双方向遠隔授業システムにおけるキャンパス間での教員の連携に関する一考察 ― 科目『生きる力を育む学年・学級経営の実際と課題』の授業分析を通して ―
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(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第10号. 特集1. 双方向遠隔授業システムにおけるキャンパス間での 教員の連携に関する一考察 ― 科目『生きる力を育む学年・学級経営の実際と課題』の授業分析を通して ― 杉本 任士*1・藤森 宏明*2・梅村 武仁*3・安井 智恵*4. 1 問題と目的 本稿は、双方向遠隔授業システムによる実践から、よりよい授業実践を行うためのキャンパス間で の教員スタッフの連携のあり方について論ずることを目的とする。 本院は創設当時から双方向遠隔授業システムを中心にした各拠点を繋ぐ教育実践がなされており、 これが本院の特色の一つである。そしてその成果と課題については、学内においては毎年開催される 各分野での分野会議や、FDアンケートをもとに担当者間での交流によって蓄積されてきた。ただし、 学術的な側面からの成果と課題は、これまでの本紀要での教育実践論文等で概略的・周辺的に語られ てきたに留まる(藤森(2015,2016)や井門他(2016)等) 。このような状況の中で、現在新教職大 学院に向けたカリキュラム改革が進んでいる。その詳細は割愛するが、本稿の関心と重なる部分に着 目すると、「定員の大幅増の中での双方向遠隔授業システムによる大規模授業の実施」 「現職のみ履修 可能科目の増設」 「修学校のみでの開講科目の増設」といった点が挙げられる。つまり、新教職大学 院では、①従来の倍以上の受講者数の中での双方向遠隔授業システムの実施、②現職とストレートと の分離履修、③対面型の授業と双方向遠隔授業システムとの比較、等が教育実践上の検討課題として 想定される1。そのため教職大学院改革前において、これらの課題の参考となる知見を析出しておく ことは、今後の教育実践の方向性に大きな影響を及ぼすと考えられる。 本稿ではこの中で特に「キャンパス間の連携」及び「各キャンパスの学修環境(現職・ストレート の構成)の違いによる院生の学びの違い」に着目する。特に後者については、 「現職のみ」と「現職 とストレートとの合同」での学修環境の違いに関心を持つ。これは、特に学校経営に関しては「現職 ならではの難易度の高い科目の設置」ということで、 これまでも現職単独履修科目設置(いわゆる「分 離履修」)という改善がなされてきた2。そして新カリキュラムでもこの方針を意識した科目がいくつ か設定される予定である。確かに、分離履修によって授業内容の難易度を上げることによる教育効果 は自明的に示されている。しかし、 「合同」での良さもあるはずであり、「分離」 「合同」の学修効果 の比較検討は、これまでの先行研究を見てもなされていない。そこで本稿はこの点に特に着目し、双 方向遠隔授業システムにおける知見を整理し、今後の課題を示す。. ───────────────────── *1. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)函館. *2. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)旭川. *3. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)札幌. *4. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)釧路. 15.
(3) 杉本 任士・藤森 宏明・梅村 武仁・安井 智恵. 2 授業の概要 本稿で取り上げる科目「 「生きる力」を育む学年・学級経営の実際と課題」 (以下、本科目と略記) は、学級・学校経営分野(以下、経営分野と略記)の共通科目(2単位)である。本科目は大学院入 学後、最初に受講する共通科目であり、経営分野の基礎科目でもある。担当教員は、主担当が杉本(函 館校)、副担当が梅村(札幌校)、藤森(旭川校) 、安井(釧路校)であった。担当教員は、昨年度と 同様のメンバーであったが、昨年度の主担当は藤森で、杉本は副担当であった。受講生は25名で、そ の内訳は、札幌校15名(現職7名、ストレート8名) 、旭川校3名(現職1名、ストレート2名)、釧 路校4名(現職4名) 、函館校3名(現職3名)であった。 本科目は、学校における学年・学級の組織的役割と位置づけを理解し、 「生きる力」という視点か ら学年・学級経営のあるべき姿を検討することを目的としていた。具体的には教育政策としての「生 きる力」の歴史的変遷を踏まえた上で、学年・学級経営の定義へと立ち返り、学校の教育目標の具現 化の場としての学年・学級経営の在り方や、教職員の共通認識に基づく個や集団への組織的な対応の 仕方について理解を深めることなどが挙げられる。表1は2019年度の本科目の目標と計画である。本 院の授業はクォーター制(4学期制)で行われており、本科目は第1クォーターに開講された。