに保たれたまま声が持続しているこ. と が解 る. こ こ か ら は, 各 音 そ れ ぞ れ の周 波 数 も, オ :140 :210 , ン :190 , ナ :220 , ノ :190 , コ・. Hzと容易に確認でき, 又, 聴覚的にも, 他の楽器音などと比較する ことが容易 である(譜例は 図- , 2 bの測定結果をもとに五線譜化したもの である) なお 「チョ ウチョ ウ」 による同様の例を図- , . 3に示す.. 225.
(7) . 伊 藤 勝 志 HZ 300-. 200-. 100-. 、 、 、、 、 チ ョウ. 0. チョウ l s ec 1 O .. - 0 5 .. a 言語音の場合 HZ 300-. 、 \ \. 200-. チョウ lo。 ふ. チョウ . 0 5 .. 1 1 0 .. 1 5 .. - 2 0 .. 1 ec 2 5S .. b 歌唱音の場合 図一3. 「チョ ウチ ョ ウ」 の抑揚. このように,言語音はことばのアクセントにもとづくと思われる高低が明確に認められるものの, i 周波数の移動は, 一 定のところにと どまることなく連続的におこなわれ, したがっ て言語音の p t ch 曲線からでさえ, 音程関係を明確に把握するのは困難 である,.一方歌唱は, 単にことばの一音節を 長く引きのばして発音さ れるばかり でなく, 同時に高さが一定に保たれる, このことは, 幼児の歌 唱音における-音節内 での周波数の変動幅が, 嘘語音 のそれに比 して小さかっ た伊藤 (17 97a) の 結果とも, ある程度一致するところであろう. 又, 図-2及 び図-3より, 「同じ高さは全て同じに 保ち, 次の高さには断崖状に移る」 と言われる歌唱音の特徴や, 「丘や山が起伏するように, なだら かに, 時にけわしく, 曲線状に起伏する」 語音の特徴なども良く理解 できるように思われる.. m. こと ばの抑揚から旋律へ. これま でのところからも解るように, 音声の物理的特徴 のみから眺めた場合, うたはことばの各 音節を(正しくは音節の母音 であるが) , 比較的安定した高さの声をもっ て, 引き伸 ばして発音した. もの, いわばことばの一つの変形とも言い得るものであろう. このような変則的発声にもとづく こ とばで, しかも旋律性に富むものは, 既製の歌曲ばかり でなく, 日常の音声言語の中においても頻々 226.
(8) . 言語音声にみられる音楽的特徴. 体験するところ である. たとえば子どもが友達を誘う時の呼びかけ声や, 少し離れた者に対して語 りかけるような場合, 又, 列車がホームに入っ て来た時に聞かれる駅名のアナウンスや角力の呼び. 出しの声, さらには, 少なくなっ たとはいえ今なお時々耳にする呼び売りの声など 全ては通常の , 話しことばとは異なる, 時には旋律として聞く ことの方が多いとも言い得る音声 である 小泉文夫 . は, このような音声の音組織を分析し, そこに認められる旋律がことばの抑揚から派生したもの で あることや, このような, ことばから生まれる極めて単純素朴な旋律が, 実はそのことばを話して 1 ) いる民族の音楽における基本的段階の一つであると述べている1 . このように, ことばの抑揚がやがて旋律へと移行し, それが日本的な旋法 をもとに形成されると いう事実については特に作曲家や言語学者などからも, これま でも種々に言及されたところである が, 旋律へ移行する過程については, まだあまり良く解らない. これは旋律知覚の問題とも関連さ. せつつ, これから検討されるべき課題 であるうと思われるので, ここでは, 日常的に体験する音声 のいくつかを分析しながら, 言語音に含まれる音楽 的特徴を観察しようと思う . ( 1 )呼びかけの音声. 図-4は, 三 人の子どもが母親に呼びかけた音声 の, 又図-5は このうちの一人が姉を呼んだ , i t 声の p ch 曲線である.