幼児服の安全性に関する研究
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第₁号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68, No.1. 平 成 29 年 ₈ 月 August, 2017. 幼児服の安全性に関する研究 大橋 裕子・岡田みゆき* 北海道教育大学大学院教育学研究科(院生) *. 北海道教育大学旭川校家庭科教育研究室. Study on Safety of Infants’ Clothes OHASHI Yuko and OKADA Miyuki* Graduate School, Hokkaido University of Education *. Department of Education, Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education. 要 旨 近年,幼児の衣生活に大きな影響を与えている要因として,「子ども服のファッション化」 が挙げられる。幼児服の購入にあたって重視することは, 「デザイン」と「価格」の順であり, 「安全性」については,ほとんど考慮されていない現状がある。そのため,幼児服の持つ危険 性については,子どもを育てる親自身さえも十分把握していない。また行政もそれに対して対 策を講じておらず,幼児服については安全性の面で大きな課題があると言える。そこで,幼稚 園や保育所や保育園で実際に起きた幼児服に関する事故の現状や,その危険に対する施設の対 策を調査した。結果は,以下の通りである。 ・危険が多い内容として,「靴下やタイツを履いていて,フローリングの床などで滑って転ん だ」 , 「上着の胴体のファスナーで,首などの皮膚を挟んだ」,「裾や足や物に引っかかって転 んだ」であった。 ・幼児服のデザイン性に関して,問題があると思われる衣服のパーツとしては, 「ファスナー」 「フード」「ひも」「装飾(リボン,ビーズ,スパンコール等)」の4つが挙げられた。 ・幼稚園等の施設では,衣服の構造から考えられる危険,子どもの行動から考えられる危険, 衣服と環境がかけ合わさることで生じる危険など様々な視点から,対策がとられていた。「子 ども」 「保護者」への対策は主に危険な幼児服への指導であり,「施設」「保育者」の対策は 幼児服の事故を未然に防ぐためにできる対応を施設全体で共通意識を持つことであった。. 1.研究の目的 近年,幼児の衣生活に大きな影響を与えている. 要因として,「子ども服のファッション化」が挙 げられる。百貨店などでは,ブランド物の子ども 服が数多く販売されている。最近では,成人服の. 195.
(3) 大橋 裕子・岡田みゆき. 流行に合わせた,大人と同じようなデザインの子. に何らかの問題があった」,「衣類の表示・取扱説. ども服も多くなっている1)。酒井2)は,既製子ど. 明書に問題があった」と回答した人は全体の半数. も服について, 「価格が高すぎる,実用性・機能. で,もう半数の消費者は子ども用衣服に問題や原. 性に劣るなどの不満も多い」と指摘しており,高. 因を感じていなかった。また,子ども用衣服の持. 価格であることが必ずしも品質の高級化と着用者. つ危険性を察していても,96%の人はどこにも苦. にとって着やすく着心地のよい被服の供給には直. 情を申し出ていなかった。このため,行政が事故. 結していないことを示している。つまり,機能性. 情報を十分に把握していない状況もある。子ども. や安全性よりもファッション性を重要視されたも. 用衣服の危険性を実際に感じている人がいるにも. のが数多く販売され,衣服を着用する本来の目的. かかわらず,その事実を申し出ないままでいるこ. とは異なった目的のために衣服が選択されている. とにより,対策がなかなか講じられない現状がう. と言っても過言ではない。実際,山中らの調査に. かがわれる。. 3). よると ,幼児服の購入にあたって重視すること. また,安全な衣服であっても,幼児期の成長に. は, 「デザイン」と「価格」の順であった。「安全. 対応して,つまり経済性を優先させるために1サ. 