Author(s)
村上, 敬進
Citation
沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL
OF LAW & ECONOMICS(11): 11-28
Issue Date
2008-12-25
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/5990
沖縄 大学法経学部紀要 第11号 村 上 敬 進 '
地域の景気循環 の性質
【
論文】
要 旨 本稿は、地域景気の全国景気 に対す る遅行 ・悪化 を分析す ることを 目的 とす る。 ポー トフォ リオ 理論 を基 に地域経済を分析 した研 究や、地域の経済成長 の収束 に関す る実証研 究か ら、全国景気 に 対す る地方景気の先行 ・遅行 と、所得水準や経済成長率の分散 との間に どの よ うな関係 が存在す る かを検討 した。具体的には、分析期 間中の経済成長率の分散は地域景気 の先行 ・遅行 を説明できな かったが、景気の谷 にお けるクロスセ クシ ョンの1人 当た り県 内GDPの分散 と各地域 の景気 の先 行 ・遅行度の (クロスセ クシ ョンの)分散 には有意な正の相 関関係 が存在す ることが明 らかになっ た。更に、 2地域間の経済成長率の差が 2地域間の所得格差の変化率に還元できることに注 目した 分析 も行 った。 その結果 、経済 (所得)水準 と地域景気 の遅行 には有意 な負 の相 関関係 が存在 し、 所得水準が高い大都市圏 と低 い地方圏 と比べ る と、地方圏の遅行確率が高ま ることを示 した記述統 計やプ ロビッ ト分析の結果 とも一致 した。 キー ワー ド 地域景気 の先行 ・遅行 、クロスセ クシ ョンお よび期間中の分散 、所得水準 1 は じめに 地域経済学の分野では、地域の経済成長 とその分散 について、産業の多様性 の観 点か ら多 くの研 究が行われ ている (安藤 ・中村 (2004)、Chandra (2002、2003)、Kort(1981)、Wangerand°eller (1998)等)。 ところが、景気循環理論 の分野 で、地域 の景気分析 に注 目した研 究 は少 ない。 田原 (1983、1998)では、独 自に作成 した各県の簡易DIや地域別鉱 工業生産指数等 を利用 して、全国景 気に対す る地域景気の進行具合 は一様 ではない ことを、循環 ごとに観察 してい るO その他 の地域の 景気研究は、デ ジタル家電の工場が どの県にあるか、円高の影響 を受 けやす い産業が集 中 している 地域が どこか、 といった具体例 に基づ く景気分析 ばか りである。 地域景気分析 の第 1の問題点は、一般 的に、 「大都 市圏または全国の景気 に対す る地域景気 の遅 行 ・悪化」が言われ てい るだけで、実際 に どの地域 の景気 が、 どの程痩 , どの よ うに全 国景気 に 対 して遅行 しているかは、ほ とん ど研究 され ていない ことである。第2の問題点は、なぜ地域の景 気が遅行す るのかの実証研究や理論研究 も存在 しない。第3に、地域景気の全国景気に対す る先行 ・ 遅行が、一国の景気変動や資源配分の効率性 に与 える影響 は、何 も研 究 されていない ことである。 本稿 の 目的は、第 1の問題 に対 して、記述統計の整理 、プ ロビッ トモデル 、パネル に よる分析 か ら、地域景気の遅行傾 向の答 えを導 き出す ことである。そ して、第2の問題点である遅行原因につ いて も一部調査 を している。資料1 景気動向指数 を作成 して いる道府県 (内閣府調べ) を基 に、景気基準 日付 を作成 している 道府県および地域 を調査。 作成 (29道府県+ 1地域) 北海道、青森、岩手\秋田\宮城\山形\福島、茨城\栃木\群馬\ 神奈川\新潟\石川\福井\静岡\愛知\岐阜\三重、奈良\大阪府\ 近畿\兵庫\岡山\広島、山口\島根\福岡、佐賀、宮崎、鹿児島 未作成 和歌山、長崎\鳥取 本稿の構成 は次の通 りである。 2節では、地域景気の先行 ・遅行 に関す る記述統計の整理 を行 う、 3節 ではプ ロビッ トモデル を利用 して地域 ごとに全国景気 に対す る先行 ・遅行の程度 を明 らかにす る。 4節 では、所得水準、期間中の成長率分散 、クロスセ クシ ョン (地域間)の所得の分散が地域 景気 の先行 ・遅行 に与 える影響 を先行研 究か ら整理す る0 5節 では、4節 の仮説 を用いて、パネル を利用 した実証分析 を行 う。 6節が本稿 の結論である。 2 記述統計 地域 の経済 ・景気統計は全国の統計 と比べ る と整備 が遅れている。 このため、本節 では、各道府 県の景気基準 日付お よび各地域 の鉱 工業生産指数 を利用 して、地域景気 の先行 ・遅行 に関す る基礎 的な統計の整理 を し、分析 の展望 をす る。 2- 1 景気基準 日付 わが国にお ける景気変動の山 と谷 の判定は内閣府 が作成す る景気基準 日付で行 われ る。県 レベル では、内閣府 の調べ に よる と、現在33道府 県が DI、CIな どの景気指標 を作成 してい る。その中の 多 くの県が国 と同様 の方法 を利用 して景気 の山 と谷 を調査 してい る (資料1)。地方の経済状態 を 表す代表的指標 である県内
GDP
は年次デー タ しか作成 され ていないため、各道府 県が作成す る景 気基準 日付 は、地方経済の状態 を月次単位 で示す貴重な総合指標 である。 しか しなが ら、景気基準 日付 による分析 には幾つかの問題 が存在す る。地域 の景気 を体系的に分 析す るにあた り特 に問題 なのが、47都道府県の全てが景気基準 日付 を作成 していない点である。 ま た、景気基準 日付 を作成 し始 めた時期 も県に よって異な るとい う問題 もある。 この よ うな問題 が存 在す るものの、地方の景況 を測 る物差 しとして利用す る利点 も大 きいため、公表 されている各道府 県の景気基準 日付 を基 に地方 の景況の遅れ を調査 した。比較的多 くの県の 日付が揃 う国の景気 でい う第7循環か ら第13循環 までのデー タで分析 を行 う。 収集 した景気基準 日付 か ら表1、 2、 3が作成 されてい る】,u。表1では、各道府 県の景気基準 日 付 を地域別 に分類 し、各循環 の 山 と谷 にお ける地域平均 の先行 ・遅行度 を求 めてい る。表2では、 「山にお ける各地域 の先行確 率 -全国景気 に対 して先行 した循環数/7
」 と 「谷 にお ける各地域の 遅行確率 -全国景気 に対 して遅行 した循環数/ 7」を計算 している。表 1の各循環平均の先行 ・遅 行度 が0.