何れの場合においても,実線で示されるのは目前1メートル以内に立つ相手 に対する, 日常会話 であるが, 点線は, 図-4の場合, 六畳間一つを挟んだ奥の部屋を相手に 対し , ドアを閉め切っ た状態 で呼びかけたものであり, 図-5 では, 戸外に おいて約70m離れて立つ姉を 呼んだ際の音声 である. こと ばの本来のアクセントは何れも「カーサン」「ネーサン」 の頭高型 であ るが, 図-5 では接頭辞 「お」 により 「オネーチャ ン」 と第二拍目の高い型となっ ている ここ で , は, 図 - 4 a が至近距離の母に対して「カーサン」 と呼びかけた以外 全てアクセント通り である , , これらの図によると, 先ず時間的には図-4 a が525~875 m sec b が375~625m secり c では 600~9 28ms e c ,と, 何れも遠くの相手に呼びかける時の方が長く なっ ており, この傾向は図-5に おいては2倍以上にも達していることが解る. 時間的延長が距離に応じてなされるか否かは解らな. いが, 離れた相手に対する呼 びかけの音声には, 多少ともこのような時間的引き伸ばしがみられる ように思われる.図においては又, 声の高さにもかなり の変化のあることが確かめ得る 例えば図- , 4よりka s anのs aにおける母音の開始部分で比較すれば, a の周波数は3 45Hzから 575Hz(f. ~ d2) へ, b では 300HZ か ら 510HZ(d.~ h,) へ, さ ら にc では 255Hz から 385Hz(c.~ g.). へと, 音程にして5度から6度の上昇が, 遠くへ呼びかける場合に生じ, しかも高さの安定がみら れ る,. このように, 日常的な言語音声の中にも, たとえば呼 びかけ声における語音の引きのばしのよう に, 歌唱音に類似 した時間的特徴を有する場合のあることは, ある程度理解 できるものと思われる . このような語音の多くは, 生活の中で全く自然におこなわれる, 他者により良く伝えることを目的 と したもの であり, この意味においては, ことば以外の何ものでもあり得ない とはいえ このよ . , 1 )の指摘する 「単純な旋律」 を聞き得ることも又 疑いの うなヴァリエーショ ンの中に, 小泉文夫1 , ないところ である. 譜例2は日常生活において頻々耳にする, 子どもの呼びかけ声の旋律を示すも の である,. このように, 言語音の一つの変形とも言うべき旋律が, 日本語の高低アクセントに支配さ れなが らも, 音声言語 の延長線上にあらわれることの多い点は, すでに指摘したところ でもある しかし , . 言語音から派生すると言われるこの種の旋律が,1 00%ことばのアクセントに基いて生じるものかど うかには, なお不明な点も多い. そこで以下においては, このような, 一般に言われるアクセント 227.
(9) . 伊 藤 勝 志. ′ー- ′′ ′′ ′′ ′ ′′ ′′. HZ 600-. 500‐ カ. ー. ー. サ. ン. 400‐. 300 -. カ. ー. サ. 0. ン. 250. 500. 750. 図一4 a . 呼びかけの声 (8歳女児). .. ー\ ・ ′ ・、 ′ ′ ′ ′ ・ ′ ′ ′ ′ ▼ - ′ ▲ ′ ′ - ・ ′ ′ ′ ′ , ′ ′. HZ 6 ( カー. 500 -. カ. - - 、 、 ′′- ・、---‐.、 ′ ′ ′ ′ / ′ “.′. ー. サ. ン. 400 ‐. 3 0 0‐. \\ カ. 0. ー. サ. 250. ン. 500. 図-4b, 呼びかけの声 (6歳男児). 228. ms e c. mS ec.
(10) . 言語音声にみられる音楽的特徴. HZ 5 00 ‐. ‐ . . -.・、 ′′′----. ′ ‐・.・′.--ー-、 ′ ′. 400 - カ. ー. サ. ー. ン. 30 0 - 、、 カ. サ. ー. 0. ン. 250. 500. 75 0. msec .. 図一4c. 呼びかけの声 (3歳男児). HZ 500-. . ー-“--------------、 、、 ′メ ′ ′ 、 ′ ′ ′ ′ / ′ネ ー オ′ 400- ′. 300-. オ. 0. ネ ー. チャ. 250. ′--‐・ ′ 、、 ′′ --- --. .… 、 、-- .′ 、、.--.‐′≠-…-. ン. チヤ. ン. 500. .. 750. 1ooo msec .. 図一5 呼びかけ声 (3歳男児). 229.