性」 については,ほとんど考慮されていなかった。. イズ大きめの衣服を,母親が購入する傾向にある. たとえ「安全性」をセールスポイントとして販売. と報告されている5,6)。動作の不都合や安全性に. されていても,その幼児服には母親の多くが関心. 差し障りがあったり,着心地の悪さを子どもが感. を示さないと考えられる。. じたりしていることは推測される。つまり,幼児. 本来,衣服を着用することは体温調節や皮膚の. 服の持つ危険性については,子どもを育てる親自. 保護,危険防止を目的としている。特に,幼児は. 身が十分把握しておらず,また行政もそれに対し. 起きている時間のほとんどを遊びに費やしてい. て対策を講じておらず,幼児服の安全性の面で大. る。大人よりもはるかに活動的であり,常に動き. きな課題があると言える。. 回っている。そのうえ,子どもは危険予測能力が. 他方,幼稚園や保育所や保育園といった子ども. 未熟であるため,子どもが着用する衣服は,特に. たちが集団生活を送る現場では,幼児服に関する. 安全を考慮されているものかつ,動きやすいもの. 問題はないのであろうか。実際に事故は起きてい. であるべきである。もちろん,子どもが遊んでい. ないのだろうか。また,保育士は,幼児服の持つ. る最中, 大人が注意して見守ることは大切である。. 危険性について,どの程度の認識を持ち,それに. しかし,注意して見守っていたとしても,突然の. 対してどのような対策を講じているのだろうか。. 危険に確実に対応できるとは限らない。それゆえ,. 残念ながら,幼稚園等の施設における幼児服につ. リスクを最小限に食い止めるためにも,危険予測. いての事故に関する研究は見当たらなかった。. 能力が未熟である子どもが着用する衣服はより安. そこで,本研究では,幼稚園や保育所や保育園. 全を追及したものでなければならない。. で実際に起きた幼児服に関する事故を調査し,そ. しかしながら,日本国内において,子ども用衣. の現状を明らかにするとともに,その危険に対し. 服による事故は発生している。平成18年,1歳か. てどのような対応や対策をとっているのかを把握. ら12歳までの子どものいる世帯を対象にした東京. することを目的とする。. 都消費者アンケート調査「子どもの衣類にまつわ る危害・危険についてのアンケート」によると4), 事故(危害,危険,ひやり・ハッと)を経験した. 2.研究の方法. 人は,全体の77%であった。そのうち6人に1人. ⑴ 研究対象と実施期間. は危害(怪我をした)にあった経験をしており,. 研究対象は,A市内の32幼稚園,20保育所,98. けっして少ない数ではなかった。ただし,「衣類. 保育園の計150施設である。アンケート調査は,. 196.
(4) 幼児服の安全性に関する研究. 対象の施設へアンケート用紙を郵送し,返送して. 下やタイツを履いていて,フローリングの床など. もらう方法で行った。調査期間は,2015年6月1. で滑って転んだ」(80.8%)であった。その具体. 日から2015年7月20日であった。回答は114施設. 例は表2に示す。表2から,「フローリングの床. からあり,回収率は76%である。. のため,普段は裸足だが,降園の準備をした後,. ⑵ 調査内容. 靴下を履いて待っていたが,お友達と走り追いか. ハインリッヒの1:29:300の法則によると,. けっこになり,転んで骨折した。たんこぶをつくっ. 1件の死亡・重症には,29件の軽傷と300件の極. たり,ほほを赤くしたりすることもあった。」や「園. 7). 微傷害・無傷害が潜んでいると考えられている 。. 内は上靴を履いて生活しているが,上靴を脱いで. このことから,危害に至らず表面に表われない. 遊んでしまい,走って転倒。あごを強打し,下唇. 300件に相当する「ひやり・ハッと」を含めた多. を噛み出血と,上前歯がぐらついた子もいる。」. くの事故情報を収集し,傾向を分析して事故原因. といった危害状況が挙げられている。その他, 「危. となった潜在危険を特定することが重大な事故を. 険」や「ひやり・ハッと」の例も数多く挙げられ. 未然に防止することができると考えられる。. ていた。