5
ケ月未満 の場合 は、先行 に も遅行 に も含 めていない。 更 に、大都 市圏 (関東、東海 、近 畿) と地方 (北海道、東北、北陸 ・静岡、中国、四国、九州) に分 けて、平均先行 ・遅行確率 を計 算 した ものが表3である。 以上の分析 か ら、次の ことが確認できる。第 1に、地方 は、大都市圏 と比べ ると、谷にお ける遅沖縄 大学法経 学部紀要 第11号 表1 循環 ごとの地域別先行 ・遅行 東 北 山 杏 7循環 1 2 8循環 1 3 9循環 0 8 10循環 -6 0 11循環 3 2 12循環 2 -3 13循環 -3 3 全循環平均 -0.29 2.14 山 杏 7循環 -0.5 3.5 8循環 -2.75 1.5 9循頑 1 -6.25 10循環 -0.5 10.25 11循環 3.25 9 12循環 -1.5 -2.75 13循環 -1 2 山 杏 7循環 0.25 3.5 8循環 -0.75 4.25 9循環 1.5 4 10循環 1.5 3.75 11循環 2 2.75 12循環 0.75 3.25 13循環 1 0.75 山 杏 7循 環 -8.19 2.46 8循 環 -2.32 2.89 9循環 -0.53 -2.91 10循環 -1.ll 1.57 11循環 2.63 2.69 12循 環 -0ー93 2ー54 13循環 0.02 0.99 東海 (3県) 山 杏 7循環 0.69 2.15 8循環 0.46 -0.06 9循環 0.77 0.48 10循環 -0.68 4.04 11循環 3.55 2.16 12循環 0.15 3 13循環 1.85 -0.1 山 杏 7循 環 2 1 8循環 -2 4 9循環 0 3 10循環 2 7 11循環 5 5 12循環 2 2 13循 環 0 4 (単位 月数 ) 山 杏 7循 環 -0.25 0 8循環 -i.75 -0.25 9循 環 1 -2.5 10循環 0 1.25 11循環 1 3.75 12循 環 -1 1ー5 13循環 1.5 1.25 山 杏 7循環 0 3 8循環 -2 2 9循環 2 1 10循環 -3 1 11循環 2 2 12循環 -2 1 13循環 -2 0 山 谷 7循 環 -0.5 0.25 8循 環 0.5 3.5 9循 環 0.25 -1 10循環 0.25 2 11循 環 0.75 2,25 12循環 1.25 -0.5 13循 環 -1.75 -0.5 注 各地域 の各循環 にお け る平均 先行 (遅 行) 月数 を循環 ご とに計 算す る。 全 県が揃 ってい る東北 と東海 は 、 名 目県内GDPに よる加 重 平均 で あ り、その他 の地 域 は全 県 が揃 っ てい ないた め単純平均 計算 して い る。 採 用 した名 目GDPは 、多 くの地域 で各循 環 の 山に相 当す る年 の名 目GDP(昭和48年 、 昭和 51年 、昭和55年 、 昭和60年 、平成3年 、平成 9年 、平成 12年) で あ るO 表2 各地域の谷の遅行確率 と山の先行確辛 山の先行確率 谷 の遅行確 率 北海 道 0.285714286 0.714285714 東 北 0.571428571 0.857142857 関東 0.285714286 0.571428571 北陸 .静岡 0.714285714 0.714285714 東海 0.142857143 0.571428571 近畿 0-571428571 0.857142857 中国 0,142857143 1 四国 0.142857143 1 九州 0.285714286 0.428571429 江 各地域 の 山にお け る先行確 率 -全 国景気 に対 して先行 した循 環数/7 各地域 の谷 にお け る遅行確 率 -全 国景気 に対 して遅行 した循 環数
/7
表
3
大都市圏 と地方圏の先行 ・遅行確率 の差異 (日付版) 注 大都市圏は関東、東海、近畿。地方圏はそれ以外の地域。確率は各地域の単純平均O 行確率が高い。各地域 を個別 に見て も、近畿 と九州 を除けば、大都市圏 よ りも地方の各地域の方が、 遅行確 率が上昇す る傾 向にあ る3。 第2に、山では、大都市圏 も地方 も先行確率が近接 してい る。 地方の谷 に関す る遅行確率 はかな り高いので、大都市圏 と比べれ ば、地方景気が谷 において遅行す る傾 向が存在す るよ うである。第3に、景気が遅行す る地域の特徴 として、谷の遅行の度合い と比 べて山の遅行 の度合 いは小 さい場合が多 く、更に、谷が遅行 していて も山に関 しては先行す るケー ス も存在 した。 2- 2 地域別鉱工業生産指数 各道府 県の景気基準 日付 か ら、ある程度 の全 国の景気 に対す る先行 ・遅行 関係 を読み取 ることが できたが、 この分析 は幾つかの問題 も抱 えていた。 そ こで、他の統計指標 を利用 して先行 ・遅行関 係 を確認 してみ よ う。 県内GDPは、残念 なが ら年次デー タ しか存在 しないため、月次単位 での景 気 の先行 ・遅行 が分析 できない。 このため、経済産業省 の地域別鉱 工業生産指数 による分析 を試み たo鉱 工業生産指数 は、景気動 向指数 の一致指数の中で も重要な景気指標 であるため、 この分析か ら、地域 の景況の先行 ・遅行 の傾 向が明 らかになるであろ う。 表4では、1994年∼2004年2月までの前年 同月比 (平成12年基準)のデー タで、全国 と他地域の 時差相関を求めてい る。景気基準 日付 と比べて遅行す る地域が少 ない理 由は、地域景気の波の歪な 遅行 が主原 因であろ う。景気基準 日付 の分析 か ら、景気が遅行す る地域の特徴 として、谷の遅行の 度合 い と比べて山の遅行 の度合 いは小 さい場合が多 く、更に、谷が遅行 していて も山に関 しては先 行す るケース も存在 した。す なわち、全国景気 の波 に対 して地方の景気の波は、位相 同型で数 ヶ月 ずれ ているのではな く、歪 にずれ ている可能性 が存在す る。 したがって、複数 の循環 をま とめて時 差相 関を求める と、先行 か遅行かの判別 が明確 にできない可能性 が存在す る。 このため、各循環の 山 と谷 を中心 に約4年分のデー タで時差相 関係数 を確認 した4。 谷では、第6循環か ら第13循環 までの8つの循環で各地域の全国に対す る時差相関係数 を調べた。 そ して、地域 ごとの 「先行 (遅行)確率 -先行 した循環の数/ 8
」 を求 めた ものが表5
