Ⅰ はじめに
医療の高度化や入院期間の短縮化、人々のニーズの多 様化に伴い、高度な看護実践能力が求められており看護 師のキャリアアップの必要性が高まっている。 看護師のキャリアアップに関する研究には、看護職者 のキャリアアップの意識や分野、支援策、キャリア発達 の構造等がある。(津本・長田・樽井他,2008;清末・ 阿部・紐腰,2009;大川・長友,2009;グレッグ・池邉 他,2003 )。中でも、キャリアアップに関する意識の研 究は、量的調査が中心であり、キャリアアップに対する 認識と職務満足度や就業継続意思との関係を検討してい る。しかし、キャリアアップの認識及びその背景につい て質的分析手法を用いた研究は少ない。 そこで、筆者らは、我々は、赤十字病院におけるキャ リア開発ラダーを確実に積み上げるために必要な支援シ ステムと大学に求められている支援を明らかにすること をめざし、キャリア開発ラダーやキャリアアップに対す る調査を企画している。 その中で本研究では、赤十字病院に継続勤務している 看護職のキャリアアップに対する認識を質的記述的分析 手法を用いて明らかにすることを目的とした。Ⅱ . 方法
1.対象(表 1 ) 2 施設の赤十字病院において継続勤務している看護師 16 名を対象とした。内訳は、各病院、4 年目 2 名、7 年 目 2 名、10 年目 2 名、認定看護師 2 名である。 2.研究期間 2009 年 4 月∼ 2010 年 3 月 3.調査方法 半構成面接法 4.分析方法 面接内容を IC レコーダーに録音し逐語録とした。意 要 旨 継続勤務している看護職のキャリアアップに対する認識を明らかにすることを目的として、中部ブロック管内2施設 の赤十字病院に継続勤務している看護職 16 名を対象に、半構成的面接を行った。その結果、キャリアアップに関する 認識として、8 つのカテゴリーが抽出された。 看護職は[看護師長のマネジメント能力]の影響を受けながら、[職場が形成するキャリアアップ志向]を育んでい た。キャリアアップには、[経済的自己投資]が必要であった。また、自身が出会う[専門・認定看護師の正負のイメー ジ]がキャリアアップの方向性に影響していた。看護職は[誰にも潜む仕事継続の危機]をもっていたが、[ワークラ イフバランスの重視]をしながら、[看護への職務満足感]や[ 「 やめられない 」 という消極的意思]が仕事継続の動 機づけになっていた。以上より、看護師長がマネジメント能力を発揮し、看護職の働く意欲に配慮し、キャリアアップ 志向を形成できる職場風土をつくり挙げる必要性があると示唆された。 キーワード キャリアアップ 継続勤務 看護職の認識 1豊橋創造大学保健医療学部 2元日本赤十字豊田看護大学 3日本赤十字豊田看護大学 4愛知知医科大学看護学部資 料
継続勤務している看護師のキャリアアップに関する認識
柿原加代子
1大野 晶子
2東野 督子
3水谷 聖子
4沼田 葉子
3小笹由里江
3三河内憲子
3味内容のとれる文節を 1 データとして第一コード化、第 二コード化を行った。次に 2 人の研究者で類似性と差異 性を検討しながら意味内容をデータの意味から解釈しカ テゴリー化した。分析内容の妥当性を高めるために研究 者 2 人で第一・第二コード化を行った。次に、段階的に 論理的関連性を辿りながらサブカテゴリー化を見出し、 さらに抽出されたサブカテゴリーの相互の関係性に基づ き命名しカテゴリー化を行った。個々の段階で見解が違 ったところは、研究者 7 名で討議し決定する方法で行っ た。 5.面接項目 1 )継続理由、2 )看護職のキャリアア ップについての考え、3 )キャリアアップするための弊 害、4 )キャリアアップするための支援、5 )看護師が キャリアアップするための必要要件等 5 つを面接項目と した。 6.倫理的配慮 研究の趣旨、プライバシーの保護、自由参加であるこ となどを明記した文書と口頭で説明を行い、同意書にて 同意を得た。日本赤十字豊田看護大学研究倫理委員会の 承認を得た。
Ⅲ . 結果
