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括約筋間直腸切除術(ISR)後の便失禁関連皮膚障害に対するスキンケア―ストーマ閉鎖術前からの肛門周囲への予防的保湿剤塗布の有用性―

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[研究報告]

括約筋間直腸切除術(ISR)後の

便失禁関連皮膚障害に対するスキンケア

―ストーマ閉鎖術前からの肛門周囲への

予防的保湿剤塗布の有用性―

甲斐 由美

1)

,横田 香織

1)

,後藤万記子

1)

山田 一隆

2)

,高野 正博

3) 大腸肛門病センター高野病院 看護部1),同 消化器外科2),同 大腸肛門機能科3) [索引用語:括約筋間直腸切除術、予防的スキンケア、肛門周囲皮膚炎] 要 旨 【目的】 括約筋間直腸切除術(ISR)後の一時的ストーマ閉鎖後に、便失禁や頻回便のために 肛門周囲皮膚障害を起こすことが多い。本研究の目的は、この便失禁関連皮膚炎(IAD)に対 して、ストーマ閉鎖前から肛門周囲に保湿剤を塗布指導する予防的スキンケアの有用性を検討 することである。 【方法】 ISR後に一時的ストーマ閉鎖を行った患者を対象に、2016∼2018年に術前から肛門周 囲に保湿剤を塗布する予防的スキンケアを実施した患者(介入群)と2013∼2014年に予防的ス キンケアをしなかった患者(非介入群)の間で、術後7日目と1ヵ月目の便失禁関連皮膚障害の 有無と程度を後方視的に比較検討した。 【結果】 介入群は16名で、非介入群は11名であった。介入群と非介入群のIAD発生率は各々、 術後7日目は12.5%と63.6%(P=0.012)、1ヵ月目は0%と54.5%(P=0.002)であり、術後7日 目も1ヵ月目も介入群で有意に低かった。 【結論】 ISR後のIADに対する予防的スキンケアは有用と考えられる。 はじめに  直腸がんの手術には、肛門を合併切除して人工肛 門を造設する直腸切断術と肛門は切除せずに直腸を 摘出する肛門温存術とがある。後者では、肛門に近 い下部直腸がんに対する手術として、肛門管上縁近 くで直腸を切除・吻合する超低位前方切除術(super low anterior resection:以下、SLAR)や内肛門括約

筋の一部または全部を合併切除する括約筋間直腸切 除術(intersphincteric resection:以下、ISR)などが ある。SLARやISRでは、吻合部保護の目的で一時 的ストーマが造設されることが多く、通常、その3 ∼6ヵ月後にストーマ閉鎖術が行われる。しかしス トーマ閉鎖術後には、頻回の排便、便意促迫感、便 失禁といった排便の機能障害が生じることが知られ ており1-3)、竹原ら4)は、低位前方切除術を受けて一 時的ストーマを閉鎖後1年以内の者が、ストーマ閉 鎖術後に「予想以上の<排便症状への苦痛>を体験 していた」と述べている。この症状は、低位前方切 2020年2月26日受付/2021年3月15日採用 連絡先(Corresponding author):甲斐 由美 大腸肛門病センター高野病院 看護部 〒862-0971  熊本県熊本市中央区大江3丁目2番55号

