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「~する人[もの]」を表す接尾辞-or について

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Academic year: 2021

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《研究ノート》

「~する人[もの]」を表す接尾辞 -or について

* 太田 聡 1.はじめに 動詞または名詞に付加して動作主名詞(agent noun)(あるいは,道 具や居住者など)を表す名詞を作るもっとも一般的・生産的な接尾辞 は,driver, heater, Londonerなどに見られる-erである。しかし,actor, conductor, percolatorなどのように-orが付加して行為者や道具を表す 例も多く存在する。そこで本稿では,どのような語に対して-orが選ば れやすいのかという法則性を探っていくことにする。ラテン語などから 借入された職業や専門性を表す用語に-orが付加されやすいという語源 的・歴史的な観点のみから答えを求めるのではなく,どのような形態的・ 音韻的特徴を備えた語に-orが付加されやすいのかを考察することを主 眼とする。さらに,-orの特殊性や-erとの振る舞いの違いが,形態論の 仕組みに対して与える理論上の含意について所見を述べる。 2.語形成論書・英文法書の記述 通時的と共時的の両方の視点から,英語の語形成についてもっとも包 括的に論じたのはMarchand (1969)であるが,この研究書においてさえ も,-orの選択に関しては明確な基準は何も述べられていない。そして ただ,sailorは元々(後期中英語(Late ME)において)はsailerであった とか,survivorは 1503 年に法律用語として新造されたとか,génerator, oríginatorなどは,1550 年から 1750 年の間では,ラテン語のアクセント 規則に従って,後ろから2番目の音節に第1強勢があった,などの事実 が個別に列挙されているだけである。よって,-orのつく語に関する歴 史的な記述を詳しく見ていっても,-or選択の条件をすっきりと浮かび 上がらせることは難しそうである。

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のようにラテン語起源の語や,activatorのように接尾辞-ateで終わる語 や,mortgagorなどのように専門用語(特に法律用語)や,author, doctor などのように拘束語基(bound base)につく場合に現れる,と述べられて いる。

最後の部分のauthorやdoctorに関する指摘は,auth-, doct-といった 部分が独立した語ではないということである。この特徴は,たとえば, retailという動詞はあっても,tailという動詞はないので,retailerと tailorという違いが生じる,といったことの説明に利用でき,きわめて 有用である。しかし,こうしたdoctorタイプの例は,-orまで含めて1 語として扱われるわけであるから,「どのような語3 に-orが付加しやすい のか」という本論の問いには,残念ながら答えてくれるものではない。 それから,法律に関する用語などに-orが付加されやすいという 指摘に関して付言すると,法律関係に限らず,sailor, editor, auditor, chancellorなどのように,専門的職業を表す場合には-orが用いられる 傾向が強い。この専門性という意味基準は重要であるが,本論では,意 味的特徴ではなく,むしろ形式的な特徴を求めているので,これ以上の 意味的考察は避けることにする。 さて,上掲の指摘の中で問題となるのは,ラテン語起源の語には-or が選ばれやすいということである。いわゆるルネサンス期から 20 世紀 初頭にかけて,英語では,新しい事象・事物を表現する場合に,ギリシ ャ語やラテン語の語幹や接辞を用いて多くの語が新造されてきた。そし て,たとえばaccelerator, supervisorなどのように,そうした語には-or のつくものが多いことは事実である。しかしながら,たとえばconsume, produce, transformなどはラテン語起源の語であるが,-erが付加する。 つまり,単にラテン語起源の語であるというだけでは,-orを取れるか どうかを決める基準としては不十分と言わざるをえない。 こうした中で注目したいのは,「-ateで終わる語に-orがつきやすい」 という指摘である。このような具体的な綴りによる基準であれば,その 有効性の検証も行いやすい。次節以降では,どのような形態的,あるいは, 音素配列上の特徴を持つ語に-orが付加しやすいのかを確かめるために, 逆引き辞典を使った確認と,無意味語を用いたテストを行っていくこと にする。

