• 検索結果がありません。

「エリアマネジメントが地価に及ぼす影響について」

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "「エリアマネジメントが地価に及ぼす影響について」"

Copied!
22
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

エリアマネジメントが地価に及ぼす影響について

<要旨> 地 域 に お け る 良 好 で 質 の 高 い 居 住 環 境 等 に 対 す る ニ ー ズ に 対 応 す る た め 、 地 域 住 民 や NPO等が主体となり、公共公益施設の維持管理、街並み保全、防犯対策等を行う例が増え てきている。これらのエリアマネジメントと呼ばれる取組は、平均的・画一的な行政によ る都市づくりを補完し、地域の価値を高めるため、あるいは低下を防ぐためのものである と考えられるが、先行研究は先進的な取組の特徴を分類・整理したものにとどまっており、 取組の効果について定量的な分析がほとんど行われていない。 このため、本稿ではこれまでに実施されたエリアマネジメントの効果をヘドニック・ア プローチにより分析し、一部の取組については地域の価値を高めることに寄与していない ことを示した。また、集会施設の管理を効率的・効果的に行うには管理団体を公募により 選定することが有効であることを明らかにした。 2013年(平成25年)2月 政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU12612 高橋 宏幸

(2)

目次

目次

目次

目次

1. はじめに ... 1 2. エリアマネジメントの概要 ... 2 2.1. エリアマネジメントの定義および要素 ... 2 2.2. エリアマネジメントに関する政策の動向 ... 3 2.3. エリアマネジメント活動に関するアンケート調査 ... 5 2.4. 問題意識 ... 7 3. エリアマネジメントの経済学的な意味および分析手法の検討... 8 3.1. エリアマネジメントの経済学的な意味 ... 8 3.2. 分析手法の検討 ... 9 4. エリアマネジメントの効果に関する実証分析 ... 10 4.1. 実証分析の対象地区 ... 10 4.2. 推計モデル ... 11 4.3. 使用データ ... 11 4.4. 推定結果および考察 ... 12 5. 地域住民等による公共施設管理の効果に関する実証分析 ... 15 5.1. 実証分析の対象施設 ... 15 5.2. 推計モデル ... 15 5.3. 使用データ ... 16 5.4. 推定結果および考察 ... 17 6. まとめと政策提言 ... 19

(3)

1

1.

はじめに

「エリアマネジメント」とは、地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させ るための、住民・事業主・地権者等による主体的な取組であり、具体的には、地域住民等 が主体となった公共公益施設の管理、街並み保全、地域の防犯活動等を指す。都市の成長 段階においては、行政が主体となった道路・公園・上下水道等の社会資本整備が重要であ ったが、都市の成熟段階では地域の課題も多様化しており、地域住民等が維持管理に主体 的に関わっていく必要性が高まっている。 エリアマネジメントに関する先行研究としては、小林(2005)、新たな担い手による地域 管理のあり方検討委員会(2007)、国土交通省土地・水資源局(2008)等があるが、先進的 な取組の特徴を分類・整理したものにとどまっており、エリアマネジメントの効果につい ての定量的な分析はほとんど行われていない。このため、本稿ではこれまでに実施された エリアマネジメントの効果をヘドニック・アプローチにより分析するとともに、典型的な エリアマネジメント活動である集会施設の管理について、管理団体の種別や選定方法に着 目した実証分析を行い、改善方策について検討した。 分析の結果、エリアマネジメント活動のうち、一部の取組については十分な効果を上げ ておらず、地域の価値を高めることに寄与していないことを示した。また、エリアマネジ メントの取組として集会施設の管理を公募によらずに自治会や NPO 等に委ねている例が 多いが、管理団体を公募により選定することで、エリアマネジメント活動の効果を高める ことができることを示した。 本稿の構成は以下のとおりである。まず、第 2 章においてエリアマネジメントの概要お よび国土交通省が行ったアンケート調査について整理する。第 3 章においてエリアマネジ メントの経済学的な意味を整理し、エリアマネジメントの効果の分析手法について検討す る。第4章ではこれまでに実施されたエリアマネジメントの効果について実証分析を行う。 第 5 章では典型的なエリアマネジメント活動である集会施設の管理を対象に、管理団体の 種別や選定方法に着目した実証分析を行う。第6章では本稿のまとめと政策提言を行う。

(4)

2

2.

エリアマネジメントの概要

本章では、エリアマネジメントの定義および政策の動向を整理し、本研究で分析対象と した国土交通省のアンケート調査について概要を述べる。 2.1. エリアマネジメントの定義および要素 平成20年3月に国土交通省が策定した「エリアマネジメント推進マニュアル」では、エ リアマネジメントを次のように定義している。 地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるための、住民・事業主・地権者 等による主体的な取り組み1 また、エリアマネジメントの要素を表 1のように大別している。 表 表 表 表 1111 エリアマネジメントエリアマネジメントエリアマネジメントエリアマネジメントのの要素のの要素要素要素2222 ( ( ( (出所出所出所出所:::国土交通省土地:国土交通省土地国土交通省土地・国土交通省土地・・・水資源局水資源局水資源局水資源局『『エリアマネジメント『『エリアマネジメントエリアマネジメントエリアマネジメント推進推進推進推進マニュアルマニュアル』マニュアルマニュアル』』』)))) 1 「良好な環境や地域の価値の維持・向上」には、快適で魅力に富む環境の創出や美しい街並みの形成、資産価値の保 全・増進等に加えて、人をひきつけるブランド力の形成や安全・安心な地域づくり、良好なコミュニティの形成、地域 の伝統・文化の継承等、ソフトな領域のものも含む。 2 これらの取り組みと併せて、配食などの高齢者等への生活支援サービスやコミュニティバスの運営等のソフトの活動 が行われる場合もある。

(5)