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除後症候群(low anterior resection syndrome:以下、 LARS)と呼ばれ、患者の術後Quality of life(QOL) の著しい低下につながるとされる。LARSへの対応 として、幸田ら5)は、患者自身が食生活や生活習慣 を改良できるように指導することや薬剤治療による 便性状のコントロールをあげている。また、佐藤ら6) は看護文献研究の結果から、バイオフィードバック 療法も含めたより効果的な骨盤底筋体操を検討する と共に、適切な「排便行為」を導く認知や判断を含 めたセルフケアを促進する方法を検討することなど が、前方切除患者への看護ケアにおいて必要な研究 課題として提起している。  また肛門周囲皮膚障害は、排泄物や洗浄に伴う機 械的刺激などから発症することが多いが、これは失 禁関連皮膚炎(incontinence-associated dermatitis:以 下、IAD)と捉えられる。IADとは『排泄物(尿ま たは便、あるいは両者)の付着に関連して生じる皮 膚障害」 と定義され、患部に不快感、疼痛、灼熱感、 かゆみ、または刺痛といった自覚症状をもたらすと ともに、医療負担増大、患者の自立性の損失をもた らすため、日常生活や睡眠の阻害、QOLの低下が 生じる』といわれている7)。一般社団法人日本創傷・ オストミー・失禁管理学会が発行している「IADベ ストプラクティス」は、スキンケアを徹底すること がIADに対する看護師の役割であり、特に予防に取 り組むことが重要と述べている8)。加えて「看護師 が実施するIADの「スキンケア」とは、皮膚のバリ ア機能を維持・回復させるために行うケアであり、 皮膚バリア機能を補完すること、排泄物と皮膚との 接触を回避すること、そして、排泄物が接触した時 に速やかに除去すること」としている8)  IAD予防ケアについては、たとえば、介護療養型 医療施設でのIAD発生率と看護ケアの関連を調査し た市川ら9)が、微温湯と洗浄剤を使用した陰部洗浄 方法を取りあげ、看護ケアがIADの発生や予防にお いて重要となる可能性を示唆している。  手術後の肛門周囲の皮膚障害については、これま ではIADが発生してからの対応が主であった。IAD を予防するという観点からは、一時的ストーマの閉 鎖術前から、術後の肛門皮膚障害予防のために皮膚 バリア機能を整えておくことは、皮膚障害のリスク 軽減が期待できると考えられる。しかしながら、一 時的ストーマの閉鎖術前からIAD予防を目的として 保湿剤使用を導入した予防的スキンケアについて検 討した研究はない。  当院では2016年頃から、ISR後に一時的ストーマ 閉鎖術を行う患者に対して、術前から肛門周囲へ保 湿剤の塗布を行ったところ、術後の肛門周囲皮膚障 害が減少し、予防的スキンケアの効果を実感してい る。そこで、本研究の目的は、予防的スキンケアを 行っていなかった2016年以前の患者と比較すること で、ストーマ閉鎖術後の便失禁関連皮膚障害に対す る予防的スキンケアの有用性を検討することである。 方法 1.調査方法  ISR後に一時的ストーマ閉鎖術を行った患者を診 療録から後方視的に抽出し、さらに2016年9月∼ 2018年8月の間に術前から肛門周囲に保湿剤を塗布 する予防的スキンケアを実施した患者(介入群)と 2013年6月∼2014年6月の間に予防的スキンケアをし なかった患者(非介入群)に分けて同定した。2014 年6月∼2016年9月の間の患者は、予防的スキンケア を実施した患者と実施しなかった患者が混在してい るため、検討対象から除外した。  検討項目は、年齢、性別、ISRの術式、ストーマ 閉鎖までの期間、術後補助化学療法の有無、ISR術 後合併症の有無、肛門内圧検査結果、術後7日目の 排便回数と便失禁評価尺度(Wexnerスコア、Kirwan 分類)、皮膚障害重症度分類(原田分類、表1)10) よる術後7日目と術後1ヵ月目の皮膚障害の有無とし、 介入群と非介入群の2群間で比較検討した。ISRの 術 式 は、total-ISR(t-ISR)、subtotal-ISR(st-ISR)、 partial-ISR(p-ISR)に分類した。ISRでは直腸の肛 門側切離線を輪状にメスで切開するが、その切開を 行う部位が括約筋間溝であるものがtotal-ISR、括約 筋間溝と歯状線の間がsubtotal-ISR、歯状線がpartial-ISRである11)  Wexnerスコアは便失禁重症度スコアであり、そ の範囲は、0点(便失禁なし)∼20点(最重症便失禁) である12)。Kirwan分類は便失禁の重症度に応じて5 段階のgradeに分類されており、具体的には、Grade 1(便失禁が全くない:perfect continence)、Grade 2(ガ ス失禁のみ:cannot hold gas)、Grade 3(軽度の便失 禁:occasional minor leak or wear pads)、Grade 4(高 度の便失禁:frequent major soiling)、Grade 5(スト ーマを必要とするほどの便失禁:colostomy)であ る13)

