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恐怖症の心理治療における認知行動療法の効果

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長野大学 紀要 第14巻 第4号 354-359頁 1993

恐怖症の心理治療 における認知行動療法の効果

The Effect of Cognitive Behavior Therapy

on the Treatment of Simple Phobia

問 題 一般 に不安神経症 、恐怖症 な どの不安定情動 を 主 因 とす る問題に対す る行動療法 としては、脱感 作法に代表 され るレスポンデ ン ト学習に基づ いた 技法が用 い られて きた。 ところで、近年 わが国で も、思考様式や信 念 と いった認知 的活動 その ものの変容 を図 った り、認 知 的活動 を変容 させ るこ とに よって、外顕的行動 の変容 を図る認知行動療法(cognitive behavior therapy)の研究が盛んにな って きてお り(坂野, 1992;坂野 ・根建 ,1988)、不安神経症 、恐怖症 な どに対 す る通 用 も報告 され始 め て い る (井上 、 1991;中島,1991)0 認知行動療 法では、 (1) 予期や判断、思考や信 念 といった認知 的活 動が情動 反応お よび外顕的行動 に影響 を与 えてい る。

(

2

)

行動 をコン トロール してい るのは 自分 自身 であ る とい う、行動 のセルフコン トロール を重視 す る。 (3) したが って、認知的活動 を自分 自身で変容 させ ることで、外顕的行動 を変容 させ るこ とが可 能 であ る。 とい う点 を基本仮 説 としている。 したが って、こ の基本仮説に よれば 、不安や 恐怖 な どの情動反応 の生起は、それ を生み出す信 念や思考パ ター ン と いった認知的活動が介在 してお り、それ を認知 的 技法に よって取 り扱 えば、不安 ・恐怖 を消去 で き るこ とになる。 今 回、身体症状 を呈す る恐怖症 に対 して、従来 の脱感作法 を適用 した結果 、不安 に ともな う身体

Motonari Maeda

症状は消失 した ものの、tergetbehaviorに対す る 不安 の消去 は認め られなか った とい う同 じような

2

症例 を経験 した。 そ して、それ らの症例 に対 し て認知行動療法 を適用 した ところ、あ る程度の 改 善が得 られたので、その治療経過か ら恐怖症の心 理 治療 におけ る認知行動療法の効 果 につ いて検討 す る。 症 例 * 【症例 1】 17歳 女 高校2年生 1.主 訴 授業 中に、人前で発言 した り、本 を読 んだ りす る と声がふ るえる。そのため 、指名 されて も、答 え られない。教科書が朗読 で きない。 2.現病 歴 発症 は中学校3年生の ときであ る。 それ以前、 小学校 の ころよ り授業 中に指名 されて教科書 を読 む ときには、多少緊張す る傾 向はあ った ものの 、 読め ない とい うことは まった くなか った。 中学校 3年生の1学期 、国語の授業 中、指名 されて教 科 書 を読んでいるときに、 自分の声がふ るえてい る ように聞 こえた。 また、読み終わ ってか ら、仲 の よい友人か ら声がふ るえていたこ とを指摘 され る とい うこ とが何度かあった。 その とき以来 、授 業 中に人前で教科書 を読む ときには 、聞いている友 人が 「声 の調子 が変 わ った」、「声 がふ るえてい る」 と思 っていると感 じるようになった。それか らまもな くして、指名 されて教科書 を読 もうとす る と、動博 、手掌発汗、顔面紅潮 、手のふ るえな どの身体症状が現れ、教科書 を読 む こ とが で きな い とい うこ とがあ り,本読み以外に も教 師か らの *本研 究の症例は、筆者が九州大学医学部心療内科在職 中に担 当 した ものである。 ご指導 いただ きました九州大学医学部心療 内科教授 (現福 岡県立大学教授 )中川哲也先生に厚 く御礼 申 し上げ ます。

(2)

