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障害児のための水泳療法と水泳指導の現状と課題 : 大都市と地方都市の事例から 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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(1)障害児のための水泳療法と水泳指導の現状と課題 -大都市と地方都市の事例から- 浅 野. 由 香. 広 瀬. 信 雄. (山梨大学特別支援教育特別専攻科) (山梨大学障害児教育講座). Ⅰ.はじめに. わが国では水泳用プールの整備と普及により,人々にはプールを利用する機会が増え, スポーツや余暇活動としての水泳が手の届くところとなった。スイミングクラブで水泳の 指導を受ける機会も多くなった。水泳への関心の高まりに伴い,障害のある子どもたちに もプールを利用する機会が増え,スイミングクラブに通う子どもも増加している。学校に プールが整備されたことも,水泳が一般的な余暇活動になったことの背景になっている。 障害のある人と水泳の関わりは,運動療法の延長としての水泳と,レクリエーション的 色彩をもつ水泳と,2つに大きく分類できる(石原・江上・武藤・宮下,1989)。 小論では,水泳療法と水泳指導の双方の立場について述べ,事例を大都市と地方都市に 求め,障害のある子どもたちにとっての水泳療法と水泳指導の特徴を明らかにしたい。. Ⅱ.水泳療法の立場と水泳指導の立場. 1.水泳療法 水泳療法とは,水泳という運動手段を用いて,身体諸器官の機能にはたらきかけ,何ら かの医学的効果を期待する行為のことである(表1参照 )。水を治療の目的として使われ た歴史は古く,古代ギリシャの医師・ヒポクラテス(前460年頃~前375年頃)の時代から行 われてきた。彼は温水と冷水を使った交代浴を指導したと言われている。以来,筋の痙性 緩和を目的として,冷水浴,温水浴,交互浴など様々な形態の水治療法が「Hydro Therapy」 としてヨーロッパで発展した。日本でも昔から豊かな温泉資源を活用して「湯治」が行わ れている。さらに,それまでの水治療法に加え,水中での機能訓練が取り入れられるよう になり,いわゆる水泳療法へと発展した。. 2.水泳指導 水泳指導とは,泳法獲得を目的とした指導を指す(表1参照 )。歴史的には,人間泳法 の進歩は遅々としており,中世でも動物の泳ぎを模倣した段階であった。19世紀に入りイ ギリスの産業革命後のブルジョワジーが賭けレースをするようになり,泳ぎにスピードが. - 84 -.

(2) 求められるようになったことから,水面に顔を出した抵抗の大きな泳ぎが顔をつけた泳ぎ になり,いかに上手に呼吸するかが課題となり,いろいろと工夫され今日のような近代泳 法へと発展した。 表1. 水泳療法と水泳指導の一般的特徴 水泳療法. 水泳指導. 目. 的. 医学的効果(治療). 泳法獲得. 領. 域. リハビリテーションの一環. 教材としての水泳. 歴. 史. Hydro Therapy. 水術. 障害の軽減. 体力,精神力,健康の向上. ねらい. 3.わが国における水泳療法と障害児のための水泳指導の始まり わが国において水泳療法という用語をはじめて用いた文献は,1983年の宮下充正,武藤 芳照による『水泳療法の理論と実際』である。しかし,財団法人日本水泳連盟では,1977 年から毎年「水泳科学シンポジウム」を開催しており,1979年には「治療・予防の手段と しての水泳 」,1981年には「心身障害児水泳の理論と実際」というテーマでシンポジウム が開催されている。つまり,先に述べた文献が出版される以前にも,医学的リハビリテー ションや教育の場面で水泳という運動手段は広く用いられ,いろいろな疾患や障害に対し て一定の効果をあげていたことがうかがえる。 1992年には,ベトナムから来日した,結合体双生児の弟ドクが神戸に滞在し,兵庫県総 合リハビリテーションセンターで水泳による運動療法を受けた。ドクは,新しい義肢への 交換とその装着訓練のため来日した。分離手術から4年が経過しても,脊椎は右へ側弯し ていたので,立位姿勢のとれる好ましい調整能力や感覚を身につけることを目標とし,様 々なアプローチの中から,水環境の利用が採用され,水泳による療法が開始された。 水泳指導の始まりについては,武士の心得としての武芸十八般の中に水術が挙げられ, 身体の鍛錬・武芸の一つとして発展した。多数の武功によって,水中潜行の有効性が伝え られ,江戸時代には藩校で武術の科目として水術の指導が始まった。戦後昭和22年の学校 体育指導要領以来,現在も水泳は学校教育の教材として取りあげられている。学校教育だ けでなく,カルチャーセンターなどで水泳指導が行われ,水泳は身近なスポーツ・レクリ エーションとなった。障害のある子どもを対象にしたコースを持つ水泳教室も増えている。. Ⅲ.水泳療法と水泳指導の実際. 現代における水泳療法と水泳指導の実際として東京都A園における指導実践とM市Bプー ルにおける指導実践の分析を試みる。. - 85 -.