であるo一 方、山では、第7循環か ら第13循環 までの7つの循環で各地域の全国に対す る時差相関係数 を調べ た。 その結果 の各地域 ごとの先行 ・遅行確率は表6にま とめ られ ている。 以上 の準備 か ら、表7では、大都市圏 (関東 、 中部 (東海)、近畿) と地方圏 (北海道、東北、 中国、四国、九州) に分 けて、各圏の平均的な先行 (遅行)確率 を求 めている。谷では、大都市圏 と比べて地方の方が遅行確率が高い ことが、山では地方の先行確率が若干高い ことが特徴 として示 され る。沖縄大学法経学部紀要 第11号 景気 基準 日付 と地域別鉱 工業 生産指数 の時差相 関係 数 の整 理 か ら、大都 市 圏 と地方 圏 で は地方 圏 の方 が谷 にお け る遅行確 率 が大 きい傾 向が現れ た。 少 な く とも両方 の圏 の遅行 確 率 が 同一 で あ る と は言 えない よ うだ。 表4 全 国景 気 に対 す る時 差相 関 前年 同 月比 の時 系 列 デ ータ1994年 ∼2004年 2月 単位 月数 北海道 東 北 関 東 東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 +3 0.481517 0.766945 0.708331 0.723797 0.749105 0,609982 0.629942 0.804873 +2 0.588668 0.820805 0.813755 0.799993 0.828854 0.705556 0.701509 0.845058 + 1 0.685752 0.847371 0.885762 0.829165 0.877706 0.784024 0.749821 0.857473 0 0.775144 0.859134 0.960153 0.887616 0.92134 0.854944 0.799043 0.868181 - 1 0.802336 0.792312 0.940478 0.806336 0.872988 0.82009 0.758648 0.789551 - 2 0.814383 0.746325 0.923679 0.764285 0.822872 0.794011 0.743168 0.724565 注 プラスは全国に対 して遅行、マイナスは全国に対 して先行 表5 各地域景 気 の全 国景 気 に対 す る谷 の先行 ・遅 行確率 第 6循環 -第 13循環 先行確率 遅行確率 北海道 0.125 0.375 東北 0.125 0.375 関東 0.125 0.125 中部 (東海) 0 0 近畿 0 0 中国 0.125 0.375 四国 0.125 0.625 九州 0.125 0.375 注1 表 4のような時差相関係数を各循環で計算 して導出。先行 (遅行)確率-先行 (遅行) した循環の数/8 注2 1994年からは東海地域のデータを、それ以前は中部の生産指数データを利用 している。 以下の分析 も同様である。 表6 各地域 景 気の全 国景 気 に対 す る山の先行 ・遅 行確 率 第7循環 ∼第 13循環 先行確率 遅行確率 北海道 0.428571 0 東北 0.285714 0.428571 関東 0 0 中部 (東海) 0 0 近畿 0 0 中国 0 0.142857 四国 0 0.428571 九州 0.142857 0.285714 注 先行 (遅行)確率-先行 (遅行) した循環の数
/7
表7 大都 市 圏 と地 方 圏 の先行 ・遅 行確 率 の差異 (時 差相 関版) 山 杏 先行確率 遅行確率 先行確率 遅行確率 大都市圏 0 0 0.041667 0.041667 注 大都市圏は関東、東海、近畿。地方圏はそれ以外の地域o確率は各地域の単純平均.3 プロ ビッ トモデルによる先行 ・遅行の分析 記述統計 を整理 した前節 の分析か ら、谷 にお ける遅行確率は、大都市圏 と比べ ると地方圏の方が 高い よ うである (少 な くとも遅行確率が両地域で同一 とは断定できない)。 そ こで、本節 では、景 気基準 日付か ら得 られ た先行 ・遅行 の結果 を地域 ごとにま とめ、プ ロビッ トモデルで推定す ること を試み る。 プ ロビッ トモデル を利用 して経済変数 間の先行 ・遅行 関係 を調べた代表的な先行研究に はEstrellaandMIShkin (1998)がある。 この研究 では、株価 と景気 (基準 日付) の先行 ・遅行 関係 を調べ てい る。 また、原 田 (2003)ではEstrellaand Mishkln (1998)を参考 に、東証株価指数の 前年 同月比 を説 明変数 とす るプ ロビッ トモデル の推定が行 われ、景気の先行指標 としての株価 は安 定的である とい う結論 を出 している。 本節 の分析 では、説明変数 は全国版 の鉱 工業生産指数の前年 同月比 (平成12年基準)であ り、被 説 明変数 は景気拡 張期
- 1
、後退期-0
と設定 した1、
0のデー タである。分析期間は国の景気の 第7循環か ら第13循環 をカバーす る1973年1月か ら2002年12月である。推定の手順は次のよ うに行 っ たO(丑推定式は以下の よ うである。p
r
o
b(
R
e
c
o
v
e
r
y-1
)-F
[α。
十α
】
DOT
(IJij)];-n
くtくn.
(1)DOT
(llP)は、 nヶ月 まで先行 (負 ) または遅行 (正) させ た全 国鉱 工業生産指数 の前年 同月比 (%)、 打 Jは標準正規分布 の累積密度 関数 である。② この推定式 で、生産指数前年 同月比のデー タ を1ケ月 ず つ 先 行 ま た は遅 行 させ て い った結 果 、 説 明変 数 のt値 が2よ り大 き く有 意 で 、 McFaddenのR2が一番大 き くなる先行 ・遅行月 を求 める。 分析結果 は表8にま とめ られている。負 (正)の値が大 きいほ ど、全国 と比べて先行 (遅行) し ている地域 とい うことになる。全期 間の推定では、各地域がほぼ同 じ次数 に固まって存在 している ことがわか る5。 す なわち、全 国景気 に対す る大幅 な遅れや先行 は、 どの地域 に も認 め られ なか っ た。 ところが、的 中率 を見 ると、景気後退期 に的 中率が低い ことが示 され ている。 これ は、景気の 波が三角関数 の よ うな締麗 な波ではな く、歪な波である可能性 を示す。前節の時差相関の分析 でも、 期 間 を長 く取 った例 では (表4)、地域 の先行 ・遅行がほ とん ど現れなかった。時差相関係数の分 析結果及び 日付 の結果 も考慮 に入れ ると、歪な波の可能性 は強い。 そ こで、各循環の谷周辺 での推定 も試みた。サ ンプル数 は谷 を中心に51日分である。 プ ロビッ ト モデル の性質上、本来 は もっ とサ ンプル数 を増や した方が よいであろ うが、サ ンプル数 を増加 させ る と、次の循環 にかか って しまい、循環毎の独立 した分析 が不可能 になって しま うため、このよ う な方法 を採用 してい るO その結果 、以下の ことが明 らかになったO 関東 は多 くの循環の谷で先行 し てい ることがわか る。近畿は、関東 と比べ ると、循環 によって大 きく遅行す ることもあるよ うだが、 他地域 よ りも景気 が先行す るケー ス もあるO地方圏の中で もたまに先行す るケース もあるが、概 し て関東 と比べ る と遅行す るよ うである。 記述統計 で もプ ロビッ トで も、景気 の進展具合 は各地域 で一様 ではな く、大都市圏 (特 に関東) と地方圏では動 きが異な り、大都市圏 と比べ ると地方圏は景気が遅行 しやすい傾 向が示 されている。 