(11) . 伊 藤 勝 志 譜. 例. 2. ) ・. ・ z. うヤ ン マ. ・ノ. 寸ぐ 、. i t の影響力等を確認する意味 で,p ch 曲線を描きながら, いくつかの音声について検討したい. なお,. ここ で分析資料となる音声は, リー ダー ズ・ ダイ ジェ スト社発行, キン グレコー ド録音による 「呼 4s び売りの声」43種類である. サウン ドスペクトロ グラフによる分析は,2. ec , 狭帯域幅のパター. ン描記 でおこなわれ, 音声の基本音周波数ならびに持続時間が測定された. 音響分析とは別に, 電 子 オ ル ガ ン (Vict ron) BO - 6, 6 T 型, 基 準 音 周 波 数 al=440HZ , ビ ク タ ー 社 製) の 音 を手 がか. りとしながら, 全ての音声について採譜を試みた. 各呼び売り音声の一 呼気での発声時間, 音節数並 びに, 音節一拍当りの所要時間を表-3に示す. 又, それぞれの音声における周 波数の変化の様子は, ことばのアクセントとの関連をも記しながら,. i t 図-6以下の p ch 曲線に掲げる. 次にこ れらの図表をもとに呼び売りの音声にみられる音楽的な 特徴を検討したい.. ( 2 )呼 び売りの音声 1. 音声の持続時間 (No 6m sec. 表-3に示される通り,ことばの一音節を発音するに費す時間は,最も短いもので16 .. i t 9, p ch 曲線は図-8) と, 先に眺めた範囲内 ではあるが, 朗読の発話速 度 にほぼ等 しいものも. いく つ か み ら れ る. しか し, No .や や No .20(細 見 .29(鍋 焼 き ウ ドン 売 り, 図 - 9) の 1240m sec 売 り, 図 -11) の 950m sec .に 及 ぶ も のも あ り, か なり 広 範 囲に 亘 っ て , な ど, 一 音 節 が 1 ~1.2sec. 33の速さにほぼ相当する. 音節一拍に要す いる. 全体的にみると, 平均453m sec . で, こ れ は j=1 る時間のみから眺めた場合, ここに掲げられた呼 び売りの音声 では, ゆっ くり話す時の2~3倍も の時間をかけてことばの産出が行われることになる. このような点から考えるならば, 呼び売りの 音声も又, 歌唱時の音声と極めて類似した特性を有する場合が多いと言うことができよう.. 2. 音声の高さ ところ で, 歌唱とは音声による旋律の産出であり, この旋律は, 「音の高さの変化がなければ, 一 2 } 」 の であり, ただ単にことばの音節 本の音が無限に続いて鳴っ ているだけ で, 旋律は存在しない1 一 つ 一 つ が ゆ っ く り 発 音 さ れ た と いう こ と の み を も っ て, こ と ば がう た に 移 行 し た と は 言 い難 い.. そこ で次に, 視覚化された音声を通して, 高さの変化について検討してみよう. i t 図一6以後の p ch 曲線は何れも-呼気にて発声されたもの であり, したがっ て,中途に認められ. る線の切 れ目は, 無声音(たとえば図-6 a, 230. a sa ga oにおける「s」 音) ,. あるいは閉鎖音(図-.
(12) . 言語音声にみられる音楽的特徴. 表一3 呼び売り音声の内容及び発音の速さ 発. 音. さ. れ た. 内. 容. . ▲. アサガオヤアサガオ ^ ソ ム アサリムキミヨ. ヘ d A t に U. ア ーア メ ヤ ー ヨカ ヨカ. エーイカケヤエー. ア ー ライ ワ シカ エ ハ h U イ タ ズ ラモ ノハ オラ ンカナ ヮ 十. (ms ) e c . 2167. 9. 3150. 7. 5667. 9. 2883. 7. 3150. 8. 2100. 12. オイナリサン. 2950. 6. オ ケ ヤオ ケヤ オ ケヤ. 3300. 9. 3000. 18. 3600. 17. エ ー オ タカ ラ オ タ 力 ラ オタ力 ラ オ タ力 ラ. オンデゴデゴデゴデゴデゴデゴデンヤ. 平. 所要時間 音 節 数 一 音 節 の 所 要 時間. カ ニ ヨ ー オー ガニ ヨ. 4600. 9. アメ ガフ ッ テ モ カ リカ リ. 2650. 11. キ ン ギョ ー エ ー キ ン ギョ -. 9050. 10. クズーイ. 2600. 4. ア シ ダハイ レ. 2700. 6. ゲンマイパンノホヤホヤ. 3400. 11. コ オ リ ヤ コオ リ コ オリ. 7400. タケヤサオダケ ザルヤミソコシ. 10. 5300. 7. 4750. 7. シン ヨ シワ ラ. 5700. 6. エ ー ホ ンケハ サヌ キノ タカマ ツ シ. 9000. 15. タ ルノ アイ タ ノ ハ ゴザイ マ センカ. 2900. 15. ア ワ ジ ンマ. 3150. ナマハゲガンモドキ. 5. 2250. 9. ハ サ ミ ホーチ ョ ーカ ミ ソリ ト ギ. 2950. 13. ドジ ョ ドジ ョ ドジ ョ. 3850. 9. 9250. 15. アサガオノナエヤーユウガオノナエ ナナイロトンガラシ ナベヤキウドン. 2483. 9. 8685. 7. カラスマル. 4500. 5. 均. 240. (ms ) ec ,. 伽 棚 姐班. 1 5 7 岨 獅 1 66. mm. 240. 郷 6 5 0 鯛 期 間 7 5 7 総 卿 鋤 1 93 630. 即. 濡 4 2 7 6 1 6 郡 卿 獅 453.I. 6 b, ora n kanaにお ける 「k」 音) など, 子音の種類によっ て生じる, 声帯振動の一時的停止に 起因するもの である, 又, 採譜を試みた結果から, 呼 び売りの音声は, ①高低変化は著しく認められるが, 音高の確認が全く困難なもの, ②音高の確認は比較的客易 であるが, 高低変化が感 じられないもの.. ③変化もあり容易に音高の確認ができるもの, の三つに大別されるように思われるので, この点とも関連されながら, 以下の考察を進める. 図-6は, 何れも音高の確認が全く困難 であっ た音声であるが, これら6種類に認められる共通 の特徴は, 一定の高さにとどまることの全くない, 高から低, あるいは低から高へと絶えず傾きつ つ, 連続的に移行する形 である. 音楽的な面から考えるならば, 「ポルタメント奏法」 であり, 旋律 の成立に関する結城の指摘からすれば, 時間的進行性 (運動性) は有するものの, 移行又は飛躍と 3 ) 換言すれば梅本 (1970 な 「ある枠組みの いう形での位置の変化が認められないi ) の述 べるよう. , 中に位置づけられた運動」 性をもたない, 旋律としての 「形態性を明瞭に」 していない音声とも言. い得よう, 又, 音節一拍の時間的長さは異なるとはいえ, 形状からすれば図-1, 図-2, 及 び図-. 231.
