1. はじめに 我々は、高等学 や大学における理科教材を開発す る目的で、文献1で和歌山市の水道水や紀ノ川の水に 含まれる銅イオンの濃度を原子吸光 析により測定し た。そして、水道水に含まれる銅イオンの量が紀ノ川 の水に比べ多くなっていることがわかった。さらに、 文献2で紀ノ川下流における塩化物イオンの定量を行 い、実際に高等学 や大学で実践した。その結果、紀 ノ川下流の水には海水の約半 の量の塩化物イオンが 溶けていることがわかった。今回、身のまわりの河川 として市街地を流れる貴志川(紀の川市)や日方川(海 南市)、そして水道水、雨水における塩化物イオンの濃 度をモール法 で測定した。本実験は、すべて和歌山大 学教育学部環境化学実験(2000−2004)と化学実験A (2005−2019)で行ったものである。 2. 実験方法 試料水(貴志川(採水場所:紀の川市貴志川町)、日方 川(採水場所:海南市日方)、水道水(採水場所:和歌山 市栄谷(和歌山大学)、雨水(採水場所:海南市日方、和 歌山市栄谷))100 mLをメスシリンダーで測りとり、 300 mL三角フラスコに入れた。ここに、0.05 mol L NaCO 水溶液を3mL加え弱アルカリ性にした。さら に、5%K CrO 水溶液を駒込ピペットで5滴加え、 0.01 mol L AgNO 標準溶液で滴定した。そして、三 角フラスコ内の水溶液が赤褐色になった点を終点とし た。 3. 結果と 察 塩化物イオンの濃度は実験で得られた滴下量αを式 (1)に代入し求めた 。 得られた実験結果を表1および図1に示す。 表1の実験結果から河川水1Lに含まれる塩化物イ オンの量は、水道水や雨水よりも多いことがわかった。 このことから、河川水の塩化物イオンの量は生活排水 などの影響を受けることが示唆される。さらに、水道 水や雨水における塩化物イオン量の経年変化(図1)か ら水道水に含まれる塩化物イオンは雨水に比べ多いこ とがわかった。これは、和歌山市の水道水が塩素で殺 菌されているためであると思われる。 これまでのモール法による河川水や水道水、雨水の 塩化物イオン量の測定は海水 などに比べ誤差が大き く、5年や10年以上の継続した実験が不可欠であると 思われる。よって、身近な河川水や水道水を理科教材 として用いるためには、塩化物イオン濃度に関する多 くのデータを調査し、慎重に解析することが重要であ る。 本取り組みは和歌山大学教育学部自然環境教育課程 および学 教育教員養成課程で実践した研究である。 参 文献 1)木村憲喜, 中村文子, 和歌山大学教育 学 部 紀 要(自 然 科 学), 69, 5(2019). 2)木村憲喜, 高山尚也, 今西康晴, 杉谷隆太, 中村文子, 和 歌山大学教育学部紀要(自然科学), 68, 19(2018).
モール法を用いた水の化学 析
Chemical Analysis of Water Used by Mohr s Method
木 村 憲 喜
Noriyoshi KIMURA
(和歌山大学教育学部化学教室)
中 村 文 子
Fumiko NAKAMURA
(和歌山大学教育学部化学教室)
2019年10月16日受理 本研究では、身近な河川水や水道水、雨水に含まれる塩化物イオン濃度を、モール法を用いて2000年から大学の 授業で継続して測定した。大学1, 2回生が測定したデータを詳しく調べると、塩化物イオン量は海水などに比べ ると非常に少なく誤差が大きいことがわかった。そのため、本実験を理科教材として用いるためには、塩化物イオ ン量に関するさまざまなデータを調査し、実験で得られたデータをきめ細かく解析する必要があると思われる。Abstract
塩化物イオンの濃度(mg・L )=0.3545×α×1000 100 …(1) α:0.01 mol L AgNO 標準溶液の滴下量 ― 45 ― モール法を用いた水の化学 析図1 和歌山大学水道水(和歌山市栄谷)( )および雨水(海南市)( )の水1Lあたりの塩化物イオンの量 表1 身近な河川水や水道水、雨水に含まれる水1Lあたりの塩化物イオン量 Cl-/mg L Sample Date 12.8 貴志川(紀の川市貴志川町) 2010.5.24 23.4 貴志川(紀の川市貴志川町) 2014.6.2 44.5 水道水(和歌山市栄谷) 2006.6.19 21.2 日方川(海南市日方神田) 2010.5.24 20.2 日方川(海南市日方神田) 2012.6.4 27.3 日方川(海南市日方神田) 2012.6.10 42.4 日方川(海南市日方神田) 2014.6.2 27.8 日方川(海南市日方神田) 2014.6.2 14.2 日方川(海南市日方神田) 2018.5.28 15.1 水道水(和歌山市栄谷) 2007.5.28 10.6 水道水(和歌山市栄谷) 2008.6.2 15.5 水道水(和歌山市栄谷) 2009.6.1 17.9 水道水(和歌山市栄谷) 2010.5.24 7.52 水道水(和歌山市栄谷) 2011.5.23 14.9 水道水(和歌山市栄谷) 2012.6.4 14.6 水道水(和歌山市栄谷) 2013.6.10 23.6 水道水(和歌山市栄谷) 2014.6.2 14.8, 16.2, 21.6 水道水(和歌山市栄谷) 2015.5.25 14.1, 17.7, 21.6 水道水(和歌山市栄谷) 2016.5.23 4.13 雨水(海南市日方) 2011.5.23 12.1, 20.6, 26.2 水道水(和歌山市栄谷) 2017.5.22 18.8, 19.4, 25.9 水道水(和歌山市栄谷) 2018.5.28 18.4 雨水(海南市日方) 2006.6.19 7.57 雨水(海南市日方) 2007.5.28 6.70 雨水(海南市日方) 2008.6.2 17.7 雨水(海南市日方) 2009.6.1 6.99 雨水(海南市日方) 2012.6.4 5.64 雨水(海南市日方) 2013.6.10 13.1 雨水(和歌山市栄谷) 2007.5.28 9.23 雨水(和歌山市栄谷) 2008.6.2 25.2 雨水(和歌山市栄谷) 2009.6.1 5.67 雨水(和歌山市栄谷) 2010.5.24 5.40 雨水(和歌山市栄谷) 2011.5.23 ― 46 ― 和歌山大学教育学部紀要 自然科学 第70集(2020)