授業 は1週1回90分の2コマで実施されたが、8週目だけが90分1コマで、合計15コマであった。授業は 理論と学校現場での実践例との往還が中心であり、現役の校長による授業や、現職の院生による実践 発表があるのも本科目の特色の一つである。本科目は基本的に毎週180分で一サイクルになるよう、 表1 2019年度の本科目の目標と計画(シラバスから抜粋). 16. 授業の目標. 学校における学級・学年組織の役割・位置づけを理解し、 「生きる力」という視点から学級・学年経営のある べき姿を検討し、実践力向上につながる素養を深めていく. 到達目標. (1)a 学校全体における学級・学年経営の役割と課題を整理できる(ストレート) b 勤務校における学級・学年経営の役割と課題を整理し、改善の方策を立てることができる(現職) (2)a 教育政策としての「生きる力」と学級・学年経営の関連性を整理することができる(ストレート) b 教育政策としての「生きる力」を勤務校の教育活動に具現化し学級・学年経営の課題を整理でき る(現職). 授業計画. 第1週 4月6日 第1回 授業構成・内容についてのガイダンス 第2回 「生きる力」を育む教育を行う際の課題の整理 第2週 4月13日 第3回 生きる力を育む学年・学級経営案の意義とその課題 第4回 講義を踏まえたうえでの各キャンパスでの演習・討論 第3週 4月20日 第5回 学校体制と学級・学年経営① 第6回 講義を踏まえたうえで各キャンパスでの演習・討論 第4週 4月27日 第7回 学校体制と学級・学年経営② 第8回 講義をふまえた上での各キャンパスでの演習・討論 第5週 5月18日 第9回 学校体制と学級・学年経営③ 第10回 講義をふまえた上での各キャンパスでの演習・討論 第6週 5月25日 第11回 学校で組織的に取り組むSW-PBSの理論と実践 第12回 講義をふまえた上での各キャンパスでの演習・討論 第7週 6月8日 第13回・第14回 学級経営における「計画」 「実践」 「評価」 「改善」の具体的実践例の院生発表・交流 第8週 6月15日 第15回 発表総括(副担当)全体総括.
(4) 双方向遠隔授業システムにおけるキャンパス間での教員の連携に関する一考察. 主担当教員による一斉授業と各キャンパスでの演習によって構成されていた。演習では、一斉授業で 取り上げた内容に関する課題に取り組ませた。演習は、①個人で考えを深め(個人思考) 、②各キャ ンパスで一定の結論を導き出し(グループ討議)、③討議した結果をキャンパス間で交流(キャンパ ス間交流)の3ステップで行われた。一斉授業と演習のサイクルによって確かな実践力の向上に繋が るよう心がけた。本科目の評価は、大きく分けて「授業への貢献」と「レポート」の2観点で行われ た。両者の評価基準や評定の方法については主担当がルーブリックを作成し、それに基づき各キャン パスの教員が評価を行った。評価の結果については、教員同士で共有した。. 3 キャンパス間の教員の連携について 双方向での遠隔授業を行う上で4キャンパスの教員間の連携が必要だったのは、主に①機器類の円 滑な活用、②演習でのグループ編成や時間調整、③授業改善や院生の指導に関することであった。こ れら以外でも気になることについては互いに遠慮することなく電話やメールで打ち合わせを行った。 3-1 機器類の円滑な活用 機器類の円滑な活用に関わって、教員間での連携が求められたのは、①機器のトラブルへの対処、 ②新たな機械操作の工夫や実施、③画面表示や音量を調整する場合であった。双方向システムそのも のは概ね安定していたが、時々小さなトラブルが生じた。トラブルの内容は、2画面のうち資料画面 が映らない、音声が入らない、カメラが動かないなどであった。カメラのトラブルは、発言者へのク ローズアップや移動ができないケースが多かった。トラブルに気づくのは発信側ではなく受信側であ ることが多く、ほとんどの原因は何らかの操作ミスであった。 3-2 演習でのグループ編成や時間調整 事前に主担当と副担当は、その週の演習内容を考慮した上で、グループ数をどうするか、ストレー トと現職を混合のグループにするか別々のグループにするかなどを相談した。演習の時間調整等に関 する連携も必要であった。主担当は自キャンパスの状況はリアルタイムに把握できるが、他キャンパ スについては把握できない。 そこで主担当と副担当が教室に設置されている電話を用いて、 互いのキャ ンパスの進捗状況を確認の上、時間の調整と変更を行った。 3-3 授業改善や院生の指導 授業の改善を行うために、その週の授業の各キャンパスの状況や成果、課題などの情報交換を行っ た。また、次週の授業に向けての改善点について確認を行い、連携を図った。院生への個別指導につ いても担当者間で連携を図ることができた。例えば、主担当が振り返りシートを読み、理解や考察が 十分ではないと判断した場合、その院生が所属するキャンパスの副担当に電話で連絡した。そして、 該当の院生の状況について情報交換を行い、個別指導の方法について協議した。また、レポート作成 が不十分な場合等も主担当と副担当で連携して指導に当たった。こうした連携により、主担当は、他 キャンパスの院生の理解度や傾向等を把握し、必要があれば次週の授業で補足等を行った。. 17.