幼稚園等の施設の床はフローリングが多. そこで,調査に当たっては, 「ひやり・ハッと」. く,靴下やタイツで活動すると危険が多いことが. を含めた多くの事故事例を集め,事故の傾向を分. わかる。園内では裸足や上靴を履くことを奨励し. 析することとした。質問内容は,平成18年,東京. ているが,降園時や寒い時など,どうしても靴下. 都消費者アンケート調査「子どもの衣類にまつわ. やタイツを履かなければならないときがある。そ. 4). る危害・危険についてのアンケート」 を参考に,. のような場合,危険予知能力の未発達な子どもは. 上着について8項目,ズボン・スカート・パンツ. 自分自身で注意することができず,危険な状況に. について4項目,装飾について11項目,靴下につ. 遭遇しやすいと言える。. いて1項目,着ぐるみについて1項目の全25項目. 次に危険が多い内容として挙げられるのが, 「上. とした (表1) 。事故の危険度合いについては, 「危. 着の胴体のファスナーで,首などの皮膚を挟んだ」. 害」 (衣類によって転んだり引っかかったりして. (55.3%)である。「ジャージのファスナーを上. 怪我をした) 「危険」(衣類によって転んだり引っ ,. げたときに,首の皮膚がはさまり痕が残った。」. かかったりしたが怪我はしなかった),「ひやり・. といった危害状況が挙げられた。ファスナーを上. ハッと」 (衣類によって転んだり引っかかったり. げるとき,子どもは下を向いたまま上げる。その. しそうになった),「なし」の4段階で回答を求め. ため,着脱が自分でできるようになったばかりの. た。さらに, 実際に起こった事故の詳しい状況(表. 子どもは,思いっきりファスナーを上げてしまい,. 2)や,施設全体としての対策や取組(表3)に. 皮膚を挟めてしまうことが多かった。特に,首が. 関して,自由記述の形式で調査を行った。. 隠れるほどの長さの上着を着ている場合に多いこ とが分かった。. 3.結果と考察. 3番目に危険が多い内容として挙げられるの が, 「裾や足や物に引っかかって転んだ」 (50.9%). ⑴ 危険が多い内容. であった。 「身長に合わない裾の長いズボンを折っ. 幼児服を起因とした危害等の有無について調べ. たままはいていた。遊んでいるうちに裾が下がっ. た結果は表1である。危険が多い内容としてどの. てしまい,そのまま気付かずに転んで額にたんこ. ような特徴があるのかを検討するために,危険が. ぶをつくってしまった。」などの危害状況が挙げ. なかった「なし」の項目が最も少なかった3項目. られた。子どもの成長は早いことから,長く着る. について考察を行うこととした。. ために,大き目のサイズを購入する家庭が非常に. 最も危険が多い内容として挙げられるのが, 「靴. 多い5,6)。着る子どもの身体に合ったサイズでは. 197.
(5) 大橋 裕子・岡田みゆき. 表1 幼児服の事故数(n=114) 事 例. 危 険. ヒヤリ・ハッと. な し. 上 着 ズボン等 装 飾 靴下 他. 上着のフードが何かに引っかかって, 首が絞まった。 又は転んだ。. 1( 0.9%). 14(12.3%). 上着の首回りの引き紐 (ゴム紐を含む) が引っかかっ て,首が絞まった。又は転んだ。. 1( 0.9%). 2( 1.8%). 上着の胴体のファスナーで,顔や首を引っかいた。. 11( 9.6%). 14(12.3%). 16(14.0%). 83(72.8%). 上着の胴体のファスナーで, 首などの皮膚を挟んだ。. 35(30.7%). 23(20.2%). 19(16.7%). 51(44.7%). 上着の裾が,物に引っかかって,転んだ。. 1( 0.9%). 7( 6.1%). 11( 9.6%). 95(83.3%). 着脱の際に首が絞まった。. 0( 0%). 5( 4.4%). 10( 8.8%). 99(86.8%). 上着の裾の引き紐(ゴム紐を含む)が,物に引っか かって,又はドアなどに挟まって転んだ。. 0( 0%). 0( 0%). 7( 6.1%) 107(93.9%). 上着のボタンが取れて,それを飲み込んだ。. 0( 0%). 0( 0%). 5( 4.4%) 108(94.7%). ウエストの引き紐(ゴム紐を含む)が,遊具などに 引っかかってぶら下がった。又は転んだ。. 0( 0%). 