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佐藤友彦師所蔵 九冊本間狂言「末社 脇能 九 下」

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全文

(1)

佐藤友彦師所蔵 九冊本間狂言「末社 脇能 九 

下」

著者

飯塚 恵理人

雑誌名

椙山女学園大学研究論集 人文科学篇

44

ページ

73-95

発行年

2013

URL

http://id.nii.ac.jp/1454/00001812/

(2)

七三   要   旨   この九冊本からなる間狂言本は、現在和泉流狂言方佐藤友彦師が 所 蔵 さ れ て い る も の で 『 国 書 総 目 録 』 第 六 巻 「 能 の 本 」 の 間 狂 言 の ︶1 ︵ 本に 「 山脇家間之本   九冊 」 山脇元康氏所蔵として載るものであ り、 以 前 に 故 表 章 氏 が 御 覧 に な っ た 際、 「 内 容 的 に は 大 蔵 流 の も の で、貞享松井本、筑波大学本と並び、大蔵流の間狂言本として最古 に 属 す る 内 容 で は な い か。 」 と 筆 者 に 言 わ れ た こ と が あ る。 こ の 間 狂言本についてはすでに 『 名古屋芸能文化 』 第一三号に第一冊を翻 刻している ︶2 ︵ が、今回第二冊目の翻刻を掲載させて頂く。内容に関す る吟味は後日とし、とりあえず本文を翻刻・紹介させて頂きたい。   ︵凡例︶   底本に忠実に翻刻することを心がけたが、読解の便宜を考え、以 下の点について改めた。 1 、旧字体は原則として新字体に改めた。 2 、私に句読点を施した。 3 、能の曲名は︽ ︾で囲んだ。 4 、 底 本 の 書 き 入 れ は ︵ ︶ で 囲 み、 そ の 書 き 入 れ の 該 当 部 分 に 示 した。 5 、底本の墨消チとなっている部分は︻ ︼で囲んだ。 ︵目録︶ ︵ 20︶︽ 賀 茂 ︾︵ 21︶︽ 難 波 ︾︵ 22︶︽ 白 鬢 ︾︵ 23︶︽ 嵐 山 ︾︵ 24︶︽ 白 楽 天 ︾︵ 25︶︽ 寝 覚 ︾︵ 26︶︽ 源 太 夫 ︾︵ 27︶︽ 小 鍛 治 ︾︵ 28︶︽ 鵜 羽 ︾ ︵ 29︶︽ 道 明 寺 ︾︵ 30︶︽ 和 布 苅 ︾︵ 31︶︽ 九 世 戸 ︾︵ 32︶︽ 江 嶋 ︾︵ 33 ︽松尾︾ ︵ 34︶︽雨月︾ ︵ 35︶︽鵜祭︾ ︵ 36︶︽玉井︾ ︵ 37︶︽絵馬︾ ︵ 38 ︽ 七 夕 ︾︵ 39︶︽ 熱 田 ︾︵ 40︶︽ 浦 嶋 ︾︵ 41︶︽ ま な い の 原 ︾︵ 42︶︽ 孫 思 邈 ︾︵ 43︶︽ 持 統 ︾︵ 44︶︽ 西 王 母 ︾︵ 45︶︽ 東 坊 作 ︾︵ 46︶︽ 養 老 ︾ ︵ 47︶︽金札︾ ︵ 48︶︽大社︾ ︵ 49︶︽氷室︾ ︵ 50︶︽竹生嶋︾ ︵ 51︶︽同︾ ︵ 52︶︽ 鶴 亀 ︾︵ 53︶︽ 皇 帝 ︾︵ 54︶︽ 賀 茂 御 田 ︾︵ 55︶︽ 白 髭 道 者 ︾ ︵ 56︶︽追松︾ ︵ 20︶︽賀茂︾   か様に候者ハ都かもの明神につかゑ申ま つしやの神にて候。まこ と に是ハ申までもなき事なれども我朝ハ小国とハ申せども神国にて

佐藤友彦師所蔵

 

九冊本間狂言

末社

 

脇能

 

 

  

  

(3)

七四 あれハ佛法はんじやうしてわういめでたき事なれハ、たミ百姓にい たるまではんじやういたし、めでたき御国なり。左様の事も神国の ゆゑとかや。是と申もとにかくに国〳〵在〳〵所〳〵にれいしんあ また地をしめて御 ざ有ゆゑなり。中にも当社の御事ハわうじやうの ちんじよにて天下をまふり給ふなり。去程に当社のいにしへをいか にと尋るに、昔此かもの里にはだのうぢ女と申人、あけくれかも川 に出て水をむすび神にたむけ申され候ところにまことに神もなふし うましますか、又神へんげの事なるにや、有時みなかミよりしらは のや一つながれきたつて、むすび給ふおけのうちゑながれ入候を何 となくとりて我屋に帰り、のきにさしおかれ、かのうぢ女程なくく わ い に ん と な ら せ ら れ て 則 十 月 と 申 に 御 さ ん の ひ ぼ を と か れ 候 へ ハ、玉をのべたるごとくなる男子をうめり。此御子三さいになり給 へハ、あたりの人、扨汝のちゝはいかやうなる御方ぞと尋申せハ、 其時のきにさしおき たるやにゆびをさし、ちゝハあれよとおほせ候 へ ハ、なんほうきどく成事にて候ぞ、かのやハなるいかづちとなっ て天にあがり給ふ。是則わけいかづちの神是なり。さあるによつて 其御母御子をも神といわひ申、かも三所の御神と名づけ下がも上が も中がもとてれいげんあらたなる御神にてまします。それに付、ば んしうむろの明神の神しよくの御方当社ゑ御参有、明神うれしく思 召て、むかし水くむ給ひたるていにもてなし、かりにあらわれ出て 御ことばをかわし御申有、かさねてきどくをミせ申されうする。其 間御まちどをにあらうする間、我等がやうなるまつしやにも罷出て なぐさめ申せとの御事により是まで出て候。かのまれ人ハいづくに わたり候ぞ。しらぬよ。さればこそ是におじやるよ。いそいで御礼 を申さう。御礼申候。是へ出たる者をいかなる者ぞとおぼしめされ うするが、是ハ当社につかへ申まつしやの神にて候。此たびの御参 けいめでたう存る。只今あらわれ給ひたる ハうたがふ所もなき当社 明 神にて候。しからハかさねてきどくをおがませ申されうする。其 間おまちどをに御 ざあらうする程に、我等がやうなるまつしやにも 罷出て一曲をも仕りなぐさめ申せとの御事なれども、なにもぶてう ほうなる者の事にて候が、さりながら御なぐさミに一曲いたさうか いたすまいかや。あゝ畏た。一だんよい時分に申た。一曲よからう とおもはれて、につことわらわれた。それがしもいにしへまいをま ふた事が有程にひとさしまふておめにかけう。めてたかりける時と か や   ま い 有   あ ら〳〵 め で た や〳〵 や な。 か ゝ る め で た き お り か らなれハ、我等がやうなるまつしやの神もあらハれ出てうたひかな で、是までなりとてまつしやの神ハ、〳〵もとのやしろゑかへりけ り。さらハ御暇申。 ︵ 21︶︽難波︾   か様に候者ハ津の国難波の梅のさねのせいにて候。去程に此難波 の梅ハ天下にかくれもなき名木にて候。それをいかにと申に、いに しへ仁徳天わうをいまだ 難波のわうじと申て御 ざ 候御時、うぢのみ こととたがいに御くらいをじじ給ひてミとせの間御くらひさだまら す候によりいかゝあるべしとの御事なるにはくさい国よりわうにん と申すさうにんわたられ候間、しからハ此人にうらなわせ御申ある べしとて、いづれか御くらいにつき給ひて目出たかるべきぞとうら なわせられければ、わうにんうらかたにひき合申さるゝやうハ難波 のわうじ御くらいにつき給ハヽめでたかるべしとうらない申されし か ハ、 さ あ ら ば と 有 て 難 波 の わ う じ 御 く ら ひ に つ き 給 へ ハ、 い よ 〳〵 国 も お さ ま り め で た き 御 代 と 罷 な り て 候。 其 時 わ う に ん の 哥 に、難波津にさくや此花ふゆごもり、いまを春べとさくや此花とよ ませられ候によりて、此難波の梅ハかくれもなき名木にて候。それ

