-81- はじめに 同時通訳は高負荷の作業として常にリスクを伴っているものであるこ とは周知の通りである。その中で、話者の話速がとりわけ通訳者に大き な影響を与え、最も軽視できないリスク要因の一つだということはすで に一般的に認められている。前稿(2017)で筆者は話者の話速変動に直
同時通訳における実例分析から見る図式構築
―プロの通訳者と学生の相違から―張 晶
The schematic construction differences between professional
interpreters and students-a case-based analysis
ZHANG Jing 摘要 本文为明确在图式构建方面专业同声译员与学生的区别,首先阐明 了图式构建的定义和种类,并介绍了船山和石塚的构建模型。然后,以 一篇完整的语篇为对象,通过对比分析专业译员和学生译员的译文,得 出在图式构建方面,二者和原图式比起来都出现偏差,但前者在出现偏 差时,倾向于重新回归主题,通过反复强调的方式进行自我纠正 ;后者 则出现停顿、译文不完整和关联性弱的特点,这种建构偏差大到足够抵 消信息不对称性带来的优势。文章最后提及到该特点对当前口译教育带 来的启发。 关键词:图式,同声传译,学生,专业口译员
面する際に、プロの通訳者と学生のパフォーマンスの違いを量的分析か らしたところ、両者の訳出率は話速とp<0.01で、非常に強い相関が観 察され、且つ相関係数がそれぞれ-0.0643と-0.0640で、話速が与えた 影響力がほとんど変わらないこともわかった。それにもかかわらず、学 生の自動化レベルが低いせいで、話速が速くても遅くてもプロの通訳者 と比べると訳出率が低く、新情報密度により大きく影響されていること が判明できた。但し、前稿は数値だけの分析にとどまり、話速の速い場 合に、最終的に産出された訳文はどのようなものか、聞き手のためにど のような図式を構築してあげたのか、に触れたことはまだなかった。と いうのも、同時通訳は情報の非対称性という性質を持っているので、全 ての情報を訳しきれなくても、もし構築した訳文図式が比較的に完成し たものであれば、聞き手が下した評価は必ずしも低いとは限らないから である。よって、本稿はミクロ的な視点から一旦抜け出して、よりマク ロ的な視点、即ち完成した訳文全体からプロの通訳者と学生の図式構築 の詳細を見たいと思う。 1.図式構築の意味づけ 図式とはスキーマとも呼ばれ、概念の関係を説明するために使用され、 1781年に哲学者であるカントが初めて提起した言葉だと言われている。 それはさらに、言語図式、内容図式、形式図式といった三つに分類する ことができる(王湘玲&胡珍銘,2011)。中で、言語図式は文字、単語、 文法など言葉に関するすべての基礎知識であり、内容図式と形式図式が 成り立つための前提といっても良い。また、内容図式は言葉に関する百 科知識、社会的、文化的背景のことを指し、それでもって、聞き手が話 者の発言を聴く際に、情報を理解するための推理や予測ができるように なるわけである。一方、形式図式というのは発話の構造や文体に関する
同時通訳における実例分析から見る図式構築 ―プロの通訳者と学生の相違から― -83- 背景知識であり、田延明&王淑傑(2006)がディスコース理解の視点か ら、それを記述図式、描写図式、説明図式、弁論図式の四種類に分類し、 説明図式をさらに下記通りの図を付けて解説図式、分類図式、比較図式、 因果図式の四つに分けた。 ①解説図式 ②分類図式 ③比較図式 ④因果図式 ① 解 説 図 式 ② 分 類 図 式 ③ 比 較 図 式 ④ 因 果 図 式 そ う い っ た 図 式 は 私 た ち が 生 ま れ て き て か ら 蓄 積 が 始 ま り 、か つ 常 に 訂 正 を 加 え た り 、 リ ン ク を つ け た り し て 連 結 し た 膨 大 な デ ー タ ベ ー ス に ま で 構 築 さ れ る の で あ る 。 た だ し 、 通 訳 者 の 場 合 は 、 通 訳 作 業 を 順 調 に す る た め に は 、 起 点 言 語 の み な ら ず 、 目 標 言 語 の 図 式 を も 構 築 し な け れ ば な ら な い 。 ま た 、 認 知 的 資 源 の 節 約 の 面 を 考 え る と 、 こ の 二 つ の 図 式 を リ ン ク し な け れ ば な ら な い 。 そ う し て 初 め て 、 通 訳 す る 際 に 、 あ る 程 度 の 自 動 化 が 可 能 に な り 、 訳 出 の 精 度 を 上 げ る こ と が で き る わ け で あ る 。 こ こ で 、 言 語 図 式 に つ い て の 例 を 一 つ 挙 げ る と 、 以 下 の よ う に な る 。 Topi c E xa m pl e s Division schemata Part 1 Part 2 Part 3 Classification of schemata Genus species species species Topi c E xa m pl e s a c b ① 解 説 図 式 ② 分 類 図 式 ③ 比 較 図 式 ④ 因 果 図 式 そ う い っ た 図 式 は 私 た ち が 生 ま れ て き て か ら 蓄 積 が 始 ま り 、か つ 常 に 訂 正 を 加 え た り 、 リ ン ク を つ け た り し て 連 結 し た 膨 大 な デ ー タ ベ ー ス に ま で 構 築 さ れ る の で あ る 。 た だ し 、 通 訳 者 の 場 合 は 、 通 訳 作 業 を 順 調 に す る た め に は 、 起 点 言 語 の み な ら ず 、 目 標 言 語 の 図 式 を も 構 築 し な け れ ば な ら な い 。 ま た 、 認 知 的 資 源 の 節 約 の 面 を 考 え る と 、 こ の 二 つ の 図 式 を リ ン ク し な け れ ば な ら な い 。 そ う し て 初 め て 、 通 訳 す る 際 に 、 あ る 程 度 の 自 動 化 が 可 能 に な り 、 訳 出 の 精 度 を 上 げ る こ と が で き る わ け で あ る 。 こ こ で 、 言 語 図 式 に つ い て の 例 を 一 つ 挙 げ る と 、 以 下 の よ う に な る 。 Topi c E xa m pl e s Division schemata Part 1 Part 2 Part 3 Classification of schemata Genus species species species Topi c E xa m pl e s a c b ① 解 説 図 式 ② 分 類 図 式 ③ 比 較 図 式 ④ 因 果 図 式 そ う い っ た 図 式 は 私 た ち が 生 ま れ て き て か ら 蓄 積 が 始 ま り 、か つ 常 に 訂 正 を 加 え た り 、 リ ン ク を つ け た り し て 連 結 し た 膨 大 な デ ー タ ベ ー ス に ま で 構 築 さ れ る の で あ る 。 