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【実践報告】「個別の指導計画」を用いた発達障害のある幼児の理解と支援- 支援案と支援ツールの作成 -

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「個別の指導計画」を用いた発達障害のある幼児の理解と支援

支援案と支援ツールの作成 -

Understanding and Support Using "Individual Teaching Plan" for Kindergarten Children with Developmental Disorder: Creating Support Plans and Tools

小栗 貴弘 Takahiro Oguri 【要約】 本研究の目的は、保育者養成校の授業において、実際に個別の指導計画を作成する課題を 取り入れ、効果について検討することであった。架空の事例について指導計画や支援ツール の作成を班ごとに行った。実践の結果、①アクティブ・ラーニングの促進、②特別支援教育 と保育の親和性の経験、③幼児理解に必要な想像性の育成、④既知の事柄の総論などの点か ら考察された。 【キーワード】 個別の指導計画 発達障害 幼児理解 障害児保育 特別支援教育 Ⅰ.問題と目的 平成17 年に「発達障害者支援法」が施行され、その中で発達障害について「自閉症、アス ペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類す る脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義された。そし て、平成19 年には改正学校教育法が施行され、文部科学省(2007)は特別支援教育を以下の ように定義した。 障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に 立ち、幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上 の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行うものである。また、特別 支援教育は、これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく、知的な遅れのない発達障害も含 めて、特別な支援を必要とする幼児児童生徒が在籍する全ての学校において実施されるもの である。(文部科学省 2007) そして、平成21 年に施行された「幼稚園教育要領」の「第 3 章、第 1 節、2 特に留意す る事項」の中では、障害のある幼児の指導に当たって、「指導についての計画又は家庭や医療、 福祉などの業務を行う関係機関と連携した支援のための計画を個別に作成すること」と、「個 別の指導計画」の必要性が明記された(文部科学省 2008)。一方で、保育所における障害幼 児の保育についても、平成21 年に施行された「保育所保育指針」の「第 4 章、第 1 節、(3)、 実践報告

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62 ウ 障害のある子どもの保育」において、「子どもの状況に応じた保育を実施する観点から、 家庭や関係機関と連携した支援のための計画を個別に作成するなど適切な対応を図ること」 と、個別の指導計画の立案について明確に記述された(厚生労働省 2008)。 こうした個別の指導計画について、文部科学省(2010)は「幼児児童生徒一人一人の障害 の状態等に応じたきめ細かな指導が行えるよう、学校全体の教育課程や指導計画、当該幼児 児童生徒の個別の教育支援計画等を踏まえて、より具体的に幼児児童生徒一人一人の教育的 ニーズに対応して、指導目標や指導内容・方法、配慮事項等を示した計画」と定義している。 個別の指導計画について、三浦・川村(2003)が個別の指導計画における書式モデルの類型 化を行っているが、統一的な書式はなく、各園の実状に合わせて計画を立案しているのが現 状である。また、個別の指導計画の作成状況について、文部科学省(2016)の「平成 27 年 度 特別支援教育体整備状況調査結果」によれば、全国の幼稚園の中で計画を作成している園は 46.8%にとどまっている。 同調査の中で、小学校の作成状況が93.1%、中学校が 84.3%であることを踏まえると、幼 稚園における個別の指導計画の浸透度合いが、非常に低いことがわかる。幼稚園で個別の指 導計画作成が浸透しない原因について、いくつかの研究が蓄積されている。たとえば、金・ 園山(2008)は公立幼稚園を対象とした質問紙調査の中で、個別の指導計画作成において「一 番難しく感じたこと」を尋ねたところ、「各幼児に的確な発達課題及び目標や支援案を引き出 すこと」が最も多く、全体の42%を占めたと報告している。また、原野・朴・佐藤・鶴巻(2009) は福島県内の幼稚園に実施した質問紙調査から、個別の指導計画を作成しない理由として「作 成できる専門知識のある人がいない」が最も多く、31%を占めたと報告している。さらに、菊 田・宮木・木舩(2014)は障害幼児を担任している幼稚園教師を対象として個別の指導計画 作成の上での困難感について尋ねたところ、「評価」や「具体的な指導内容の設定」において 困難感を抱えていることを明かしている。 このように、特別支援教育が始まって10 年経つにも関わらず、個別の指導計画作成が幼稚 園において浸透しないのは、現場の保育者にとってその作成方法や支援案の立案方法がわか らないからであり、言い換えれば保育者養成校での教育の不十分さも原因の一つであると言 えよう。そこで、本研究では保育者養成校の授業において、実際に個別の指導計画を作成す る課題を取り入れ、効果について検討することを目的とする。 Ⅱ.方 法 1.対象者 A 短期大学の保育者養成課程の 2 年生 136 名(女子 136 名)を対象とした。なお、写真の 使用にあたっては、事前に学生の承諾を得ている。 2.授業概要 ⑴開講時期 平成29 年度前期「障害児保育Ⅱ」の授業のうち、4 回(第 12 回~第 15 回)。各回の授業