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七五 につき当今につかへ御申有臣下殿、此花の事きこしめされ御覧ある べしとて、只今此所ゑ御出にて候間、わうにんのよろこびかぎりな くて、やごとなき姿にげんじ、まれ人に行合此花のやうだい、其外 か め で た き し さ い ど も 念 此 に 御 物 語 あ つ て、 先 御 帰 り な さ れ た る が、今夜ぶがくをそうしてなぐさめ申さるべきとの御事にて候。わ うにんハ太鼓のやくにて候間、太鼓をいかにもけつかうにつかまつ てもちて参れとの御事にて候程に、是までもちて罷出て候。どこも とにおいてよからうぞ。爰元がよからうか。いや〳〵是ハわるさう な。 た ゞ 是 が よ か ら う。 お い た り〳〵。 さ て 太 鼓 を ハ お き す ま い た。何事がな一曲仕りたいが、何がないたさうやれ。いや〳〵日此 いたしたるハかやうの時のためにて候。さいわいの事じや。笛をふ かう。何からふかうぞ。先ねとりをくらわせう。さらハちとゆりを ふかう。いやふけハふく程御きげんかよい。そうじてじやうすのげ いハかしましうないと申か 、それかしハ上手やらつつとうしろでふ く やうな。今度ハなが〳〵と舞をふかう。あゝよい天気にてとびが なく。ひいよろ〳〵よろ。 ︵ 22︶︽白鬢︾   か様に候者ハ、江州白鬢の明神に仕ゑ申、まつしやの神にて候。 まことにめてたき事にて御 ざ有ぞ。国〳〵にれいぶつれいしやあま た地をしめて御 ざ有と申せども当社の御事ハごゝ百歳よりいまにか くれもなき御神の事にて候。其しさいハむかし釈尊とそつ天よりあ まくだり、是より東に仏法ぐづうの所を御たて有べしとて、あしの はにめし、まん〳〵と有くうかいゑ風にまかせて御出候ところに、 当国しがのほとりにて浪のうつおとをきゝ給へハ、一さいしゆじや うしつつうぶつしやう如来しやうじうむへんやくとたつて候。釈尊 きこし召、則是にて佛法かいひやくあるべきとて、めしたるあしの はをぬぎすて給ひて候。其時つりのおなれども御見にあいてゑきな けれハ、いま迄見ゑす。此山のぬしわ我なり。釈尊此所にて佛法を ひろめ給へとてかたく御やくそく有。薬師如来ハ東ゑとび給へば、 釈 尊ハしやつくわうどにかへらせ給ふ。其時のおきなハ当社白鬢の 明神にて御入候。されハ釈尊其のちでんぎやう大師とむまれかわり ひゑいざんに上り、くわんむ天皇と御心を一つにして、延暦年ぢう に ひ ゑ い さ ん を た て 給 ふ。 さ あ る に よ つ て 寺 号 を 延 暦 寺 と ハ 申 な り。 其 し さ い を も つ て、 こ ん ぼ ん 中 堂 ハ 薬 師 如 来 を あ ん じ 申 さ れ て、かゝるじんべんなる佛国ハあるましいとの御事にて候。是ハ此 所にてのむかし物語。只今たうぎんにつかへ御申有臣下殿せんじに まかせ参けい被成候間、当社明神かりにつり人となり臣下殿に大か たじんび御物語被成て候が、かさねてきとくをおがませ申さうする とて先しやだんゑいらせ給ひて候。其間たゝハ何とて御 ざあらうす るそ。我らがやうなるまつしやにも罷出、何ぞ一曲仕りなぐさめ申 せとの御事により罷出て候か。臣下殿はどこもとに御 ざ有ぞ存ぜぬ よ。されハこそ是 に御 ざ 候。扨も〳〵きらびやかなるていかな。あ のやうななかへ我等がやうなるいていにて御礼申事ハ中〳〵なるま い。さりなからくるしからぬ事、御礼申さう。御礼申候。是ハ当社 明神に仕ゑ申まつしやの神にて候。是までの御下向、ちかごろめで たう存る。さいぜんあらハれ給ひたるハ当社明神にて候。かさねて きどくをおかませ御申あらうするとの御事にて候。其間お待どおに 御 ざあらうする間我等にも罷出、一曲仕なくさめ申せとの御事によ り罷出候。何ぞ一曲いたさうするか。畏て候。やれ〳〵一段の御 き げんに申上た。一曲いたさうかと申たれハこなたのほうがにつこと い た い た。 急 で 一 か な で い た さ う。 め で た か り け る 時 と か や。 ま い 有 。 あ ら〳〵 め て た や め て た や な。 か ゝ る め で た き 折 か ら な れ ハ、

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七六 我等かやうなる末社の神もあらハれ出てうたひかなで是まてなりと て末社の神ハ〳〵もとのやしろに帰りけり。 ︵ 23︶︽嵐山︾   か様に罷出たるハ和州三吉野のざわう権現に仕ヘ申、まつしやの 神にて候。去程に申迄もなき事なれども我等がすむ吉野山ハ天下に かくれもなき花の山にてミねもおのゑもみな花ばかりにて候。其中 にもちもとの桜と申ハとりわけかくれもなき名木なり。是を君きこ しめしゑいらん有たく思召せどもゑんまん十里のほかゑハみゆきな りかたき間、さあらハちもとの花のたねをとりよせ、都の西、嵐山 と申所にうゑおかせられ、それゑ御幸あつて花をゑいらんあるべき とて、ちもとの桜のたねをとりて嵐山ゑうゑうつし給へハ、もとよ り君の御めぐミふかきゆゑ、花も心ありてさかゑ候事かぎりなし。 ことさらこもりかつての両神毎日やうがうあつて花をもらせられ候 程に、ふく風も嵐山をよぎてふき申により一段とすぐれて見事なる やうたいにて候。しかれハ 当今につかゑ御申有臣下殿花のさかりを 御 覧 あつて御そうもんあれとのせんじをかうふり嵐山ゑ御つきにて 候處にこもりかつての両神御よろこびかきりなくて先かりにいやし き者のすがたとげんじ給ひ御ことはをかわし申されて候が、しかれ ハかさねてきどくをおがませ御申有べし。左様にあらハ其間たゞハ 何とて御 ざあらうするぞ。我等がやうなる末社にも罷出、何ぞ一曲 を仕なぐさめ申せとの御事により、是まで出た。いそぎ嵐山ゑ参ら ばやと存る。いや神通をゑたれハはや嵐山につきて候。かのまれ人 ハいづくに御 ざ有ぞ。いや、されハこそ是に御 ざ有よ。やれ〳〵き らびやかなるていかな。さすが当今の臣下殿にて御 ざ有ぞ。見事さ いらかをならべてつく〳〵として御 ざ有。此ぶんにてハ一曲仕つて もいかやうなる者ぞと御ふしんなされうする間、御礼申てから一曲 致う。御礼申候。是ハ三吉野のざわう権現に仕ゑ申末社にて候。是 迄御出によりさいぜんこもり、かつ て両神かりにあらハれ給ひ、御 こ とばをかわし申された。しかれハかさねてきどくをおがませ申さ れうする。其間たゞハ何とて御 ざあらうずるぞ。我等にも何ぞ一曲 をも仕り御ねふりをもさまし申せとの御事により、かりそめながら 御礼申上候。何ぞ一曲仕らうか、いたすまいかや。あゝ畏た。やれ 〳〵一段の御機嫌に御礼申た。何そ一曲よからうと思召たやら、み きのほうがにつこりとした。それかしもいにしへまひをまふた事か 有程に一かなでかなてう。めてたかりける時とかや。あら〳〵目出 度や〳〵な。かかるめでたき折からなれハ、我等かやうなるまつし やの神も、あらハれ出てうたひかなで、是までなりとて末社の神ハ 〳〵もとのやしろにかゑりけり。 ︵ 24︶︽白楽天︾   是ハせつしう住吉の明神につかへ申末社の神にて候。去程にめつ らしからぬ事なれども、我朝ハ小 せうこく 国とハ申せど ︵ ? ︶ も神 しんこく 国にて、佛 ブツ 法 ほう は んじやう何事もめてたき御 み く に 国の事にて候。然る所に大唐よりも我 わが 朝 てう をうかゝい申。其しさいハ唐 たう の太子のひんかく白楽天と申者、是ハ 大 たいたう 唐にてもかくれなきちゑ第 たい 一の者にて候が、日本ハちゑ第一の国 にてあれハ、楽天日本ゑわたつて日本のちゑをはからゑとの御事に て、すでに日本ゑをむく。住吉大明神此事御存し有て楽天に我朝の ちゑをはからわれてハかなふまじい。先其楽天を日本の内ゑ入たて まじきとおぼしめして、ぎようわうのすがたにげんし、せうせんに めし、つりばりをもたせられて、たゞつり人のていにて西のうミ、 ひせんの国、松浦か沖 おき まで御出候へハ、彼 かの 白楽天じゆんふうにほを あげてきたる程にほどなふ明神の御さ有所ゑきたる。明神もちゑ第 一の白楽天なれハ、何とかことばをかけうすらうと一大事におぼし