(5) 杉本 任士・藤森 宏明・梅村 武仁・安井 智恵. 4 授業アンケートの結果 本院では、すべての授業において、受講生に対して授業アンケートを実施している。調査結果は、 FD委員会によって集計され、その後すべての教員で共有し、分野会議等で集計結果について分析す るなど、授業の内容や方法の改善の資料として活用している。授業アンケートは、無記名で行われ、 5件法で回答する形式となっていた。本科目における授業アンケートは、 受講生25名全員が回答した。 本科目の授業アンケートの結果を表2に示した。 アンケート調査の結果から、全体的に高評価であったと判断できる。本稿との関連に着目すると、 設問2では、①と②の合計が92%(23名)で、概ね評価できる結果となっている。設問3では、①と ②の合計が100%(25名)で、教員間の連携によって、講義と演習を円滑に進められたことが評価さ れたと考えられる。設問7では①と②の合計が88%(22名)で、③が12%(3名)であったことから 現職・ストレート共に授業目標を概ね達成できたと考えていたことがわかる。設問11では、①と②の 合計が92%(23名)で、③が8%(2名)であったことから、現職・ストレート共にそれぞれの立場 に応じた授業の理解がなされていたと考えられる。 表2 授業評価アンケートの結果 設問 1 講義の内容とシラバスは対応していた. ①. ②. ③. ④. ⑤. 80% (20名) 20% (5名) 0% (0名) 0% (0名) 0% (0名). 2 教材や配布資料、教育機器等の使い方は効果的であった 60% (15名) 32% (8名) 4% (1名) 4% (1名) 0% (0名) 3 授業形態(講義・討論・演習など)が工夫されていた. 72% (18名) 28% (7名) 0% (0名) 0% (0名) 0% (0名). 4 授業の難易度は適切であった. 48% (12名) 48% (12名) 0% (0名) 4% (1名) 0% (0名). 5 授業の進度は適切であった. 68% (17名) 20% (5名) 8% (2名) 4% (1名) 0% (0名). 6 わたしはこの授業に意欲的に取り組んだ. 68% (17名) 32% (8名) 0% (0名) 0% (0名) 0% (0名). 7 シラバスに示された授業の目標が達成できた. 32% (8名) 56% (14名) 12% (3名) 0% (0名) 0% (0名). 8 この授業を受けて知的好奇心を刺激された. 88% (22名) 12% (3名) 0% (0名) 0% (0名) 0% (0名). 9 この授業を受けて、実践的研究課題への意欲が高まった 64% (16名) 36% (9名) 0% (0名) 0% (0名) 0% (0名) 10 総合的に判断してこの授業は意義のあるものであった. 44% (11名) 48% (12名) 0% (0名) 0% (0名) 0% (0名). 11 講義はよく理解できた. 84% (21名) 16% (4名) 0% (0名) 0% (0名) 0% (0名). 12 講義は満足できた. 80% (20名) 16% (4名) 4% (1名) 0% (0名) 0% (0名). ①=全くそう思う ②=概ねそう思う ③=どちらともいえない ④=あまり思わない ⑤=全く思わない. N=25. 5 受講者の学び:計量テキスト分析による試み 本節では、受講者がどのように授業を受け止めたか、その成果と課題を明らかにするために、KHCoder 3を用いて計量テキスト分析(テキストマイニング)による分析を試みた3。 5-1 方 法 本分析で用いたデータは、本科目の最終授業での振り返りワークシートを集計したものであった。 本科目では授業終了後毎回、500字以内の振り返りをワークシートに書かせていたが、最終授業の振 り返りについては500字程度という条件で振り返りを書かせた。振り返りワークシートの提出者は受 講者25名全員(現職15名、ストレート10名)であった。 データの分析を行う前に、誤字脱字や明らかな語句の誤用を修正し、英数字の半角全角や漢字の表 18.
