長野大学 紀要 第14巻 第4号 354-359頁 1993
恐怖症の心理治療 における認知行動療法の効果
The Effect of Cognitive Behavior Therapy
on the Treatment of Simple Phobia
問 題 一般 に不安神経症 、恐怖症 な どの不安定情動 を 主 因 とす る問題に対す る行動療法 としては、脱感 作法に代表 され るレスポンデ ン ト学習に基づ いた 技法が用 い られて きた。 ところで、近年 わが国で も、思考様式や信 念 と いった認知 的活動 その ものの変容 を図 った り、認 知 的活動 を変容 させ るこ とに よって、外顕的行動 の変容 を図る認知行動療法(cognitive behavior therapy)の研究が盛んにな って きてお り(坂野, 1992;坂野 ・根建 ,1988)、不安神経症 、恐怖症 な どに対 す る通 用 も報告 され始 め て い る (井上 、 1991;中島,1991)0 認知行動療 法では、 (1) 予期や判断、思考や信 念 といった認知 的活 動が情動 反応お よび外顕的行動 に影響 を与 えてい る。
(
2
)
行動 をコン トロール してい るのは 自分 自身 であ る とい う、行動 のセルフコン トロール を重視 す る。 (3) したが って、認知的活動 を自分 自身で変容 させ ることで、外顕的行動 を変容 させ るこ とが可 能 であ る。 とい う点 を基本仮 説 としている。 したが って、こ の基本仮説に よれば 、不安や 恐怖 な どの情動反応 の生起は、それ を生み出す信 念や思考パ ター ン と いった認知的活動が介在 してお り、それ を認知 的 技法に よって取 り扱 えば、不安 ・恐怖 を消去 で き るこ とになる。 今 回、身体症状 を呈す る恐怖症 に対 して、従来 の脱感作法 を適用 した結果 、不安 に ともな う身体前
田
基
成
Motonari Maeda
症状は消失 した ものの、tergetbehaviorに対す る 不安 の消去 は認め られなか った とい う同 じような2
症例 を経験 した。 そ して、それ らの症例 に対 し て認知行動療法 を適用 した ところ、あ る程度の 改 善が得 られたので、その治療経過か ら恐怖症の心 理 治療 におけ る認知行動療法の効 果 につ いて検討 す る。 症 例 * 【症例 1】 17歳 女 高校2年生 1.主 訴 授業 中に、人前で発言 した り、本 を読 んだ りす る と声がふ るえる。そのため 、指名 されて も、答 え られない。教科書が朗読 で きない。 2.現病 歴 発症 は中学校3年生の ときであ る。 それ以前、 小学校 の ころよ り授業 中に指名 されて教科書 を読 む ときには、多少緊張す る傾 向はあ った ものの 、 読め ない とい うことは まった くなか った。 中学校 3年生の1学期 、国語の授業 中、指名 されて教 科 書 を読んでいるときに、 自分の声がふ るえてい る ように聞 こえた。 また、読み終わ ってか ら、仲 の よい友人か ら声がふ るえていたこ とを指摘 され る とい うこ とが何度かあった。 その とき以来 、授 業 中に人前で教科書 を読む ときには 、聞いている友 人が 「声 の調子 が変 わ った」、「声 がふ るえてい る」 と思 っていると感 じるようになった。それか らまもな くして、指名 されて教科書 を読 もうとす る と、動博 、手掌発汗、顔面紅潮 、手のふ るえな どの身体症状が現れ、教科書 を読 む こ とが で きな い とい うこ とがあ り,本読み以外に も教 師か らの *本研 究の症例は、筆者が九州大学医学部心療内科在職 中に担 当 した ものである。 ご指導 いただ きました九州大学医学部心療 内科教授 (現福 岡県立大学教授 )中川哲也先生に厚 く御礼 申 し上げ ます。前 田基成 恐怖症 の心理 治療 におけ る認知行動療 法の効 果 質 問に少 し長 く答 える (た とえば、 自分 の考 え を 述べ る)こ ともで きな くな った。 それ以来 、教科 書の指名読みか らはず して もらっているが、「はい」、 「いいえ」とい った一 言だけ の短 い応答 をした り、 黒板 に出て解 答 を善いた りす る ときには、特 に緊 張 はせ ず 、問題 な く遂行 で きる。 