 術後IADとしての肛門周囲皮膚障害の有無と程度 は、原田分類10)を用いてGrade 0∼4の5段階に分類

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した(表1)。さらにGrade 0を「皮膚障害無し」、 Grade 1∼4を「皮膚障害有り」として、術後皮膚障 害発生者数と発生率を算出した。 2.介入群への保湿剤塗布の指導方法  ①ISR後一時的ストーマ閉鎖術が決定した日の外 来で、皮膚・排泄ケア認定看護師または外来看護師 が、自宅での保湿剤の使用方法を指導した。保湿剤 は、患者自身が日頃から使用している保湿剤または 当院で推奨している細胞間脂質様成分:セラミド NP・天然保湿因子様成分(ピュアセリシンTM配合 保湿ローション)とした。塗布方法として、入浴後 を含めて1日1回以上、1回量は500円玉の大きさを目 安にやさしく肛門周囲に塗布することなどを、患者 指導用紙(図1)を用いて指導を行い、自宅で保湿 剤の塗布を患者自身で実施してもらった。  ②ストーマ閉鎖術のための入院後には、病棟看護 師が、患者自身による保湿剤の塗布ができていたか を確認した上で、肛門周囲皮膚の観察を行った。ま た、介入群、非介入群を問わず、手術当日の術直後 から当院失禁ケア基準(表2)に基づくケアを実施 した。 3.統計解析方法

 データ分析には、統計ソフトStat View for Windows version 5を用いた。数値はノンパラメトリックデー タとして扱い、中央値(四分位範囲)で表現した。 また各検討項目に関する介入群と非介入群の比較に は、連続変数では、Mann-WhitneyのU検定を、名 義変数ではFisherの直接確率検定を用い、有意水準 は5%未満とした。 4.倫理的配慮  本研究は、予防的スキンケアが、ISR後の患者に おけるストーマ閉鎖後のIADの予防に有用であると 考えて、患者の最大限の利益のために予防的スキン ケアを日常診療として行った結果を、後ろ向きに検 討したものである。また、その対照群として、予防 的スキンケアを行っていなかった時期の患者も後ろ 向きに検討したが、それに関しても、その時期にお いて患者の最大限の利益を考えて、ストーマ閉鎖後 表1 肛門周囲皮膚障害の重症度分類(原田分類) Grade 0:皮膚障害なし Grade 1:紅斑があり、搔痒感や疼痛を伴うもの Grade 2:紅斑、浸軟、軽度のビランを認め、疼痛を伴うもの Grade 3:多発性ビランを認め、出血、熱感が持続するもの Grade 4:難治性*のビラン、潰瘍で出血や灼熱感、激痛を伴うもの *4週間以上持続 文献10)より引用 図1 保湿剤を使用する場所についての患者指導用紙

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のスキンケアを日常診療において行った結果である。 本研究は、個人情報保護の観点から、当院の倫理委 員会において承認を得た。(認証番号:第18-13番) 結果 1.患者背景(表3)  介入群は16名、非介入群は11名であった。表3に 示すごとく、両群とも年齢中央値は60歳代で有意差 表2 大腸肛門病センター高野病院看護部 失禁ケア基準