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3.逆引き辞典による事実確認 まず,Walker (1983)を用いて,-orのついた語にはどのような特徴が 見られるかを調べてみた。この辞典のpp. 350-6には,-orで終わる名詞 が 581 語挙げられている。その中から,語末部分の綴り字に依って,数 量的に目立つものを示すと以下のようになる(-orとその直前の綴り,実 例,語数の順に示した)。

(1) a. -ator: indicator, navigator, etc. 291 b. -ctor: contractor, predictor, etc. 63 c. -itor: inheritor, depositor, etc. 29 d. -utor: contributor, prosecutor, etc. 16 e. -essor: successor, professor, etc. 15 f. -ntor: grantor, inventor, etc. 14 g. -stor: investor, assistor, etc. 12

この結果からわかるように,-orが圧倒的に多くついているのはindicate のように-ateで終わる語で,ちょうど半数の 50%がこのタイプであった。 その次に多いのはcontractやselectのように-ctで終わる語であり,そ のほかの例は,-itや-essで終わる語や,-ute, -ant, -estなどのように超 重音節(superheavy syllable)で終わる語であった。 4.無意味語テスト 辞書に挙げられた例を基にして-orのつく語の大体の傾向がわかった ので,次に無意味語を用いたテストで,-er/-orの選択にどのくらい綴り や音素配列の情報が影響するのかを確認してみることにする。信頼ので きる2名の英語のネイティブスピーカー(言語学者のE氏とP氏)に,以 下の(2)に挙げた例――アクセント記号も付した――と,それに-erと -orをつけた派生形を横に示して,「これらが新しい動詞だとして,その 動作をする人を表す語を作るには,-erと-orのどちらをつけるのが自然 ですか?」と尋ねてみた。1

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zóviròte, zóvirìnt, zóvirèct, zovírit, zovíriss, zovréss, zóvit

まず,E氏の回答は,「zovirate, zoviract, zovirectは-orを取ると思いま す。zoviroteはzoviroterとしますが,もし機械を表したいならば-orを 選ぶ気がします。zovressはzovressorとなるかもしれませんが,後ろに アクセントがあるなら,presserみたいにzovresserとしておきましょう。 そのほかは-erをつけます」であった。また,この回答中に思い浮かべた 類似語があるかどうか尋ねたところ,respirator, chiropractor, director, motorを思い浮かべたとのことであった。次に,P氏の場合には,「zovirate, zoviract, zovirect, zovressは-orを つ け る で し ょ う。zovirast, zovirute, zovirintは,-erと-orのどちらがついてもよい気がします。そのほかの 例には-erを選びます」という回答であった。また,P氏の指摘で興味深 かったのは,zovirissとzovitは,もし-orをつけるならば,zoviríssor, zovítorという具合に強勢が移動するということであった。 5.まとめ -orがつくのはラテン語から借用した語に多いとするだけでは,あま りにも漠然とし過ぎている。「暗記するしかない」と言っているようなも のである。本稿では,-orがつきやすい例の語末部分の綴りを調べ,無 意味語テストも行うことで,規則性を見出そうとした。その結果,-ate, -ctで終わる語には-orが選ばれる可能性がとても高く,-essで終わる語 にも-orが選ばれてよく,また,-ute, -nt, -st, -itで終わる語に-orが選 ばれる場合もある,という具体的なことがわかった(なお,-ix, -aspなど は,音節構造的には-ateや-actと同類であるが,-orを引きつける力は なさそうである)。2 6.今後の展望 本論の最後に,-erと-orが単なる綴り上の異形というわけではなく, 種類の異なる接辞である可能性が強くあることを示す。加えて,-erの つく派生語と-orのつく派生語が,形態論的に別のメカニズムによって 作り出されているのか否かということにも関連して,紙幅の許す範囲で 論及したい。

