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高度の脊柱後弯症を併存した下部直腸癌に対しての腹腔鏡下腹 会陰式直腸切断術の経験

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Academic year: 2021

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高度の脊柱後弯症を併存した下部直腸癌に対しての腹腔鏡下腹

会陰式直腸切断術の経験

榎田 泰明 ,富澤 直樹 ,岡田 拓久 ,清水

尚 ,荒川 和久 ,安東 立正

1 群馬県前橋市朝日町3-21-36 前橋赤十字病院消化器病センター外科 要 旨 脊柱後弯症 (円背)は,加齢に伴い椎体骨の圧迫骨折や変形,筋力低下などによって生じるといわれている.今回我々は,高 度の脊柱後弯症を併存する高齢者の下部直腸癌症例に対して腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術を行った 1例を経験したので, 文献的 察を加えて報告する. 【症 例】 88歳, 女性. 血 と頻 を主訴に当院を受診した. 高度の脊柱後弯症を認めた. 術前診断は下部直腸肛門管癌 (adenocarcinoma)cT3 cN0 cM0 cStage であった.高度の円背により肋骨弓と骨盤が近接し ており, 開腹手術による骨盤底へのアプローチは困難と判断した. 術前シミュレーションを行ったところ気腹により鉗子の working spaceが確保でき, 可変式カメラの恩恵で視野制限が緩和されると予想し, 腹腔鏡下手術の方針とした. また, 術前 のシミュレーションにおいて, ダグラス窩が腹側へ変位していたため腟後壁との剥離操作は会陰側から行う予定とした. 陰 圧式固定具 (マジックベッド)を用いて上半身を挙上した状態で固定し,載石位で手術を行った.脊柱後弯症に伴い肋骨弓が 腹腔内に突出しており,working spaceが狭く小腸の排除は困難であったため,病期・年齢を 慮して下腸間膜動脈根部周囲 の郭清は省略した. 直腸の背側と側方の剥離操作は良好な視野で行うことができた. 腟後壁と直腸との剥離操作は会陰側か らの操作を主に行った. 術後経過は良好で, 合併症なく術後 24病日に自宅退院した. 脊柱後弯症を併存する高齢者患者にお いて, 腹腔鏡下手術は有用な手段となりうる可能性が示唆された. はじめに 脊柱後弯症 (円背) は高齢者の骨粗鬆症や変形性脊柱症 に伴って見受けられ,working spaceの狭さにより手術操作 が困難である. 今回我々は高度の円背を有する高齢者の下 部直腸癌に対して腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術を行った 1 例を経験したので, 文献的 察を加えて報告する. 症例 患 者:88歳, 女性. 主 訴:頻 , 血 . 既往歴:不妊手術の既往あり (詳細不明) 現病歴:1か月前から頻 症状が出現. 数日前より血 を 自覚したため来院した. 来院時現症:身長 150 (推定) cm, 体重 31 kg. 意識清明, 体 温 36.6度,血圧 129/80 mmHg,脈拍 80回/ ・整.高度の脊 柱後弯症を認めた (Fig.1). 仰臥位で恥骨上端と剣状突起 との距離は約 7㎝と近接していた. 直腸診では直腸 Rbに 前壁から右側壁を中心とする隆起性病変を認め, 腫瘍は右 側で肛門周囲皮膚まで進展していた. 入院時検査所見:白血球は 12,500/mm , 血色素量 14.1 g/ dl,CEA 85.6 ng/mlと高値,CA19-9 28 U/mlであった.随

文献情報 キーワード: 脊柱後弯症, 円背, 亀背, 腹腔鏡手術, 直腸癌 投稿履歴: 受付 平成29年1月31日 修正 平成29年3月7日 採択 平成29年3月9日 論文別刷請求先: 榎田泰明 〒371-0014 群馬県前橋市朝日町3-21-36 前橋赤十字病院消化器病センター外科 電話:027-224-4585 E-mail:enokinoko111@gmail.com

