共創価値を生む製造業のサービス化過程 : 提供物
と顧客関係性の変化への理論的アプローチ
著者
三浦 玉緒
学位名
博士(先端マネジメント)
学位授与機関
関西学院大学
学位授与番号
34504甲第724号
URL
http://hdl.handle.net/10236/00029091
関西学院大学審査博士学位申請論文
(題目)共創価値を生む製造業のサービス化過程
−提供物と顧客関係性の変化への理論的アプローチ−
指導教員: 山本 昭二 教授
2019 年 12 月
経営戦略研究科博士課程後期課程
73918006 三浦 玉緒
共創価値を生む製造業のサービス化過程
−提供物と顧客関係性の変化への理論的アプローチ−
三浦 玉緒 要旨 製造業のサービス化は、コモディティ化と価格競争の熾烈化に苦しむ製造企業が、競争 優位を獲得し収益を改善する手段として、近年学術的、実務的な観点から盛んに議論され ているが、統一された定義や実践する手立てが確立されているわけではない。また、サー ビス化は必ずしも成功するとは限らず、製造企業がサービス化に踏み出すことに躊躇する 原因にもなっていると考えられる。サービス化の現象を把握し、それを実践する手段とそ の結果との因果関係が明らかにされなければ、企業がサービス化を戦略に反映し実践に結 びつけることは難しいであろう。本研究はこれらの課題を解きほぐすことを主眼としてい る。サービス化の主体となる製造企業と顧客、および、それらが関わる労働過程の次元、 つまり「設計」「生産・交換」「顧客の使用」の段階を大きな分類軸として、サービス化 の提供物と、企業と顧客との関係性の観点から議論が進められる。 第1章では、サービス化に関連するさまざまな研究領域の概要に触れ、本稿で参照する 研究領域とサービス化との関連性を把握する。そのなかで、製造企業の思考に馴染みやす いと考えられるサービス・ロジック(以下:SL)の理論と定義を出発点として、これらをサ ービス化の文脈で理解することにより先行研究の課題を明らかにし、以降の議論の布石と する。SL では、サービス化は提供物に無体財が追加される過程、つまり Servitization と、 ビジネスモデルが顧客との関係性に移行する過程、つまりServicizing とに区別されており、 前者から後者へ移行する過程と理解されるものの、両者は必ずしも連続的に記述されてい るわけではない。両者の関連性が理解されなければ、これまで有体財を中心とした提供物 を生産してきた製造企業が顧客との関係性に移行しサービ化を実践するのは難しいであろ う。サービス化を実践するために、どのような提供物を設計し開発することにより顧客と の関係性に移行するかについては、SL においてもまだ十分な議論には至っていないと考え
られる。 第2章では、提供物を構成する財の代替性の理論と、SL の理論と先行研究の枠組みに基 づき分類された顧客との関係性の要素を用いて、サービス化の過程で変化する提供物と顧 客との関係性の程度の変化を記述することにより、Servitization と Servicizing の連続的な関 連性が明らかにされる。サービス化は提供物が有体財中心から無体財中心に移行する過程 であり、結果として企業が顧客の使用過程に介在する、あるいは顧客との相互作用を形成 し価値共創する関係性に移行する過程であると仮定される。また、財の代替性の理論に基 づき財の代替関係を生む要因がサービス化を規定すること、更にはサービスシステムの進 化を考える枠組みを援用することにより「顧客の使用」の段階における顧客の評価も財の 代替関係を生みサービス化を規定することが仮定される。 第3章の事例研究では、これらの命題の裏付けとして事実内容が確認される。サービス 化は、提供物の無体財化ではあるもののこれは手段であり、結果として企業と顧客との関 係性の程度が変化する過程であるという命題が事例分析により確認される。IoT と AI の情 報技術の進化がサービス化の手段として巷間に議論されていることは、サービス化が無体 材化、つまり有体財が情報とサービスに代替される過程であることに裏付けされる。しか しながら、これは企業の更なる標準化と効率化、他方、企業が顧客との関係性志向に移行 し顧客の多様な欲求に応えるという相反する側面を内包している。サービス化の結果とし て顧客との関係性の程度が変化し、顧客の評価は「設計」「生産・交換」の段階の交換価 値から「顧客の使用」の段階を含めた総体的評価、つまり使用価値に移行することが示唆 されることにも合致している。 この結果を受けて、第4章では、サービス化戦略の経路が示されサービス化が再定義さ れるとともに、それを実践する手段となるサービス化のパターンが提示される。これによ り、サービス化を企図する製造企業は、自社の出発点とゴールを特定し、ゴールを達成す るために自社の提供物をいかに変化させるか、保有する資源や組織的能力、生産する有体 財との関係性、更には顧客が保有する資源や能力を見極め、提供物を構成する財の代替関 係を生む要因から採るべき施策の検討や、各段階で求められるサービス・マーケティング 研究の諸概念の活用が可能になるだろう。サービス化は、企業のどの事業のどの提供物を サービス化の対象にするのかについて特定することから始めなければ、その出発点とゴー ル、それを達成するための手立てと課題が見えてこないのである。本稿で提案するサービ ス化戦略の経路とパターンは、その検討の一助になることが期待される。
ここまでの章ではサービス化における提供物の変化の観点から議論される。第5章から はサービス化における提供物と、企業と顧客との関係性に対する顧客の評価に視点が移さ れる。「顧客の使用」の段階まで含めた提供物と関係性に対する顧客の総体的評価、つま り使用価値とそれを高める手段となる価値共創が議論の中心となる。バリュー・プロフィ ット・チェーンの顧客価値方程式と SL の知覚価値方程式に基づき示される使用価値方程 式から、共創価値が使用価値を高めサービス化を成功させる重要な概念であることが理解 される。しかしながら、顧客が共創価値をどのように評価し、その結果がどのような顧客 行動意図に導くかという共創価値に対する顧客評価の観点からの研究はまだ十分ではない。 第6章では、実証研究により、共創価値はサービス化の成功を規定するという命題に挑 戦する。しかしながら、マーケティングが長く交換価値を評価概念としてきたように、使 用価値の一部となる共創価値の定義と測定手法についての研究はまだ十分に確立されてい るわけではない。実証研究では、サービス化の代表的な事例となるカーシェアリングサー ビス(CSS)の顧客を対象に実施されたアンケート調査の結果を分析することにより、「顧客 の使用」の段階を含めた提供物と関係性に対する顧客の評価過程と評価構造モデルの仮説 が検証され実証される。CSS に限られた実証研究ではあるものの、顧客満足、共創価値、 Customer Delight の各概念は顧客が弁別的に評価した結果という評価過程と、その結果が忠 誠心の高い顧客行動意図に導くという評価構造の仮説が支持される。これは、サービス化 の手段と結果との因果関係を解きほぐす手立てになり得ることを示しており、サービス化 を企図する製造企業が具体的な戦略に反映し実践する際の重要な示唆になるだろう。 本稿では、サービス・マーケティングで研究されてきた諸概念に基づき議論が進められ るが、それらの観点からサービス化に資する研究はまだ十分ではない。しかしながら、本 稿におけるサービス化の再定義と、手段と結果を記述する手立てとして提示される財と顧 客との関係性の分類に基づけば、さまざまな研究領域で議論されている事例の多くはサー ビス化の現象と特定されるだろう。本研究は、「製造業のサービス化」をテーマにしてい るが、ここで得られる結果は、B2B に留まらず B2C、更には製造業に限らずサービス業に おける更なるサービス化の分析にも適用し得ることが期待される。本稿において提案され るサービス化過程の記述と分析が、企業のサービス化戦略の実践に貢献することができれ ば、製造業、サービス業を問わず産業の枠組みを超えたサービス化の理論的基礎になり得 るのではないかと期待している。
