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大学生に対する著作権教育の試み ―基盤教育科目「著作権法入門」を通して―

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Academic year: 2021

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大学生に対する著作権教育の試み

―基盤教育科目「著作権法入門」を通して―

新井 恵美

宇都宮大学教育学部

  Emi ARAI*: Attempt of Copyright Education for University Students. -Through the Introduction of Copyright Law

-Keywords : Copyright Education

 * Faculty of Education, Utsunomiya University   (連絡先:[email protected]) 概要 近年,著作権は我々にとって非常に身近なものとなってきている。知らず知らずのうちに侵害者になっ ていることのないよう,我々は著作権について正しい知識を持つ必要がある。本稿は,学生に著作権につい て知ってもらい,正しく利用できることを目的とし,平成26年度に筆者が開講した「著作権法入門」の実践 を報告するものである。  キーワード:著作権教育 1.はじめに  著作権といえば,かつては出版や放送等を業とし て行う人,または小説家やミュージシャン,写真家 などの,いわゆるプロのためのものと捉えられてい た。しかし,近年,インターネットの普及やグロー バル化の進展により,著作権をはじめとする知的財 産権がより身近なものとなり,その重要性は高まっ てきていると言える。中学校及び高等学校学習指導 要領のいくつかの教科に知的財産権に関する内容が 盛り込まれてきていることからも,そのことは窺え るであろう。  そのような背景を踏まえ,平成26年度より,基盤 教育科目の教養科目として,「著作権法入門」を開 講することにした。社会に出て行く上で,著作権に 関する知識を身に付けることは,今後一層重要にな ろう。また,学生としてもレポートや卒論等で著作 権と関わる機会は非常に多い。その一助として本授 業を活用してもらえれば幸いである。本稿は,初年 度の授業実施の概要と,その効果,課題について述 べるものである。 2.実施  著作権法を講義するといっても,法律を専門に学 んでいない学生にとっては,著作権法の基本書と呼 ばれるものを精読するのは困難であると思われる。 また,学んだ上で効果確認や資格取得につながれば 学生にとっても有益であろうと考えたので,今回は, サーティファイ著作権検定委員会主催の「ビジネス 著作権検定」1)初級に合格できるレヴェルを到達目 標として設定し,そのためのテキストを授業で利用 することにした。いくつか出版されているが,今回 選択したのは,和田宏徳・坂本優『解いて覚える  ビジネス著作権検定 初級・上級 合格テキスト』 第4版(税務経理協会)である。テキストには上級 の内容も含まれ,授業では初級合格を到達目標にし ているが,授業では扱わないにしても上級の内容も 見ることにより,学習が深まると考えた。  授業はテキストに沿って進められたが,学生から 具体例も知りたいという要望が出たため,裁判例, 判例をいくつか扱うことにした。また,毎回2∼ 3問の正誤問題を付したリアクションペーパーを配 付・回収し,学生の理解度確認に努めた。また,そ のリアクションペーパーにはコメントを付し,返却 することで,書かれた学生の質問にも回答するよう にした。  以下,扱った内容ごとに概略等を述べることとする。 (1)ビジネスと法  著作権法は民法の特別法である。そのため,中で も著作権の変動と関係の深い契約について,著作権 と所有権の違いについて,有体物と無体物の考え方 宇都宮大学教育学部教育実践紀要 第1号 2015年8月1日