高校 に進 学 した直後 はや や症状 が軽減 した気が したが 、そ うした状 態 は長 く継続せ ず、1か 月後 には再 び もとの状態 に戻 って しまった。学 級担任 教 師 には 自分か らわけ を話 して、他 の教科 担任 に は学 級担任 か ら話 をして もらった。 なお、授 業以 外 の場面 では、他 者 と話す こ とに全 く問題 はな く, 担任教 師の勧 め に よ り、保健室 で養護教諭 に定期 的 に面接相 談 を受 けてい るが 、その ときには何 で もは きは き と話す とい うこ とであ る。 今 回、その養護教 諭 に勧 め られて九州大学 附属 病 院心療 内科 を受 診 した。心療 内科 におけ る診断 は
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で、筆 者が面接 治療 の担 当 とな った。 3.既往歴 特 にな し 4.心理社会 的背景 (1) 家族 お よび生育歴 :両親 (自営業 )、兄 (大 学生 )の4人家族 であ る。家族 関係 は良好 で特 に 問題 は ない。幼 少の ころ よ り、家 の 中では よ くし ゃべ るが 、外に 出 る とお とな しい万 だ った。 しか し、比較 的 多 くの友 人 とよ く遊 び 、家の 中で一 人 で遊 ぶ タイプではなか った。 その他 、生育歴上 で 特 に問題 とな るこ とは ない。 (2)学校 :3年 前 に現在在籍 す る高校 に第1志 望 で入学。仲 の よい友 人 もで き、部 活動 も弓道 部 に所属 、学校生 活に も適 応 してい る。本 人の話 で は 、授業 中に本が読 め ない こ と以外 は学校 は楽 し く、早 く治 したい との こ とであ る。 (3) パー ソナ リテ ィ :YIG性 格検査 の結果は 、AE
型 でやや 内向的 であ る。
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は粗 点19点 で、パー ソナ リテ ィ特質 として比較 的 不安 の高 い側面が認め られ る。 5.行動分析 担任教 師か らの情報 に よる と、学校 生活場面 で は 、授業 中の教科書 の指 名読 み 、指名 されての発 言 を除けば全 く問題 はみ られ ない。お とな しい性 格 ではあ るが、友 人 も多 く、孤 立 してい る様子 も 355 な く、授業以外の場 面 では 、友 人、教 師 ともは き は き話す こ とが で きる。 したが って、授業 中の本 読 み で声がふ るえる とい う経験 を したこ とに よ り 獲得 され た不安 に よって 、緊張場面 で身体症 状が 引 き起 こされ 、そのため教科 書が読め ない とい う 状態 に陥 ってい る もの と考 え られ る。 6.治療方針 以上 の こ とか ら、次 の よ うな治療方針が たて ら れた。す なわち、人前 で本 を読 む とい う緊張場面 にお いて生起す る不安 を、イ メー ジに よる系統的 脱感作 お よび in vivoに よる現実脱感作 に よ り消 去す る。 また、その際 の不安 措抗 反応 としては、 自律 訓練標準練 習 を用 い るこ ととす る。 7.治療経過 第 1回∼第3
回 :詳細 な情報 の聴取 、治療方針 につ いての説 明 、不安 階層表(
Tabl
el
)の作成が 行 われた。 第4
回-第1
2
回 :自律訓練標準練 習が 第2
公式 (四肢室 温感練 習 )を習得 し、十分 な リラクセー シ ョンが得 られ るまで行 われ た。第2公式 を習得 し た段 階 では、十分 な リラクセー シ ョンは得 られ る よ うにな った ものの 、問題場面 におけ る症状 には 変化 がみ られ なか った。 第13回-第39回 :あ らか じめ作成 されていた不 安 階層表(
Ta
bl
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)に したが って 、イ メー ジに よ る系統 的脱感作 を実施 し、問題場面 での不安 を消 去 してい った。 第21
回の面接 で、N0.
6
までのSU
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が 0にな った。N0.
