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ローター・クーレン(著)「租税逋脱と刑法」

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(1)租税逋脱と刑法 ロ ー タ ー ・ ク ー レ ン(著) 内 海 朋 子(訳). 訳者はしがき. について申告し,支払われていなかった税金を 事後的に納付すれば刑事責任を免責する制度で. 以下 に 紹介 す る の は,2013 年 6 月 27 日 に. ある.ドイツにおいては,自首に関する刑の減. 行 わ れ た 横浜法学会平成 25 年度第 1 回研究. 軽規定(日本刑法 42 条)に相当する規定が刑. 会 に お け る, ローター・ クーレ ン 教 授(マ. 法典中 に な い が,租税逋脱 に つ い て は 公課法. ン ハ イ ム 大学)の 講演 で あ る.クーレ ン 教. 371 条に自首による刑事免責規定があり,寛大. 授 は 2012 年 に Grundfragen der strafbaren. な措置が採られていた.自首不問責規定は結局. Steuerhinterziehung を公刊しておられるが,. のところ廃止されなかったが,海外にある秘密. 教授によれば,租税逋脱の研究の契機となった. 口座のすべてについて自首しなければ免責は認. のは,本講演中でも触れられている,いわゆる. められない立法がなされた.. 租税 CD の問題である.顧客情報に関する守秘. このような重罰化の動きがみられた反面にお. 義務が厳格に守られる海外の銀行に金銭を預け. い て,③ 租税刑法犯 に つ き,刑罰 の 一時停止. て国内での課税を免れることの対策として,ド. 制度を導入するという立法提案もなされている. イツの税務署が海外の銀行の顧客データを違法. が,これは租税逋脱犯重罰化の傾向とは一致し. に獲得し(顧客情報が記録された CD を買い取. な い.租税逋脱犯 を 寛大 に 扱 う の か 重罰化 す. るという形で行われる) ,それにより脱税を摘. るのかに関する立法者の態度は徹底しておら. 発し, 多額の税を徴収することが許されるかが,. ず,この点をクーレン教授は批判しておられる.. 現在ドイツで社会問題化しているのである.. クーレン教授自身は,重大な租税逋脱犯につい. ドイツにおいては租税逋脱が明らかになって. ては重罰化が許されるが,軽微なものに対して. も多くの場合には刑事手続が打ち切られ,刑罰. は非犯罪化する方向を選択すべきと考えてお. が科される場合でもほとんどは罰金刑にとどま. り,租税逋脱犯に対して二元的な扱いをするこ. り,自由刑を科す場合でも執行猶予が付される. とを主張しておられる.. ことが多い.ところが租税 CD により多額の租. なお,脚注はオリジナルの講演原稿につけら. 税逋脱が明らかになったため,①多額の租税逋. れていたものであるが,読者の便宜を考えて文. 脱(50 万 ユーロ 以上)の 場合 は,軽罪 で は な. 末脚注の形で説明をつけ加えた.さらに,講演. く重罪に格上げする,② 自首不問責制度を廃. 内容の後に,講演会当日に行われた質疑応答に. 止する,といった一連の立法提案がなされた.. ついても記してある.. ②の自首不問責制度とは,隠匿していた所得.

(2) 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 4・5 号(2014 年 1 月). 162 (458). ********. いといってよい5).. Ⅰ はじめに. 3 ドイツでは,租税逋脱は,法政策的な観点か. 1 ドイツでは,故意による租税逋脱は,犯罪. ら,現在とてもよく議論されているテーマであ. 1). 行為とされている .これは,100 年ほど前か. る.特に世間の強い関心が寄せられてきたのは,. ら公課法 370 条で規定されているとおりであ. 多くのドイツの財産家達が,スイスやリヒテン. る2).そ の 規定 の 定 め る と こ ろ に よ れ ば,租. シュタインなどの銀行に金銭を預けているとい. 税逋脱 と は,財務官庁 に 対 し て,租税 に 関 す. う事実がこの 5 年間ほどで明らかになってきた. る 重要事項 に つ き,不正 な,あ る い は 不完全. ことである.これらの国の銀行は,顧客情報に. な申し立てを行うこと,あるいはそもそも全. 関する守秘義務を守るため,それらの銀行に金. く申請を行わないことにより,租税を免れる. 銭を預ければ,それらの資産に対する利子は,. 3). ことをいう .租税逋脱の法定刑は,5 年以下. ドイツ国内での課税を免れることができる.そ. の自由刑i),もしくは罰金刑ii)であり(公課法. こで,ドイツの所轄官庁が,違法に得られたそ. iii). iv). で あ る.租税逋脱 の 額. の手の情報が記録されている,いわゆる租税 CD. が 大 き かった り,公務員 と 共謀 し た り,偽造. を買い,租税逋脱の手続きで用いることが許さ. された証拠書類を行使した場合など,特に悪. れるかどうかについて,学説や実務において争. 質な事案については,6 月以上 10 年以下の自. われた6).いくつかの州ではそのような CD の購. 由刑に処せられる.. 入は許されていないが,他の州では,これを許. 370 条 1 項. ),軽罪. し,税務署側はそれによってかなり多額の税収 2 現実には,租税逋脱は重大な役割を果たし. 入を得ることができている.このこととの関係. ている.ドイツの年間税額の少なくとも 10%. で,実務において,そのような違法に得られた. は隠されていると考えられている4).例えば,. 情報につき刑事手続きにおいて証拠能力を認め. 一般市民が汚職行為を行うようなことは全くな. るかどうかという重大な問題が生じるが,連邦. いといってよいが,おそらくほとんど全員のド. 憲法裁判所は近時,これを肯定したのである7).. イツ国民が,租税逋脱なら何らかの経験がある といってよい.比較的軽微な租税逋脱は広く行. 4 これらの経緯をふまえ,2010 年以降には,. われているし,それはたいした問題ではないと. 刑事政策的観点から一連の提案がなされた.. 考えられている.租税逋脱が明らかになれば, 大抵の場合は,刑事手続きが打ち切られ,そし. a)第一に,多額の租税逋脱を行った場合(50. て刑事罰よりも穏やかな制裁措置が採られる. 刑罰が科されるとしてもその 90% は罰金刑で ある.自由刑 は,大抵執行猶予付きであって, 5 年以上の自由刑が科されることはほとんどな . 1)これに対し,過失による,厳密には軽過失 による租税逋脱行為については,秩序違反が問題 となるにすぎない(公課法 378 条 1 項). 2)立法経緯 に つ い て は Kuhlen, Grundfragen der strafbaren Steuerhinterziehung, 2012, S. 23 ff. 3)より正確には Kuhlen(前掲注 2),S. 5 ff. 4)詳しくは Kuhlen(前掲注 2),S. 65 ff.. . 5)2010 年の実績では 14 件.すなわち 14000 件 の有罪判決のうちの 0.1% にすぎない.Kuhlen(前 掲注 2) , S. 69 f. 6)より詳しくは Kuhlen(前掲注 2) , S. 1, 107 を参 照. 7)BVerfG JZ 2011, 249. Wohlers による評釈あり. 賛成する論者として例えば Coen, NStZ 2011, 433.反 対,Kühne, Die Verwertbarkeit von illegal erlangten Steuerdaten im Strafverfahren – zugleich eine Stellungnahme zum Beschluss des BVerfG v. 9. 11. 2010, in: Heinrich u. a.(Hrsg.) , Festschrift für Claus Roxin, 2011, S. 1269 ff. 等..