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七七 めして御ざ有ところに、楽天是を見付て、いろ〳〵ふしんをなし、 扱日本には何をもてあそぶぞと申されしかハ、明神日本にハ哥 うた をよ ミてあそび候。扨又唐にハ何をもてあそび給ふぞとおほせ候へハ唐 にハしを作 つく つてあそぶ。いでもくぜんのやうだいをしに作つてきか せうすると申て、せいたいころもをおびていわほのかたにかゝり、 はくうんをびににて山のこしをめぐる。心得て有。かせうと申、明 神 あ ふ 面 おも 白 しろ う 候。 日 本 の 哥 も た ゝ 左 様 の 事 に て こ そ 候 へ と て や が て、 こ け 衣 ころも き た る い わ ほ ハ さ も な く て き ぬ〳〵 山 の を び を す る か なと、かやうによませられ候へハ、楽天大きにおどろきて、扨〳〵 日本にハあれていのきよふだにもかやうの哥をよむ。じやうらうた ち は さ そ あ る ら ん と 申。 明 神 中〳〵 の 事、 日 本 ハ ち ゑ 第 一 の 国 な り。哥などの事ハ我等ごときの者は申にをよばず。ちくるいてうる い、かわづまで哥をよミ候とて、其せうこども御物語被成たれハ、 さば かりの楽天もよは〳〵となられたる間、其時明神我らいけんを 申 さう。日本の都へ御入ありてハ、をためいかゞな。是よりそろり とおもどり有てしかつつべしいと御申ありたれハ、楽天もがてんせ られ、すでにはやもどるべしと候へハ、明神さあらはしばらく御ま ち候へ此たびのかいろにをもむき給ふりよはくのつれ〳〵をぶがく をそうしてなくさめ申さうするとの御事にて候。いや神 しんづう 通をゑたれ ハひとりごとを申内に松浦がうらに付て候。されハこそあれに見ゑ たるハ楽天が舟にて有。まづハおびたゝしき事かな。さりながらち か〳〵とよつてことばをかけられてむさとしたる返事などして見か ぎら ︵ マ マ ︶ てハいかゞ有へし。是からくりかけう。めてたかりける時とか や   ま い 有   あ ら〳〵 め で た や〳〵 や な 唐 た う ど 土 に ま さ る 神 し ん こ く 国 な れ ハ 楽 天がちゑもかなはすしてもとるべしとの御事なれは是までなりとて 末社の神 しん ハ〳〵もとのやしろに帰りけり。 ︵ 25︶︽寝 ね ざ め 覚︾   これハしなのゝ国木曽のかうりねざめの床 とこ にすむ山の神にて候。 先此ねざめの床と申子 し さ い 細ハ 役 ゑんの 行 ぎやうじや 者 しばらく此所に御ざ有くわんね ん の ね ふ り を さ ま し 給 ふ ゆ ゑ に ね ざ め の 床 と ハ 申 候。 又 三 み か へ り 帰 の 翁 をきな と 申 ハ 出 し ゅ つ し や う 生 も な く 出 し ゅ つ し よ 所 も し れ す、 た ゞ こ つ ぜ ん と あ ら は れ 出 て、此所にぼうぜんと月日をおくり給ふ程に年寄 り はくはつとなり申 され候。然る所にいづくともしらすどうじのごとくなる者一人きた り、彼 かの 翁 をきな に申やう、 薬 くすり をあたへわかくなして参らせんと申程に彼 翁悦び、なにとなく薬をうけてたへられけれハ、やがて其身もやわ らぎ心もすゞしくはやじやくはいの心ちいて十七八のはたへに成給 ふ。 翁 をきなよろこ 悦 び、なをも此所にすまい致さるゝ。此年月かさなりてお とろへ候へハ、まゑかど薬あたへたるどうじ参り、又薬をあたへわ か く な し 三 ど ま で わ か や ぎ 候 ゆ へ に 三 み か へ り 帰 の 翁 をきな と ハ 申 な り。 し か れ ば此事君 きミ きこしめし、ちよくしを立られ三帰の翁のじゆミやうめで たき薬のいとく御尋あれとの御事にてちよくし此所ゑ御下向にて候 間、をきなも嬉しくおぼしめされて、かりにちよくしにゆきあひ只 今申たるとをりの物語なされた。すなわち三帰の翁と申もいわうぶ つのけげんなり。ちよくしにしばらく御まちあれ、ぶがくをそうし なぐさめ申さうずるとて先御帰りなされた。我等もいわうぶつゑの ほうこうにぶがくを御まちかねあらうする程に、御礼を申て何にて も一曲仕りちよくしをなぐさめ申さばやと存、是まで出て候。ちよ くしハいつくに御ざ有そ。参りて見申さう。やれ〳〵嬉しや。雲の 上人を見申事も此山にすむゆへにて候。いや是に御ざ候よ。扨もき らびやかな事かな。いらかをならべたごとくにつつく〳〵として御 ざ有よ。あのやうなけつかう成所へ此ていにてハ出られまいかと存 るが、何としてよからうぞ。いや〳〵よく〳〵しあんをするに 山の

(7)

七八 神がぶん臣下殿のまねハなるまひ程にくるしからぬ事、此ていにて なりとも御礼申さう。御礼申候。是ハきやうがつた者とおほしめさ れうが、此山にすむ山神にて候。只今の御下向めてたう存る。それ がしも何そ一曲仕り御なくさミにいたさうと存るが、たゞし何と御 ざあらうするぞ。やあ、畏た。さすが都人で御ざ有ぞ。よからうと 思 召 か、 物 を ハ お ほ ら ︵ マ マ ︶ れ い て 左 ひたり の か た の ほ う が に つ こ〳〵 と い た 〳〵 程 に 一 曲 い た さ う と 存 る。 め で た か り け る 時 と か や   ま い 有   あら〳〵めでたや〳〵やな。じゆミやうめでたき三帰の翁も薬のい とく、かゝるめでたき事あるましと、我等か様なる山の神も顕れ出 てうたひかなで、是迄なりとて山の神ハ〳〵もとのすミかゑ急きけ り。さらハ御いとま申候。 ︵ 26︶︽源太夫︾   か様に候者ハ尾 び し う 州熱 あ つ た 田の明神につかへ申末社の神にて候。去程に 国々にれいしんあまた地 ち をしめて御さ候中にも当 たうしや 社の御事ハ日本第 だい 一 か く れ も な き 御 神 な り。 其 子 細 は 神 か ミ よ 代 の 御 時 ハ そ さ の を の 尊 ミこと と 現 げん じ出 い つ も 雲の国に御 ざ候。其折ふし、ひのかわかミに、ていこくする こゑきこへ候程に、ふしんにおぼしめし尊いたりて御らんすれハ、 老人夫 ふ う ふ 婦の中にうつくしき姫 ひめ をいだきてなげき候間、いかなる者ぞ と御尋あれハ、我ハ是てなづち・あしなづちと申夫婦の者なり。又 是成はいなだ姫 びめ と申て我等がむすめなるが、此所に大 じやの有に、 い け に ゑ を そ な へ 候 が、 今 度 ハ 此 い な だ 姫 が ば ん に あ た り た る 程 に、それをなげき候よし申。尊きこしめし、ごんごだうだんふびん なるしだひかな。さあらハ其姫を我にゑさせよ。大じやのなんをの がすべきがいかにと御 ぢやうある。老人大きによろこびまいらすべ きと申。尊、扨其大じやのやうだいハ何と有ぞと尋給へハ其大じや は七尾七田にふさがつて、どうは一つかしらハ八つ有と申。尊きこ しめし、さあらハたくミ出し給へる事有とて、 大きなるさか舟 を 八 つ御さゝせあつてそれにさけをたゝゑ其上にたなをかいていなだ姫 をおかれけれハ八つの舟ゑこと〳〵くかげがうつつて見ゆる程に、 いけにゑハ是に有ぞと心得、八つのかしらごとがさけをのむ程に、 めつくわとたべようてせんごもしらすゑいたる所を、とつかのけん と申つるぎをもって八つのかしらをいち〳〵にうち御をとしあり、 其 を ゝ 御 き り あ り た れ ハ、 御 け ん の や き ば し ら み、 き れ か ね 候 程 に、わつて御らんじけれバ、をの中に一つのつるぎ御座あつた。是 ハあまの村雲のけんと申てかくれなき御けんにて御座候。其御くさ なぎのけんと申も是にて有げに候。去間みことハ其後ミやづくりし ていなだ姫ともろともにすませ給ふ。又仁王の御代となりてハけい かう第三の王子大和だけのみこととげんじ、其後こゝに地をしめて 当社明神とあらハれ、其時のてなづちあしなづちハいまの源太夫の 神とあらハれ、いまにいたつてとうかいだうをまもり給ふ。去程に 当 今につかへ御申有臣下殿御さんけいあれとのせんじをかうふり只 今 此所ゑ御下向にて候間、いかやうにもなくさめ申度とて、今夜ぶ がくをそうし給ふべきとの御事なり。則源太夫の神ハ太鼓のやくに て 候 間、 先 た い こ を も ち て 罷 出 て 候。 ど こ も と に を ゐ て よ か ら う ぞ。大かた爰元かよさうな。太鼓ハをきすまいたが、それがしも是 迄出て、たゝかへれハせんもない。御礼申て何ぞ一曲仕なぐさめ申 さう。 つねのことくれいをいふてまい有。うたひもつねのことく也。 ︵ 27︶︽小 こ か ぢ 鍛治︾   か様に候者ハいなりの明神につかへ申末社の神にて候。扨も当社 ハ王城のちんじゆにてとひあむせんにまもりれいげんあらたなる御 神にて候。去程に只今是ゑ出る事よのぎにあらす。仁王六十六代一 條のゐんこの程ふしぎの御つけまし〳〵て、三条のこかぢ宗近に御