目次 序章 ... 8 導入 ... 8 第 I 節 本論文の構成 ... 9 第 II 節 第1章 サービス化とサービス・マーケティング ... 11 はじめに ... 11 第 I 節 サービス化に関連する研究領域との関係 ... 12 第 II 節 サービス・マーケティングの視点から ... 15 第 III 節 サービス化に関連する議論の異同 ... 15 第1項 サービス・ロジックからみたサービス化 ... 18 第2項 サービス化とサービス・マーケティングとの接続 ... 20 第3項 まとめ ... 22 第 IV 節 第2章 サービス化を考える枠組みと命題の設定 ... 24 財の分類とPSS(Product-Service System) ... 24 第 I 節 財の代替性の理論 ... 27 第 II 節 顧客との関係性の分類 ... 30 第 III 節 財の構成と顧客との関係性 ... 32 第 IV 節 サービス化を規定する要因 ... 35 第 V 節 まとめ ... 38 第 VI 節 第3章 事例研究 ... 40 事例硏究の妥当性 ... 40 第 I 節 ガス給湯器の事例 ... 40 第 II 節 ガス給湯器のサービス ... 40 第1項 給湯器のサービスにおける財の代替関係と顧客との関係性 ... 43 第2項 ガス給湯器のサービス化を規定する要因 ... 43 第3項 自動車の普及過程の事例 ... 45 第 III 節 自動車の普及過程 ... 45 第1項 自動車の普及過程における財の代替関係と顧客との関係性 ... 46 第2項 自動車の普及を規定する要因 ... 47 第3項
エレベータの事例 ... 50 第 IV 節 エレベータのサービス ... 50 第1項 エレベータのサービスにおける財の代替関係と顧客との関係性 ... 52 第2項 エレベータのサービス化を規定する要因 ... 53 第3項 航空機エンジン整備サービスの事例 ... 56 第 V 節 航空機エンジン整備サービス ... 56 第1項 航空機エンジン整備サービスにおける財の代替関係と顧客との関係性 .... 58 第2項 航空機エンジン整備サービスを規定する要因 ... 59 第3項 コムトラックスの事例 ... 62 第 VI 節 コムトラックスにおける財の代替関係と顧客との関係性 ... 62 第1項 コムトラックスを規定する要因 ... 63 第2項 命題の確認 ... 64 第 VII 節 まとめ ... 66 第 VIII 節 第4章 サービス化の経路とパターン ... 68 サービス化戦略の分類 ... 68 第 I 節 サービス化の再定義とサービス化の経路 ... 70 第 II 節 サービス化の再定義 ... 70 第1項 サービス化の経路とパターン ... 71 第2項 サービス化のパターンと財の代替性 ... 75 第 III 節 まとめ ... 78 第 IV 節 第5章 サービス化を成功させる共創価値 ... 80 サービス化の成功要因 ... 80 第 I 節 Service excellence ... 80 第1項
Core value proposition(Level 1)と Complaint management(Level 2) ... 81 第2項
Individual service(Level 3)と Surprising service(Level 4) ... 83 第3項 サービス化と共創価値 ... 85 第 II 節 使用価値方程式 ... 85 第1項 共創価値とサービス品質 ... 87 第2項 サービス化と共創価値 ... 89 第3項
まとめ ... 90 第 III 節 第6章 実証研究 ... 92 実証研究における概念的枠組みと仮説の設定 ... 92 第 I 節 サービス化を理解するための概念的枠組み ... 92 第1項 提供物と共創価値の評価過程 ... 93 第2項 提供物と共創価値の評価構造 ... 95 第3項 調査と分析 ... 97 第 II 節 カーシェアリングサービス ... 97 第1項 スクリーニング調査と分析 ... 98 第2項 尺度の有効性 ... 105 第3項 本調査の分析と結果 ... 108 第4項 仮説の検証 ... 114 第5項 まとめ ... 115 第6項 結章 ... 119
序章 導入 第I節 米国において、経済活動に占めるサービス業の増加に伴いサービス経済化が議論されて きた(Fuchs 1968)。一方、マーケティングの観点からはサービスが無形のプロセスであるこ とから、その効率化と産業化の必要性が主張された(Levitt 1981)。日本においても 1994 年 以降、それまで日本の高度成長期を支え発展してきた製造業の国内総生産(GDP)に占める 割合が減少し、代わりにサービス、情報通信業が増加に転じた。代表的な耐久消費財メー カーの一部は、2011 年に巨額の損失を計上したことにも伺えるように、多くの製造企業は、 コモディティ化と価格競争の熾烈化による収益悪化に苦しんでいる。サービス業の台頭に 後押しされるように、競合との差別化を図り競争優位を獲得し収益を改善する手立てとし て製造企業はサービス事業にシフトするべきあるという議論、所謂「製造業のサービス化」 は、90 年代から 2000 年代にかけて学術的、実務的な観点から盛んに議論されている。 学術的な議論では、サービス化の先行研究において頻繁に引用される議論の1つである サービス・ドミナント・ロジック(以下:SDL)(Vargo and Lusch 2004, 2008, Lusch and Vargo 2011)が代表的であろう。SDL では、モノもサービスを載せるキャリアと考えられており、 顧客が提供物を使用することにより効用が発揮されるという使用価値の概念が議論の中心 になっている。使用価値の概念は、サービス・マーケティングの1つのロジックであるサ ービス・ロジック(以下:SL)1においても議論されているが、顧客の価値は SDL とは異な る捉え方がされている。他にも、サービス・マネジメント、オペレーション・マネジメン ト、サービス・サイエンスなどさまざまな研究領域においてサービス化に関連する議論が されているが、サービス化とは何か、使用価値とは何かという問いには未だ統一された定 義が得られていないようである。 一方、実務的な観点からは、モノからコトへ、ハコ売りからの脱却、顧客価値の提供と いうサービス化に関連する議論を目にするが、果たしてそれはどういうことなのか、どの ように実践できるのか、実践すれば儲かるのか、投資対効果はいかなるものかという経営 責任者の疑問には明確な答えはなく、製造企業がサービス業にシフトすることに躊躇する 原因の一部になっていると考えられる。
つまり、学術的にも実務的にも、サービス化の定義と、それを実戦する道具立てと結果 との因果関係の解明には至っていないのである。本研究は、これらの課題を解きほぐすこ とを主眼として進められる。 本論文の構成 第II節 第1章では、サービス化に関連するさまざまな研究領域における議論の概要に触れ、サ ービス化の議論との関係が把握される。中でも、製造企業に馴染みやすいと考えられるSL を出発点として、以降の章における議論が進められる。 第2章では、サービス・マーケティングにおける財の代替性の理論と、SL の理論と先行 研究の枠組みを援用し分類された企業と顧客との関係性の類型化から、サービス化の現象 を捉える命題が設定される。また、サービスシステムの進化を考える枠組みを援用し財の 代替関係を生む要因がサービス化を規定するという命題が設定される。 第3章では、これらの命題の裏付けとして、幅広いサービス化の事例を対象にした事例 分析により事実内容が確認される。この結果を受けて、第4章では、サービス化戦略の類 型化と経路が示されサービス化が定義されるとともに、それを実現する手段となるサービ ス化のパターンが提示される。ここまでの章で、サービス化の定義とそれを実践する道具 立てが整えられる。サービス化は無体財化である。サービス・マーケティングは無体財の 特性とそれが持つ課題に焦点が当てられた研究分野であり、その諸概念を基礎として本研 究の議論は進められる。 第5章では、欧州標準化機構が進めているサービス標準化(Service excellence)の議論2と第 2章で提示されるサービス化の枠組みが接続され、サービス化の成功要因が模索される。 Service excellence の基礎概念となるバリュー・プロフィット・チェーン(以下: VPC)(Heskett, Sasser, and Schlesinger 2003)3とSL の概念に基づき、使用価値方程式が提示される。「顧客
の使用」の段階を含めた提供物と、企業と顧客との関係性に対する顧客の総体的評価とな る使用価値が定義され、共創価値が使用価値の一部としてサービス化を成功させる重要な 概念であることが理解される。 第6章では、実証研究により、共創価値はサービス化の成功を規定するという命題に挑 戦する。使用価値方程式の構成概念とサービス・マーケティングにおける顧客評価の諸概 念に基づき、「顧客の使用」の段階を含めた提供物と、企業と顧客との関係性に対する顧