前 田基成 恐怖症 の心理 治療 におけ る認知行動療 法の効 果 質 問に少 し長 く答 える (た とえば、 自分 の考 え を 述べ る)こ ともで きな くな った。 それ以来 、教科 書の指名読みか らはず して もらっているが、「はい」、 「いいえ」とい った一 言だけ の短 い応答 をした り、 黒板 に出て解 答 を善いた りす る ときには、特 に緊 張 はせ ず 、問題 な く遂行 で きる。 高校 に進 学 した直後 はや や症状 が軽減 した気が したが 、そ うした状 態 は長 く継続せ ず、1か 月後 には再 び もとの状態 に戻 って しまった。学 級担任 教 師 には 自分か らわけ を話 して、他 の教科 担任 に は学 級担任 か ら話 をして もらった。 なお、授 業以 外 の場面 では、他 者 と話す こ とに全 く問題 はな く, 担任教 師の勧 め に よ り、保健室 で養護教諭 に定期 的 に面接相 談 を受 けてい るが 、その ときには何 で もは きは き と話す とい うこ とであ る。 今 回、その養護教 諭 に勧 め られて九州大学 附属 病 院心療 内科 を受 診 した。心療 内科 におけ る診断 は

s

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a

で、筆 者が面接 治療 の担 当 とな った。 3.既往歴 特 にな し 4.心理社会 的背景 (1) 家族 お よび生育歴 :両親 (自営業 )、兄 (大 学生 )の4人家族 であ る。家族 関係 は良好 で特 に 問題 は ない。幼 少の ころ よ り、家 の 中では よ くし ゃべ るが 、外に 出 る とお とな しい万 だ った。 しか し、比較 的 多 くの友 人 とよ く遊 び 、家の 中で一 人 で遊 ぶ タイプではなか った。 その他 、生育歴上 で 特 に問題 とな るこ とは ない。 (2)学校 :3年 前 に現在在籍 す る高校 に第1志 望 で入学。仲 の よい友 人 もで き、部 活動 も弓道 部 に所属 、学校生 活に も適 応 してい る。本 人の話 で は 、授業 中に本が読 め ない こ と以外 は学校 は楽 し く、早 く治 したい との こ とであ る。 (3) パー ソナ リテ ィ :YIG性 格検査 の結果は 、

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型 でやや 内向的 であ る

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は粗 点19点 で、パー ソナ リテ ィ特質 として比較 的 不安 の高 い側面が認め られ る。 5.行動分析 担任教 師か らの情報 に よる と、学校 生活場面 で は 、授業 中の教科書 の指 名読 み 、指名 されての発 言 を除けば全 く問題 はみ られ ない。お とな しい性 格 ではあ るが、友 人 も多 く、孤 立 してい る様子 も 355 な く、授業以外の場 面 では 、友 人、教 師 ともは き は き話す こ とが で きる。 したが って、授業 中の本 読 み で声がふ るえる とい う経験 を したこ とに よ り 獲得 され た不安 に よって 、緊張場面 で身体症 状が 引 き起 こされ 、そのため教科 書が読め ない とい う 状態 に陥 ってい る もの と考 え られ る。 6.治療方針 以上 の こ とか ら、次 の よ うな治療方針が たて ら れた。す なわち、人前 で本 を読 む とい う緊張場面 にお いて生起す る不安 を、イ メー ジに よる系統的 脱感作 お よび in vivoに よる現実脱感作 に よ り消 去す る。 また、その際 の不安 措抗 反応 としては、 自律 訓練標準練 習 を用 い るこ ととす る。 7.治療経過 第 1回∼第

3

回 :詳細 な情報 の聴取 、治療方針 につ いての説 明 、不安 階層表

(

Tabl

el

)の作成が 行 われた。 第

4

回-第

1

2

回 :自律訓練標準練 習が 第

2

公式 (四肢室 温感練 習 )を習得 し、十分 な リラクセー シ ョンが得 られ るまで行 われ た。第2公式 を習得 し た段 階 では、十分 な リラクセー シ ョンは得 られ る よ うにな った ものの 、問題場面 におけ る症状 には 変化 がみ られ なか った。 第13回-第39回 :あ らか じめ作成 されていた不 安 階層表

(

Ta

bl

el

)に したが って 、イ メー ジに よ る系統 的脱感作 を実施 し、問題場面 での不安 を消 去 してい った。 第

21

回の面接 で

、N0.

6

までの

SU

D

が 0にな った

。N0.