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七九 つるぎをうたせらるべきとて、ミちなりのきやうちよくしとしてせ んじのをもむきおほせつけられ候へハ、宗近ハせんじうけたまハつ て申やう、かやうの一大事のぎよけんをうち申にハ、我等にをとら ぬあいづちなくてハかなわす候とて、いろ〳〵じたひ仕れども、り ん げ ん あ せ の ご と し、 か つ う は い ゑ の め ん ぼ く と 存、 先 御 う け を 申。今度のぎよけんハわたくしにハはかりがたし。神力を頼たてま つり申さんとて、則いなりの明神ハうぢがミなり。ことさらかぢを まもり給ふ神なれハきせい申さんとて、只今さんけい申所に、当社 明神かりにどうじのすがたに現じ、宗近にいてむかひ御ことばをか わされ候。そうしてけんのをこりハ神代よりつたわるれいけん二つ あり。とつかのぎよけんと申は、そさのをのみこといづもの国ひの かわかみに大しやのありしをしたがゑ給ひしも、此けんのいとくな り。又村雲のけんと申も則其大じやのおにありしけんなり。仁王十 二代けいこう天王第二の 王子やまとたけのみこととういをたいらげ 給 ひしも此けんのいとくなり。それよりあらためくさなぎのけんと 是 を 申。 其 上 か ん の か う そ の 三 尺 の け ん、 か ん し や う ば く や が け ん、もろこし我朝のけんのいとく、こと〴〵く御物語候て、なんぢ も名をゑたるかぢなれハ、何もおとらぬきよけんうつべきとの御事 な り。 た の も し く 思 ひ か ね を き た う て ま つ べ し。 其 時 じ せ つ 節 明 神︻ ︵ ヱ 明 ヒ 神 ヒ ン ︶ ︼しゆつげん有、あいづちを御うちあるべきとの御事なれハ、宗 近よろこびのまゆをひらき下向仕候。かやうにあらたなる御神なれ ハ、何事もいのりをかけ申程の事ハしよくわんしやうしゆうたかひ なし。其分心得候へ〳〵。 ︵ 28︶︽鵜羽︾   か様に候者ハ、九州うどのいわ屋に仕へ申門守の神にて候。只今 是へ出る事よのぎにあらす。めづらしからぬ申事にて候得とも、天 神七代地神五代の御神をハ、うのはふきあわせすの尊と申。其父の 御神をハ、ひこほゝでミの尊と申候。其御神つりに 御すき被成、あ け くれ此沖におゐてつりをたれ給ふ。うをの中にもゑせうをの候。 其はりをくひきつてこくうにうせ候。尊むねんにおぼしめし、りう ぐうへ尋行給へハ、こがねのいさごをしき、あたりもかゝやくやう なるところにおちつき給ふ。かつらの木の候。其したにちいさきい の候に、やごとない上らうの二人水をむすんで御入候間、尊かはゆ ふ思召、かつらの木のかげにたちより給へハかの上らうのやがてこ とばをかけ給ふ。是は此あたりにてハみなれ申さぬ御方にて候が、 いづくよりきたり給ふ御方にて候ぞと尋給へハ、さん候、それがし ハ地神四代ほゝでミの尊にて候が、つりばりを魚にとられ、このと ころまで尋きたりて候か、そのつりばりのゆくゑを尋くだされ候へ かし。扨さやうにおほせらるゝ御方は、何と申御方にて候ぞと御申 候得ハとよたま姫とこたへ給ふ。なんぼうめでたき事にて候ぞ。た がいに御心をうつされ夫婦のちぎりをなし、それよりやがて御尋候 へば、 いづれもとり申さぬよしを申上る。其中にくちめと申魚御返 事 を申さす候間、さあらハとあつて、かれがゑらわきを見給へハ、 あんのごとくはりの候をとり、尊に参らせられ候。又かんしゆまん し ゆ と 申 た ま を そ ゑ て 参 ら せ ら る ゝ。 其 玉 と 申 ハ、 山 を も 海 に な し、海をも山になし、心のまゝなる玉にて候。扨夫婦のかたらひを なし給へハ、とよ玉姫程なく御くわいにん候。然らハ御さん屋のひ ぼをかいへんにてときたまわふする。尊帰り給ひ御さん屋をかひへ んにつくり給へと御やくそくにて、是なるかりどのを作り給ふ。又 あれなる森をハうなでの森と申て、鵜のとまり候。鵜の羽をひろひ かりどのを鵜の羽にて一方をふき、二方をふきもあわせざるに、尊 御たんじやうならせ給ふに依て地神五代の御神をハ鵜の羽ふきあわ

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八〇 せ す の 尊 と 申 て め で た き 御 事 に て 候。 先 是 ハ 此 所 に お き 候 て の 子 細、それに付当今に仕へ御申有大臣殿此所へ御下向にて候間、とよ 玉姫うれしく思召、すかたをまみゑ鵜の羽ふきあわせすのいわれを ねんころにかたり給ひ、やがてまことのすがたをあらハしたまわふ するとの事にて候。其間まちどをに御ざあらうする程に、我等ごと きの者に罷出、一曲をもいたし御ねむりをさまし申せとの御事にて 候間、是ゑ罷出た。どこもとに御ざ有ぞ。参り様だいを見申さうす ると存る。是に御ざ候よ。めでたき折からにて候程に、御礼を申さ うと存る。御礼申。是ハ此所にすまひいたす門守の神にて候。是ま ではじめての御下向せんしうばんせいめてたう御ざ有。さいぜん御 ことばをかわされたるやごとなき御方ハとよ玉姫にて御ざ候。しば らく御まち被成候へ。やがてまことのすがたを顕し見せ申さうする との御事にて候。其間ハおまちどをに御ざあらうする間、我等に罷 いで一曲仕り御ねむりを さまし申せとの御事にて候間、是へ罷出て 候 。何そ一曲いたさうするか。いたすまいか。やあ。畏た。ごんご だうだん、日本一のおきけんに御礼申た。一曲いたさうかいたすま いかと申たれハ、とかくの御返事ハ御ざなく候が、よからうと思召 やら左の方のほうかにこ〳〵といた〳〵。何をいたさうぞ。まひを まふた事が候程に一かなでかなでゝ帰らう。目出度かりける時とか や。 ま い 有   あ ら〳〵 め で た や〳〵 な。 か ゝ る め て た き 折 か ら な れ ハ末社の神もあらハれ出てうたひかなで、是までなりとて末社の神 ハ〳〵もとのやしろに帰りけり。 ︵ 29︶︽道明寺︾   罷出たるハかわちの国、はじの寺七しやくわんじようのれいしん に仕へ申末社の神にて候。去程に此道明寺と申ハ天照大神をはじめ たてまつり日本にかくれなきれいしんを七しやくわんじやう申、ま ことにしゆしやうなるミやてらにて御ざ候。ことさら当寺のもくげ んじゆのいわれハかんしやうせう四平のおとどのざんげんに より此 所 へながされ給ひ、しばらく御とうりうの間に、五ぶの大乗経をあ そばし、御くやう有て此所ゑうづミ給ふ。其上より生出たる木をも くげんじゆと申。其木のみをとりて百八のじゆすとし、念佛百万べ ん申せハけつじやうわうじやううたがひなし。さあるに依て只今さ がミの国たしろでらの住僧そんじやうと申人、しなのゝ国善光寺の によらいに参り、一七日こもりけつじやうわうじやうのきねんせら れ候ところに、御れいむになんぢまことのこころざしあらハ、かわ ちの国はじの寺に参り、もくげんじゆのみをとり数珠にしてねんぶ つ百万べん申さハ、わうじやううたがひあるまじひとの御ぢげん有 たるにより、只今此所へ御出候程に、諸神の御よろこびかぎりなく て、先しら太夫の神かりにあらハれ給ひ御ことばをかわされ、かさ ねてきどくを見せ申さるべきとの御事なり。其間たゝハ何とて御さ あらうするそ。我等がやうなる者にも罷出、何ぞ一曲仕なぐさめ申 せ と の 御 事 に よ り 罷 出 て 候 間 御 礼 を 申 。 一 曲 い た さ う と 存 る。 れ い をしてからうたひ舞つねのことく也。 ︵ 30︶︽和布苅︾   是ハ長門の国はやもとの沖にすまひ仕るかいさうのせいにて候。 扨もはやともの明神にをゐて御神事 のかすあまた御ざ候中にも十二 月 大 晦 日 の 御 神 事 を め か り の 御 神 事 と 申 て め で た き 御 じ ん ば い な り。其ゆへハ則今夜とらのこくにりうじんたつなミまをわけてへい 〳〵たるまさごとなし申され候を、其時かんぬし出て、たゑまつを とぼし、かいちうのめをかりしんぜんにそなへ申さるゝ御 じんはい なり。さあるによつて御 さいれいおほしといゑども今月みそかの御 神事 ハ神代よりわだすミのミやとへだてもなく御心をひとつにして