症例報告

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時血糖は 419 mg/dl, HbA1c(NGSP)11.6%と高値であった. 下部消化管内視鏡検査:直腸 Rbに前右壁を中心とする 3/4周性の 2型腫瘍があり, 辺縁は肛門周囲皮膚へ進展し ていた (Fig.2). 病変部からの生検では Adenocarcinoma (tub1) であった. 胸部-骨盤部造影 CT 検査:下部直腸に造影効果のある病 変 (矢印) を認め, 腟後壁との境界が一部不明瞭であった. 所属リンパ節や鼡径・側方リンパ節の腫大なかった. 遠隔 転移を認めなかった. (Fig.3) 呼吸機能検査:1秒量 91%, %肺活量 67% (肺活量 1,360 ml) と, 軽度の拘束性障害を認めた. 入院後経過:強化インスリン療法による血糖コントロール と, 術前リハビリを行い手術治療の準備を行った. 術前診断と治療方針:以上より下部直腸肛門管癌 (RbP 2 型 cT3 cN0 cM0 cStage ) の診断で手術適応であった.著 明な脊柱後弯症による低位肋骨弓があり, 開腹手術による 脊柱後弯症を併存した下部直腸癌の 1例 Fig.1 術前 立位像 Fig.2 下部消化管内視鏡検査 直腸 Rbに前右壁を中心とする 3/4周性の 2型腫瘍があ り, 辺縁は肛門周囲皮膚へ進展していた. Fig.3 体幹部造影 CT 検査 下部直腸に造影効果のある病変 (矢印)を認めた.所属リ ンパ節や鼡径・側方リンパ節の腫大や遠隔転移なし. Fig.4 術前 CT 画像シミュレーション Fig.5 手術時体位 陰圧式固定具を用いて上半身を挙上した状態で固定. 下 肢はレビデーターを用いて固定. 頭低位の際の頭側への ずれを予防するために両肩と陰圧式固定具各々を体位固 定具でベッドに固定.

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骨盤腔へのアプローチは困難と判断した. 術前の画像シ ミュレーション (Fig.4) を行い, 鏡視下手術は気腹による 腹壁挙上により working spaceが確保でき, 可変式カメラ により視野制限が緩和されると判断した. 腫瘍切除が困難 な場合には人工肛門造設のみを行うことについても十 説 明したうえで腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術を提案した. 下 部直腸の剥離操作は骨盤腔の腹側への変位のために困難と 想定し, 会陰側から下部直腸の剥離操作を行う予定とした. 手術所見 : 手術は全身麻酔下, 載石位で行った. 高度の脊 柱後彎症があり, 腹部の進展は困難であったため陰圧式固 定具 (マジックベッド) を用いて上半身を挙上した状態で 固定した. 下肢はレビデーターを用いて固定した. 頭低位 の際の頭側へのずれを予防するために両肩と陰圧式固定具 各々を体位固定具でベッドに固定した (Fig.5). 剣状突起 と恥骨上端は 7㎝と近接していた. 臍部よりオープン法で 腹腔内に到達し, 5ポートで手術を行った (Fig.6A). 左右 の肋骨弓と腸骨が近接しており上下のポート間距離を確保 することが困難であった. 頭低位・右下位で手術を行った. 子宮体部を直針で刺通・挙上した. (Fig.6B) 円背に伴い肋 骨弓が腹腔内に突出しており小腸の排除は困難であった が, 肋骨弓の背側に小腸を差し込むように展開することで 骨盤内の小腸を排除することができた (Fig.6C). S状結腸 は内側アプローチで授動を行った. しかし, 小腸の除去が 困難であり下腸間膜動脈根部へのアプローチは行うことが できず年齢・解剖学的理由から D 2程度の郭清範囲とした. 術前画像検査において右側前方に優位の腫瘍であったた め, 直腸左側と背側では骨盤底筋が露出するレベルまで授 動を行った. 脊柱後弯の影響で直腸子宮窩は腹側へ偏移し ており腟後面と直腸前面の剥離操作は困難であったため, 術前の計画通り会陰操作に移行した. 会陰側からは腫瘍の 浸潤のない左後方で腹腔内と連続させた. その後, 右側か ら前壁へと周囲組織との切離を行うことで, 標本を摘出し た. 腹腔内操作でドレーンの挿入と, 単孔式ストマ作成を 行い手術終了とした (Fig.6D).手術時間は 4時間 21 ,出 血量は 136 mlであった. 病理組織所見:直腸癌, RbP, 2型, pT3 pN0 M0 H0 P0 pStage , PM0, DM0, RM0. 術後経過:術後の低体温のため抜管せず集中治療室に入室 し, 手術当日に抜管した. 術後 2日目に食事開始. 術後には 合併症を認めなかった. ストマケアの指導を行い, 術後 24 病日に自宅退院した. 術後 4か月経過した現在, 再発の兆 候を認めていない. 察 脊柱後彎症は高齢者に多く見られ, 有病率は 20∼40%と されている. 骨粗鬆症に伴う椎体骨の圧迫骨折や椎間板の 変性, 腰背筋の筋力低下などが複合的に関与するといわれ ている. 脊柱後弯症の症例に対して腹部手術を行う際には低位肋 骨弓とそれに近接する骨盤壁のために体外および体内の working spaceは狭小化し,視野の制限が問題となる. 脊柱 後彎症の患者に対して腹腔鏡手術を行うべきか否かに関し ては一定の見解が得られていない. 開腹手術は出血や副損 傷への迅速な対応や, 大きな視野展開が可能という点で利 点を有するが, 本症例では胸骨剣状突起から恥骨上端まで が約 7㎝と短縮していたため, 開腹手術では視野の確保が 困難と判断した. 脊柱後彎症の患者では胸郭の圧迫や変形 から呼吸機能障害や心機能障害を伴うことが報告されてい る. 自験例でも術前の呼吸機能検査では拘束性換気障害 を認めており, 周術期の呼吸障害の発生が危惧されたが, 大きな呼吸合併症なく経過することができた. 腹腔鏡下手 術は従来の開腹術に比して術後疼痛が少なく, 呼吸筋への 影響が少ないため術後呼吸器合併症の頻度が少ないとされ