1( 0.9%). 4( 3.5%) 109(95.6%). 前開きのファスナーに,陰部が挟まった。. 2( 1.8%). 1( 0.9%). 0( 0%) 112(98.2%). 裾上げ紐(ロールアップ)が,物に引っかかり,転 んだ。. 2( 1.8%). 8( 7.0%). 10( 8.8%). 97(85.1%). 裾や足や物に引っかかって転んだ。. 7( 6.1%). 34(29.8%). 26(22.8%). 56(49.1%). 飾りの首回りのネクタイやリボンが,物に引っかか り,転んだ。. 0( 0%). 1( 0.9%). 3( 2.6%) 111(97.4%). 飾りの首回りのネクタイやリボンが,物に引っかか り,首が絞まった。. 0( 0%). 1( 0.9%). 3( 2.6%) 111(97.4%). 飾りのリボンが,物に引っかかり,転んだ。. 0( 0%). 1( 0.9%). 3( 2.6%) 111(97.4%). 飾りのリボンが外れて,子どもが飲み込んだ。. 0( 0%). 3( 2.6%). 1( 0.9%) 111(97.4%). 飾りのポケットが,物に引っかかり,転んだ。. 1( 0.9%). 0( 0%). 5( 4.4%) 109(95.6%). 飾りのポケットのゴム紐が,物に引っかかり,転ん だ。. 0( 0%). 0( 0%). 1( 0.9%) 113(99.1%). 飾りのスパンコールやビーズが, 顔面, 首などを引っ かいた。. 3( 2.6%). 7( 6.1%). 15(13.2%). 97(85.1%). 飾りのスパンコールやビーズが外れて,子どもが飲 み込んだ。. 0( 0%). 2( 1.8%). 15(13.2%). 99(86.8%). 飾りの硬いワッペンが,体を引っかいた。. 0( 0%). 2( 1.8%). 帽子やヘルメットが後ろに下がり,紐で首が絞まっ た。. 0( 0%). 12(10.5%). ツバ付きの帽子で,転んだ時にけがをした。. 0( 0%). 0( 0%). 31(27.2%). 65(57.0%). 1( 0.9%). 5( 4.4%). 靴下やタイツを履いていて,フローリングの床など で滑って転んだ。 着ぐるみの足の裏が滑りやすく,滑って転んだ。 全 体. 198. 危 害. 96. 208. 13(11.4%). 97(85.1%). 9( 7.9%) 105(92.1%). 7( 6.1%) 107(93.9%) 21(18.4%). 91(79.8%). 1( 0.9%) 113(99.1%) 15(13.2%). 22(19.2%). 4( 3.5%) 109(95.6%) 224. 2423.
(6) 幼児服の安全性に関する研究. ないため,裾が長いズボンの裾を折った状態で履. 棒で遊んでいて逆さになったときに帽子が脱げ,. いて登園してくることがよく見られるが,遊んで. それを直そうとして,ゴムが首に絡んで,首が絞. いるうちに下がってきてしまい,それに気付かず. まりそうになった。」などの問題点が指摘されて. に転んでしまう場合がほとんどであることがわ. いた。衣服本体から飛び出しているものは,人の. かった。身体に合ったサイズを着せるか,あるい. 動きに合わせて作られておらず,着用する際に自. は折るのではなく,ミシンなどで縫い付ける必要. 分の動きの邪魔にならないように処理したり,自. があると思われる。. 分の身に危険がないように動きを抑えてみたりす. これらのことから,危険予測能力が未熟な子ど. る必要がある。. もが衣服を着用するということは,常に危険と隣. 最後に,「装飾」についてである。スパンコー. り合わせであることがわかる。しかも,保護者や. ルやビーズについては,14%程度の危険性が認め. 保育者が常に子どもを監視し,保護することは不. られているが,ネクタイやリボン等では危険性は. 可能である上,子どもの行動によってもたらされ. 少なかった。具体的には, 「女児の服にスパンコー. る危険を予測することも難しい。また,危険予測. ルが付いていた。おうちごっこをしていた際,母. 能力は自分自身の経験や知識から備わるものであ. 