(3) 租税逋脱と刑法(クーレン). (459) 163. 万ユーロ= 1 ユーロ 120 円で 6000 万円)には,. 題がそもそも生じない選挙権者の支持を得よう. 軽罪ではなく重罪v)に格上げする.. と望むであろう.すなわち左派政党の政治家た ちである.もちろん私は,この政党政治的な問. b)第二に,自首不問責制度を廃止する.自首. 題に対して立場を明らかにするつもりはない.. 不問責制度とは,隠匿していた所得について申 告し,支払われていなかった税金を事後的に納. 6 私の関心はむしろ,近時の議論によって明. 付すれば刑事責任を免責する制度であり,まだ. らかになった租税逋脱の可罰性について,法律. 見つかっていない租税逋脱を見つけ出すことを. 的にどのように解決すべきかを探究することに. 可能 と す る 制度 で あ る(公課法 371 条) .こ. ある.そもそも,そのような解決策が可能か,. の自首不問責制度は完全に撤廃されるには至ら. 可能だとしたらどのような形で行うべきかの問. なかったものの,2011 年に大幅な制約がなさ. 題は,実質的犯罪行為概念における有効性概念. 8). れた .. や,処罰根拠と刑罰の限界づけを行うためのこ れに類する概念をめぐっての,抽象的な刑法理. c)第三に,租税刑法犯に対する刑罰の一時停. 論の課題である.時間の都合上,この問題の総. 止である.この提案も総論においては実現しな. 論を議論することはできないが,これから論じ. かったが,政府はこの刑罰の一時停止の問題に. る租税逋脱に関する諸問題の分析は,刑事政策. 関連して,スイスとの租税条約の締結に向けて. 的な問題に対して,法律学的な見地から,いか. 努力した.この条約は 2011 年 9 月 21 日に調印. なる可能性を提示し,いかなる限界づけがなさ. にまでいたった.しかし,連邦議会では少数派. れるべきかを論じるにあたって,恰好の例を提. であるが,連邦参議院で多数派である左派政党. 供するということは指摘しておきたい.. の反対によって発効するにいたらなかった.. Ⅱ 故意による租税逋脱の要罰性と当罰性. 5 ドイツ・スイス租税条約の失敗は,この租. 租税逋脱を処罰することが正当か,もし正当. 税刑法犯に対する刑罰の一時停止や,それのみ. であるならば,さらに軽罪にとどめるべきか,. ならず租税犯罪の重罪への格上げ,自首不問責. それとも重罪として処罰すべきかについては,. 制度といった問題すべてが,政党の政策方針に. 実質的犯罪行為概念の理論によれば,要罰性と. 左右される問題であることをはっきりと示して. 当罰性とが必要である9).. いる.いずれにせよ,ドイツで政治問題になっ ている,資産収益の秘匿によって逋脱された租. 1 租税逋脱の要罰性は,租税逋脱の責任を個. 税は,事実上,そのような資産収益を生み出す. 人に還元することによって租税誠実性vi)が促. 財産を有している者の手元に,税として納めら. 進され,あるいは租税逋脱を一定程度防止する. れることなく留まっている.そのような租税逋 脱を穏便に処理したい政治家は,右派の,資力 のある選挙権者の支持を受けることを望むであ ろう.これに対して,租税逋脱に関する問題に は厳格に対処すべきだと考える者は,十分な資 産を持っていないためにこうした租税逋脱の問 . 8)Beckemper/Schmitz/Wegner/Wulf, wistra 2011, 281 ff.; Kuhlen(前掲注 2),S. 156 ff. 参照.. . 9)要罰性・当罰性共に多義的に用いられている. こ の 点 に つ き,Roxin, Strafrecht Allgemeiner Teil I, 4. Auflage 2006, § 23 Rn. 34 ff.; Günther, JuS 1978, 8(11 ff.) ; Frisch, An den Grenzen des Strafrechts, in: Küper/Welp(Hrsg.) , Festschrift für Walter Stree und Johannes Wessels, 1993, S. 69 f.; Kuhlen, Strafrechtsbegrenzung durch einen materiellen Straftatbegriff?, in: Wolter/Freund(Hrsg.) , Straftat, Strafzumessung und Strafprozess im gesamten Strafrechtssystem, 1996, S. 77(85 ff.) ..