以上の分析 で得 られた先行 ・遅行のデー タと他の経済変数の関係 を考察 してい くことで、更に、地 域景気 の遅行 の特徴 が明 らかになってい くであろ う。沖縄大学法経学部紀要 第11号 表8 プ ロ ビッ トモ デ ル の結 果 :全 国鉱 工 業 生 産 指 数 に対 す る各地 域 の景 気 の先 行 ・遅 行 度 1)全期間 1973:1-2002:12 全期間ケースのみ的中率を掲載 北海道 東 北 関 東 北陸 一静 岡 東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 ラグ次数 -4 -5 -5 -5 -5 -5 -4 -4 -5 McFadde∩ノ72 0.40314 0.607326 0.557158 0.592916 0.578252 0.595492 0.532813 0.465825 0.542445 t値 10.06617 9.621565 10.23074 9.55078 9.681514 9.549456 9.900307 10.25582 10ー2923 的中率拡張期 84.21 89.85 89.86 88.18 87.68 88.78 87.31 85.79 88.73 的中率後退期 72.79 85.44 82.43 82.89 81.58 83.65 81.13 78.92 82.12 2)第 7循環谷 1973:2--1977:4 北海道 東 北 関 東 北陸 .静 岡 東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 ラグ次数 -5 -6 -8 -6 -6 -5 -5 -6 -8 McFadden
斤
2 0.8088120.832534 0.756603 0.832534 0.829647 0.8511910.762214 0.693097 0.806059 3)第8循環谷 1975:9-1979:ll 北陸 ・静 岡 McFaddenF72 4)第9循環谷 1981:1-1985:3 北海道 東 北 関 東 北陸 .静岡 東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 ラグ次数 2 -8 -8 -7 -6 -5 -2 -3 -7 McFadde∩/72 0.8925 0.8925 0.8925 0.8925 0.8925 0.8925 0.8925 0.8925 0.8925 5)第10循環谷 1984:10-1988:12 北陸 ・静岡 McFadden/72 6)第11循環谷 1991:9へ-1995:ll 北海道 東 北 関 東 北陸 .静岡 東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 ラグ次数 / ,-5 -2 -l -1 -2 -2 -2 -1 -2 McFadde∩/72 0.7961310.778037 0.778037 0.778037 0.778037 0.778037 0.778037 0.754626 0ー778037 7)第12循環谷 1996●12-2001:2 北陸 ・静 岡 McFadden/72 8)第13循環谷 1999:5-2002:12 北海道 東 北 関 東 北陸 .静間 東 海 近 畿 中 国 四 国 九 州 ラグ次数 0 -3 -3 -4 -3 -6 -3 -3 -4 McFaddenF
7
2 0.731096 0.7296610.824139 0.718577 0.754915 0.795978 0.754915 0.778626 0.718577 注 ラグ次数は、係数の符号条件 を満た し有意であ り、最 も説明力が高い次数である。次数の負 (正)は生産 指数前年同月比に対 して先行 (遅行) していることを示す。4 分散、成長率 および所得水準 が地域景気の先行 ・遅行 に与 える影響 直感 的に、地域景気の先行 ・遅行は、地域 の経済成長率の分散で全ての説明が付 くのではないか、 と考 え られ るか も知れ ない。 も しそ うだ とした ら、本稿 の分析や 内閣府 、各県庁統計課で行 われて い る景気 の先行 ・遅行 の調査 は意味が無 く、各地域 の成長率 の分散 のみ を調査すれ ば よい ことに な る。 また、地方 で景気が遅行 してい るとよくいわれ るが、景気の水準が全国 と比べて低いため、全国 景気に対 して遅れ ている と錯覚 してい るのでは、 と考 える人や 、地域経済で重要なのは多少の遅れ ではな く 「水準」の低 さであると考 える人 もいるか も知れ ない。本節では所得や成長率の分散、平 均成長率、所得水準に よって、地域景気の先行 ・遅行が説 明可能か ど うかを、先行研究を紹介 しな が ら検討す る。
4- 1
経済成長率 と分散の長期的関係 安藤 ・中村 (2004) で は、 ポー トフォ リオ理論 を地域 経 済 の分析 に利 用 した Chandra (2002、 2003)等 の研 究 を 日本 に適用 し実証研 究 を してい る。 この理論 では、経 済成長率 をCAPMにお け る リター ン、成 長率の分散 を リスクと置 き換 え、各 県の成長率は県内各産業の成長率に分解できる ことに注 目した。 そ して、 目標 の経済成長率 を達成す るのに最小 となる分散 を求める (分散が最小 となる産業の組み合 わせ を求 める) ことを 目的 と している。そ して、安藤 ・中村 (2004)では、岡 山県につ いての効率性 フロンテ ィアを推定 し、効率的な産業の組み合わせ が達成 されているかを検 討 してい る。 安藤 ・中村 (2004)では、幾つかの発見があるが、その中の 1つ に,各県の1955年か ら2001年ま での県民経済計算のデー タを利用 して長期 的な平均経済成長率 とその標準偏差の関係 を調べた とこ ろ、期間 中の成長率 (リター ン)が大 きいほ ど期間 中の分散 (リスク) も大 きい とい う結果が得 ら れ てい る。長期的には、ポー トフォ リオ理論 が示す とお りハイ リス ク ・ハイ リター ンの関係 が成 立 していることが確認 され てい るのである6。 この結果か ら、長期的な経 済関係 が景気循環 にも影響 を与 えていると考 えれ ば、ある地域の分析 期 間中の分散が小 さい時、経 済成長率 も低 い と考 え られ るため、地域景気は全国に対 して遅行す る と予想 できるであろ う。すなわち、長期的な経済 を規定す る関係 が各循環の景気循環 に影響 を及 ぼ してい るか ど うか を調査す る。 そ こで、期 間中の経済成長率の分散が大 きい (小 さい)地域は、地 域景気が先行 (遅行) Lやすいか、期間中の成長率が高い (低い)地域 は景気の先行 (遅行)地域 か を確認す る。 4- 2 産業間の成長率の共分散 と地域経済の安定性 景気循環理論や他 の経 済理論 では、 (経 済成長率の)分散 は不安定性 を示す指標 と して扱 われ て きた。 