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オフィスビルの大型化が業務交通に与える影響
政策研究大学院大学 まちづくりプログラム
MJU10045 安西 崇博
1.
はじめに都心のオフィスビルの容積率を緩和すると,集積の経済 を大きくする一方で,交通混雑に代表される外部不経済を もたらす可能性が高まる.特に,自動車交通混雑は時間損 失をもたらすことから,その制御は容積率規制の主目的の 1つと考えられる.東京の交通特性をみると,都心5区
1
への通勤の約9割は鉄道が担っており,自動車交通量の約 半数は業務目的が占める2
.このため,オフィス容積率の 緩和がもたらす自動車交通量の増大効果を検証するために は,業務目的に着目する必要がある.都市集積の原動力である集積の経済は,フェイス・ト ゥ・フェイスのコミュニケーションが大きな役割を果たし ている.なぜなら,人の移動には自身の輸送費用に加えて 時間費用がかかるためである.このため,企業間交流の重 要性が大きい企業は,これらの交通費用を削減するために,
ある程度の規模の企業同士が隣接しているところに立地し ようとする.しかし,企業の立地選択においては,自らの 交通費用の削減は認識できても,他者に与える便益は考慮 しないので,過小な集積しかもたらされない.これは集積 の外部性といわれ,容積率規制は企業集積をさらに過小に する
3
.近年,東京都区部では,大型オフィスビルの供給が進ん でいるが,業務目的の自動車交通量は減尐傾向にある.こ れは,大型オフィスビルには周辺企業に交通費用の削減を 認識させる近接性の利益があり,集積の外部性を改善する ため,短距離移動を増加させ,自動車から徒歩への代替を 促進させている可能性がある.また,大型オフィスビルは 主に鉄道駅周辺に立地していることから,自動車から鉄道 への代替が生じている可能性もある.
そこで本研究では,東京都区部のデータを利用して,大 型オフィスビルの供給と業務目的の交通量との関係に着目 し,オフィスビルの大型化が業務目的の交通に与える影響 について実証分析を行う.なお,本研究では通勤交通を扱 わないが,間接的には東京の
CBD
機能の再検討に資する ことを本研究の目的としており,この目的とは齟齬がないといってよいだろう.
オフィス容積率と自動車交通量との関係については,八 田・唐渡(2007),浅田(2007)の先行研究がある.八田・唐 渡(2007)は,容積率緩和による生産性上昇の便益を測定す る一方,オフィス容積率を説明変数とする自動車交通量関 数を同時方程式モデルにより推定し,走行距離一定のもと で時間損失による機会費用を測定している.一方,浅田
(2007)は,容積率の高い地域では自動車の平均走行距離が
短いことを実証し,都心の容積率を緩和して従業者を移転 させると自動車の総走行距離が減尐する可能性について言 及している.これら2つの先行研究は,自動車交通に限定 して分析しており,容積率緩和による集積の外部性の改善 や交通手段選択の代替性については考慮していない.また,菊池(2009)は,超大型オフィスビルに隣接する地 区では,超大型オフィスビルに立地する企業の関連産業の 集積により従業者数が増加していることを指摘している.
これは,大型オフィスビルには近接性の利益があり,企業 集積を促進する効果を持つことを示唆している.
本研究の構成は次の通りである.2.では,オフィスビル の大型化が業務目的の交通量に与える影響を分析する.近 接性の利益があるオフィスビルの規模についてヘドニッ ク・アプローチにより特定し,特定した規模の大型オフィ スビルの密度がオフィス従業者1人当たりの交通量に与え る影響を分析する.3.では多項選択ロジットモデルを用い て,オフィスビルの大型化が交通手段選択の代替性に与え る影響を分析する.
2.
オフィスビルの大型化が業務目的の交通量に与える影響2.1.
近接性の利益があるオフィスビルの規模の特定2.1.1.