た だ し 、 通 訳 者 の 場 合 は 、 通 訳 作 業 を 順 調 に す る た め に は 、 起 点 言 語 の み な ら ず 、 目 標 言 語 の 図 式 を も 構 築 し な け れ ば な ら な い 。 ま た 、 認 知 的 資 源 の 節 約 の 面 を 考 え る と 、 こ の 二 つ の 図 式 を リ ン ク し な け れ ば な ら な い 。 そ う し て 初 め て 、 通 訳 す る 際 に 、 あ る 程 度 の 自 動 化 が 可 能 に な り 、 訳 出 の 精 度 を 上 げ る こ と が で き る わ け で あ る 。 こ こ で 、 言 語 図 式 に つ い て の 例 を 一 つ 挙 げ る と 、 以 下 の よ う に な る 。 Topi c E xa m pl e s Division schemata Part 1 Part 2 Part 3 Classification of schemata Genus species species species Topi c E xa m pl e s a c b ① 解 説 図 式 ② 分 類 図 式 ③ 比 較 図 式 ④ 因 果 図 式 そ う い っ た 図 式 は 私 た ち が 生 ま れ て き て か ら 蓄 積 が 始 ま り 、か つ 常 に 訂 正 を 加 え た り 、 リ ン ク を つ け た り し て 連 結 し た 膨 大 な デ ー タ ベ ー ス に ま で 構 築 さ れ る の で あ る 。 た だ し 、 通 訳 者 の 場 合 は 、 通 訳 作 業 を 順 調 に す る た め に は 、 起 点 言 語 の み な ら ず 、 目 標 言 語 の 図 式 を も 構 築 し な け れ ば な ら な い 。 ま た 、 認 知 的 資 源 の 節 約 の 面 を 考 え る と 、 こ の 二 つ の 図 式 を リ ン ク し な け れ ば な ら な い 。 そ う し て 初 め て 、 通 訳 す る 際 に 、 あ る 程 度 の 自 動 化 が 可 能 に な り 、 訳 出 の 精 度 を 上 げ る こ と が で き る わ け で あ る 。 こ こ で 、 言 語 図 式 に つ い て の 例 を 一 つ 挙 げ る と 、 以 下 の よ う に な る 。 Topi c E xa m pl e s Division schemata Part 1 Part 2 Part 3 Classification of schemata Genus species species species Topi c E xa m pl e s a c b
-84- そういった図式は私たちが生まれてきてから蓄積が始まり、かつ常に 訂正を加えたり、リンクをつけたりして連結した膨大なデータベースに まで構築されるのである。ただし、通訳者の場合は、通訳作業を順調に するためには、起点言語のみならず、目標言語の図式をも構築しなけれ ばならない。また、認知的資源の節約の面を考えると、この二つの図式 をリンクしなければならない。そうして初めて、通訳する際に、ある程 度の自動化が可能になり、訳出の精度を上げることができるわけである。 ここで、言語図式についての例を一つ挙げると、以下のようになる。 つまり、急性非代償性心不全というと、それが急性心不全の一種とし て一つの図式に入っているが、通訳者の場合はそれに対応する目標言語 の言葉をも記憶しなければならない。そのような連結が普段構築される と、通訳する際に、必要な時に長期記憶から引き出しさえすれば部分的 な自動通訳が実現できるのである。無論、以上の例はあくまでも簡略化 した図式であり、その変化性と組み込み構造性を考えると、実際はより 複雑なものになるはずであるが、ここで論じないことにする。 一方、通訳者は通訳をする際に、話者の発話した情報を長期記憶に貯 急 性 心 不 全 急 性 心 衰 急 性 非 代 償 性 心 不 全 急 性 失 代 偿 性 心 衰 高 血 圧 性 急 性 心 不 全 高 血 压 性 急 性 心 衰 急 性 肺 水 腫 急 性 肺 水 肿 心 原 性 シ ョ ッ ク 心 源 性 休 克 高 拍 出 性 心 不 全 高 输 出 量 心 衰 急 性 右 心 不 全 急 性 右 心 衰 竭 つ ま り 、 急 性 非 代 償 性 心 不 全 と い う と 、 そ れ が 急 性 心 不 全 の 一 種 と し て 一 つ の 図 式 に 入 っ て い る が 、 通 訳 者 の 場 合 は そ れ に 対 応 す る 目 標 言 語 の 言 葉 を も 記 憶 し な け れ ば な ら な い 。 そ の よ う な 連 結 が 普 段 構 築 さ れ る と 、 通 訳 す る 際 に 、 必 要 な 時 に 長 期 記 憶 か ら 引 き 出 し さ え す れ ば 部 分 的 な 自 動 通 訳 が 実 現 で き る の で あ る 。 無 論 、 以 上 の 例 は あ く ま で も 簡 略 化 し た 図 式 で あ り 、 そ の 変 化 性 と 組 み 込 み 構 造 性 を 考 え る と 、 実 際 は よ り 複 雑 な も の に な る は ず で あ る が 、 こ こ で 論 じ な い こ と に す る 。 一 方 、 通 訳 者 は 通 訳 を す る 際 に 、 話 者 の 発 話 し た 情 報 を 長 期 記 憶 に 貯 蓄 さ れ た 図 式 と 絶 え ず に 照 合 し な が ら 理 解 の 促 進 を 行 な っ て い る と 同 時 に 、 そ の 発 話 に 対 し て 新 た な 図 式 を 構 築 し て い る は ず で あ る 。 こ の よ う な 構 築 の プ ロ セ ス を 通 訳 者 の 訳 文 か ら も 垣 間 見 る こ と が で き 、 そ れ に 基 づ い て い く つ か の モ デ ル も 提 起 さ れ た 。 2.図 式 構 築 に 関 す る 船 山 の CC 理 論 と 石 塚 の 概 念 骨 格 論 ① 船 山 の CC 理 論 船 山(2006)は 発 話 理 解 の 視 点 か ら 、 オ ン ラ イ ン 概 念 表 示 の 概 念 コ ン プ レ ッ ク ス モ デ ル を 提 案 し た 。 こ の モ デ ル に は EVENT 、 PROPERTY 、 unspecified の 三 つ の タ イ プ に 分 け 、言 語 表 現 が イ ン プ ッ ト さ れ る た び に 、
