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中学校国語科授業における学習用語の可能性について ―小学校国語科の成果と整理を通して―

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中学校国語科授業における学習用語の可能性について

―小学校国語科の成果と整理を通して―

石原 龍平 1.はじめに

問題の所在 学校の授業を通して行われる学習においては、教科に関わらずその教科で何をどの ように学んだのかが重要視されなければならない。ひとつの授業において、生徒が 何を学習し、教師は何を教えなければならないのかという狙いが明確化されている という前提があってこそ、授業は成り立つものなのではないのだろうか。各教科の 中で、とりわけ「国語科」における学びを生徒は、どのように捉えているのだろう か。 さらに、どのようにすれば「国語科」としての学力が身につくのであろうか。 鶴田清司は以下のように述べている。 事物や事象は名づけることで存在が明確になる(「LD」「ADHD」などは その例である)。用語を定めることによって、それが表している技術の特徴、他 との相違がはっきりする。例えば、スキーのターンには「カービング」と「ス キッディング」がある。雪面を彫り込むように回すか、横滑り(ズレ)を使っ て回すかという違いである。後者の場合は板に抵抗がかかり、シャープな回転 が得られない。カービングが上級レベルの滑りと言われるゆえんである。こう した用語がなかったとしたら、スキー技術のエッセンスを言語化することがで きない。1 鶴田は、スキーを例に「用語」の必要性を示しているが、これが学習、とりわけ 「国語科」にもつながるのではないかと考える。子どもたちが学習することや教師 が指導するにあたり、何らかの「用語」を用いた方がよく学ばれるのではないかと 推察される。以上から、本研究においては、「学習用語」に着目する。 これまで「学習用語」に着目した研究や実践は数少ないがある。しかしながら、 1 日本言語技術教育学会編 鶴田清司 2005 「『読むこと』の指導と『学習用語』の関係 ― 技術と用語は不可分である―」 『言語技術教育14 「この言語技術」を「この授業」で身 につける』 明治図書 pp.83

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- 24 - それぞれの定義には提唱者によって違いがあり、どれが適切かを選ぶのが難しい。 そこで、本研究では、まずこれまでの「学習用語」の定義や取り組みを小学校の 成果を中心にまとめていく。さらに、中学校においてその成果を活かしながら具体 化していく検討の一部をおこなっていく。 後に述べるように「学習用語」の実践は、小学校の本数が圧倒的に多く、中学校 の本数が限りなく少ない。小学校では、「国語科」の標準授業時数が他教科に比べ著 しく多いのに対し、中学校においては、「外国語」が最も標準授業時数が多く、「国 語科」の標準授業時数は「数学」「理科」と同様である。このことから、中学校は小 学校よりも「国語科」にかける時数が少なく、扱う指導事項や内容にも限りがある ことから、「学習用語」を扱いにくいのではないかと考える。 改めて、中学校における「学習用語」を活用した授業のあり方はどうあれば良い のだろうか。「学習用語」と「国語学力」を軸に論を展開していく。 2.「国語科」において学ぶべき、教えるべきものとは 2-1 アンケート調査からの知見 筆者は、教職専門実習を行っている公立中学校の生徒301名に対し、アンケー ト調査を行った。2内容は、主に「単元と単元とのつながりあると思う教科」につい て中学校の生徒はどのように感じているのかについてである。 以下に調査の集計結果のグラフを示す。 図1 アンケート結果 結果としては、2つの群に分けることができる。比較的に単元と単元のつながり 2 アンケートについては、論文末の【資料編】において示す。 15% 16% 34% 12% 23%

前に学んだことが、次に活かされて

いる(つながりを感じる)と思う教

科は何ですか? (1〜3年対象)

国語

社会

数学

理科

英語

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- 25 - が活かされていると感じる群は、数学と英語であり、つながりが活かされにくいと 感じる群としては、国語、社会、理科という調査結果を得た。その中でも国語は1 5%であった。 さらに、言語学習という比較の軸で見た場合には、国語と英語との比較において、 約10%の差が見られた。なぜ同じ「言語」を扱っている教科でも、10%の差が 生じてしまったのだろうか。授業の在り方に要因があるということが推察される。 「国語科」の授業においては、単元と単元との学びの連続性について、生徒が捉 えられる形で展開されていないということがわかる。 では、実際に生徒たちは単元と単元のつながりについて、どのような現状認識を 抱いているのか。アンケートの問5として、「国語科」に関する自由記述欄を設けた。 その中から関連したものを取り上げると以下のようになる。なお、生徒の記述通り に示す。 【1年生】 〈教材や単元の記述について〉 ・ペンギンの防寒着 ・オオカミの友だち 文量が多いから(2名) ・竹取物語 何か好きだから 昔の人は今の人と文字が結構違うから 古文を覚え るのが楽しく感じた 古いお話が好きだから 歴史的仮名遣い(7名) ・漢字(4名) ・スピーチが印象に残っている みんなの前で話したから ・食感のオノマトペ コーラを飲みたいと思ったから 日常生活での言葉について 学べた(4名) ・ごんぎつね 登場人物の感情など、いろんなことを、考えられるお話だから 〈「肯定的な記述について〉 ・物語が好き ・文法の学習が印象に残っている いろいろな種類の文法を学ぶことで、文の構成 や、文の成り立ちについて考え、また新しく興味を持つことができた(2名) 〈否定的な記述と疑問について〉 ・古文が難しい ・国語の勉強の方法がわからない ・国語が難しい(苦手)(2名)

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- 26 - ・国語が嫌い 【2年生】 〈教材や単元の記述について〉 ・枕草子が印象に残っている おぼえようと思ったから(4名) ・平家物語印象に残っている おぼえようと思ったから ・百人一首が印象に残っている やりながら楽しく覚えることができたから 皆で きそったりして楽しかった(5名) ・漢字が印象に残っている 将来使うから(3名) ・文法が印象に残っている 将来使うから 内容がわかりやすく、すぐ覚えられた から(4名) ・走れメロス ・古文が印象に残っている 「をかし」(2名) ・壁に残された伝言 広島の歴史を知った。歴史系が好きだから 原爆の怖さなど を知ることができ、改めて戦争の怖さを感じることができたから ・人間は他の星に住むことができるのか 地球のすごさがわかるから 〈肯定的な記述ついて〉 ・おもしろいと思ったことはないけど、問題をとけたりすると嬉しい 〈否定的な記述と疑問について〉 ・自分にあった勉強の仕方がわからない(2名) ・文法の活用などがよくわからないので困っている(2名) 【3年生】 〈教材や単元の記述について〉 ・俳句 どうしてこの俳句が作られたのかをくわしく知ることができて興味をもて た(3名) ・少年の日の思い出 印象に残っている ぼくがちょうをつぶしてしまうお話が印 象に残っている 「そうか。君はそうゆう人なんだ」が印象に残っている エー ミールのセリフが頭に残る ちょうをつぶしてしまうから 話が感情的だから (20名) ・小さな手袋 このはなしですごく感動したから心に残っています 人の心の温か