1. 看護師のキャリアアップに関する認識の分析結果 (表2) 表 1 研究対象者の基本属性 対象コード 施設 経験年数 年齢 A 病院A 4 年目 26 歳 B 病院A 4 年目 24 歳 C 病院B 4 年目 24 歳 D 病院B 4 年目 25 歳 E 病院A 7 年目 28 歳 F 病院A 7 年目 29 歳 G 病院B 7 年目 28 歳 H 病院B 7 年目 28 歳 I 病院A 10 年目 32 歳 J 病院A 10 年目 33 歳 K 病院B 10 年目 32 歳 L 病院B 10 年目 31 歳 M* 病院A 21 年目 43 歳 N* 病院A 12 年目 34 歳 O* 病院B 22 年目 42 歳 P* 病院B 19 年目 40 歳 *:認定看護師 表 2 継続勤務している看護師のキャリアアップに関する 認識のカテゴリー・サブカテゴリー カテゴリー サブカテゴリー 職場が形成する キャリアアップ志向 ケア充実のための努力 職場内役割を通したキャリアアップ 職場異動によるキャリアアップ 研修への積極的参加 職場内でのキャリアアップのための情報提供 現状への不満によりキャリアアップへの意 欲なし モチベーションを高め合える人的環境 職場での興味ある看護への出会い 将来設計は個々のタイミング 看護師長の マネジメント能力 看護師長の支援により仕事継続 看護師長によるキャリアアップ志向の植え 付け 看護師長によるスタッフの研修参加の機会 提供 働きやすさは看護師長の職場管理能力 経済的自己投資 研究・研修・図書購入は自己投資が当然 研修・学会は経済的負担が大きいという認識 専門・認定看護師の 正負のイメージ 認定看護師・CNS は看護師の目標 認定看護師・CNS の役割の不確かさ 認定看護師の業務は負担大・評価低という 認識 認定看護師取得・維持は経済的負担大とい う認識 認定看護師取得のための周囲の支援が必要 という認識 認定看護師・CNS に対する処遇が低いとい う認識 スペシャリストだけがキャリアアップでは ない 誰にも潜む仕事 継続の危機 人間関係の悪化は離職を考える要因 所属する職場によってモチベーションが異 なる 経験年数で異なる業務負担によるプレッシ ャー 現実と自分のやりたい看護との葛藤 妊娠・出産・子育てによる就労困難 ワークライフバランス の重視 結婚・出産・子育て支援の必要性 私生活を優先し仕事への取り組み方を選択 勤務時間内での研修受講を希望 看護への職務満足感 看護は楽しい,ケアの充実に達成感を実感 ケアの充実は患者に対する責任 「 やめられない 」 という消極的意思 他に道なく離職を思いとどまる 「やめると自分がダメになる」ため仕事継続 経済的理由により仕事継続キャリアアップに関する認識は、36 のサブカテゴリ ーと 8 つのカテゴリーで構成された。以後、サブカテゴ リーを「 」で、カテゴリーを【 】で表す。 8 つのカテゴリーは、【看護師長のマネジメント能力】、 【職場が形成するキャリアアップ志向】、【経済的自己投 資】、【専門・認定看護師の正負のイメージ】、【誰にも潜 む仕事継続の危機】、【ワークライフバランスの重視】、【看 護への職務満足感】、【 「 やめられない 」 という消極的意 思】である。以下、カテゴリーごとに詳細を述べる。 【職場が形成するキャリアアップ志向】 看護職が、自分自身の今後のキャリアについて考える とき、所属する職場風土の影響を受けながら自身のキャ リアに対する志向性を形成していくことを示している。 具体的には、看護職は、職場風土の影響を受け、自身の 興味ある看護の領域を見極めたり、進学・資格取得など 自身の今後の方向性を見出したりしていた。このカテゴ リーは、「ケア充実のための努力」、「職場内役割を通し たキャリアアップ」、「職場異動によるキャリアアップ」、 「研修への積極的参加」、「職場内でのキャリアアップの ための情報提供」,「現状への不満によりキャリアアップ への意欲なし」、「モチベーションを高め合える人的環 境」、「職場での興味ある看護への出会い」、「将来設計は 個々のタイミング」の 9 つのサブカテゴリーから構成さ れている。 1)「ケア充実のための努力」 これは、患者の回復、鎮痛緩和、慰安など患者満足を 得られるようなケアの向上を目指して、日々努力するこ とが、看護職としてのキャリアアップと捉えていること を示している。自身の学習の動機づけについて以下のよ うに語っている。 患者さんがこういうことが困っていると言われて、ど うやったら力になれるだろうと思ったときに、自分の知 識がないと、痛みだったとしてもこういうのがいいと思 うという提案もできないですし、そういう相談をちゃん と受けられないなと思って、なのでもっと勉強しないと いけないと思う( 4 年目看護師)。 痛いまま患者さんが亡くなってしまうことにジレンマ を感じて、もう少し自分にいろいろ全人的な苦痛を緩和 する何か手がかりをつかみたいという思いがあった(認 定看護師)。 2)「職場内役割を通したキャリアアップ」 これは、看護職が、プリセプターや学生指導など職場 で与えられた役割を担う過程において、自身の成長を実 感しながら、キャリアを形成していっていることを示し ている。プリセプターを経験して自身が得たことを以下 のように語っている。 