電子書籍の未来:2. 日本における電子出版ビジネスと電子図書館をめぐる政策動向
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(2) 2. 日本における電子出版ビジネスと電子図書館をめぐる政策動向. 版文化を次代へ着実に継承しつつ,広く国民が出版. による提供が可能になった.特筆すべきは当初はプ. 物にアクセスできる環境を整備することが重要な課. リントアウト不可としていた案が,法改正では国立. 題となっている」という状況認識が示され,「その. 国会図書館から送信を受けた図書館等では,現行の. ため,関係者が広く集まり,デジタル・ネットワー. 著作権法第 31 条第 1 項第 1 号による複製に準じて. ク社会における出版物の利活用の推進に向けた検討. 複製を行うことが可能になった点である. を行うこと」 (p.68)と懇談会発足の目的が書かれ. ここでいう「図書館等」とは著作権法施行令第 1. ている.. 条の 3 により所蔵資料の複製が認められている図. この報告書において,図書館における電子出版に. 書館であり,受信先の図書館では「調査研究目的」 「一. 関する公共サービスについては,次のような 2 つ. 部分」であればプリントアウトができ,また国立国. の「具体的施策の方向性とアクションプラン」が示. 会図書館の所蔵冊数を超える同時閲覧も可能となっ. された.. たのである.. ☆1. .. 「図書館による貸与については様々な考え方がある. 国立国会図書館では 2009 年度,従来のほぼ 100. が,今後関係者により進められる図書館による電子. 倍にあたる 127 億円の補正予算が所蔵資料の大規. 出版に係る公共サービスの具体的な運用方法に係る. 模デジタル化に充てられることになった.これは先. 検討に資するよう,米国等の先行事例の調査,図書. に述べたグーグルによる図書館プロジェクトに対抗. 館や出版物のつくり手,売り手等の連携による必要. した国の政策である.戦前期刊行図書,古典籍資料,. な実証実験等を実施」.「こうした取組について国が. 官報,学位論文など,電子図書館サービスのための. . 側面支援」 (p.59). デジタル化を行う一方. また国立国会図書館については「国立国会図書館. を行って戦後期刊行図書など保存のためのデジタル. における出版物のデジタル保存に係る取組を継続・. 化も進め. 拡充していく必要」(p.57)とされたのである.. 点のデジタル化を完了し,館内提供を行い,うち. 3). ,2009 年に著作権法改正. ☆2. ,2012 年 8 月 31 日時点で 216 万 5 千. 41 万点はインターネット公開も行っている 4).. ■ 国立国会図書館の所蔵資料大規模デジタル. いわば国民の税金によってデジタル化された国立. 化と文化庁「検討会議」による著作権法改正. 国会図書館の所蔵資料を国民が利活用するために,. この三省懇の報告書を受けて,文部科学省では文. 2013 年 7 月 1 日に施行される今回の著作権法改正. 化庁が担当となり 2010 年 12 月から「電子書籍の. の意義は大きい.これまで著作権法の公衆送信権が. 流通と利用の円滑化に関する検討会議」を開催した.. 壁となり,著作者の許諾なくデジタルデータを送信. この検討会議の結果,次の 3 点の条件を付した上. することができなかった図書館にとって,大きな課. で国立国会図書館のデジタル化資料が図書館で利用. 題を 1 つクリアしたと言えるだろう.. できる案が示された. 2). . (1)「送信先の限定」(公. 「送信データの利 立図書館,大学図書館等) , (2) 用方法の制限」 (プリントアウト不可,ただし可と. ☆1. 「対象出版物の限定」(市場 する意見もあり) , (3) における入手が困難な出版物等). その後,2012 年 6 月 20 日に参議院本会議にお いて「著作権法の一部を改正する法律案」が賛成多 数で可決,成立した.これにより国立国会図書館に よる絶版等資料(絶版等の理由により一般に入手す ることが困難な資料)の図書館等への自動公衆送信. ☆2. 著作権法第 31 条第 1 項第 1 号には「図書館等の利用者の求めに 応じ,その調査研究の用に供するために,公表された著作物の一 部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の 著作物にあっては,その全部)の複製物を一人につき一部提供す る場合」と規定されている. 著作権法第 31 条第 2 項に「国立国会図書館においては,図書館 資料の原本を公衆の利用に供することによるその滅失,損傷又は 汚損を避けるため,当該原本に代えて公衆の利用に供するための 電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては 認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算 機による情報処理の用に供されるものをいう.第三十三条の二第 四項において同じ.)を作成する場合には,必要と認められる限 度において,当該図書館資料に係る著作物を記録媒体に記録する ことができる」と規定された.. 情報処理 Vol.53 No.12 Dec. 2012. 1261.