(4) 164 (460). 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 4・5 号(2014 年 1 月). のに適切であり,かつ必要である場合に認めら. 罰性判断が行われ,具体化されている他の犯罪. れる.租税逋脱において制裁に値する禁止が必. と比較しながら,様々な比較衡量を経て,結論. 要であるかどうかは,問題なく肯定されると思. 12) を導き出す」 .私もこの手法により検討する. われる.これに加え,租税逋脱の処罰がまさに. が,この手法によれば個々の規範における当罰. 一般予防の観点から必要であるかどうかが問題. 性を検討していくことにより,現行法の価値評. となるが,これも肯定されるであろう.という. 価を他の犯罪に転用する場合に,安定的な判断. のは,重大な租税逋脱の事案においても完全に. を行うことができるようになる.パラドックス. 刑事免責をしてしまうことは,積極的一般予防. に聞こえるかもしれないが,これを実質的犯罪. の観点からのみならず,消極的一般予防の観点. 行為概念の形式的側面とでも表現できるかもし. 10). からも問題であると思われるからである .. れない.. 2 こうして租税逋脱の当罰性が重要な問題と. 3 通説によれば,租税逋脱の構成要件は,国. なる.ある行為が当罰的とされるのは,その行. 家の財産を保護するものであると考えられてお. 為の不法内容からして処罰に値すると思われる. り,私も通説に賛成する13).より詳しくは,租. 場合においてのみである.この実質的犯罪論概. 税逋脱は詐欺罪の特別類型であって,詐欺罪と. 念の中心的基準がどの程度内実を伴うものであ. 共通する性格を持つ財産犯であるといえる14).. 11). るかについては,判断は分かれている .私は. そこで,租税逋脱の当罰性については,他の財. この点につき,当罰的という概念の中に,それ. 産犯と比べて,特に詐欺罪との比較において判. に見合った内容の価値を盛り込むことができて. 断すべきである.詐欺罪vii)は,現行刑法にお. 初めて,この概念が有用になると考える.しか. いて租税逋脱と同じ法定刑が定められており,. しながら,このように考える場合, 「当罰性」の. しかも租税逋脱と同様,軽い場合と特に重い場. 中に盛り込まれた価値が, 「当罰性」というベー. 合とが分けられている.. ルに包まれて,その内容が明らかにされないま ま,あたかも法学的な分析を経ているかのよう. 4 100 年ほど前は,状況は全く異なっていた.. に主張されてしまう危険性は否定できない.. 租税逋脱は行政犯罪であって,その不法内容は 単なる市民の行政不服従にあると考えられてお. もし,当罰性の概念に実質的な内容を与える. り,その不法内容は詐欺罪に比べ,著しく低い. 価値判断が明らかにされ,当罰性判断の要求が. も の で あった.し た がって,代替自由刑viii)と. これに相応して相対化されるならば,事情は異. 累犯の場合を除けば,法定刑も罰金刑のみで. なってくるであろう. 真っ先に考えられるのは,. あったix).. このような評価基準を,現行法から読み取ると いう方法である.フリッシュが適切に指摘して. 第一世界大戦後以降,すなわち 1919 年公課法. いるように,我々は,具体的にある特定の行為. 以降,租税逋脱 は 次第 に 重罰化 さ れ て いった.. 態様の可罰性について検討する際には,その行. 租税逋脱はもはや行政犯罪ではなく,真正の刑. 為のみを個別に評価するのではなく, 「既に当. 事犯罪だと考えらえるようになったのである.. . . 10)より詳しくは Kuhlen(前掲注 2),S. 90 ff. 11)この点については,私の見解(Kuhlen(前 掲注 9),S. 85 ff.)と Frisch(前掲注 9),S. 69 ff. とで は立場が分かれる.. 12)Frisch(前掲注 9) , S. 80. 13)この点につき Kuhlen(前掲注 2) , S. 37 ff. 14) 例えば BGHSt 36, 100(101) . Kuhlen(前掲 注 2) , S. 42 f. においてさらに詳しく説明した..

(5) 租税逋脱と刑法(クーレン). (461) 165. その結果,既に述べたように,詐欺罪に匹敵す. てであるが,国家というのは自然人ではなく,. るものだと考えられるようになった.この傾向. 巨大な団体である.そのような団体に対する行. は現在まで続いており,実際にも単なる行政犯. 為は,詐欺罪の被害を受けた自然人よりは,通. 罪としての違法性しかないと考えるには不適切. 常は,被害による痛みが少なく,そのため結果. な,重大な租税逋脱が存在するのである.. 無価値が減少する.これは租税逋脱に限られた 話ではなく,例えば,租税逋脱と同じように. 5 しかしながら,もし租税逋脱を財産犯だと. 広く行われている保険金詐欺x)などにも妥当す. 考えたとしても,詐欺罪と同列に論じ,その可. る.租税逋脱と保険金詐欺は,したがって,ド. 罰性を非常に重く評価することに対しては大き. イツではしばしば「国民的スポーツ」などとい. な疑義が生じる.すなわち,租税逋脱の構成要. われるのである.. 件の保護法益が軽く評価されたならば,すな 15) わち,ただ単に「公の財布」 ,あるいは「そ. b)次に,租税逋脱は国家による税の徴収を妨. の時その時に応じた,非常に変わりやすい性質. げ,それによって国家の責務の遂行を妨げるも. を持つ租税法によって定められる実定法上の秩. のではあるが,個別に見た限りではそれは認識. 16) 序」 が問題とされているにすぎないと考えた. 不可能なほど微々たるものである.全ての租税. ならば,詐欺罪と同等に扱ったり,重罰化する. 逋脱が合算されて初めて,国家に対して目に見. ことに対しては,当然疑問が生じる.確かに,. える損害を与えるものであり,最終的には他の. ドイツ連邦共和国のような租税国家においては. 国民の租税負担を押し上げる効果をもたらす.. 税収は国家の責務を果たすために必要不可欠で. 個々の行為の総和が被害をもたらすという場合. あり,個人の財産よりも低く評価されるべきも. に,個々の行為をそもそも処罰すべきかは,そ. のではないから,その法益としての重要性は争. れ自体大きな問題であって,環境刑法の分野で. いの余地がない.. も生じている問題である18).私はこのような場 合,処罰すべきだと考えている.もっとも,個. それにもかかわらず,典型的な 租税逋脱は,. 別に見た場合では被害は明らかではないが他の. 典型的な詐欺の事案よりも不法内容は低減する. 類似行為が多数行われることによって初めて目. という要素を数多く挙げることができる.ここ. に見える法益侵害が生じるという行為について. では,いくつかの代表的なものを挙げるだけで. は,その当罰性は低減すると考えるべきである.. よいであろう17). c)第 3 に,典型的 な 租税逋脱 の 場合,実質的 a)まず,租税逋脱が何らかの具体的な被害を. にみて租税義務者が,自己の財産を,国家に税. 生じさせるとしたら,それは国家の財産に対し. 金を課せられた分だけ減少させるということを 怠る点にあるのに対し,典型的な詐欺は,積極. . 15)このように理解する論者として,Kohlmann, Der Straftatbestand der Steuerhinterziehung – Anspruch und Wirklichkeit, in: Günter Kohlmann (Hrsg.) , Strafverfolgung und Strafverteidigung im Steuerstrafverfahren – Grundfragen des Steuerstrafrechts heute, 1983, S. 5(19 ff.). 16)こ の よ う に 理解 す る 論者 と し て,Isensee, NJW 1985, 1007(1008). 17)詳細については,Kuhlen(前掲注 2) ,S. 95 ff.. 的に他者の財産を攻撃するものである.伝統的 . 18)例えば,Kuhlen, GA 1986, 389 ff.; ders., Umweltstrafrecht – auf der Suche nach einer neuen Dogmatik, ZStW 105 (1993) , 697 (711 ff.) . もっとも Günther/Prittwitz , Individuelle und kollektive Verantwortung im Strafrecht, in: Herzog/Neumann(Hrsg.) , Festschrift für Winfried Hassemer, 2010, S. 331(350 f.)の理解は異なる..