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63 は①個別の保育計画作成のポイントの解説、②計画立案、③支援ツールの作成と発表準備、 ④発表とした。 ⑵形式 「障害児保育Ⅱ」は「演習」形式の授業であり、A 短期大学では 1 クラス 45 名~46 名の 3 クラス編成となっている。 ⑶内容 各クラスで12 班(1 班につき 3~4 名)に分かれ、班ごとに作業を行った。架空の事例を 教員から提示し、それについて「自分がその子の担任だったら」と仮定して、支援案の検討 や使用するツールの作成を行った。事例は「自閉症スペクトラム障害」との診断が出ている 図1 学生が作成した個別の指導計画の例

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64 年中の男児であり、詳細は図1 の「実態」欄に示した。学生たちはこの「実態」欄に書か れている情報を基にして、班ごとに事例検討を行った。図 1 に示した個別の指導計画の書式 は、A 短期大学がある B 市の書式を用いた。A 短期大学の学生の中には B 市内に就職する学 生が最も多く、その書式で個別の指導計画を作成した経験が、将来現場に出てからの計画立 案につながると考えたためである。 Ⅲ.実践報告 1.発表の様子 図 2 は授業における発表の 様子を示したものである。登場 している学生は、図1 の個別の 指導計画を作成した班であり、 計画の中の「遊び」領域の支援 として立案した「写真を見て、 遊び方を理解し、様々な遊びを 行えるようになる」という目標 と、「各遊具の使い方、遊び方 の写真を見せ、分かるようにす る」という支援案について発表 しているところである。自分たちで公園に赴き、各遊具について「正しい遊び方」と「間違っ た遊び方」の写真を撮り、園児に見立てた学生たちを対象に、モニターとスマートフォンを 使って視覚的に説明している。このように、個別の指導計画を立てるだけでなく、その支援 で必要となってくるツールについても各班で複数作成し、園児に見立てた学生を対象に実際 に支援を実行してみることも、本実践の重要なポイントとなっている。 各班から独創的なアイディアと、多種多様な支援ツールが発表されたが、紙幅の関係から 以下では一部のみを取り上げる。 2.手先の不器用さや指先の力の弱さの支援 図3 左は、保育の現場でよく用いられる「洗濯ばさみ遊び」を応用させたもので、洗濯ば さみを使って楽しく遊びながら、指先に力をつけていこうとする支援であった。この班は「4 歳児であれば色塗りから」「5 歳児であればハサミも使えるのでモチーフの切り取りから」と いうように、いくつかのバリエーションを用意していた。また、写真ではわかりにくいが、 手先が不器用な幼児でも指先を使いながら楽しんで遊べるように、比較的挟む力が弱く、持 つ部分が幅広の洗濯ばさみを使用している。さらに、「みっつ」「よっつ」というようい、モチ ーフごとに付ける洗濯ばさみの数を変えることで、数概念の獲得も視野に入れた計画として いた。 図3 右の班は、洗濯ばさみと割り箸で作った「トング」を使った「パン屋さんごっこ」の 図2 視覚的に遊具の遊び方を説明している様子