役の女児の胸のあたりに赤ちゃん役の友達がほほ. るから,子どもの行動を制限しすぎて,経験を与. をこすりつけたときに,引っかき傷がついた。」. えない事態になってもいけない。子どもの着る衣. や「腰のリボンが外れていて,走った時にふんで. 服を選ぶ際には,こうした危険の状況を踏まえな. 転んだ」などが挙げられていた。装飾類のほとん. がら,できる限り危険度の高いものを避けるよう. どは衣類本体に縫い付けているものであり,付属. にすべきことと,着方等を子どもたちにわかりや. 品と言える。ビーズやスパンコールには先のと. すく指導すべきであると考えられる。. がったものもあり,擦り付けてしまうと大変危険. ⑵ 危険性の高いデザイン. である。実際に,表2が示すように,ビーズやス. 今回のアンケートから得られた事故発生項目の. パンコールなどの装飾品に当たりけがをしたとい. なかで,幼児服のデザイン性に関して,問題があ. う事例がたくさん上がっている。また,装飾類は. ると思われる衣服のパーツとして, 「ファスナー」. 非常に取れやすく気付かないうちに取れてしまっ. 「フード」 「ひも」「装飾」の4つが挙げられる。. て幼い子どもが飲み込んだという事例も多い。装. 「ファスナー」については前述しているので,こ. 飾類については,デザイン段階からの改善も考え. こでは他の3つについて述べる。. ていく必要がある。. 「フード」 (14.9%)については, 「後ろからお. このように,幼児服においても,デザイン性を. 友だちがフードを引っ張り,首が絞まり転倒し,. 求めた結果,事故発生の危険性が高まっていると. 後頭部と相手の子の顔がぶつかり,ぶつけたとこ. 言える。. ろが青くなった。」という事例が挙げられていた。. ⑶ 幼児服による事故への対策. フードは男子のデザインとして非常に人気がある. 表3は,実際に起こった幼児服を起因とした事. 1). 危険性の高いデザインであることがわかる。 が ,. 故を未然に防ぐために幼稚園等の施設が行ってい. 「ひも」については,4項目で質問があり,そ. る対策について,「子ども」「施設」「保護者」「保. れぞれ7.9%,6.1%,4.4%,14.9%の危険性が示. 育者」の4つの視点からまとめたものである。. された。具体的には,「ひざ下丈のロールアップ. 「子ども」「保護者」を対象とした対策は,両. パンツを着用していた5歳児が,座って遊んでい. 者ともに指導の意味がある。例えば,「子ども」. るうちにゴム製の裾上げひもの輪の部分を自分の. に対しては,フードを引っ張ると転んでしまうこ. 足にかけてしまい転倒した。」や「戸外遊びのと. とや,ファスナーを開いたまま遊ぶと何かに引っ. きに,ゴムのついた帽子を必ず被せているが,鉄. かかってしまうことを教えている。また, 「保護者」. 199.
(7) 大橋 裕子・岡田みゆき. 表2 事故事例 上着のフードが何かに引っかかって,首が絞まった。又は転んだ(8例) ・帰りの身支度中,カバン(弁当を入れるもの)と上着のフードが絡まって,首が絞まった。 ・後ろからお友だちがフードを引っ張り, 首が絞まり転倒し, 後頭部と相手の子の顔がぶつかり, ぶつけたところが青くなった。 上着の胴体のファスナーで,顔や首を引っかいた(13例) ・自分で頑張ってファスナーを閉めようとして,勢いで手の皮を挟めてしまった。大きなケガにはならなかったが赤くなっ た。顔周りのファスナーが顔に擦れてしまい,ケガではないが赤くなってしまう。 ・ファスナーをせずに着用していて,くるりと回った時に,下に座っていた子の顔に当たって,引っかき傷ができた。 上着の胴体のファスナーで,首などの皮膚を挟んだ(43例) ・ファスナーを閉めるときに勢いよく閉まり,あごの肉が挟まってみみずばれになってしまった。 ・上着のチャックがかんでしまったとき,何度かチャックを上下に強く動かしていたら,瞬間的にかんでいたのが直ったと き,首を挟んだ。 ・3歳児くらいになると,自分でファスナーをはめて上に引き上げることができるようになる。 「自分でできる」ことはう れしい時期であり,調子よくグーと上まで引き上げ,あごを傷つけてしまうことがある。 「ゆっくり,ゆっくり」とか「そ こでストップ」など言葉を添えて着用法を教えている。また,その方法を保護者にも見てもらい家でも実行してもらって いる。 ・ジャージのファスナーを上げたときに,首の皮膚がはさまり痕が残った。最近はファスナー上部にカバーがつき,それ以 上は上がらなくなっているため,以前よりも安心できるようになった。 裾や足や物に引っかかって転んだ(35例) ・ズボン丈はここ数年特に長く(大人もかかとを踏むくらいの丈の影響か)裾を踏んでいるので, 保育士が折ってあげたり, 子どもにも「踏んだら危ない」ことを伝え,めくり上げるように教えている。 ・身長に合わない裾の長いズボンを折ったままはいていた。遊んでいるうちに裾が下がってしまい,そのまま気付かずに転 んで額にたんこぶをつくってしまった。 ・大き目のズボンをロールアップしてはいている子は多いが(お下がりやお腹周りの大きさに合わせたサイズのため),子 どもたちが走り回るとすぐに折っていても裾が落ちてしまう。それでも子どもたちは走り続けるので,自分の裾に引っか かって転んだり,お友達が踏んでしまってつまずいたり転んだりすることが少なくない。 ・ズボンの裾が長めのものを着用している園児がいて, 気付いたときに裾を折ってはかせていたが, やはり時間が経つと折っ た裾が元に戻り,足の指に引っかかっているという状況を目にすることは少なくない。きつめに折る,あるいは園におい てある着替えの中から危険ではないものを着用させている。 飾りのスパンコールやビーズが,顔面,首などを引っかいた(8例) ・女児の服にスパンコールが付いていた。おうちごっこをしていた際,母役の女児の胸のあたりに赤ちゃん役の友達がほほ をこすりつけたときに,引っかき傷がついた。 ・最近はスパンコールや大き目のリボンが付いた服を着てくる子も多いが, リボンについている真ん中のビーズが大きくて, それに自分の手を引っかけてしまい,引っかき傷になってしまう子がいる。 飾りのスパンコールやビーズが外れて,子どもが飲み込んだ(11例) ・スパンコールやビーズのついている女児用の上着がふえ,遊んでいるうちに落ちてしまうことがよくある。ハイハイして いる乳児もいるので(何でも口に入れてしまうので) ,未然防止に非常に気を付けている。 ・上着についていたスパンコールを,子ども自身が自分で引っ張ってしまった。スパンコールがはじけて,目の中に入って しまったことがあった。 帽子やヘルメットが後ろに下がり,紐で首が絞まった(10例) ・帽子を後ろにしていたとき,周りの子が帽子を引っ張って首が絞まりそうになったことがあったり,逆にかぶっていた帽 子を脱がせようとして引っ張る形になってしまい,首が絞まりそうになったことがある。 ・戸外遊びのときに,ゴムのついた帽子を必ず被せているが,鉄棒で遊んでいて逆さになったときに帽子が脱げ,それを直 そうとして,ゴムが首に絡んで,首が絞まりそうになった。保育士の素早い対応で,大事には至らなかった。 靴下やタイツを履いていて,フローリングの床などを滑って転んだ(67例) ・フローリングの床のため,普段は裸足だが,降園の準備をした後,靴下を履いて待っていたが,お友達と走り追いかけっ こになり,転んで骨折した。たんこぶをつくったり,ほほを赤くしたりすることもあった。その他,トイレに行くときや 午後のお昼寝の直後に起こりやすい。 ・園内は上靴を履いて生活しているが,上靴を脱いで遊んでしまい,走って転倒。あごを強打し,下唇を噛み出血と,上前 歯がぐらついた子もいる。危険のないように,日常保育では安全に遊べるよう気を付けている。 ・普段は上靴で過ごしているが,お遊戯会ということでタイツ(衣装)を履いていた子が踊っている途中で転んだ。練習で は靴下を履かせて躍らせていたが,慣れない環境・状況・緊張などが重なったのも原因の一つと思われた。 ・幼稚園保育室,遊戯室はフローリングのため,園内の生活では基本裸足にしている。しかし,少し寒いとき,靴下やタイ ツを履く子がいて,鬼ごっこのときなどに滑って転ぶことがある。たんこぶができたり,あごを切ったりすることもあっ た。走って遊ぶときは,裸足か靴を履くように指導はしているのですが……。 ・保育室がフローリングで靴を履かないため,滑って転んでしまうことがある。1,2歳児の靴下は滑り止めが付いている が,少し大きくなるとついていない,子ども用の靴下には滑り止めを必ず付けてほしい。. 200.