(6) 双方向遠隔授業システムにおけるキャンパス間での教員の連携に関する一考察. 記ゆれ(子どもと子供など)等の統一を行った。また、 同様の意味を示す異なる語句の統一を行った。 具体的には「教員」 「教師」 「先生」は「教師」 、 「学校長」と「校長」は「校長」 、 「教職員の一員」「学 校の一員」 「組織の一員」 「学校組織の一員」は「学校組織の一員」 「共通意識」と「共通理解」は「共 、 通理解」に統一した。 「運営」という表記も「経営」という表記に統一した。 「学級・学年経営」など の表記は「学級経営」と「学年経営」に別々に表記した。 「経営」のみの表記だった場合は、元の文 から学校経営か学年経営か学級経営か判断して変換した。 「目標」という表記が出てきた場合も、「学 級目標」か「学年目標」か「学校教育目標」か元の文を確認したうえで変換した。 「教育」という表 記に関しても元の文を確かめた上で文脈に応じて「学校教育」という表記に変換した。 前処理を行う際に、本科目の特性を鑑み、 「生きる力」 「学校づくり」 「学校教育」 「学校教育目標」 「学校経営」「学校経営計画」 「学校現場」 「学校全体」 「学校組織」 「学校長」 「学校通信」 「学習指導 要領」「学年経営」 「学年経営案」 「学年主任」 「学年団」 「学年目標」 「学級経営」 「学級経営案」 「学級 担任」 「学級目標」 「ミドルリーダー」 「PDCAサイクル」 「教職員」 「スクールワイドPBS」 「管理職」 「共 通理解」「組織力」を強制抽出する語に指定した。使用しない語の指定は行わなかった。 表3 出現頻度上位50語 順位 出現回数. 抽出語. 順位 出現回数. 抽出語. 1. 43. 考える. 16. 17. 学校経営. 2. 36. 教師. 17. 15. ミドルリーダー. 理論. 3. 34. 学校. 学校経営計画. 学年経営案. 実践. 14. 学級経営案. 33. 19. 課題. 4. 感じる. 目標. 様々. . 5. 31. 講義. 学年経営. . 生きる力. 13. 学び. 29. 26. PDCAサイクル. 6. 共有. 視点. 重要. . 7. 28. 自分. 32. 12. 学級. 今後. 実態. . 8. 27. 学校教育目標. 35. 11. 具体. 変容. 9. 24. 学級経営. 実際. 23. 子ども. 10. 今. 10. 37. 11. 22. 学ぶ. 13. 21. 意識. 14. 20. 具現化. 15. 18. 必要. 行う. . 42 49. 9 8. . 知る. 理解. 学校全体. 教育活動. . 受講前. . 生徒. 設定. . 組織. 大切. 評価. . 改善. 学校教育. 言葉. . 視野. 要素. 5-2 結果と考察 (1)キャンパス全体 ①頻出語の結果と考察 前処理を行った結果、文の数は255で、総抽出語数は7,176、異なり語数は1,021であった。抽出語リ スト機能(頻出150語)によって出力された出現回数(TF)の結果から上位50語を表3に示した。本 科目のタイトルに含まれている用語が上位に出現していることがわかる。 「生きる力」は6位で29回 出現していた。「学校経営」は16位で17回、 「学級経営」は9位で26回出現していた。 「学校教育目標」 は8位で27回出現していた。「ミドルリーダー」が17位で15回出現していた。 「PDCAサイクル」は26 位で13回出現していた。 「学校〇〇」 、 「学年〇〇」 、 「学級〇〇」といった本科目に関連の深い用語が 多数登場していることから、学校における学級・学年組織の役割や位置づけについて考えを深めよう としていたと考えられる。 19.