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についてを扱った。契約については,署名押印,署 名,記名押印,記名の違いが学生にとっては興味深 かったようである。また,著作権の対象は無体物で ある。例えば,著作物である絵画には著作権とその 絵画の所有権があり,絵画という有体物の譲渡が行 われても,その著作権も同時に移転するわけではな い。このあたりが少々難しかったようである。  それから,著作権は知的財産権の一つであるので, それ以外の知的財産権がどのように保護されている のか概観した。 (2)著作物  著作物の定義,著作物の種類,著作権法の保護の 対象とならないものについて扱った。ここでは,ゴ ナ書体事件(最判平成12年9月7日・民集54巻7号 2481頁),ファービー人形事件(仙台高判平成14年 7月9日・判時1813号145頁),交通標語事件(東京 高判平成13年10月30日・判時1773号127頁),西瓜写 真事件(東京高判平成13年6月21日・判時1765号96 頁)を取り上げた。ただ判決の要旨を読むだけでな く,自分だったらどう判断するか,と投げかけてみた。 (3)著作者  誰が著作者となるのかについて扱った。通常は創 作した者が著作者となるが,職務著作と映画の著作 物の著作者については定義が複雑である。この点に ついては丁寧に説明した。ここでは,職務著作の事 案としてRGBアドベンチャー事件(最判平成15年 4月11日・判時1822号133頁)を取り上げた。 (4)著作者人格権  著作者人格権には大きく3つの権利があり,それ らを解説した。ここでは,中田英寿事件(東京地判 平成12年2月29日・判時1715号76頁),ときめきメ モリアル事件(最判平成13年2月13日・民集55号1 号87頁),法政大学懸賞論文事件(東京高判平成3 年12月19日・判時1422号123頁),剣と寒紅事件(東 京高判平成12年5月23日・判時1725号165頁)を取 り上げた。特に,同一性保持権の,意に反する改変 という基準が曖昧だという学生の感想が多かった。 これは事例に即して考えるしかない。あまり細かく 決め過ぎても,新しいものが出てきた場合に対応不 可能になってしまうこともあってこのようにされて いると思われるが,学生にとっては細かくきっちり 決まっている方が良いという考えのようであった。 (5)著作権(著作財産権)  著作権法(以下,「法」とする)第21条から第28 条までの,いわゆる支分権に関する内容である。著 作権者は創作した著作物の種類によってさまざまな 権利を持つことを学習する。これらは著作権者の占 有権であるため,これらを他人が勝手に行うと侵害 行為となる。したがって,非常に重要な項目である。 特に,公衆送信権等については,学生などは特に知 らず知らずのうちに侵害している可能性が多く,注 意が必要な部分である。ここでは,ワン・レイニー・ ナイト・イン・トーキョー事件(最判昭和53年9月 7日・民集32巻6号1145頁),クラブキャッツアイ 事件(最判昭和63年3月15日・民集42巻3号199頁), 中古ソフト事件(最判平成14年4月25日・民集56巻 4号808頁),江差追分事件(最判平成13年6月28日・ 民集55巻4号837頁),どこまでも行こう事件(東京 高判平成14年9月6日・判時1794号3頁)を取り上 げた。特に最後の翻案権の事案は,筆者が音楽を専 門にしていることもあり,両者を受講生の前で演奏 し,比較させた。翻案と言えるか,原曲に依拠して いるかに対する学生の評価は様々であり,大変興味 深かった。 (6)著作権の制限  法第30条から第50条までに規定されている,著作 権の制限に関する内容である。ここに規定されてい るものについては,著作権者の許諾を得ずに利用で きるわけで,利用者にとってもぜひ知っておくべき ことである。多くの条文があるが,特に私的使用の ための複製等,いわゆる「写りこみ」,図書館等に おける複製等,引用,学校その他教育機関における 複製等,営利を目的としない上演等が身近な部分で あるため,重点的に解説する(ビジネス著作権検定 でもこのあたりが多く出題されるようである)。こ れにより,なぜ学校の授業で資料のコピーが配られ るのかが分かったり,レポートを書くときの適正な 引用の仕方を理解できたりするようである。ここで は,モンタージュ写真事件(最判昭和55年3月28日・ 民集34巻3号244頁),国語ドリル事件(知財高判平 成18年12月6日・判例集未登載)を取り上げた。