同時通訳における実例分析から見る図式構築 ―プロの通訳者と学生の相違から― -85- 蓄された図式と絶えずに照合しながら理解の促進を行なっていると同時 に、その発話に対して新たな図式を構築しているはずである。このよう な構築のプロセスを通訳者の訳文からも垣間見ることができ、それに基 づいていくつかのモデルも提起された。 2.図式構築に関する船山のCC理論と石塚の概念骨格論 ①船山のCC理論 船山(2006)は発話理解の視点から、オンライン概念表示の概念コン プレックスモデルを提案した。このモデルにはEVENT、PROPERTY、 unspecifiedの三つのタイプに分け、言語表現がインプットされるたび に、聞き手がそれに関連する文法知識、背景知識、即ち言語図式と内容 図式を呼び起こしながら、情報の推論や予測を行い、概念の構築と統合 を進めていくのである。
例えば、船山氏は「The view from the window would be improved by the addition of a plant out there.」についての概念構築を次のように 表示した。
聞 き 手 が そ れ に 関 連 す る 文 法 知 識 、 背 景 知 識 、 即 ち 言 語 図 式 と 内 容 図 式 を 呼 び 起 こ し な が ら 、 情 報 の 推 論 や 予 測 を 行 い 、 概 念 の 構 築 と 統 合 を 進 め て い く の で あ る 。
例 え ば 、 船 山 氏 は 「The view from the window would be improved by the
addition of a plant out there.」に つ い て の 概 念 構 築 を 次 の よ う に 表 示 し た 。
注 意 す べ き な の は 、 本 モ デ ル に お い て 、 「The view from the window」が
来 た 時 点 で モ デ ル が PROPERTY で あ っ た が 、「would be improved」が 来 た
途 端 に 、 そ れ が EVENT に 変 わ っ た 。 つ ま り 、 モ デ ル の タ イ プ に も そ れ
ぞ れ 独 特 な 図 式 が あ り 、EVENT の 場 合 は 、PREDICATE 、AGENT 、THEME
の 三 要 素 が あ る か ら こ そ 、 一 つ の 図 式 と し て 存 在 で き る わ け で あ る 。 よ っ て 、 船 山 氏 の 概 念 構 築 モ デ ル も 実 際 は 図 式 構 築 の プ ロ セ ス で あ り 、 こ の プ ロ セ ス に お い て 、 通 訳 者 は 長 期 記 憶 に 貯 蓄 さ れ た 様 々 な 図 式 を 取 り 入 れ な が ら 、 産 出 す る た め の 新 た な 図 式 を 構 築 す る 。 そ し て 、 一 旦 構 築 さ れ た 図 式 が 次 に 構 築 す る 図 式 の 後 景 と な り 、 情 報 を ロ ジ ッ ク 的 な も の に 整 理 し 、 産 出 す る の に 役 立 た せ る の で あ る 。 ② 石 塚 の 概 念 骨 格 論 石 塚 氏(2016)は 船 山 の CC モ デ ル を 援 用 し 、 目 標 テ ク ス ト と 起 点 テ ク ス ト の 表 面 構 造 の 違 い に 着 目 し 、原 因 究 明 に 取 り 組 ん だ 。そ れ に よ っ て 、
注意すべきなのは、本モデルにおいて、「The view from the window」 が来た時点でモデルがPROPERTYであったが、「would be improved」 が来た途端に、それがEVENTに変わった。つまり、モデルのタイ プにもそれぞれ独特な図式があり、EVENTの場合は、PREDICATE、 AGENT、THEMEの三要素があるからこそ、一つの図式として存在で きるわけである。よって、船山氏の概念構築モデルも実際は図式構築の プロセスであり、このプロセスにおいて、通訳者は長期記憶に貯蓄され た様々な図式を取り入れながら、産出するための新たな図式を構築する。 そして、一旦構築された図式が次に構築する図式の後景となり、情報を ロジック的なものに整理し、産出するのに役立たせるのである。 ②石塚の概念骨格論 石塚氏(2016)は船山のCCモデルを援用し、目標テクストと起点テ クストの表面構造の違いに着目し、原因究明に取り組んだ。それによっ て、「ディスコース処理のために構築された概念表示のうち、後続する ディスコースの処理の基盤として持続的に保持される不変構造」1を概 念骨格の定義として提起した。 ここで注目したいのは、石塚氏は心的表示を論じる際に、百科事典的 知識、つまり内容図式がどのように通訳者の訳出に影響したか、を事例 を挙げて詳述した点である。
例:Here in America, all kinds of bureaucratic processes are required to build a factory. 訳文:アメリカではあまりにも規制が課されるのはこれはいけないと考 えています。 その例に対して、石塚氏はCCを次のように表示した。 1 石塚浩之(2016)「同時通訳における概念骨格―心的表示の持続性と流動性について―」 通訳翻訳研究 第16巻 pp.91
同時通訳における実例分析から見る図式構築 ―プロの通訳者と学生の相違から― -87- この訳文は原文を参照すれば、意訳と見なしてほぼ間違いないと思 われる。石塚氏の考えでは、その背後に、特定の訳出に導いた比較構 造が強く働いたのである。そして、それは、通訳者の長期記憶に貯蓄 されたover regulateとfreely expandの対立した図式(百科知識)と 説明文体に既存する形式図式である比較図式が寄与したのではない かと推測できる。石塚氏はここで船山氏の提案したEVENTタイプの CCを援用したので、America、Asia(China)は場所情報であり、red tape、approvalとquickly build a factoryは事象情報に当て嵌まるの である。そして、訳文が産出されたのは原文の前の文「In China and most Asian countries, you want to build a new factory, you can do it very, very quickly, without a lot of red tape」によって構築された図式 に「America」を入れ、それが概念骨格の左側と共に活性化された(太 線の部分)結果である。このように、通訳者は通訳する際に、常に安定 した概念骨格を後景にしながら、原文に沿って図式に入れる項目を変え て新たな図式を構築するのである。それによって、情報の一貫性と連続 性を確保することが可能になり、「これはいけない」といったような通 訳者自身の推意や明示化も自然に出てくるわけである。 「 デ ィ ス コ ー ス 処 理 の た め に 構 築 さ れ た 概 念 表 示 の う ち 、後 続 す る デ ィ ス コ ー ス の 処 理 の 基 盤 と し て 持 続 的 に 保 持 さ れ る 不 変 構 造 」1を 概 念 骨 格 の 定 義 と し て 提 起 し た 。 こ こ で 注 目 し た い の は 、 石 塚 氏 は 心 的 表 示 を 論 じ る 際 に 、 百 科 事 典 的 知 識 、 つ ま り 内 容 図 式 が ど の よ う に 通 訳 者 の 訳 出 に 影 響 し た か 、 を 事 例 を 挙 げ て 詳 述 し た 点 で あ る 。