(7) 杉本 任士・藤森 宏明・梅村 武仁・安井 智恵. ②抽出語における共起ネットワークの結果と考察 抽出語同士の関係性を調べるために、抽出語の 共起ネットワーク分析を行った。集計単位を文と し、最小出現数を5、最小文書数を1、描画する 共起関係を上位50語、品詞による語の取捨選択は デ フ ォ ル ト の ま ま で、 描 写 す る 共 起 関 係 を Jaccardに設定し、プロットされた結果が図1で あった。ネットワーク図は中心性(媒介)で表示 した。中心性が高く、抽出頻度が多いものとして 「学校教育目標」 があげられる。 「学校教育目標」 は本科目の重要語句の一つであった。 「学校教育 目標」は、本科目のタイトルにある「生きる力」 と「具現化」そして「学年経営」と結びついてい る。 「学年経営」はさらに「学級経営」へと結び ついている。実際に書かれた記述内容を確認して. 図1 抽出語における共起ネットワーク. みると、 「生きる力」と「学校教育目標」との関 連や、「学校教育目標」の具現化のための「学年経営」や「学級経営」についてふれられていること から、本科目の授業目標ならびに「到達目標」が達成されたと考えることができる。本科目では、現 職の院生に対して学校のミドルリーダーとしての自覚を促す働きかけを行っていた。共起ネットワー クの図1をみると「ミドルリーダー」と「組織力」が互いに結びついていることがわかる。また両者 とも「役割」と「大きい」に結びついていることがわかる。具体的な記述を以下に示す。. 組織力を維持し続ける力のある学校をつくっていきたい。 組織力向上に対してミドルリーダーが担う役割は大きい。 こうした記述から、現職の院生は学校組織の牽引役としてのミドルリーダーの役割や重要性につい て自覚を持つことができたと考えられる。 「PDCAサイクル」も本科目の重要語句の一つである。 「PDCAサイクル」は中心性が高い「改善」 と結びついている。そして「改善」は同じく中心性が高い「作成」と結びついており、 「作成」は「学 級経営案」「学年経営案」 「学校経営計画」と結びついており、トライアングルを形成している。実際 に書かれた記述内容を確認してみると、 「PDCAサイクル」に基づく評価と改善の重要性や計画の見 直しについて書かれており、授業内容をしっかりと理解していたと判断できる。 (2)現職とストレートの比較 Jaccard類似性測度を用いてストレートと現職教員を比較した結果を表4に示した。両者を比較す ると、ストレートには「学級経営」と「学級経営案」の2つが「学級」を含む言葉として登場してい る。また「考える」 「自分」が上位にきていることから、実際に学校現場で働くことになったとき、 自分はどのように学級経営を行ったらよいのか考えを巡らせていたことがわかる。それに対して現職 には「学級」を含む言葉が登場していない。その代わり、 「学校」や「学校教育目標」が登場している。 また、現職は「ミドルリーダー」という言葉が登場しており、まさにミドルリーダーとして学校全体 20.
(8) 双方向遠隔授業システムにおけるキャンパス間での教員の連携に関する一考察. を見渡す立場から振り返りが書かれていたことがわか. 表4 Jaccard類似性測度 (ストレート×現職). る。この結果から、 本科目は同一内容を同時にストレー トと現職の院生が受講しているが、それぞれの立場か ら学びを深めることができていたと考えられる。. ストレート. 現職. 考える. .164. 学校. .153. 自分. .114. 実践. .149. 講義. .111. 教師. .146. (3)キャンパス間の比較. 行う. .100. 学校教育目標. .117. 学級経営. .098. 生きる力. .108. 今年度の本科目の受講生の構成は、札幌校と旭川校. 必要. .094. 具現化. .094. 学級経営案. .087. 理論. .083. 学校経営計画. .087. ミドルリーダー. .083. 目標. .087. 意識. .080. 学ぶ. .080. 学び. .070. は現職とストレートが混在していたが、釧路校と函館 校は現職の院生のみであった。 そこで、 現職とストレー トが混在しているキャンパスと現職のみのキャンパス では学びに差があるか検証するために、札幌・旭川校. の現職、札幌・旭川校のストレート、 釧路・函館校の現職の3つのグループと抽出語の対応分析を行っ た。「文書とみなす単位」を文とし、 「最小出現数」を6、 「最小文書数」を1、 「品詞」はデフォルト のままで、「差異が顕著な語を分析に使用」を上位60語に設定した。札幌校と旭川校の現職(札・旭 現職)、札幌校と旭川校のストレート(札・旭ストレート) 、釧路校と函館校の現職(釧・函現職)を 「外部変数」として設定した。その結果、プロットされたのが図2であった。 