(6) 166 (462). 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 4・5 号(2014 年 1 月). な学説が租税逋脱のすべてを,あるいはすべて. て,国家財産に対して寄与しないという点にお. ではないにせよそのほとんどを不作為犯として. いて,両者はなんら変わりはないのである.. 捉えたことには,それゆえ,理由がないわけで はない19).しかし,不作為犯における違法性は,. e)第 5 に,租税逋脱の暗数 は莫大な数に上る. 作為犯のそれに比べて低減すると考えられる.. ことが挙げられる.事柄の性質上,その正確な 数は不明であるが,公の統計によって把握され. d)第 4 に,租税逋脱 の 構成要件 は,租税法上. ている数の数倍に達することは諸々の事情から. の解釈に従わざるをえない.刑事罰の租税従属. 明らかであり,かなりの数の租税義務者が──. 性は否定することができず,それのみならず,. その中には基本的には法に忠実な普通の市民が. これらの構成要件の正当化事由についても現行. 多く含まれているのであるが──機会があれ. 租税法に拠らざるをえない.これは,大変重要. ば,そして発見される危険性が少ない場合には,. な 規範的な問題を引き起こす.すなわち,ドイ ツの租税法は,大変改正が多く,力のある圧力 団体や政党政治の観点から規定されており,そ れゆえ実体法的に非常に理解困難で,同時に非 常に複雑である.それ故,節税の方法を探し, 専門的知識を駆使する者は節税できるが,しか しそれは,納税者側が積極的に知恵を絞らなけ れば見出すことのできない方法であって,この ような事情は租税逋脱の違法性を高めるのでは なく,低めるのである.. 自己の租税義務を可罰的な程度にまで減少させ るのである.暗数が多いために犯罪構成要件の 正当性が弱められるのではないかという規範的 な問題については長らく議論されてきた21).私 はしかし,その議論について今詳しく説明する ことはできないので,租税逋脱の高い暗数が, なぜ租税逋脱の違法性を減少させるのかについ て言及することにとどめる22). 暗数が非常に多いという点については,国家に も何がしかの責任があるといわざるをえない.特. 国との関係においては,租税法上の欠点の責. に,租税逋脱が広くいきわたっていることに関し. 任は国家が負うべきであって, 「集合体に対し. ては,他の納税義務者に対して租税逋脱をする者. て帰責されるべきであるならば,個人への帰責. は不公平な行動をしているという議論は説得力を. が正当化される部分は減少する 20)」というべき. 失う.すなわち,租税逋脱を行っている者につい. であろう.他の国民との関係からいっても,税. ては不公平だという主張は妥当しない.また,規. 法による税負担分配における,租税逋脱にまつ. 範に忠実な者との関係においてさえも,不公平と. わる不公平感は,このことによって弱められる. いう主張は通用しなくなる.なぜなら,この犯. といえる.なぜなら,自己の所得を隠す者は,. 罪が頻繁に行われており,他にも多くの者が租. 許された方法で課税を免れることもできるので. 税逋脱を行って「ただ乗り」をしているがゆえ. あって,巧妙な方法で課税を免れた者と比し. に,法規範に忠実な者との租税負担の差は少な. . 19)19 世紀における肯定説については,Schneider, Die historische Entwicklung des Straftatbestandes, 1987, S. 50 ff. 近 時 の 見 解 に つ い ては Lütt, Das Handlungsunrecht der Steuerhinterziehung, 1988, S. 46 ff.; Wulf, Handeln und Unterlassen im Steuerstrafrecht – eine Untersuchung zum Handlungsunrecht der Steuerhinterziehung, 2001, S. 19 ff., 88 f. 20)例えば,Günther/Prittwitz(前掲注 5) , S. 352.. くなるため,実質的な税負担の公平性は高まる からである.既に述べた通り,自己の租税負担 を非合法的な方法で減少させることは正当化さ れないが,それはある程度理解可能なことであ . 21)この点については Lüderssen, Strafrecht und “Dunkelziffer”, 1972 を参照. 22)より詳しくは Kuhlen(前掲注 2) , S. 103 ff..