(3) 1.東京都A園における水泳療法 筆者は東京都A園における水泳療法の観察参加の機会を得た。A園での水泳療法の概要を 表2に示す。筆者は2006年7月7日から同8月25日まで非関与観察にて参加した。 表2. 東京A園の実施概要. 曜. 日. 毎週金曜日(月3回). 時. 間. 12:15~13:15. 対. 象. 就学前の主にダウン症児. 参加人数. 約10人. スタッフ. 指導者2人,A園職員2人,保健師1人. 条. 親子で参加すること。. 件. A園では,ベビースイミングの専門的指導者と発達学的水泳療法の提唱者である理学療 法士が指導にあたっているため,専門性が高い。スタッフについても,この2人に加え,A 園の保育士2人がプールに入り,プールサイドには保健師が常時待機している。そのため, 子どもたちに十分目が行き届き,安心して活動できる体制になっている。 ここでの水泳プログラムは,発達学的水泳療法の理論をもとに行われる。これは発達の 原理を理論的背景としたプログラムであり,水治療法や発達援助,体力増進のための水泳 という捉え方ができる。泳法の獲得が主たる目的ではなく,水中での様々な経験を日常生 活に生かすということを指導理念としている。 活動中,言葉かけを頻繁に行ったり,できたことを賞賛したり,みんなの前で模範演技 をさせたりして,楽しい雰囲気作りや運動に対する意欲の高揚にも配慮していた。活動が 終わってからも退水したがらない子どもも観察されたことから,ここでの活動や水という 環境は子どもたちにとって魅力的なのだと考えられる。 A園における水泳療法は子どもたちにとって,楽しいだけの活動ではなく,多少訓練的 な傾向がある。実際,潜るという行為に対して,泣き出してしまう子どももいる。しかし, 指導的な傾向があることで,達成感や満足感を得ることができるという魅力も有している のではないかと考える。活動中,課題をこなして得意げな顔をみせる子どもたちの様子が そのことを表している。 対象が就学前の子どもたちで,親と一緒に入水することを原則としているため,親への 指導も多い。内容としては,子どもたちが水中での安心感を得るための親の基本的な態度 についてである。たとえば,潜るという行為で泣き出した子どもに対しては,毅然とした 態度で接するように指導される。親が心配すると,子どもの不安はなくならない。また, 親は子どもの微妙な変化にも気を配り,子どもの動きを引き出していく必要があるとされ, 水中での自立と,適切な親子関係の確立とは強く関係するとされていた。A園での活動は, 親子での活動ということに関する利点を十分に生かしていると考えられる。 以下にA園の水泳療法の特徴について整理する。. - 86 -.

(4) (1)指導者の専門性が幅広く,指導体制が充実している。 (2)理論的背景のあるプログラムの立案及び実施を行っている。 (3)活動に関しては,教育・訓練的傾向が含まれ,達成感が重視されている。 (4)親の期待感が大きい。 (5)水泳活動を通して,子どもの発達を促すことが基本的ねらいとされている。 (6)泳法の獲得が目的ではあるが,泳法にはこだわらない。 大都市において水泳療法を実施しているA園では,設備・スタッフ等が充実した環境の 中,系統立ったプログラムに則り,子どもの発達を促すという目的のもとに教育・訓練的 傾向を含む活動を行っている。目的的で焦点化されたアプローチが子どもや親の期待に応 えるものとなっていると言えよう。. 2.M市Bプールにおける水泳指導 筆者はM市Bプールにおける水泳指導の観察参加の機会を得た。Bプールでの水泳指導の 概要を表3に示す。筆者は2006年7月18日から同12月19日まで指導助手として参加した。 表3. Bプールの実施概要. 曜. 日. 毎週火曜日(月4回). 時. 間. 15:30~16:30. 対. 象. 障害種,年齢は限定されていない. 参加人数. 3人. スタッフ. 指導者2人(内,常勤1人). 条. 一緒にプールに入る大人がいること。. 件. Bプールの水泳教室に通ってくる参加者は,10年以上の水泳歴の者が多い 。「火曜日の この時間はプールの時間」というように,水泳が生活の一部になっている。各々が自分の ペースを確立しており,それに従いそれぞれが活動している。入水の時間が決められてい るわけではなく,準備のできた者から入水し,活動を始める。退水も各自プログラムが終 わったら,それぞれ退水し解散する。人数が少ないので,空間的にも時間的にも余裕が多 く,自由度が高い。 Bプールでは,年に2~3回,指導者として東京の理学療法士を招いている。以前,障害 児を療育する施設に母子入所した経験がある親子が,この指導者の水泳療法を受け,退所 後もその継続を希望したという経緯である。この指導者は子どもに対する指導のみならず, 子どもの指導にあたるヘルパーや母親にも指導の仕方をアドバイスする。 水泳プログラムについては,グループ活動がなく,全て個別活動である。しかし,一緒 にプールに入る親やヘルパーが参加者との間のコミュニケーションが促されている。 また,Bプールの特色として,一人ひとりの状態や気分をも配慮してプログラムが柔軟 に編成されるということが挙げられる。子どもたちの好きな水泳を,より楽しく行うとい. - 87 -.