例 :Here in America ,all kinds of bureaucratic processes are required to build
a factory. 訳 文 : ア メ リ カ で は あ ま り に も 規 制 が 課 さ れ る の は こ れ は い け な い と 考 え て い ま す 。 そ の 例 に 対 し て 、 石 塚 氏 は CC を 次 の よ う に 表 示 し た 。 こ の 訳 文 は 原 文 を 参 照 す れ ば 、 意 訳 と 見 な し て ほ ぼ 間 違 い な い と 思 わ れ る 。 石 塚 氏 の 考 え で は 、 そ の 背 後 に 、 特 定 の 訳 出 に 導 い た 比 較 構 造 が 強 く 働 い た の で あ る 。 そ し て 、 そ れ は 、 通 訳 者 の 長 期 記 憶 に 貯 蓄 さ れ た over regulate と freely expand の 対 立 し た 図 式 (百 科 知 識 )と 説 明 文 体 に 既 存 す る 形 式 図 式 で あ る 比 較 図 式 が 寄 与 し た の で は な い か と 推 測 で き る 。
石 塚 氏 は こ こ で 船 山 氏 の 提 案 し た EVENT タ イ プ の CC を 援 用 し た の で 、
America、 Asia (China)は 場 所 情 報 で あ り 、 red tape 、 approval と quickly build a factory は 事 象 情 報 に 当 て 嵌 ま る の で あ る 。 そ し て 、 訳 文 が 産 出
1 石 塚 浩 之 ( 20 1 6) 「 同 時 通 訳 に お け る 概 念 骨 格 — 心 的 表 示 の 持 続 性 と 流 動 性 に つ い
3.図式構築におけるプロの通訳者と学生の相違 前節は図式構築のプロセスに関する船山と石塚のモデルに触れてみた。 もし船山をCCモデルの発案者と呼ぶならば、石塚はそれをさらに精緻 化にし、発展させた継承者だと言えるのであろう。ただし、両者はいず れも抽出された一文のみか、概念骨格の不変性を説明するためにあえて 表面構造の異なる例文に重点を置いたので、ミクロ的な視点での分析だ ということは明白である。よって、本節はリスク回避の視点から、プロ の通訳者と学生の図式構築における違いを探るために、よりマクロ的な 角度、つまり意味のまとまったテクストを例に分析をしたいと思う。ま た、分析するにあたり、両氏のモデルのみならず、図式の種類をも考慮 に入れ、総合的な方法を取りたいと思う。 3.1比較研究の必要性 関連性理論(D.スペルベル&D.ウイルソン, 1993)によると、発話の 表意を復元する際の聞き手の最初の課題はその命題形式を同定すること である。そして、命題形式を同定するために聞き手が曖昧性の除去、指 示関係の付与及び拡充の手順を踏み、全般的解釈に関連性の原則と合致 させるのである。通訳者の場合は、話者の発話を理解するだけでなく、 その発話を目標言語で産出しなければならない。そこで、産出された新 たな命題形式が上記に述べた手順を経た産物となるので、そのプロセス を反映したものになるはずである。また、もし新たな命題形式が正しけ れば、命題自体が関連性の原則と一致する必要がある。つまり、良い訳 文というのは単なる単語や断片的な重要情報を再現するのではなく、図 式構築が理路整然なものでなければならない。さもなければ、統計上、 通訳者1と通訳者2の訳した焦点情報の数さえ同じであれば、話者1の 命題形式が2より関連性が薄くても、両者の訳文の質を同じレベルのも
同時通訳における実例分析から見る図式構築 ―プロの通訳者と学生の相違から― -89- のと判断してしまうリスクが生じてしまう。逆に、もし通訳者1と2の 訳出に漏れた情報の数が同じだとしても、通訳者1の命題形式が2より 関連性が薄ければ、聞き手が直感的に1より2の方が品質が高いと感じ るであろう。というのも、聞き手は情報の非対称性から、通訳者の発話 を通じてしか話者の発話を理解できないので、その発話が聞き手に関連 の刺激を与える必要があるからである。 3.2分析材料 本稿は適した材料を収集するために、まず、CCTV大富のニュース番 組、「今日関注」からニュース2を選んだ。当該ニュースの形式図式は説 明文体で、話速がやや速く、約4.69音節/sである。 一方、CCTV大富とは「中国中央電視台CCTV」の番組をリアルタ イムで届けている日本初の中国語テレビチャンネルであり、生放送の ニュース番組を日本語同時通訳をつけて放送しているのである。また、 こちらの通訳者は80年代から30年以上の同時通訳歴を有したベテラ ンであり、CCTV大富で経済、政治、社会など様々な分野にまつわる ニュースの同時通訳をすると同時に、NHKのBSでも通訳者を担当して いる。さらに、通訳者の育成にもあたっている非常に経験豊富な現役の 通訳者だといえる。よって、本稿の研究対象としては適格に思われる。 比較研究を成すために、本稿は通訳修士課程二年生の一人を対象に、 同じ材料に対する同時通訳実験を実施した。当該学生は一年間の通訳訓 練を受けており、学生全員の中で成績が比較的に優秀な方だが、経験が まだ浅く、現場での同時通訳をしたことは一度もない。 実験の詳細は下記の通りである。 2 2017年2月19日のニュースである。
場所:できる限り通訳現場の雰囲気を感じさせるために、教室に設置 されたブースを利用した。 手順:①まず、実験が正式に始まる1時間前に、難訳語リスト(通訳 者が簡単に訳出できたが、学生には難しそうな専門用語のリスト)の配 布と実験内容の説明、テーマの伝えを行い、テーマに対する準備時間を 30分間与えた。なぜなら、本稿は専門用語に引っかかった訳出を研究 対象から除外しているので、もしそれが原因で、全体の訳出に影響を及 ぼしたら、データが汚染されてしまう恐れがあるからである。また、事 前準備をさせたのは、プロの通訳者が職業柄で、常に様々なテーマに触 れて背景知識を蓄積しているのに対し、学生は普段そういう意識がない からである。短時間の準備によって、少しでも背景知識において、プロ の通訳者と大差をつけさせないようにするのが目的である。②準備完了 後、学生にブースに入ってもらい、実験が正式に始まる。なお、学生が 通訳した音声は事前にブースに置かれた録音設備で録音した。 そして、実験終了後、学生の訳文をプロの通訳者の訳文とともに書き 起こし、訳出率を計算する。その結果、プロの通訳者と学生の訳出率は それぞれ72.46%3、42.77%で、前者は後者より成績が良いことがわかる。 3.3材料の書き起こし 次に、材料を起点テクスト、目標テクストの順で書き起こし、且つ文 ごとに識別番号をつけてあげる。また、太字は文の焦点情報に当たる。 ①起点テクスト: 1英国路透社 17 号发布独家消息说 , 2日本为了应对在东海方向上中国 军队日益频繁的活动 , 3将加速推进新型护卫舰的建造。4按照日本防卫 3 話者原稿付き、かつ話速が比較的に速く、情報密度の高い放送通訳にしては、このくらい の訳出率は正常の範囲に入っていると思われる。