(7) 租税逋脱と刑法(クーレン). (463) 167. り,一定程度まで違法性を減少させるのである.. は,租税逋脱を行った者が監督庁に租税逋脱を. 6 これら一連の,違法性を減少させる諸状況. 発見される前に,申請を行い,隠匿していた分. に鑑みて,これまでの議論を総括すると,租税. の税を後納するもので,租税逋脱の可罰性が事. 逋脱はそもそも当罰的か という疑問が生じる.. 後的に否定されうる制度である.. わたくしは,軽微な 租税逋脱については,可罰 性を否定すべきだと考える.そうだとすると,. 1 この自首制度は完全には廃止されなかった. 次に軽微な租税逋脱と重大な租税逋脱との区別. が,明らかに限定されることになった.特にこ. 基準をどのように考えればいいか,どのように. れまで部分的自首 とされてきた事例,すなわ. 非犯罪化を進めるべきかが, さらに問題となる.. ち,納税義務者が開設したリヒテンシュタイン. この問題も詳しく触れることができないが,少. の秘密口座について監督庁の発見が迫ってきた. なくとも詐欺罪以下の違法性しかないと考える. ので,自首して財務官庁にその存在を明らかに. のが刑事政策的にみて妥当だということについ. したが,その後にスイスに開設していた秘密口. て異論はないであろう.. 座にも監督庁の発見が迫ってきたので,このス. Ⅲ 重罪としての租税逋脱?. イスの口座についても自首したという場合であ る.連邦通常裁判所第一刑事部 は,2010 年 に. 租税逋脱の重罪化について,2010 年に提起. このような部分的自首の事案は無効であるとし. された第一の要請,すなわち 50 万ユーロ以上. た(すなわち,最初からすべての秘密口座につ. の租税逋脱を重罪とするという点については,. いて自首しないと免責されないことになった).. 23). 既に述べた通り,賛成できない .なぜなら,. この判決こそが契機となって,立法を動かした. 詐欺罪も他の財産犯罪も,損害が大きいという. のである.なお,連邦通常裁判所第一刑事部25). だけで重罪になることはない.租税逋脱につい. は,2008 年から租税刑法事案について審理し. ては別の考慮がなされるべきというのは一貫し. ているが,それ以降,租税刑法事案についての. ない主張である.このような観点からは,2001. 重罰化にあたって大きな役割を果たしてきた.. 年に規定された,営利的・組織的租税逋脱の構 成要件が明確性を欠くとして,実務上適用され. 立法者 は,こ の 判例変更 に 従 い26),2011 年. ないようにした 2004 年の連邦通常裁判所判決. には部分的自首不問責制度を廃止した.さらに,. は,高く評価できる.立法者もこの連邦通常裁. 5 万ユーロ(600 万円)以上の租税逋脱につい. 判所の判断に従い,2007 年には公課法旧 370a. ては,刑事免責を受けるには,逋脱した税の全. 24). 条を再び廃止するに至ったのである . Ⅳ 自首不問責制度の廃止? 2010 年 の 第二 の 提案 は,自首不問責制度 を 廃止するというものである.自首不問責制度と . 23)この点についてより詳しくは Kuhlen(前掲 注 2) , S. 117 ff. 軽過失による租税逋脱を処罰すべき との主張についても賛成できない( Kuhlen(前掲 注 2),S. 141 f.).なぜなら詐欺罪においても,ほと んどの財産犯と同様──故意作為犯のみが可罰的 だからである. 24)Kuhlen(前掲注 2),S. 117 f. 参照.. 額の後納に加え,この額の 5% を国庫に納めな ければならないこととした27).この自首制度の 制約は,様々な理由から強く批判されている28). . 25)BGH 20. 5. 2010, BGHSt 55, 180. 26)この結果,非常に注目すべき一連の立法── もっともこの判例変更がなくてもなされたとは思 われるものの──,例えば先に挙げた(訳者注・ 営利的・組織的租税逋脱 と い う)重罪構成要件 の 削除等がなされた. 27)この点についてさらに詳しくは Kuhlen(前掲 注 2) , S. 156 ff. 28)特 に Beckemper/Schmitz /Wegner/Wulf, wistra 2011, 281 ff. を参照..

(8) 168 (464). 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 4・5 号(2014 年 1 月). しかしここで詳細に議論することはしない.. 犯罪行為を行うことは,実質的に把握可能な 他者の法益の侵害であるばかりでなく,「行為. 2 ここでは,自首不問責制度が,従来のやり. 規範に違反するということの表れ」である31).. 方であれ, 今回導入された制約つきの形であれ,. 処罰 とは,行為者に対して実質的に目に見える 不利益を付与するものであるばかりでなく,む しろ「規範に違反すること」として32),ある一 定の価値宣言を行うことでもある.同様のこと が法律における犯罪構成要件についてもいえ る.犯罪構成要件は,構成要件が予定する要件 を 充足 し た 行為 は 原則的 に33)当罰性・要罰性 を有する程度の違法性を具備するとの立法者 の価値判断を表した(そしてそれを国民に示 した)ものである.刑罰阻却事由 は,同様に, その要件を充足すれば,いったん存在すると 判断された行為の当罰性・要罰性が欠落する ため,刑罰を科す必要がなくなるということ の表明である.その際前提となるのは,行為 者が事後に,法規範の有効性を確証するため の何らかの行為に行っており,それゆえ行為 者を処罰することによって法規範の有効性を 確証する必要がもはやなくなったと考えられ ることである34).. そもそも正当化されるのか という根本問題を検 討してみたい. 国家財政が潤うためという, 「国 家財政上の」正当化事由だと考える考え方は, 100 年前においては全く説得的であり,現在で も広く認められているし,あるいはまた,近代 学派の見地からしても税金の後納によって生じ た損害は穴埋めされるから,もはや刑罰権行 使の必要性は生じないという理由で刑法上の 正当化事由であるとする見解も支持を集めつ つある29).しかしながらこれに対し,法律の専 門家ではない純朴な市民の目からみれば,その ような刑事免責が正当であるとはおそらく思わ れないであろうし,私もこのような市民感情は 正しいと確信している. 3 ではこのような評価は単なる個人的なものに とどまるのか,それとも法的な議論に裏付けら れたものといえるのであろうか.私は,法的な 議論に裏付けられたものだと考える.ここでも 重要なのは他の制度との整合性の考慮である.. 4 それでは,自首制度における刑罰阻却事由 とは何を意味するのであろうか?まず第一に自. 自首制度に内在する矛盾を明らかにするため. 首制度における刑罰阻却は逋脱された税金が後. には,まずもって,現行刑法の規範が何より重要. 納されることを前提としている.しかし,これ. である.すなわち,ドイツ法哲学の伝統,とく. は刑罰阻却の根拠としては不十分であろう.な. にヘーゲルの刑罰に関する有名な見解,すなわち. ぜなら,実質的な損害を補填しさえすれば刑. 犯罪行為の否定としての刑罰という思考を考慮. 事制裁を科す必要はもはやないというのであ. しなければならない.これはドイツ刑法学共通の. れば,その犯罪行為は単に民事的な違法性を具. 理解であり,ヤコブスからプッペにいたるまで幅 広く,多くの論者によって支持されている30). . 29)この点についてより詳しくは Kuhlen(前掲 注 2),S. 165 ff. 30)Jakobs, Strafrecht Allgemeiner Teil, 2. Auflage 1993, 1/10; Puppe, Strafrecht als Kommunikation – Leistungen und Gefahren eines neuen Paradigmas in der Strafrechtsdogmatik, in: Samson(Hrsg.) , Festschrift für Gerald Grünwald, 1999, S. 469(475 ff.)参照.. . 31)Puppe(前掲注 30) , S. 474. 32)Jakobs(前掲注 30) , 1/10. 33)すなわち,違法性阻却事由,責任阻却事由, 責任減少事由,刑罰加重事由が特に存在しないと いう場合である. 34)し た が っ て,Bergmann, ZStW 100(1988) , 328(335); Freund/Garro Carrera, ZStW 118(2006) , 76(89 ff.); Wege, Rücktritt und Normgeltung. Zum Einfluß glaubwürdiger Umkehr auf die Rechtsfolgenbestimmung, 2011, S. 83 ff. に賛成する..