プリセプターとして 1 年生を見る目だけでなく、もう ちょっと全体的にチームリーダーとか、総合リーダーで も、共通して言えるようなフォローすべき点とか、よく 見えるようになった感じ……指導能力、何かそういう人 間を見る、病棟全体のスタッフの関係というか、そうい うのは視野が広がったかなと( 7 年目看護師)。 3)「職場異動によるキャリアアップ」 職場異動が、看護職のキャリア形成に影響を与えるこ とを示している。職場異動後、視野が広がって自身の方 向性を見出したり、逆にモチベーションが低下したりし ていた。 最初から自分はもう最終的にこういうものがやりたい と思っている人もいれば、仕事をしていく上でこういう 方向にやっぱり自分は行きたかったと思ったりもすると 思うんです。そのために私は異動って大事かなと。ただ、 2年目とかで異動させられても、専門的なものは身につ かないので、ある程度の年齢になってやっぱり異動して みるのも自分のキャリアアップにつながるかなと思って います( 10 年目看護師)。 スキンケアの勉強会は何回か行ったりしてました。新 しい病棟に移ってからは行っていないです。本当は行か なければ行けないんですけど、気持ちが……( 10 年目 看護師)。 4)「研修への積極的参加」 キャリアアップしていくために、職場で上司や同僚か ら勧められたり、掲示板等の情報を見たりして、院内外 の研修などに積極的に参加していることを示している。 行けば教科書では得られない情報というか、生きた情 報が入ってくるので、いいかなと思ってよく行っていま した( 7 年目看護師)。 興味ある研修とか院内の勉強会、(中略)そういうも のに参加させてもらって勉強したり、あとは、学会に行 ったり、院外の(認定看護師)。 5)「職場内でのキャリアアップのための情報提供」 研修や学会等の情報については、職場内の掲示板や院 内でのイントラネットなどを使って共有できる環境が整 っており、それらが個々のキャリアアップにつながって
いた。 勉強会とかを、こういうのがあるよというのを教えて くれたり、この年代はこういうことを勉強したほうがい いだろうという感じで、同期そろって出席したりとかは します( 4 年目看護師)。 6)「現状への不満によりキャリアアップへの意欲なし」 上司や同僚との人間関係、多忙な業務、勤務体制など の現状への不満により働く意欲が低下し、ひいては自身 の将来設計を描けない状況になっていることを示してい る。 例えば、糖尿病の指導の認定とかを持っている先輩を 見ていても、結局それをどのように生かせているかとい うか、見ていてもいいように使われているといったら変 ですが……会社のコマになっているだけで( 10 年目看 護師)。 毎日の色々こなすことで見失いがちな感じがします。 見失うというか、キャリアといわれても日々のことで流 されていて( 10 年目看護師)。 7)「モチベーションを高めあえる人的環境」 職場に学ぶべき役割モデルが存在したり、職場内の上 司や同僚に精神的に支えられたりして、仕事を継続する モチベーションを高めていることを示している。 今の病棟にいても、個人個人が結構勉強をすごいして いて、院外に勉強会に行ったりとか、(中略)そういう ふうに参加した人たちの感じを見ていると、やっぱりそ れが自信になるのか、一緒にいてもすごい頼りがいがあ ると感じて、一人一人が自信をもって仕事ができれば何 かあったときにお互い助け合えるしなと思います( 10 年目看護師)。 8)「職場での興味ある看護への出会い」 看護ケアを工夫し、さらに深めたいと感じたり、興味 ある領域の専門的資格を取得したいと思ったりするの は、所属する職場で日々行っている看護との出会いが動 機づけとなっていることを示している。 自分がこういうところを深めていきたいなとか、何か そういうのがあるときっと続けていけるというか、興味 を深くもつところをまた極めていきたいという、もっと 学びたいというか(認定看護師)。 9)「将来設計は個々のタイミング」 看護職は、自身の将来や方向性について考えるのは、 異動、研修参加、上司や同僚から受ける助言や結婚・出 産などによってそれぞれ時期が異なり、それぞれの状況 によって将来を考えるタイミングがあることを示してい る。 最終的に自分はどういうふうに、在宅なのかホスピス なのか救急なのか、最終的な自分の目的というのがまだ 今模索中で、そういうのもあったので HCU というとこ ろに、自分のやりたいことが見つかればいいなと思って (中略)救急というところに今興味がでてきたかなと。(7 年目まで)私は見つかっていなかったです。