同時通訳における実例分析から見る図式構築 ―プロの通訳者と学生の相違から― -91- 省的最新计划 , 5从 2018 年开始 , 6日本每年将建造两艘这种新型舰艇 , 7四年内总共建造八艘 , 8预计每艘的造价为 400 到 500 亿日元 , 9约合 24 到 30 亿元人民币。10 日本政府首次提到这种新型护卫舰的概念 ,11 是 在 2013 年 10 月通过的防卫计划大纲中。12 按照日本官方的构想 ,13 这一 型号的舰艇将有 3000 吨的排水量 ,14 速度快 ,15 集合反潜、扫雷等多项功 能 ,16 与美军的滨海战斗舰非常相似。17 实际上过去几年日本网络上一直 就有所谓日本版滨海舰队的说法。18 对此,防卫省官方并未承认。19 新型 舰艇只是日本在东海方向上强化战力的举措之一。20 日本产经新闻 16 号 披露 , 21 陸上自卫队最新的 16 式机动战车将从今年开始,分批装备部队。 22 报道说,23 这款装备专门为西南岛屿作战量身打造,24 是自卫队快速反 应机制的王牌。 ②目標テクスト: 1)プロの通訳者: 1.イギリスのロイターによりますと、17日にそれを述べています。2. 東海方向の中国軍隊の活動に対応するために、4.防衛省としては、3. 新たな防衛艦を作るとのことです。5.2018年以降に、6.日本は毎 年2艘の新型防衛艦を作るということです。7.4年間で8艘の建造が されています。8.そして、日本円で400から500億円で此れをやって いるとのことであります。10.日本は今回始めて新型護衛艦の概念を打 ち出しました。11.此れは日本の防衛計画により、もとにされています。 13.この護衛艦でありますが、3000トンの排水量があり、15.また対 潜水艦、機雷掃海の機能を持っており、16.此れはアメリカの沿海域戦 闘艦に非常に似ているとのことであります。17.日本版の沿海域戦闘艦 が出来上がるのでしょうか。19.この新たな護衛艦でありますけれども、 東海の方向に向けて軍事力を強化するといわれています。21.そして、 日本の自衛隊によれば、ですけれども、この16の機動車が配備される
-92- といわれています。24.そして、自衛隊のそのクイックレスポンスのた めに、そうとも言われています。 2)学生: 1.イギリスのロイターから、2.日本は中国による頻繁な活動に対し て、3.新たな護衛艦を配備するようとしています。5.これから二つ ずつ、9.合わせて30億元の人民元を使います。11.2013年から、新 たな議案が通過され、13.これらの護衛艦は3000トンの排水量があって、 14.またスピードも速く、16沿海の戦闘艦と似ています。17.ネット によると、日本バージョンの沿海戦闘艦と言われることもあります。19. これは東海をめぐる。21.陸上自衛隊は新しい機動車を今年から配備す るようにしています。 3.4図式構築の流れ ①起点テクストの流れ 起 点 テ ク ス ト に 対 す る 図 式 構 築 の プ ロ セ ス は 聞 き 手 が 通 訳 者 を 媒 介 せ ず に 直 接 に 構 築 し た 図 式 で あ る 。 ま ず 、 第 1 文 は ニ ュ ー ス の 発 信 源 、 日 時 を 紹 介 し 、 そ れ を 情 報 伝 達 の 後 景 に す る こ と で 、 本 題 を 伝 え る 基 盤 を 整 え た 。 次 に 、1 を 後 景 に 、 2 と い う 原 因 説 明 の 形 で 、 3、 す な わ ち 日 本 が 新 型 護 衛 艦 を 作 る と い っ た ニ ュ ー ス の 主 題 を 引 き 出 し た 。 勿 論 、2 を 聞 い た 瞬 間 に 、 聞 き 手 の 脳 内 に 、 「 頻 繁 な 活 動 」 に 関 す る 百 科 知 識 、 例 え ば 、 中 国 公 船 の 航 行 な ど が 活 性 化 さ れ た り 、3 に な る と 、 長 期 記 憶 に 貯 蓄 さ れ た 護 衛 艦 に 関 す る 図 式 が 活 性 化 さ れ た り す る の で あ ろ う 。そ し て 、 3 と い う 主 題 情 報 が 出 た 以 上 、 次 に 来 る 情 報 の 後 景 に さ れ る の も 妥 当 的 だ と 思 わ れ る が 、1 と い う 元 来 の 後 景 情 報 が こ の 時 に ま だ 完 全 に 作 動 記 憶 か ら 消 え て い な い と し て も 、3 の 更 新 に よ っ て 、 弱 体 化 し た こ と は 否 定 で き な い 。 情 報 の 関 連 性 か ら 、 日 本 に よ る 新 型 護 衛 艦 の 詳 細 に つ い て の 紹 介 が 来 る の は 聞 き 手 に と っ て 4 を 聞 い た 時 点 で 、 予 測 で き る 図 式 に な る 。そ こ で 、3 を 持 続 的 に 保 持 す る ま ま に 、建 造 時 期 (5)、建 造 数 量 (6、 7)、 所 要 費 用 (8、 9)の 順 で 説 明 す る 際 に 使 う 分 類 図 式 が 漸 進 的 に 構 築 さ れ て い く の で あ る 。 そ の 後 、 話 者 が 一 旦 話 題 を 転 換 し 、 主 題 情 報 、 つ ま り 日 本 の 新 型 護 衛 艦 製 造 の 由 来(10、11)を 説 明 し た が 、3 が 後 景 で あ る こ と に 変 わ り が な い と 思 わ れ る 。そ し て 、12 の 「按 照 日 本 官 方 的 构 想 」は 実