(13) . 伊 藤 勝 志 HZ 400-. 300-. 200-. 1 1 ′ i oo‐ a. S a. o. ( ) a s a. o j d. ga o 5 .. 1 0 .. gao. 1 5 .. 2 0 .. 2 5s ec . .. 図一6 a 朝顔売 (アサガオ). HZ 300 -. 200一. ia ・00 - t. d 3m. l 0. r a. mo. no. ー 0 5 .. a. na SeC .. , 1 0 .. 1 0 .. 図一6b. k. ma o r a n. 2 0 .. (イ タ ズラモノハオランカナ). 欄 3 0 0. 加 oi. n. i s a r. .. n a. 1 0 0 0. 1 0 .. 0 5 .. 図-6c 232. 1 5 .. (オイ ナリサン). 2 0 .. 2 5 s e c . , ,.
(14) . . 言語音声にみられる音楽的特徴 HZ 500-. 400-. 3 0 0‐. \ ÷. \\. 200- \. 0. d5. . 二 1 5. 0 0 .. 図-6d. HZ 400‐. \\ /. SeC 3 0 .. , 2 5 .. 二 2 ○. ; ヵてワ可トギ). (ハサミ ホ:;. ノ 100‐a me. fm. ga. o. t e. mo. : 1 o. o. 5. 図一6e. i r. ka l 5 ,. ka, ヱ i . 2 0 .. 2 5 .. (アメ ガフ ッテモカーリカリ). 400-. 300-. 200-. 1 0- na na 0 ‘ 0. l. , 0 5 .. r o. 図一6 f. t 。 . 1 0 .. 。. D ・ 1 5 .. ◎ 2 0 ,. S eC , 2 5 ,. (ナナイロトン ガラ シ) 233.
(15) . 伊 藤 勝 志 HZ 300-. 200-. 100-. ′ /′ ′/ ′. km d 3m 0. 0 5 .. 1 0 .. 1 5 .. 2 5 SeC . .. 2 0 ,. (ク ズーイ). 図-7 HZ 300-. 200- ′ a loo‐ 1 0. ′ ′. ′ ′ ′ o. 1 0 5 .. t a a ka r. ot a a ka r ー 1 0 .. o t aka 1 1 5 .. o t aka. r a 1 2 0 .. r a eC ls . 2 5 .. 図-8 お宝売り (アー オア万ラ オア弄ラ オタカラ) i t ch 曲線と同一 であり, 「山や谷の起伏するように」 起伏すると言われ 3などに示された, 語音の p る言語音声の, 周波数変化の特徴を充分にあらわしていると思われる. そのような意味からすれば, 図-6に示される如き高低変化を有する音声は,uゆっ くり発音されたことば″ と考えるのが適切 で あろう, 5s c e 図-7は 「暦や」 の音声 で, 僅か三音節の語(「クズイ」) に約 2. .を要して発音されたもので )は高さの漸次的移行 0ms 5 時間にして約3 ec で( あるが, 図によると, 起声から第二拍目の中途ま . (ポルタメント) がみられるが, それ以 後はほとんど同じ高さに保持されたままである, このよう な音声の場合, 高さが一定した部分の音高は容易に判断され, 譜例3に示す通り である が, 高さの 変化が充分 でなく, どちらかと言えぱいき なり一つの音 で発声しているような状態 であり, 旋律と してのまとまりは非常にうすいと言えよう. と 図 - 8 は 2,5sec .ほ どの 間 に 17音 節 も 発 音 さ れ た, テ ン ポの 極 め て 速 い (一 拍 を 176m sec , 時間的には朗読の速さに相当) 音声 であるが, 図-6に観察されたような激しい上昇・下降はほと t a)で上昇した高さがそれ以後の全ての音に維持されている,この例も図- ん どみられず,第三音目( 7に示されるものとほぼ同様の, 二音 で構成された旋律と言えよう. しかし, 「クズイー」 の例 では. 二音というよりもむしろ, 起声が低目になされた一つの音, と言われる程度のものに過 ぎなかっ た. これに対 し, 「オタカラ」 については図-8に示されるように, 第一音がかなりの時間 「およそ0 .3 三度の音程を 譜例4に記した如き長 断においても又 音高の判 ) 一定の高さに保持されており, s ec , , 聞きとることが, 極めて容易 であっ た. このことは, 位置の変化がそれだけ明確に なることであり, したがっ て, 図-7の場合より旋律の印 象は一層 はっ きりすると言い得よう. 234.