(9) 租税逋脱と刑法(クーレン). (465) 169. 備するにすぎず,そうだとすればもはや基本的. 迫ってきたのでそれを避けるために行われてい. に当罰的・要罰的とはいい得なくなるからであ. るのである37).. る.もしそのような刑罰阻却事由が存在すると すれば,価値矛盾でしかない35).. 5 租税逋脱 の 犯罪構成要件 と,自首不問責制 度双方における価値評価について考えてみる. さらなる要件 が定立されなければ,刑罰阻却. と,両者間の矛盾は明らかである.現行刑法に. 事由として正当化することはできない.その要. よる租税逋脱の厳罰化が適切ならば,法は,自. 件の充足とは,行為者によって充足されること. 首不問責制度をあまりにも簡単に認めすぎてい. によって,行為者の処罰をもはや不要なものと. るといえる.逆もまたしかりである.すなわち,. するほどの重みをもったものでなければならな. 自首によって処罰がもはや不要になるほど十分. い.自首不問責制度においては,現行法上追加. 法な規範の確証がなされているというのであれ. 36). 要求される要件は本当にわずかしかない .す. ば,租税逋脱は軽い犯罪でなければならず,公. なわち,行為者は,免責を受けるためには,た. 課法 370 条の法定刑は明らかに重すぎる38).. だ単に適切な時期に,すなわち,租税逋脱が発 見される前に,自己の納税義務を充足し,財務. すなわち一言でいえば,自首制度は明らかに,. 官庁に告知すればよい.. 租税逋脱を重大な刑事犯罪と考える現行法の評 価と矛盾している.租税逋脱を重大な刑事犯罪. これらの事情だけで刑罰が不要とされるとい. であるという評価が正しいならば,そして私も. うことについては,まじめに議論すべきではな. 重大な租税逋脱に関しては,このような評価が. い.なぜなら,通常刑事免責というのは,法律. 正しいと思うが,原則的に自首不問責制度は廃. 上重大な犯罪行為について問題とされるものだ. 止すべきである.この評価が理由のないもので. からである.それゆえ,刑事免責を受けるため. あるかぎりにおいて,すなわち私の見解におい. には,場合によっては何年もの自由刑が不要と. ては軽度の租税逋脱の場合であるが,そのよう. なるほどの十分な重みを有した条件を充足しな. な場合は反対に,そのような租税逋脱の非犯罪. ければならないはずである.しかし租税逋脱の. 化の観点から,自首による刑事制裁から解放す. 場合には国家の税金の徴収に協力するというこ. るという議論は十分傾聴に値する.. とが刑事免責を受けるために要求されるにすぎ ず,しかも行為者にはそうでなくても適切な時. V 租税逋脱に対する刑罰の一時停止. 期に納税することが義務付けられているのであ. 講演の最後に,2010 年の第三の法政策的な. る.租税逋脱のうち,実質的な損害の補填を超. 提案について言及したい.それは租税逋脱犯に. えて,刑事免責が必要となるのはいかにほんの. 対する刑罰の一時停止である39).この要請に関. わずかであるかについては,例えば 2010 年に. しても,他の制度との整合性に基づく考察が有. 行われた自首を見ればよい.2010 年に行われ. 用である.. た自首のうち,ほとんどが,官庁による発見が . 35)この点につきより詳しくは Kuhlen(前掲注 2) , S. 169 ff. 36)特に従来の自首に妥当するが,2011 年の法 改正後の自首についてもなお妥当するといえよう. こ の 点 に つ い て は Kuhlen(前掲注 2),S. 175 ff. 参 照.. . 37) こ の 点 に つ い て は Schäfers, Geplante Verschärfung der Selbstanzeige, in: StBW 2011, 34(35) , Wege(前掲注 34) , S. 87 参照. 38)この点についてより詳しくは Kuhlen(前掲 注 2) , S. 172 f. 参照. 39)この点につき詳細は,Kuhlen(前掲注 2) , S. 182 ff..