7

の場 面か らは 、面接場面 に おけ る系統 的脱感作 と並行 して

、i

nvi

vo

での現実 脱感作 を行 った。実際 的には 、学 級担任 と連携 し、 担任 が教科 担 当であ る国語 の授業 に、短 く答 えれ ば よい質 問 (例 えば 多肢選 択 )に答 えるこ とか ら 始 ま り、少 し長 く答 える、教科 書 を

2-3

行程度 読 む

、5

行程 度読 む 、な どの よ うに徐 々に

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r

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o

r

であ る

N0.

9

の行動 に近づ け、それ ぞれ の実 際の行動 におけ る不安 を消去 してい った。 その結果 、第

3

0

回の面接 の時点 で、授業 中の本 読 みや質 問に対す る応 答 につ いて、イメー ジでは 全 く不安 はな くな り

(

SUD

はすべ て 0にな り)、 実際 の行動 で も、指 名 されれば

5

行程度 は流暢に 読 め るよ うにな った。 また、読 ん でいる とき、声 の調子 が変 わ る、声 がふ るえる、教科書 を持つ手 がふ るえ る、な どの様子 は担任 か ら見て何 ら観察

(3)

3

5

6

長 野大学 紀要 第14巻 第 4号 1993 Table l 症例1の不安階層表 No. 不 安 場 面 1.初対面の人

(

6

0

歳以上)と話す

2.

初対面の人

(

5

0-6

0

歳)と話す

3.

初対面の人

(

4

0-5

0

歳)と話す

4.

初対面の人

(

2

0-4

0

歳)と話す 5.同 じ学級の男子生徒 と話す 6.初対面の人 (自分 と同世代 )と話す 7.授業中、先生の質問に答え、さらに深 く質問され、答える 8.英語、国語などの授業で、教科書の指名読みが始まるとき 9.授業中、指名されて教科書 を読む され なか った。 しか しなが ら、本 人の報告 に よる と、手掌 発汗 、動摩 、顔面紅潮 な どの身体 的症状 はな くな った ものの 、あいか わ らず不安 は消失 し てお らず 、 自分 としては、読 んでい る ときに声が ふ るえて 、聞 いてい る人か らは変 に思 われてい る のでは ないか と不安 であ る との こ とであった。 第

3

1

回か ら第

3

9

回にかけて、繰 り返 しイ メー ジ お よび

i

n vivoに よる脱感作 を行 ったが 、 この不 安 は消失 しなか った。 そ うして い るうちに、東京 の大学 に進学す るこ とが決 ま り、筆者 との面接 治 療 は終結 とな った。 【症例 2】 48歳 女 高校教 員 1.主 訴 人前 で緊張 し、手がふ るえる。字が書け な くな る。

2.

現病歴 発症 は

5

年 前の

4

3

歳の ときであ るが 、それ以前 に も、教 員にな って ま もないころ、理科 の授業 中 に生徒 の前 で実験 をして見せ てい る とき、些細 な 失敗 を して生徒 か ら笑 われた こ とがあ った。 その とき以来 、人の前 で何 か をす る ときには、軽度 の 緊張 を覚 えるよ うになったが、何 か をす るの に特 別支障が あ るほ どではなか った。 それか ら

2

0

年 た った

4

3

歳の とき、以前の上 司だ った校長 の葬儀 に参列 して記帳す る際 、少 し手が ふ るえてい るよ うな気が して、なか なか筆 が進 ま ない とい うこ とがあ った。 その ときに、周囲 にい た人た ちか ら変 に思 われたの では ないか と思 った との こ とであ る。それ以来 、人前 に出 る と、緊張

0

0

0

0

0

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0

2

4

5

6

6

7 00 8

0日H

して手 のふ るえが気 にな り始 め た。例 えば 、来客 にお茶 を差 し出 した り、銀行や郵便局 で住所 、氏 名 を書 くときに、手がふ るえてい る と周囲の人か ら変 に思 われてい るのではないか と気 に な るよ う に なった。 そのため 、葬儀 や 結婚 式が あ って も、 記帳 で きない と思 い、理 由 を作 って行か ない よ う にな った。 ただ し、症 状が起 こる場面 はか な り限定 されて いて、例 えば、人前 で字 を書 く場面 で も、周囲が 大 人でない場合 には緊張せ ず 、授 業 中、生徒 の前 で黒板 に字 を書 いた り、子 ども会 の会合 で、子 ど も相手 に字 を善 いた りす る ときには、全 く問題 を 感 じない。 発症 か らほぼ5年 たった今年 、何 とか 治 さな く ては と思 い、手がふ るえる とい うこ とで神 経内科 の病 院 を受 診 、そこか ら九州大学付属病 院心療 内 科 を紹介 され た。心療 内科 におけ る診断 はsimple phobiaで、筆者が面接 治療 の担 当 とな った。

3.