(3) 特集…電子書籍の未来. なお,政府の知的財産戦略本部が 2012 年 5 月. 出版のうち商業出版についてはほとんど収集するこ. 29 日に策定した「知的財産推進計画 2012」には「コ. とはできず,きわめて不完全な形での出発となった. ンテンツのアーカイブ化とその活用促進」として,. が,制度が作られたことは大きな前進であった.. 「国立国会図書館のデジタル化資料について,公立 図書館などへの配信のための著作権制度上の措置を. ■ コンテンツ緊急電子化事業と出版デジタル. 行うとともに,家庭などへの配信に向けた著作権処. 機構. 理の促進に当たり,デジタル化資料の管理・流通に. また,国費を投じた電子出版ビジネスへの補助も. おいて課題となる事項の整理などを行うための事業. 行われた.2011 年 12 月 2 日,経済産業省商務情. を実施し,所要の措置を講ずる.(短期)(文部科学. 報政策局文化情報関連産業課が「平成 23 年度 地. 5). 省) 」. と今後は家庭などへの配信に向けた著作権. 処理の促進をも謳っている.. 域経済産業活性化対策費補助金(被災地域販路開拓 支援事業(コンテンツ緊急電子化事業))に係る補 助事業者の公募について〈平成 23 年度第 3 次補正. ■「電子納本制度」の導入. 予算事業〉」を公表し,事業総額約 20 億円,補助. 一方,対応する紙媒体が存在しない電子出版物,. 金額(上限)約 10 億円の事業を開始したのである.. すなわちボーンデジタル(born-digital)出版物の. 6 経済産業省の公募概要は以下の通りである .. 取り扱いが近年,クローズアップされてきた.. ). 「中小出版社の持つ東北関連書籍をはじめとする書. たとえば科学技術論文が掲載されている雑誌『古. 籍等のデジタル化費用を一部負担することで,黎明. 河電工時報』の場合,2002 年 7 月の 110 号で紙媒. 期にある電子書籍市場等を活性化するとともに,東. 体の発行を中止し,以後,電子資料(Web)に移. 北関連情報の発信,被災地域における知のアクセス. 行している.具体的には古河電工の Web サイトに. の向上,被災地における新規事業の創出を促進し,. PDF ファイルの形でアップロードされ,無償で誰. 被災地域の持続的な復興・振興や我が国全体の経済. でもダウンロード,印刷が可能になっている.とこ. 回復を図ることを目的とするものです」. ろが国立国会図書館はこれを現行の納本制度では収. この事業は一般社団法人日本出版インフラセンタ. 集することができないのである.. ーが受託し,電子化を行う事業者を差配する中核企. 「オ この事態を解決するために 2012 年 6 月 15 日,. 業としてパブリッシングリンクが採択されることに. ンライン資料の収集等に関する国立国会図書館法の. なった.. 一部改正法案」が成立し,2013 年 7 月 1 日から施. また,出版デジタル機構と契約すれば,電子化の. 行されることになった.. 費用を出版デジタル機構が立て替え,その売上げで. その内容は,納本制度に準じて,私人が出版する. 相殺するため初期費用が無料になる.コンテンツ緊. オンライン資料について,国立国会図書館への送信. 急電子化事業は経済産業省が進めるのであるから. 等を義務付け,送信等に関して必要となる費用を国. 当然,税金を投入された事業である.また 2012 年. 立国会図書館が補償する.国立国会図書館または送. 4 月 2 日に設立された出版デジタル機構は,政府. 信等の義務を負う者が,オンライン資料を複製する. が 90% を出資する国内最大級の投資ファンドであ. ことができるように著作権法の改正を行う(著作権. る産業革新機構から総額 150 億円の出資を受けて. 法第 42 条 4 項)というものである.しかし,有償. いる.つまり,電子書籍事業に踏み出せないでいる. または DRM(Digital Rights Management System. 日本の多くの出版社に対して国費を投じ,従来の印. =技術的制限手段)が付されたものについては,現. 刷会社による電子化をめぐる市場競争ではなく,出. 在,費用補償に関する検討等を行っていることから,. 版デジタル機構を中心に国内コンテンツの電子化. 当分の間,納本義務を免除することとなった.電子. のしくみを整備するということになる.出版デジ. 1262 情報処理 Vol.53 No.12 Dec. 2012.