3 2.2. エリアマネジメントに関する政策の動向 住民による良好な居住環境の形成や地域の様々な担い手によるまちづくり活動など、エ リアマネジメントに関連する施策の推進について、法律や国の定める計画等では次のよう に言及されている。 住生活基本法 平成18年6月、本格的な少子高齢化社会、人口・世帯減少社会の到来を控え、現在およ び将来における国民の豊かな住生活を実現するため、住生活基本法が制定された。本法律 では、住宅単体のみならず居住環境を含む住生活全般の「質」の向上を図る観点から、「良 好な居住環境の形成」を今後の住生活の安定確保および向上のための重要施策として位置 づけ、良好な居住環境の形成に向けて、住民が住宅地のマネージメント活動に主体的に取 り組むための環境整備を行うことを計画に定めている。 住生活基本法 住生活基本法 住生活基本法 住生活基本法 ((平成((平成平成平成18181818年法律第年法律第年法律第年法律第61616161号号号号 ))))(抄(((抄抄抄 )))) (良好な居住環境の形成) 第四条 住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策の推進は、地域の自然、歴史、文化そ の他の特性に応じて、環境との調和に配慮しつつ、住民が誇りと愛着をもつことのできる良 好な居住環境の形成が図られることを旨として、行われなければならない。 住生活基本計画 住生活基本計画 住生活基本計画 住生活基本計画((( 全国計画(全国計画全国計画)全国計画)))(((( 平成平成平成平成23232323年年年年3333月月月月15151515日日日日 閣議決定閣議決定閣議決定閣議決定 ))))(( 抄((抄抄抄 )))) 第2 住生活の安定の確保及び向上の促進に関する目標並びにその達成のために必要な基本的 な施策 目標1 安全・安心で豊かな住生活を支える生活環境の構築 住宅の安全性、耐久性、快適性、エネルギーの使用の効率性その他の住宅の品質又は性能の 維持及び向上と安全・安心で豊かさを実感できる居住環境の整備を進めるとともに、住生活の 安心を支えるサービスが提供される環境の実現を図る。これにより、安全・安心で、かつ、地 域の自然、歴史、文化その他の特性に応じて、住民が誇りと愛着を持つことができる、豊かな 住生活を支える生活環境の構築を目指す。 ④移動・利用の円滑化と美しい街並み・景観の形成 【基本的な施策】 ○ 良好な居住環境の形成に向けて、住民が住宅地のマネージメント活動に主体的に取り組むた めの環境整備を行う。 国土形成計画 平成17年7月、これまでの「開発」を基調とした量的拡大を目指す計画を成熟社会型の 計画に転換する観点から、国土総合開発法の全面改正が行われ、「国土形成計画法」が施行 された。本法律に基づく国土形成計画(全国計画)では、多様な広域ブロックが自立的に 発展する国土を構築し、美しく、暮らしやすい国土の形成を実現するため、「「新たな公」 を基軸とする地域づくり」を戦略的目標の1つとして掲げている。

(6)

4 国土形成計画 国土形成計画 国土形成計画 国土形成計画 ((全国計画((全国計画全国計画全国計画 ))))( 平成(((平成平成平成20202020年年年年7777月月月月4444日閣議決定日閣議決定 )日閣議決定日閣議決定)))(抄(((抄抄抄 )))) 第1部 計画の基本的考え方 第3章 新しい国土像実現のための戦略的目標 第5節 「新たな公」を基軸とする地域づくり 人口減少、高齢化を始めとする経済社会情勢の変化が進展し、公共交通、医療、福祉などの 社会的サービスの継続が困難となり、あるいは、従来以上にきめ細かな対応が必要となるなど、 地域づくりを進める上で、様々な課題が生じている。 一方、生活の質の高さを求める意識変化が進む中で、個人、NPO、企業等の民間主体の活 動領域や活動形態も多様化、高度化し、それ自体が私的な利益にとどまらない公共的価値を創 出するという状況が生まれている。 したがって、このような多様な民間主体を地域づくりの担い手ととらえ、それら相互が、あ るいは、それらと行政とが有機的に連携する仕組みを構築することにより、地域の課題に的確 に対応していくことの可能性が高まっている。 これらを踏まえ、多様な主体が協働し、従来の公の領域に加え、公共的価値を含む私の領域 や、公と私との中間的な領域にその活動を拡げ、地域住民の生活を支え、地域活力を維持する 機能を果たしていくという、いわば「新たな公」と呼ぶべき考え方で地域づくりに取り組んで いく。 都市再生本部決定 平成13年5月の発足以来、都市再生本部では、都市再生プロジェクトの決定・推進、都 市再生特別措置法に基づく諸制度による民間都市開発投資の促進等を実施している。一方、 各地における自主性と創意工夫を活かした都市再生を一層推進するためには、地域の具体 的な課題解決のために地域が「自ら考え自ら行動する」ことが重要であるため、様々な担 い手の力の向上、相互の連携の強化等を新たな課題として採り上げ、総合的な施策を展開 している。 都市再生 都市再生 都市再生 都市再生のの 担のの担担担 いいい手い手手手 についてについて(についてについて( 平成((平成平成平成18181818年年年年7777月月月月4444日都市再生本部決定日都市再生本部決定日都市再生本部決定日都市再生本部決定 ))))( 抄(((抄抄抄 )))) 2. まちづくりの担い手の裾野の拡大 全国都市再生モデル調査の成果に見られるように、住民の意識を地域に向け、地域の環境整 備やコミュニティ活動に対する関心を高め、まちづくり活動への参加を進めることは、地域の 具体的な課題解決を行う上で欠かせないことである。 また、これまで行政が担ってきた「公」の分野の役割やその範囲にとどまらない新たなニー ズについて、既存の枠組みにとらわれずに、地域の課題として取り組む担い手も増えてきてお り、地域の様々な担い手が、まちづくり活動に、自律、協働して、持続的に取り組めるよう、 まちづくりの担い手の裾野を拡大し、こうした取組を一層促進することが必要である。 このため、まちづくり活動へ取り組む意欲を持った団体や、地域の居住環境の維持向上に継 続して取り組もうとする団体等が、地域のまちづくり活動の担い手として十分に活動できるよ う、関係法令等において、手続きや管理・運営への参画に係る位置づけの明確化等を検討する。 ※例えば、都市計画法では、地権者のみならず、まちづくり推進活動を目的とする特定非営利 活動法人などの一定の団体についても、都市計画決定等の提案ができることとされている。

(7)

5 特定非営利活動促進法 平成10年3月、特定非営利活動を行う団体に法人格を付与すること等により、市民が行 う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進することを目的として、 特定非営利活動促進法が制定された。法人格を持つことによって、法人の名の下に取引等 を行うことができるようになり、団体に対する信頼性も高まるというメリットがあり、平 成24年12月末現在で約47,000の団体が法律に基づき認証されている。特定非営利活動法 人のうち 4 割強が「まちづくりの推進」を活動分野に掲げており、まちづくり活動の担い 手としての活躍が期待される。 図 図図 図 1111 特定非営利活動法人特定非営利活動法人特定非営利活動法人特定非営利活動法人のののの活動分野活動分野(活動分野活動分野((複数回答(複数回答複数回答複数回答)))) (内閣府データをもとに筆者作成) 2.3. エリアマネジメント活動に関するアンケート調査 平成18年10月、国土交通省が地方公共団体に対し、表 2の要件を満たす地域管理・ま ちづくりの事例についてアンケート調査を行ったところ、全国94地区について回答があっ た。

(8)