同時通訳における実例分析から見る図式構築 ―プロの通訳者と学生の相違から― -93- 起点テクストに対する図式構築のプロセスは聞き手が通訳者を媒介せ ずに直接に構築した図式である。まず、第1文はニュースの発信源、日 時を紹介し、それを情報伝達の後景にすることで、本題を伝える基盤 を整えた。次に、1を後景に、2という原因説明の形で、3、すなわち 日本が新型護衛艦を作るといったニュースの主題を引き出した。勿論、 2を聞いた瞬間に、聞き手の脳内に、「頻繁な活動」に関する百科知識、 例えば、中国公船の航行などが活性化されたり、3になると、長期記憶 に貯蓄された護衛艦に関する図式が活性化されたりするのであろう。そ して、3という主題情報が出た以上、次に来る情報の後景にされるの も妥当的だと思われるが、1という元来の後景情報がこの時にまだ完全 に作動記憶から消えていないとしても、3の更新によって、弱体化した ことは否定できない。情報の関連性から、日本による新型護衛艦の詳細 についての紹介が来るのは聞き手にとって4を聞いた時点で、予測でき る図式になる。そこで、3を持続的に保持するままに、建造時期(5)、 建造数量(6、7)、所要費用(8、9)の順で説明する際に使う分類 図式が漸進的に構築されていくのである。その後、話者が一旦話題を転 換し、主題情報、つまり日本の新型護衛艦製造の由来(10、11)を説明 したが、3が後景であることに変わりがないと思われる。そして、12 の「按照日本官方的构想」は実際4と同質の情報であり、それを聞いた 時に、後に来るのはまた日本による新型護衛艦に対する説明であること は予測できる。そこで、聞き手が3を保持するままに、護衛艦の排水量 (13)、速度(14)、機能(15)を分類図式に沿って箇条的に漸進的に構 築していく。16になると、今度は3が不動の概念として保持される一方、 13、14、15という護衛艦の性質によって構築された護衛艦の図式が16、 つまりアメリカの沿海戦闘艦と比較図式をなすようになり、その後、16 の信頼度を高めるために、例を挙げる形で、即ち17でもって16を証明
-94- したわけである。さらに見ると、18番の「对此」が明らかに、17を指 しており、17を後景に、18と19の説明を加えたものである。一方、20 番になると、産経新聞、16日を後景に、前景に21を置いた。その時も、 3が主題概念としてもっとも奥に敷かれた後景として存在しているが、 23の「南西諸島」まで聞くと、それが3と包含関係にあるのではなく、 東中国海での軍事力を強化するために作った護衛艦という概念とは対照 図式をなしていることがわかる。この時点で、対照図式が「日本の軍事 力強化」というより大きな概念に収められるようになったが、その概念 が19の「東海の方向に向けた軍事力を強化する措置」に由来したと思 われる。そして、21は23、24と明らかに因果関係にあるので、因果図 式でテクストが収束されることになる。 このように、起点テクストは相対的に安定した図式(例:1、3)を 概念骨格として使い、それでもって頻繁に変わるような図式を順調に、 且つ関連性のあるものとして漸進的に進行させていくのである。勿論、 そのプロセスにおいて、聞き手の様々な図式が長期記憶から活性化され、 新たな図式の構築に繋がったが、ここではその詳述を省くことにする。 ②目標テクストの流れ 1)プロの通訳者 通 訳 者 は 話 者 の 情 報 を で き る だ け 再 現 す る よ う に 努 力 し て は い る が 、 必 ず し も 聞 き 手 が 直 接 に 構 築 し た 図 式 と 同 じ よ う な も の が で き る と は 限 ら な い 。 な ぜ な ら 、 聞 き な が ら 話 す と い う よ う な 作 業 を す る に は 作 動 記 憶 が 必 要 で あ る が 、 そ れ に は 制 限 が あ る か ら で あ る 。 特 に 話 速 が 速 く な る と 、 訳 出 率 が 下 が る こ と に な り 、 図 式 構 築 も そ れ に 伴 い 、 何 ら か の 変 化 が 起 き る は ず で あ る 。 本 例 に お い て 、 プ ロ の 通 訳 者 は ま ず 第1 文 に あ る ニ ュ ー ス の 情 報 源 及 び 期 日 を 紹 介 し 、 本 題 に 入 る た め の 基 盤 を 整 え た 。 こ の プ ロ セ ス に お い て 、 通 訳 者 は 「 英 国 路 透 社 」 を 聞 い た 瞬 間 に 、 長 期 記 憶 か ら そ の 対 訳 を 見 つ け 、 且 つ 「 に よ り ま す と 」 と 、 日 本 の ニ ュ ー ス 報 道 に 既 存 す る 図 式 、 即 ち 内 容 図 式 を 引 き 出 し 、 自 動 的 な 産 出 を 行 っ た 。 そ の 証 拠 と し て 、 通 訳 者 は 後 に 「17 日 に そ れ を 述 べ て い ま す 」と 、起 点 テ ク ス ト に 期 日 の 紹 介 が 出 た の に 気 づ き 、 補 足 す る 形 で 訳 し た こ と か ら 見 て 取 れ る 。 次 に 、1 を 後 景 に 、 通 訳 者 は 2 の 条 件 文 を 経 て 、 主 題 3 へ の 辿 り 着 き に 成 功 し た 。 但 し 、3 を 訳 す 際 に 、 4 の 「日 本 防 卫 省 」が す で に 話 者 に 発 話 さ れ た の で 、 そ の 影 響 を 受 け 、 通 訳 者 は 3 の 訳 に 、 「日 本 」の 代 わ り に 、 「日 本 防 衛 省 」 を 持 ち 込 み 、Agent を さ ら に 絞 っ た の で あ る 。 一 方 、 連 鎖 的 効 果 で 、 「按 照 最 新 计 划 」 が 通 訳 者 に 飛 ば さ れ た が 、こ れ は 特 に 図 式 構 築 に 大 き な 影 響
同時通訳における実例分析から見る図式構築 ―プロの通訳者と学生の相違から― -95- 通訳者は話者の情報をできるだけ再現するように努力してはいるが、 必ずしも聞き手が直接に構築した図式と同じようなものができるとは限 らない。なぜなら、聞きながら話すというような作業をするには作動記 憶が必要であるが、それには制限があるからである。特に話速が速くな ると、訳出率が下がることになり、図式構築もそれに伴い、何らかの変 化が起きるはずである。 本例において、プロの通訳者はまず第1文にあるニュースの情報源及 び期日を紹介し、本題に入るための基盤を整えた。このプロセスにおい て、通訳者は「英国路透社」を聞いた瞬間に、長期記憶からその対訳を 見つけ、且つ「によりますと」と、日本のニュース報道に既存する図式、 即ち内容図式を引き出し、自動的な産出を行った。その証拠として、通 訳者は後に「17日にそれを述べています」と、起点テクストに期日の 紹介が出たのに気づき、補足する形で訳したことから見て取れる。次に、 1を後景に、通訳者は2の条件文を経て、主題3への辿り着きに成功し た。但し、3を訳す際に、4の「日本防卫省」がすでに話者に発話され たので、その影響を受け、通訳者は3の訳に、「日本」の代わりに、「日 本防衛省」を持ち込み、Agentをさらに絞ったのである。一方、連鎖的 効果で、「按照最新计划」が通訳者に飛ばされたが、これは特に図式構 築に大きな影響を与えていないようである。次の情報は主題3が登場し たので、3を後景として、5の建造時期、6と7の建造数量、8の所要 費用に関する情報が漸進的に展開されることになる。ここで、通訳者な しの図式構築と比べれば、情報9が通訳者に脱落されたが、所要費用と しての図式が構築された以上、その情報の脱落が特に甚大な影響をもた らしていないと見て良い。また、もう一つ注意して欲しいのは、ここの 6〜8の語尾に「ということです」、もしくは「とのことです」が付い ていることである。「と」は文法上引用の助詞として使われ、「によりま