札・旭ストレートがプロットされたとこ ろを注目してみると、横軸(成分1)が -1、縦軸(成分2)が 0.5 の辺りに位置し ており、抽出語は横軸(成分1)と縦軸(成 分2)の -2 から0の範囲で重なり合うよ うにして混在していた。このことから、札 幌校と旭川校のストレートの間ではキャン パス間で学びにそれほど差がないことが示 唆された。抽出語の重なりに注目してみる と、大きく分けて①「学級経営案」 「改善」 「受講前」「学校経営計画」 、 ②「重要」 「学 校教育」「知る」 「目標」 「評価」 、③「学年 経営」 「考える」「行う」「必要」の3つの グループに分けることができる。代表的な 記述を以下に示す。. 図2 対応分析の結果. . 受講前の私は、学校経営計画、学年経営案、学級経営案を意識したことがなかった。学校経営計画 から学年経営案、学級経営案へとより具体的になっていく。学年経営案は、学校経営計画を反映さ せたものになるべきで、学級経営案は、学年経営案を反映させたものになるべきである。これらの ことは、本講義を通して、初めて意識をし、考えたことであった。 本講義を受けてきて、自分が教師になった時の具体的なイメージをもつきっかけになった。受講前 は、学級経営について知識も少なく、学級ももっていないのでよくわからなかった。だが、学級経 営する際のポイントや注意するべきこと、学級経営案の作成の流れということも知ることができた。 21.
(9) 杉本 任士・藤森 宏明・梅村 武仁・安井 智恵. このような記述から、ストレートは学校現場での経験がないことから、授業の中で情報を入手する という知識獲得の学びが中心であったと考えられる。そのことを象徴する抽出語が「知る」や「受講 前」である。また、受講前のストレートは、近い将来の自分事として学級経営や学級経営案の作成に 高い関心を持っていたと考えられるが、本科目での学びを通して学校の教育目標やそれを具現化する 学校経営計画との関連において、学級経営案を作成し、学級経営を行っていくことの重要性について 学びを深めることができたと考えられる。 現職に注目してみると、札・旭現職は、横軸(成分1)は1、縦軸(成分2)は -1 の辺りに位置 している。釧・函現職は、横軸(成分1)は0、縦軸(成分2)は2のあたりに位置している。抽出 語を見てみると、札・旭現職と釧・函現職の間に、 「大切」 「学校」 「学校教育目標」 「具現化」 「実践」 「取り組む」「視点」が重なっており、 大きなかたまりのように見える。代表的な記述を以下に示す。. 「生きる力とは何か」という問いからスタートした講義では、「知・徳・体」を学校の教育現場で どのように育てていくのかを考えた。校長の視点、学年主任の視点、学級担任の視点と、様々な視 点から議論をしてきた中で、常に掲げられ意識しなければいけないことは、学校教育目標の具現化 である。 このように現職は、 学校教育目標の具現化の視点から学年・学級経営をとらえていることがわかる。 また、現職は学級担任という立場を離れ、ミドルリーダーや管理職の視点から、学校全体を俯瞰し学 年・学級経営の課題を解決していくことの重要性を学んだと考えられる。 3つの外部変数の位置関係に注目すると、札・旭ストレートは(-1,-0.5) 、札・旭現職は(1,-0.5) 、 釧・函現職は(0,2)辺りに位置しており、3つの外部変数を頂点にした二等辺三角形を描いている ように見える。横軸(成分1)では、札・旭ストレートと札・旭現職との距離が2程度離れている。 その中間に釧・函現職が位置している。縦軸では、札・旭ストレートならびに札・旭現職と釧・函現 職の距離が2.5程度離れている。 横軸(成分1)に着目してみると、 最も左側に位置している抽出語として「視野」がある。 「視野」 は主にストレートが使用しており、現職との演習の中で自分の視野が広まったという文脈で使用され てることが多い。また前述の通り、札・旭ストレートの周囲に混在している抽出語は、知識獲得に関 する語である。横軸(成分1)の札・旭現職の近くのプラスの辺りを見てみると、 「学び」や「理論」 という抽出語が出現している。横軸(成分1)の2を過ぎた辺りで「振り返る」という抽出語が出現 している。代表的な記述を以下に示す。. 本講義の中で、個人思考したり、グループ討議で話し合ったりできた経験は大変有意義であり、こ れからの学びに生きてくると確信している。また、振り返りの変容を自身で確認する機会をいただ き、2カ月の間に自分自身を「メタ認知」しようとしている姿に驚いている。自信が実践してきた ポートフォリオ評価の有用性を肌で感じることができたのだからさらに驚きである。今後も、自分 の実践を客観的に振り返りながらより有用な理論を学び、実践に生かしていく。 この記述に象徴されるように、現職は本科目の授業とりわけ演習において、これまでの自身の実践 を理論化しようとする傾向が見られる。 特にストレートと共に演習を行う札幌校と旭川校においては、 実際の演習において、現職がストレートに対して学校現場について説明することがよくあった。その 22.