(16) . 言語音声にみられる音楽的特徴 譜. 例. 3. . 、一 イ クズ. 譜. 例. F. を. 譜. 4. も 襟 半襟芋伴砦 ,, 砦芋砦F芋. F. .. アー. 例. 5. 才 タ カ ラ 才 タ カ ラ 才タカラ 才タカラ. 、 ‘ J. ,. . ‘ !”. ウ. 1-. ・. ド ン. ナ. ベ. ヤ ー. キ. ′. ・. ぅ ド {- ン. すでに述べた通り, 活動の形態から言えば, うたうとは, 音声による旋律(ふし) の産出である. したがっ て, ある音声がうたと聞こえるか否かは, その音声における旋律的な印象 (旋律性) が強. いか弱いかということで決められる. ここに旋律性とは梅本によれば, ある程度発達した音楽形態 においては, 明瞭な位置の運動 (移行または飛躍) であり, 又, 多くの音が継時的に一つのまとま. りを形成すること である, 特にことばを伴なう場合, 旋律に区切りや完結と いっ たま とまりを与え 0 ) このような観点からすれば 旋律的印象の強いも のはそれ るのは, ことばだとも言われている1 , . だけ, 音高の位置関係が明瞭 であろう し, したがっ て, 聴覚的な音高の判 断も又容易となるのであ ろう. i 図-8以後に提示した p t ch 曲線は全て, 音声の高さを五線譜に書き記し得たものであ る, 図-9はナベヤキウ ドン売りの声 である. 一定の高さにおける持続と別な高さへの移行が明確に i 示されてv ・る. このような傾向は他のp t ch 曲線にお いても充分観察されるところである. なお, 五 線譜に記された個々 の音高における理論的周波数(平均率振動数表, al=440HZに準 じた場合)と. 実測周波数とは, 多少のずれがあることは否めない. 因みに, 譜例5と図-9とにおけるそれぞれ の 関 係 は, 理 論 値 が, ab=207.65Hz , b =233.08Hz , c =261,63Hz であ る の に 対 し, 実測値はお i およ そ であ る が, ao=200HZ tch 曲 線 に は 譜 , b =230HZ , c,=260HZ と な っ て い る. (以 下 の p. 例を添えておく). 以上のように, 聴覚的な音高判断が困難 である音声は周波数の漸次変化が著しく, 語音の特徴と 類似しているが, 五線譜に書き取ることの容易な音声 では, 高さが一定に保たれたまま, 時間的に もある長さの間持続している部分が多く, 所謂 「同じ高さは全く同じに保ち, 次の高さには断崖状. に移る」 と言われる, 歌唱音の特徴が随所に観察される, このような特徴は先述の如く, 旋律的印 235.
