480 人 工 知 能 29 巻 5 号(2014 年 9 月) 本学会が改革の一つとして打ち出した学会誌表紙のデ ザイン変更は,その初回 Vol. 29, No. 1(2014)のデザ インをはじめ,世に物議を醸す結果となった.いわゆる 表紙問題に関しては,本学会 Web サイトにて公に対し て謝罪をするとともに,Vol. 29, No. 2(2014)に掲載 された小特集にて議論と論点の整理を行うなど,改める べきところを改めながら,前進していく意思を学会は示 してきた. 一方,学会が表紙問題に揺れ,さまざまなメディアで 意見や批判が飛び交う,その過程において,生活の中に 埋め込まれる人工知能技術に関して多くの課題や問題点 が顕在化し,社会と人工知能技術について,改めて思 索する端緒となった.いうまでもなく,人工知能技術 は社会への浸透を急速に深めていく様相を呈している. Google Glassをはじめとするウェアラブルデバイスは 普及に向けて着々と準備が進んでおり,自律的に走行・ 飛行するロボットカーやマルチコプタが続々と登場し, 卓越した将棋・囲碁プレーヤが生まれ,膨大なデータの 集積・分析技術を背景に購買,移動などさまざまな場面 で適切な行動の指針を示してくれるシステム・サービス が次々展開されている.さまざまなデバイスやシステム, そしてそれらを支える高度な人工知能技術の連環は可能 性に満ち,我々の生活を大きく変えていく予感がある. このような社会の状況,そして技術・システムの研究 開発の動向を踏まえ,我々は人工知能技術と社会の相互 作用について改めて考えるべき時期に来ている.今後, 人工知能の分野で培われた技術の社会実装の流れは加速 するだろう.一方で,社会の側からの人工知能に対する 要望やイメージも高まってくるだろう.我々は,さまざ まな人工知能技術と共存する社会を生きていくことにな るのかもしれない.では,我々の日常のさまざまな局面 に立ち現れる人工知能技術には,どのような姿,どのよ うな振舞いをすることが社会から求められるのだろう か.また,我々の日常に高度な人工知能技術が入り込む ためには,どのような社会制度や倫理観の再構築や捉え 直しが必要になるのだろうか.そして,人工知能技術と 社会が相互作用してもたらす変化を我々はどのように理 解し,未来へと展開していくべきなのだろうか. 人工知能技術への脅威論がささやかれる一方,その可 能性に多くの人々が魅せられ技術がさらに進化している 今,我々は考えなければならない.新たな技術を安易に 否定したり,無批判な技術の受入れに走ることなく,人 工知能技術と共存するこれからの人間社会について,分 野を超えた深い議論を我々は開始しなければならない. 本特集は,人工知能技術と社会について,多様な立場の 方々からの意見を集め,人間・AI 融合時代を見据えた 議論の嚆矢を放つことを企図したものである.そのため には,本学会の外からの視点に基づく議論が重要である と考え,異分野の 4 名の方々に執筆いただき,本特集 の前半を構成することとした. まず,最初の記事では,文化人類学・科学技術社会論 を専門とする久保明教氏が,将棋電王戦を引合いに,人 間と知能機械の関係性についての考察を行い,両者の不 調和が効用をもたらす社会のデザインを目指す,新しい 視点を提案する.2 番目の記事では,応用倫理学・応用 哲学を専門とする神崎宣次氏が,人工知能の社会への浸 透に関して,具体的に道徳実践への浸透の可能性につい て議論し,現時点で,人工知能が道徳性の観点での行為 者・被行為者・評価者となり得るかを論じる.3 番目の 記事では,技術哲学を専門とする大家慎也氏が,人工知 能技術と社会の関係を考える際の哲学の役割,および異 分野の接合について考察する.ここでは,人工知能の設 計・開発のツールとして媒介理論を紹介し,その適用可 能性についての議論が展開される.そして 4 番目の記 事では,幹細胞生物学・科学技術社会論を専門とする八 代嘉美氏が,「SF」や再生医療研究の話題を背景として, 人工知能研究が生み出すであろう高度な知性の,社会に おける捉え方や価値について議論し,そのような議論が 実は喫緊の課題となっている事を示す. 本特集の後半では,本学会員からの記事として 3 名の 方々に執筆いただいた.まず,一杉裕志氏が,本学会で も多くの会員の興味を惹いている汎用人工知能の実現を 想定して,社会に対して与える広範な影響について思い 切った議論を行い,多様な学術分野との議論を深めてい くことの必要を述べる.2 番目に,竹林洋一氏が,認知 症患者の激増という,我が国にとって不可避な社会的課 題を提示し,社会での実践に供する高度な人工知能技術 の浸透がむしろ期待されている事例を詳細に解説する.
特集「人工知能技術が浸透する社会を考える」にあたって
服部 宏充
(立命館大学情報理工学部,JST CREST)江間 有沙
(京都大学白眉センター/大学院情報学研究科)481 人 工 知 能 29 巻 5 号(2014 年 9 月) そして最後に,西田豊明氏が,人工知能技術が社会にも たらす影響についてこれまでの歴史を振り返りつつ,そ のポジティブな側面とネガティブな側面について議論を 行い,今後の人工知能研究の進展への期待を提示する. 本特集は,学会誌上での異分野間の交流を図るもので ある.したがって,例えば,用語に込めた意味やニュア ンスの微妙な違いから違和感を感じたり,議論の前提が 噛み合わないこともあると思う.人工知能技術と社会の 関わりからこれからの社会を考えるための,領域を横断 した対話の最初の一歩であることとして,ご寛恕願いた い. 最後に,本特集の執筆者の皆様,特に未知の学会に怯 まず記事を寄せていただいた異分野からの執筆者の皆 様,そして閲読などでご協力いただいた皆様に深謝いた します.