(10) 双方向遠隔授業システムにおけるキャンパス間での教員の連携に関する一考察. 際、単に現状を説明するのではなく、演習課題に関連付けながら自分の実践を振り返り、理論的な根 拠を示しながら説明しようとする様子が見られた。また、横軸(成分1)の1の辺りに「実践」とい う抽出語が出現している。このことから、 「知識」から「実践」へ、 「実践」から「理論」へという方 向性が見えてくる。したがって、横軸(成分1)は0を中心にマイナスへ行くほど知識に関する記述 で、プラスの方へ行くほど理論や省察を示していると考えられる。 縦軸(成分2)に着目してみると、0からマイナスにかけては個人の思考に関する抽出語が多く出 現している。例えば、 「知る」 「学び」 「考える」等である。0を境にプラスの方向を見てみると、「学 級」 「学年」 「学校」といった語を含む抽出語が出現するようになり、+2の辺りには「学校全体」や「教 職員」など組織に関する抽出語が出現している。代表的な記述を以下に示す。. 学校全体で組織的にという部分でのミドルリーダーとしての働きかけについては弱いところもあっ た。学校長のめざす学校づくりを具現化するために、教職員の中でつなげる役目を担っていかなく てはならないという思いが本講義を通して強くなってきた。 釧路校と函館校は現職しかいないため、演習場面ではそれぞれの経験に基づいた視点で議論が展開 されることが多い。また、 学校現場に関する知識はほぼ同程度有しており、 最初から共通の地盤に立っ た議論が可能である。さらに、勤務校ではミドルリーダーとして活躍している層が多いことから、組 織的な観点で演習課題に取り組む様子が見られた。こうした演習の様子を鑑みると、縦軸(成分2) は0を中心としてマイナス方向が個人、プラス方向が組織を示す成分であると予想できる。 以上のように、ストレートを有しているキャンパスとそうでないキャンパスでは、現職の演習での 活動の様子が異なり、 学びの質的な差異を生じさせていると考えられる。 ストレートを有しているキャ ンパスでは、より理論的・省察的に自己の実践を振り返りながら演習課題に取り組む傾向があり、ス トレートを有していないキャンパスでは、より組織的でミドルリーダー的な視点から演習課題に取り 組む傾向があると考えられる。 (4)分析結果から見る学級経営・学校経営分野の科目と他分野の科目との連携の重要性 第2節にも記したように、本科目は、 「学校における学年・学級の組織的役割と位置づけを理解し、 「生きる力」という視点から学年・学級経営のあるべき姿を検討すること」 を目的とするものである。 そのため、授業の中では、 「学校経営目標」と「学年経営目標」 「学級経営目標」の関連性や、学級経 営における学校経営目標の具現化に係る実践例を示し、学年・学級経営を実践する際の留意点を毎回 のように検討していた。その結果、 前項のテキスト分析の結果からは、 「カリキュラム・マネジメント」 に関する用語がいくつも検出された。その典型例は、 図1の共起ネットワーク図の右下にある 「常に」 「評価」「改善」 「PDCAサイクル」 「作成」「学年経営案」 「学級経営案」 「学校経営計画」の部分であ る。 そもそも文部科学省(2016)の中央教育審議会の答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特 別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等において」 (平成28年12月21日) 」では、 カリキュ ラム・マネジメントについて、次のように示している。 「各学校には、学習指導要領等を受け止めつつ、子供たちの姿や地域の実情等を踏まえて、各学校 が設定する学校教育目標を実現するために、 学習指導要領等に基づき教育課程を編成し、 それを実施・ 評価し改善していくことが求められる。これが、いわゆる「カリキュラム・マネジメント」である」 23.