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- 27 - さを知ることができた(6名) ・走れメロス 理由はいちどくじけたけど友のために走ったことのいんしょうがつ よくのこってるから あきらめない心にひかれました 初めて国語の単元で一 番興味をもてたから(23名) ・トロッコ(4名) ・空中ブランコ乗りのキキ(2名) ・クジラの飲み水(2名) ・メディアリテラシー 情報をうのみにせず自分で考える事(2名) ・助詞と助動詞の違いについて、グループで話し合ったこと ・古文 竹取物語が好き 平家物語が好き(7名) ・ポテトスープが大好きなねこ おじいさんと猫のやりとりがかわいかった(11 名) ・フロン規制の物語(3名) ・百人一首(4名) ・食感のオノマトペ ・大人になれなかった弟たちへ(2名) ・握手 なんか悲しい物語だなと印象に残っていたから ・おくのほそ道 沢山の文章を読むのが面白いから(2名) ・朝のリレー ・短歌(3名) ・人間は他の星に住むことができるのか ・字のない葉書 誰もが生きのびる大変さが身にしみる事がわかる物語だから 〈肯定的な記述について〉 ・国語は全部好き ・国語の授業は楽しい 〈否定的な記述と疑問について〉 ・作文がわからない ・文法の理解があんまりできていなくて少し困っていたりする(7名) ・現代文が難しい ・古文がわからない ・勉強の方法がわからない ・自分に合った勉強のしかたが見つからない(2名)

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- 28 - ・漢字が苦手 以上の記述からわかるように、はじめに、全学年を通じて生徒は「国語科」に対 して良い印象を抱いておらず、難しい教科として捉えている。さらに、〈教材や単元 の記述について〉という項目で自由記述をまとめたが、教材や単元そのものが印象 に残っているという点や、教材や単元の内容についての記述が多く見られた。内容 ではなく、「国語科」において単元や教材を通して学んだことに関する記述は一つも 見られなかった。 また、「国語科」の勉強方法がわからないということや自分に合った勉強の仕方が 見つからないという記述も多く見られた。 「国語科」において、教材や単元の内容の記述が多いことや勉強方法がわからな いということなどは、「国語科」そのものにおいて何を学んだのかが理解できていな いということではないだろうか。 このアンケート調査の結果分析から、仮に教師が教えなければならないことが わかっていたとしても、生徒は「国語科」で単元ごとのつながりや何を学習した かが理解できていないということがわかった。ここから、教師と生徒が「国語 科」で何を学び、何を教えなければならないのかということを明確化していく必 要がある。 さらに、「国語科」としての学力も明確化していく必要があると考える。 2-2 国語科内容論の三層構造 改めて、「国語学力」とは何なのだろうか。 さらに、それぞれの教科で教える内容、教材で教える内容とはどのような区別が あるのだろうか。前述した「何を」とは学習内容のことである。「国語科」における 内容論については鶴田が整理している。以下の鶴田の引用文は文学について述べた ものであるが、他領域にもつながると考えたため、取り上げている。 文学の授業で何を教えるかという問題に対しては、次の三つのレベルで考え ることが有効である。 a〈教材内容〉……これは教材固有の内容をさす。作品名と作者名はもとより、 表現されている内容(筋・人物・事件・主題など)について理解させることを めざす。いわば「教材を教える」という立場である。ただし、これだけでは特 殊で個別的な知識にとどまる危険性がある。 b〈教科内容〉……これは、1960年代の民間教育研究運動における「科学

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- 29 - と教育の結合」という考え方に基づいて形成された概念である。(柴田義松『現 代の教授学』明治図書、1967年)。つまり、各教科の基礎となっている諸学 問の体系(科学的な事実・概念・法則・技術など)が指導事項の中心になる。 国語科(文学領域)でいえば、文学表現の原理・方法およびそれに基づいた「読 みの技術」がそれにあたる。aよりも一般的・法則的な内容である。 c〈教育内容〉……これは、bの〈教科内容〉よりももっと広く、教科の枠組 みを超えて指導するものである。文学の授業では、特に人間の真実や本質、さ らに人間としての生き方などの価値的な部分も含まれてくる。それは科学とい う枠を超えて、文化・社会・道徳などの広範囲な指導事項に及ぶ。 以上から、文学の授業で何を教えるかという国語科内容論として、a〈教 材内容〉、b〈教科内容〉、c〈教育内容〉の三層構造を設定することができ る。3 ここで鶴田は、a〈教材内容〉、b〈教科内容〉、c〈教育内容〉の三点を定義し ている。さらに、a〈教材内容〉がb〈教科内容〉に、b〈教科内容〉がc〈教育 内容〉に内包されているとしながらも、指導内容の中核を担うのは、b〈教科内容〉 だと指摘している。これは、後述する野口の指摘に通ずるものがある。 前述のアンケート調査の自由記述欄にも、「『走れメロス』の内容が面白かった」 や「『少年の日の思い出』の最後の文が印象に残っている」などの回答が多くあり、 やはり〈教材内容〉の側面でしか、生徒は国語を理解していない傾向がある。そし て、以上のことから生徒は〈教科内容〉を捉えられていないと推察できる。生徒が このように感じているということは、教師も〈教材内容〉の指導に意識する一方で、 〈教科内容〉の指導が困難または把握することができていないと考える。 研究者の立場からみた「国語学力」の枠組みについて鶴田の言説から捉えること ができた。 次に、「国語学力」の枠組みについて実践家はどのように捉えているのだろうか。 実践家の立場から、これまで数多くの国語科授業を展開してきた、いわゆる「授業 名人」である野口芳宏は以下のように述べている。 現実の国語科の授業となると、依然としてそこで形成される学力ははっきりし ない場合が多い。「ごんぎつね」や「大造じいさんとガン」はよく知られた教材で、 教わった者も教えた教師も夥しい数に上る。だから、誰もが「教わった」と言い、 3 鶴田清司 2003 「文学の授業で何を教えるか ――〈教材内容〉と〈教科内容〉と〈教育 内容〉」 『あたらしい国語科指導法』 柴田義松 阿部昇 鶴田清司 学文社 p.47