(5) うことに活動の主眼が置かれているため,活動の中で,子どもたちの学校や仕事先での様 子を親に聞いたりして,プログラムの時間配分を変化させたりする。Bプールの参加形態 の特徴として,保護者がヘルパーを雇っているということがあげられる。参加者のほとん どが移動や着替えに支援を必要とする。以前は親一人で活動の同伴や子どもの着替えを 行っていたが,子どもが成長するにつれ,負担が大きくなり,ヘルパーを雇い始めたとい うケースが多い。移動や着替えに支援を必要とする場合は,参加者自身の意思があっても 容易に参加することができないという実情がある。 Bプールの施設はバリアフリーの整備が少ない。着替えに支援が必要な者は仮設の更衣 室を使用する 。「施設が不十分なことで大変なことはあるが,そのことで逆に子どものか らだが丈夫になっているかも」と参加者の親たちは肯定的に受け止めている。 以下にBプールの水泳指導の特徴について整理する。 (1)特定の講師を外部から不定期で招いている。 (2)一人ひとりのレベルや体調に合わせて活動内容を柔軟に編成している。 (3)少人数グループである。 (4)水泳を楽しむことに主眼が置かれている。 (5)バリアフリー等の設備が不十分である。 地方都市における水泳指導を実施しているBプールでは,設備やスタッフ等が不十分で はあるが,より楽しく活動することを主眼とし,一人ひとりそれぞれのプログラムに則り, 少人数で長期にわたって活動している。限られた条件の中で,大都市のように十分ではな いが,一人ひとりに向き合った丁寧な水泳指導がなされている。. Ⅳ.可能性と課題. 小論では,事例を大都市と地方都市に求め,そこで行われている実際の指導について取 りあげ,特徴を記した。以下,これから浮かび上がってくる,障害児の日常的な生活の中 で行われる水泳について,その現代的な課題と可能性を記しておきたい。. 1.親の立場について 水泳療法や水泳指導に子どもを通わせている親の思いとして,子どもの発達や文化的生 活への期待,余暇の有効活用,より治療的側面としての水泳を求めていることがうかがえ る。習い事として何かをさせてあげたい,もしくは障害を少しでも軽減させたいという期 待をもって通っている親が多い。地方都市では車で1時間かけて水泳教室に通ってくる親 子もいるほど,親の思いは大きい。. 2.教育的側面 「水中での多様な運動の経験により,子どもに運動する勇気と自信を与え,それにより - 88 -.

(6) 自尊心が育まれたり,運動することへの意欲が高められたりする」と多くの指導者が述べ ているように,水中での多様な経験を通して得た自信が,日常生活で様々なことに挑戦す る力になることが期待されている。水泳をすることが生きていく上で,必ずしも不可欠な ことではないが,様々なことを経験し,より活動的に生きていくという意味で,水泳は有 効な手段であると認識されている。 また,水泳に通うことで生まれる友だちの存在やその場での人間関係の構築,集団活動 での協調性,やりがいや趣味や特技の開発など多岐にわたる可能性が期待される。. 3.心理的開放 水泳教室に通うことが日常生活のリズムの中に埋め込まれ,生活の一部になっている者 も多く,水泳が生活における楽しみや自信になることへの期待も挙げられる。水泳を特技 とし,自信を持つことが日常生活へ積極的な影響を与えることが考えられる。. 文献. 1) 石原俊樹・江上潤子・武藤芳照・宮下充正(1989) 養護訓練法ハンドブック.福村出 版,177-193. 2) 児玉和夫・覚張秀樹(1992) 発達障害児の水泳療法と指導の実際.医歯薬出版. 3) 覚張秀樹・鈴木陸子(1988) 発達障害児と身体運動~水泳療法を中心に~.療育の窓, 65,2-29. 4) 宮下充正・武藤芳照(1983) 水泳療法の理論と実際.金原出版.. - 89 -.

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