た とえば、Lucas (1987)の方法 を応用 した CampbellandCochrance (1994)は、所得 の変 動 に よって、消費者 は非常 に大 きい厚生上の費用 を負担 してい ることを示 してお り、分散 を景気循 環の コス トとして捕 らえてい る。 これ に対 して、安藤 ・中村 (2004)では、経済成長率 を産業別 の成長率の加重平均であると考 え るこ とで、経済成長率の分散 を産業構成 の多様性 の程度 を示す指標 と して解釈 した。産業の多様化沖縄大学法経学部紀要 第 11号 が経済の安定性 に寄与す ることは、地域経済学の分野で多 くの研 究がな され てい る (Kort (1981)、 wangerand °eller (1998)等)。 Chandra (2002、2003)や安藤 ・中村 (2004)等 の地域 のポー ト フォ リオ理論 に基づ いた研 究では、 (金融の) ポー トフォ リオ理論 か ら得 られ る分散 の式が、各資 産収益率の 自己分散 と資産 間の共分散 に分解 され ることに着 目した。 ポー トフォ リオ理論 を地域 の ポー トフォ リオ理論 に置 き換 えると、各産業の成長率の加重平均 として捕 らえ られ る経済成長率の 分散は、各産業の成長率の 自己分散 と各産業の成長率の共分散 に分解 できることにな る。 産業成長率間の共分散の値が負 で大 きいほ ど、相互 に不安定性 を打 ち消 しあ うよ うな産業の多様 性が存在す ると考え られ る。すなわち、産業相互の成長率が地域 全体で補完的に機能 しあっている と解釈 でき、地域経済が多様 な産業 を有 している と考 えるのである。 中村 ・安藤 (2004)では、1990年か ら2000年度の47都道府 県のデー タを用 いて、毎年 の成長率の 平均 とその標準偏差の関係 、産業成長率間の共分散 と標 準偏差の関係 、共分散 と成長率の平均の関 係 を明 らかに している。 まず、 この時期 に成長率平均 と標準偏差は係数 の有意性 は微妙 である し、 決定係数の値 も低 いため、明確 な結論 は出せ ないが、負 の相 関の傾 向は示 していた。次 に産業成長 率間の共分散 と標準偏差は正の有意 な相関が得 られ てい る。す なわち、共分散が小 さい値 (負 に) になるほ ど標準偏差が小 さくな り、産業の多様性が経済変動 を小 さくしていることが示 されている。 最後に、共分散 と成長率平均の関係 は負 の有意 な相 関にな り、産業の多様性 が成長率 を高めるのに 寄与 していることが示 され てい る。 多様 な産業の存在 は、経済の どの よ うな需要 ・供給 シ ョックに対 して も直 ぐに対応 可能 にす るた め、成長率の (分析)期間中の分散が小 さくな り、長期的に見 る と成長率 も高まる と考 え られ るで あろ う。す なわち、産業の多様性 が経済変動 を小 さくし、経済成長率 をも高 める作用がある場合 、 多様 な産業が存在す る (存在 しない)地域の分析期 間中の分散 は小 さく (大 き く) な り、平均成長 率は大き く (小 さく)なるはずである。 も し景気の各循環 で もこの関係 が成立 していれ ば、各循環期間中の成長率の分散が小 さく平均成 長率が高い地域は どんなシ ョックで も直 ぐに吸収で きる多様性 を有 してい る と考 え られ るため、景 気が遅行 しに くい と考 え られ る。そ こで経済成長率の循環期 間中分散が大 き く平均成長率が低い時 に景気が遅行 Lやすいかを確認す る。 4- 3 経済成長論 か らのアプローチ SolowrSwanモデルや Ramseyの最適成長理論か ら得 られ る重要 な性質 として次 の 2つの傾 向が あ る。 国内各地域の経済成長率の絶対的収束及び地域間の所得の分散の適時的低下である。絶対的収 束 とは、初期時点で所得水準が低 い地域 (県)の平均的な経済成長率は、所得水準が高い地域 のそ れ よ りも大き く、いずれ どの県 もほぼ共通 した 1人 当た り所得水準 (定常状態) に収束す る とい う 傾 向である。 この絶対的収束が成立す る条件 は、各地域 の 1人 当た り定常所得水準がほぼ同一であ ることである。 具体的には、1人 当た り定常所得水準 を規定す る貯蓄率、生産技術 、人 口増加率が 各地域 で同一 で ある こ とが絶対的収束の前提条件 で あ る。 Barro and Sala-i-Martin (1991、 1992) の実証研究に よる と、 日米欧の各国で、経済構造が似 てい る地域経済では絶対的収束が成 立す るこ とが確認 され てい る。 図 1では、1956年か ら2002年 までの期 間で沖縄 を除 く46都道府 県の絶対的収 束 を示 している。縦軸は この期間の平均経済成長率であ り、横軸 は1956年時点の 1人 当た り実質県
平均成 長率 (%) 5.55
◆
6∫
′
J
V=-1.039×十 13.341 4.54 3.35◆
◆◆
◆ ◆
R2=0.4989◆
◆
◆◆
◆
◆ ◆◆
◆ ◆
◆
◆
◆
◆
●
◆
◆
●
◆
8 8.2 8.4 8.6 8.8 9 9.2 9.4 9 図1 日本 における地域経済の絶対的収束 地域間の1人当た り県 内実質GDP(対数値) の分散 0.3 0000...0052才1..05521 ー ●ー-′\一
一
十一
\
_ 図2
地域間の所得水準の分散の推移 内GDPの対数値 である。 図1か ら、期間 中の平均成長率は、 1956年 の初期時点で所得水準が低 い 県 ほ ど大 きい ことが読み取れ る。 一方 で、Solow-Swanモデルや Ramseyの最適成長理論 か ら、地域間の 1人 当た り所得 (対数値) の分散 が通時的に低下す るな らば、絶対的収束が成立す ることが知 られてい る。更に、初期の地域 間分散 が定常状態の分散 よ りも大 きい時、地域 間の所得 の分散 の低下 と絶対的収束は必要十分で成 立す ることにな る。 実際 に、 日米では、適時的 にクロスセ クシ ョンの分散が低下傾 向にある し、絶 対的収束 も成 立 してい る。 図2は、1人 当た り実質県内GDP(対数値) の地域 間の分散の推移 で ある。期間 を通 じて地域 間の所得 の分散が低下傾 向にあることが示 されてい る。各地域の所得水準 が定常状態 に収束す るにつれ て、地域 間の所得分散が小 さくなってい く様子がわか る。 以上の成長理論 の結果か ら、地域間 (クロスセ クシ ョン)の所得 の分散が大 きい時期は、各地域 の景気 は全国景気 に対 して均一に推移 してお らず、全国景気 に対 して先行 または遅行が発生 しやす い と予測 できるであろ う。 そ して、絶対的収束 とクロスセ クシ ョンの分散の適時的低下が成立す る 日本 では、先行 ・遅行 の散 らば りは小 さくなってい ると予想 できる。 そ こで、先行 ・遅行の散 らば りが、地域 間の所得 の分散 と正の相 関を有す るか ど うかを確認す る。沖縄大学法経学部紀要 第11号