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なく、性別に関しては、非介入群で男性が81.8%と 介入群の43.8%より多い傾向を認めたが有意差はな かった。術式とストーマ閉鎖までの期間も、両群間 で有意差はなかった。術後補助化学療法は、非介入 群の方が72.7%と多く、ISR術後ストーマ閉鎖前合 併症は、介入群の方が43.8%と多かったが、ともに 両群間で有意差はなかった。 2.肛門内圧検査結果(図2)  一時的ストーマ閉鎖術前の肛門内圧検査では、肛 門静止圧が介入群23.1 cmH2O[14.9 31.1]、非介入 群32.0 cmH2O[19.7 36.0]、肛門随意圧が介入群 112.9 cmH2O[87.6 159.9]、非介入群139.4 cmH2O [100.3 191.1]で、肛門静止圧および肛門随意圧と もに両群間に有意差はなかった。 3.ストーマ閉鎖術後7日目の排便状況(表4)  ストーマ閉鎖術後7日目の排便回数は、介入群で 中央値5回と非介入群の8回より少なかったが有意差 はなかった。Wexnerスコアは、介入群と非介入群 とも中央値16点と高度の便失禁症状を示したが、両 群間で差はなかった。Kirwan分類に関しても、「高 度の便失禁」であるGrade 4が、介入群で12名(75.0 %)、非介入群で9名(81.8%)と最も多かったが、 両群間で有意差はなかった。 4.ストーマ閉鎖術後の皮膚障害の程度(図3、4、 表5)   術後7日目の原田分類10)評価では、介入群(16名) で、皮膚障害を認めないGrade 0が14名(87.5%)と 最も多く、最重症の皮膚障害であるGrade 4は存在 しなかった。それに対して非介入群でも、Grade 0 が4名(36.4%)と最も多かったものの介入群より は明らかに少なく、Grade4が2名(18.2%)存在し た(図3)。すなわち術後7日目の皮膚障害発生率は、 介入群では12.5%(16名中2名)であったのに対し て非介入群では63.6%(11名中7名)であり、介入 群の方が非介入群より有意に皮膚障害発生率が低か った(表5)。  また、術後1ヵ月目の原田分類10)評価では、介入 群では16名全員がGrade 0で、Grade 1∼4に該当する 図2 ストーマ閉鎖術前における肛門内圧検査値の介入群と非介入群間の比較 表3 患者背景の比較 介入群(n=16) 非介入群(n=11) P値 年齢 64[59-70] 69[59-72] 0.59 性別:男/女(男性の割合) 7 / 9(43.8%) 9 / 2(81.8%) 0.11 術式:t-ISR / st-ISR / p-ISR 4 / 7 / 5 2 / 3 / 6 0.60 ストーマ閉鎖までの期間(日) 273[183-338] 243[209-281] 0.55 術後補助化学療法有り(%) 7(43.8%) 8(72.7%) 0.24 ISR術後ストーマ閉鎖術前合併症有り(%) 7(43.8%) 3(27.3%) 0.45 年齢、閉鎖までの期間:中央値[四分位範囲]

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者はなかった。それに対して非介入群(11名)では、 Greade0が5名(45.5%)と術後7日目よりは1名増加 し、Grade 4の患者がいなくなったものの、Grade 1 ∼3が合計6名(54.5%)と過半数を占めた(図4)。 すなわち術後1ヵ月目の皮膚障害発生率は、介入群 では0%であったのに対して、非介入群では54.5% であり、術後1ヵ月目でも介入群の方が非介入群よ り有意に皮膚障害発生率が低かった(表5)。 考察  本研究によって、ISR後に一時的ストーマ閉鎖術 を行う患者において、ストーマ閉鎖術前から肛門周 囲皮膚に保湿剤塗布を行う予防的スキンケアが、ス トーマ閉鎖術後の肛門周囲IAD発生予防につながる ことが示された。介入群において、術後7日目の Wexnerスコア中央値が16点、Kirwan分類で75%が Grade4と高度の便失禁状態であったにもかかわらず、 術後IAD発生率が術後7日目で12.5%、術後1ヵ月目 で0%であったことは、いかに予防的スキンケアが、 術後の肛門周囲IAD発生予防に有用であったかがわ かる。  この結果について、1.皮膚のバリア機能を高め ることによる皮膚障害予防の効果、2.術後1ヵ月ま で皮膚障害発生を予防する効果、3.オムツやパッ ドの装着による悪影響の3つの視点から以下に考察 する。 1.皮膚のバリア機能を高めることによる皮膚障害 予防の効果  スキンケアとは 「皮膚の生理機能を良好に維持す る、あるいは向上させるために行うケア」 と定義さ れる。安部14)は「皮膚の生理機能として重要なのは、 ヒト最外層をくまなく覆い、体液の喪失を防ぎ、内 図3 ストーマ閉鎖術後の原田分類の比較(術後7日目) 表4 ストーマ閉鎖術後7日目の排便回数、便失禁評価尺度の比較 介入群(n=16) 非介入群(n=11) P値 排便回数(回) 5[4-10] 8[5-15] 0.16 Wexnerスコア 16[10-20] 16[15-20] 0.98 Kirwan分類(名)  Grade1 1 0  Grade2 1 1  Grade3 1 1  Grade4 12 9  Grade5 1 0 術後7日目の排便回数、Wexnerスコア:中央値[四分位範囲] 1.0