(17) . 伊 藤 勝 志. HZ. b ei a. 1 0 .. 0 5 .. 0. 5 2 .. 2 0 .. 1 5 .. 3 5 .. 3 0 .. 図一9. r. HZ 300-. 4 0 .. 200‐. 100-. 。 l ‐ 0. ke. ja. 1 0 5 .. 。. ke ja ー 1 0 .. 。. - 1 5 .. ke. i a. 1 2 0 .. 1 2 5 .. ls eC , 3 0 .. 図一10 桶売り (オケヤ オケヤ オケヤ). 象が非常に強いことを物語るもの であり, この点からすれば, このような特徴を有する呼び売りの 音声をも 「旋律」 と呼んで構わないものと思われる. とはいえ, 音声の高さと長さ, それに位置の 変化 (高さの移行, 飛躍) などがどのような組み合わせ で進行すれば, 旋律としての認識が生じる のか, というような点が,.依然解決さ れないままなの で, 旋律知覚の問題として今後検討しなけれ ばならない. 3. こ と ば の ア ク セ ン ト と旋 律. これま で検討してき たように, 時間的に引き伸ば して発音される言語音は, 旋律として聞かれる 場合が多い. このよう な, ことばの延長線上に生まれる旋律には,「日本語がメロ ディ ーを支配する」 977 ) と言われるように, 日本語が本 来的に備えている特徴があらわれるという. ここ で (金田一1 は特に, 旋律に重大な影響を与 えるアクセントについて検討しようと思う. 日本語のアクセン トは, 音声の高い低 いを基調とする高低アクセントであり, 時には音 調 (金田 一によれば語調) とも呼ば れるもの である. これは音声における 基音の周波数の上下によっ て特色 づけられるもの であり, 時間的な延長を伴なっ てことばを発音 した場合, アクセントの高低に沿っ た周波数の上下は, 特に強い旋律性を有する音声においてはそのまま, 旋律の高低変化としてあら われるであろう.(旋律としての印象が薄い場合には, 語音の特徴が一層強まる. 図-6のa~ fに 示す通り.) このよう な点を確認するため, 旋律性の高い呼び売りの音声について, ことばのアクセ i t ch曲線等にあらわれた高低との関連を眺めていく. なお, ことばのアク ントを確か め, 譜例及 びp 4 )p t 97 5) に拠っ た1 ch 曲線の全てには, 音声の周波数に対 応させ, アクセント記 セントは平山 (1 , i 号を附した語音をカタカナ で記してある. これらの図から知り得るように, ことばのア クセント(但 し, 、 基準となっ ているのは東京語) と高 低関係が一致しなかっ たものは, 先ず図-10 , これは桶売 りの呼び声 であるが, この桶は 「オケ」 と第一音が高くなる高 低型のアクセントをもっ た語である 4によれば, 短三 (譜例1 が,r 図によると 「オ」 が150HZ , 「ケ」 が約200HZと第 二音が上昇する, 236.
(18) . 言語音声にみられる音楽的特徴. 、 、 、. d o. k iu u 4 5 ,. 5 5 .. 5 0 .. n. 6 0 .. 6 5 .. 7 0 .. 7 5 .. 8 O SeC . .. (ナベ ヤキウ ドン). 1側t in 0. io~i 0 5 ,. 1 0 ,. 1 5 .. 2 0 .. 2 5 .. 3 0 .. 3 5 ,. 4 0 .. 4 5 ,. 5 0 .. 5 5 s e c . .. 図一11 細見売り (シンヨシワラ). 度の上昇) いわばアクセントとは逆の傾向を示した例 である. 同様に, 暦屋の唱える 「クズーイ」 は, クズと第二音が低く なる高低型 であるのに対し, 図-7に示される如き, 僅かながらとはいえ 上昇傾向のみえるもの, さらに, ヨシワラと第二音で上昇し, 第三音で再び下降する低高低低型 の. アクセントに対し, 譜例3にみられるような, hからhへと同音 で進行し, 第三音の半拍を下降に i h 曲線は図-1 t 充てている例 (p 1) の 三種類のみ であっ た. c 金田一(1 9 )は日本語の語調(彼は単語における高低の配置 - 調 子の変化という 意 味で「語調」 69 を用い, 強弱の配置を意味する 「アクセント」 を, 単語に特有な性質ではないとしている.) と旋律 5 } これによると旋律の中 で用いられる日本語のアクセント との関係について詳しく述べているが1 , (語調) は, 必ずしも型どおりにおこなわれるとは限らず, 一定の原則の中 である程度自由な側面 を持っ ているよう である, たとえば図-8及 び譜例4に示したものは,「オア方亨」 と低高高高型の. i h 曲線及 び譜例な どか アクセントを有する語が4度繰り返して発音されたものであるが, 図の p t c らも解る通り, 単語が繰り返される度に第二音以後が高くなるようなことはなく, オタカラの頭低 型 が守られているのは初回のみ で, 2回目以後は全く 同一の音高に保たれている. 金田一 による 5 } このような高低配置の語が旋律を形成する場合 「第二音が第一音より下らず 第三音が第二 と1 , , , 音よりも下らなければあとは自由」 な進行が許され,「どこま でも平らに進む旋律, 次々 と上っ て行 く旋律と同じ語調として響く」 と述べているが, お宝売りの呼び声はこう した自由. さを充分に示し ているものと思われる, 又, これとは少し性質が違うけれど, アクセントと旋律が一致しない例と みられた図-11の細見売り では, ヨシワ ラの語頭に名詞シン (新) が付いた複合語として扱えば, 4 ) アクセントは 「下接語のもとの下がりめまで高い型になる1 」 との法則に したがい, シンョ シワラ と中三音が高い型となる. 譜例6によれば, 第五音の 「ワ」 が本来なら第一拍目から下行すべきと ころで, 少し引きずられた 「ワーラ」 と音節の中途から下っ ていること以外は, 全てアクセントの 通りに進行している旋律であると言い得る であろう, このように考えるなら, ことばのア ・クセント に一致しないのは図-10及 び旋律としての印象がやや薄い図-7に示された二例 に過 ぎず(但 し東 京語を基準とした場合 ではあるが) ,その他は何れの音声においても旋律の高低がアクセントに一致 していることは, 図及 び譜例より充分理解 できるものと思われる.. 237.