客の評価過程と評価構造モデルの仮説が設定される。カーシェアリングサービスの利用顧 客を対象にしたアンケート調査結果を分析することにより、仮説が検証される。ここで、 第4章までに提示されたサービス化の定義と道具立てと、結果との因果関係が実証される。 序図1 は、本研究が進められる分類軸と、各章との関係を示している。サービス化の主 体となる製造企業と顧客、および、それらが関わる労働過程の次元、つまり「設計」「生 産・交換」「顧客の使用」の段階を大きな分類軸として、サービス化の提供物と、企業と 顧客との関係性の観点から議論が進められる。第1章はこの図の全体に関連している。第 2章と第4章は、企業が設計、生産・交換するサービス化の提供物の変化と「顧客の使用」 の段階も含めた企業と顧客との関係性の変化の観点から議論される。第3章の事例研究で は、第2章で設定された命題が企業と顧客の観点から分析、確認される。第5章と第6章 では、「顧客の使用」の段階まで含めた提供物と、企業と顧客との関係性に対する顧客の 評価に視点が移される。序図1 に示される分類軸に基づき、本研究において援用される先 行研究の概念が対象としている範囲と、本研究において新たに挑戦している範囲について 提示される点にも注目して読み進めてほしい。 序図1
第1章 サービス化とサービス・マーケティング
はじめに
第I節
サービス化という用語は、Vandermerwe and Rada(1988)が、顧客の問題を解決するために
企業が商品とサービス、サポート、セルフサービス、および、知識を組み合わせた「束」 を提供する動きを「ビジネスのサービス化」と呼んだことに始まる。80 年代以降、サービ ス化はさまざまな分野と範囲で研究されるが(Bowen, Siehl, and Schneider 1989, Gebauer, Gustafsson, and Witell 2010, Grönroos 2015, Grönroos and Helle 2010, Kinnunen and Turunen 2012, Macdonald et al. 2011, Mathieu 2001, Oliva and Kallenberg 2003, Raddats and Kowalkowski 2014, Schmenner 2009, Vandermerwe and Rada 1988 など)、統一された枠組みや 類型化は提示されていない(Gebauer, Joncourt, and Saul 2016, Raddats and Kowalkowski 2014)。 おおむね製造企業が製品にサービスを追加する、増やす、あるいは統合することと定義さ れているが(Baines et al. 2009)、「サービス」「製造企業」「サービス化」の定義も曖昧で (Kaczor and Kryvinska 2013)、サービス化の現象の理解を困難にしている。
サービス化についての研究はさまざまなジャーナルに取り上げられるが、サービス化に 関連する研究領域としては大きくサービス・マーケティング、サービス・マネジメント、 オペレーション・マネジメント、Product-Service System(PSS)、サービス・サイエンスに分 類される(Lightfoot, Baines, and Smart 2013)。これらの研究領域の一般的研究テーマは、「製 品・サービスの差別化」「競争戦略」「顧客価値」「顧客関係性」「製品・サービスの構 成」に特定される(Lightfoot et al. 2013)。
サービス化は、モノの販売ではなくモノに新たな価値を付加することにより競争優位を 獲得するために、製造企業の経営に関して生じた研究領域である(Kaczor and Kryvinsk 2013)。 その系譜から、マーケティングより製造側の観点からの研究が多い(Lightfoot et al. 2013)。 一方、サービス・マーケティングは顧客との相互作用、顧客関係性の維持・管理、評価の 難しいサービス品質の課題を中心に取り組んできた研究領域になるが、その観点から製造 業ビジネス全体へのアプローチはこれまでになかった(Grönroos and Helle 2010)。
本章では、サービス化に関連するさまざまな研究領域での議論の概要に触れ、サービス 化とこれらの諸領域との関係について把握する。また、サービス・マーケティングの観点 からサービス化にアプローチすることにより、サービス化と関連する研究領域との接続を
図るとともに、先行研究の課題を明らかにする。 サービス化に関連する研究領域との関係 第II節 まず、サービス化に関連する研究領域を分類することから始めたい(図 1-1)。分類の次元 は、サービス化の主体となる提供者側と顧客側の観点になり、それぞれの主体が関わる労 働過程になる。製造業のサービス化では提供者は製造企業を前提に議論されることから、 分類軸としては製造企業側からと顧客側からの研究に分かれ、それぞれ「設計」「生産・ 交換」「顧客の使用」の段階の研究に分けられる。 図 1-1 サービス化に関連する研究領域の関係 山本(1999), p. 5 を参考に編集された三浦(2018), p.7 を著者が改変 製造企業側の観点からの研究は、オペレーション・マネジメント、サービス・マネジメ ント、サービス・マーケティングが主な領域になる(Lightfoot et al. 2013)。効率的、効果的 なサービス化をいかに実現するかに焦点が当てられる。「設計」の段階では、従来のモノ とは異なるサービス化における提供物の製品開発に関わる研究になり、例えば、持続可能 性と環境影響の削減についての議論に密接に関係するPSS の研究(Tukker 2004, Baines et al. 2007)はこれに該当する。「生産・交換」の段階では、サービス化に求められる組織・管理 体制に焦点が当てられる。例えば、サービス戦略を分類し、サービス化の過程とそれに適
応する組織体制に関する研究がある(Gebauer et al. 2010)。また、従業員満足が顧客満足を 高め、忠誠心の高い顧客の生涯価値は企業の収益により貢献すると考えるバリュー・プロ フィット・チェーン(以下:VPC)の理論 (Heskett et al. 2003) 、顧客との「価値共創時代の 企業のあり方を提示する」 (Prahalad and Ramaswamy 2004, 有賀訳 2004, p.355) 価値共創の 研究が関係するだろう。「顧客の使用」の段階では、顧客を選別し、維持・管理すること
を課題にしたリレーションシップに関わる研究4が該当する。
顧客側の観点からの研究は、サービス・マーケティングが主な研究領域となる。しかし ながら、前述のとおり、その観点から製造業ビジネス全体に資する研究はまだ十分ではな い。「設計」の段階では、例えば、設計段階に確定している価値を顧客がどのよう知覚し 期待を形成するかという品質評価の研究 (Cronin and Taylor 1992, Parasuraman, Zeithaml, and Berry 1988, 山本 1999, Zeithaml 1988, Zeithaml, Berry, and Parasuraman 1993, Zeithaml, Berry, and Parasuraman 1996 など)がある。サービス化に関わる研究では、情報化や相互作 用により顧客が設計段階に関わるニーズの伝達について議論されている (Lerch and Gotsch 2015, Gustafsson, Kristensson, and Witell 2012, Coreynen, Matthyssens, and Bockhaven 2017 な