すと」と共起することが多いのを考えると、せめてこのところまで、通 訳者の訳文を聞いた聞き手の脳内に、1が概念骨格として、鮮明に存在 しているのであろう。さらに進むと、話は今回初めて新型護衛艦の概念 を打ち出したのは、日本の防衛計画がもとにされているからである(因 果図式)との情報になるが、起点テクストと比べると、元来は2013年 10月に採決された防衛計画の中に、日本政府は新型護衛艦の概念を初 めて盛り込んだという新型護衛艦の由来を説明する文である。つまり、 両者には意味のズレが生じており、構築した図式も自然に異なってくる。 この時点で、3が依然として後景であるが、1は前と比べるとやや弱体 化しているように見える。その後、通訳者は「この護衛艦であります が」を強調することで、聞き手の注意を護衛艦の概念からまた護衛艦 自体に自然に戻そうとした。そして、それを後景として、13の排水量、 15の機能を漸進的に説明した。ここで、14の速度についての情報が脱 落されたが、図式への歪曲に甚大な影響を与えていないと思われる。次 に、3が保持されるままに、13と15で構築した新型護衛艦の図式が16 と比較図式をなしているが、その後ろに「とのことであります」をつけ ることによって、一回弱体化した1がまた聞き手に想起され、後景とし て活性化されたのである。しかし、17のところになると、起点テクス トは「確かに日本のネット上は、これが日本版の沿海戦闘艦だと言って いる」といった16をさらに証明するための文であるにも関わらず、通 訳者は「日本版の沿海戦闘艦ができるのでしょうか」と16に基づいた 推意の図式を構築した。この後、連鎖反応が起こり、18も省略するこ とになるが、通訳者はそこで、「この新たな護衛艦でありますけれど」 と、また主題情報を強調することで、崩れそうな図式を再構築すること に励んだ。このように、3が後景情報として保持され、その上で護衛艦 製造の目的、即ち19が述べられたが、19の語尾に「と言われています」
同時通訳における実例分析から見る図式構築 ―プロの通訳者と学生の相違から― -97- を加えることで、1がまた活性化された。しかし、その後、認知資源の 過負荷なのか、通訳者は起点テクストにある20、23を脱落してしまい、 本来なら20を後景として情報が展開されるはずであったが、結局、3 と1が因果関係をなした21と24の後景となり、図式のズレが発生して しまった。 以上からもわかるように、通訳者の情報漏れや情報のズレによって、 構築された図式全体は数が減っただけでなく、その内部の関連性も変 わってくることがわかる。また、関連性が途絶えそうな時に、通訳者は 主題情報への回帰によって、それを強化しようとする傾向があるように 見える。さらに、通訳者は「これ」などの指示代名詞を頻繁に使ったこ とにも留意してほしい。例えば、8と16において、起点テクストには 指示代名詞がなかったにもかかわらず、目標テクストは「これ」を盛り 込み、「新型護衛艦」を指示代名詞で繰り返しに明示することで、新し い命題形式の関連性をさらに強化した。前述のように、命題形式を同定 するために聞き手が曖昧性の除去、指示関係の付与及び拡充の手順を踏 まなければならない。一方、通訳者は通訳者である前に、一人の聞き手 として情報を同定する必要がある。そうすると、通訳者の訳文からも必 ず命題形式の同定プロセスを垣間見ることができるが、「これ」といっ た指示代名詞の使用はまさにその証拠であろう。
文教大学 言語と文化 第30号 -98- 2)学生 次に、学生の図式構築の状況を見る。 本例において、学生はまず第1文にあるニュースの情報源を訳し、本 題に入るための基盤を築き上げた。また、ニュースの期日が脱落された 上に、文自体が完成したものとは言えないが、それを聞いた聞き手が長 期記憶に貯蔵されたニュースの形式図式と照らし合わせれば、形式同定 のプロセスにおける拡充を使うことができるので、第1文がさほど次に 来る情報を理解するための障害にならないと思われる。次に、1を後景 に、学生は「日本は中国による頻繁な活動に対して、新たな護衛艦を配 備するようとしています」との訳を産出した。ここの「に対して」は 複合格助詞であり、動作が向けられる対象や目標を表す機能を持ってい る。その後ろにはそれに向けられた行為や態度などの表現が続く4。文 の前半を見れば、恐らく後ろに「警戒を強化する」、「自制を要求する」、 「不満を表明する」など言語行為を表す動詞、抽象的な動詞や態度を示 2)学 生 次 に 、 学 生 の 図 式 構 築 の 状 況 を 見 る 。 本 例 に お い て 、 学 生 は ま ず 第 1 文 に あ る ニ ュ ー ス の 情 報 源 を 訳 し 、 本 題 に 入 る た め の 基 盤 を 築 き 上 げ た 。 ま た 、 ニ ュ ー ス の 期 日 が 脱 落 さ れ た 上 に 、 文 自 体 が 完 成 し た も の と は 言 え な い が 、 そ れ を 聞 い た 聞 き 手 が 長 期 記 憶 に 貯 蔵 さ れ た ニ ュ ー ス の 形 式 図 式 と 照 ら し 合 わ せ れ ば 、 形 式 同 定 の プ ロ セ ス に お け る 拡 充 を 使 う こ と が で き る の で 、 第 1 文 が さ ほ ど 次 に 来 る 情 報 を 理 解 す る た め の 障 害 に な ら な い と 思 わ れ る 。 次 に 、1 を 後 景 に 、 学 生 は 「 日 本 は 中 国 に よ る 頻 繁 な 活 動 に 対 し て 、 新 た な 護 衛 艦 を 配 備 す る よ う と し て い ま す 」 と の 訳 を 産 出 し た 。こ こ の 「 に 対 し て 」 は 複 合 格 助 詞 で あ り 、 動 作 が 向 け ら れ る 対 象 や 目 標 を 表 す 機 能 を 持 っ て い る 。 そ の 後 ろ に は そ れ に 向 け ら れ た 行 為 や 態 度 な ど の 表 現 が 続 く4。文 の 前 半 を 見 れ ば 、恐 ら く 後 ろ に 「 警 戒 を 強 化 す る 」 、「 自 制 を 要 求 す る 」 、「 不 満 を 表 明 す る 」 な ど 言 語 行 為 を 表 す 動 詞 、抽 象 的 な 動 詞 や 態 度 を 示 す 動 詞 も し く は 形 容 動 詞 が 来 る だ ろ う と 予 測 す る が 、 実 際 後 半 を 見 る と 、 そ れ は 非 常 に 具 体 的 な 動 詞 に な っ て い る 。 だ と す る と 、 「 に 対 し て 」 の 前 に つ く 対 象 は 修 飾 す る た め の 副 詞 的 用 法 に な る が 、「 日 本 は 活 動 に 対 し て 、護 衛 艦 を 4 马 小 兵 ( 20 11) 『 日 语 复 合 格 助 词 与 语 法 研 究 』 深 圳 报 业 集 团 出 版 社 p p . 25