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- 30 - 多くの教師が「教えたことがある」と言う。そこで、一歩つっこんで、では一体 その授業で ・何を教わったか ・何を教えたか と、問うてみると、即座に、明快にそれを言える者はほとんどいない。この傾向 は、授業者にも、指導主事にも、研究者にもすべて共通である。これは、実に妙 な話である。他の教科ではちょっと考えられない。算数であれば、「三角形の求積 公式」を教えた、教わったと言える。音楽では「ふるさと」の二番の歌い方を教 えた、教わったと言える。体育では「バトンタッチの技法」を教えた、教わった と言える。国語の授業だけがそれを言えない。これはおかしい。4 他教科に比べ「国語科」だけが何を学び、教えたのかが捉えにくいという指摘 である。単元や説明的文章・文学的文章などを読み、〈教材内容〉を理解しただけで 学びが途絶えてしまっている。しかし、それでは「国語科」として何を学んだのか が不透明である。そのことを子どもたちも教師もわからないままでは、ますます「国 語科」としての〈教科内容〉を捉えられないままである。 2-3 各教科における〈教材内容〉と〈教科内容〉の差異と「学習用語」 野口は、〈教材内容〉と〈教科内容〉の国語と算数の違いを2012年10月13 日開催の「授業道場 野口塾 in 足利」において以下のように述べている。 算数の授業において、「正男がみかんを8つ持っている。圭子がみかんを7 つ持っている。あわせていくつですか。」答え8+7=15という勉強をしたと 仮定する。子どもに、算数で何を勉強したのかと問いかけた際に、Aの「正男 と圭子の勉強をした。」という回答では承知できない。Bの「りんごの勉強をし た。」という回答でも承知できない。Cの「8+7=15という勉強をした」と いう回答でやっと、「1位数どうしの繰り上がりのある加法の計算の方法」の勉 強をしたということについて納得する。子どもの答え方を分けると、AとBは 算数科としての〈教材内容〉にあたる。Cは算数科における〈教科内容〉にあ たる。 このことが「国語科」においてはどうだろうか。 国語科において、国語で何を勉強したのかと問いかけた際には、「おおきなか 4 日本言語技術教育学会編 野口芳宏 「国語科の形成学力の顕在化のために ―学習用語の明 示試論―」 同前書 1 pp.54-55

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- 31 - ぶ」と答える。『おおきなかぶ』でどのような国語の勉強したのかという問いか けでは、「おばあさんが手伝ったよ。でも、抜けなかった。明日は、孫が来るみ たい。」と答える。この二つは、どちらも〈教材内容〉である。そこでどのよう な国語の学力を付けてもらったのかという問いには、子どもはなかなか答えら れない。子どもは、〈教材内容〉は答えることができても、〈教科内容〉は答え られないのである。 先生同士でも、今日の国語で何を教えたかと問われたとしても、やはり〈教 材内容〉を答えてしまう。教員も「国語科」としての〈教科内容〉やどのよう な学力をつけるのかが不明確な状況である。5 「国語科」においては、〈教材内容〉(材料)ばかりが話題になり、〈教科内容〉 (学力)が意識されていない。 さらに、「国語科」では、教材を通してどのような学力をつけたのかが見えてこな い。このままでは「国語科」としての学力が身に付かない。この課題を解決してい くには、「国語科」において「教材内容主義」から「教科内容主義」への転換が必要 であると考える。 例として挙げられている『おおきなかぶ』では、「おばあさんがやって来て、かぶを 抜くのを手伝った。」というような内容を重視するのではなく、文章が変わっても活 用できる力を身につけさせるべきなのである。 「おおきなおおきなかぶになれ。」のような部分は「会話文」である。「うんとこし ょ。どっこいしょ。」は「反復(繰り返し)」である。このような、「会話文」と「地 の文」との違いや「反復(繰り返し)」は、別の物語文でも活用することができる。 このような活用できる力こそ、「国語科」における〈教科内容〉であると同時に、「国 語学力」と捉えることができる。 以下は「授業道場 野口塾 in 足利」の講演内容を筆者が図示したものである。 5 「授業道場 野口塾 in 足利」 2012 10.13 での講演内容を筆者がまとめたもの

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- 32 - 図2 授業道場 野口塾 in 足利 2012 10.13 での講演内容 さらに野口は、〈教科内容〉の蓄積が国語学力につながると指摘し、「会話文」「地 の文」「反復(繰り返し)」などを「学習用語」と名付けている。 国語科ではそもそも「国語学力」の正体がはっきりしていない。(中略) ここに至って「言語に関する豊富な知識」を端的に「言語知識」と言い換え、 「言語知識」を子どもの側からは」、 学習用語 と、呼んでみたらどうか、というわけである。(中略) 「学習用語」を教わることによって、子どもは国語の授業で教わる内容をはっ きり自覚できるようになる。また教える側の教師も何を教えたのかをはっきりと 知ることになる。「ごんぎつね」では「行動描写」と「心理描写」を教わった、教 えた、と言えるようになる。かくして、形成した学力が「見える」ようになって くるのである。6 だからこそ、「学習用語」を用いて何を学んだのかを明確化しようするのである。 教材から学ぶ内容だけでなく、教科から学ぶ内容も重視していくということである。 「国語科」としての学力を子どもたちに定着させ、〈教科内容〉の指導の充実を可能 にするのは「学習用語」であると考える。 「国語科」の〈教科内容〉を明確化するための手段や方法は様々あるが、〈教科内 容〉や「国語学力」を子どもたちに身につけさせるという観点から考えるとすると、 6 日本言語技術教育学会編 野口芳宏 「国語科の形成学力の顕在化のために ―学習用語の明 示試論―」 同前書 1 pp.55-56 算数 正男 りんご 圭子 りんご A B 8つ 8+7=15 7つ C 教材内容 (材料) 教科内容 (学力) 国語 おおきなかぶ ? 会話文・地の文・反復