推定モデル周辺企業が交通費用の削減を認識する規模のオフィスビ ルが供給されると,その周辺に立地している企業には,取 引や情報交換を容易にさせる近接性の利益があると考えら れる.競争的なオフィス市場では,立地場所の利便性がオ フィス賃料に反映され,それは地価に反映されるため,大
2
型オフィスビル4
への近接性の利益を式(1)
の商業地地価関 数により推定する.ln PL = β 0 + β i 1i X i + β k 2k ln AG k + β l 3l ln DS l
+ β m 4m ln Z m + β n 5n DUM n + ε (1)
ここで,PL:商業地地価,Xi
:地価ポイントから半径500m
以内に含まれる大型オフィスビルの棟数(棟数密度),AG k
:集積指標,DS l
:都心への近接性指標,Z m
:地点特 性,DUM n
:ダミー変数,ε
:誤差項,β
:パラメータ,で ある.大型オフィスビルの供給は1990
年代末から急増し ているため,プールド・クロスセクションデータを構築し,当該年次固有の影響を年ダミーにより,観察できない地域 固有の影響を区ダミーによりそれぞれコントロールする.
2.1.2.
推定結果商業地地価関数の推定結果を表 1 に示す.ModelⅠは,
大型オフィスビル棟数密度を除外した推定結果である.用 途地域ダミーを除き,いずれの係数も統計的に有意であり,
符号も合理的なものとなっている.ModelⅡは,大型オフ ィスビルの棟数を延床面積の閾値以上で集計して説明変数 としたものである.閾値とする延床面積が大きいほど係数 が大きくなることから,オフィスビルの規模が大きいほど 近接性の利益が大きくなることを示している.ただし,延 床面積1万㎡以上の推定結果は,ModelⅠと比較して従業 者密度の係数が小さく,有
意水準も
10%にまで低下
している.これは,延床面 積1万㎡程度の建物棟数が 多いことによる従業者密度 との多重共線性の問題を示 唆している.このため,延 床面積1万㎡程度のオフィ スビルがもたらす近接性の 利益は,頑健なものとは考 えにくい.
ModelⅢは,大型オフィ
スビルの棟数を延床面積の 閾値以上と未満で区分して 集計し,それぞれを説明変 数としたもの5
である.各 モデルともに,閾値以上の 係数は閾値未満の係数を上 回っており,ModelⅡの推定結果と整合的である.これらの係数の有意差をF検定し た結果が表 2 である.延床面積5万㎡以上を閾値とした 場合,1%水準で係数に有意な差があることがわかる.
以上の結果,オフィスビルの延床面積が大きくなるほど 近接性の利益は大きくなり,延床面積5万㎡以上のオフィ スビルへの近接性の利益は,延床面積5万㎡未満のオフィ スビルより大きいことがわかった.2.2.では,近接性の利 益があるオフィスビルの規模を延床面積5万㎡以上に特定 して分析を進める.
表 2 帰無仮説:β
11
-β12
=0 のF検定2.2.
大型オフィスビルが業務目的の交通量に与える影響2.2.1.
推定モデル大型オフィスビルの密度の変化は,オフィス従業者の交 通行動に最も大きな影響を与えるものと考えられる.本研 究で用いる
PT
調査6
の業務目的交通には,オフィス従業 者に多いと考えられる打合せ,会議といったものから,販 売・配達・仕入れ,集金,作業・修理といったものまで幅 広い移動目的を含んでいるため,当該ゾーンの全従業者数大型オフィスビルの延床面積の閾値
3万㎡ 5万㎡ 10万㎡
F値 0.75 12.58 1.97
P値 0.3861 0.0004 0.1601
表 1 商業地地価関数の推定結果
大型オフィスビルの延床面積の閾値
説明変数 パラメータ
大型オフィスビル棟数密度
β
11 0.0169*** 0.0148*** 0.0170***(閾値未満) [0.0014] [0.0014] [0.0012]
大型オフィスビル棟数密度
β
12 0.0177*** 0.0245*** 0.0424*** 0.0590*** 0.0194*** 0.0300*** 0.0287***(閾値以上) [0.0011] [0.0023] [0.0036] [0.0079] [0.0023] [0.0037] [0.0080]
従業者密度
β
21 0.0290*** 0.0173* 0.0286*** 0.0287*** 0.0226** 0.0178* 0.0190** 0.0165*(対数) [0.0100] [0.0096] [0.0098] [0.0097] [0.0099] [0.0096] [0.0096] [0.0096]
小売業年間商品販売額単価
β
22 0.105 *** 0.100 *** 0.105 *** 0.104 *** 0.105 *** 0.100 *** 0.101 *** 0.100 ***(対数) [0.006] [0.006] [0.006] [0.006] [0.006] [0.006] [0.006] [0.006]
銀座地区ダミー
β
51 0.686 *** 0.645 *** 0.643 *** 0.637 *** 0.697 *** 0.642 *** 0.634 *** 0.649 ***[0.051] [0.049] [0.050] [0.050] [0.051] [0.049] [0.049] [0.049]