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八一 今にいたつて其れいうせすしてめでたい御神事 なり。ことさら此御 代めでたけれハ、いよ〳〵今夜の御 じんばいをめでたきとおぼしめ し り う ぐ う の ひ め ミ や し ほ づ つ ほ の お き な あ ら ハ れ 出 給 ひ、 か す 〳〵のたから物をさゝげかつがう申され候を、神主是を見付ふしん をなしていかなる人ぞと尋申されたれハ、りう女はいやしきあまお とめとこたへ給ふ。又翁ハたゝ此うら人のやうにこたへ御申有が、 さりながらかりそめなれども、地神 四代ひこほゝでミの尊よりの事 を御物語なされ、いまのさゝげ物ハりうぐうよりとあつて天地とも にかつがうのあまおとめといひすてゝ雲井にのつてうせ給へハ、翁 ハ其儘かいちうに入給ふ。なんぼうありがたき御事にて候ぞ。か様 にきとくさま〳〵御 ざ有。しんぜんゑ罷出る事ひとへに此うらにす めハこそ此ありがたき御じんばいにあひ候へ。いやひとり事を申う ちにはややう〳〵めかりのじせつに罷成申て候間我等も是まで出て 何事をも いたさねハ出たるせんもなく候が、何ぞそつと仕て帰りた い がなんでもあれ、それかし程ぶてうほうなる者ハ御 ざない。さり ながらいにしへそつとまいをまふた事が有程に一さしまふてもとの すミかへもどらはやと存る。目出度かりける時とかや。あら〳〵め でたや〳〵な。我らがやうなるかいさうまでも此しんぜんにうかミ 出てじんびをおがミたてまつり〳〵て、又かいちうにぞ入にける。 ︵ 31︶︽九世戸︾   罷出たる者ハ丹後国九世戸のもんじゆに仕へ申門守の神にて候。 まことに申までハ御ざなけれども、当寺の大しやうもんもんじゆと 申ハ天下にかくれなきもんじゆなり。其子細ハ天神七代地神五代と 申が、地神二代の御神、此国ゑあまくだり末世のしゆじやうさいど のため天ぢくのごたいさん大しやうもんじゆを御くわんじやう有、 九世戸と名付給ふ。すなわち九世戸と申も天神 七代地神 二代をもつ て 名 付 給 ひ し と な り。 さ れ ハ ぼ さ つ の 蔵 躰 も 大 し や く の 御 さ く な り。しかれハ此所にうつり御申候折ふしも、わだすみのミやに入給 ひ 、げかいをひろめ此嶋に御あがり有。其時御わたり被成たる所を しゝのわたりと申て今にかくれなく候。されハ、はしたてと申を御 つくりあるべきとの御事なるに、其ころハ神よもとをからぬ御事な れハ、雲きりこくうにみちてとこやミのごとく有し程に、神〳〵あ つまり神火をとぼし、日夜につくりしやうじゆしたてまつれハ、松 程めでたき物あるまじきとて、松をうゑおき給ふなり。又あれ成嶋 を火をきの嶋と申も、其時の火をのこしをかれたる所なるに依て、 火おきの嶋と申、なをも神代よりわだすミのミやとへだてもなく、 龍神今にいたつてりうとうをさゝげ松のゑたにうつし給ふ。其時天 人あまのとぼしびをおなじく松のゑだにならべ、天地ともにかつが うなさるゝ御事なり。さあるに依て、上ハうじやう、下ハげかいの りうぐうまでかくれなきれいちなり。か様の事人間もよく〳〵存、 国〳〵在〳〵所〳〵よ りしんがう仕り、参下向の人〳〵ハおびたゝ し き事なり。忝も当今に仕へ御申有臣下殿きこしめし、只今御参け いにて候間、たれあつて此所のやうだい申上るべき者あるまじきと て、さいしやうらうじん、りうぐうのひめミやかりの御すがたにて あらハれ神代の御事くわしく御物語なされ松のこかげに入給ひかさ ね て き ど く を 御 め に か け 申 さ う す る と の 御 事 な り。 其 間 我 ら も 罷 出、 何 に て も 一 曲 仕 り な く さ め 申 せ と の 御 事 に よ り、 是 ま で 出 て 候。急で御礼申さう。 つねのことくせりふ、わか、まひ、うたひ同前也。 ︵ 32︶︽江嶋︾   か様に候者ハ、さがミの国江の嶋のてんぶに仕へ申、うのせいに て 候。 去 程 に 我 朝 ハ せ う こ く と ハ 申 せ ど も、 神 国 に て 御 座 有 に よ り、 国〳〵 に れ い し ん あ ま た 地 を し め て を わ し ま す に よ つ て い ろ

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八二 〳〵さま〳〵めでたき事のいでき候。其しさいハ当嶋ゆじゆつし天 女あらハれ給ふ御事、なにより以てめでたきためしなり。其やうだ いをいかにと申に仁王三十代きんめい天わうの御代はしまつ︵て︶ 十三年卯月十三日うのこくよりもおなしく廿三日艮のこくにいたる までかうやなんかいこすいみなとのゑにうちあがり、う ︵ 雲 霞 ︶ んかくらく おほい、だ ︵ 大 いう 雨 ︶ しきりにふつて天地しんどうする事じうじつにあま れり。其のち一つの嶋ゆじゆつする。則ゑの嶋とかうす。其時うん しやうに天女あらハれ給ふ。今の弁才天にて御ざ候。去間むさしさ がミの間ふじさわのちかくにミづうみ有。其ミづうみにこずりうと いふ大じやすんで人をとる事かぎりなし。天部かのりうにむかひ、 なんぢあくしんをひるがへし、此国のしゆごじんとなるならハ、ふ うふのかたらひをなすへしと御申あれハ、かのりうよろこび、やが てふうふのかミとなり、たつのくちの明神とあらハれ給ふ。かゝる めで たきれいしんにてまします間、一度御まいりあれハ何事も思ひ の まゝに御さあると申て、国〳〵よりしんがういたし、参り下向の 人ハおびたゝしき事にて候。去程に当今の臣下殿たうしまゑ御さん けいにて候間、我らも罷出御礼申さうと存るが、どこもとに御ざ有 ぞ。されハこそ是に御 ざ有。やれ〳〵きれいなる事かな。あの御ま へゝ此ていにてハいでられまいが、いや〳〵くるしからぬ事、急で 御礼を申さう。御礼申、きやうがつた者とおぼしめされうするが、 当嶋にすむとりのせいにて候。只今の御参けいめでたう存る。それ に付、我らも何にても一曲仕りなぐさめ申さうすると存て罷出て候 が、一曲いたそうするか、いたすまいか、あゝかしこまつた。やれ 〳〵一たんの御 きげんじや、いそいで一曲を仕り、其上我等が身の 上の事を申上げう。めでたかりける時とかや。いで〳〵さらハ我等 がいとくをかたり申さん。地神四代ほゝでミの尊、とよ玉姫とちぎ りをなして、則くわい にんし給ひければ、御 産 屋をかいへんにたて をき給ひ、我等が羽にてふかれしかハ程なく尊むまれ給ふ。扨こそ うのはふきあわせすの尊と申もこのはのいとく、又ハいかなるふち 川ほらのをくまでも思ひのまゝにをひまいし、かつぎあげ、すくひ あげひまなくうをゝくう時ハ、つミもむくひもわすれはてて〳〵じ やうぶつするこそうれしけれ。 ︵ 33︶︽松尾︾   か様に候者ハ、山しろの国にし山、松尾の明神に仕へ申末社の神 にて候。只今是へ出る事よのぎにあらす。まことに日本ハ神国なれ ハ、れいしんあまた御ざ有とハ申ながら、とりわけ当社の御事ハ君 のまぢかく御 ちんごを被成、わういをじゆごし、天下あんせんに御 まもり有御事なり。しかれハしんハはくわうのしゆごじんとしてほ んぢじやつくわうの都を出てゑんふたいにぢげんし、こすひのねむ りをさまさせ、国土のたみをゆたかにまもり給ふ。是ひとへにわく わうどうじんハけちゑんのはじめ、はつさうじやうだうは りもつの お わりを見せ給ふ。かるがゆへに神といふも佛といふもたゞ是すい はのことわりなり。所ハ九重のにしの山のはにげんじ、ちけいまで もすぐれてむかいはさがの原、下ハおゝい川、其かわなミのをとま でもじやうらくがじやうのけちゑんをむすぶなり。然ハ当今に仕へ 御申ある臣下殿、当社れいしんなるよしきこしめされ、只今当社ゑ 御 参 け い に て 候 間、 当 社 明 神 う れ し く 思 召、 ま れ 人 に 行 合 御 申 あ り、かさねてきとくをおがませ御申あるべきとの御事、其間御まち どをに御ざあらうする間、我等にも罷出、何そ一曲仕りなぐさめ申 せ と の 御 事 に よ り、 是 ま で 出 て 候 が、 ど こ も と に 御 ざ 有 ぞ し ら ぬ よ。 さ れ は こ そ 是 に 御 さ 候。 急 て 御 礼 申 さ う。 御 礼 申 候。 つ ね の こ とくせりふ。うたひ・舞有。