(10) 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 4・5 号(2014 年 1 月). 170 (466). 1 刑罰の一時停止とは,時限立法において刑. に依拠するシューネマンの言葉を借りれば,刑. の免除あるいは減軽を行うことを一般的に行. 罰の一時停止について,法の支配が著しく妨げ. うことをいう.すべての対象者に包括的に行. られるような例外的事情はどこまでか,はっき. う 点 で,個々の 事案 に 対 す る 刑事制裁緩和 と. りした線引きが行われなければならない43).. しての恩赦とは異なる.また,時限立法によ る時間的な制約がある点において,将来にお. 3 この要請は,租税逋脱犯に対する刑罰の一. いても行われる通常の刑事免責や減刑とは異. 時停止にとって,切実な問題である.租税逋脱. なって い る.刑罰 の 一時停止 に お い て は,そ. 犯における刑罰の一時停止制度によって,他の. の対象となる行為は常に当罰的であると評価. 刑罰一時停止制度と同様,規範に違反した者と. される点において正当化事由としての根本的. 規範に忠実な者とが等しく無罪であると宣言さ. な問題を抱えている.価値矛盾を避けるため. れるばかりではない.刑罰の一時停止において. に は,刑罰 の 一時停止 は 時間的 な 制約 と 関連. は,租税逋脱額の後納をまったく行わないため. 付けられた特別の正当化事由を具備するもの. に,むしろ,犯罪行為を行った者を,他の多く. でなければならない.. の納税者よりも実質的には優位に扱っているの である.. 2 かつてのドイツ帝国においては,君主の就 任,皇帝の孫の誕生などが刑罰の一時停止期間 40). 租税逋脱犯に対する刑罰の一時停止は,まさ. 導入の理由となった .東ドイツにおいても,. に,適法な世界へ戻るきっかけを提供するもの. 国家創設記念日の祝賀においてしばしば刑罰の. であるから,税を後納しなくてよいとすること. 一時停止が行われた41).そのような, 「祝典に. も,充分に理解可能である.自首不問責が恒常. よる刑罰の一時停止 」は,今日においては合理 的な正当化事由とみなすことはできないであろ う.そこでその代わりに, 「目的による刑罰の 一時停止 」が登場した.ここでの目的とは,多 種多様 で あって,た だ の 国家財政 の 健全化 で あったり,刑の執行における負担の軽減であっ たり,「社会から逸脱した集団を社会に戻すこ と」であったりする42).これらの目的に共通す ることは,その目的のみでは,刑罰の一時停止 を正当化しえないということである.ここでは むしろ,なぜ過去に行われた行為については刑 事免責をするのに,将来行われるであろう行為 についての可罰性は維持されるのか,というこ とについて説得的な解答を与える法律的根拠が なければならない.それゆえ,連邦憲法裁判所. 的な制度として既に存在しているのであるか. . 40)Schätzler, Handbuch des Gnadenrechts, 2. Aufl. 1992, S. 220. 41)Schätzler(前掲注 40),S. 111. 42)Marxen, Rechtliche Grenzen der Amnestie, 1984, S. 12 f.. ら,追加のインセンティブを与えようとするな らば,刑罰の一時停止は自首よりもさらに手軽 に使えるものでなくてはならない.すなわち, 例えば,自首よりも金のかからない制度でなけ ればならない. しかしながら同時に,観念的にではなく実際 にも法違反に対して褒賞を得ることができるた め,規範に忠実な納税者が誤った道を歩む可能 性が高まるともいえる.政治的な観点からも法 律学上の観点からも反対があるものの,租税逋 脱犯に対する刑罰の一時停止は,法の支配が破 られたという異常事態を克服するために行わ れるものだということはできないとするのが, まったくもって正当である. 4 近時ドイツで導入された租税逋脱犯に対す . 43)Schünemann, ZRP 2003, 433(437)..

(11) 租税逋脱と刑法(クーレン). (467) 171. る刑罰の一時停止は,この基準を充足しない.. 国家が,租税逋脱者を潜在的な納税者とみな. それは,この刑罰の一時停止があっという間に. し,彼らに有利な刑罰の一時停止により,彼ら. 導入されたということからも証明されるであろ. を懐柔しようとするならば,それは別段誤った. う.租税逋脱における刑罰の一時停止は,決し. ことではない.しかしこれは租税逋脱犯への刑. て例外的なものではなくなっているのである.. 事判決が,今日まで一貫して重罰化の傾向にあ ることとは一致しない.このようにして,租税. 1998 年に既に,いわゆる利子租税逋脱犯に. 逋脱犯に対する刑罰の一時停止に関しても,現. 対する刑罰の一時停止 というものがあった.こ れは,1990 年末まで存続したが,資産に対す る税金に関して,事後的な申告と納税があれ ば 1986 年 ま で 刑事免責 を 可能 と し,こ れ に 加 え 1986 年以前 の 期間 に お け る 租税逋脱 に ついては,税金の後納がなくても刑罰を科さ ないとした.2003 年の申告による刑事免責に 関する法律 においても,申告と一定額の税金 (Pauschalabgabe)──これは本来支払わなけ ればならない税額よりもたいていの場合明らか に低い──を支払うことにより,1993 年から 2002 年までに行われた租税逋脱について,刑 事免責が保障されることになった.既に言及し たように,ドイツ・スイス間における 2011 年 の租税条約で導入される予定だった刑罰の一時 停止は, 確かに今回は実現をみなかったものの, 議事日程から最終的に外されたわけではない. このように租税逋脱犯に対する刑罰の一時停止 は,完全に刑事政策上の常套手段となり,刑罰 の一時停止が導入されるのは,法的平和が深く 害される例外的な状況に限られなくなったので ある.. 行ドイツ租税刑法における重大な価値矛盾が再 び,よりいっそう重大なものとして表れてくる のである. ******** 講演会後の質疑応答においては,以下のよう な質問がなされた. ①日本においては租税逋脱行為に対して自由刑 に加えて罰金刑が併科されることが多いが,ド イツにおいて自由刑を科す場合に罰金併科が可 能か,また刑法以外の制裁,特に行政上の制裁 はあるか. 租税逋脱に対して自由刑を科すこと自体非常 に少ないが,理論上は自由刑と罰金刑の併科は 可能である(ドイツ刑法 41 条) .自由刑に執行 猶予がつけられる場合には,罰金が併科される. 非常 に 軽微 な 租税逋脱 の 場合,例 え ば 500 ユーロといった低額の税金を逃れた場合,そも そも構成要件に該当しないほど軽いケースであ ると考えられる(日本における可罰的違法性に. 5 以上から,刑罰の一時停止制度が存在する. 近い考え方を採るものと考えられる).逋脱金. ということによってある種の価値宣言がなされ. 額が 5000 ユーロ程度である場合には,逋脱金. ることがわかる. 刑罰の一時停止が存在すれば,. 額が少ないとはいえない.しかしながら初犯で. 立法者は,租税逋脱が重要な当罰性を有する行. あって,税金を後納しているというのであれば,. 為であるとはみなしていないことがわかる.こ. 手続打ち切りと引き換えに課徴金を課すことが. のことは,詐欺罪といった他の財産犯において. 考えられる.課徴金は刑罰ではないため,前科. は,そのような刑罰の一時停止は存在しないこ. にならない.. と,また将来においても刑罰の一時停止の導入 は予定されていないことに鑑みれば,いっそう. ②スイスにおいて租税逋脱罪はどのように取り. 明らかであろう.. 扱われているのか..