ど)。「生産・交換」の段階では、顧客の生産過程への参加、無体財5のうち生産と消費の 同時性といった特性が持つ課題や、顧客と企業の相互作用に焦点が当てられた研究(Bitner 1992, Shostack 1977, Shostack 1982 など)が該当する。また「顧客の使用」の段階では、こ れまでのマーケティングにおいて評価基準とされてきた交換価値ではなく使用価値が議論 の中心になる。使用価値は、サービス・マーケティングの研究に基づいたロジックの1つ であるサービス・ロジック(SL)や、マーケティングの領域になるサービス・ドミナント・ ロジック(SDL)(Vargo and Lusch 2004, 2008, Lusch and Vargo 2011)において議論されている。 サービス化に関わる研究において使用価値は頻繁に引用されており重要な概念の1つと考 えられる。顧客経験の観点から知覚価値に焦点が当てられた研究は(Sánchez-Fernández and Iniesta-Bonillo 2007)、「生産・交換」から「顧客の使用」の段階において顧客が経験した 後に知覚する価値に関わり、使用価値を定義する際の基礎的研究になるだろう。 それぞれの研究領域は、更にマクロとミクロに分類される。前述の研究領域はミクロに 該当する。ここでのマクロは、サービス化におけるミクロ研究に直接的、あるいは間接的 に影響を及ぼす要因、あるいは関連すると考えられる研究領域という意味で使用している。 サービス化における製造企業側の観点からのマクロ研究として、「設計」の段階では、巷 間に議論される第4 次産業革命の中核となる IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)の
情報技術の革新とサービス化との関連性が議論されている(西岡・南 2017, 山田 2016, 山本 2017 など)。「生産・交換」の段階では、サービス経済化の議論(Fuchs 1968)が該当す るだろう。これは、生産、消費、雇用などの経済構造に占めるサービスの割合が増える現 象を指しており(山本 1999)、サービス化はサービス経済化の一部の現象と考えられる (西岡・南 2017, 延岡 2016)。製造業を中心に産業別にグローバル化の動機や戦略をテーマ にしたグローバル経済化に関する研究(Lovelock and Yip 1996)も関係するだろう。グローバ ル経済の変化は、サービス経済化の1つの動機として考えられる(Lovelock and Yip 1996)。
例えばIoT、AI の情報技術による遠隔操作やモニタリングサービスは、顧客との相互作用
に場所や時間の制約を受けないため、グローバル戦略に沿ったサービス化が可能になる。 また、「顧客の使用」の段階では、企業が顧客との相互作用を形成し価値共創するための 企業文化、従業員意識など企業のサービス文化の研究があり(Bowen et al. 1989, Grönroos 1990, Gummesson 1991, Heskett et al. 2003 など)、これを支える国や地域の文化的背景は重要 な要因として影響を与えるだろう。 一方、顧客側の観点からのマクロ研究には、「設計」の段階では、顧客が企業の設計段 階に関わるための設備や、技能、習熟という社会化の研究が関係するだろう。「生産・交 換」の段階では、家計内のさまざまな活動が外部化されることによりサービスが選択され る家計内生産の理論(Becker 1965)、企業のプロセスが専門分化され外部化されるアウトソ ーシングに関する研究(Lacity et al. 2011)が考えられる。家計内生産の理論や、アウトソー シングの研究は、サービス化において提供物を構成する財が有体財から無体財中心に代替 さ れ る 過 程 を 説 明 す る の に 役 立 つ だ ろ う 。 ま た 「 顧 客 の 使 用 」 の 段 階 で は 、Serivce Ecosystems(Lusch and Vargo 2018)が議論されている。ここでは、社会を含めたサービス交 換のシステムが階層構造で捉えられており、上位レベルの構造は下位レベルの相互作用か ら出現し、生成され共有される上位レベルの制度は下位レベルの相互作用に影響を与える と考えられている(Lusch and Vargo 2018)。これは使用価値を実現するための施策の検討に 影響を与えるだろう。Creating Shared Value(CSV) は、社会的要請に対応した企業行動と企 業の財務的結果が分離されているCorporate Social Responsibility (CSR)とは異なる議論で、 個人的価値ではなく社会的価値を対象にしている(Porter and Kramer 2011)。CSV は、企業 と社会の価値共創は企業に長期的な収益をもたらすという議論であり(Porter and Kramer 2011)、使用価値の定義に影響を与えるだろう。サービス・サイエンスはミクロとマクロの 研究を包括的に扱う学際的な研究領域である(Spohrer and Maglio 2008, Kaczor and Kryvinsk
2013, Sampson 2014)。
それぞれの研究領域はサービス化の特定の課題として扱われるものもあれば、個別に発 展しサービス化と関連する議論として参照される場合もある。サービス化のレビュー論文 はいくつか見られるが(Baines et al. 2009, Lightfoot et al. 2013)、サービス化に関連する研究 領域の関係が包括的に把握されたものはなく、それらの諸領域が関連性をもって記述され ているわけでもない。よってサービス化における統一された枠組みや類型化、それらを構 成する概念の定義も未だ発展途上にある(Gebauer et al. 2016, Raddats and Kowalkowski 2014)。 本章では、サービス・マーケティングの観点からサービス化にアプローチすることによ り、先行研究におけるこれらの課題に挑戦する。サービス経済の拡大は、製造業とサービ ス業の境界線をますます曖昧にしている。製造業のサービス化もこの一部の現象であり (西岡・南 2017, 延岡 2016)、製造企業が設計、生産・交換する提供物が従来のモノではな く無体財中心に移行するのであれば、無体財の特性と課題に取り組んできたサービス・マ ーケティングの知見が活用されるべきであろう(山本 1999)。なぜなら、サービス・マーケ ティングの側面から製造企業が提供する提供物を分析することにより、従来のモノとは異 なるサービス化に求められるオペレーションやマネジメント、マーケティング戦略が明ら かにされるからである。次節では、サービス化とサービス・マーケティングの諸概念との 接続を図り、サービス化の課題を明らかにする。 サービス・マーケティングの視点から 第III節 サービス化に関連する議論の異同 第1項 「サービス財には(中略)3つの基本的な特性がみられる。すなわち、サービスそのもの は『物理的に無形(physically intangible)』である。サービスはモノではなく『活動(activity)』 である。そして、ある程度において『生産と消費が同時(production and consumption are simultaneous activities)』に発生する」(Grönroos 1982, 蒲生訳 2015, p.51)。「サービス財の 消費はプロセスの消費として特徴づけられるが、対する物財の消費は結果の消費として理 解される」(Grönroos 1998, 蒲生訳 2015, p.105)。競合他社との差別化は顧客が知覚するプ ロセスの側面(そのサービス・プロセスの機能性はどうか)において可能であり、アウトプ
ッ ト の 側 面(そのプロセスが結果として何をもたらすか)での差別化は難しい(Grönroos 1998)。そのため「サービス・マーケティングでは、従来からの提供物の変化が生み出す交 換過程の変化と取引関係の変化にまず焦点が当てられる。その結果を受けて顧客の使用過 程とどの様に関わるのかが議論されている。前者の部分は所謂『サービス・エンカウンタ ー』から『サービス・スケープ』へという一連の研究であり、後者はリレーションシップ・ マーケティングとして大きな研究分野となっている」(山本 2016, pp.7-8)。 サービス・マーケティングは、サービス財の特性から企業と顧客が相互作用することを 前提にサービスが提供されるプロセスと、顧客関係性の維持・管理の課題に重点が置かれ た研究分野である。一方、先述のとおり、サービス化はおおむね製品にサービスを追加す る、増やす、あるいは統合することと定義されるように、提供物に無体財、つまりサービ ス財を増やすことは、製造企業が顧客との相互作用を形成し使用価値に関わるための手段 として考えられているようだ。 モノ(有体財)も「サービス(人間の活動の成果)を載せるキャリア」であるという SDL で は、「提供物に無体財が増えるというよりも、サービス化は顧客との相互作用が発生する 場での顧客との関係性で規定されると考えている。