既往症 特 にな し。

4.

心理社会 的背景 (1)家族 お よび生育歴 :夫 (会社 員 )、長女 (高 校生 )、次女 (中学生 )との4人家族 。昨年 は長女 が高校受験 で、合格 で きるか少 々心配す るこ とが あ ったが 、長 女が高校 に合格 してか らは 、特 に心 配事 もない。家族 関係 は良好 で、特 記事 項 はない。 患者 は幼 少の ころか ら父親 に習字 を厳 し く指導 されてお り、その影響か らか 、字 は きれ いに書か ない と気がす まず 、子 どもの ころか ら形 の悪 い字 を書 くこ とには、ず っ と抵抗感 が あ った とい うこ

(4)

前 田基成 恐怖症の心理治療における認知行動療法の効果 とである。 その他 、生育歴に関 しては特 に問題 は ない。

(

2

)

職業 :大学 の理学部 を卒業後 、県立高校 で 理科 の教員 をしている。勤務校 を3回転任 してい るが 、いずれの学校 で も同僚 、上司 との人間関係 は よ く、特 に不適応の様子 はみ られない。学校 で は、教室 で生徒 の見てい る前 で黒板 に字 を書 くと きも、職 員室 で字 を書 くときに も、手がふ るえる ようなことはな く、まった く問題はみ られない。 (3) パー ソナ リテ ィ :YIG性格検査の結果はA' 型で特 に問題 はない

。STAI

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xi

e

t

y

は 粗 点

1

7

で、やや高不安 であ る。

5.

行動分析 以上の ように、手がふ るえ、 うま く字が書けな い緊張場面はか な り限定 されている。 これは

、5

年前の葬儀 の記帳 の際、手がふ るえて しまったこ とに よ り、書字場面において不安 が獲得 され、限 定 された場面において不安 が惹起す ると、その不 安 に よって手のふ るえが 引 き起 こされてい るもの と考 え られ る。

6.

治療方針 手のふ るえ を引 き起 こす特定 の緊張場面 で生起 す る不安 を、イメー ジに よる系統的脱感作お よび in vivoに よる現実脱感作によって消去す る。不安 桔抗反応 としては 自律 訓練標準練習に よって得 ら れ る リラクセー シ ョン反応 を用 いる0

7.

治療経過 第1回∼第3回 :詳細な情報 の聴取 、治療方針 の説明お よび不安 階層表

(

Ta

bl

e2

)の作成が行 357 われた。 第4回∼第16回 :自律 訓練標準練 習が第 2公式 (四肢重温感練習)の習得 まで行 われた。第2公式 をほぼ習得 した段階において、症状 に変化 はみ ら れなか った。 第

1

7

回∼第

2

7

回 :不安 階層表

(

Ta

b

l

e2)

に した が って、問題場面で生起す る不安 を消去す るため にイメー ジに よる系統的脱感作 を行 った。N0.4の 場面か らは系統的脱感作 と並行 してin vivo に よ る現実脱感作 を実施 した。現実脱感作 では、 自律 訓練 を行 い、十分 な リラクセー シ ョンが得 られた 直後に、実際にその行動 を始発 させ るとい う手続 きが とられた。 また、No.9お よび No.10につ いて は、受診の ときに 自律訓練の後 、看護婦な ど医療 スタ ッフが大勢 見てい る前 で字 を書 くこととした。 その結果 、イメー ジ下 での

SUD

はすべ て 0に な り、 また、実際場面 において も、N0.8までの行 動 は確実 に遂行 で きるようにな った。No.9、No.10 の毛筆 での記帳 につ いて も、病 院では看護婦 な ど が 多数見ている前 で全 くふ るえるこ とな く書字が で きるようにな った。Fig.1は、多数の人が見てい る場面での、治療前後のペ ンお よび毛筆に よる音 字の変化 を示 した ものであ る。治療前の文字のふ るえが治療後 ではな くな っているのが よ くわか る。 しか しなが ら、「病院では人が見ている前で書けた が、病 院 と葬儀や結婚 式 とは違 う。葬儀や結婚式 では書けない と思 う」 と言い、通夜の機会が2回 あったが、適 当な理 由 を作 って参列 しなか った。 第

2

8

回-第

3

7

回 :当初 の治療方針にはなか った

Ta

b

l

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2 症例2の不安階層表 No. 不 安 場 面

SUD

1.町内の婦人会の会合で字 を書 く 2.お茶を差 し出され、受け取 る

3.