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(7)保護期間,著作物の利用,登録制度  著作物の保護期間はいつから始まり,いつ終わる のかについて,実名公表か変名あるいは無名公表 かで終期が異なったり,法人の場合はどうか,映画 は50年ではなく70年であることを学習する。映画の 著作物は著作者や頒布権など,特殊な事情も多いた め,このあたりで学生からは「映画って特別なんで すね。」という感想が多く寄せられる。人も時間も お金もかかり,各国との調整もあると伝えるが,な かなか納得がいかないようである。  利用については,権利の変動,利用許諾,出版権 の設定を扱う。テキストにはそれほど多くの記述は ないが,初級でも出題されるため,重要な点を押さ えた。  著作権は無方式主義のため登録は必須ではない が,訴訟が起きたときに有利となることもあるため, このような制度があることを伝え,概略を説明する ようにした。 (8)著作隣接権  著作隣接権はなかなか難しい。実演家のワン・チャ ンス主義など理解がしにくいようだ。「再放送」と いう言葉も,通常我々が使っているものと異なるも のであり,しかもその状況を学生がイメージしにく いもので,理解が困難なようである。しかし,著作 物を伝達するものとしての権利も保障されているこ とは大変重要であり,きちんと理解してもらう必要 がある。 (9)著作権の侵害と救済  これまで授業の中でいろいろな裁判例,判例を扱っ てきた。これらもこの内容と大きく関連する。侵害 の要件と救済措置,刑事罰などについても扱った。 (10)国際条約  我が国の著作権法は,加盟している条約に適合す るよう法整備がされている。他の国とどう調整を 図っているのかも知っておく必要がある。ここで© 表示が出てきて,なぜこのマークが使われているの かの意味を,学生は初めて知るのではなかろうか。 (11)著作権ビジネス  法律だけを追っていても現実と離れていってしま うので,それが社会でどのように利用されているか, 著作物がどのように流通しているかも扱う。テキスト にはポケットモンスターなどが例に挙げられており, 学生も理解しやすかったのではないかと思われる。 (12)その他の事項  ここでは,ソフトウェアの開発・利用,インター ネットをめぐる著作権問題のうち,ホームページ, BBS(掲示板)をめぐる問題点について扱う。ホー ムページや掲示板は,学生はほぼ毎日目にしている であろう。著作権法上どんな問題・侵害行為がある のかを知ったことで,これまでの自己の利用の仕方 を見直す機会になったのではないだろうか。 3.まとめ  本授業の最終回に学生から寄せられた感想をいく つか列挙することにする。  ・ 著作権侵害という言葉をよく聞くが,とても奥 が深く,ひとくちに著作権といえないことが分 かった。  ・ 複雑な関係の中で権利がどこにあるのかを見 極めるのが大変だと思った。  ・ 著作権には様々な種類があり,場面によって使 い分けなければいけないと分かった。  ・ 何気なく行われている行動に対して「これは著 作権の侵害なのではないか」と考えるように なった。  ・ 著作権は,考えていたよりもずっと複雑で曖昧 な問題だと感じた。  ・ 著作権といえば「人の作品をまねてはいけな い」くらいの認識しかなかったが,より詳しく 著作権について知ることができた。  ・ 身近なところに著作権が関わっていることを 学んだ。CDを聴くときに複製のことが気に なったり,授業で記事のコピーが配られたりす ると,授業で学んだことを思い出したりした。  概ね,著作権について深く考え,身近な事例に対 しても対応できる力を身に付けてくれたように感じ る。一方で,著作権法の難しさ,曖昧さも感じてい るようである。これについては筆者の授業の改善が 求められる部分でもあろう。  今回,初年度ということで,筆者自身も手探りで の授業展開となった。しかし,学生の感想からも,

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本授業はどんどん身近な問題となってきている著作 権に対する認識を高めるために,有効に働いている という手ごたえを感じた。今後も,学生に正しい著 作権の知識を持ってもらえるよう,授業改善に努め ていきたい。 注 1)「ビジネス著作権検定」は株式会社エデュース ホールディングス(サーティファイ著作権検定委 員会を擁する企業)の登録商標である。 (2015年 3月31日 受理)

参照

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