6 表 表表 表 2222 アンケートアンケートアンケートアンケート調査調査の調査調査のの対象要件の対象要件対象要件対象要件 ① 特定の地区(住宅地、商業地、業務地等)を対象として、地区の住民や地権者、 事業者等から構成される組織(*1、2)が居住環境向上のために、地域管理・ま ちづくりに係る活動を主体的に実施していること。 ② 地区の住民や地権者、事業者が組織の構成員として加わっていること(*3)。 ③ 原則として、 ■ 組織で公共施設、公益的施設 ※ の維持管理(清掃活動、草花の植栽等簡易なも のを除く。)を行っているか、又は、 ■ 構成員全員で共有又は共用している施設があること ※「公益的施設」には公益的な利用に供されている個人の資産も含む。 ④ 組織の構成員が一定の自己負担を行っていること。 *1: 通常の自治会、商店街振興会、まちづくり公社等の財団法人、中心市街地活性化法に基づく 協議会もしくはTMO(旧法)、市街地再開発法による市街地再開発組合や土地区画整理法によ る土地区画整理組合(準備組合を含む)、区分所有法に基づく団地管理組合を除く。 *2: 通常の自治会は除くが、自治会を基盤として、又は自治会そのものにおいて、特別のまちづ くり活動・防犯活動等を行っている場合)は含む。また、区分所有法に基づく団地管理組合は除 くが、任意の住宅地の管理組合は含む。 *3: 地区外の住民やまちづくり専門家、事業者等が構成員として加わっていてもよい。 アンケートで回答のあった地区の概要は表 3のとおりである。 表 表表 表 3333 エリアマネジメントエリアマネジメントエリアマネジメントエリアマネジメント活動活動実施地区活動活動実施地区実施地区の実施地区ののの概要概要概要概要(国土交通省データをもとに筆者作成) 地区面積 地区面積が25ha(500m四方規模)未満のものが34%。 地区面積が400ha(2km四方規模)以上のものが25%。 居住世帯数 居住世帯数の平均は2120世帯。201~1000世帯の地区が3割強。 50世帯以下の地区が1割弱、5000世帯超の地区が1割強。 地区の性格 (複数回答) 住宅地を含む地区が68%で最も多い。 商業地を含む地区35%。農地や山林地を含む地区は44%。 組織の設立年 2001~2005年に設立された組織が45%で最も多い。 1985年以前に設立された組織も1割弱ある。 組織の規模 組織の構成員が50~100人の地区が30%。 組織の構成員は20人以下の地区が18%。 構成員 1000 人超の組織(28%)では、地域内の住民のほぼ全員が構成員 となっているものが多い。 組織の構成員 (複数回答) 地区内住民を構成員とする地区は91%。 地区内地権者、地区内事業者も入れると、地区内関係者を組織の構成員と する地区は96%。 組 織 の 法 的 位 置づけ 組織の法的位置づけがない任意団体が78%。 NPO法人が12%。その他の組織形態は11%。 注)未回答の地区は母数から除いて集計している。

(9)

7 また、アンケートで回答のあったエリアマネジメント組織の活動内容は、図 2 のとおり である。 図 図 図 図 2222 エリアマネジメントエリアマネジメントエリアマネジメントエリアマネジメント組織組織組織組織のの活動内容のの活動内容活動内容活動内容((((複数回答複数回答複数回答複数回答)))) (国土交通省データをもとに筆者作成) 2.4. 問題意識 以上のように、エリアマネジメント活動として、集会所、コミュニティセンター、公園、 植栽等の公共公益施設の維持管理、街並みの修景・保全、地域内の防犯パトロール、清掃・ 美化活動、地域PR・広報など様々な取組が行われているところであるが、これまでその 効果について定量的な分析はほとんど行われていない。 そこで、本稿では次のような問題意識を持ち、研究を行った。 ① エリアマネジメント活動のうち、一部のものについては十分な効果を上げておらず、地 域の価値を高めることに寄与していないのではないか。 ② エリアマネジメント活動として、集会所・コミュニティセンターの管理を自治会やNPO 等に委ねている例が多いが、改善する余地があるのではないか。

(10)

8

3.

エリアマネジメントの経済学的な意味および分析手法の検討

本章では、エリアマネジメントの経済学的な意味について整理し、エリアマネジメント の効果の分析手法について検討する。 3.1. エリアマネジメントの経済学的な意味 マンキュー(2005)によれば、国防などのように、人々がその財を使用できないように することができない(非排除性)、ある人がその財を使用することによって他の人がその財 を利用できる量が減少しない(非競合性)といった特別な性質を持つ財は「公共財」と呼 ばれる。公共財は、誰かがその財を供給すれば便益を得ることができるため、人々が支払 いを避けようとし、民間市場ではうまく供給することができない(フリーライダー問題)。 このような財について、人々の総便益が総費用を上回る場合には、政府が税収を使って供 給することで、厚生を改善することが可能である。 エリアマネジメント活動は、集会施設や公園等の公共施設を対象として行われることが 多い。これらの施設は、便益が特定の地理的な範囲に限定される公共財であるため、「地方 公共財」と呼ばれる。地方公共財もフリーライダー問題が生じるため、一般的には地方政 府が税収を使って供給することが必要である。しかしながら、住民ニーズが多様化する中 で、地方政府が地域住民の選好を十分に把握できるとは限らず、図 3 のように政府の失敗 により最適な公共財の量に比べて供給量が過小または過大となる可能性がある。 図 図 図 図 3333 地方公共財地方公共財の地方公共財地方公共財のの供給の供給における供給供給におけるにおけるにおける政府政府政府政府のののの失敗失敗失敗失敗 このような政府の失敗に対して、一般的には供給量の改善を地方政府に申し出ることが 考えられるが、供給量が過小である場合には、地域住民等が自ら団体を設立し、地方政府 による公共財の供給を補完することも考えられる。すなわち、エリアマネジメント活動の うち、地域住民等による公共施設の維持管理は、図 4 のように地方公共財の供給量を地域 のニーズに合った最適な状態にしようとする取組であると言える。 公共財の供給量 限界費用 限界効用 過小 供給 過大 供給 最適 供給 政 府 の 失 敗 に よ り 供 給 量 が 過小または過大になると、 死過重が発生

(11)