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八三 ︵ 34︶︽雨月︾   是ハせつしうすミよしの明神に仕へ申門守の神にて候。まことに めづらしからぬ事なれとも、国〳〵にれいしんあまた地をしめて御 ざ候中にも、当社すミよしの明神ハいこくのゑびすをはらひ、こつ かをあんせんにまもり給ふ御事なり。中にもわかの道をもつばらに しゆごし給ふにより、西行法師当社ゑ御参り候を、明神うれしく思 召、松の下にいおりをむすび、うばとわうじとふうふにげんじをハ しますところに、はや日もくるゝ程に西行法師いおりにたちよりや どをかり申され候へハ、こゝにうばとわうじとあらそひを仕。其子 細ハ、わうちハ此いおりの屋ねをふくまじい、月をミやうする程に と申せハ、うばハいや〳〵あめのをとをきかうする間、屋ねをふか うと申。二人の中にふかうふくまいとのあらそひにて候が、それに 付て則うたの下のくの御ざ候。其くハ、しづがのきはをふきぞわず らうと、かやうに候程に此上のくを御つぎあらばそれをきいておや ど を ま い ら す べ き と お ほ せ 候 間 、 西 行 さ あ ら ハ つ け て 見 候 ハ ん と て、かやうにつがれた。月はもれ、あめはたまれととにかくにしつ が の き ば を ふ き ぞ わ つ ら う。 明 神 こ と の ほ か う れ し く お ぼ し め さ れ、あらおもしろのことばや、さあらばこなたゑ御入候へとてしや うじ入御申有、よもすがら哥のごくいども御物語なされた程、はや よもあけがたに、西行もすこしまどろミ給ひ、めさめてあたりを御 らんするに、彼夫婦の人も見ゑす、ありしいおりもなく、しんぼく の松の下に御ざ有程に、西行ことのほかきもつぶしにてふしんなか ばなる程に、我等ごときの門守の神にも罷出、みぎの子細を西行に つげしらせよとのちよくをうけ、只今西行の御前ゑ参るが、西行の ふしんもつともにて候。されはこそ是に御ざ有よ。やがてしんちよ くのとをり申さばやと存る。いかに西行ゑ申候。是ハ当社に仕ゑ申 門守の神にて候。只今是へ出る事よのぎにあらす、おやどを参らせ られたるわうぢうばハ忝も住吉 大明神なり。御ミわかのとも人なれ ハ 、かくちぐうをなし哥のごくいを御物語なされんがために、おや どをまいらせられて候得どもはや夜もあけがたになり候へハ、いま すこしおほせられたき事の候、ひぢをおほせのこされたる間、我等 に罷出すゝめ申せ、おほせのこされたる哥の事を只今ミや人にのり う つ り お ほ せ わ た さ る べ き と の 御 事 な り。 よ く〳〵 心 を し づ め 御 きゝ被成候へ。是ハたしかにしんちよくをうけ申わたし候ぞ。是ゑ 参るミや人ハしやうじんの御たくせんにて有べし。うたがひなく御 きゝあれ。かまいて其ぶんこゝろゑ候へ。〳〵 ︵ 35︶︽鵜祭︾   是 ハ の う し う け た の 明 神 に 仕 へ 申 末 社 の 神 に て 候。 ま こ と に 国 〳〵にれいぶつれいしやおほき中にも、当社けたの明神ハ日本第三 の御やしろにて天下にかくれなきれいしんにて御 さ候。其むかし仁 王の御代はじまつて十五代じんぐうくわうぐうのちよくをうけ、か んまんりやうくわのめいしゆをかいちうにしづめ、し ゆ ふじざいに な し給ひ、おごるさんかんのたちまちたいらげ給ひ天下あんせん国 土ゆたかになし給ふもひとへに当宮の御 しんとくなり。去程に当社 にをゐて御神事さま〳〵御 ざ候中にも、霜月初卯の御神事をとりわ きめでたいやうにとりおこなひ申候。其子細ハきどくなる事の御 ざ 有によつての事なり。其きどくと云は、先当国ゆのがうと申所へ正 月朔日よりいづくともなくいけにゑにそなわるうの鳥とびきたり候 を、所の者ども是こそ当年いけにゑにそなわる鳥よとてかつがうい たしそだてをき、御神 事に其鳥をにゑにそなへ申せは、其鵜 う しよ人 をもおそれす、きざはしをそろり〳〵とのぼり、則いけにへにそな わり神前にはをたれふしけるが、またたちかへりていしやうに下り

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八四 とびさりぬ。かやうにきどく御ざ有によつてとりわけめてたき御 じ んばいと申なり。さあるによつて当今に仕ゑ御申有臣下殿、今日の 御神事のやうだいを御らんあつて御 そうもんあれとのぜんじをかう むり、只今当社ゑ御下向にて候ところに、当社夫婦の御神 うれしく 思 召 れ、 か り に あ ら ハ れ 給 ひ 御 こ と は を か わ し 当 社 の じ ん び あ ら 〳〵御物語なされ、先御帰りあつてぶがくをそうしかのまれ人を御 なぐさめあらうするとの御事なり。其間御待どをに御さあらうする 程に、我らごときの者にも罷出何そ一曲仕りなぐさめ申せとの御事 に よ り 罷 出 て 候 か、 ど こ も と に 御 ざ 有 ぞ。 さ れ は こ そ 是 に 御 ざ 候 よ。急で御礼を申さう。御礼申候。 つねのせりふ。うたひ、舞・あり。 ︵ 36︶︽玉井︾   かやうに罷出たるハ海中にすむいたらがいにて候。只今是ゑ出る 事よのぎにてもなし。地神四代の御神ひこほゝでミの尊、わだすみ のミやこゑりんかうなされた其子細ハ、ほゝでみの尊つりに 御すき 被 成、朝暮沖に出てつりをたれ給ひたるに、うろくすの中にもあく ぎよ有て、尊のつり針をくひきつてうせ候。しかも其針ハ御きやう だいの尊の針をかり給ひたる事なれハ、御帰り有てかくのごとく針 をうをにくわれたる由御申候へハ兄尊の給にハ、いや其針ハ子細有 針にて候間、是非御返しあれと仰られ候程に、さあらハすいぶん尋 て御 らんせられうするとて龍宮までいらせられ龍宮にてハくわうも んのまへにりんかう有、玉井のかゝやくていを尊ゑいらん被成、あ まりのおもはゆさに桂の木のかげに立よりやすらい給ふ。然る所に 豊玉姫たまより姫御兄弟は御出被成、桂のしたなる玉の井に立寄薬 の水をむすばんとつるべをおろし、そこを御 らんじけれハ、桂の木 のかげに尊立寄て御 ざ候が、玉井にうつりて見ゑ給ふ程にいかやう なる御かたぞと尋給へハ、さん候是ハ日本の尊なるが、釣針をうを にくわれ、是まで尋参たり。もしさやうのゆくゑを御存 候ハヽ、尋 てく だされ候へかしと仰けれハ、豊玉姫、やすき程の御事なり尋出 し て参せうする。御心やすく思召とて、はやたがひに御心うつされ やがてきうちうゑ御とも被成、夫婦の語ひをなし御申候間、かぞい ろのかミいつきかしづき給ふ事申もおろかなる御事なり。誠上〳〵 のめでたけれハ下〳〵までもめでたい程に、我等がやうなるかいと も を よ び 出 し め で た う さ か も り を い た さ ば や と 存 罷 出 て 候、 シ か 〳〵 有。 四 五 人 出 る。 し ゆ ゑ ん を な し て か い〳〵 し く〳〵 も あ わ び が いをさかづきにいたらがいのてうしを出し見めよきはまぐりの上 ら うがいにおしやくをとらせ、みぎわにいたらかいすたれがいをかけ ならべこうばいぎになくうぐひすのとりがいも有明の、西にかたむ く月もあかがい、くもらぬ時をふくほらがいハ天地じんわうさゞい となりて〳〵納るかいちうに入にけり。 ︵ 37︶︽繪馬︾   有かたや〳〵納る御代のしるしとて、ほうらいの嶋よりも鬼こそ 出て此者に、たから物をまいらせ んや〳〵。先ハ目出度事にてハな い か。忝もおほいの御門の左大臣殿御 参宮 被成、さいくうに御つき 候を二ばしらの御神取分うれしく思召れ、かりに人間と現じ夫婦あ らハれ出給ひ、御ことばを御かハし御申被成たところに大臣殿仰ら れ ご と に ハ、 此 所 の 絵 馬 の 事、 い か や う な る 子 細 ぞ と 御 尋 被 成 候 間、其時二はしらの御神御 へんとうにハ当所に絵馬をかける事ハ天 たうより雨露のめぐミを以て草木のよしあしをあたへ給ふをもわき まへす。人間のあさましきにハまよひ候に依て絵馬をかけて其馬の 色しなけに依て其年の草木をしらしめんために絵馬をかけられ候と ありのまゝに御物語被成てあれハ其時大臣殿の仰られ事にハさあら ハ当宮の御いくわうたゞしく候へハ、日もよき程にてらし雨をもよ