7
の場 面か らは 、面接場面 に おけ る系統 的脱感作 と並行 して、i
nvi
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での現実 脱感作 を行 った。実際 的には 、学 級担任 と連携 し、 担任 が教科 担 当であ る国語 の授業 に、短 く答 えれ ば よい質 問 (例 えば 多肢選 択 )に答 えるこ とか ら 始 ま り、少 し長 く答 える、教科 書 を2-3
行程度 読 む、5
行程 度読 む 、な どの よ うに徐 々にt
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であ るN0.
9
の行動 に近づ け、それ ぞれ の実 際の行動 におけ る不安 を消去 してい った。 その結果 、第3
0
回の面接 の時点 で、授業 中の本 読 みや質 問に対す る応 答 につ いて、イメー ジでは 全 く不安 はな くな り(
SUD
はすべ て 0にな り)、 実際 の行動 で も、指 名 されれば5
行程度 は流暢に 読 め るよ うにな った。 また、読 ん でいる とき、声 の調子 が変 わ る、声 がふ るえる、教科書 を持つ手 がふ るえ る、な どの様子 は担任 か ら見て何 ら観察3
5
6
長 野大学 紀要 第14巻 第 4号 1993 Table l 症例1の不安階層表 No. 不 安 場 面 1.初対面の人(
6
0
歳以上)と話す2.
初対面の人(
5
0-6
0
歳)と話す3.
初対面の人(
4
0-5
0
歳)と話す4.
初対面の人(
2
0-4
0
歳)と話す 5.同 じ学級の男子生徒 と話す 6.初対面の人 (自分 と同世代 )と話す 7.授業中、先生の質問に答え、さらに深 く質問され、答える 8.英語、国語などの授業で、教科書の指名読みが始まるとき 9.授業中、指名されて教科書 を読む され なか った。 しか しなが ら、本 人の報告 に よる と、手掌 発汗 、動摩 、顔面紅潮 な どの身体 的症状 はな くな った ものの 、あいか わ らず不安 は消失 し てお らず 、 自分 としては、読 んでい る ときに声が ふ るえて 、聞 いてい る人か らは変 に思 われてい る のでは ないか と不安 であ る との こ とであった。 第3
1
回か ら第3
9
回にかけて、繰 り返 しイ メー ジ お よびi
n vivoに よる脱感作 を行 ったが 、 この不 安 は消失 しなか った。 そ うして い るうちに、東京 の大学 に進学す るこ とが決 ま り、筆者 との面接 治 療 は終結 とな った。 【症例 2】 48歳 女 高校教 員 1.主 訴 人前 で緊張 し、手がふ るえる。字が書け な くな る。2.
現病歴 発症 は5
年 前の4
3
歳の ときであ るが 、それ以前 に も、教 員にな って ま もないころ、理科 の授業 中 に生徒 の前 で実験 をして見せ てい る とき、些細 な 失敗 を して生徒 か ら笑 われた こ とがあ った。 その とき以来 、人の前 で何 か をす る ときには、軽度 の 緊張 を覚 えるよ うになったが、何 か をす るの に特 別支障が あ るほ どではなか った。 それか ら2
0
年 た った4
3
歳の とき、以前の上 司だ った校長 の葬儀 に参列 して記帳す る際 、少 し手が ふ るえてい るよ うな気が して、なか なか筆 が進 ま ない とい うこ とがあ った。 その ときに、周囲 にい た人た ちか ら変 に思 われたの では ないか と思 った との こ とであ る。それ以来 、人前 に出 る と、緊張0
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2
4
5
6
6
7 00 80日H
して手 のふ るえが気 にな り始 め た。例 えば 、来客 にお茶 を差 し出 した り、銀行や郵便局 で住所 、氏 名 を書 くときに、手がふ るえてい る と周囲の人か ら変 に思 われてい るのではないか と気 に な るよ う に なった。 そのため 、葬儀 や 結婚 式が あ って も、 記帳 で きない と思 い、理 由 を作 って行か ない よ う にな った。 ただ し、症 状が起 こる場面 はか な り限定 されて いて、例 えば、人前 で字 を書 く場面 で も、周囲が 大 人でない場合 には緊張せ ず 、授 業 中、生徒 の前 で黒板 に字 を書 いた り、子 ども会 の会合 で、子 ど も相手 に字 を善 いた りす る ときには、全 く問題 を 感 じない。 発症 か らほぼ5年 たった今年 、何 とか 治 さな く ては と思 い、手がふ るえる とい うこ とで神 経内科 の病 院 を受 診 、そこか ら九州大学付属病 院心療 内 科 を紹介 され た。心療 内科 におけ る診断 はsimple phobiaで、筆者が面接 治療 の担 当 とな った。3.