(19) . 伊 藤 勝 志 譜. 例. 6 ・. ナ. 譜. 例. 例. か ′ チヌ ー. 霞 謬・ ! ‐ 1 1. 鴎・ ! 1. 例. キタ. ′. ラ. マ. ケ. 題 ー、. 御 rF y 1 1- - 1 11 1. 8. コー ン ヤ ー 譜. ー. ワ. シ. 7. -q l, 1、 江. 譜. ラ. ン. シ. ′. 1. .. コー リ. コー リ. 9 ー. .. を. ,. テ . ンヤ 譜. テー ン. ト‐ゴロ 〒 - ン. 例 10. ・ E ・. ・. 1 1 1 1 ‐. ア ワ ジシ マ. わ ヲ も チドリ′. コ イ ′ ツ ジう ラ ー. このような現象は, これらの旋律が伝達ということば本来のはたらきを失 わないまま, 極めて自 然に発生してきた旋律 であることを考えるならば, 非常に当然な現象とも言 い得るであろう . さて, ここにみた如き日本語の自然な口ずさみから派 生した旋律は, 日本音楽に特有な音階構造 から成り立 つと言われている. 次に, いくつかの譜例を通して旋律にみられる音階の構造について, ほんの僅かではあるが検討 してみよう.. 分析の対象となっ た30種類の呼び売り音声のうち, 音高の判断が比較的容易 であり 旋律として , の印象の強いものは2 5種類 であっ た, それらの中で最 も頻繁にみられた旋律は, 譜例7及 び譜例8 に示される如き, 三つの音 で構成されたもの である(25種類中10種類) . この三音によ る旋律10種 類 の 全 て は, 譜例 に み ら れ る よ う な, し ・ フ ァ ・ ソ の 音 よ り でき て い る. も の で, 小 泉 は こ の よ う な 238.
(20) . 言語音声にみられる音楽的特徴 譜. 例 11. オン. タ. ア. 譜. ・ゴ デプ デ. ー デナ デ,、 デコ. リ. ー. ヤ. デコい. デゞ. デ ー. 才. ー. . デコ“ デ,. デン. f. ン. 例 12. ア. ア. ア. メ. 三. ヨ. ー. ヤ. P ラ. ー カ. ・. ・. . ヨ. 譜. カ. ヨ. .. カ. -. …. ア. ー. /. -. レ ナ. 、. ヤ. ー. 例 13. 、 - ′、 シ ヱ 、 し T ′、. 譜. ー. ” も ユ. - ・. -. \\ し 1、. 例 14 ‐ r ,. I T. P. . . M. 三音による旋律を,「日本人が無意識に大声を上げる時に できる型としては最も多く」 しかも 「わ ら 1 ) べ唄や民謡 (日本の) の中 で一 番よく出て来る旋律の形」 であると指摘している1 , さて, 次に25種類の旋律中で最 も事例の少なかっ たのは 二つの音だけでできたもので, これは譜 例4, 6及 び1 0に示す, 小泉によれば, 「二つの音だけでできているメロディ ーは, 二つ並 んだ音 のうち上の音でメロ ディ ーが終わる」 と言われる. ここにみられる譜例は何れも上の音 で終止し,. しかも譜例9及 び1 0の音は何れも ド・レと読むことが可能 である. 又, 譜例4は完全4度を形成し ているが, この4度は三音の旋律において確認したし~ソに相当するものであり, 二音と いえ ども, 実質的には三音の旋律における音階に準ずるものと思われる. 三音旋 律に次いで多かっ たのは, 音域が-オクター ヴ以上に亘っ たものも含め て, 五音によっ て. 構成される旋律であっ た. 特に, 譜例11に示すようなオークターヴと6度にも及ぶ音域を有しな が らも, ド・ し ・ ミ ・ ソ ・ ラ ・ の 五 つ の音 しか用 い ら れ な い例 も あ る. こ の こ と は 正 に こ れ ら の 呼 239.