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臓を守るバリア機能である」と述べ、さらに「皮膚 のバリア機能を保つ」 とは、皮膚に適度な潤いがあ ることを意味する。さらに安部15)は「皮膚のバリア 機能を保つ」ためのスキンケアの基本的な技術とし て、洗浄と保護をあげている。具体的には、「皮膚 を清潔に保つ行為、すなわち洗浄において、一般的 には石けんを使用し、使用後は十分なすすぎと洗浄 後の保湿剤使用が必要である」と述べ、「保護とは、 何かを皮膚に塗布して、文字通り健康を健やかに保 つ行為である」としている15)。市川ら7)も「IADの 予防においては、皮膚保護剤の中でも撥水機能を有 するスキンケア用品の使用が適しており、これに加 えて、皮膚のバリア機能を高める目的で保湿を行う ことが望ましいとされている」と述べている。また、 保湿能の低下や皮脂の減少、さらにセラミドや天然 保湿因子の減少などが原因で、ドライスキンになる ことで起きる皮膚障害もある。  藤野ら16)は、在宅高齢者の予防的スキンケアの研 究において、ドライスキンの予防に保湿剤が有効で あると述べている。このように皮膚障害の予防には、 皮膚のバリア機能を高めること、その方法として保 湿剤使用があると考えられる。  今回、ISR後にストーマ閉鎖術を行う患者に対し、 ストーマ閉鎖術前から肛門周囲に保湿剤塗布を行っ た。ISR術後の皮膚障害について、山田ら1)は、ISR 施行時に造設した一時的ストーマの閉鎖術直後は、 軟便に伴う頻回便とともに便失禁がみられ、肛門周 囲皮膚障害が頻発すると述べている。つまり、この 肛門周囲IADは、皮膚のバリア機能が低下している ため生じたと考えられる。ストーマ閉鎖術後の肛門 周囲IAD予防を目的として、ストーマ閉鎖術施行前 から保湿剤を塗布することが、皮膚のバリア機能を 保つことにつながり、ISR後ストーマ閉鎖術後の肛 門周囲IADの発生率を低下させた可能性がある。つ まり、ストーマ閉鎖術後の自然肛門から便が排出さ れるようになって、便失禁に伴ってIADが発生して から初めてスキンケアを行うのではなく、ストーマ 閉鎖術を予定した直後から肛門周囲の皮膚状態を評 価し、皮膚のバリア機能を維持するために保湿剤を 使用したスキンケアを行うことが、ストーマ閉鎖術 後のIAD減少に寄与することが、本研究で示唆された。 2.術後1ヵ月まで皮膚障害発生を予防する効果  本研究では、手術後1ヵ月目の原田分類10)の評価 でもIAD発生の低減効果がみられた。先に述べたよ うに、術前からの肛門周囲の保湿を中心としたスキ ンケアによって、術後7日目の評価で効果が得られ ていることは、皮膚のバリア機能が高められた効果 と考えられる。しかし、本研究では、術後1ヵ月経 図4 ストーマ閉鎖術後の原田分類の比較(術後1ヵ月目) 表5 ストーマ閉鎖術後の肛門周囲皮膚障害発生者数と発生率 介入群(n=16) 非介入群(n=11) P値 術後の肛門周囲皮膚障害 発生者数(%) 術後7日目 2(12.5%) 7 (63.6%) 0.012 術後1ヵ月目 0 ( 0.0%) 6 (54.5%) 0.002

