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アルカロイドの探索研究(物取りと合成)で学んだこと

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感動の瞬間

アルカロイドの探索研究

(物取りと合成)で学んだこと

高山 廣光

(千葉大学名誉教授) Hiromitsu Takayama  私の感動(小さな発見や学び)はいつも面白い天然物と の思いがけない出会いから始まった。いくつかの経験 を,時系列ではなく,思い出すままに記してみたい。実 験の合間にでも目を通して頂き,本雑文中に若い方々の 心に残るものが一つでもあれば(なにやら教訓めいた内 容もあると思うが)この上ない幸せである。 天然物の構造決定はくれぐれも慎重に!  学生時代から植物アルカロイドの構造研究を継続して きたが,1990 年代後半にフィリピン産 属植 物の二次代謝産物を探索する機会を得,pandamarilac-tonine─A と命名した新しい骨格のピロリジンアルカロ イドを発見した。その構造,特に隣接する二つの不斉中 心 の 相 対 立 体 配 置 を 当 時 の 先 端 的 手 法 で あ っ た ─ HMBC 法を適用することで 体1と解析し(図 1),アメリカ化学会誌に構造を発表した 1)。その後,不 明であった絶対配置を含めた構造を証明するために不斉 全合成を行ったところ,提出した pandamarilactonine─ A の 構造は誤りで 構造2であることが判 明した 2)。この時のショックは大きく,これで選手(研 究者)生命が絶たれたと思うほど落胆したことを覚えて いる。この苦い経験から,天然物の構造を確実に決める ための全合成の必要性を強く意識するようになった。  薬用資源探索研究の一つとして,タイ産アカネ科 属植物の成分探索を実施し Us─7 と命名した新 規アルカロイドを得た(図2)。Us─7 は通常のコリナン テ型オキシインドールアルカロイドの所謂 D 環が酸化 的に開裂した珍しい構造を有している。各種スペクトル の解析,特に,スピロ位(7 位)の絶対立体配置決定には CD(ECD と称するのが近年は一般的になった)スペクト ルの経験則を適用しその構造を5として提案した(当時 は理論計算による CD スペクトルの予測はまだ確立され ていなかった)。構造確認のため光学活性ラクトン体3 を合成中間体として,Bischler─Napieralski 反応,オキ シインドールへの立体選択的転位反応などを経て5の不 斉全合成を達成したが合成品と天然物は異なるスペクト ルを与えた。悩んだ末に,スピロ型オキシインドールで 確立されていた CD スペクトルの経験則をあえて適用し ない構造式6を次の候補として考え,この全合成を行っ たところ今度は合成品と天然物が完全に一致した 3)。微 細な構造の差異が CD スペクトルのコットン効果に大き く影響することを知り,CD の情報を基にした絶対立体 配置の判断には十分な注意を要することを学んだ。  マ レ ー シ ア の 熱 帯 雨 林 に 自 生 す る ア カ ネ 科 の の成分探索を行い,抗腫瘍活性をも つ psychotrimine と命名した新規アルカロイド10を得 Fig. 2 千葉大学 Chiba University Fig. 1 ( 70 ) 有機合成化学協会誌 596