4-4
景気の遅行 と所得格 差 大都市圏 に対す る地方 の景気水 準の悪化 を景気 の遅行 と錯 覚 してい るのではないか、地方 の景気 問題 は 「景気 の水 準」の方が重要 ではないか、 とい う主張が多いた め、実際 に、景気 の遅行 具合 と 所得水準の相 関関係 を調査す る ことは、事 実確認 の第一歩 と して重要 な作業 で ある。 まず 、 2地域 間での景気 の先行 ・遅行 と所得格差 の関係 を考 えるた めに、2地域 間の経 済成長 率格差 を導入す る。 2地域 間の経 済成長率 の差 は、 2地域 間の (正規化 され た) 1人 当た り所得格 差 の変化率 に同値 変形 が可能 であ る。Y-を地域1(大都 市圏)の所得、Y2を地域2(地方圏)の所得 とす るOまた、N】 を地域 iの人 口と し (i=1,2)、人 口は一定 と仮 定す る と、 2地域 間 の経 済成 長 率格差 は (2)式 の よ うに同値変形 され る。丸
/yl- i;2/Y;>0く
≒
功
/
x>
0. (2) ここで x≡ (y,-yZ)/(nJyJ+ n2yL,),yF Y,/N,,D,-NJ
/(N.+N2) で あ る。右側 の不等 号は正規化 さ れた 1人 当た り所得格 差 の変化率で ある。 一方 で、図3よ り、全 国の谷 の時点 での地域1(大都 市 圏) に対す る地域2(地方) の景気 の遅れ は、2地域 間の経 済成長 率格差 がプ ラスの状態 で表す こ とができる。 したが って、 (2)式 よ り、全 国の谷 で地域 2 (地方) の景気 が遅行す るこ とと、地域 間の所得格差 が拡大す るこ と (右辺が正) は同値 で ある事 がわか るOこの経済成長率格差の同値変形式か ら、谷で景気が遅行す る地域 は、景気が遅行 しない地域 と比 べて所得 が低 い ことが示せ るはずである。そ こで、景気の遅行地域 と所得 の関係 を調査す ることに す る。
先行研 究では、FujitaandTakahashi(1992) が、lS-LM モデル を銀行 の貸 出市場が中心地域 と 周辺地域 で分断 され ている2地域のモデル に拡 張 し、 2地域間の所得格差 と財政 ・金融政策の効果 を各景気局面 で分 けて分析 してい る。彼等のモデルか ら、景気局面 と都道府 県間の県内
GDP
成長 率の分散 に関 して以下の ことが示 され た。 クロスセ クシ ョンの県内GDP
成長率の分散は、 シュン ペー ターの 4局面でい う好 況期 の後退局面で大 き くな り、不況期 の回復局面で小 さくな る7。 シュ ンペー ターの後退局面で分散 が大 き くな るとい うことは、 この時期 に都道府県間の経済成長率格差 が拡大す る とい うことであ り、 この ことは、 (2)式か ら所得格差が拡大す ることを意味 しているの である。 彼等のモデルでは、経済主体 の最適化 を前提 としていない こと、景気拡張期 と後退期の定義が通 常の定義ではない こと、お よび 中心地域 と周辺地域 で財政 ・金融政策の感応度 の違いを仮定す るこ とに よって、各景気局面での地域間の所得格差 を発生 させ てお り、経済の内生的 メカニズムによっ て地域格差が説明 され ていない こと等の諸問題 があ り、理論モデル として多 くの課題 を抱 えている。 また、実証的 に も、都道府 県間の県内GDP
成長 率の分散の推移 を景気局面 ごとに大まかに確認 し ているだけで、実際に彼等のモデルが予言す る通 りに、シュンペー ターの後退局面において、中心 地域 (大都市圏)の成長率の方が周辺地域 (地方圏)の成長率 よ りも高 くなってい るか (または所 得格差が この局面で拡大 してい るか) は調べ られ ていない。 そ こで、本稿 では、全国の山の時点 と谷 の時点 で各地域 の所得水準 (1
人 当た り県内実質Cr
)
P
の対数値) と景気の先行 ・遅行度合 いを直接回帰す ることで、所得水 準の高い地域 (大都市圏) と 低 い地域 (地方圏)の景気の進行具合 を実際に調べ ることができるのである。 5 実証結果 地域景気 の先行 ・遅行 の度合 いは、表 1で記 した各地域 ・循環毎の平均的な先行 ・遅行度 を利用 す るD ただ し、本節 の分析 では、各地域の平均値 を少数第2位 で四捨五入 し、その結果の数値 を整 数 にす るために、 1未満 の数値 は切捨 ててい る。先行 ・遅行度合 いは、地域の景気が全国景気に対 し先行 (遅行) していれ ば、その先行 (遅行)月数 で表 され る (3ケ月先行 な らば- 3、5ケ月遅 行 な らば 5)。 また、 どの推定結果 も分析期 間は1973年 1月∼2002年 12月である。5- 1
地域景気の先行 ・遅行 と所得、平均成長率、分散の関係 最初の分析 では、この地域毎の先行 ・遅行月数 を被説明変数 に し、前節 で概観 した域内所得水準 (l人 当た り域内実質GDPの対数値)、各循環 中の域内生産指数平均成長率、各循環 中の域内生産 指数標 準偏差 を説明変数 とす るS。 まず 、多重共線性 の問題 を避 けるため、説 明変数間の相 関を調べ る。平均成長率の上昇は将来の 所得水 準 を上昇 させ るであろ うが、本節で扱 う対数値 の県内CDP
と平均成長率 に関 しては、両方 とも各循環 内の数値 であるため、明確 な相 関関係 は無い。一方で、生産指数の各循環の平均成長率 と標 準偏差に関 しては、4-1
で解説 した よ うに、長期的 には正の相 関関係 が存在す るよ うである沖縄 大学法経 学部紀要 第11号 表 9 生産指数の平均成長率 と (各循環の期間中)標準偏差の相関 1 プールデータ 被説明変数 :生産指数平均成長率 係 数 標準誤 差 t値 定数 項 1.165572 0.89543 1.30169 生産指数標 準偏 差 0.827111 0.579056 1.428378 自由度修正 済 み決 定係 数 0.018563 表10 生産指数の平均成長率 と (各循環の期間中)標準偏差の相関2 固定効果 被説明変数 :生産指数平均成長率 係 数 標準 誤 差 t値 定数項 生産指数標準偏 差 0.646335 0.610267 1.059103 0138927 2.361939 2.391673 1.897517 1.382868 1.209816 0.671421 1.306262 が、期間 を縮小す る と、その関係 (符号条件や決定係数) は不安定な ものになった。 また、4-2 の説明では、平均成長率 と標準偏差 は負 の相 関を持つか も しれ ない。 そ こで生産指数 の平均成長率 と標準偏差の関係 を表 9、 10にま とめた。係数 の符号は正であ り、長期的関係 が成 立 しているよ う であるが、プールデータでも固定効果でも係数 は有意でな く決定係数 も低い ことがわか る。 したがっ て、両変数の相 関は強 くは無い よ うである。 