(8) 幼児服の安全性に関する研究. 表3 取り組んでいる対策 対 象 子ども. 施設. 対 策. 保育者. 実施数. フードを引っ張らないよ ・パーカーや服の首を後ろから引っ張らないように指導する。 うに指導する ・子どもがフードを引っ張らないように気を付けさせている。. 2. ファスナーを必ず閉めて ・ファスナーがある衣類を着用してきたときは,ファスナーを閉め 行動する るように指導している。 ・上着のファスナーは上まであげるようにし,物などに引っかから ないようにしている。. 9. 活動に適さない衣服や危 ・体にサイズが合わないものや,スカートのひだが引っかかりそう 険だと判断した衣服は着 なもの等は,すぐに着替えるようにして,けがを防いでいる。 替えさせる ・フードが付いているもの,とれやすそうな小物が付いている場合 は,事前に脱がせたり,別な服に着替えさせたりし,そのことを 保護者に伝えている。. 12. 靴下を脱いで活動する. 保護者. 内 容. ・床の上で靴をぬぐ場合は,靴下も一緒に脱いで滑らないようにし ている。 ・登園後は,原則として靴下を脱がし,裸足保育にしている。. 20. 事前に保護者に対して着 ・新年度に当たり,保護者へ安全に活動するための資料を配布する てこさせないように指導 と共に,図解の啓示をしている。 する ・着脱しやすく活動しやすい服装で,特に大きなリボンが襟につい ていたり,ひもが付いていたりするものは着てこないように,保 護者にお願いしている。. 44. 裾や袖の長いものは折る ・ズボンの裾が長すぎないように,保育士同士で声掛けをする。 ・ズボンはくるぶし以上長い場合,折っている。または保護者に裾 上げをしてもらう。. 9. その他. ・帽子が脱げないように,ゴム紐をつけてもらう。 ・玄関の床のワックスがけをやめて,ホール全体にタイルカーペッ トをしいた。 ・上着のフードは引っかからないように,中に入れている。 ・保護者の見ているところで,上着のファスナーを上げ,あごに引っ かかる危険を見てもらう。 ・幼児服の事故や危険性に関する新聞記事を増刷して配布する。 ・ 「ほけんだより」で呼びかけをする。 ・乳児,1歳児は底に滑り止めのついた靴下カバーを着用させてい る。 ・マットや鉄棒の際は,カチューシャを外させている。 ・丈の合わないものは保護者に直していただくようにお願いしてい る。. 27. に対しては,家庭における衣服選択の際に子ども. どもを保育する観点から,危険性の高い衣服をは. に合ったものをきちんと選ぶこと,登園時に着て. じめから禁止することで事故を未然に防ごうとす. こないように指導することで,該当する衣服が子. る方針が読み取れる。また,裸足歩行の徹底など,. どもにとって危険の大きいものであることを教え. 施設の方針として安全対策を行うことや,保育者. ている。 「子ども」「保育者」ともに,衣服の持つ. 同士が子どもたちの活動中,衣服の危険に対する. 危険性を把握させるとともに,それぞれの意識を. 注意を徹底することで,安全への共通意識を施設. 改善させるという目的も併せ持っていると考えら. 全体に浸透させている。また,禁止している服装. れる。. を,入園時に説明会や配布物を利用して保護者に. 「施設」 「保育者」の対策としては,複数の子. 知らせることで,家庭における衣服選択の在り方. 201.