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65 主活動を立案した。トングを使用したのは、先ほどの班と同様「掴む力」を育むためとのこ とである。また、紙粘土を使った「パン作り」、ハサミを使った「紙幣作り」、いずれも指先の 力を要するものであるが、できあがったパンをトングで上手に掴んで、楽しく遊べるように、 軽量紙粘土を使用しているのも注目すべきところである。また、興味深いことに、この班も 先ほどの班と同様に、紙幣を通した数概念の獲得を視野に入れた計画としていた。 3.自発行動を促すための視覚的な支援 図4 左は、幼児に見通しをもたせて、自発的な行動を促すための視覚的支援ツールである。 障害児保育における視覚的な支援として、代表的なものに「スケジュール表」や「手順表」が ある(たとえば、武藏 2010)。この班は「スケジュール表」「手順表」という従来の支援案に、 保育室の中をにぎやかに飾り付ける「壁面構成」のアイディアを付け加えて、幼児が対象で あることをより意識した支援案としている。また、この壁面は一日のスケジュールが描かれ た複数のカードを、洗濯ばさみで毛糸に固定する柔軟な作りとなっており、その日の予定や 対象児に合わせて応用が効くようになっている。 図4 右の班は、保育でよく用いる「ペープサート」と、ダンボールで保育室を再現した「パ ネル」を使った劇を支援案とした。手前が劇の「台本」である。事例の幼児が自発的、自律的 に行動できるように、朝登園したら帽子、鞄、連絡帳などをどこにどうしたらよいのかを、 図3 手先の不器用さや指先の力の弱さの支援 図4 自発行動を促すための視覚的な支援

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66 視覚的に劇で見せる支援案となっている。視覚的に示すというコンセプトは変わらないが、 実際に「やってみせる」ことでより障害幼児にわかりやすいように工夫がされている。 4.聴覚過敏に対する支援 図4 左は、折り紙、ストロー、ペットボトルを利用した「マラカス作り」を主活動として 設定した個別の指導計画である。そして、スケッチブックと実際の材料を使いながら、視覚 的なマラカス作りの説明ツールも作成している。この班がマラカス作りを題材としたのは、 ペットボトルの中に入れる素材の工夫次第でマラカスの音の大きさが調節できるからである。 図 4 右は非常にシンプルだが、トイレットペーパーの芯と、丸めた新聞紙で作った「ボー リングゲーム」である。保育の中で、「ボーリング」を主活動として取り入れる場合、市販の ピンや少量の水を入れたペットボトルを利用することが多い(たとえば、橋本・渡邉・林・久 見瀬・工藤・大伴・安永・田口 2012)。しかしながら、この班はそれらの素材だとピンが倒 れたときの音が大きいことに気づき、他の素材を使って教材研究を行い、倒れたときの音が 最も小さいものとしてトイレットペーパーの芯を最終的にピンとして採用した。 Ⅳ.考 察 本研究では、保育者養成課程の授業において、個別の指導計画を実際に作る課題を取り入 れ、その実践について報告してきた。以下では本実践の効果と今後の課題について考察する。 第一に、アクティブ・ラーニングの促進が挙げられる。単に個別の指導計画について講義 を受けるだけでなく、本実践では自分自身で立案や支援ツールを作成する「能動的な学修」 が求められる。能動的に幼児の困難感について理解しようとする姿勢は、保育者として現場 に出てからも重要になってくると考えられる。 第二に、特別支援教育と保育の親和性の経験が挙げられる。先に述べたように、本実践を 行った授業の受講者は 2 年生であり、障害に関する知識や支援方法について、ある程度は習 得していた。しかしながら、実践の中で学生たちは従来の知識の枠にとらわれず、より「保 育」の色をつけて工夫していた。たとえば、図4 の班は従来の「手順表」や「スケジュール 図5 聴覚過敏に対する支援