(中略)製造業のサービス化という側面 を考えるとSDL の考え方では、交換された有体財が使用される場において最大の『サービ ス』が発揮できるようにするための施策を講じるという意味合いに変化する」(山本 2016, p.7)。SDL を基盤とするサービス・サイエンスにおいても、「サービスは生産プロセスで あり、その中で顧客は、それぞれの顧客に対する生産単位のために、1つ以上の入力要素 を供給する」(Sampson 2014, 日高監訳 2014, p.103)と定義しており、サービス提供のプロ セスにおいて企業の入力と顧客の入力が相互作用する重要性が強調されている。 サービスを別の角度から議論する「モノとコト」の考え方では、モノは「もっぱら所有 から効用を得るが、交換から所有・利用のプロセス」を含んでおり、コトは「交換を含め たサービス提供システム(プロセス)での経験から効用を得る」と考えられている(山本 2016)。「製造企業のサービス化の文脈では、この所有・利用のプロセスだけではなく、モ ノがサービスを提供するプロセスに関わることを想定している」(山本 2016, p.5)。 つまり、SDL と「モノとコト」の議論はサービス化の文脈では、製造企業は顧客の使用 過程を理解し関わることにより、有体財を作るという課業を変えないまま新しい価値創造 が可能になるのではないかという期待を抱いていることが分かる(山本 2016)。しかしなが ら、「使用場面に製造企業が介在することは一般的ではない」(山本 2016, p.8)。「顧客が
本当に望む価値を物財やサービス財から確実に得られるようにするために、企業はその消 費プロセスに介入する方法を開発し、そのプロセスにおいて顧客との相互作用を形成しな ければならない」(Grönroos 2006b, 蒲生訳 2015, p.242)。提供物の構成をどのように変化さ せることにより顧客の使用過程に介在し、サービスプロセスの機能性において差別化し競 争優位を獲得できるのかといった問題に答えるためには、交換客体である提供物の記述無 しには始まらない(山本 1999)。 SDL では、企業は顧客に価値を提案するのみで、その価値は顧客が提供物を使用するこ とによりその効用が発揮されると考えるため、交換後の顧客の使用過程を重視している。 一方、サービス・マーケティング研究の1つのロジックであるサービス・ロジック(SL)で は、企業は提供物を交換し顧客に価値を提案するのみではなく、その価値を有効にするた めに交換後のサービスプロセスにおいてサポートすると考えている。つまり、「価値は、 企業から顧客へ提供されるのではなく、顧客のプロセスに対するサポートをつうじて、そ してその顧客との相互作用における共創行動をつうじて創られる(利用価値)」(Grönroos 2006b, 蒲生訳 2015, p.260)。そのため、顧客の使用過程に介在し顧客との相互作用を形成 するための提供物を開発する視点が重要になる(Grönroos and Gummerus 2014)。
このようにサービス化に関連する議論において、提供物や顧客価値の捉え方に相違が見 られるものの、顧客志向、プロセス志向、関係性、相互作用、価値共創、使用価値(利用価 値)がサービス化の重要な概念として議論される点は共通している。いずれの議論において も交換時の提供物だけではなく、サービス提供のプロセス、使用過程における顧客との関 係性、使用価値にその焦点が当てられている点で類似しているが、これらの概念の捉え方 が異なれば、それぞれの議論におけるサービス化の文脈は違ったものになるだろう。これ は、先行研究においてサービス化の定義や統一された枠組み、類型化が明らかにされない 一因と考えられる。 次項では、SL を出発点としてサービス化にアプローチする。サービス・マーケティング は有体財とは異なる無体財の特性が持つ課題を中心とした研究分野である。その1つのロ ジックである SL では、顧客の使用過程に関わり顧客と価値共創する機会を最大化するた めの提供物を開発する視点を重視している。サービス化を企図する製造企業は、顧客の使 用過程に関わり価値共創するために提供物を変化させることが求められるが、それを実践 するには抽象的概念となるSDL より具体性のある SL の方が受け入れられやすいであろう。
サービス・ロジックからみたサービス化 第2項
著者の知る限り、これまでサービス・マーケティングの観点からサービス化にアプロー チする研究はほとんどなかったが、サービス・マーケティングの1つのロジックであるサ ービス・ロジック(SL)のテキスト6では、2007 年の Third Edition 以降 ”Transforming a
Manufacturing Firm into a Service Business”の章が新たに追加された。これは、サービス・マ
ーケティングに関わる研究者がサービス化を議論し始めたことを伺わせる。そこではB2B を前提に、サービス化をServitization(製品にサービスを追加)と Servicizing(サービス中心に 移行)に区別している。 Servitization は核となる製品にますます多くのサービスが追加される転換期、Servicizing は顧客との関係性におけるすべての要素が、顧客プロセスへの価値支援に変化することと 定義されている。前者では、「企業戦略が製品ベースとなるリスクがかなりあり、付随す るサービスは付け足しで支配する企業文化が製品中心になる」(Grönroos 2015, p.465)。後者 では、「製造企業の全体の戦略はサービスベースになり、提供物の核となるのは製品や他 の資源ではなく顧客への価値創造の支援でなければならない」(Grönroos 2015, p.465)。つま り、サービスベースの企業になるためには、ビジネスモデルを取引ベースのモデルから関 係性ベースのモデルへ変えなければならないのである(Grönroos 2015)。 Servitization では、顧客は提供物の能力(結果)を重視しており、企業は商品ロジック(図 1-2)をベースにした提供物の開発に、Servicizing では、顧客は価値共創のプロセスを重視 しており、企業はSL をベースにした提供物の開発に意味がある。SL では、提供物は結果 での差別化は難しく、価値共創のプロセスの機能性において差別化されると考えられてい る(Grönroos 1998)。 Grönroos(2008)は、SDL を含む現代の論文において比喩的、包含的に捉えられている顧 客のための価値、価値創造、価値共創に対し、経営的、分析的研究の発展を目指すために、 これらの概念を理論的、論理的に定義している。そこでは、価値は顧客のセルフサービス(商 品、サービスあるいは情報を消費する価値生成プロセス)において、企業が提供する商品、 サービスあるいは情報(資源)、および、顧客が保有する資源とスキルを使用あるいは適用 し、顧客自身のために顧客が創造する(使用価値)と定義されている。また、企業は提供物(資 源)の価値を提案するのみではなく、顧客の価値創造を支援するか、顧客と相互作用し顧客 の価値創造に参加し、価値共創する機会を拡大するために提供物を開発し提供すると考え られている。
図 1-2 SL から理解した商品ロジック
出所: Grönroos and Voima(2013)を参考に著者が作成(三浦 2018, p.10)
SL におけるこれらの定義は、製造業のサービス化の文脈では次ように理解される(図 1-3)。 製造企業は提供物の設計、生産までに関わる場合がほとんどであり、顧客の価値創造を間 接的に支援する商品ロジックが当てはまる。つまり、顧客は、自身の価値創造を手助けす る能力をベースに製造企業が提供する提供物を購入する場合が多い。サービス化とは、戦 略として商品ロジックから SL の Servicizing の採用を企図することであり、そのためには 提供物として顧客の価値創造を支援する能力に加え、顧客の使用過程において顧客と相互 作用し顧客の価値実現を支援するプロセス(価値創造を実現する能力をベースにした資源) を組み合わせることが求められる。 また、顧客と企業の相互作用は、「生産・交換」および「顧客の使用」過程だけではな く、「設計」段階においても形成される。この場合にも顧客の価値実現を支援するプロセ スとしてSL の Servicizing が当てはまると考えられる。また、SL では、顧客が使用過程に おいて創造する価値、つまり使用価値を基礎概念としていることから、顧客の価値は顧客 の使用過程において使用価値が高まることにより実現される。よって、サービス化では、 企業は資源と顧客との相互作用を形成するプロセスを組み合わせた提供物を設計、開発し、 顧客の価値創造に関わり、顧客の使用価値を増大することが目的になる。 このように製造業のサービス化の文脈では、顧客と相互作用を形成し顧客の価値創造と 実現を支援する機会を最大化するために、いかに資源を組みわせ、提供物を設計するかが 重要な課題となる(Ulaga and Reinartz 2011)。SL に従えば、企業は、「設計」段階における 顧客との相互作用の場面では顧客の価値実現の支援者であり、「生産・交換」含めた「顧 客の使用」過程における顧客との相互作用の場面では顧客の価値創造の共創者と言える。