東京駅までの直線距離
β
31 -0.360*** -0.157*** -0.293*** -0.294*** -0.356*** -0.159*** -0.166*** -0.165***(対数) [0.022] [0.024] [0.022] [0.022] [0.021] [0.024] [0.024] [0.025]
新宿駅までの直線距離
β
32 -0.171*** -0.151*** -0.153*** -0.145*** -0.140*** -0.149*** -0.144*** -0.145***(対数) [0.018] [0.017] [0.018] [0.018] [0.018] [0.017] [0.017] [0.018]
渋谷駅までの直線距離
β
33 -0.164*** -0.208*** -0.191*** -0.199*** -0.175*** -0.209*** -0.213*** -0.208***(対数) [0.021] [0.020] [0.021] [0.020] [0.021] [0.020] [0.020] [0.020]
地積
β
41 0.128 *** 0.0950*** 0.103 *** 0.100 *** 0.119 *** 0.0939*** 0.0902*** 0.0945***(対数) [0.008] [0.0080] [0.008] [0.008] [0.008] [0.0081] [0.0081] [0.0080]
前面道路幅員
β
42 0.0502*** 0.0757*** 0.0678*** 0.0696*** 0.0566*** 0.0764*** 0.0785*** 0.0759***(対数) [0.0130] [0.0126] [0.0129] [0.0128] [0.0129] [0.0126] [0.0126] [0.0126]
最寄駅までの距離
β
43 -0.0550 *** -0.0562 *** -0.0551 *** -0.0560 *** -0.0559 *** -0.0562 *** -0.0564 *** -0.0564 ***(対数) [0.0030] [0.0029] [0.0029] [0.0029] [0.0030] [0.0029] [0.0029] [0.0029]
実効容積率
β
44 0.868 *** 0.801 *** 0.821 *** 0.820 *** 0.856 *** 0.799 *** 0.794 *** 0.801 ***(対数) [0.033] [0.032] [0.032] [0.032] [0.032] [0.032] [0.032] [0.032]
用途地域ダミー
β
52 -0.0636 -0.0897 ** -0.0626 -0.0575 -0.0633 -0.0884 ** -0.0833 * -0.0886 **[0.0462] [0.0445] [0.0454] [0.0452] [0.0458] [0.0445] [0.0444] [0.0445]
区ダミー 年ダミー
定数項
β
0 14.5*** 13.4*** 14.3*** 14.4*** 14.4*** 13.5*** 13.6*** 13.5***[0.3] [0.3] [0.3] [0.3] [0.3] [0.3] [0.3] [0.3]
F値 617.03 656.75 625.09 632.52 613.35 640.30 643.05 640.59
自由度修正済み決定係数 0.8838 0.8912 0.8863 0.8875 0.8844 0.8912 0.8916 0.8913
サンプル数 3122 3122 3122 3122 3122 3122 3122 3122
[ ]内は標準誤差を示している.***は1%で、**は5%で、*は10%で有意であることを示している.
ModelⅠ ModelⅡ ModelⅢ
-
千代田区を基準 2007年を基準
1万㎡ 3万㎡ 5万㎡ 10万㎡ 3万㎡ 5万㎡ 10万㎡
近 接 性 指 標
地 点 特 性 集 積 指 標
3
をコントロールしたうえで,大型オフィスビルの密度がオフィス従業者1人当たりの交通手段別交 通量に与える影響を式
(2)
の交通量関数により推 定する.Q jtm = γ 0tm + γ 1m Eofc jt 1 + γ i 2im X ijt
+γ 3m Elogi jt + γ 4m Eoth jt + γ 5m ST jt + ε jtm (2)
ここで,Q jtm
:業務目的発生集中交通量,X ijt
: 大型オフィスビル棟数密度,Eofc jt
:オフィス従 業者数,Elogi jt
:物流関係従業者数,Eoth jt
:そ の他の従業者数,ST jt
:駅密度,ε jtm
:誤差項,γ:パラメータ,である.なお,添え字は,j:ゾ
ーン,t
:期,m
:交通手段である.( )内の項は,大型オフィスビル棟数密度がオフィス従 業者の1人当たり交通量に与える影響を表そうとしたもの である.なぜなら,近接性の利益がある規模のオフィスビ ルの密度が増加すると,オフィス従業者1人当たりの交通 量に影響を与えるものと予想されるからである.