9 図 図図 図 4444 エリアマネジメントエリアマネジメントエリアマネジメントエリアマネジメント活動活動活動活動によるによる地方公共財によるによる地方公共財地方公共財の地方公共財ののの供給供給供給供給 3.2. 分析手法の検討 通常の財・サービスには価格がついているため、価格情報を用いて価値を計測すること が可能である。しかしながら、社会資本などの財については、市場で直接取引されないた め、価格によってその価値を計測することができない。肥田野(1997)によれば、このよ うな非市場財の価値を計測する代表的な手法として、仮想市場法(CVM)やヘドニック・ アプローチなどがある。 仮想市場法は人々に直接、支払意志額を尋ねることで非市場財の価値を求めようとする 手法であり、仮想的な財、状況でも評価可能というメリットがある。一方、質問の仕方に よって回答が変わりうるという性質があり、客観性を確保するために十分な注意が必要と される。 ヘドニック・アプローチは、評価可能な環境質や社会資本が、市場に影響が認められる ものに限られることや、現存しない環境やサービスについて評価することができないとい う面はあるものの、プロジェクトの規模が小さい場合や影響範囲が狭い場合には、総便益 を計測可能であるというメリットがある。また、地価を被説明変数とするため、客観性、 継続性等の観点から優れている。 エリアマネジメント活動は、比較的狭いエリアで行われるもので、プロジェクトの規模 は大きくない。このため、環境条件の違いが地価に帰着するというキャピタリゼイション 仮説(資本化仮説)3など、いくつかの仮定は置く必要があるものの、総便益の評価手法と してヘドニック・アプローチを適用することが適当と考えられる。 3キャピタリゼイション仮説(資本化仮説)について 地方公共財の便益が家計や企業に帰着するとすれば、地域間の自由な住民移動と自由な企業参入によって地方公共財 が充実した地域の需要が増大し、地価の上昇を引き起こす。その結果、便益については全て土地所有者に帰着すること になる。(中川(2008)ほか) 限界効用 限界費用 公共財の供給量 過小 供給 最適 供給 地方公共財の供給量の不足を エリアマネジメント活動が補完

(12)

10

4.

エリアマネジメントの効果に関する実証分析

本章では、これまでに実施されたエリアマネジメントの効果について、ヘドニック・ア プローチにより実証分析を行う。 4.1. 実証分析の対象地区 平成 18 年に国土交通省が実施したアンケート調査で地方公共団体から回答のあった 94 地区のうち、エリアマネジメント活動の開始前後において活動区域内外に地価ポイントの あるものを対象とする。分析対象地区を多くするため、地価ポイントについては、地価公 示の標準地および都道府県地価調査の基準地の両方を分析対象とした。この要件に基づき、 対象地区を抽出したところ、アンケートで回答のあった94地区のうち36地区が該当した。 図 図 図 図 5555 分析対象分析対象の分析対象分析対象ののの地価地価ポイント地価地価ポイントポイントポイント(((イメージ(イメージイメージイメージ)))) 分析対象地区の性格は表 4、活動内容は表 5のとおりである。 表 表表 表 4444 分析対象地区分析対象地区分析対象地区分析対象地区のののの性格性格性格性格 住宅地 商業業務地 住商混在地 農村地 その他 11地区 4地区 15地区 3地区 3地区 表 表表 表 5555 分析対象地区分析対象地区分析対象地区分析対象地区のの活動内容のの活動内容活動内容活動内容4444 公共公益施設の管理 27地区 街並み保全5 防犯対策 その他の取組6 集会施設 緑地 観光施設 12地区 11地区 25地区 17地区 7地区 3地区 4 複数の活動をしている地区があるため、合計は地区数に一致しない。 5 街並み整備または伝統的建築物の維持・保全を行っているもの 6 地区内清掃・美化、地区PR・広報、農地・山林地の維持管理等を行っているもの

(13)

11 4.2. 推計モデル 本分析では、エリアマネジメント活動の開始前後の状況を比較するため、それぞれの地 区ごとに活動開始5年前から活動開始5年後までの原則として10年分の地価を分析対象と した。なお、時間を通じて変化しない変数の影響も分析対象とするため、変量効果モデル を用いている。 ln δ 被説明変数 LPit は、住宅地の地価(円/㎡)の自然対数値を用いた。i は地価ポイント、 t は年次を表している。地価ポイントは、エリアマネジメント活動の内容を踏まえ、活動区 域から2kmまでの範囲を対象にした。ACTijt はエリアマネジメント活動の前後を表すダミ ー変数であり、集会施設管理、緑地管理、観光施設管理、街並み保全、防犯対策、その他 の取組の 6 区分としている。エリアマネジメント組織の設立年を活動開始時点と考え、活 動開始前は0、活動開始後は1としている。データの制約上、各地区における活動はエリア マネジメント組織の設立年から始まったものと仮定している。Distiは各地価ポイントから エリアマネジメントの活動区域までの距離(km)である。活動区域内の地価ポイントでは 距離を0としている。ACTijt Distiはエリアマネジメント活動と、地価ポイントから活動区 域までの距離の交差項であり、エリアマネジメント活動の周辺地域への影響を推計するこ とを目的としている。Xikt はコントロール変数であり、年次を表すダミー変数、県を表すダ ミー変数、地価の種類(公示価格または基準地の標準価格)を表すダミー変数、地価ポイ ントの立地や特徴を表す説明変数を用いている。立地や特徴を表すダミー変数としては、 地積(㎡)、建蔽率(%)、容積率(%)、ガス供給、下水道供給を表すダミー変数、用途地 域の種別(住居系、商業系、工業系、その他)を表すダミー変数、最寄り駅からの距離(km)、 都心からの距離(km)を用いている。β0 ~β4kは推計されるパラメーター、δiは変量効果、 εitは誤差項を表す。 上記の推計式による基本モデルの他、交差項を含まないモデル、周辺地域のみの地価ポ イントを対象としたモデルの3種類のモデルで分析を行った。 4.3. 使用データ 地価データは、国土数値情報ダウンロードサービス(国土交通省国土政策局国土情報課) に掲載された昭和58年(1983年)から平成23年(2011年)の地価公示および都道府県 地価調査のデータを用いた。地積、建蔽率、容積率、ガス供給、下水道供給、用途地域の 種別、最寄り駅からの距離については本データに付随するものを用いた。都心からの距離 はArcGIS(ESRI社)を用いて、地価ポイントから都心(三大都市圏については県に応じ て東京、名古屋、大阪。その他の県については県庁の最寄り駅)までの直線距離を算出し た。エリアマネジメント組織の活動内容、活動開始時期は、国土交通省によるアンケート 調査の回答を用いた。活動区域の範囲は、アンケート調査の回答をもとに原則として町丁 目レベルで設定した。なお、エリアマネジメント組織のホームページ等により、詳細な活 動区域がわかる場合にはそれに従うこととした。活動区域からの距離は、ArcGISを用いて 地価ポイントから活動区域までの直線距離を算出した。基本統計量を表 6に示す。

(14)