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67 表」といった支援を、「壁面構成」や「ペープサート」という保育に馴染む形で再現していた。 その他の班も保育の中でよく採用される「主活動」や「遊び」を支援に取り入れていた。この ように、保育の中には障害幼児の支援につながる活動が多く、そうした部分を在学中に学ん でから現場に出ていくことが、幼稚園における個別の指導計画作成率の向上につながると考 えられる。 第三に、幼児理解に必要とされる想像力の育成が挙げられる。上述したこととも関連する が、「主活動」や「遊び」を支援に取り入れるということは、そうした「主活動」や「遊び」 が、幼児の発達にどのような効果を与えるかということを強く意識する必要がある。また、 図 5 のように聴覚過敏に対応するために教材研究を行ってみるという姿勢は、いわゆる「合 理的配慮」に通じるものであろう。これらの視点は幼児に対する想像力を必要とするもので あり、この想像力は障害幼児の支援に限らず、定型発達幼児の保育においても重要であろう。 第四に、総論としての効果が挙げられる。図 3 の班はいずれも「数概念の獲得」を視野に 入れた支援を立案していた。さまざまな授業を通して、この時期の幼児にとって重要な発達 課題であることを学生は学んでいたと考えられ、そういった既知の事柄を総合させて、「生き た知識とする」効果も期待できると考えられる。 最後に、今後の課題として定量的あるいは定性的な効果評価が挙げられる。上に記述した のはあくまで推測であり、実際に学生たちの中で障害幼児に対する考え方として、どういっ た変化が生じたのかについて、量的あるいは質的に検討することが期待される。 文献 原野 明子・朴 香花・佐藤 拓・鶴巻 正子 (2009) 「福島県内の幼稚園における個別の指導計画作成の現状」 『福 島大学総合教育研究センター紀要』(7),93-101. 橋本 創一・渡邉 貴裕・林 安紀子・久見瀬 明日香・工藤 傑史・大伴 潔・安永 啓司・田口 悦津子 (2012) 『知 的・発達障害のある子のための「インクルーシブ保育」実践プログラム : 遊び活動から就学移行・療育支援ま で』,福村出版. 菊田 真代・宮木 秀雄・木舩 憲幸 (2014) 「幼稚園教師が抱く個別の指導計画の作成に関する困難感」 『広島大 学大学院教育学研究科附属特別支援教育実践センター研究紀要』(12),59-67. 珍煕・園山 繁樹 (2008) 「公立幼稚園における個別の指導計画に関する実態調査 : 「障害のある幼児の受け 入れや指導に関する調査研究」指定地域の協力園への質問紙調査」 『障害科学研究』 32,139-49. 厚生労働省 (2008) 「保育所保育指針」 (http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/hoiku04/pdf/hoiku04a.pdf,2017.11.15). 三浦 光哉・川村 秀忠 (2003) 「個別の指導計画における書式モデルの類型化と活用するための改善策 : 全国知 的障害附属養護学校の調査を通して」 『発達障害研究』 24(4),392-402. 文部科学省 (2007) 「特別支援教育の推進について(通知)」 (http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/07050101.htm,2017.11.15). 文部科学省 (2008) 「幼稚園教育要領」 (http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/you/you.pdf,2017.11.15). 文部科学省 (2010) 「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議審議経過報告(案)」 (http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/054/shiryo/attach/1291191.htm,2017.11.15). 文 部 科 学 省 (2016) 「 平 成 27 年 度 特 別 支 援 教 育 体 制 整 備 状 況 調 査 結 果 に つ い て ( 別 紙 1) 」 (http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/04/07/1383638 _02.pdf,2017.11.15). 武藏 博文 (2010) 「Ⅳ自閉症の特徴と保育での支援 6保育現場における支援」尾崎 康子・小林 真・水内 豊和・ 阿部 美穂子『よくわかる障害児保育』,ミネルヴァ書房,66-67.

参照

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