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- 33 - 「学習用語」が重要なアプローチの手段なのではないだろうか。 前述したように、「国語科」の〈教科内容〉理解を豊かにしていくためには「学習 用語」を用いることによって、より深い〈教科内容〉の定着が見込まれる。 さらに、「学習用語」は新学習指導要領で重視される可能性がある。 中学校における新学習指導要領は、2021年度からの全面実施が予定されてい る、中学校学習指導要領(平成29年告示)解説【国語編】においては、「学習用語」 の文言は記載されていない。その中では、〔知識及び技能〕〔思考力、判断力、表現 力等〕の項目について記載されている。この他には、記載されてはいないが、〔主体 的に学習に取り組む態度〕などが重要視されている。この〔主体的に学習に取り組 む態度〕を育むにはどうすればいいのだろうか。それを解決・向上させていくには、 「国語科」としての〈教科内容〉の学習や習得、指導の中心となり得る「学習用語」 が必要なのではないかと考える。〔知識及び技能〕〔思考力、判断力、表現力等〕に ついて「学習用語」を用いることで、〔主体的に学習に取り組む態度〕も養われると 考える。 また、〔学びに向かう力、人間性等〕も〔知識及び技能〕〔思考力、判断力、表現 力等〕と並べて三つの柱として整理されている。学習を進めるにあたって筆者は、 学びに向かう力が大切だと考えている。まず自らが学ぼうとしなければ、知識や思 考力も身につかない。そして、学びに向かう力を養うためにも「学習用語」が必要 なのである。 中村和弘は、「学習用語が〔知識及び技能〕と〔思考力、判断力、表現力等〕をつ なぐ」という視点で述べている。 例えば、「順序」という学習用語を学んでいくことで、順序とはどのようなこ とかを理解するとともに、「この文章はどのような順序で書かれているか」に着 目して読んだり、「どの順序で話すと、聞いている人に分かりやすいか」を考え たりすることができる。「順序」という学習用語を学ぶことが、「順序」という 視点から文章の読み方を考えたり、話し方を工夫することにつながっていくの である。(中略) そして、用語を通してこれらの知識が蓄積されていくことで、例えば、文章 を読む場合には、「順序はどうなっているだろうか」「中心に当たるのはどの部 分だろうか」「理由や事例は適切に書かれているだろうか」「原因と結果の書き 方に納得できるか」など、一つの文章をさまざまな視点から考えたり、判断し たりできるようになっていく。7 7 工藤哲夫 中村和弘 片山守道 2019 『小学校・中学校 学習用語で深まる国語の授業 実践

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- 34 - 前述した内容から、新学習指導要領においても「学習用語」の必要性や有効性を 捉えることができる。「学習用語」を理解するだけでなく、言語活動にも応用できる というところが「学習用語」を習得することの特質だといえる。 中村の視点は、小学校だけではなく、中学校においても通ずるものがある。「学習 用語」の文言がないということにとらわれることなく、「学習用語」の理解や言語活 動のより一層の発展のためにも、今一度、「学習用語」の必要性や有効性を捉えるこ とができると考える。 3.「学習用語」の定義をめぐって 3-1「学習用語」における各氏の定義 第2章では、指導内容の中核を担うのは、〈教科内容〉であること、それを確かに していく方法のひとつが「学習用語」であり、その必要性について述べた。 近年、「学習用語」の言説については、様々な実践者や研究者から述べられて いる。その言説においては、いろいろな立場から様々な定義の仕方の説明がなさ れている。 本章では、「学習用語」について、各氏がどのように述べられているかを整理 する。 8 と用語解説』 東洋館出版社 pp.12-13 8 日本言語技術教育学会編 野口芳宏 「国語科の形成学力の顕在化のために ―学習用語の明 示試論―」 同前書 1 p.56 学習用語の定義 野口 芳宏  要するに、国語科教育というのは、子どもたちに「言語技術」を身に つけてやる行為だということになる。(中略)言語技術とは、言語に関 する豊富な知識を安定的に行為化できる力である。  ここに至って「言語に関する豊富な知識」を端的に「言語知識」と言 い換え、「言語知識」を子どもの側からは、学習用語と、呼んでみたら どうか、というわけである。

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- 35 - 9 10 11 12 9 日本言語技術教育学会編 宇佐美寛 「万事金の世の中だ ―警句こそが学習用語なのだ―」 同前書 1 pp.80-81 10 日本言語技術教育学会編 鶴田清司 「「読むこと」の指導と「学習用語」の関係 ―技術と 用語は不可分である―」 同前書 1 pp.84-85 11 柳谷直明 2004『<学習用語>の<カテゴリー化>で国語学力を育てる』 明治図書 pp.27-28 12 日本言語技術教育学会編 町田守弘 「小説教材の学習指導で「学習用語」をどのように扱 うか ―グループ学習を取り入れた授業の場合―」 同前書 1 p.96 宇佐美 寛  学習用語は、学習者自身が学習の方向を見定め自らを刺激・激励する ための言葉である。(中略)  学習用語の典型例はこの「万事金の世の中だ。」のような警句なので ある。「文」や「句点」のような語ではない。(中略)  教師が目的意識を持って入念に指導しようと努めれば、自然にこの種 の警句を学習者に与え意識させたくなる。このような警句こそが発展原 理の学習用語である。これに対し、「文」・「句点」などの単語は規制 原理の学習用語である。 鶴田 清司  このように、いろいろな用語があるわけだが、授業ではそれをすべて 教えるわけにはいかない。文学研究の専門家を育てる場ではないから だ。したがって、子どもにとって将来的に有用で学ぶ価値のある知識・ 技術を精選することになる。分析用語が「学習用語」に変わるのはその 時である。その意味で、学習用語とは、その学年段階で学ぶべき一定の スタンダード(ミニマム・エッセンシャルズ)と言える。 町田 守弘  小説教材の学習指導を展開するに当たっては、学習者に読み方の指導 を徹底しなければならない。その際に「学習用語」を扱うことによっ て、小説を読むときの観点を理解させることができる。 柳谷 直明  〈学習用語〉とは国語科授業で扱う「言語活動」を適正に成立させる ため、目の前の学習者にとって育てる必要がある「言語活動」を適正に するための主な手続きとしての「定型」と「技術」を指すメタ言語であ る。  〈学習用語〉は〈国語学力〉を指すメタ言語である。そこで、認知と 行為の相互作用で〈学習用語〉を育てることにより〈国語学力〉とな る。

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- 36 - 13 この6名の言説から想起される共通点としては、「子どもあるいは学習者のため に」という意識である。「学習用語」を用いることによって、様々な技能や能力など が定着するものとして捉えられている。 野口と柳谷は、「学習用語」を言語技術や言語活動を中心に捉えている。「学習用 語」を用いることによって、「国語学力」の育成にもつながるとしている。 鶴田や宇佐美は、「学習用語」の精選が必要であり、子どもたちが学ぶべきものを 適切に選択する必要があると述べている。 町田は、小説に限定してはいるが、読み方の指導や小説を読むときの観点をより 捉えやすくすることができるのではないかと指摘している。 白石は、「学習用語」の内容に留まらず、内容を活かすための具体的な方法につい て目を向けている。子どもたちのイメージや感覚に頼るのではなく、具体的な方法 を指導することによって、子どもたちの深い理解につながると捉えている。 3-2「学習用語」の異なる視点 ところで、前半で整理した学習用語とは異なる視点から述べられているものもあ る。それは、東京学芸大学国語教育学会の言説である。東京学芸大学国語教育学会 では、「学習用語」を「国語科」における実用的な学習用語である「国語科学習用語」 と捉え、以下のように定義している。 「学習用語」に近い意味の言葉として、「国語科専門用語」「指導用語」「授業用 語」「基本用語」などがある。これらは、指導者のために、学習指導上必要な語 13 白石範孝 2011 『3段階で読む新しい国語授業1』 文溪堂 p.13 白石 範孝  国語科の学習においては、様々な用語がある。たとえば、説明的文章 においては、段落、形式段落、要点、要約、要旨……等、様々である。 これらの用語の意味を習得し、その用語を活用して、文章と向き合い自 分の考えをつくり、表現していくことが求められるのであるが、これら の用語の指導が十分に行われていないのが現状である。ここで一番問題 だと思うのが、用語は教えてもその具体的内容、つまりその内容を求め るための具体的な方法を教えていないということである。子どもたち は、方法がわからないから、イメージと感覚に頼るしかないのである。 この具体的な方法を習得することが、「原理・原則」を習得することで ある。