大型オフィスビル棟数密度は,2.1.で特定された延床面 積5万㎡で区分して建物棟数を集計し,当該ゾーンにおけ る事務所用途の宅地面積で除してそれぞれ算出する.観察 できない地域固有の影響は,2時点のパネルデータを構築 し,変量効果モデル
7
により推定することによってコント ロールする.2.2.2.
推定結果業務目的の発生集中交通量の推定結果を表 3 に示す.
オフィス従業者数とその他の従業者数の係数はすべて有意 に正となっている.また,物流関係従業者数の係数は,自 動車については有意に正となっており,徒歩と鉄道につい ては負になっているものの有意ではない.
注目すべきは,オフィス従業者数と大型オフィスビル棟 数密度との交差項の係数である.延床面積5万㎡未満の係 数は,合計を含むすべての交通手段において有意にならな いのに対し,延床面積5万㎡以上の係数は,合計,徒歩,
鉄道が有意に正となり,自動車が有意に負となっている.
徒歩が増加して自動車が減尐するのは,延床面積5万㎡
以上のオフィスビルには近接性の利益があり,集積の外部 性を改善する結果,短距離移動が増加するためと考えられ,
2.1.で特定された結果と整合する.また,鉄道が増加して
自動車が減尐するのは,大型オフィスビルの多くが駅周辺 に立地していることによるものと考えられる.3.
オフィスビルの大型化が業務目的の交通手段選択に与える影響3.1.
推定モデルオフィスビルの大型化が交通手段選択の代替性に与える 影響を分析するため,個人の効用最大化理論を基礎とする 多項選択ロジットモデルを用いて分析する.
個人
i の交通手段m ∈ Mに対する観察できない選好ε ijtm
が極値分布に従っているとすると,ゾーンj
,t
期,交通 手段n ∈ M
の選択確率P jtn
は,P jtn = exp α tn + 𝑿 𝐣𝐭 𝜷 𝐧 + ξ jtn exp α tm + 𝑿 𝐣𝐭 𝜷 𝐦 + ξ jtm
m∈M
となる.ここで,M:選択可能な交通手段の集合,𝑿
𝐣𝐭
: 属性ベクトル, ξjtm
:交通手段mに関する観察できない特 性,α, 𝜷
:パラメータ,である.徒歩の選択確率をP jtw
, 自動車の選択確率をP jtc
とすると,選択確率比の対数値は,ln( P jtw
P jtc ) = α tw − α tc + 𝑿 𝐣𝐭 𝜷 𝐰 − 𝜷 𝐜 + ξ jtw − ξ jtc (3)
となるので,2種類の交通手段の効用関数パラメータの差 を式(3)
によりOLS
推定できる.これは,当該ゾーンのあ る属性を変化させたとき,2種類の交通手段のうちどちら の選択確率を高めるのかを推定できることを示している.選択確率比が被説明変数となるため,説明変数は宅地面 積や従業者数を用いて基準化する.注目する変数である大 型オフィスビルの集積度は,当該ゾーンのオフィス容積率 を用いる.観察できない地域固有の影響については,2.2.
と同様に,2時点のパネルデータを構築し,変量効果モデ ルにより推定することでコントロールする.
3.2.
推定結果業務目的の交通手段選択確率比の推定結果を表 4 に示 す.注目する変数であるオフィス容積率の増加は,自動車 に対する徒歩と鉄道の選択確率を上昇させる結果となり,
表 3 交通量関数の推定結果
説明変数 パラメータ
オフィス従業者数
γ
1m 0.587 *** 0.133 *** 0.0864*** 0.335 ***[0.025] [0.015] [0.0067] [0.018]
オフィス従業者数×大型オフィスビル棟数密度
γ
1m*γ21m 0.0181 0.0200 0.00542 0.00122(延床面積1~5万㎡) [0.0308] [0.0190] [0.00828] [0.02150]
オフィス従業者数×大型オフィスビル棟数密度
γ
1m*γ22m 0.170 *** -0.0807 *** 0.0385*** 0.266 ***(延床面積5万㎡~) [0.050] [0.0315] [0.0135] [0.035]
物流関係従業者数
γ
3m 0.557 *** 0.713 *** -0.0488 -0.128[0.125] [0.076] [0.0337] [0.088]
その他の従業者数
γ
4m 0.490 *** 0.172 *** 0.0819*** 0.163 ***[0.051] [0.030] [0.0136] [0.036]
駅密度
γ
5m 10400 -14600 4420 22900**[15000] [9100] [4040] [10600]
1998年ダミー
γ
01998m 1390** 3980*** -255* -1560***-γ02008m [565] [385] [153] [380]
定数項
γ
02008m 1070 2570*** -1130*** -2150**[1430] [864] [384] [1010]
Waldχ2 4846.36 1039.66 1726.42 3376.20
自由度修正済み決定係数 0.5546 0.7113 0.1472 0.6900
サンプル数 230 230 230 230
[ ]内は標準誤差を示している.***は1%で、**は5%で、*は10%で有意であることを示している.