12 表 表 表 表 6666 基本統計量基本統計量基本統計量基本統計量 変数 観測数 平均値 標準偏差 最小値 最大値 ln(地価(円/㎡)) 6648 11.81229 0.74994 8.47637 14.82711 地積(㎡) 6648 226.44 186.0611 60 5031 建蔽率(%) 6648 41.65463 23.28001 0 80 容積率(%) 6648 152.4519 77.31876 0 500 ガス供給ダミー 6648 0.71209 0.45282 0 1 下水道供給ダミー 6648 0.83529 0.37095 0 1 住居系用途地域ダミー 6648 0.96721 0.17811 0 1 商業系用途地域ダミー 6648 0.00181 0.04245 0 1 工業系用途地域ダミー 6648 0.00030 0.01734 0 1 最寄り駅からの距離(km) 6648 2.04452 1.91850 0.15 13 都心からの距離(km) 6648 32.58363 37.6847 1.08744 187.5327 公示価格ダミー 6648 0.63959 0.48016 0 1 集会施設管理ダミー 6648 0.18773 0.39052 0 1 緑地管理ダミー 6648 0.18532 0.38859 0 1 観光施設管理ダミー 6648 0.03024 0.17125 0 1 街並み保全ダミー 6648 0.14937 0.35648 0 1 防犯対策ダミー 6648 0.18487 0.38822 0 1 その他の取組ダミー 6648 0.36312 0.48093 0 1 活動区域からの距離(km) 6648 1.02039 0.62032 0 1.99723 集会施設管理ダミー×活動区域からの距離(km) 6648 0.16393 0.44063 0 1.99543 緑地管理ダミー×活動区域からの距離(km) 6648 0.20632 0.49915 0 1.99464 観光施設管理ダミー×活動区域からの距離(km) 6648 0.03725 0.23148 0 1.99718 街並み保全ダミー×活動区域からの距離(km) 6648 0.17503 0.47714 0 1.99718 防犯対策ダミー×活動区域からの距離(km) 6648 0.19146 0.48648 0 1.99464 その他の取組ダミー×活動区域からの距離(km) 6648 0.37866 0.62232 0 1.99464 4.4. 推定結果および考察 推定結果を表 7に示す。 基本モデルの推定結果より、集会施設管理、観光施設管理、防犯対策が活動区域内の地 価を引き上げる傾向が見られた。これまでに実施された活動が効果を上げていると言える。 緑地管理については緑地管理ダミーの係数がプラスではあるものの、10%の水準で統計的に 有意とならなかったことから、活動区域内への効果は限定的であると言える。街並み保全、 その他の取組については、活動に伴って活動区域内の地価が下がる傾向が見られた。エリ アマネジメント活動と、地価ポイントから活動区域までの距離の交差項は、緑地管理を除 き、それぞれの活動に係るダミー変数の係数と符号が逆になっており、活動区域からの距 離が大きくなるにしたがって、活動の影響・効果が小さくなる傾向が見られた。 交差項を含まないモデルによって活動区域内および活動区域から 2kmまでの周辺地域 の地価に与える平均的な効果を推計したところ、緑地管理、観光施設管理、防犯対策が地 価を引き上げる傾向が見られた。周辺地域の地価ポイントのみを対象としたモデルでも同 様の傾向が見られたことから、エリアマネジメント活動の効果が周辺地域にスピルオーバ ーしていると考えられる。一方、街並み保全、その他の取組の周辺地域への効果を推計し たところ、活動区域内同様、活動に伴って地価が下がる傾向が見られた。

(15)

13 表 表 表 表 7777 推定結果推定結果推定結果推定結果 推計モデル (1) 基本モデル (2) 交差項なし モデル (3) 周辺地域のみ モデル 説明変数 係数 係数 係数 [標準誤差] [標準誤差] [標準誤差] 地積(㎡) 0.00018 *** 0.00019 *** 0.00052 *** [0.00003] [0.00003] [0.00005] 建蔽率(%) 0.00031 *** 0.00036 *** 0.00042 *** [0.00008] [0.00008] [0.00008] 容積率(%) 0.00050 *** 0.00047 *** 0.00047 *** [0.00004] [0.00004] [0.00004] ガス供給ダミー 0.01325 ** 0.01161 * 0.00388 [0.00660] [0.00664] [0.00690] 下水道供給ダミー -0.01709 ** -0.01950 *** -0.02480 *** [0.00749] [0.00751] [0.00784] 住居系用途地域ダミー 0.88586 *** 0.89328 *** 0.98014 *** [0.05236] [0.05298] [0.06207] 商業系用途地域ダミー 1.29276 *** 1.30825 *** 1.09761 *** [0.17188] [0.17399] [0.17446] 工業系用途地域ダミー 0.74537 *** 0.72724 *** 0.89857 *** [0.24178] [0.24471] [0.24184] 最寄り駅からの距離(km) -0.03084 *** -0.03028 *** -0.03253 *** [0.00274] [0.00276] [0.00296] 都心からの距離(km) -0.01405 *** -0.01413 *** -0.01526 *** [0.00090] [0.00091] [0.00093] 公示価格ダミー 0.04601 *** 0.04636 *** 0.03987 ** [0.01724] [0.01746] [0.01794] 集会施設管理ダミー 0.02104 *** -0.00652 -0.01127 ** [0.00692] [0.00460] [0.00487] 緑地管理ダミー 0.00371 0.01920 *** 0.02385 *** [0.00917] [0.00528] [0.00552] 観光施設管理ダミー 0.05812 *** 0.02647 *** 0.03108 *** [0.01871] [0.00827] [0.00834] 街並み保全ダミー -0.07289 *** -0.02127 *** -0.02232 *** [0.00920] [0.00493] [0.00521] 防犯対策ダミー 0.05682 *** 0.02193 *** 0.02032 *** [0.00891] [0.00504] [0.00526] その他の取組ダミー -0.03132 *** -0.01578 *** -0.01661 *** [0.00735] [0.00430] [0.00446] 活動区域からの距離(km) 0.09556 *** 0.09485 *** 0.04167 *** [0.01368] [0.01378] [0.01568] 集会施設管理ダミー×活動区域から の距離(km) -0.02886 *** [0.00551] 緑地管理ダミー×活動区域からの距 離(km) 0.01804 ** [0.00707] 観光施設管理ダミー×活動区域から の距離(km) -0.02999 ** [0.01408] 街並み保全ダミー×活動区域からの 距離(km) 0.04847 *** [0.00746] 防犯対策ダミー×活動区域からの距 離(km) -0.03569 *** [0.00722] その他の取組ダミー×活動区域から の距離(km) 0.01226 ** [0.00608] 年次ダミー(省略) 県ダミー(省略) 定数項 10.09145 *** 10.08252 *** 9.98495 *** [0.06058] [0.06128] [0.07214] 観測数 6648 6648 6036 決定係数(within) 0.7566 0.7525 0.7540 注)***、**、*は、それぞれ 1%、5%、10%有意水準に対応する。