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- 37 - 句を選定しているものであることが多い。それに対して、「学習用語」は、子供 が学習に取り組むうえで獲得することが必要と思われる語句を選定し、子供が 主体的に学習活動に取り組み、学習理解できるようにすることを目的としてい るものである。 以上のことから、「国語科学習用語」を次のようにとらえていくことにした。 「国語科学習用語」は、国語科において必要な学習内容や学習方法を表す国語 科固有の語句であり、国語科の学習を円滑かつ効果的に行うために、子どもが 国語科の学習で獲得し、使用していく専門用語である。14 さらに、東京学芸大学国語教育学会の講演において、田近洵一は「学習用語」を 二つに分類している。 あらためて学習用語について考えてみますと、この学習用語というものは、 主に次の2つに分類することができると思います。 1つは言語、言語活動に関する内容知としての学習用語です。主として言語、 文学などなど文化的内容を示し、「漢字」、「段落」、「あらすじ」、「作者」などが あげられます。 もう1つは言語、言語活動に関する方法知としての学習用語です。主として 言語活動を示す用語であり、「音読」、「要約」、「比較」、「サイドライン」などが あげられます。 例えばこの「サイドライン」は文脈をとらえる、あるいはキーワードをとら えるため、つまり学習内容を習得するための用語なので、学習内容の中には入 りません。つまりサイドラインを引く活動を通して学習内容が成立しているか どうかということが問題になるのです。15 田近は、「学習用語」を内容知と方法知の観点で分けることによって、より「学 習用語」についての理解が深まっていくと述べている。単純に「学習用語」を一つ の括りにしないことで、学ぶ側と教える側ともに明確な捉え方ができる。「学 習用語」の用語そのものと内容を捉えることで、用語だけを学ぶ、教えるというと ころで満足せず、しっかりとした「国語科」としての学力が身につくのではないだ ろうか。 14 工藤哲夫 中村和弘 片山守道 同前書 6 p.9 15 大熊徹 片山守道 工藤哲夫 2019『小学校 子どもが生きる国語科学習用語 授業実践と用 語解説』 東洋館出版社 p.168

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- 38 - さらに、「学習用語」は子どものための用語であるということについても田近は 述べている。 もう一つ、確認しておかなければならないのは「学習用語」は子ども側から の用語だということです。子どもの言葉であって、指導用語ではありません。 (中略) 子どもが、いかに自らの学習活動を言葉によって意識化するか――、そして それを子どもに意識化させるのが教師なのです。平たく言えば、教師が言葉を どのように規定し、どのように使おうとしているかということが非常に重要に なってきます。(中略) 子どもにとっての学習用語が、教師にとっての指導用語となることが多く、そ れを手掛かりに授業を進めてしまいがちですが、学習用語以外の指導用語には 教授学的、言語学的、文学的に専門性の高いものが多く含まれており、子ども の実態とかい離してしまっているケースがよく見受けられます。16 「学習用語」は子どもに向けた用語であり、教師がその目的や指導事項を適切に 理解できていないと本末転倒になってしまうという指摘である。単に「学習用語」 を用いた授業をすれば良い、授業の中で扱えば良いということではなく、どのよう な「学習用語」をどのように用いるかが大変重要である。また、子どもたちの学習 が効果的になるように「学習用語」も厳選したほうが良いということである。 以上のように、「学習用語」には様々な定義や捉え方がある。共通点をあげると すれば、「学習用語」を用いることで、学習者や子どもが「国語科」として学ぶ内 容や学習を効果的に、適切に学ぶことができる。 教師も「学習用語」に対する知見を広げ、身につけることによって授業づくりや 指導技術にも大きな変化があると考える。 4.「学習用語」を用いた小・中学校の実践例 第3章では、「学習用語」の様々な言説について、その共通点や相違点について述 べた。それでは、「学習用語」を用いた効果的な国語科の授業のあり方とは一体どの ようなものなのだろうか。そこで、本章では先行実践からどのような点が重視され るかについて整理する。 現段階において全ての実践事例や授業構想を整理できているわけではないが、小 16 大熊徹 片山守道 工藤哲夫 同前書 12 p.168

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- 39 - 学校と中学校の実践事例や授業構想の数を整理すると、小学校98例、中学校5例 であった。これを各学年に分類すると、小1は14例、小2は18例、小3は12 例、小4は19例、小5は20例、小6は15例、中1は1例、中2は1例、中3 は3例であった。 小学校に比べ、中学校では圧倒的に数が少ないことがわかる。この実践事例や授 業構想の数から考えても、中学校における「学習用語」を取り入れた授業が浸透し ていないことがわかる。本来であれば、中学校の実践事例や授業構想を手がかりに したいが、あまりにも少ないため、実践事例や授業構想の数が多い小学校を中心と した実践事例や授業構想について分類・整理し、さらに、重要な点についても整理 する。以下において、5つの実践事例や授業構想について分類・整理する。 17 17 白石範孝 2011『3段階で読む新しい国語授業1』文溪堂 p.13,pp.18-19 実践者 白石範孝(筑波大学附属小学校国語教育研究部) 教材 「きつねのおきゃくさま」 小学校2年 教育出版 扱う学習用語 ①中心人物 ②語り手 ③一文 ④逆思考の図 実践事例や授業構想 第1段階の読み(2時間) ○初読後、新出漢字や難語句を指導し、音読する。 ○10の観点のうち、6つの観点を共通の土俵として、物語の設定や登場人物の関係、事件を大まかに押さえ る。 ・いつの話? ・登場人物はだあれ? ・中心人物はだあれ? ・語り手はだれによりそっている? ・いちばん大きな出来事は? ・事件によって大きく変わったことは? 第2段階の読み(3時間) ○会話文を並べ替えるアニマシオン的活動を通して、物語の構成をとらえる。 ○アニマシオン的活動を通して、本教材のもつ物語の特性に気づき、あらすじを一文でとらえる。 ○アニマシオン的活動で取り上げた会話を表す文をもとに、場面ごとの中心人物の行動と心情の変化を読み取 る。 第3段階の読み(3時間) ○逆思考の図から中心人物の変容過程を読み取る。 ○中心人物の変容過程から、物語の因果関係をとらえ、作品のおもしろさについて自分の考えをまとめる。 授業に対する考え方 国語の授業では、物語教材には物語の「用語」があり、説明文教材には説明文の「用語」があるにもかかわら ず、あいまいにされてきました。「用語」を身につけることによって、子どもたちは、その「用語」を活用し 思考して自分の読みをつくり、その内容を「用語」を使って表現することにつなげることができるのです。 他教科の学習においては、毎時間のように新しい「用語」を習得し、それを活用して思考するという活動が行 われています。国語の学習においても、この「用語」を習得し活用していくことが習得し活用していくことが 重要な課題であると考えています。