合計 自動車 徒歩 鉄道
4 2.2.の推定結果と整合的になった.従業者密度の増加は,
自動車と鉄道に対する徒歩の選択確率を上昇させる.これ は,従業者密度の増加が従業者相互の空間距離を短くする 結果と解釈できる.オフィス従業者比率のパラメータ推定 結果から,オフィス従業者は,鉄道を選択する傾向にある 一方,自動車を選択しない傾向にあることがわかる.物流 施設面積比率の増加は,鉄道と徒歩に対する自動車の選択 確率を高める結果となり,2.2.の推定結果と整合的になっ た.駅密度の増加は,当然のことながら徒歩と自動車に対 する鉄道の選択確率を上昇させる.加えて,自動車に対す る徒歩の選択確率を上昇させることから,徒歩と鉄道を組 み合せたチェーントリップが一定程度存在することを示唆 しているものと考えられる.
表 4 交通手段選択確率比(対数)の推定結果
4.
おわりに本研究では,オフィスビルの大型化が集積の外部性を改 善する結果,短距離移動が増加し,自動車から他の交通手 段への代替を促進するという仮説を設定し,以下の実証分 析を行った.
まず,近接性の利益があるオフィスビルの規模は,
ヘドニック・アプローチにより延床面積5万㎡以上に特 定され,延床面積5万㎡以上のオフィスビルの増加がオ フィス従業者1人当たりの業務目的交通量を増加させる ことを示した.これを交通手段別にみると,徒歩と鉄道 を増加させ,自動車を減尐させることがわかった.すな わち,延床面積5万㎡以上のオフィスビルの増加は,集 積の経済を大きくする一方で,集積の不経済である自動 車交通混雑を引き起こす可能性は低いことが実証された.
さらに,オフィスビルの大型化が業務目的の交通手段選 択に与える影響について,多項選択ロジットモデルを用
いて分析し,オフィス容積率の増加によって他の交通手段 に対する自動車の選択確率が低下することを明らかにした.
これらの分析結果から,以下の政策的含意が導かれる.
オフィスビルの大型化により,自動車交通混雑という外部 不経済は交通手段選択を通じて抑制されるので,容積率緩 和による大型オフィスビル供給に対する懸念は和らぐ.加 えて,大型オフィスビルの供給促進のためには,容積率緩 和と同時に,敷地の共同化・大規模化が有利となる制度設 計も必要となるだろう.
いずれにせよ,業務集積地における容積率が交通需要の 実態に照らして過剰な規制となっていないか検証する必要 があるだろう.
【主な参考文献】
1)
金本良嗣(1997)「都市経済学」,東洋経済新報社,pp.152-1562)
中川雅之(2008)「公共経済学と都市政策」,日本評論社,pp.109-1133)
八田達夫・唐渡広志 (2007)「都心ビル容積率緩和の便益と交通量増大効果の測定」,運輸政策研究,Vol.9,No.4,pp.2-16
4)
浅田義久(2007)「都市の容積率と交通需要」,季刊 住宅土地経済,2007
年秋季号,pp.22-285)
菊池慶之(2009)「オフィスビルの大型化が都市内部構造に及ぼす影響」, 日本不動産学会誌,第23
巻第3号,pp.125-134
6)
明石達生・西澤明・鈴木聡・對木揚・滝井恵(2003)「東京都区部にお ける土地利用と交通負荷に関する基礎資料」,都市計画報告2
号,pp.1-7
1 千代田区,中央区,港区,新宿区,渋谷区.
2 東京都市圏パーソントリップ調査(1998).
3 この段落は,金本(1997),中川(2008)を参考にしている.