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過しても介入群の方が非介入群よりも有意にIADが 少なかった。これは、ストーマ閉鎖術前後の保湿剤 使用の効果に加えて、介入群については、ストーマ 閉鎖術前から患者自身が肛門周囲の皮膚のケアを実 践するように、看護師が指導、教育した結果と考え られる。つまり、肛門周囲IADの予防としての患者 自身によるセルフケアの効果が、術後1ヵ月までの 肛門周囲IADの低減に関与している可能性が考えら れる。これは、ストーマ閉鎖術後の肛門周囲IADの 長期的な予防効果を高めるためには、単にストーマ 閉鎖術前から保湿剤を塗布するだけではなく、患者 自身が術前から肛門周囲の皮膚のセルフケアを実践 できるように教育することの必要性を示唆している と考えられる。 3.オムツやパッドの装着による悪影響  小林17)は「角質層における過剰な水分の存在は、 角質細胞間脂質の流出、細胞接着分子の破綻および 細胞間隙の拡大をまねく。その結果、体内の水分喪 失が増え、本来正常な身体が有する皮膚のバリア機 能が障害されることにより、浸軟する」と述べてい る。この皮膚のバリア機能を障害し浸軟を助長する ものにオムツやパッドの使用がある。本研究におい ても、便失禁がみられる患者においてはオムツやパ ッドを装着していることが多かった。特に、ストー マ閉鎖術直後、もしくは手術前からオムツやパッド を装着していた。このオムツやパッドの使用は、発 汗量の増加などの身体的要因、高温多湿などの物理 的要因に加え、失禁状態で排泄物が長期間皮膚に付 着するなど術後の環境によって皮膚が湿った状態に 陥いる状況、つまり皮膚の浸軟状態を助長していた 可能性が考えられる。皮膚の浸軟は、皮膚のバリア 機能を障害するため、炎症・感染を引き起こしたり、 スキントラブルを助長したりするといわれている。 浸軟を起こさないために、小林17)は「原因の除去と 皮膚の清潔や管理について、刺激性の強い石けんを 用いないことや洗浄剤はよく泡立てて愛護的に洗浄 すること、すすぎを十分行い拭く際もやわらかいも ので押さえ拭きする。さらに浸軟した皮膚では、水 分蒸散量が増すため、スキンケア後には保湿するこ と」と述べている。   このように、バリア機能を高めるためには保湿が 重要であるが、蒸れによる浸軟が持続することによ って起こるバリア機能の低下にも注意する必要があ る。つまり、オムツやパッドの装着が皮膚の浸軟状 態を引き起こし、皮膚バリア機能を低下させる1つ の要因になることも念頭に起き、オムツやパッド使 用の有無と浸軟状態を適切に評価しながら、ISR後 ストーマ閉鎖術後の肛門周囲IADへの予防的ケアを 行う必要がある。  最後に本研究の限界と今後の課題について考察す る。限界としては、症例数が介入群16名、非介入群 11名と少ない点、介入群と非介入群の施行期間が異 なる点、IAD重症度評価スケールとして原田分類の みを用いた点があげられる。したがって今後の課題 は、さらなる検討による症例数の増加と、異なる評 価スケールや皮膚状態のより詳細な評価によるIAD 重症度の多面的な評価である。同時期に介入群と非 介入群に分けて検討する無作為振り分け研究も課題 ではあるが、ストーマ閉鎖術後のIADに対する予防 的スキンケアの有用性を実感している本施設では、 患者をIADで苦しませる可能性が高い非介入群を設 ける研究は予定していない。 おわりに  括約筋間直腸切除術後の一時的ストーマを有する 患者において、ストーマ閉鎖術前から肛門周囲に保 湿剤を塗布する予防的スキンケアによって、ストー マ閉鎖術後の便失禁関連皮膚障害の発生率と重症度 が低減することが、本研究によって示唆された。し たがって本予防的スキンケアは、ストーマ閉鎖術後 の便失禁関連皮膚障害に対して有用と考える。  その作用機序として、保湿剤が皮膚の生理機能を 良好に維持・向上することに加え、患者自身のセル フケア実践への教育が効果的であることが考えられ た。したがって今後は、保湿剤塗布後の皮膚状態の 変化やセルフケア実践への教育プログラム開発など も検討したい。 利益相反:なし 引用文献 1 )山田一隆、緒方俊二、佐伯泰愼ほか:下部直腸・ 肛門管癌に対する括約筋間直腸切断術(ISR)の 術後排便機能障害、日本大腸肛門病会誌、69(10): 513∼520、2016 2 )錦織英和、石井正之、古角祐司郎ほか:直腸癌 術後排便障害に関する兵庫県下多施設アンケート 調査結果と排便機能障害に対する当院での取り組 み、 日 本 大 腸 肛 門 病 会 誌、72(8):494∼502、 2019