(16)

14 街並み保全活動に伴い、活動区域内および周辺地域の地価が下がった理由について考察 する。地価が下がっている要因として、次の可能性が考えられる。 (ア) 街並み保全活動によって、活動区域内外の環境が悪化している。 (イ) 地域でまちづくりに関するルールを共有したことで、地域住民の負担が生じ、 まちづくりに関するルールを守ることで実現される便益を負担が上回っている。 (ウ) 街並み保全活動が行われる地域は、開発等により街並みが崩れつつある地域で ある蓋然性が高い。街並み保全活動をしているものの、開発等による負の外部 性に見合う十分な効果を上げるには至っていない。 街並み保全活動は、老朽化した町家のNPOの活動拠点への改修や、古い街並みに合う塀 への改修等が主であり、(ア)のように活動に伴って活動区域内外の環境が悪化することは 考えにくい。また、一部の地域で(イ)のようにまちづくりに関するルールを共有してい るが、地域の将来ビジョンなどのレベルにとどまっており、いわゆる紳士協定に過ぎない ことから地域住民の負担が地価に反映されているとは考えにくい。これらのことから考え ると、(ウ)のように、街並み保全活動をしているものの、取組が十分な効果を上げるには 至っていない可能性が高いと考えられる。 なお、エリアマネジメント推進マニュアル(国土交通省土地・水資源局(2008))におい ても、地域の様々な課題への対応がエリアマネジメント活動の契機となりうることが述べ られており、街並みの混乱、質の低下が起きている地域で街並み保全活動が実施されてい る例が多いと考えられる。 次に、緑地管理について、周辺地域では地価を引き上げる効果があったにもかかわらず、 活動区域内では限定的な効果であった理由について考察する。活動区域内で限定的な効果 であった要因として、次の可能性が考えられる。 (ア) 主に地域外の住民が利用する緑地であるため、活動区域内の便益をほとんど上 昇させていない。 (イ) 緑地が適切に管理された結果、来訪者が増え、迷惑行為等も一定程度発生して いる。このため、緑地管理による便益が迷惑行為等による負の外部性によって 打ち消されている。 維持管理が行われている緑地の中には、地域外の住民が多数来訪すると考えられるもの もあるが、地域内の住民の利用が排除されているわけではない。このことから、(イ)のよ うに、来訪者が増えることによる負の外部性によって、緑地管理の便益が打ち消されてい る可能性の方が高いと考えられる。 また、集会施設管理については、活動区域内で地価を引き上げる効果があったにもかか わらず、周辺地域では地価を引き下げる傾向が見られた。周辺地域の地価が引き下げられ た要因として、次の可能性が考えられる。 (ア) 集会施設の管理サービスが、主に活動区域内の住民向けに行われることにより、 結果的に周辺地域住民の利便性が低下している。 (イ) 活動区域内の利便性が向上することにより、相対的に周辺地域の魅力が減少し、 金銭的外部性により地価を引き下げている。 (ア)、(イ)どちらの可能性も考えられるが、集会施設の規模がそれほど大きくなく、 市場に与える影響は限定的と考えられることから、(ア)の可能性の方が高いと考えられる。

(17)

15 なお、いずれのモデルでも、エリアマネジメント活動の有無に関わらず、活動区域から の距離が大きくなるにしたがって地価が上昇する傾向が見られた。これは、住宅地の地価 としては中心地よりも周辺地域の方が高い商業業務地や住商混在地が分析対象地区に含ま れていることが要因であると考えられる。 また、その他のコントロール変数の推定結果については概ね妥当であった。

5.

地域住民等による公共施設管理の効果に関する実証分析

集会所・コミュニティセンターは全国に多数あるが、エリアマネジメント活動として国 土交通省によるアンケート調査に回答されたものはごく一部に過ぎない。このため本章で は、指定管理者制度を導入している集会所・コミュニティセンターのうち、一定の要件を 満たす全てのものを分析対象とすることで、典型的なエリアマネジメント活動である地域 住民等による公共施設管理の改善方策について検討する。 5.1. 実証分析の対象施設 神奈川県内7の集会所・コミュニティセンターのうち、2006年4月時点で指定管理者制度 により管理されている施設を対象とする。エリアマネジメント活動によって管理されてい る集会施設は比較的小規模なものが多いことから、延床面積が1000㎡未満のものを対象と した。また、他の施設の影響を排除するため、合築されているものは除外した。この結果、 対象施設は111施設となった。集会施設の規模等を踏まえ、施設から2kmの範囲の地価ポ イントを分析対象とした。 なお、指定管理者制度が導入されている施設は、管理内容等が明文化されており、委託 によって管理されている施設に比べて管理方法にばらつきが少ないと考えられることから、 分析対象として適切と判断した。 5.2. 推計モデル 指定管理者制度導入から一定期間経過後に効果が見られる可能性も踏まえ、2007~2010 年の 4 年間の公示価格を分析対象とした。なお、時間を通じて変化しない変数の影響を分 析するため、変量効果モデルを用いている。 ln 012 34 56 δ 被説明変数 LPit は、住宅地の地価(円/㎡)の自然対数値を用いた。i は地価ポイント、 t は年次を表している。Orgijは管理団体の種別を表すダミー変数である。推計モデルによ って、3 種類または 5 種類のダミー変数を用いている。Pubi は管理団体の選定時における 7 2006年に財団法人地方自治総合研究所が都道府県地方自治研究センター・研究所の協力により実施した「指定管理者 制度の導入状況に関する調査」のうち、指定管理者制度導入施設および指定管理者の名称、選定時における公募の有無 等の個別データが公表されている神奈川県の施設を対象とした。

(18)