図 1-3 SL から理解した製造業のサービス化
出所: Grönroos and Voima(2013)を参考に著者が作成(三浦 2018, p.11)
SL とは異なる SDL は、モノもサービスを載せるキャリアという主張に基づいており、 サービス化の先行研究において頻繁に引用されている。SDL の議論では、企業は顧客に価 値を提案するのみで、価値は顧客が提供物を使用することにより効用が発揮されると考え られている(Vargo and Lusch 2004)。SL と類似するものの、Grönroos and Gummerus (2014) は、SDL の議論は比喩的で顧客との価値共創の機会をいかに開発するかについての具体性 に欠けると主張している。 一方、SL では、提供物に顧客と相互作用する価値共創のプロセスを含めることにより、 企業は顧客の価値実現に直接的に関わることができるとしているが、SL はサービス・マー ケティングに基づいたロジックの1つであり、無体財の特性の1つである生産と消費の同 時性の課題を重視してきた経緯から、相互作用(生産)と使用過程(消費)が同じ次元で議論さ れている(Grönroos 2008, Grönroos and Ravald 2011)。モノの場合、生産と消費は別の時間と 場所で発生し、製造企業は顧客の使用過程に介在しない場合がほとんどである。また提供 物の仕様は「設計」の段階で決定するのが通常であり、提供物に顧客との相互作用のプロ セスを含める場合には、設計段階にその仕様を反映させる必要がある(Ulaga and Reinartz 2011)。 Grönroos and Ravald (2011)の研究においても、顧客との相互作用を含む提供物をい かに設計・開発するかについての具体的な議論には至っていない。 サービス化とサービス・マーケティングとの接続 第3項 前項では、SL における価値、価値創造、価値共創の定義について製造業のサービス化の
文脈で理解した。図1-3 は、SL のこれらの定義を前提にした製造業のサービス化と、関連 するサービス・マーケティングの理論との関係を図示したものである。この図と前節の図 1-1 で示したサービス化に関連する研究領域の関係を重ねて見てほしい。分類軸が統一さ れており、図 1-3 は図 1-1 におけるミクロ研究に該当する。製造企業、顧客のそれぞれの 側面から、「設計」「生産・交換」「顧客の使用」の各段階で、サービス化に関連する研 究領域との関係がわかる。また、ミクロ研究に影響する要因や関連する研究としてその周 りにあるマクロ研究との関係も理解できる。 「設計」の段階は、企業価値支援の段階である。従来の製造企業は商品ロジックをベー スにしたマーケティング戦略に基づき、顧客の価値創造を支援する能力が事前に確定した 提供物を設計、開発してきた。SL を前提にしたサービス化の文脈では、顧客との相互作用 のプロセスをいかに設計し提供物に反映させるかが重要であり、サービス・オペレーショ ンの知見が求められるだろう。また、企業は顧客を提供物の「設計」の段階に参加させる ための施策を講じることにより、顧客の価値創造を支援する機会を得られる。顧客が提案 される付加価値以上の使用価値を知覚できれば、提供物の設計に自ら参加するモチベーシ ョンになるだろう(山本 2017)。IoT、AI の技術革新は、顧客の使用価値を高めるための提 供物を設計、開発する手段となる能力は備えているものの、サービス化との関連性はすべ てが明らかにされているわけではない(山本 2017)。これらの技術を利用した顧客の知覚価 値を測定する方法論の研究や、顧客が自ら設計に参加するための技能や習熟といった社会 化の研究も、今後の発展が期待される。 「生産・交換」の段階は、「設計」の段階で確定した提供物の能力を生産・交換する段 階である。特に消費財では、製造企業は生産までの過程に関わる場合がほとんどで、交換 の段階で顧客との相互作用を形成し価値共創に参加する機会はほとんどない。サービス化 では企業は、商品、サービス、情報の資源を組み合わせた提供物を通じて、顧客の価値創 造に参加し共創する機会を開発しなければならない。サービス・マーケティングは、顧客 の生産過程への参加、無体財のうち生産と消費の同時性の特性が持つ課題に焦点を当てた 研究分野であり、サービス・エンカウンター、サービス・スケープの研究はそれらの課題 に具体的な視点を与えている。また、「設計」から「生産・交換」までの段階では、設計、 開発からその生産過程を管理するサービス・オペレーションの知見が活用されるだろう。 これらのサービス・マーケティングの知見は、サービス化において企業が顧客との相互作 用を形成し成功させるための組織、管理体制、サービス環境を構築するのに役立つだろう。
「顧客の使用」の段階は、顧客が提供物を使用し価値創造するセルフサービスプロセス の段階である。多くの製造企業は顧客の価値創造のプロセスに関わらない。サービス化で は企業は、商品、サービス、情報の資源を組み合わせた提供物を通じて、顧客の使用過程 に関わり、顧客と価値共創する機会を拡大しなければならない。しかしながら、顧客との 関係性は企業にとって必ずしも有益ではない(Grönroos 2006b)。顧客にとってネガティブに 作用する場合もある(Grönroos 2004)。有益となる顧客を選別し長期的な関係性を維持・管 理するためには、リレーションシップ・マーケティングの知見が求められるが、関係性に 対する顧客評価の観点からの研究はまだ十分ではない(Grönroos 2004)。従来の製造企業は、 均質な有体財を大量生産し成功を収めてきたが、サービス化では、顧客の使用過程に介在 し不均質で多様性のある顧客の使用価値を増大することが課題になる。顧客志向の従業員 を確保し維持するためには、サービス文化の開発に密接に関連するインターナル・マーケ ティングの知見が活用されるだろう。 「使用過程に製造企業やサービス企業が介在するためにはリレーションシップ・マーケ ティングの従来の考え方を深化させかつ交換過程と接続する必要がある。その際に提供物 がどの様に消費者に使用されるのかを理解する方法と一緒に提案される必要があるだろう」 (山本 2016, p.8)。つまり、顧客の使用価値が定義されることにより初めて企業が顧客の使 用価値を理解し、提供物の設計、開発に反映させることが可能になる(Macdonald et al. 2011)。 その定義に基づきエクスターナル・マーケティングを通じて誓約の締結が交わされ(価値提 案)、インターナル・マーケティングと価値サポート資源の開発を通じて交わされた誓約か ら形成された期待の充足を可能にし、インタラクティブ・マーケティングを通じて誓約が 達成される(顧客の価値創造のサポート)(Grönroos 2006b)。サービス化は顧客の使用過程に 介在し価値共創する手段ではない。サービス・マーケティング研究の諸概念を通して無体 財の特性が理解され、顧客の使用価値が定義されて初めて提供物の設計と開発にそれらを 反映させることが可能になり、一連のサービス・マーケティング戦略が機能すると言える だろう。 まとめ 第IV節 サービス化は、コモディティ化と熾烈化する価格競争により収益悪化に苦しむ製造企業 が、差別化し競争優位の獲得と収益を改善するための手段として盛んに議論されている。