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3 )船橋公彦、板橋道朗、赤木由人ほか:全国アン ケート調査からみた下部直腸がんに対する括約筋 間切除術の術後排便障害の発生の現状と問題点、 日消外会誌、52(10):551∼563、2019 4 )竹原沙織、武亜希子、西薗見咲ほか:低位前方 切除術後患者が一時的ストーマ閉鎖後に体験する 排便障害への立ち向かい方、日創傷オストミー失 禁管理会誌、19(4):386∼393、2015 5 )幸田圭史、小杉千弘、平野敦史ほか:排便のメ カニズムからみた ISR 後の LAR syndrome6とその 対策:日本大腸肛門病会誌、69(10):507∼512、 2016 6 )佐藤正美、日高紀久江:排便障害を生じる直腸 がん前方切除術後患者への看護ケアに関する文献 的研究、日看科会誌、32(2):64∼71、2012 7 )市川佳映、大桑麻由美:IAD(失禁関連皮膚炎) 予防・ケア、日本創傷・オストミー・失禁管理学 会編、スキンケアガイドブック、第1版、東京、 照林社、2017、p231∼243 8 )日本創傷・オストミー・失禁管理学会:IAD ベ ストプラクティス、照林社、2019 、p4∼5 9 )市川佳映、須釜淳子:介護療養型医療施設にお け るIncontinence-Associated Dermatitis(IAD) の 有病率および看護ケア、組織体制との関連。日創 傷オストミー失禁管理会誌、19(3):319∼326、 2015 10 )原田俊子、川畑節子、宮下カズ子ほか:回腸肛 門吻合術後肛門周囲皮膚障害に対する重症度分類 の試みとスキンケアの実際、日ストーマリハ会誌、 6 (1):85∼93、1990 11 )山田一隆、佐伯泰愼、高野正太ほか:直腸癌̶ 括約筋間直腸切除術、臨外(72)11:116∼122、 2017

12 )Jorge J.M., Wexner S.D. : Etiology and management of fecal incontinence, Dis Colon Rectum. 36(1) : 77 ∼97, 1993

13 )Kirwan W.O., Turnbull R.B., Fazio V.W., et al. : Pullthrough operation with delayed anastomosis for rectal cancer, Br J Surg. 65(10) : 695∼698, 1978 14 )安部正敏:皮膚の解剖生理とスキンケアの意義・ 目的、日本創傷・オストミー・失禁管理学会編集、 スキンケアガイドブック、第1版、東京、照林社、 2017、p4∼9 15 )安部正敏:スキンケアの基本的な技術、日本創 傷・オストミー・失禁管理学会編集、スキンケア ガイドブック、第1版、東京、照林社、2017、p23 ∼25 16 )藤野由紀子、安田智美、道券夕紀子ほか:在宅 高齢者の予防的スキンケアに関する研究―保湿成 分入り入浴剤とローションの比較―、富山大看会 誌、15(2):105∼116、2016 17 )小林直美:皮膚の徴候別アセスメントとケアの 実際③ 浸軟、日本創傷・オストミー・失禁管理 学会編集、スキンケアガイドブック、第1版、東京、 照林社、2017、p36∼39

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