学校の

PTA

の会合で字 を書 く 4.銀行、郵便局で用紙に住所、氏名 を書 く

5.

ビールを他の人のコップにつ ぐ

6.PTA

の宴会で、 日本酒を他の人の杯につ ぐ

2

0

3

0

3

0

50

6

0

7

0

7.来客時、結婚式などで、 日本酒を他の人の杯につ ぐ 90 8.なじみのない来客の接待で、お茶を差 し出す 9.結婚式で、記帳する 10.通夜、葬儀で、記帳する 0 0 0 9 0 0 : r:

(5)

358 長 野大学 紀要 第14巻 第4号 1993 (治療前)

福 岡市 中央 区え神

(治療後)

聞 耳 中大 区 天神

削 療 治 Fig.1 治療前後の書字の変化 が、「葬儀や結婚式で うまく字が書けないに違 いな い」 とい う誤 った思 い込みが根強 く存在 し、その ために 「うま く記帳 できないだろ う」 とい う不安 が消去 で きない と考 えられ るため 、その誤 った認 知 の修正 を図 る 目的で、認知的再体制化(cognitive restructuring)を実施 した。具体的には、McMullin

&

Gilles(1981)のcountering の手続 きを用 いた。 すなわち、面接 の中に、 ① うれ しい、悲 しい、腹が立つ な どの情緒的反 応は認知 に よって引 き起 こされているこ とを説明 し、理解 させ る。 ②今 回問題 となっている不安は、「記帳の とき、 手がふ るえるだろ う」 とい う固定化 した誤 った認 知 に よって引 き起 こされているこ とを理解 させ る。 ③ 自分 の頭 の 中で、その誤 った思 い込み (習慣 的思考 ) と反撃思考 (Fig.2)とを議論 させ 、固定 化 している習慣 的思考が誤 りであることを確信 さ せ る。 習 慣 的 思 考 結婚式や葬儀で記帳するときは、必ず手がふ るえて、字が うまく書けないであろう。

とい う手続 きを導入 した。ただ し、③ の手続 きは 自宅 で も行 うこ ととした。 その結果、9回の面接 で 「何 とか記帳 で きそ う な気がす る」 とい う陳述が なされ、一応面接治療 は終結 とした。その後の追跡調査 では、10か 月後 に、夫が依頼 されて仲 人を引 き受 けた結婚 式の と き、参加 者がほ とん ど集 まらない うちに記帳 した が 、特に問題はなか った。記帳 で きそ うだ とい う 自信が出て きた との ことである。 ただ し、その後 2年 間は、結婚 式 も葬儀 もな く、記帳す る機会 は ない。 考 察 症例

1、2

ともに発症経過か らは、特定場面 に おけ る不安 反応が獲得 され、その不安 反応 に よっ て声がふ るえる、手がふ るえるな どの身体 症状が 引 き起 こされてい るこ とが考 え られた。 したが っ 反 撃 思 考 そんなことはないo病院では大勢の人が見て Fig.2 不安を引き起こす習慣的思考および治療 に用いられた反撃思考 -5

(6)

8-前田基成 恐怖症の心理治療における認知行動療法の効果 て、当初 の治療方針 としては、その ような特定場 面 において生 じる不安 を制 止す るこ とに重点がお かれ、イメー ジお よび in vivoに よる脱感作法が 適用 された。その結果 、イメー ジ刺 激では不安 は 誘発 されな くな り、 また、実際場面 において も、 症例

1

では、授業 中に人前 で

5

行程度 は流暢 に教 科書 を読む こ とがで きる、症例2では、病 院で大 勢 の人が見ている前で、毛筆 でふ るえるこ とな く 書字が で きるな ど、 tergetbehaviorにつ いて外 顕的行動 レベ ルではか な りの改善 を示す ようにな った。 しか しなが ら、その tergetbehaviorを遂 行す るにあた っての予期不安 は徹底 した脱感作 を 行 って も消去 で きなか った。 症例