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- 40 - 18 18 日本言語技術教育学会編 野口芳宏 1998 「1 野口芳宏の「論破」の授業 論破の力をつ ける指導をしよう」 『言語技術教育7 討論の授業がどんな言語技術を身につけさせるか』 明治図書 pp.10-11 実践者 野口芳宏(鍛える国語教室) 教材 俳句 水原秋桜子 『跳躍台 人なしプール 真青なり』 扱う学習用語 矛盾 誤解 反論 批判 論拠 論証 論点 前提 結論 部分 全体 整合 不整合 授業に対する考え方 「国語科は、国語科として、『読み方の指導』を身につけていく使命を担ってい る。」と述べている。これを身につけるために、国語科で身につける知識である「学習用語」の必要性に重き を置いている。 実践事例や授業構想       論破力をつける基本用語の授業          「跳躍台 人なしプール 真青なり」(秋桜子)        上の俳句の季節は冬である。  これは誤りであるが、子どもたちの半数はこのような解釈をして当然と考えている。この解釈に反対する者 は、この論を破らなければならない。  その場合、ふつうは「冬」だとするとどのような不都合が生ずるかという「思いつき」を、もう少し論理的 な発言に変えていくことが望ましい。そのために「論破のための基本用語」をきちんと教えていく必要があ る。 ①相手の論、考え方、解釈の中にある「矛盾」「誤解」を指摘し、それを「批判」あるいは「反論」する。例 えば、 ・冬だとすると「真青」というのは何の色か。もが生えている色だとすると、ずいぶん汚いことになる。わざ わざ汚い風景を俳句にすると思うか。→(矛盾) ・「真青」というのは、プールの水の美しさを言ったものと考えるべきではないのか。→(誤解) ・私は「冬」という考え方に反論したい。→(反論) ・私は「冬」という解釈を批判したい。→(批判) ②相手の考え方、つまり「論破対象」の中にある問題点を次のような用語で指摘していく ・冬だと考える「論拠」を述べよ。→(論拠) ・冬だということを「論証」せよ。→(論証) ・「跳躍台人なし」ということから、すぐに「冬」だとは言えない。夏だって朝の内とか夜になれば跳躍台に 人はいなくなる。この論点についてどう考えるか。→(論点) ・三つの内の第一の「論点」は、「論拠」がないということによって「論証」ができなかったと考えてよい か。 ③論破対象の構造の中にある問題点を崩していくための用語としては次のようなものがある。 ・そもそも俳句というものは文芸であり、それは芸術の一分野である。芸術というものは基本的に「美」を追 求していくものである。こういう「前提」についてどう考えるか。→(前提) ・俳句は何らかの美の発見、美の創造だという「前提」が崩れれば、当然その結果としての「結論」は違って くるのではないか。 →(結論) ・「跳躍台人なし」という「部分」そのものは確かに冬の情景だということにもなる。しかし、それでは、一 般に美の発見、美の創造という俳句の持つ「全体」的な、目的と整合しなくなるのではないか。→(一般)→ (全体)→(整合)→(不整合) このように、論破の力をつけていくための「基本用語」が教えられることによって、討論はよりいっそう論理 性を高め、無駄がなくなり、複雑でなくすっきりしてくることになり、結果的には効率化、合理化、科学化が 図られていくことになる。

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- 41 - 19 19 柳谷直明 同前書 11 p.27,pp.90-92 実践者 柳谷直明(鍛える国語教室) 教材 「インタビューをしよう」 小学校5年 教育出版 扱う学習用語 ・目的に関わるもの ①黙話 ②理解 ③表現 ④定型 ⑤職業 ⑥調査 ・定型に関わるもの ①あいさつ ②自己紹介 ③質問 ④反応 ⑤お礼 ⑥当方の目的 ・技術に関わるもの ①メモ ②視線 ③話速 ④音量 ⑤明瞭 ⑥丁寧 ・話題に関わるもの ①質問項目 ②役割 実践事例や授業構想 1時間目 「インタビュー」の手続き(「定型」など)を知らせる。「インタビュー」の話題を知らせる。グループで 「インタビュー」させる。向上を自覚させる。 2時間目 保護者に「インタビュー」させる。「スピーチ・メモ」を作らせる。グループごとに「スピーチ」させる。発 表者数名にスピーチさせる。向上を自覚させる。 3時間目 グループごとに打合せをさせる。「インタビュー・メモ」を作らせる。インタビュアーと発表者と記録者のリ ハーサルをさせる。向上を自覚させる。 授業に対する考え方 育てる「国語学力」が決まると「言語活動」を通して指導するという国語科の方法が適切に成立する。「言語 活動」を適正に運用させるために、その手続きを学習 者に育てる必要がある。その「言語活動」を適正に運用させるための主な手続きを〈学習用語〉とした。 実践者 東京学芸大学国語教育学会(小学校) 教材 「お手がみ」 小学校1年 教育出版 扱う学習用語 ① 場面 ② 登場人物 授業に対する考え方 国語科学習において子ども自身が使える学習用語、すなわち「国語科学習用語」を系統的に提示できるよう選 定し、子どもが「国語科学習用語」を獲得し使えるようにしていくことで、個々の国語の学びがより確かに なったり豊かになったりするような授業づくりをしていこうということである。