同時通訳における実例分析から見る図式構築 ―プロの通訳者と学生の相違から― -99- す動詞もしくは形容動詞が来るだろうと予測するが、実際後半を見る と、それは非常に具体的な動詞になっている。だとすると、「に対して」 の前につく対象は修飾するための副詞的用法になるが、「日本は活動に 対して、護衛艦を配備する」を見ると、やはり不自然に思われる。よっ て、ここで2と3が因果関係をなしておらず、且つ文自身に問題がある ことがわかる。ただし、提供された情報が言語図式との照らし合わせに よって、拡充することが可能なほど多いので、聞き手の図式構築に甚大 な影響を与えていないとも思われる。その後、3を後景に、5の建造数 量、9の所用費用に関する情報が漸進的に構築されていくが、5の文は 図式構築に導くほど完全なものではないので、ここで図式構築が一旦失 敗する(点線で示す)。続いて、3を後景に、11が構築されるが、また 文が途切れ、かつ聞き手がそこから何の関連性も読み取れないので、図 式構築のプロセスが中断になる。そして、「これらの護衛艦は」によっ て、3が後景として再構築され、13、14が前景として付け加えられるが、 13、14で構築した護衛艦の図式が次に「沿海の戦闘艦」と比較図式を なすことになる。但し、原文では「沿海の戦闘艦」の前に「アメリカ の」との修飾があるが、訳文にそれが反映されていない。そこで、聞き 手が関連性原則に基づいて、真っ先に構築されたのは「日本」の「護衛 艦と戦闘艦」の比較図式になるが、続けて聞くと、「日本バージョンの 沿海戦闘艦」との情報が来る。日本バージョンというと、それが他の国 に原型があるのではないかと、自然に長期記憶に貯蔵された百科知識が 想起され、これが前に理解していた情報と矛盾があることに初めて気づ く。それで、構築された図式がこの段階に再び崩壊する。続いて、「こ れ」を聞いた瞬間、関連性原則から、17のことを指すと思われるので、 4 马小兵(2011)『日语复合格助词与语法研究』深圳报业集团出版社 pp. 25
それを後景に、図式構築の再開を図るが、19が不完全な文なのでまた 挫折に遭ってしまう。そこで、21をもとに、一から再構築しようとし たら、21が発話された段階で、テクストが終了してしまう。 このように、学生の訳を踏まえて構築した図式は学生を介さずに聞き 手が自然に構築したものより、規模が縮まったのみならず、図式全体が 安定性に欠けていることがわかる。その安定性の欠如は主に二つの面で 表している。1、概念骨格が現れたり消えたりして、安定したものでは ない。2、常に変化している項目の間に、関連性が不安定であり、時に は急に途絶えるような現象さえ発生する。これはとりあえず聞き取れた 情報を訳すという選択肢をとった通訳者に見られた典型的な症状であり、 通訳者自身の頭に、情報がきちんと整理されなかった証なのである。 4.プロの通訳者と学生の相違点 以上はプロの通訳者と学生の図式構築を別々に分析してみた。 さらにまとめると、通訳者を介さない図式構築と比べ、プロの通訳者 と学生が構築したものはいずれも規模が小さくなり、且つ歪曲が程度の 差こそあるものの、存在しているのは確かなことである。 しかし、学生と比べると、プロの通訳者は図式自体に関連性があり、 はっきりしたロジック的矛盾がない。それゆえに、例え図式形態が起点 テクストと多少に異なったとしても(10、11、20など)、聞き手は特に 違和感を覚えない。それに対し、学生が構築した図式には未完成なもの があり(5、19など)、完成したものであっても関連性が薄く、ロジッ ク的混乱を聞き手が感じずにはいられない(14、17など)ところがある。 そのせいで、例え焦点情報が訳されたとしても、文自体が聞き手に拡充 するヒントさえ与えられないほど未完成なものであれば、それは訳出の 評価に対して逆効果をもたらしてしまう。同様に、文が完成したもので
同時通訳における実例分析から見る図式構築 ―プロの通訳者と学生の相違から― -101- あっても、一部の焦点情報の脱落で関連性が失われたとすれば、訳出に 何かの間違いがあることを聞き手がすぐに察知することができ、訳出の 評価に影を落とすことに繋がる。 5.通訳教育への示唆 上述のように、学生が構築した図式は未完成なものが多く、聞き手に 気づかれるほどのロジック的混乱が発生しがちである。換言すると、そ れを解決しさえすれば、少なくとも聞き手から、学生の訳出に対する評 価が改善されることになるのではないかと思われる。 そのために、情報の脱落があっても、常に起点テクストの軸(主題) を把握しながら、訳せる情報をロジック的かつ完結したものにしなけれ ばならないという意識を培かわなければならない。 一方、現在の通訳教育において提唱されている訓練方法の中で、「リ プロダクション」と「リテンション」が片方の言葉を再生する訓練であ り、語彙量を増やし、短期記憶力を鍛える他に、よりロジック的に思 考できるようにする上でも、効果があるのではないかと思われる。特に 「リテンション」は比較的に長いひとまとまりの内容に対する情報再現 の訓練なので、内容をロジック的且つ完成した構造に構築できるように することにおいて寄与すると思われる。 ただし、通訳の自動化レベルがまだ低い学生にとって、情報のロジッ ク性と完結性に注意を向ける場合には、訳出率にどのような影響が出る か、はまだ定かではないので、それを今後の課題にしたいと思う。
参考文献 塚本慶一(2013)『中国語通訳への道』大修館書店 船山仲他(1996)「同時通訳における処理単位について」『通訳理論研 究』 第10号 船山仲他(2006)「発話理解のオンライン概念表示」神戸外大論叢 第 57巻 pp.1-21 船山仲他(2012)「通訳するための思考」通訳翻訳研究 第12号 pp.3-19 石塚浩之(2008)「同時通訳のSL/TLの差異から探る概念的処理の実態」 通訳翻訳研究 第8号 pp.19-35 石塚浩之(2014)「同時通訳者の発話理解における主題情報の構造化」 人工知能学会研究資料 pp.1-5 石塚浩之(2016)「同時通訳における概念骨格―心的表示の持続性と流 動性について―」『通訳翻訳研究』第16号 pp.85-105 今井むつみ(2010)『言葉と思考』岩波書店 田延明&王淑杰(2006)「图式理论框架下的语篇理解模式研究」 『西安外 国语学报』14-4 pp.16-20 王湘玲&胡珍銘(2011)「口译认知过程中信息处理模型的图式诠释」『湖 南大学学报』25-5 pp.107-110 马小兵(2011)『日语复合格助词与语法研究』深圳报业集团出版社 張晶(2017)「リスク回避の視点から見る中日同時通訳における話速と 訳出率との相関関係―プロの通訳者群と学生群との比較研究を中 心に」日本言語文化に関する国際学術シンポジウム pp.67-72