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た(図3)。主に NMR スペクトルのケミカルシフトをよ りどころに導きだした本アルカロイドの構造式は, tryptamine を生合成前駆体とした多量体型アルカロイ ドとしては斬新な結合様式,すなわちピロリジノインド リン骨格の 3a 位および 7 位がインドール窒素と結合し ている初めての例であった。先ずはこれを論文化し 4) 次に本推定構造式を証明するためにラセミ体の全合成を 行った。Indoline と 2─bromobenzaldehyde から調製し たアミジン中間体7を,銅触媒による分子内芳香族アミ ノ化反応に付すことでピロリジノインドレニン8を構築 し,次いでヨウ素誘導体9に銅触媒を用いたトリプタミ ン誘導体14との分子間芳香族アミノ化反応を行うこと で推定構造式10を全合成した 5)。これにより発表済み の構造式が確定できたときは心から安堵した。続いて, 本天然物の絶対立体配置を決定するための不斉全合成を 行った。光学活性なアリルアルコールをもつエステル誘 導体11を不斉転写型の Ireland─Claisen 転位反応に付す 新しい合成法を開発することで,3a 位の第四級不斉中 心を構築した 6)。この手法には汎用性があり,その後, 中国雲南省に自生する から単離した新 規インドールアルカロイド kopsiyunnanine K の不斉全 合成にも応用することができた 7) 天然物は光学的に純粋とは限らない!  L─ 酒 石 酸 とD─ 酒 石 酸, あ る い は(+)─limonene と (−)─limonene のように鏡像異性体が存在する天然物は 古くから知られており,関連した論文を今も時折目にす る。翻って,自ら単離した複雑な構造をもつ天然物が旋 光計を回した場合,その分子の光学純度にまで思いが 及ばないのが一般的ではなかろうか。ここでは分離した 新規天然物が偶然にも scalemic mixture(異なった比率 のエナンチオマーの混合物)であった出会い(思わず驚い た≒感動)をいくつか紹介したい。  東南アジア地域に自生するアカネ科植物の は,伝承的に灼熱下での労働力向上やアヘンの 代用薬として用いられてきた。本植物の活性本体解明を 目的にその成分検索を行っていた際に,新規天然物とし て 9─methoxymitralactonine と命名したインドールアル カロイド18(比旋光度−123)を得た(図4)。スペクトル 解析によりその平面構造を導きだしたが,14 位に帰属 した炭素は sp 2であるにもかかわらず,そのケミカルシ フトが 87.1 ppm と異常に高磁場に観測された。そこで この推定構造式の確認と絶対配置の決定を目的に不斉全 合成を実施した。まず,光学活性なエポキシ体15を調 製し,ジヒドロ─β ─カルボリン誘導体16との縮合など を経て化合物18を合成した。これにより提出構造の証 明に至ったが,驚いたことに全合成によって得た光学的 に純粋な化合物の比旋光度は−838 と大きな値を示し た。そこで,18のラセミ体を標準品として合成し,キ ラルカラムを用いて天然物の光学純度を調査した。その 結果,天然物は(−)体と(+)体が 62:38 の比率で存在す ることが明らかになった 8)。不斉全合成をしたからこそ 知 り う る 事 実 で あ っ た。 本 稿 の 初 め で 紹 介 し た pandamarilactonine─A(2)(比 旋 光 度+35.0), から単離した kopsiyunnanine E(19) 9) (比旋光 度−14.9)と andranginine(20) 10)(比旋光度−24.3)も不斉 全合成したサンプルを用いて調査することでそれぞれの 光学純度が 26%, 23%, 24% の scalemic mixture である ことが判明した。このようなことを何度となく経験する と,昔から知られている身の回りの天然物の光学純度が 気になってくる。それを正確に調べるためには,天然物 そのもの,光学的に純粋な合成品,それと合成したラセ ミ体を手元に準備する必要があり,かなりのエフォート Fig. 3 Fig. 4 Vol.79 No.6 2021 ( 71 ) 597