16 公募の有無を示すダミー変数である。Xiktはコントロール変数であり、年次を表すダミー変 数のほか、地価ポイントの立地や特徴を表す説明変数として地積(㎡)、建蔽率(%)、容 積率(%)、ガス供給、下水道供給を表すダミー変数、最寄り駅からの距離(km)、東京駅 からの距離(km)、集会施設からの距離(km)、集会施設の特性を表す説明変数として集会 施設の延床面積(㎡)を用いている。β0 ~β3k は推計されるパラメーター、δi は変量効果、 εit は誤差項を表す。 団体種別に着目したモデル、公募の有無に着目したモデル、団体種別と公募の有無を組 み合わせたモデルの3つのモデルで分析を行っている。 5.3. 使用データ 地価データは、国土数値情報ダウンロードサービス(国土交通省国土政策局国土情報課) に掲載された平成19年(2007年)から平成22 年(2010年)の地価公示のデータを用い た。地積、建蔽率、容積率、ガス供給、下水道供給、最寄り駅からの距離については本デ ータに付随するものを用いた。東京駅からの距離はArcGISを用いて、地価ポイントから東 京駅までの直線距離を算出した。管理団体の種別、公募の有無は、公益社団法人神奈川県 地方自治研究センターのホームページに掲載された『指定管理者制度の導入状況に関する 調査報告書』に付随している指定管理者導入施設一覧を用いた。集会施設の延床面積、合 築の有無については、市町村等のホームページ上に公表されているものを用いた。集会施 設からの距離は、ArcGISを用いて地価ポイントから集会施設の位置までの直線距離を算出 した。なお、集会施設の位置は、集会施設の名称から市町村等のホームページにより住所 を特定し、Googleマップを用いて座標を作成した。基本統計量を表 8に示す。 表 表 表 表 8888 基本統計量基本統計量基本統計量基本統計量 変数 観測数 平均値 標準偏差 最小値 最大値 ln(地価(円/㎡)) 1397 12.18001 0.27394 11.41311 13.12236 地積(㎡) 1397 185.418 57.92262 72 429 建蔽率(%) 1397 52.90623 7.34928 40 80 容積率(%) 1397 130.6872 54.46891 60 300 ガス供給ダミー 1397 0.75805 0.42842 0 1 下水道供給ダミー 1397 0.96707 0.17851 0 1 最寄り駅からの距離(km) 1397 1.33649 1.08379 0.1 7 東京駅からの距離(km) 1397 36.79551 10.06223 15.90791 76.32767 集会施設からの距離(km) 1397 0.77631 0.46324 0.03370 1.99957 集会施設の延床面積(㎡) 1397 452.8316 252.0838 65 944 株式会社ダミー 1397 0.03006 0.17083 0 1 NPO ダミー 1397 0.05226 0.22262 0 1 任意団体ダミー 1397 0.77738 0.41615 0 1 公募ダミー 1397 0.45240 0.49791 0 1 株式会社(公募)ダミー 8 1397 0.03006 0.17083 0 1 広域で活動する NPO 等 9 (公募)ダミー 1397 0.38368 0.48646 0 1 地域内で活動する NPO 等(公募)ダミー 1397 0.02434 0.15415 0 1 地域内で活動する NPO 等(非公募)ダミー 1397 0.42162 0.49400 0 1 自治会・町内会(公募)ダミー 1397 0.01432 0.11883 0 1 8株式会社、広域で活動する NPO等は、全て公募により選定されているため、非公募のダミー変数はない。団体の活 動区域が、区よりも小さいエリアであるものを「地域内で活動する」団体と定義して分析を行った。 9 NPOまたは組織の法的位置づけがない任意団体を表す。

(19)

17 5.4. 推定結果および考察 推定結果を表 9に示す。 表 表 表 表 9999 推定結果推定結果推定結果推定結果 推計モデル (1) 団体種別モデル (2) 公募有無モデル (3) 団体種別・公募 有無モデル 説明変数 係数 係数 係数 [標準誤差] [標準誤差] [標準誤差] 地積(㎡) 0.00089 *** 0.00087 *** 0.00091 *** [0.00014] [0.00014] [0.00014] 建蔽率(%) -0.00424 * -0.00353 -0.00384 * [0.00229] [0.00227] [0.00221] 容積率(%) 0.00051 0.00030 0.00048 [0.00031] [0.00031] [0.00030] ガス供給ダミー 0.01657 *** 0.01806 *** 0.01688 *** [0.00586] [0.00588] [0.00586] 下水道供給ダミー 0.00384 0.01032 0.00168 [0.01277] [0.01285] [0.01289] 最寄り駅からの距離(km) -0.01636 *** -0.02056 *** -0.01702 *** [0.00453] [0.00448] [0.00451] 東京駅からの距離(km) -0.01618 *** -0.01911 *** -0.01711 *** [0.00159] [0.00130] [0.00167] 集会施設からの距離(km) -0.04297 ** -0.04834 ** -0.03589 * [0.02003] [0.02033] [0.01987] 集会施設の延床面積(㎡) -0.00002 -0.00014 *** -0.00007 [0.00006] [0.00004] [0.00005] 株式会社ダミー 0.22514 *** [0.06756] NPO ダミー 0.17264 *** [0.06452] 任意団体ダミー 0.16450 *** [0.03461] 公募ダミー 0.04410 * [0.02353] 株式会社(公募)ダミー 0.18994 *** [0.06685] 広域で活動する NPO 等(公募) ダミー 0.14188 *** [0.04202] 地域内で活動する NPO 等(公募) ダミー 0.38807 *** [0.05976] 地域内で活動する NPO 等(非公募) ダミー 0.12450 *** [0.03369] 自治会・町内会(公募)ダミー -0.10100 [0.08144] 年次ダミー(省略) 定数項 12.66130 *** 12.94664 *** 12.71772 *** [0.13885] [0.11768] [0.13616] 観測数 1397 1397 1397 決定係数(within) 0.7017 0.7001 0.7014 注)***、**、*は、それぞれ 1%、5%、10%有意水準に対応する。 団体種別に着目したモデルでは、自治会・町内会による管理を基準とし、株式会社、NPO、 法人格のない任意団体による管理の効果を推計している。推計結果から、株式会社、NPO、 任意団体が集会施設の管理をすることで、地価が引き上げられる傾向が見られた。株式会 社、NPO、任意団体が集会施設を効率的・効果的に管理することで住民の利便性が向上し ていると考えられる。

(20)