既往症 特 にな し。4.
心理社会 的背景 (1)家族 お よび生育歴 :夫 (会社 員 )、長女 (高 校生 )、次女 (中学生 )との4人家族 。昨年 は長女 が高校受験 で、合格 で きるか少 々心配す るこ とが あ ったが 、長 女が高校 に合格 してか らは 、特 に心 配事 もない。家族 関係 は良好 で、特 記事 項 はない。 患者 は幼 少の ころか ら父親 に習字 を厳 し く指導 されてお り、その影響か らか 、字 は きれ いに書か ない と気がす まず 、子 どもの ころか ら形 の悪 い字 を書 くこ とには、ず っ と抵抗感 が あ った とい うこ前 田基成 恐怖症の心理治療における認知行動療法の効果 とである。 その他 、生育歴に関 しては特 に問題 は ない。
(
2
)
職業 :大学 の理学部 を卒業後 、県立高校 で 理科 の教員 をしている。勤務校 を3回転任 してい るが 、いずれの学校 で も同僚 、上司 との人間関係 は よ く、特 に不適応の様子 はみ られない。学校 で は、教室 で生徒 の見てい る前 で黒板 に字 を書 くと きも、職 員室 で字 を書 くときに も、手がふ るえる ようなことはな く、まった く問題はみ られない。 (3) パー ソナ リテ ィ :YIG性格検査の結果はA' 型で特 に問題 はない。STAI
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は 粗 点1
7
で、やや高不安 であ る。5.
行動分析 以上の ように、手がふ るえ、 うま く字が書けな い緊張場面はか な り限定 されている。 これは、5
年前の葬儀 の記帳 の際、手がふ るえて しまったこ とに よ り、書字場面において不安 が獲得 され、限 定 された場面において不安 が惹起す ると、その不 安 に よって手のふ るえが 引 き起 こされてい るもの と考 え られ る。6.
治療方針 手のふ るえ を引 き起 こす特定 の緊張場面 で生起 す る不安 を、イメー ジに よる系統的脱感作お よび in vivoに よる現実脱感作によって消去す る。不安 桔抗反応 としては 自律 訓練標準練習に よって得 ら れ る リラクセー シ ョン反応 を用 いる07.
治療経過 第1回∼第3回 :詳細な情報 の聴取 、治療方針 の説明お よび不安 階層表(
Ta
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e2
)の作成が行 357 われた。 第4回∼第16回 :自律 訓練標準練 習が第 2公式 (四肢重温感練習)の習得 まで行 われた。第2公式 をほぼ習得 した段階において、症状 に変化 はみ ら れなか った。 第1
7
回∼第2
7
回 :不安 階層表(
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e2)
に した が って、問題場面で生起す る不安 を消去す るため にイメー ジに よる系統的脱感作 を行 った。N0.4の 場面か らは系統的脱感作 と並行 してin vivo に よ る現実脱感作 を実施 した。現実脱感作 では、 自律 訓練 を行 い、十分 な リラクセー シ ョンが得 られた 直後に、実際にその行動 を始発 させ るとい う手続 きが とられた。 また、No.9お よび No.10につ いて は、受診の ときに 自律訓練の後 、看護婦な ど医療 スタ ッフが大勢 見てい る前 で字 を書 くこととした。 その結果 、イメー ジ下 でのSUD
はすべ て 0に な り、 また、実際場面 において も、N0.8までの行 動 は確実 に遂行 で きるようにな った。No.9、No.10 の毛筆 での記帳 につ いて も、病 院では看護婦 な ど が 多数見ている前 で全 くふ るえるこ とな く書字が で きるようにな った。Fig.1は、多数の人が見てい る場面での、治療前後のペ ンお よび毛筆に よる音 字の変化 を示 した ものであ る。治療前の文字のふ るえが治療後 ではな くな っているのが よ くわか る。 しか しなが ら、「病院では人が見ている前で書けた が、病 院 と葬儀や結婚 式 とは違 う。葬儀や結婚式 では書けない と思 う」 と言い、通夜の機会が2回 あったが、適 当な理 由 を作 って参列 しなか った。 第2
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回-第3
7
回 :当初 の治療方針にはなか ったTa
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2 症例2の不安階層表 No. 不 安 場 面SUD
1.町内の婦人会の会合で字 を書 く 2.お茶を差 し出され、受け取 る3.