他の同期と かは、最終的には在宅をやりたいから逆に救急を学んで いろんな知識を身につけてとか、そういう目的が他の子 にはあった( 10 年目看護師)。 10 年目ぐらいに、認定には興味があるなというふう になったが、いつとか、いつまでにとか、そういう具体 的な目標はなかった(認定看護師)。 【看護師長のマネジメント能力】 【看護師長のマネジメント能力】は、5 つのサブカテ ゴリーで構成され、「看護師長の支援により仕事継続」、 「看護師長によるキャリアアップ志向の植え付け」、「看 護師長によるスタッフの研修参加の機会提供」、「働きや すさは看護師長の職場管理能力」など、キャリアアップ を目指す過程において、看護師長の働きかけが強く影響 していた。 【経済的自己投資】 【経済的自己投資】は、2 つのサブカテゴリーで構成 され、「研究・研修・図書購入は自己投資が当然」、「研修・ 学会は経済的負担が大きいという認識」などの経済的自 己投資がキャリアアップに必要であった。 【専門・認定看護師の正負のイメージ】 【専門・認定看護師の正負のイメージ】は、7 つのサブ カテゴリーで構成されていた。具体的には、認定看護 師・ 専 門 看 護 師( Certified Nurse Specialist )( 以 後 CNS とする)の存在が正のイメージとする「認定看護 師・CNS は看護師の目標」と、「認定看護師・CNS の役 割の不確かさ」、「認定看護師の業務は負担大・評価低と いう認識」、「認定看護師取得・維持は経済的負担大とい う認識」、「認定看護師取得のための周囲の支援が必要と いう認識」、「認定看護師・CNS に対する処遇が低いと いう認識」、「スペシャリストだけがキャリアアップでは ない」など負のイメージとに分かれた。専門・認定看護
師の看護援助は、質の高い看護援助を提供しているとい う実感はあるが、彼らへの処遇や組織図上の不明確さを 感じていた。 【誰にも潜む仕事継続の危機】 【誰にも潜む仕事継続の危機】は、5 のサブカテゴリ ーで構成されていた。具体的には、「人間関係の悪化は 離職を考える要因」,「所属する職場によってモチベーシ ョンが異なる」、「経験年数で異なる業務負担によるプレ ッシャー」、「現実と自分のやりたい看護との葛藤」、「妊 娠・出産・子育てによる就労困難」など、さまざまな出 来事を契機に、仕事を継続するには困難な状況が出現す ることを表している。 【ワークライフバランスの重視】 【ワークライフバランスの重視】は、3 のサブカテゴ リーで構成されていた。具体的には、「結婚・出産・子 育て支援の必要性」、「私生活を優先し仕事への取り組み 方を選択」、「勤務時間内での研修受講を希望」など、女 性としてのライフイベントや私生活と仕事とのバランス を重視した支援を望んでいた。キャリアアップを図るに は、ワークライフバランスが必須であるという意識を表 している。 【看護への職務満足感】 【看護への職務満足感】は、2 のサブカテゴリーで構 成され、「看護は楽しい,ケアの充実に達成感を実感」、 「ケアの充実は患者に対する責任」など看護の喜びを意 識していた。将来に明確な目標をもち、看護の喜びをも って仕事をしていた。 【 「 やめられない 」 という消極的意思】 【 「 やめられない 」 という消極的意思】は、3 つのサ ブカテゴリーで構成され、「他に道なく離職を思いとど まる」、「「やめると自分がダメになる」ため仕事継続」、 「経済的理由により仕事継続」など、離職したいと思い つつ、転職への不安や経済的理由などで仕事を継続して いた。 2. 継続勤務している看護師のキャリアアップに関する 認識の関連(図 1 ) 看護職は[看護師長のマネジメント能力]の影響を受 けながら、[職場が形成するキャリアアップ志向]を育 んでいた。具体的には職場風土の影響を受け、自身の興 味ある看護の領域を見極めたり、進学・資格取得など自 身の今後の方向性を見出したりしていた。キャリアアッ プには、[経済的自己投資]が必要であった。また、自 身が出会う[専門・認定看護師の正負のイメージ]であ る、専門・認定看護師の看護援助は、質の高い看護援助 を提供しているという正のイメージと、彼らへの処遇や 組織図上の不明確さという負のイメージがキャリアアッ プの方向性に影響していた。さらに看護職は[誰にも潜 む仕事継続の危機]を持っていたが、[ワークライフバ ランスの重視]をしながら、将来に明確な目標をもち、 看護の喜びをもって仕事をするという[看護への職務満 足感]を感じており離職したいと思いつつ、転職への不 安や経済的理由など[ 「 やめられない 」 という消極的意 思]が仕事継続の動機づけになっていた。 図 1 継続勤務している看護師のキャリアアップに関する認識の関連