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ており, 自験例のように, 脊柱後弯の症例においても腹腔 鏡手術の利点を生かすことができた. 脊柱後弯症の患者 3 例に対して腹腔鏡下に結腸切除を行ったところ, 全症例に おいて術前の呼吸機能低下を認めたが, 術後合併症なく経 過したと報告されている. それらの症例では, 肋骨弓の腹 腔側への突出により上腹部のワーキングスペースが少な い, 骨盤腔内が小腸で満たされてしまい, 骨盤内操作が困 難であるなどの問題点が挙げられており, 本症例と腹腔内 所見や術中操作の困難性は類似していた. 脊柱後弯を合併 した直腸癌 (RS) の症例では, トロッカーの挿入範囲の制 限はあるもの気腹により腹壁がドーム状に伸展することで Working spaceは確保され開腹手術よりも視野展開及び低 侵襲性において有用な可能性があると報告されている. 本 症例でも術前シミュレーションにおいて Working spaceの 確保・視野制限の緩和などの利点が えられたため, 腹腔 鏡下手術を選択した. 医学中央雑誌にて,1983年から 2017年の間で『直腸癌』 『脊柱後弯』もしくは『円背』をキーワードに検索したと ころ本邦からの和文報告は直腸 S状部の腫瘍に対して前 方切除を行った田村らの報告 1例のみ であり脊柱後弯症 を併存する直腸癌に対して腹会陰式直腸切断術を施行した 報告はこれまで存在しない. 本症例は肛門管にかかる腫瘍 であり腹会陰式直腸切断術を選択したが, 脊柱後弯症に伴 う骨盤壁の腹側への変位により, 腟後壁と直腸前壁との間 の剥離操作は術前シミュレーションにおいて鏡視下では不 能と判断し, 大部 を会陰操作で行った. 高度の円背が併 存する下部直腸腫瘍症例に対してより精緻な手技が要求さ れる場合には, 近年報告されている TaTME (trans-anal total mesorectal excision) も検討すべき術式であると え られる. 近年進行しつつある高齢化社会において本症例のような 脊柱後弯症の症例に遭遇する機会が増えることと えられ る. 脊柱後弯症患者に対する腹腔鏡手術は狭い腹腔内でも 良好な視野を得ることができ, 下部直腸の腫瘍に対しても 有用な手段の一つとなると えられた. 結語 脊柱後弯症を併存する高齢者下部直腸癌症例に対して腹 腔鏡下腹会陰式直腸切断術を施行した一例を経験した. 開 腹手術では到底アプローチが出来ないと判断した症例であ り, 腹腔鏡下手術を選択した. Working Spaceが狭い, 下部 直腸前壁側の剥離操作が困難という難点ははあったが, 比 較的良好な視野で手術が可能であり, 会陰側からの操作を 併用することで根治術が可能であった. 腹腔鏡下手術は脊 柱後弯症を併存する高齢者患者においても有用な手段とな りうることが示唆された. 文献

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Cancer in a Patient with Severe Kyphosis

Yasuaki Enokida , Naoki Tomizawa , Takuhisa Okada , Hisashi Shimizu , Kazuhisa Arakawa

and Tatsumasa Andoh

1 Department of Surgery, Maebashi Red Cross Hospital, 3-21-36 Asahi-cho, Maebashi, Gunma 371-0014, Japan

Abstract

We report a case of lower rectal cancer in an 88-year-old woman with severe kyphosis treated with laparoscopic abdominoperineal resection. As she had severe kyphosis, tumor excision with laparotomy was difficult owing to narrow working space and limited visual field. Therefore,we planned a laparoscopic abdominoperineal resection after careful evaluation of simulated CT images. During surgery, it was difficult to move the small bowels from the pelvic cavity because of obstruction from the lower limbs. Furthermore,since the Douglas pouch was displaced upwards, laparoscopic dissection between vagina and rectum was difficult,and was therefore,performed from the perineal side. The surgery was performed safely and without any complication. The patient was discharged on postoperative day 24. We conclude that laparoscopic surgery is effective for severe kyphosis patients having rectal cancer. Key words: kyphosis, round back, laparoscopic surgery, rectal cancer, abdominoperineal resection

参照

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