学校のPTA
の会合で字 を書 く 4.銀行、郵便局で用紙に住所、氏名 を書 く5.
ビールを他の人のコップにつ ぐ6.PTA
の宴会で、 日本酒を他の人の杯につ ぐ2
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506
0
7
0
7.来客時、結婚式などで、 日本酒を他の人の杯につ ぐ 90 8.なじみのない来客の接待で、お茶を差 し出す 9.結婚式で、記帳する 10.通夜、葬儀で、記帳する 0 0 0 9 0 0 : r:358 長 野大学 紀要 第14巻 第4号 1993 (治療前)
福 岡市 中央 区え神
(治療後)兼
聞 耳 中大 区 天神
福岡
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港
即
削 療 治 Fig.1 治療前後の書字の変化 が、「葬儀や結婚式で うまく字が書けないに違 いな い」 とい う誤 った思 い込みが根強 く存在 し、その ために 「うま く記帳 できないだろ う」 とい う不安 が消去 で きない と考 えられ るため 、その誤 った認 知 の修正 を図 る 目的で、認知的再体制化(cognitive restructuring)を実施 した。具体的には、McMullin&
Gilles(1981)のcountering の手続 きを用 いた。 すなわち、面接 の中に、 ① うれ しい、悲 しい、腹が立つ な どの情緒的反 応は認知 に よって引 き起 こされているこ とを説明 し、理解 させ る。 ②今 回問題 となっている不安は、「記帳の とき、 手がふ るえるだろ う」 とい う固定化 した誤 った認 知 に よって引 き起 こされているこ とを理解 させ る。 ③ 自分 の頭 の 中で、その誤 った思 い込み (習慣 的思考 ) と反撃思考 (Fig.2)とを議論 させ 、固定 化 している習慣 的思考が誤 りであることを確信 さ せ る。 習 慣 的 思 考 結婚式や葬儀で記帳するときは、必ず手がふ るえて、字が うまく書けないであろう。同
港
和
透
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とい う手続 きを導入 した。ただ し、③ の手続 きは 自宅 で も行 うこ ととした。 その結果、9回の面接 で 「何 とか記帳 で きそ う な気がす る」 とい う陳述が なされ、一応面接治療 は終結 とした。その後の追跡調査 では、10か 月後 に、夫が依頼 されて仲 人を引 き受 けた結婚 式の と き、参加 者がほ とん ど集 まらない うちに記帳 した が 、特に問題はなか った。記帳 で きそ うだ とい う 自信が出て きた との ことである。 ただ し、その後 2年 間は、結婚 式 も葬儀 もな く、記帳す る機会 は ない。 考 察 症例1、2
ともに発症経過か らは、特定場面 に おけ る不安 反応が獲得 され、その不安 反応 に よっ て声がふ るえる、手がふ るえるな どの身体 症状が 引 き起 こされてい るこ とが考 え られた。 したが っ 反 撃 思 考 そんなことはないo病院では大勢の人が見て Fig.2 不安を引き起こす習慣的思考および治療 に用いられた反撃思考 -58-前田基成 恐怖症の心理治療における認知行動療法の効果 て、当初 の治療方針 としては、その ような特定場 面 において生 じる不安 を制 止す るこ とに重点がお かれ、イメー ジお よび in vivoに よる脱感作法が 適用 された。その結果 、イメー ジ刺 激では不安 は 誘発 されな くな り、 また、実際場面 において も、 症例
1
では、授業 中に人前 で5
行程度 は流暢 に教 科書 を読む こ とがで きる、症例2では、病 院で大 勢 の人が見ている前で、毛筆 でふ るえるこ とな く 書字が で きるな ど、 tergetbehaviorにつ いて外 顕的行動 レベ ルではか な りの改善 を示す ようにな った。 しか しなが ら、その tergetbehaviorを遂 行す るにあた っての予期不安 は徹底 した脱感作 を 行 って も消去 で きなか った。 症例1