(12) 172 (468). 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 4・5 号(2014 年 1 月). スイスにおいても同様に財産に対する課税が. ⑤ドイツの一般市民は,租税逋脱についてどの. なされるが,銀行における顧客の秘密の方が優. ように考えているのか.. 先する.それゆえ,アメリカ合衆国,ドイツな どからの圧力がかかっている.. 租税逋脱についてドイツ人は非常にアンビバ. . レントな態度を採る.例えば窃盗罪については. ③租税逋脱罪は不作為犯形態で行われるため,. そのような行為は悪いことだという態度決定は. 故意の立証は困難ではないか.. はっきりしており,自分が行った場合でも,他 人が犯した場合も悪いということは明らかであ. 故意の証明は,難しい面もあるが,簡単な側. る.しかしながら租税逋脱を自分が犯した場合,. 面もある.租税逋脱罪においては,故意の証明. 悪いことを行ったという意識があるかは疑問で. はある程度類型化できるからである.類型化の. ある.このような特性は保険金詐欺においても. 例として次のような 3 つの設例が挙げられる.. 見られる.. 第 1 類型 銀行預金の利子を秘匿して課税を 免れた場合であり,利子に対して課税がなされ. ⑥租税逋脱罪が行政犯罪から刑事犯罪へと変化. ることについては,成人のドイツ国民であれば. した理由はなぜか,きっかけとなるような重要. 誰でも知っていることなので,故意が肯定され. 事件があったのか.. る. 第 2 類型 A が塀を直すことを依頼したと. 何か転機となるような重大事件があったわけ. こ ろ,職人 X は,請求書要 り ま す か,要 り ま. ではなく,時を経るにつれ,徐々に重罰化され. せんか,と尋ねることがある.請求書つきで. た.. ある場合には,19% の売上税(Umsatzsteuer) を含んだ金額が請求されることになる.請求書 がなければ,売上税分をまけるという故意が明 らかである. 第 3 類型 講演会における謝金を得たが,謝 金につき確定申告するのを忘れた場合,税務署 側は当該所得について既に把握しているので, 講演者がそれにもかかわらずあえて申告しな かったと考えるのは難しく,故意を証明するの は難しい. ④租税逋脱行為が詐欺罪にもあたる場合,両者 の関係はどうなるのか. 租税逋脱罪は詐欺罪とは法条競合における特 別関係になる.以前,租税逋脱罪は詐欺罪に該 当する場合でも,特に違法性を低く評価すると いう議論がなされていたが,それが立法化され たということになる.. 注 i)かつてドイツでは,重懲役,軽懲役,禁錮, 拘留があったが,これらの区別を廃止し,身体 の自由を拘束する刑罰を自由刑一本にした.終 身刑と有期自由刑とにわかれる.禁錮には労働 を課せられなかったが,自由刑には労働が課せ られるのが原則である. ⅱ)ドイツでは日割り罰金制を導入している(ド イツ刑法 40 条) .最低額は 5 日分であり,特別 の定めがないかぎり最高額は 360 日分である. 判決においては日数と日割り金額が示される. ⅲ)公課法 370 条 1 項 (租税逋脱罪) 以下の行為を行って租税を免れ,または自己 もしくは他人のために不正な租税上の利益を受 けた者は 5 年以下の自由刑または罰金刑に処す る. 1 号 ‌財務官庁又はその他の官庁に対し,租 税上重要な事実に関して,不正又は不 完全な申し立てを行うこと 2 号 ‌財務官庁に対し,義務に反して,租税 上重要な事実に関して,これを知らせ ないこと 3 号 ‌義務に反して,収入印紙又は収入証紙.

(13) 租税逋脱と刑法(クーレン). を用いないこと ⅳ)ドイツ刑法 12 条.1 年未満の自由刑または 罰金刑を科せられる罪.検察官は不起訴処分を なしうる.未遂は法律に明文のある場合にのみ 処罰される. ⅴ)ドイツ刑法 12 条.1 年以上の刑罰を科せら れる罪.未遂はつねに処罰される. ⅵ)現行の公課法 370 条に該当する 1919 年租税通 則法 359 条は,租税逋脱を「自分の利益または 他人の利益のために不正な租税利益を詐取し, または,租税収入が減少することを故意に効果 する」と規定していた.しかしこのような規定 によれば,支払いができないため税金を納める ことができないケースも租税逋脱とされること に な る.そ こ で,判例 は, 「租税不誠実」と い う概念を導入して処罰範囲の限定を試みた(佐 藤英明『脱税と制裁』 (1992 年)67 頁以下参照) . ⅶ)ドイツ刑法では詐欺罪は 263 条 1 項に定めら れており,5 年以下の懲役または罰金刑に処す とされている.また 3 項では,特に重大な場合. (469) 173. は 6 月以上 10 年以下 の 自由刑 に 処 せ ら れ る. 重大な場合として条文上,継続的に文書偽造行 為や詐欺行為を行っている団体の一員として行 為した場合や,他人を経済的に危機的な状況に 陥れた場合,公務員としての権限や地位を濫用 した場合などが挙げられている. ⅷ)罰金を支払うことができない場合に,代わり に科される自由刑.1 日分の罰金刑に対して 1 日の自由刑が科される(ドイツ刑法 43 条 a) . ⅸ)日本についても戦前は不法行為の一種とされ て い た.神山敏雄 ほ か 編著『新経済刑法入門』 (2008 年)303 頁, 山口厚編著 『経済刑法』 (2012) 156 頁以下. ⅹ) ドイツ刑法 263 条 3 項 5 号. 欺罔の意図をもっ て火災保険にかけた物に放火し,全部又は一部 を損壊した場合,または船舶を沈め,あるいは 坐礁させた場合である. [う つ み と も こ 横浜国立大学大学院国際社会 科学研究院准教授].

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そうした開拓財源の中枢をになう地租の扱いをどうするかが重要になって

では恥ずかしいよね ︒﹂と伝えました ︒そうする と彼も ﹁恥ずかしいです ︒﹂と言うのです

現を教えても らい活用 したところ 、その子は すぐ動いた 。そういっ たことで非常 に役に立 っ た と い う 声 も いた だ い てい ま す 。 1 回の 派 遣 でも 十 分 だ っ た、 そ

成人刑事手続で要請されるものを少年手続にも適用し,認めていこうとす

Mercatoriaが国家法のなかに吸収され, そし として国家法から