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- 42 - 20 20 工藤哲夫 中村和弘 片山守道 同前書 6 p.8,pp.102-103,pp.122-123 実践事例や授業構想 第一次(2時間) ○担任の読み聞かせを聞いたり、自分で読んだりして、感想の交流をする。 ○自分の好きな場面や登場人物を紹介し合い、ペープサートと出合う。 〈留意事項〉 ・ペープサートによって、場面や登場人物を意識させ、演じてみたいという気持ちをもたせる。 第二次(3時間) ○場面の区切りを確認し、登場人物の言動を確認する。 ○登場人物の会話や行動から気持ちを想像する。 ○登場人物の気持ちに合わせてペープサートを演じる。 〈留意事項〉 ・場面を区切ることで物語の展開を意識させるとともに、ペープサートを演じることで登場人物に寄り添い、 その言動の理由やその時の気持ちを想像しやすくする。 第三次(1時間) ○かえるくんとがまくんの気持ちをペープサートを演じたことを振り返る。 ○がまくんになったつもりで返事の手紙をかえるくんに書く。 実践者 東京学芸大学国語教育学会(中学校) 教材 「小さな手袋」 中学校2年 三省堂 扱う学習用語 ① 象徴 実践事例や授業構想 第一次(4時間) ○場面ごとの情報整理し、登場人物の役割について考える。 ○視点の移動と「語り」について考える。 ○「雑木林」に注目し、「象徴」の働きと効果について考える。 ○時間の流れを土台に、物語の伏線と働きについて考える。 〈留意事項〉 ・各場面の場所と語の関係について、「伝聞」に着目して捉えていく。 ・登場人物の役割と場所のもつ象徴性についての着目を促す。 第二次(2時間) ○一次を踏まえミニマル・ストーリーを考える。 ○ミニマル・ストーリーに表れる「小さな手袋」の特徴を、「つくられるイメージ」「物語上の機能」「対 比・差異」という点を踏まえ分析する。 ○タイトルに込められた「意味」を想像し、焦点化ということも踏まえ、「象徴」するものについて考える。 ○「小さな手袋」に語を補い、再タイトル化を行う。 〈留意事項〉 ・事柄のつながりや全体像という点に着目し「象徴」の“効果”の意識化を促しながら、「明示されないもの」 の働きについても捉えていく。 授業に対する考え方 国語科学習において子ども自身が使える学習用語、すなわち「国語科学習用語」 を系統的に提示できるよう選定し、子どもが「国語科学習用語」を獲得し使えるようにしていくことで、個々 の国語の学びがより確かになったり豊かになったりするような授業づくりをしていこうということである。

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- 43 - 5つの実践事例や授業構想からは、「国語科」としての学力を身につけさせるとい うことや自分の読みの視点の獲得、個々の国語の学びがより確かなものになるとい うことや豊かになったりするという部分が授業のねらいや授業に対する考え方と して挙げられていた。 筑波大学附属小学校国語教育研究部や東京学芸大学国語教育学会では用いる「学 習用語」がやや少なめであったが、鍛える国語教室においてはひとつの単元ではと ても多くの「学習用語」を扱うという違いも見られた。 鍛える国語教室は比較的、「学習用語」を授業の初めに提示する形式であるが、東 京学芸大学国語教育学会では授業の流れの中で「学習用語」を扱うという特徴も見 られた。 野口、白石、東京学芸大学国語教育学会は「読み」の授業について、柳谷は「言 語活動」、特に「話す・聞く」という部分の授業展開であった。このことから、「学 習用語」は様々な領域の指導にも活用できるということが推察される。 5.本研究のまとめと今後の展望 5-1 本研究のまとめと「学習用語年間指導計画・系統表」 本論文では、「国語科」では何を学ぶべきなのかというところから始まり、その効 果的な手段として「学習用語」に着目した。他教科との比較によって、「国語科」の 授業が〈教材内容〉を重視するあまり、〈教科内容〉を学びにくい、教えにくいとい う課題が先行研究やアンケート調査で浮き彫りになった。「国語科」における〈教科 内容〉を学ぶ、教える際には、「学習用語」が必要であるということを述べた。〈教 科内容〉は最も重視されるべきである。 また、「学習用語」についての研究者と実践者から見た定義についても整理した。 各氏の比較を通して、共通点や相違点などが明確化することができた。「学習用語」 そのものにおいても、用語を内容知と方法知に分類することや、用語を厳選してい く必要性についても整理することができた。 さらに、「学習用語」を用いた実践に関しても触れた。筆者の予想通り、小学校が 中心であり、中学校の実践は少ないように見受けられた。小中のつながりからして も、中学校での実践も積極的に行っていくべきであると考える。「学習用語」を用い た実践事例から、様々な領域で活用することが可能であるということがわかった。 小学校で数多く実践されているのだから、その成果を中学校でも活かしつつ、中学 校においても新たな「国語学力」を身につけていくべきである。 今後の課題としては、本論文の中心として取り扱った「学習用語」そのものにつ

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- 44 - いて深めていくとともに、その効果の可能性を探っていく。 片山守道は、小学校を対象にした学習用語配当計画(試案)を作成している。21 経 験の浅い教員も意図的・計画的に「学習用語」を指導することを目的としている。 学習用語配当計画(試案)では、「単元名」「目標・主な指導事項」「取り上げたい 『学習用語』」の欄が設定されており、どの単元でどの指導事項を、どの「学習用語」 を扱えば良いのかが明確化されている。現場の教師が指導するにあたっては、とて も有効なものになるのではないだろうか。 このような学習用語配当計画が小学校段階で形成されているのにも関わらず、こ れを小学校段階までで閉ざしてしまって良いのであろうか。小中が連結している部 分からしても、中学校段階でも必要であると考える。 前述したように、既に片山が学習用語配当計画(試案)を作成している。しかし、 管見の限りでは中学校では作成されていない。中学校段階においてこのようなもの が作成されれば、「学習用語」を用いた「国語科」としての〈教科内容〉が定着され ていないという課題解決の一端を担うのではないだろうか。 そこで、片山が作成した学習用語配当計画(試案)を参考にしつつ、筆者は、中 学校における学習用語年間指導計画・系統表(試案)を作成している。(試案)を章 末に示しているが、これは途中段階である。 筆者が作成している学習用語年間指導計画・系統表(試案)は、三省堂『平成2 8年度版 中学校国語教科書「現代の国語」』の2年生の単元を基にして作成してい る。新学習指導要領の施行により、教科書改訂される。2019年教科書検定、2 020年教科書採択・供給、2021年全面実施の予定だが、新しい教科書が出来 次第、「学習用語」年間指導計画・系統表の作成を進めていきたい。 さらに、学習用語年間指導計画・系統表については、なぜその用語がその学年で学 ばれるべきなのかということや学ばれる順番に何らかの決まりがあるのかなどに ついても理論を深めていきたい。 本稿では学習用語年間指導計画・系統表の作成を十分にできなかったため、今後 の課題として挙げる。 5-2 「学習用語」を用いた効果的な授業の検証 また、教職専門実習に行っている公立中学校の生徒を対象にした検証授業におい 21 片山守道 2013 「小学校国語科授業における「学習用語」の研究(3): 「学習用語」を 位置づけた国語科カリキュラムの検討(自由研究発表)」 『第 125 回全国大学国語教育学会 発表要旨集』p.442

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- 45 - て、(教師用指導書)(鍛える国語教室)(筑波大学附属小学校国語教育研究部)(東 京学芸大学国語教育学会)の実践事例を深めつつ、それを対象、参考にし、「学習用 語」を用いた効果的な授業はどのようなものなのか、どのような学ばれ方をすれば 子どもたちに、より効果的に「国語学力」が身につくのかということについても自 らの実践を活かしながら研究していく。 本論文を活かして、さらに理論と実践を深めていく所存である。