4 本研究における大型オフィスビルの定義は,延床面積1万㎡以上かつ 地上階数8階以上とする.地上階数を8階以上としたのは,東京都土地 利用現況調査の分類において,8階以上の建物を「高層」としているた めである.
5 大型オフィスビル棟数密度(延床面積
1万㎡以上,3万㎡以上,5
万㎡以上,10万㎡以上)のすべてを説明変数とする商業地地価関数を推定 し,各説明変数の係数の有意性から近接性の利益のあるオフィスビルの 規模を特定しようとしたが,ModelⅡと整合的な結果が得られなかった.
6 東京都市圏パーソントリップ調査.業務目的とは,移動目的が「勤 務・業務」のもの.
7 大型オフィスビル棟数密度や駅密度は,多くのゾーンにおいて時間を 通じた変化が小さいことから,固定効果モデルは適さないと考える.
説明変数
オフィス容積率 0.148 ** 0.195 *** -0.0738
[0.061] [0.040] [0.0486]
従業者密度 3.20 ** -0.462 4.58 ***
[1.44] [1.010] [1.11]
オフィス従業者比率 0.991 ** 2.33 *** -1.39 ***
[0.452] [0.30] [0.35]
物流関係施設面積比率 -1.19 *** -0.953 *** -0.267
[0.36] [0.259] [0.272]
駅密度 2.62 * 4.75 *** -2.64 **
[1.47] [1.04] [1.11]
1998年ダミー -0.439 *** -0.390 *** -0.0665
[0.059] [0.035] [0.0553]
定数項 -2.93 *** -2.29 *** -0.569 ***
[0.21] [0.15] [0.158]
Waldχ2 372.38 1001.46 39.04
自由度修正済み決定係数 0.4575 0.7836 0.0676
サンプル数 226 230 226
[ ]内は標準誤差を示している.***は1%で、**は5%で、*は10%で有意であることを示している.
徒歩 / 自動車 鉄道 / 自動車 徒歩 / 鉄道
変数 単位 説明 出所
商業地地価 円/㎡ 【被説明変数】 東京都区部
A,B
大型オフィスビル棟数密度 棟 標準地又は基準地周辺500m以内の建物棟数(GISで測定)
C
従業者密度 人/㎡ 従業者数 / 宅地面積 (町丁目別)
C,D
小売業年間商品販売額単価 百万円/㎡ 小売業の年間商品販売額 / 宅地面積 (町丁目別)
C,E
銀座地区ダミー - 中央区銀座のとき1とするダミー変数 -
主要駅までの直線距離
m
標準地又は基準地から主要駅までの直線距離(GISで測定)F
実効容積率 % 前面道路幅員による低減を考慮した指定容積率
A,B
用途地域ダミー - 住宅系の用途地域のとき1とするダミー変数
A,B
業務目的発生集中交通量 トリップエンド 【被説明変数】 東京都区部(115ゾーン), 交通手段別
H
オフィス従業者数 人 事務所・営業所の従業者数(事業所の形態別)
D
物流関係従業者数 人 工場・作業所・鉱業所、輸送センター・配送センター・これらの倉庫、
自家用倉庫・自家用油槽所の従業者数(事業所の形態別)
D
その他の従業者数 人 従業者数(全産業)-オフィス従業者数-物流関係従業者数D
大型オフィスビル棟数密度 棟/ha 建物棟数 / 事務所宅地面積
C
駅密度 駅/ha 鉄道駅数 / 宅地面積
C,F,G
業務目的交通手段選択確率比 - 【被説明変数】 東京都区部(115ゾーン)
H
オフィス容積率 - 事務所延床面積 / 事務所宅地面積
C
従業者密度 万人/ha 従業者数 / 宅地面積
C,D
オフィス従業者比率 - 事務所・営業所の従業者数 / 従業者数
D
物流関係施設面積比率 - 専用工場・倉庫運輸関係施設の宅地面積 / 宅地面積
C
A:地価公示('97,'02,'07)、B:都道府県地価調査('96,'01,'06)、C:東京都土地利用現況調査('96,'01,'06)、D:事業所・企業統計調査('96,'01,'06)、E:商業統計調査('97,'02,'07)、F:国土数値情報ダウンロードサービス G:都市交通年報('98~'08)、H:東京都市圏パーソントリップ調査('98,'08)
【使用データ一覧】