この時点で、4-1や 4-2で想定 され た、分散が成長 率を通 じて景気の先行 ・遅行 に与 える影響 は少 ない と考 え られ るが、念 のため、説 明変数 に入れて お くことにす るO 本稿では、地域 景気の先行 ・遅行度合 いを左右す る各地域 ・各循環 に共通 した要因 (所得や分散 等)が存在す る と仮定 し、推定を行 う。 ところが、地域 ごとの景気の進展具合 を調査す るのである か ら、推計す る際に各地域 による違 いを考 える必要 もあるであろ う。 したがって、全 て固定効果 で 推計 を行 う。 表11は谷にお ける推計結果 である。谷において景気の遅行 を説明 してい る変数 は、域 内所得 と域 内平均成長率であ り、域 内生産指数 の期間中分散は有意 でない ことがわか る。 また、符号条件 は域 内所得 も域内平均成長率 も負 であることか ら、所得や成長率が低いほ ど遅行度合 い (遅行月数)が 大きい ことが示 され る。表 12は山にお ける推定結果である。 山では どの変数 も有意 ではない。 山に おける地域景気 の先行 ・遅行 を (谷 と比べ る と) どの変数 も説 明できない とい うこ とは、 山では、 所得水準 (も しくは平均成長率)が高い地域 で も所得水準 (も しくは平均成長率)が低 い地域 で も 景気の進み具合 はほぼ同 じであることを示唆 している。 この結果 は、 2節 の記述統計で も確認 され ている。大都市圏 と地方圏に分 けて先行 ・遅行確率 を見 る と、山では (谷 と比べ る と)両圏の差異
表11 各循環の谷 における地域別分析1 固定効果 被説明変数 :目付か ら導出 した全国景気 に対す る先行 ・遅行度 係 数 標 準誤 差 t値 各循環 の全 国谷 にお け る1人当 た り域 内実質GDP (対数値) -6.97871 2.110179 -3.30717 域 内生産 指数 平均成 長率 -0.51967 0.149946 -3.46571 域 内生産 指数標 準偏 差 -0.7965 0.469955 -1ー69485 北海道 74.91226 東 北 75.29551 関東 77.03505 東海 77.23876 近 畿 76.27711 中国 77.28604 四 国 76.51803 九州 74.01613 決 定係 数 0.402092 自由度 修 正済 み決定係 数 0.269224 回帰の標 準 誤 差 1.786977 誤差 の2乗 和 143.6979 表12 各循環 の山における地域別分析1 固定効果 被説 明変数 :日付 か ら導 出 した全国景気に対す る先行 ・遅行度 係 数 標 準誤差 t値 各循 環 の全 国 山 にお け る1人 当 た り域 内実質GDP (対数値) -0.8665 2.096078 -0.413389 域 内生産 指数 平均成 長率 -0.24031 0.157816 -1.522746 域 内生産 指数標 準偏 差 -0.03646 0.415317 -0.087795 北海道 8ー845787 東 北 9.298752 関東 10.05899 東海 10.7732 近畿 8.92314 中国 10.38499 四国 10.51544 九 州 9.487729 決 定係 数 0.215565 自由度修 正 済 み決 定係数 0.041246 回 帰 の標準誤 差 1.790691 誤 差 の2乗和 144.2956 タービンワ トソン比 2.623391 はあま り存在 しなか った。 最後 に、山で も谷 で も生産指数の期 間中の域 内標準偏差は地域景気 の遅行 を説明できていない と い うことは重要であろ う。先行研 究で景気循環の コス トや地域経済の不安定性 の尺度 として扱われ てきた期間中の分散 と地域 景気の先行 ・遅行 の間には、直接 の関係 が存在 しないのである。
沖縄 大学 法経 学部 紀 要 第 11号 表 13 各循環 の谷 における地域別分析 2 固定効果 被説 明変数 :日付 か ら導 出 した先行 ・遅行度 の標 準偏 差 係数 標準誤差 t値 各循環の全国谷におけるク口 26.37951 9.091382 2.901595 スセウシ∃ンの1人当た り県内
G
DP
(対数値)の標準偏差 北海道+東北 0.335727 東北 0.143431 関東 -5.631779 北陸 .静岡 0.752899 東海 -2.386954 近畿+中国 -1.921397 中国 -0.483646 四国+中国 -0.45129 九州 -0.136541 決定係数 0.182546 自由度修正済み決定係数 0.043733 回帰の標準誤差 1.122276 誤差の2乗 和 66.7537 ダービンワ トソン比 2.796308 表14 各循環 の山 における地域別 分析2
固定効果 被説 明変数 :日付 か ら導 出 した先行 ・遅行度 の標 準偏差 係数 標準誤差 t値 各循環の全国山におけるク口 -18.1419 6.584 -2.755444 スセクションの1人当たり県内GD
P
(対数値)の標準偏差 北海道+東北 3.771586 東北 3.667573 関東 7.427863 北陸 .静岡 3.393352 東海 3.968624 近畿+中国 5.023736 中国 4.133165 四国+中国 3.948991 九州 3.767715 決定係数 0.220323 自由度修正済み決定係数 0.087925 回帰の標準誤差 1.079442 誤差の2乗 和 61.75539 タービンワ トソン比 2.009929 5- 2 クロスセ クシ ョンの先行 ・遅行月数 の散 らば りとクロスセ クシ ョンの所得 の散 らば り 次 に、 ク ロスセ クシ ョンの景気 の先行 ・遅行 月数 の分散 と、 クロスセ クシ ョンの所得 の分散 の関 係 を分析す る。 景気基準 日付 か ら導 出 した各循 環 の谷 (または 山) の各 県の先行 ・遅行度 (月数 ) か ら、ク ロスセ クシ ョンの先行 ・遅行度 の標 準偏差 を地域 ご とに求 めた。 ク ロスセ クシ ョンの所得 の散 らば りに関 しては、各循環 の谷 (または山) の年 の、 クロスセ クシ ョンの 1人 当た り県内実質GDP(対数値)の標 準偏差 を地域 ごとに求めている9。 4-3の成長理論 か ら、地域 間の所得 の分散が大 きい時期 は、各地域 の景気 は全国景気 に対 して 均一 に推移 してお らず、全国景気 に対 して先行 または遅行 が発生 しやすい と予測 できるであろ う。 そ して、絶対的収束 とクロスセ クシ ョンの分散の通時的低下が成 立す る 日本では、先行 ・遅行月数 の散 らば り具合 は小 さくなってい る と予想 できる。 そ こで地域 間の先行 ・遅行の散 らば りが、地域 間の所得 の分散 と正 の相 関を有す るか ど うか を確認す る。 表13、14はそれ ぞれ谷 と山にお ける結果 である。谷では、地域間の所得の散 らば りと先行 ・遅行 月数 の散 らば りは正の相 関関係 があ り、地域間の所得の散 らば りが大きければ、景気 の進み具合 も 全 国一様 でない ことがわか る。