は、患者が東京の大学 に進学す るため 、 治療 が継続 で きな くな り、結果的にはその不安 を 除去す る治療 は行 われない まま終 った。いわば失 敗症例 といって よいであろ う。 これに対 し、症例 2はそ うした不安 を除去す るために、脱感作法の 後に認知 的再体制化 を実施 し、脱感作法のみの と きよ りも不安 の低 減が可能 にな った。 この2
つの 症例 を比較す る と、思 い込み、信 念な どの誤 った 認知 に基づ く不安 反応 は脱感作法 だけ では消去 で きない場合 があ り、その ような ときには、今 回用 いた認知 的再体制化の ような認知行動療法が有効 であ るこ とが示唆 され る。 こ うした結果 は、換言すれば、脱感作法 だけで はtergetbehaviorをうま く遂行す る とい う自己 効 力感 (self-efficacy)を完全に高めた状態 まで至 らなか ったの を、認知 的再体制化 の手続 きが 自己 効 力感 をさらに高め た といえる。 東候 ・前 田 (1988)はチ ックの児童 を対象 とし て、単一事例実験計画法に よ りチ ックの再発 しな か った症例 と再 発 した症例 につ いて、 自己効 力感 を指標 とした治療過程 の比較検討 を行 った。 その 結果 、チ ックの症状はほぼ消失 した状態で も、 自 己効 力感が完全 に高め られていない と、チ ックの 再発が認め られた。 この 自己効 力感が完全 に高め られていない状態が、本研 究 では脱感作法に よ り 外顕的行動 レベ ルの改善 は もた らされた ものの、 まだ不安 は消失 されていない とい う段階に相 当す る。 したが って、認知 的再体制化 に よって不安 を 除去 し、 自己効 力感 をさ らに高め る とい う操作 は 必須 の ものであった といえよ う。Bandura(1977) 359 は 自己効力感 を規定す る情報源の1
つ として 「言 語 的説得」 をあげ、これに基づ く技法の 1つ に 自 己教示 をあげている。今 回用 い られた習慣的思考 と反撃思考 を頭の 中で議論 させ る とい う手続 きは、 自己教示 と多 くの部分 で共通 している。つ ま り、 本研究の症例2の countering の手続 きに よる自 己効 力感の上昇は、実際に葬儀 ・結婚式 とい う場 面 での遂行行動 の達成 を経験 して上昇 した もので はないだけに、言語的説得 を情報源に した もの と 考 え られ る。 ところで、田上 ・前田 (1992)は不安神経症 の 治療 において、 自律訓練 だけでは消去 で きなか っ た不安 を、今 回適用 された もの と同 じ手続 きを用 いて除去す るこ とに成功 している。 しか しなが ら、 田上 ・前 田 (1992)の研 究 も、本研究 も、行動 に 比較 して認知 のアセス メン トが十分 にな されてい る とはいえない。 こうした症例 においては、行動 の変容 と認知 の変容 の両方 をアセス メン トす るこ とが必要 である と思 われ るが 、この点が今後に残 された課題 であろ う。 (まえだ もとな り 非常勤講師) (1993.1.18受理 ) 引用文献Bandura,A.1977Self-e庁icacy:Towardaunifying theory of behavioralchange・ Pshychological 71euieu),84,19卜215.
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中島勝秀 1991 神経症圏の認知行動療法 臨床精神 医学,20,93卜937.
Mcmullin,R.E.& Giles,T・Rl1981Cognitive -behauiorthe功 . Grune& Stratton. 坂野雄二 1992 認知行動療法の発展 と今後の課題 ヒューマンサイエンス リサーチ, 1,87-107. 坂野雄二 ・根建金男 1988 行動療法か ら認知行動的 介入へ 季刊精神療法,14,121-134. 田上不二夫 ・前田基成 1992 認知行動的カウンセ リ ングによる不安神経症の治療 信州大学教育学部紀 要,76,95-102. 東候光彦 ・前田基成 1988 チ ックに対する認知的変 容 と症状改善 -self-e庁icacyを指標 とした治療過程 の検討 - カウンセ リング研究,21,47-53.