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- 46 - 図 学習用語年間指導計画・系統表(試案) 汎用性のある用語 専門性のある用語 名づけられた葉 【読(詩)】 2 1.繰り返し使われていること ばを意識しながら音読する。 2.比喩的な表現について、ど んなことをたとえて いるのか 考える。 3.詩の構成に着目して、詩に 込められた思いを捉える。 [学びをひろげよう] 4.⾃分の好きな詩を持ち寄っ て紹介し合う。 〔思考力,判断力,表現力等〕 の内容 C 読むこと ア・エ・オ 擬人法 倒置法 対比 連 擬人法 (中学1年) 倒置法 (中学1年) 対比 (小学4年) 連 (小学3年) 小さな手袋 【読(物語)】 5 1.本文を通読し、設定を捉え る。 2.登場人物の関係を整理す る。 3.展開にそって登場人物の心 情の変化を捉える。 4.象徴的な事柄をとおして、 人と人との触れ合いについて自 分の考えをもつ。 [学びをひろげよう] 5.シホが「雑木林に行かなく なった」場面についての青山さ ん・秋本さんの意見に対して、 その理由を推理する。 〔思考力,判断力,表現力等〕 の内容 C 読むこと イ・オ 登場人物 象徴 題名 語り手 地の文 会話文 擬音語・擬態語 主題 山場 登場人物 (小学2年) 象徴 (小学6年) 題名 (小学3年) 語り手 (小学5年) 地の文 (小学2年) 会話文 (小学2年) 擬音語・擬態語 (小学2年) 主題 (小学5年) 山場 (小学5年) ことば発見1 類 義語・対義語、 多義語 【言】 1 1. 類義語・対義語、多義語に ついて考える。 〔知識及び技能〕の内容 語彙 エ 類義語 対義語 多義語 類義語 (初) 対義語 (初) 多義語 (初) 漢字を身につけ よう 1 【漢】 1.中学校で学習する漢字を読 む。 2.中学校で新しく学習する読 みを学ぶ。 〔知識及び技能〕の内容 漢字 ウ 漢字 漢字 (小学1年から) 学年のつながり (系統) 月 学 び の 扉 を ひ ら く 4 身に付けたい力 (学習内容・指導要領の内容) 単元において有効な学習用語 教材名 【文種・領域】 時 数 単 元 名

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- 47 - 〈参考文献〉 ・阿部昇 2015 『国語力をつける物語・小説の「読み」の授業』 明治図書 ・大熊徹 片山守道 工藤哲夫 2013 『小学校 子どもが生きる国語科学習用語 授 業実践と用語解説』 東洋館出版社 ・片山守道 2013 「小学校国語科授業における「学習用語」の研究(3): 「学習 用語」を位置づけた国語科カリキュラムの検討(自由研究発表)」 『第 125 回全国 大学国語教育学会発表要旨集』 p.442 ・教職ネットマガジン 2012 『鍛える国語教室』 https://kyo-shoku.net/column/book-review/鍛える国語教室/ ・教職ネットマガジン 2012 「『鳥獣戯画』を読む」の指導(1) https://kyo-shoku.net/hints/research/「『鳥獣戯画』を読む」の指導 1/ ・教職ネットマガジン 2013 『国語科授業改善のための「学習用語」』 https://kyo-shoku.net/hints/topic/国語科授業改善のための「学習用語」/ ・工藤哲夫 中村和弘 片山守道 2019 『小学校・中学校 学習用語で深まる国語の 授業 実践と用語解説』 東洋館出版社 ・国語教育研究所(編) 1988 「国語教育研究大辞典」 明治図書 ・佐藤公治 1996 『認知心理学からみた読みの世界―対話と協同的学習をめざし て』 北大路書房 ・中洌正堯ほか39名 2015 『平成 28 年度版中学校国語教科書「現代の国語」』 三 省堂 ・鶴田清司 2003 「文学の授業で何を教えるか ――〈教材内容〉と〈教科内容〉 と〈教育内容〉」 『あたらしい国語科指導法』 柴田義松 阿部昇 鶴田清司 学文 社 p.47 ・白石範孝 桂聖 全国国語授業研究会 2008 『活用力を育てる説明文の授業―この 教材をこの発問・板書で教える』 ・白石範孝 田島亮一 駒形みゆき 江見みどり 倉本佳代子 2009 『東京・吉祥寺発 読みの力を育てる用語―読解力を支える用語の習得・活用―』 東洋館出版社 ・白石範孝 2011 『3段階で読む新しい国語授業1』文溪堂 ・白石範孝 2012 『3段階で読む新しい国語授業2 実践編 物語の授業』文溪堂 ・白石範孝 2012 『白石範孝の国語授業の教科書』文溪堂 ・白石範孝 2013 『3段階で読む新しい国語授業3 実践編―問いをもたせる授業 と説明文 教材がわかる!授業ができる!』文溪堂 ・白石範孝 2013 『国語授業を変える「用語」』文溪堂 ・筑波大学附属小学校国語教育研究部 2016 『筑波発 読みの系統指導で読む力を

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- 48 - 育てる』 東洋館出版社 ・鶴田清司 1995 「文学の授業で何を教えるか : 教材内容・教科内容・教育内容 の区別(<特集>国語教育史研究の課題)」国語科教育 『国語科教育』 全国大学国 語教育学会 pp.83-92 ・鶴田清司 2010 『〈解釈〉と〈分析〉の統合をめざす文学教育』 学文社 ・二瓶弘行 青木伸生 全国国語授業研究会 2008 『活用力を育てる文学の授業―こ の教材をこの発問・板書で教える』 ・日本言語技術教育学会編 1998 『言語技術教育7 討論の授業がどんな言語技術 を身につけさせるか』 明治図書 pp.10-11 ・日本言語技術教育学会編 2005 『言語技術教育14 「この言語技術」を「この授 業」で身につける』 明治図書 pp.54-56・80-81・83-85・96 ・野口芳宏 庭野三省 1997 『立会い授業「雨ニモマケズ」「やまなし」の授業 (鍛 える国語教室シリーズ)』 ・野口芳宏 2005 『子どもは授業で鍛える (鍛える国語教室シリーズ)』 東洋館出 版社 ・野口芳宏 2010 『野口芳宏の国語授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』 東 洋館出版社 ・浜本純逸 2011 『国語科教育総論』 渓水社 ・文部科学省 2017 『中学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説【国語編】』 ・柳谷直明 2004 『<学習用語>の<カテゴリー化>で国語学力を育てる』 明治図書 (いしはら・りゅうへい 東京学芸大学教職大学院・院生)

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【資料編】

図  アンケート調査〈筆者作成〉

参照

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