一方 、山では、両者 に負 の相 関関係 が認 め られ る。谷では、予想通 りの結果が得 られたが、山での負 の相 関は今後の課題 として残 ることになる。 いずれ に して も、決 定係数 は両方 とも低 いので、限定的な結論 になる。 6 結論 本稿 では、地域景気の全国景気 に対す る遅行 ・悪化 を分析 した。 ポー トフォ リオ理論を基に地域 経済 を分析 した研 究や、地域 の経済成長の収束 に関す る実証研 究か ら、全国景気 に対す る地方景気 の先行 ・遅行 と、所得水準や経済成長率の分散 との間に どの よ うな関係 が存在す るかを検討 した。 具体的には、分析期間中の経済成長率の分散 は地域景気の先行 ・遅行 を説 明できなかったが、景 気 の谷 にお ける地域 間の 1人 当た り県内GDPの分散 と地域 間の景気 の先行 ・遅行の分散 には有意 な正の相 関関係 が存在す ることが明 らかになった。更に、 2地域間の経済成長率の差が 2地域間の 所得格差の変化率に還元できることに注 目した分析 も行 った。その結果、経済 (所得)水準 と地域 景気 の遅行 には有意 な負 の相 関関係 が存在 し、所得水準が高い大都 市圏 と低い地方圏を比べ ると、 地方圏の遅行確率が高まることを示 した記述統計や プ ロビッ ト分析の結果 とも一致 した。 残 され た課題 として次の2点が考 え られ る。第1に、谷 にお ける景気の遅行 と所得水準に負の相 関が存在す る とい うことの経済学的な理解 である。谷 にお ける景気の遅行が所得 を低下 させ るのか、 それ とも低所得 (低 い経済活動の水準)が谷 にお ける景気 の遅行 をもた らすのか、を検討す る必要 がある。第2に、理論モデルか ら2地域間の経済成長率格差 を求めることができれば、谷における 地方景気 の遅行原 因、及 びその影響 を社会厚 生の観 点か ら分析 が可能 にな るであろ う。 このため、 2地域の景気変動モデル を構築す る必要がある。 注
*
沖縄大学法経学部 [email protected] l 筆者が内閣府作成の資料 を元に、各道府県に問い合わせ、回答が得 られ、利用可能な資料であっ た2
8
道府 県 (近畿地域の 日付 を含む)についての景気基準 日付で分析す る。回答が得 られなかっ た県の未公表理 由は不明である。デー タの欠損部分がある ところは、先行 も遅行 もな しとして 計算 してい る。 また近畿版 の 日付 は大阪府立産業開発研究所 が作成 した ものであ り、四国で 目 付 を作成 してい るのは香川県のみである。 2 残念 なが ら東京 、千葉 、埼 玉が 日付 を作成 していないため確認 が困難 だが、一国の景気基準 日 付 は経済規模 が大 きい関東 の主要都 県に大 き く依存 してい ると予想 され る。 したがって、多 く沖縄 大学法経 学部紀要 第11号 の地域 ・循環 で、全国 に対 して遅行す る結果 となってい ることに注意 され たい。 3 近畿は遅行確 率が高 いが、表 1よ り、全循環平均 の遅行 月数 は、地方 の各 地域 よ りも小 さいo Lたが って、実質上 の遅行 の程度 は、地方 よ りも低 い と予想 され る。
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1994年以前 は中部 の生産指数 のデー タを利 用 してい るO以 下の分析 も同様 であ る。 また、各循 環 の生産指数は、各時代の基準年 で評価 した ものである。平成12年基準 での接続 は していない。 5 本稿 では、 どの地域 ・どの期間の分析 で も生産指数 の谷 と比べて大 き く各地域 が先行 している。 これ は、景気基 準 日付 では3ケ月前比のデー タ (生産指数等) で 日付 を決定 してい るのに対 し て、モデルの説 明変数 の生産指数 は前年 同月比のデー タ を利用 してい るためであ る。 前年 同月 比の生産指数 を3ケ月前比 に修 正 し分析 しなおせ ば、異様 な先行 は消滅す る。 重要 なの は先行 の具体的な月数 ではな く、各地域 の相対 的な位 置 であ る。 6 ただ し、期 間を短縮 して回帰す る と、 この正 の相 関関係 は不安定 にな り、負 の相 関が現れ る こ ともあれ ば、係 数 が有意 でな く決 定係 数 の数値 も小 さ くな る傾 向が観 察 され てい る。 特 に、 1990年代 での分析 では負 の相 関に近 い状態 で あ るこ とが示 され てい る。 7 通常の景気拡 張期 (後退期) は谷 (山)か ら山 (谷) までで定義 され るが、 この論 文では シ ュ ンペ ー ター流 の定義 (あ る所得水 準 よ りも上方 (下方 ) に経 済が あ る時 に好 況期 (不 況期 )) で分析 を行 ってい る。 8 東海地域 に関 して、 日付 のデー タは全期 間で東海3県版 であ るが 、生産指数 のデー タは 1994年 以前は中部版 で分析 してい る0 9 近 畿地域 は近 畿版 日付 で分析 して い るた め、近 畿 の各府 県 の先行 ・遅行 月数 の散 らば り具合 (標 準偏差) を求 め るこ とが で きなか ったO 同様 に北海道 、 四国 (香川 のみ の 日付 で分析 ) も 先行 ・遅行月数の域 内標 準偏差が求 め られ ない。 そ こで、北海道 と東 北 を合 わせ た標 準偏差 、 東北のみ の標 準偏差 、近畿 と中国 を合 わせ た標 準偏差 、 中国のみの標 準偏差 、 四国 と中国、 中 国のみ 、 と各地域 を組 み合 わせ てい る。 日付 の標 準偏 差 に対応 して 、県 内GDPの地域 ご との 標 準偏差 も 日付 と同様 の地域 で導 出 してい る。 参考文献 安藤 浩一 ・中村 良平 (2004) 「地域 経 済 の成長 と安 定 一多様性 との 関連 -」地域 政策研 究 vol.13 日本政策投資銀行地域政策研 究セ ンター. 田原 昭四 (1983)『景気変動 と 日本経 済』 東洋経済新報社 . 田原 昭四 (1998)『日本 と世界 の景気循環』 東洋経 済新報社 . 原 田信行 (2003) 「景気指標 としての株価 」『景気循環 と景気予測』 浅子和美 ・福 田慎 一編 東京 大 学 出版会 第9章,233-256頁. EconomL'cAcEl'vL'tyi,pp.107-182.Barro,RJ.andX.SaLa-I-Martin(1992)."convergence,"JoumalofPoll'tl'calEconomyloo,pp.223-251, Campbell,J.and∫.Cochrance (1999),``ByForceofHabit:A Consumption-BasedExplanation or
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