(21) . 伊 藤 勝 志. H≧. . 0. . 0 5 .. 1 0 .. 1 5 .. ′. . 2 0 .. 2 5 .. 3 0 .. 3 5 .. . 4 0 .. m 45 .. . 5 0 .. s e C . 5 5 .. 図-12 飴売り (アー アメヤー ヨカヨカ). び売り音声が五音 で構成される日本音楽の音階にしたがっ た旋律を構成している証拠と言えるので はなかろうか. このような五音旋律は, 一オクター ヴの音域 で歌われる譜例12の 「飴売 り (図-12 i t にp 」 や, 譜例5に示される 「鍋焼きう どん売り」 などにおいても認められるし, ch 曲線を示す) 又, 譜例1 3の 「 ノ・シ ゴ売り」 における 短7度の音程にあっ ても5音旋律が確 認される. さて, 小泉は, 日本音階における最も基本的な音程として, 4度音程によるワク組み (テトラコ. ル ド) のあることを指摘している, これは例えば譜例13の旋律にみられるように, ラ~ ドの短3度. と, その上に続く ド~レをも含めた4度のことであり, ここ では中核になる音cを中心に して一つ の旋律が構成されていることが解る. このような例は, 例えば三音旋律の譜例7におけるc~e, 及びe~ f の, e を核とする4度, 譜例8における eb を核とする c ~ fの4度, あるいは譜例1 3 の 「ハシ ゴ売り」 にみられる短7度中, ebを中心としたc~ f, ab を核としたf~bなど, 数多 く見いだすことができる. これらの事実は, このような呼び売り音声による旋律の大部分が, 日本 的な音階によっ て構成されていると言うこれま での指摘を確認するに充分足るものと思われる,. 以上, 日常における語音の延長とも思われる呼び売り音声を対象に, 機械的分析結果や聴覚的判 断等を用 いていくつかの特徴を検討したが, ことばをゆっくり発音する形式の多くは, 日本語の特. 性を失わないまま, 日本的な旋律を構成して行くことが確認された. なお, ことばのアクセントの如き言語学的な側面や, 旋律の構造な どに関する音楽学的側面など, 不充分な点を補 いつつ, 今後さらに追究すべき点は多い.. W. お わ り に. ことばとうたとの関係について, 両者の音声をもとに, 持続時間及 び周波数の両面から検討した 結果, 音節一拍 の発声に要 する時間的側面だけでなく, 一定の高さにおける 持続も又, 旋律を形成 するうえ で重要なことが, 再度確認された. このことをさらに 発展させるならば, 音の物理的特性. と旋律知覚との関係と ・いうような,音楽の心理的側面に対しても,実験的な検討を加えるこ とによっ て,ことばとうたとにおける音声上の相違 並 びに類似性を,さらに明確になし得る ものと思われる, 又, 呼 び売りの音声に 認められるような旋律は,当然のこととは言いつつも,日本語の法則性と,日本 音楽の音階構造に沿っ て形成されていることもある程度確 認できた, このような, ことば(日本語) にもとづいて形成される旋律は, たとえば最も単 純な形では, わらべうたのような, 日本音楽の旋 律構造に従うことは す でに指摘されてきたところ でもある. このような観 点をも踏まえ, 音楽教育 と言語音声とのつながりを, さらに検討して行くこと が,「音楽」 教育の一 環として言語音声を位置 づけるためにも避けてはならない課題 であろう,. 240.
(22) . 言語音声にみられる音楽的特徴. 文. 献. 1) 初井 律夫 971 1一4 9 ことば遊びの意義と発展の可能性 音楽教育研究 (1 , 6)pp4 2) 伊藤 勝志 幼児初期の旋律について 人文論究第39号 (1 97 9a) 3) 大西雅雄他編 音声学大辞典 三修社 (1 97 6 ) 4) 伊藤 勝志 旋律の物理的特徴 音楽学会第30回全国大会研究発表要旨 (1 9 79b) 5) 別宮 貞徳 日本語のリズム 講談社 (1 97 ) 7 9 ) 6) 切替 一郎他 ことばの誕生 日本放送出版協会 (1 75 r(1 l 7) 金田一春彦 音節, 母音, アクセント 音楽芸術 vo 2 ) 97 )pp2 6~31 7 .35 , (1 8) 西尾 実他編 国語辞典 岩波書店 (1 9 5 ) 7 9) 浅香 淳他編 標準音楽辞典 音楽之友社 (1 977 ) 1 0 ) ブリタニカ国際百科辞典, No I TBS グリタニカ (19 7 4 ) による, .1 1 1 ) 小泉 文夫 (解説) 世界の民族音楽 プリンスレコード 音楽心理学 誠信書房 (1 1 2 ) 梅本 嘉夫 ) 970 9 ) 1 3 ) 和田 陽平 音響心理学 創元社 (1 5 0 975 ) 1 4 ) 平山 輝男編 全国アクセント辞典 東京堂出版 (1 ) 金田一春彦 1 5 日本語と旋律 日本の伝統音楽pp29~43(19 5 ) 音楽之友 7 なお, この他に日本音楽の音階構造については, 次の文献を参照した. 小泉 文夫 日本伝統音楽の研究 音楽の友社 (1 975 ) 日本旋律と和声 音楽の友社 (1 ) 坊田 寿真 97 5 5種は, 下記の歌曲集に拠った. ※幼児用歌曲10 真篠将・飯田秀一編 幼児音楽指導資料集成 全音楽譜出版社. (1 9 5 ) 7 (本学助 教 授・ 函館分校). 241.
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