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を要する。 二次代謝産物の生合成経路をよく考察することは全合成 にとって大いに役立つ!  天然物を全合成するためのアプローチは研究者により 様々だが,その一つとしていわゆる Biomimetic あるい は Biosynthesis─inspired Synthesis という戦略が昔から 知られている。反応の選択性向上や反応工程の短縮に よって効率的な全合成を可能にする,あるいは複雑な構 造の天然物合成に臨むに当たり,ユニークな逆合成解析 のヒントを与えてくれるといったメリットがあるとされ ている。本戦略で全合成を首尾よく達成できた 2 例をそ の背景を含め紹介したい。  リコポジウム属植物から見出されたアルカロイド huperzine A(24)が強力なアセチルコリンエステラーゼ 阻害活性を有し,アルツハイマー病を含む様々な記憶障 害の改善に有効であることが明らかとなったことから, 本系アルカロイドを素材とした科学的研究が世界中のグ ループにより精力的に行われてきた。私たちも,リコポ ジウムアルカロイドに興味をもち,これを素材とした研 究により新規アルカロイド 46 種を発見し,この内特異 な環骨格をもつ 20 種の不斉全合成を達成した。本稿で は,この中からリコジン型アルカロイドの lycodine(23) と flabellidine(31)およびリコポジン型アルカロイドの lycopodine(25)の生合成経路にヒントを得た不斉全合成 を紹介したい。  Spenser らにより提唱されているリコポジウムアルカ ロイドの仮想生合成ルート(図5A)の中で,二つのエナ ミンをもつデヒドロピペリジン構造の仮想中間体21か ら,連続する 2 度の炭素─炭素結合によりリコポジウム アルカロイドがもつ四環性基本骨格22が構築さる仮想 的な連続環化反応に着目した。生合成における仮想中間 体に相当する化合物28を用いれば,同様の連続環化反 応,すなわち,エナミンから共役イミニウムへの反応 (28→29)と続く二つ目のエナミンからイミニウムカチ オンへの攻撃(29→30)により,一挙に四環性化合物30 を立体選択的に得られるのではないかと考えた(図5B)。 さらにこの仮想中間体28はリニアーな基質,すなわち 両隅に保護された窒素官能基と適当な位置にケトンと共 役ケトンをもつ化合物27から分子内脱水縮合により生 成可能と考えた。そこで市販のアミド体26から27を 8 段階で合成し,CSA 存在下加熱反応を行ったところ所 望の連続的環化反応が進行し,一挙にリコジン骨格を持 つ四環性化合物30を与えることを見出した。本連続環 化反応は直鎖状化合物27がもつ唯一の不斉点(15 位)に より四環性骨格に構築される全ての不斉点(7, 12, 13 位) の立体化学を制御できた点も満足できる結果(感動の瞬 間)であった。この環化体30を用いることで,(+)─ flabellidine(31)の初の不斉全合成と(−)─lycodine(23)の これまでで最短の全合成を達成した 11)  上述の直鎖状化合物27の右端の窒素を酸素官能基に 置き換えた化合物32を用いることで異なった骨格をも つ四環性アルアロイド lycopodine(25)の合成も達成した (図5C)。すなわち,32を酸処理することで今度はオキ ソニウム中間体33から先と同様に連続的な環化反応が 進行して四環性化合物34が得られ,さらにこれを HBr で処理後,塩をアルカリ性に戻すことで,一挙に(−)─ lycopodine(25)を得ることができ,本アルカロイドのこ れまでで最も短段階による不斉全合成を達成することが できた 12)   は葉 3 枚で人が死ぬと言われてい Fig. 5 ( 72 ) 有機合成化学協会誌 598

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るほど猛毒性の植物で,東南アジアのある地域では,自 殺や殺人に今でも使われているとのことである。一方, その地下部は,漢薬“胡満強”として鎮痛,皮膚の潰瘍の 治療に利用されてきた。この様な背景のもと,創薬シー ド分子の発見を目的にゲルセミウム属植物の成分探索を 行うことで,60 種を超える新規アルカロイドを発見し た。このうち,ゲルセジン型アルカロイドのいくつかに 強力な抗腫瘍活性を見出したので,これらを含めた種々 骨格をもつゲルセミウムアルカロイドの合成研究を行っ て き た。 こ の 中 か ら 本 稿 で は 11─methoxy─19( )─ hydroxygelselegine(41)の生合成経路の考察にヒントを 得た戦略による全合成について紹介する。41は 7 つの 不斉中心をもつゲルセジン型オキシインドールアルカロ イドで, 配置の 2 級水酸基をもつエチル側鎖を有し, さらに 21 位に相当する炭素が D 環の環外にキックアウ トされた形をしている点が大きな特徴である。この特異 な構造のアルカロイドはアジリジン化合物(40)を前駆体 とした経路で生合成されると考え,この仮説に倣った不 斉全合成を行った。まず,光学活性なジオール体35を 出発原料とし,金触媒を用いた立体選択的 6─ ─dig 型 環化反応(36→37)を組み込むルートでサルパギン型ア ルカロイドの gardnerine(38)を合成し 13),その立体選 択的なオキシインドールへの転位とエポキシ中間体39 などを経て生合成仮想アジリジン中間体40を合成した。 これを THF 中 TFA で処理すると望みの開環反応が進 行し,天然物41を収率よく得ることに成功した 14)。上 述の研究成果を含め,Biomimetic な合成アプローチが 複雑な構造をもつ天然物の骨格構築において極めて有効 な戦略となることを示すことができたと思っている。 お わ り に  私を感動に導いてくれた天然物とりわけ 362 種の新規 アルカロイドと,研究の苦楽を共にしてくれた学生さ ん,そして研究室のスタッフ(北島満里子博士,小暮紀 行博士)に心より感謝します。最後に,本拙文を読んで くださった若い方々に,「先ず隗より始めよ」「収穫を問 うなかれ ただ耕運を問え」さらに「実事求是」という言 葉を添えてエールをおくりたい。 文 献