(4) 2. 日本における電子出版ビジネスと電子図書館をめぐる政策動向. タル機構は,2012 年から 5 年間に 100 万タイトル,. 記事や論文,書籍の章や節の単位でのメタデータの. 2,000 億円の電子書籍化を目標に掲げているが,コ. 付与など従来の紙媒体を中心とした資料とは異なる. ンテンツ緊急デジタル化事業と官民ファンドの出資. 資料組織化と利用者サービスが求められる.. はまさに追い風となったのであった.. つまり,出版界と図書館界がそれぞれの特性を活. 2012 年 5 月 29 日に策定された内閣府知的財産. かし,今後の電子出版ビジネスと電子図書館機能を. 「株 戦略本部による「知的財産推進計画 2012」には,. 進展させていくことが,次世代の文化創造にとって. 式会社出版デジタル機構の創設を始め,ボーンデジ. 重要なのである.. タルを含む電子書籍市場の進展を踏まえ,民間事業 者による協同の取組に対する支援を通じて,著作物 のデジタル化やコンテンツ流通の一層の促進を図る. 7). (短期・中期) (総務省,経済産業省) 」. と明記さ. れている.. 電子出版ビジネスと電子図書館の利害 調整 以上,見てきたように出版ビジネスと図書館事 業に対する国の支援が積極的に提起されたことは 「Google Books 著作権訴訟」以降の大きな変化で あろう. 出版ビジネスが電子出版に下支えされながら進展 していくことと,図書館が電子出版時代に新たな役 割を担っていくことは,出版界と図書館の双方にと. 引用文献 1)「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進 に関する懇談会 報告」(2010 年 6 月 28 日),http://www.. bunka.go.jp/oshirase_kaigi/2010/pdf/digital_network_ h220628_kondankai_ver02.pdf(引用日:2012-08-31). 2)文化庁「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議 に 係 る ま と め 」pp.3-4,http://search.e-gov.go.jp/servlet/ PcmFileDownload?seqNo=0000079296(引用日:2012-0831) 3)国立国会図書館「資料デジタル化について」,http://www.ndl. go.jp/jp/aboutus/digitization.html(引用日:2012-08-31) 4)国立国会図書館,同上. 5) 内 閣 府 知 的 財 産 戦 略 本 部「 知 的 財 産 推 進 計 画 2012」 p.29 , http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/ chizaikeikaku2012.pdf(引用日:2012-08-31) 6)経済産業省「平成 23 年度 地域経済産業活性化対策費補助 金(被災地域販路開拓支援事業(コンテンツ緊急電子化事 業))に係る補助事業者の公募について〈平成 23 年度第 3 次 補正予算事業〉」,http://www.meti.go.jp/information/data/ c111202aj.html(引用日:2012-08-31) 7)内閣府知的財産戦略本部,同上,p.29.. 参考文献 湯浅俊彦:電子出版学入門 改訂 2 版,出版メディアパル,市川 市(2010). (2012 年 9 月 4 日受付). って必要なことだろう.出版界にとっては電子出版 の時代になっても編集過程を経た出版コンテンツを 創出していくことが重要であることは変わりない. また膨大な電子資料の書誌コントロール(目録作業. ● 湯浅俊彦 [email protected]. や分類作業のように資料を識別同定し,管理し,利. 大阪市立大学大学院・創造都市研究科・都市情報環境研究領域・ 博士(後期)課程修了.博士(創造都市).2007 ∼ 11 年,夙川学 院短期大学准教授.2011 年より立命館大学文学部准教授,2012 年 4 月より立命館大学文学部教授.. 用に供するサービス)がこれからの図書館の重要な 任務になることも不回避であろう.そこでは雑誌の. 情報処理 Vol.53 No.12 Dec. 2012. 1263.
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