18 なお、株式会社ダミーの係数が、NPOや任意団体のダミーよりもやや高い傾向が見られ たため、NPO による管理を基準として追加的な分析を行ったが、株式会社ダミーと NPO ダミーの係数の差について統計的に有意な結果は得られなかった。10 株式会社、NPO、任意団体による管理と、自治会や町内会による管理で効果に違いが見 られた理由について考察する。指定管理者制度導入前の管理委託先を確認したところ、指 定管理者が自治会・町内会の施設では、全て指定管理者と同一の自治会・町内会が従前の 管理者となっていた。これに対して、指定管理者が株式会社、NPOの施設では、全て指定 管理者と異なる団体が従前の管理者であった。このことから、自治会・町内会が管理する 集会施設では、指定管理者制度導入後も従前の管理方法を大きく変更していないのに対し、 株式会社やNPOは地域のニーズに合わせて従前の管理内容や方法を適宜見直し、効率的・ 効果的な管理を行っていることが考えられる。 なお、任意団体については、従前の管理者と同一の団体が指定管理者として選定されて いる施設が多かったが、3割程度の団体は公募によって選定されていた。このため、管理団 体 は 同 じ で も 管 理 内 容 等を 一 部 見 直 し て い る 施 設も 少 な く な い と 考 え ら れ、 株 式 会 社 や NPOによる管理同様、自治会や町内会による管理と効果に差が生じたと推察される。また、 今回分析対象とした施設では、地域内で活動するNPO等のうち公募で選定されたものにつ いて特に高い効果が見られた。地域内で活動するNPO等が地域のニーズに即した維持管理 を行うことで、住民の利便性が向上していることが示唆される。 公募の有無に着目したモデルの推計結果から、公募によって選定された団体が集会施設 の管理をすることで、地価が引き上げられる傾向が見られた。また、管理団体の種別と公 募の有無を組み合わせたモデル11の推計結果から、公募によって選定された株式会社、広域 で活動するNPO法人等、地域内で活動するNPO法人等が管理することで、地価が引き上 げられる傾向が見られた。地域内で活動するNPO法人等が公募によらずに選定された場合 にも地価が引き上げられる傾向にあるものの、公募による場合と比べると効果は相当程度 小さくなる傾向が見られた。公募が効率的・効果的な管理を行う団体の選定に重要な役割 を果たしていると言える。 公募により選定された団体による管理が、効率的・効果的に行われている理由を考察す る。管理団体が公募により選定される場合、事業の安定性などのほか、効率性や質の高い 事業を行うための工夫についても選定時の評価の対象になっていることが多い。これによ り、公募に応募してきた団体の中で、より効率的・効果的な管理を行う団体が選定されて いると考えられる。なお、自治会・町内会については、公募により選定されたものとそう でないもので統計的に有意な差が見られなかったが、具体的な選定状況を確認したところ1 団体のみの申請であったものが選定されていることがわかった。このことから、公募のメ リットが十分に発揮されなかったものと考えられる。 また、その他のコントロール変数の推定結果については概ね妥当であった。 10団体種別を表すダミー変数を株式会社、任意団体、自治会・町内会の3種類にして分析したが、株式会社ダミーの係 数について10%の水準で統計的に有意な結果は得られなかった。 11団体種別・公募有無モデルでは、公募によらずに選定された自治会・町内会による管理を基準とした効果を推計して いる。

(21)

19

6.

まとめと政策提言

本稿では、これまでに実施されたエリアマネジメントの効果について実証分析を行うと ともに、典型的なエリアマネジメント活動である集会施設の管理について、管理団体の種 別や選定方法に着目した実証分析を行った。 エリアマネジメントの効果に関する実証分析の結果から、これまでに行われたエリアマ ネジメント活動のうち、一部の取組については十分な効果を上げておらず、地域の価値を 高めることに寄与していないことが示された。公的主体として政策を立案・推進していく 場合には、施策の効果の有無や大小について見極めることが重要であり、効果が十分でな いものについては取組内容や公的主体の関与について見直し等を行っていくことが必要で ある。 また、エリアマネジメント活動のうち、一部のものについては公的助成が行われている が、資源配分の効率性の観点から公的主体による市場介入が正当化されるのは、いわゆる 「市場の失敗」がある場合に限られる(福井(2007))ことに留意すべきである。エリアマ ネジメント活動の場合には、活動の実施主体以外に外部便益が及ぶ場合に、その外部便益 の範囲内でのみ公的助成が正当化されるため、費用便益分析などの手法を用いて外部便益 とコストを比較した上で、施策を実施していくことが必要である。 集会施設の管理団体の種別、選定方法に着目した分析では、公募により選定された団体 が効率的・効果的な管理を行っていることが示された。これまでに実施されているエリア マネジメントでは、集会施設の管理を公募によらずに自治会やNPO等に委ねている例が多 いが、管理団体を公募により選定することでエリアマネジメントの効果を高めることが可 能である。なお、地域内で活動するNPO等は数が限られているため、効率的・効果的な運 営を行う団体を選定するためには、公募の際に団体の活動区域などについて限定的な条件 をつけないことが重要である。

謝辞

本研究の実施にあたり、福井秀夫教授(プログラムディレクター)、中川雅之教授(主査)、 鶴田大輔准教授(副査)、橋本和彦助教授(副査)をはじめ、まちづくりプログラム、知財 プログラムの教員の皆様から懇切丁寧なご指導をいただきました。心よりお礼申し上げま す。また、社会人学生として貴重な 1 年を共有し、切磋琢磨した同期の皆様に感謝申し上 げます。 なお、本稿における見解および内容に関する誤り等は全て筆者に帰します。また、本稿 は筆者の個人的見解を示すものであり、筆者の所属機関の見解を示すものではないことを 申し添えます。

(22)

20

参考文献

・新たな担い手による地域管理のあり方検討委員会(2007)『新たな担い手による地域管理 のあり方について』国土交通省 ・国土交通省土地・水資源局(2008)『エリアマネジメント推進マニュアル』 ・小林重敬(2005)『エリアマネジメント―地区組織による計画と管理運営』学芸出版社. ・指定管理者制度の導入状況に関する調査委員会(2006)『指定管理者制度の導入状況に関 する調査(2006)最終報告』地方自治総合研究所 ・社団法人神奈川地方自治研究センター(2006)『指定管理者制度の導入状況に関する調査 報告書』 ・中川雅之(2008)『公共経済学と都市政策』日本評論社. ・肥田野登(1997)『環境と社会資本の経済評価』勁草書房. ・福井秀夫(2007)『ケースからはじめよう 法と経済学』日本評論社 ・マンキュー,N.G 著・足立英之他訳(2005)『マンキュー経済学Ⅰ ミクロ編(第2版)』 東洋経済新報社

参照

関連したドキュメント

シートの入力方法について シート内の【入力例】に基づいて以下の項目について、入力してください。 ・住宅の名称 ・住宅の所在地

という熟語が取り上げられています。 26 ページ

Q7 

黒い、太く示しているところが敷地の区域という形になります。区域としては、中央のほう に A、B 街区、そして北側のほうに C、D、E

検討対象は、 RCCV とする。比較する応答結果については、応力に与える影響を概略的 に評価するために適していると考えられる変位とする。

を基に設定するが,敷地で最大層厚 35cm が確認されていることも踏まえ,堆積量評価結果

敷地と火山の 距離から,溶 岩流が発電所 に影響を及ぼ す可能性はな

敷地と火山の 距離から,溶 岩流が発電所 に影響を及ぼ す可能性はな