1) H. Takayama, T. Ichikawa, T. Kuwajima, M. Kitajima, H. Seki, N. Aimi, M. G. Nonato, ., 122, 8635(2000) 2) (a)H. Takayama, T. Ichikawa, M. Kitajima, M. G. Nonato, N.

Aimi, ., 50, 1303(2002); (b)H. Takayama, R. Sudo, M. Kitajima, ., 46, 5795(2005) 3) H. Takayama, R. Fujiwara, Y. Kasai, M. Kitajima, N. Aimi,

., 5, 2967(2003)

4) H. Takayama, I. Mori, M. Kitajima, N. Aimi, N. H. Lajis, ., 6, 2945(2004)

5) Y. Matsuda, M. Kitajima, H. Takayama, ., 10, 125 (2008)

6) N. Takahashi, T. Ito, Y. Matsuda, N. Kogure, M. Kitajima, H. Takayama, ., 46, 2501(2010)

7) R. Tokuda, Y. Okamoto, T. Koyama, N. Kogure, M. Kitajima, H. Takayama, ., 18, 3490(2016)

8) H. Takayama, M. Kurihara, M. Kitajima, I. M. Said, N. Aimi, , 56, 3145(2000)

9) M. Kitajima, Y. Murakami, N. Takahashi, Y. Wu, N. Kogure, R. Zhang, H. Takayama, ., 16, 5000(2014)

10) S. Tooriyama, Y. Mimori, Y. Wu, N. Kogure, M. Kitajima, H. Takayama, ., 19, 2722(2017)

11) M. Azuma, T. Yoshikawa, N. Kogure, M. Kitajima, H. Takayama, ., 136, 11618(2014)

12) K. Wada, N. Kogure, M. Kitajima, H. Takayama, ., 60, 187(2019)

13) M. Kitajima, K. Watanabe, H. Maeda, N. Kogure, H. Takayama, ., 18, 1912(2016) 14) H. Takayama, ., 68, 103(2020) (2021 年 3 月 3 日受理) PROFILE 高山廣光・千葉大学名誉教授 〔略歴〕1982年千葉大学大学院薬学研究科博士課程修了(薬学博 士),1982

84年ドイツ・ハノーバー大学博士研究員(アレキサン ダーフォンフンボルト財団),富山医科薬科大学助手,千葉大学薬 学部助手・助教授を経て2004

20年3月まで千葉大学大学院薬学 研究院教授,2014

15年度千葉大学大学院薬学研究院長,2020年 4月から千葉大学名誉教授。〔専門〕天然物化学,有機化学,医薬 化学。〔主な受賞歴〕2004年日本薬学会学術振興賞,2015年日本 生薬学会賞,2018年日本薬学会賞。〔主な学会活動〕2014

15年度 日本薬学会理事,2019

20年度日本薬学会副会頭,2019年から化 学情報協会理事。〔連絡先〕e

mail: [email protected] Fig. 6 Vol.79 No.6 2021 ( 73 ) 599

参照

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