(9) 大橋 裕子・岡田みゆき. を指導している。さらに,実際に危険とされる衣. わかった。また,事故防止のために,それぞれの. 服を着てきてしまった場合についてもきちんと対. 施設で対策はとられているが,抜本的な解決とし. 策が行われていた。. て,政府や企業が自ら危険な幼児服を販売しない. このように,幼稚園,保育所,保育園が実際に. 努力が必要ではないだろうか。. 行っている対策は,幼児服を起因とした事故の発. 平成27年12月,このような状況を受けて,よう. 生を未然に防ぐために,様々な角度から危険を考. やく日本でも,子ども用衣服に関するJIS規格「子. 慮した上で行われていた。それは,衣服の構造か. ども用衣料の安全性-子ども用衣料に附属するひ. ら考えられる危険もあれば,子どもの行動から考. もの要求事項」が公示された。このJIS規格では,. えられる危険,衣服と環境がかけ合わさることで. 子ども用衣料に附属するひもを分類し,年齢区分. 生じる危険など様々であった。より多くの視点か. ごとに着用可能なひもの種類や長さを規定してお. ら検討していることが理解できる。. り,デザイン性を否定することなく.安全性を高 めるための事項をまとめている。子ども服のひも. 4.まとめ. を起因とする事故の未然防止を図るため,より安 全性を考慮した子ども服が流通するための努力も. 幼稚園や保育所や保育園で実際に起きた幼児服. 始まったと言える。こうした対応が今後も続くこ. に関する事故の現状や,その危険に対する施設の. とを望む。. 対策を調査した。結果は,以下の通りである。. その一方で,衣服自体には問題がなくても,施. ・危険が多い内容として,「靴下やタイツを履い. 設や子どもの行動によって起こる事故もあった。. ていて,フローリングの床などで滑って転ん. 事故を未然に防ぐためには,保育者や保護者が幼. だ」 , 「上着の胴体のファスナーで,首などの皮. 児服に関する事故の事実を知ることはもちろんで. 膚を挟んだ」 ,「裾や足や物に引っかかって転ん. あるが,これから親になる高校生に対しても,こ. だ」であった。. うした情報は提供する必要があると考える。高等. ・幼児服のデザイン性に関して,問題があると思. 学校の家庭科の教科書に幼児服の安全に関する内. われる衣服のパーツとしては, 「ファスナー」. 容を記載することや,それを教える高等学校の家. 「フード」 「ひも」「装飾(リボン,ビーズ,ス. 庭科教員並びに教員養成課程の大学生に対して. パンコール等)」の4つが挙げられた。. も,幼児服に対する興味・関心を高め,知識を豊. ・衣服の構造から考えられる危険,子どもの行動. 富にさせることは重要であると考える。. から考えられる危険,衣服と環境がかけ合わさ ることで生じる危険など様々な視点から,危険. 最後に,本稿執筆にあたりまして,研究の資料. 防止対策がとられていた。「子ども」「保護者」. 収集に協力いただいた北海道教育大学教育学部旭. への対策は主に危険な幼児服への警鐘や指導で. 川校生活技術教育専攻卒業生上田茜さんに心から. あり, 「施設」「保育者」の対策は幼児服の事故. 感謝いたします。. を未然に防ぐためにできる裸足歩行の徹底や子 どもの活動への見守りなどで,安全への共通意. 引用文献. 識を施設全体に浸透させていた。 今回の調査で,幼稚園や保育所や保育園で実際. 1)三浦友里,吉田紘子.幼児服の選択に影響する環境. に起きた幼児服に関する事故の現状を明らかにす. 要因.茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学, 芸術).. ることができた。特に衣服の構造やデザインが原 因となって起きている事故がかなりあり,このよ うな幼児服が売られ,実際に購入していることも. 202. 2009,58,71-85. 2)酒井豊子.衣生活論.放送大学教育振興会,1992. 3)山中大子,山口香,川端博子.母親の価値観が幼児 服の購買行動に及ぼす影響.埼玉大学紀要教育学部..
(10) 幼児服の安全性に関する研究. 2011,60⑴,71-78. 4)東京都.消費者アンケート調査:子どもの衣類にま つわる危害・危険についてのアンケート. https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/anzen/ kyougikai/h18/documents/h18_kyougikai_ houkokusho.pdf#search.(入手日:2016.10.19) 5)日本家政学会被服構成部会.消費者問題資料シリー ズ家政学と消費者問題:乳幼児衣料の表示.日本家政 学会消費者問題常置委員会.1993,81-94. 6)大村知子,杉山直美,大村篤子.幼児服の動作性に ついての着用実験に関する基礎研究.静岡大学教育学 部研究報告(自然科学編).1997,47,27-45. 7)萩須隆雄,齋藤歖能.子どもの事故と安全教育.多 摩川大学出版部,1997.. (大橋 裕子 大学院生) (岡田みゆき 旭川校教授). 203.
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