サービス化は、さまざまな分野と範囲で研究されているが、それらを包括的に捉えた先行 研究はなく、統一された枠組みや類型化、それらを構成する概念の特定や定義には至って いない。 本章では、まず製造業のサービス化に関連するさまざまな研究領域を分類し、サービス 化とそれらの諸領域との関連性を把握した。次に、サービス・マーケティングに基づいた ロジックの1つである SL における価値、価値創造、価値共創の定義についてサービス化 の文脈で理解することにより、サービス化と関連する諸領域の研究を接続することを試み た。その結果、サービス化に関連するミクロとマクロの研究、およびサービス化とサービ ス・マーケティング研究との関連性、先行研究の課題を明らかにするとともに、今後の研 究の発展が期待される領域にも触れた。 サービス・マーケティングは、無体財のうち従来のモノとは異なり品質評価が難しいサ ービスや顧客との相互作用の特性が持つ課題、顧客関係性を維持、管理する課題に取り組 んできた研究分野である。サービス化は提供物がモノ中心から無体財中心に移行する過程 であるとすれば、サービス化をサービス・マーケティングの側面から分析することは必然 である。 以降の章では、サービス化の現象を理解し、実践に結びつけるための道具立てを提案す ることを主眼として、本章で明らかにしたサービス化と関連する研究領域との関係を念頭 に、サービス化の文脈で理解したSL の概念定義を基礎として議論を進める。具体的には、 サービス・マーケティングの理論を援用し、サービス化の過程で変化する提供物と顧客と の関係性の関連性を明らかにすることによりサービス化を再定義するとともに、サービス 化戦略の経路とサービス化のパターンを提案する。更には、サービス化の重要な概念とな る使用価値と共創価値について概念的な整理を行うことにより、サービス化の成功要因を 模索し実践的な示唆を提示する。
第2章 サービス化を考える枠組みと命題の設定 財の分類とPSS(Product-Service System) 第I節 サ ー ビ ス ・ ロ ジ ッ ク(SL)では、サービス化を Servitization(製品にサービスを追加)と Servicizing(サービス中心に移行)に区別している。本章では、サービス化に関連する理論に 基づき命題(P)を設定するが、本節と次節では、前者の Servitization を理解する枠組みを提 示し、提供物の設計の観点からサービス化を理解することを試みる。 サ ー ビ ス 化 に 関 連 す る 研 究 領 域 の 1 つ に 提 供 物 の 製 品 開 発 に 関 わ る Product-Service System(PSS)がある。PSS は所謂サービス化の研究とは異なる研究コミュニティーで、持続 可 能 性 と 環 境 影 響 の 削 減 に つ い て の 議 論 に 密 接 に 関 係 す る 北 欧 の コ ン セ プ ト で あ る (Baines et al. 2009)。一般的に PSS は「環境への影響を削減する方法で要求される、ユーザ ーの機能性を提供するシステムにおいて統合された製品とサービス」と定義されている (Baines et al. 2007, p.1545)。ここでの強調は「製品の販売」より「使用の販売」であり、Baines ら (2007)は「PSS は使用価値を提供する統合された製品とサービスの提案である」(p.1545) と定義している。PSS とサービス化の研究には明確なリンクはなかったが、Baines ら(2009) は「サービス化は製品販売からPSS 販売へのシフトをとおし、更に相互価値を創造するた めの組織能力のイノベーション」(p.555)と定義し直すことにより PSS との接続に貢献した。 図 2-1 に示すとおり、PSS では大きく異なる3つの分類が提案されている(Tukker 2004, Baines et al. 2007)。製品志向、使用志向、結果志向の PSS である。製品志向の PSS は、顧 客が所有する製品の機能と耐久性を保証し、製品の販売を促進するためにアフターサービ スとして製品に追加されるサービス(例えば、修理、メンテナンス、コンサルタントなど) である。使用志向のPSS は、顧客に所有権が移転しない製品の使用、あるいは有効性を販 売するサービス(例えば、リース、シェアリングなど)である。結果志向の PSS は、製品の 代わりに結果、あるいは能力を販売するサービス(例えば、アウトソーシング、サービス単 位毎の支払い、機能的な結果つまり空調機器ではなく「快適な天気」、あるいは農薬では なく「収穫ロスを請け負う」など)である。
図 2-1 PSS のメインとサブカテゴリー 出所: Tukker (2004), p.248 製造企業は提供物を構成する要素と機能を理解し、提供物の開発に落とし込まなければ サービス化の実現は難しい(Grönroos 1978, 山本 2016)。サービス・マーケティングの研究 において、山本 (1999)は Shostack (1977)の製品の分子モデルを改良し、財の種類を元にし た分子モデルを提案している。「企業が提供する製品の分析に資することを目的とした分 類」(山本 1999, p.24)である。財の分類とその導出過程についての説明は本稿では省略する が、有体財と無体財の区別の元になっているのは、効用を発生する主体が物質的であるか どうかと効用を発生する主体の所有権が移転するかどうかという点である。この分類によ る財の種類としては図 2-2 にあるように5種類の財を想定している。本稿では先行研究の 「サービス」を無体財と理解し、財の分類による狭義のサービスと区別して以降の議論が 進められる。 図 2-2 財の分類 出所:山本 (1999), p.48 効用を発生する 源が物質財 効用を発生する 源が非物質財 効用を発生する 源の所有権の 移転あり
有体財
情報
効用を発生する 源の所有権の 移転無し有体財
利用権
情報利用権/
サービス
無体財「製造企業のサービス化という側面からは、製造企業の提供する提供物がどの様に構成 されるのかということが重要であろう」(山本 2016, p.3)。そのため PSS の特徴を財の分類 による分子モデルで理解することから始めたい。図2-3 の左は冷蔵庫の事例を表しており、 製品志向のPSS に分類される。冷蔵庫の有体財を中心に、設置や修理といった付随するサ ービスで全体が構成されている。図 2-3 の右はリース販売され使用したコピー毎に支払う 複写機の事例を表しており、結果志向のPSS に分類される。複写機の有体財利用権を中心 に、付随するサービスや情報、有体財によって全体が構成されている。 図 2-3 財の分類による分子モデル(左は冷蔵庫、右は複写機の事例) 出所:山本(1999), p.60 を参考に著者が編集 財の分類による分子モデルは、交換時の提供物の財の構成を表しており、製造企業がい かに顧客の使用過程に介在し顧客との相互作用を形成するか、そのためにいかなる提供物 を開発するべきかという検討を助ける。PSS で提案されているサービス化の経路(製品志向 から結果志向のPSS)を分子モデルで表すことにより、提供物の構成が有体財中心から無体 財中心に変化する過程をみることができる。そこで、以下の命題(P1)を設定する。 P1 サービス化は、提供物が有体財中心から無体財中心に移行する過程である。 「こうした転換には幾つかの経路があり、パターンが存在する」(山本 2016, p.3)。それ を規定するのは製造企業が採用するサービス化戦略である。本稿では、そのサービス化戦 略を分類する次元と枠組みを提案し、サービス化の経路とパターンを明らかにすることを 価格 流通 じポジショニング 冷蔵庫 価格 流通 じポジショニング 複写機 修理 設置 メンテ ナンス 設置 使用 説明 補修 部品 有体財 サービス 有体財利用権 情報 情報利用権
1つの目的としている。これらについては、第4章において詳細に述べる。 財の代替性の理論 第II節 提供物は、それを構成する財の間の代替関係が要因となり変化する(山本 1987, 2016)。財 の代替性の概念 (山本 1987) と、代替関係が模式化されたサービス・ピラミッドの理論(山 本 2016)では、製品の提供者と消費者のそれぞれの観点から財の代替関係を生む主な要因 が検討されている(図 2-4)。 図 2-4 多面的代替関係を生む主な要因 出所:山本(1987), p. 43 を著者が修正 費用、利用可能技術、危険負担の要因において、財の選択される確率の変動の方向が同 じであればプラス、反対であればマイナスの記号で示されている(山本 1987)。例えば、労 働費用が高まり省力化技術が発展すると有体財が増えサービスが減少する要因となる。家 事労働を家電製品が代替したのは、技術進歩による有体財の価格低下と労働コストの上昇 が大きな要因である(山本 1987)。これは、家庭は生産者であり消費者であると仮定し、彼 らは企業と同様にコスト最小のルールに従い商品の時間のインプットを組み合わせること により効用を最大化すると考える家計内生産の理論(Becker 1965)に基づいている。また、 ! ! !