1

は、患者が東京の大学 に進学す るため 、 治療 が継続 で きな くな り、結果的にはその不安 を 除去す る治療 は行 われない まま終 った。いわば失 敗症例 といって よいであろ う。 これに対 し、症例 2はそ うした不安 を除去す るために、脱感作法の 後に認知 的再体制化 を実施 し、脱感作法のみの と きよ りも不安 の低 減が可能 にな った。 この

2

つの 症例 を比較す る と、思 い込み、信 念な どの誤 った 認知 に基づ く不安 反応 は脱感作法 だけ では消去 で きない場合 があ り、その ような ときには、今 回用 いた認知 的再体制化の ような認知行動療法が有効 であ るこ とが示唆 され る。 こ うした結果 は、換言すれば、脱感作法 だけで はtergetbehaviorをうま く遂行す る とい う自己 効 力感 (self-efficacy)を完全に高めた状態 まで至 らなか ったの を、認知 的再体制化 の手続 きが 自己 効 力感 をさらに高め た といえる。 東候 ・前 田 (1988)はチ ックの児童 を対象 とし て、単一事例実験計画法に よ りチ ックの再発 しな か った症例 と再 発 した症例 につ いて、 自己効 力感 を指標 とした治療過程 の比較検討 を行 った。 その 結果 、チ ックの症状はほぼ消失 した状態で も、 自 己効 力感が完全 に高め られていない と、チ ックの 再発が認め られた。 この 自己効 力感が完全 に高め られていない状態が、本研 究 では脱感作法に よ り 外顕的行動 レベ ルの改善 は もた らされた ものの、 まだ不安 は消失 されていない とい う段階に相 当す る。 したが って、認知 的再体制化 に よって不安 を 除去 し、 自己効 力感 をさ らに高め る とい う操作 は 必須 の ものであった といえよ う。Bandura(1977) 359 は 自己効力感 を規定す る情報源の

1

つ として 「言 語 的説得」 をあげ、これに基づ く技法の 1つ に 自 己教示 をあげている。今 回用 い られた習慣的思考 と反撃思考 を頭の 中で議論 させ る とい う手続 きは、 自己教示 と多 くの部分 で共通 している。つ ま り、 本研究の症例2の countering の手続 きに よる自 己効 力感の上昇は、実際に葬儀 ・結婚式 とい う場 面 での遂行行動 の達成 を経験 して上昇 した もので はないだけに、言語的説得 を情報源に した もの と 考 え られ る。 ところで、田上 ・前田 (1992)は不安神経症 の 治療 において、 自律訓練 だけでは消去 で きなか っ た不安 を、今 回適用 された もの と同 じ手続 きを用 いて除去す るこ とに成功 している。 しか しなが ら、 田上 ・前 田 (1992)の研 究 も、本研究 も、行動 に 比較 して認知 のアセス メン トが十分 にな されてい る とはいえない。 こうした症例 においては、行動 の変容 と認知 の変容 の両方 をアセス メン トす るこ とが必要 である と思 われ るが 、この点が今後に残 された課題 であろ う。 (まえだ もとな り 非常勤講師) (1993.1.18受理 ) 引用文献

Bandura,A.1977Self-e庁icacy:Towardaunifying theory of behavioralchange・ Pshychological 71euieu),84,19卜215.

井上和臣 1991 恐慌性障害の認知行動療法 臨床精 神医学,20,939-946.

中島勝秀 1991 神経症圏の認知行動療法 臨床精神 医学,20,93卜937.

Mcmullin,R.E.& Giles,T・Rl1981Cognitive -behauiorthe功 . Grune& Stratton. 坂野雄二 1992 認知行動療法の発展 と今後の課題 ヒューマンサイエンス リサーチ, 1,87-107. 坂野雄二 ・根建金男 1988 行動療法か ら認知行動的 介入へ 季刊精神療法,14,121-134. 田上不二夫 ・前田基成 1992 認知行動的カウンセ リ ングによる不安神経症の治療 信州大学教育学部紀 要,76,95-102. 東候光彦 ・前田基成 1988 チ ックに対する認知的変 容 と症状改善 -self-e庁icacyを指標 とした治療過程 の検討 - カウンセ リング研究,21,47-53.

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