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八五 き程にふるやうに被成てよからうと仰られ候間、二ばしらの御神の 御ぢやうにハ、もちろんおほせらるゝごとくさやうに有つべしく候 得共 、天地はじまりしより此方有事を有やうになくして、今さら左 様にハはかりがたき御事なり。さりながら、さ程に思召ことならハ 絵馬を二つかけて念比にあまたの者にしらせ御申有らうするとの御 事なり。かやうの目出度おりからなれハ、我等がやうなる鬼どもも ほうらいの嶋より罷出て宝物をうち出し、此君にさゝげ申さうする と 存 罷 出 て 候   シ カ〳〵   急 で 打 出 う。 宝 来 の 嶋 成〳〵 鬼 の も つ た からハ隠みのに隠かさ、打出のこづちしよぎやうむしよ〳〵くわつ しこくにくわつたり。〳〵。 ︵ 38︶︽七夕︾   かやうに候者ハ、忝もミやうしやうと申ほしにて候。則それかし ハ三光のほしの中にても第一のほしなり。其子細ハしゆしやうのぐ わんをかなゑ万木千草につゆをそゝきて四季折〳〵のめぐミをなす に依て天下おだやかにしてかミ十ぜんよ り下万民にいたるまでたの し ミの御代とまもる事、ひとへに三光のひかりあきらか成に依てな り。然るしゆミのしゝうをくる〳〵と廻る事おこたりなし。めづら しからぬ事成ども、北州の日の廻る時ハ、南州のよとなる。惣而是 ハしゆじやうの云事なり。さればしゆミのうゑより見渡せハ、夜も なく昼もなし。日中にハ東西南北もしれす、日の出る方を東とし、 日のくるゝ方を西とす。しゝうを以てかくのことくなり。さ有に依 て有無東西がせう有南北といゑり。か様に昼夜のへだてもなく、ほ ねをおり人間をまもる程に、それがしが気にあハぬ者ハたちまちば ちがあたらうすると思ふ事なり。かやうに存る上は、此ミやうしや うをあがめ奉、ついせうをしてたのむ者ハ一入くわほういミしくむ びやうそくさいにまふらんと存候へども、しゆじやう是を心得すし て、 む さ と く わ う じ ん を ま つ り は ぐ ん 九 よ う の ほ し じ つ し や う な どゝ申をば人間がおぢおそれ候へども、それがしハおそるゝ者も な く 、なんぞ今月今日ハ七夕と申て七夕の年に一夜あふ夜なりとても ちいる事、いかなれば若者も老たる者も高きもいやしきもよりあひ て、りくしやのさゝげ物、其しな〳〵をそなへうたひさかもりなん どして百首の哥をよミ色々〳〵の遊びを仕り、節句の中にもすぐれ たる悦びなりとて上下万民の人〳〵れうら金銀のきぬあやにしきを さゝげ、ものゝふハ具足太刀かたなまで思ひ〳〵心〳〵に手向をな す。其外いやしきしづのあまでもあさのころもをたむけ、又ぬぎか ゑのなき袂なれは、きながらしほれたるころもなれども七夕にたむ くるなどと申て色〳〵に慰め申候。かやうに心をかけ申事一入うら 山しく存るばかりなり。我等もあかつき方 こそ隙なく候へどもよい の程ハよばひほしとなり何方ゑもしのばハやと存づれども先〳〵七 しやの遊びの中様〳〵なれども、いつれもぶしやうぼしに候間、我 心とうきにういて和哥をあけまひ遊ばハやと存、是まて出て候間、 急 和 哥 を あ け ま お う す る 。 こ よ ひ 七 夕 あ ふ よ な り   舞 有   こ よ ひ 七 夕あふよなりとて、こゝやかしこによばいぼし、〳〵してつゐにの ぞミをかなゑけり。 ︵ 39︶︽熱田︾   是ハ尾州あつたの大明神に仕へ申末社の神にて候。誠めづらしか らぬ御事なれども、当社あつたの大明神は霊現あらたなる御事なれ ば、日本第一の御神と号してなを〳〵都をふかくまもりたく思召、 五月三日より八月八日までハ御やしろを出させられ、西の門に御ざ 有に依て、西の門のがくをちんくわう門とうたれ候。又南の門ハか いさう門と申てがくの御 ざ有たるに、其頃ハ南の門のまへ迄しほの さしあがりたるに、こうぼう大師御覧じて、がくの上、海の字を御

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八六 なをし有て字のつくりを上におき、へんのさんすいを下におかせら れ候へハ、それよりしほが二十よちやうひき申て、今にかくのごと くなり。又東の門をしゆんかう門と申子細ハ、唐のげんそうくわう ていやうきひのこんはくのありかを尋、はうしといふ仙人を御語、 当社まで尋来り、東の門をたゝきてやうきひ二度あひ奉り候。其折 ふし春にてありし程に、春たゝく門なれハとて、しゆんかう門と申 なり。扨当社におゐて八つるきの宮と申ハ、神代の御時そさのおの 尊出雲の国にて大じやをころし、尾の中にありし剱を取て、村雲の けんと名付、天照太神にまいらせられたりしに、其後仁王の御代と なつて十二代けいかう天王第三の王子大和たけの尊、とういをせい ばつに御下向の時、天照太神より彼剱を尊に給り、するかのくにか んばらにて、とういの夷十一万よき、かぶとをぬぎかうさんのてい にもてなし、尊をたばかりかれのゝくさに火をかけ四方のかこミを なしせめけるに、尊彼 剱にてあたりのくさをなぎはらい給へハ、ミ や うくわハかへつて夷の方にもゑかゝり、十万よきハ時のまにほろ びうせ、やす〳〵ととういをおさめ御帰りの時、さるしさいあつて 其つるきを此所におさめ給ふ。さあるに依ていにしゑハ其御剱んを 村雲のけんと申奉りしか、とういを御 たいじの時、くさをなぎ国を おさめ給ふにより、くさなぎのけんと名付御申候なり。去程に出雲 の国にて御ころし被成たる大じや、くさなぎのけんにしうしんをな し申間、おなしすんにけんを七つうたせ、彼けんと一所にこめおき 八剱のミやとも、又八剱の明神ともあがめ奉るなり。先是は当社に おゐての子細ハかくのごとく、只今当社ゑまれ人の御出にて候間罷 出て御めにかゝり何にても一曲仕慰め申さばやと存、是まて出て候 が、まれ人ハいつくに御 さ有ぞ。さればこそ是に御 ざ候よ。急で御 礼申さう。御礼申候。是ハ当社明神に仕へ申末社の神にて候。只今 のご参詣ちかごろ目出度存る。最前当 社明神嬉く思召、かりに姿を あ らハし重て奇特をおがませ御申あらうするとの御事にて候。其間 御待どをに御さあらうする間、何ぞ一曲仕慰め申せとの御事により 罷出て候が、何と御 ざあらうするぞ。やあ。畏た。やれ〳〵一だん の 御 き げ ん に 申 た。 急 て 一 か な て い た さ う。 わ か・ ま ひ・ う た ひ つ ね のことく。 ︵ 40︶︽浦嶋︾   か様に候者ハ、かいちうにすんで万年のよわひをたもつ亀の類く いのせいにて候。去程に先此当社のいにしゑを尋に、むかしこのミ づのゑの浦におゐて浦嶋太郎と申人の御 ざ有たるが、此おきに出て つりをたれ給ひしに、有時大きなる亀をつりあげられ候が、其亀ハ かしらに寶玉をいたゞき、こうにハ五色の色をあらハし、誠に奇特 なる亀にて候間、人〳〵おほくあつまり、是ハめづらしき事にて有 程にもて遊びにいたさうすると申を、浦島太郎殿、いや〳〵か様の ものをむさとハいたさぬ事にて有とて、もとの沖へはなされ候得ハ 二三日有ていかにもうつ くしきひめぎミ一人来り、今度御たすけ有 た るほうおんに、我すミかへ御とも申へきと申されし程に、浦島太 郎殿もしんしやくせられ候へども、しきりにいざない申程に、ぜひ なく彼姫とつれだちまいられ候處に、龍宮ゑ御とも申され、色々の もてなしにて七日までとうりう被成、はやこきやうに帰り度由申さ れけれハ、其時玉手箱を一つ引出物に出し、かまいて此箱を御あけ 候なと申程に、とりてこきやうに帰り見給へハ、其いにしゑにかわ り、七世のまごにあひ給ふ程に、ふしんに思ひ彼箱をあけて御らん あれハ、この年月のよあひを彼箱にふうじこめて出し候間、あくる と一とににわかにとしよりびんひけハゆきのごとく、かほにハ四海 のなミをたゝミ、はくはつの老人となり給ふ。扨ハ此箱をあけまし