(11) 杉本 任士・藤森 宏明・梅村 武仁・安井 智恵. (文部科学省,2016,23頁) 。 この点からしても、学校経営目標を具現化するために学級・学年経営を行うには、カリキュラム・ マネジメントを大前提とした実践が必要不可欠といえる。ただ、本院ではカリキュラム・マネジメン トの概念は授業開発分野の科目「学びとカリキュラム」 (第1クォーターで実施)でその詳細を検討 している。つまり、本科目の学びを深めるためには、学級経営・学校経営分野だけでなく授業開発分 野での学びも重要となってくる。また、本院での学級経営に関するもう一つの科目「学級の主体性を 育む教育実践活動」は、学級経営・学校経営分野の教員が当該科目を担当しているが、同様に生徒指 導・教育相談分野の学びと重なる部分が多々出てくる。このように、 「学級経営力」を身に付けるた めには、学級経営・学校経営分野が実施している科目だけでは不十分であり、他の分野の科目との連 携を意識しつつ、授業を展開していくことが重要である。本分析は、この点の一端を示したものとい え、教職大学院における教育課程の体系の重要性を示したものといえる。. 6 まとめと今後の課題 本稿では本科目の概要を示した上で、キャンパス間の連携の仕方や、テキスト分析を通して各キャ ンパスの院生の学びの違いについて論じてきた。その結果は以下のようにまとめることができる。 第1に、キャンパス全体としては、学校における学級・学年組織の役割や位置づけについて考えを 深めていた。第2に、現職とストレートを比較すると、ストレートは今後の自身の学級経営のための 知識を獲得し、現職は管理職・ミドルリーダー的な立場からの学校全体を見渡す中で学年・学級経営 を捉え直していた。第3に、分離履修のキャンパスでの現職はより理論的・省察的に学び、合同履修 での現職は、より組織的でミドルリーダー的な視点から学ぶ傾向にあった。 これらの結果を踏まえると、キャンパス間での教員の連携により、ストレートと現職ともに授業目 標は大方達成されたものの、合同履修と分離履修での現職の学びは質的な違いが生じていた。本稿で は、合同履修と分離履修における現職の学びの質的違いを示唆することに止まったが、 今後の課題は、 合同履修と分離履修におけるメリットとデメリットの詳細を明らかにすることであろう。そのことに よって、各キャンパスの履修者の人数、現職とストレートの人数を鑑みながら、授業の目標を達成す るための、より適切な演習でのグループ編成を考えることができるはずである。 今後も、教員間との連携を深めながら、理論と実践の往還による院生の学びを高めることができる 授業開発に努めていきたい。 <文 献> 藤森宏明(2015)「教職大学院における教育実践の課題に関する一考察―北海道教育大学教職大学院での授業実践をもとに―」『北海道教 育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 研究紀要』第5号、1-14. 藤森宏明(2016)「教職大学院における学部卒院生の学びの実態に関する一考察―授業科目「学級の主体性を育む教育実践活動」での現 職院生による実践発表を基に―」『北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 研究紀要』第6号、1-12. 井門正美他(2016)「北海道教育大学教職大学院の挑戦―ICT教育・アクティブラーニングの理論と実践」『2016年度 日本教職大学院協 会年報』、139-140. 文部科学省(2016)中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策 等において」(平成28年12月21日)」http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/ 1380902_0.pdf(アクセス:2019.10.29) ───────────────────── 1 本稿では、現職の院生を「現職」、学部新卒のストレートマスターを「ストレート」と表記する。 2 実際、この点に留意して設置された科目が選択科目「学校組織マネジメントの理論と実際」であり、現職院生のみ履修可能の科目である。 3 KH-Coder 3の著作権は開発者である樋口耕一氏が保持しているが、広く調査研究に資するためにフリー・ソフトウェアして公開されている(http:// khcoder.net/ アクセス:2019年10月11日). 24.
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