利用状況の不確実性が高まると有体財が減り有体財利用権が増える要因となる。例えば、 自動車を保有しても有効に利用する機会がない場合はカーシェアリングを、あるいは運転 に不安がある場合は、タクシーやウーバーのようなサービスが利用されるだろう。これら のサービスは、いつでも確実に利用できることが明らかで品質が安定している場合に利用 が促進されるだろう。逆にいつでも使える安心感が優先する場合は自家用車の所有が選択 されるだろう。これは、限定された合理性の持つ諸限界が情報処理技術の変化によって緩 和されると考える取引コストの理論(Williamson 1975)に基づいている。不確実性や機会主 義による情報の偏在から発生する取引費用が減少すると市場取引が選択され企業や家計の 業務が外部化されるが、逆に増加すると内部組織が選択される要因となり得る(山本 1987)。 サービス経済の拡大は、産業別国内総生産(GDP)と就業者数の推移から確認される。日 本において、製造業のこれらが減少に転じた約20 年前と比較して、それぞれの増減率は、 製造業では減少し、情報通信業、サービス業では増加している(図 2-5)。これは人間のサー ビスが、一旦モノに代替された後、モノとサービスの情報化が進み、新しいサービスが生 み出され、企業や家計の業務の外部化が進んだことを示している(山本 2016)。製造業の就 業者数の減少率がGDP の減少率より大きいことからも、労働力がモノや情報に代替された ことが推測される。 サービス経済は、一部の側面として需要、労働力、技術の変化の観点から検討される。 例えば、安全かみそりと電気かみそりの双方の技術革新が、理髪店でのひげそりの需要を 大きく減らしたことが挙げられる(Fuchs 1968)。経済発展により労働力のコストが上がり、 新しいかみそりの技術革新が家庭でのひげそりの生産性に与えた効果が非常に大きかった ことからその代替が起こった(Fuchs 1968)。労働力が市場生産で増加した場合、家庭内の活 動に向ける時間が少なくなり、たとえばレストラン、ランドリー、家庭清掃、美容、育児 などのサービスに代替される(Fuchs 1968)。サービス業の需要の増減は、市場生産と非市場 (家庭内)生産の間の代替関係により発生するがそれを生む一部の要因として需要、労働力、 技術の変化の観点から検討されており、これらは財の代替関係を生む要因に合致している。 このように、財の代替性の理論は、約20 年前までの製造業の伸張と、その後のサービス経 済化の現象を予測していたと言ってよいであろう。 サービス経済化における提供物の変化により、サービス・マーケティングが長く容認し てきたサービスの4つの特性である無形性(intangibility)、不均質性(heterogeneity)、不可分 性(inseparability)、消滅性(perishability)、つまり IHIP の有効性は損なわれている(Lovelock and
Gummesson 2004)。これまで見逃されてきた non-ownership の特性がその代替パラダイムと して、Shostack (1977)の分子モデルを構成する提供物の一部の財となり分析されることに より、変化する提供物とマーケティング戦略の発展に貢献することが期待される(Lovelock and Gummesson 2004)。財の類型化と代替性の理論は、その代替パラダイムの有力な候補で あったと言えるだろう。 図 2-5 経済活動別国内総生産(名目)と経済活動別の就業者数の推移 出所:内閣府 2016 年度国民経済計算(2011 年基準・2008SNA)
顧客との関係性の分類 第III節
SL はサービス化を Servitization(製品にサービスを追加)と Servicizing(サービス中心に移 行)に区別しているが、本節では、後者の Servicizing を理解するための枠組みを提案する。 Servicizing は、ビジネスモデルが取引ベースのモデルから関係性ベースのモデルへ移行す る過程である(Grönroos 2008, Tuli, Kohli, and Bharadwaj 2007)。顧客との関係性を理論的に 類型化し、その程度の変化を捉えることによりサービス化を理解することを試みる。
Gebauer ら(2010)は、資本財となる設置機器のサービス戦略をアウトソーシングパートナ ー、開発パートナー、顧客サービス戦略、アフターセールスサービスプロバイダー、そし て顧客サポートサービスプロバイダーの5つに分類している。ここでは便宜的にそれぞれ BPO(Business Process Outsourcing)、 R&D 、 CS(Customer Services) 、 AS(After Services) 、 CRM(Customer Relationship Management)と呼称する。BPO は既存の活動の再構成、R&D は 販売前、CS は販売時、AS と CRM は販売後の付加的活動である。これらは設置機器のサ ービスと先行研究の事例に基づき帰納的に分類されている。 サービスや有体財利用権のように生産、交換、使用という過程が同時に起こる財の場合 に、このように「販売前」「販売時」「販売後」に分離して理解することはあまり意味が ない。しかしながら、情報、情報利用権に関しては一定の期間消費者が使用を続けるもの もある(山本 2016)。また、製造業のサービス化で議論される提供物は有体財と無体財の組 み合わせを前提にしており、モノは「販売前」に設計され、顧客は「販売後」も継続して モノを所有あるいは使用する。よって、 Gebauer ら (2010)の分類は、サービス化を分類す る次元としても有効であろう。 一方、SL では、価値創造するのは顧客であり、企業は交換時だけではなく、交換前、交 換後も顧客の価値創造のプロセスに関わりサポートするか、あるいは相互作用を形成し価 値共創する機会を拡大するために提供物を開発すると考えられている(Grönroos 2008, 2011, Grönroos and Voima 2013, Grönroos and Gummerus 2014)。サービス化の目的は、顧客との相 互作用と価値共創の機会を開発し、使用価値を増大することである(山本 2016)。その過程 において変化する顧客との関係性を理解するためには、Gebauer ら (2010)の次元は、製造 企業側だけではなく、顧客側の観点からも検討する必要がある。ここでの顧客は、提供物 を使用し価値を創造する企業、あるいは一般消費者と定義する。分類の次元は混乱を避け るためと、モノとサービスのいずれの側面からも「販売前」「販売時」「販売後」の段階