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八七 き物おとこうくわい仕給へどもかなわす。いづれも此人ハ人間にて ハ有まじいとて、神にいわひ奉り、たんしうミづのゑの浦嶋の明神 とあがめ申候。それに付、当今の臣下殿勅使に只今此所ゑ御出にて 候間、当社明神嬉く思召、先取あへすかりに出合給ひかさねてせん やくを君にさゝけ申されうするとて、先御帰り被成た。かゝる目出 度事ハ有まじく候間、我らが様成者も罷出一曲仕り、勅使を慰め申 さ う す る と 存、 罷 出 て 候。 れ い を い ふ。 又 れ い い わ す に も す る。 目 出 度 か り け る 時 と か や。 ま い 有。 や ら〳〵 目 出 度 や〳〵 な。 亀 は 万 年 の よあひをたもつ者なれは、我等がやうなる類くいまでも思ひのまゝ にながいきせんと、悦びいさミ〳〵又海中にぞ入にける。 ︵ 41︶︽まないの原︾   か様に候者ハ、丹後の国当社大神宮に仕ゑ申末社の神にて候。誠 目出度御事にて候そ。当社神明と申ハ日本第一あまてらす御神なれ ハ、いきとしいける者の此御めぐミをうけぬ者ハ御ざなく候。去程 に 此所をまないの原と申子細ハ、仁王二十二代ゆうりやく天王の御 宇 に日本神国たりといゑども当国にかきり誠おそろしき魔国にて、 鬼神どくちうやくわのごとくむらがりすでによのさまたげとなりし かば、くぎやう大じん此よしを聞及給ひ、そうもん申され候得ハ、 御門此よしきこしめし、忝もまるこのしんわうにいそぎ御 たいじあ れとの御事にて候へハ、しんわうりんげんにまかせ、すでにうつた ち給ふ所に、忝も天より金子の御礼ふりくだり候を、則とりあげ御 覧しけれハ、神明天下り給ふとまなにて書付此お山にふりくたりし かハ、扨ハ神明の神力有とて天たうにむかいとくしん被成候へは、 忝 も 天 照 太 神 天 下 り 給 ひ、 神 通 の 犬 に 御 身 を へ ん げ 神 力 を そ へ 給 ひ、三とせ三月が其間に、すまんぎの鬼神ともをのこさすせめほろ ほし給ひ、日本神国一同の御国となし給ひしより此方、まないの原 とハ名付給ふ。其後御宮作りたちおさまつて今の末世にいたるまで 有難御事、申もおろかに 御ざ候。誠めづらしからぬ申事成ども国土 世 界万木千草にいたるまで、此御神の御 しんとくをうけぬものハ御 ざなく候。先此所におゐてのむかし物語。去程に当今に仕へ御申有 臣下殿、只今此所ゑ御さんけい被成候處に、神明うれしく思召、か りにあらハれ出給ひ、大方じんびを御物語被成、先御帰り被成た。 重 而 ぶ が く を そ う し て 御 慰 め な さ れ う す る と の 御 事 に て 候。 其 間 たゞハ何とて御ざあらうするぞ。我等ごときの末社にも罷出一曲を もいたしなぐさめ申せとの御事により是まで罷出て候。まれ人ハど こもとに御 ざ有ぞ。さればこそ是に御ざ候よ。急で御礼を申一曲い たさう。御礼申候。是ハ当社に仕ゑ申末社の神にて候。只今の御参 詣近頃めでたう存る。最前当社の御神嬉く思召、かりにあらハれ当 社のしんび大方御 ︵ マ マ ︶ 物被成、重而ふかくをそうし御慰めあらうすると の御事にて候。其間御待どをに御 ざあらうする程に、我等ごときの 末社にも罷出、一曲仕慰め申せ との御事により、是まて出て候が、 何 そ一曲いたさうするか、たゞし何と御 ざあらうするぞ。やあ。畏 た。やれ〳〵一だんの御 きげんに申た。こなたのほうがにこ〳〵と いたいた。急て一かなでいたさう。目出度かりける時とかや。あら 〳〵めでたや〳〵な。かゝるめでたき折からなれハ、末社の神もあ らハれ出てうたひかなて、是までなりとて末社の神ハ〳〵もとのす ミかにかへりけり。 ︵ 42︶︽孫思邈︾   か様に候者ハ、かいちうにすむうろくすのせいにて候。いやおぬ したちハ何として出たるぞ。何とも子細ハしらねども、何事やらん めでたき事が有よしきゝたるに依て、先きゝたさに出て有よ。扨ハ 其子細をしらぬか。おぬしかしつたらハいふてきかさしめ。さたの

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八八 かぎりそれをしらぬか。いや何ともしらぬ。さらハ語てきかせう。 先大りうわうの御子御 遊山をなされうすると思召、ちいさき青きへ びになりて、けいすいのほとりの草村をあなたこなたゑはいまハり あそび給ふところに、わらんべどもが見付、やれ〳〵こゝにうつく しきへびが有。いざうちころさんとてうちなやまし、きづつけ身よ りちをいだし、すでに御命あやうかりしところに、そんしばくとい ゑる仙人折ふしとをりあわせ、かのていを見て、もとよりぢひの御 身なれハ、いたわしく思召、基まゝ其へびをこいうけ給ふ。わらん べどもハ殊外はらをたて、やれ〳〵むさとしたる事をいふ人か有も のじや。中〳〵やる事はならぬと申す。さあらハ此いしやうをとら する程に是にかゑてくれよとてころもをぬぎてあたへ給へハわらん べども悦び則へびをまいらせけれハ、彼へびにくすりをあたへ草村 にはなち給ふにより御帰り有。まづハ扨あぶない事にてハなかつた か。さやうの事ハ只 今こそきいたれ。もしうちころしなどしたらは 龍 宮の御なげき、其ほか我らこときの者まで気をつめ迷惑いたさう するに、此やうなる満足ハあるまひ。それ〳〵、した〳〵までもう れしい事じや。さてかのそんしばくハ七さいの時よりがくにもとづ き人となるにおよんで道をまなびとせいのしゆつをもとめ。いやく をきわめ。せいしきをさつし、ぢひをもつはらとし給ふゆゑ、此た びの御命をすくひ給ふ。それによつて大龍王御悦びかぎりなくて彼 孫思邈をしやうじもてなしかしづき給ふ事、いふもおろかな事じや がさりながら是ハ尤にてと有と思ふが何と思ふぞ。是ハいかやうに も 御 ち さ う な さ れ い で か な わ ぬ 事 じ や。 か や う の め で た き 折 か ら わ、我等かやうなる者とももさかもりなどしてなぐさまふと思ふ。 それハ一だんよからう。うたふつまふつしてあそばう。やら〳〵め でたや〳〵な。君の御じゆミやうハ我等がうろこのかす〳〵かさね 〳〵にいわひたてまつり、是までなりとてう ろくすのせい。〳〵も と のかいちうに入にけり。 ︵ 43︶︽持統︾   そも〳〵是ハきのぶでいに仕へ申官人にて候。此君けんわうにて ましますにより、ふくかぜゑだをならさす、たミとざしせず、まこ とにめでたき御代なれは、天人もあまくたり、仙人も山より出、参 内仕る。中にもはうそと申仙人参内申ところに、なんしハいかやう なる者ぞと御尋なされ候へハ、しうのぼくわうにつかゑしじどうと 申者なり。人のそねミにより、ゆゑなきことにてつけんざんにるざ い の 者 な る が、 我 七 百 さ い を ふ る 事、 ほ う わ う に 御 つ げ の 子 細 有 て、はつひつの駒にのり四天ぢくりやうじゆせんにいたり、たゑな るミやうもんをほとけよりじきにさづかり毎日おこない給ひ、此二 くのげと申ハ、しゆきやうをたもつ御事なれは、君御じゆミやうち やうおんにながくさかゑ給ふなり。我等もいにしへわういにかなひ ししるしに、君の御かたミの子細あつて、毎日きくのはにかきつけ となへ候へは、いつとな く七百さいをたもつなり。其きくのはをて つ けんさんのかわゑすてしに、其きくすいなんりやうけんといふと ころゑながれいでしをぶくすればじゆミやうをながくたもつよしそ うもんす。君もきどくなると思召、なんりやうけんゑきやうがうあ つて其きくすいをぶくし、御 じゆミやうをたもたばやと思召れ候。 やう〳〵なんりやうけんゑきやうがうなさるゝ程に、皆〳〵のこら すぐぶし給へとの御事なり。其分心ゑ候へ〳〵。 ︵ 44︶︽西王母︾   抑是ハしうのほくわうに仕へ申官人にて候。此君けんわうにてま しますにより、ふくかぜゑだをならさす、たミとざしせす、まこと にめでたき御代にて候。ことにはつひきのこまにめされりやうじゆ

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