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まず,-erがつく場合には強勢の移動が起こることはない。つまり-er はいわゆる第Ⅱ類(classⅡ)の接辞である。が,-orの場合には,éxecute ~ exécutorなどのように強勢の移動が起こる。また,無意味語を用いた 場合にも,P氏の指摘にあったように,強勢移動が観察された。よって, -orには第Ⅰ類(classⅠ)の接辞としての特性が窺える。さらに,author などが存在することは,第Ⅱ類接辞は語のみにつくのに対して,第Ⅰ類 接辞は語よりも小さな形態素につくことができる,という基準にも整合 している。そしてまた,E氏によれば,たとえば,playerに第Ⅰ類接辞 の-alを付加することは不可能だが,creatorには-alをつけることが可 能で,かつ,creatóralと強勢も移動する。よって,-orを-erの異形とし て済ませてしまうのは早計であろう。 英語の屈折形態論においては,(特に動詞の場合,)規則変化形は規則 で作り出し,不規則変化形は記憶から引き出す,という二重メカニズム のモデルがしばしば主張されてきた(Pinker (1999)などを参照)。また, 派生形態論においても,日本語の名詞接辞を分析したHagiwara et al. (1999)は,「さ」付加はデフォルト規則によって起こるが,「み」のつく語 は記憶によって処理されることを論証し,二重メカニズムを提案した。 英語の不規則動詞は,辞書には 300 以上収載されていても,いくつか の変化パターンのグループに分類できるので,本当に機械的記憶(rote memory)を要するのは,be, goなどの使用頻度が非常に高い一部のも のである。また,日本語の「甘み」などの派生名詞は 30 例ほどであるの で,暗記することはそれほど難しくはなかろう。ところが,本論で取り 上げた-orのつく名詞形は,Walkerの逆引き辞典に載っているだけでも 600例近くあった。そして,新しい装置などが作られれば,その数はも っと増え続けるであろう。無意味語テストの際に,E氏がrespiratorな どを思い浮かべたと答えていることからもわかるように,何らかの連想 記憶(associative memory)と類推が働くことは否めないであろう。また, authorなどは-orまで含めてそのまま綴りを覚えている可能性が高い。 しかしながら,-ateや-ctなどで終わる語の場合には,規則に基づいた 処理を行っているものと推察できる。まただからこそ,暗記しているは ずのない無意味語においても,実在語の多少に対応するかのように,-or の選択がなされたのである。つまり,-orのつく語の生成には記憶と規

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則の両方が関わっていそうである。 このように,-orには注目に値する特徴がさまざまあるので,今後, より精緻で斬新な研究を行っていく価値と必要がある。 *動作主接尾辞について考察するきっかけを与えてくれた太田真理氏,無意 味語テストにご協力いただいたN. Edwards氏とJ. Phillips氏,そして,本 稿の構成に関して貴重なご助言を与えてくださった編集委員の先生方に深謝 します。 1. (2)に挙げた無意味語は,抗ウイルス剤の商標名Zoviraxを基にして作った。 英語の実在語らしさをなるべく感じさせないように,ロシア語のような響 きではじまるこの語を選んだ。 2. 西川(2006: 170)は,-orがつくものとして,基体の最後尾が[t]で終わる語 彙がきわめて多く,ほかには,最後尾が[s], [l]で終わる場合もあると述 べている。この指摘は,本論と視点は近いが,最後尾の 1 音のみを抽出し ている点が問題である。たとえば,[t]や[s]で終わるというだけならば,

dissentやcondenseにも-or付加を予測してしまうが,これらにつくのは

-erである。やはり,「-ateや-essで終わる」といった具合に接辞や音群の単 位での捉え方でなくては,正しい一般化ができない。

参考文献

Hagiwara, Hiroko, Yoko Sugioka, Takane Ito, Mitsuru Kawamura and Jun-ichi Shiota

(1999) “Neurolinguistic Evidence for Rule-based Nominal Suffixation,” Language

75, 739-763.

Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum (2002)The Cambridge Grammar of the English Language, Cambridge University Press, Cambridge.

Marchand, Hans (19692[1960])The Categories and Types of Present-Day English Word-Formation: A Synchronic-Diachronic Approach, Beck, München.

Nishikawa, Morio (2006)Eigo Setsuji Kenkyu A Study of English Affixes], Kaitakusha, Tokyo.

Pinker, Steven (1999)Words and Rules: The Ingredients of Language, Basic Books, New

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Walker, J. (1983[1924])The Rhyming Dictionary of the English Language, Revised and

Enlarged Edition with Supplement, Routledge & Kegan Paul, London.

(山口大学) [[email protected]]

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