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「高齢運転者の交通安全政策に関する考察 -「高齢運転者標識」及び「高齢者講習」が高齢運転者の交通事故件数に与える影響の分析-」

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高齢運転者の交通安全政策に関する考察

-「高齢運転者標識」及び「高齢者講習」が

高齢運転者の交通事故件数に与える影響の分析-

〈 要 旨 〉 増加を続ける高齢運転者の交通事故件数に対して,政府は平成9年に道路交通法の改正を行い,高齢運 転者の交通安全政策として「高齢運転者標識」及び「高齢者講習」を75歳以上の高齢運転者を対象に導 入した.さらに,平成13年には対象を70歳以上の高齢運転者に拡大する改正を行った.本稿では,これ ら の政策は,「情報の 非対称 」及 び「負の 外部性 」を解消 する ことによ り,高 齢運転者 の交 通事故件数を 減少させるものであるという仮説を理論分析より導き出した.そして,その仮説を実証するために都道府 県 パネルデ ータを 用い,政 策が 高齢運転 者の交 通事故発 生件 数に与え る影響 について 実証 分析を行 った. 分析の結果,政策全体については,高齢運転者が加害者となる交通事故を減少させる効果は明らかにでき な かったも のの, 高齢運転 者が 被害者と なる交 通事故を 減少 させる効 果があ ることが 確認 できた. 一方, 個 々の政策 につい て,「高齢 運転 者標識」 は,高 齢運転者 であ ることを 周囲の 運転者に 知ら せることによ り事前に事故を回避する運転を行うことを容易にし,交通事故を予防する効果が あ る こ と が 確 認 さ れ た . 2012年(平成24年)2月 政 策研究 大学院 大学 まちづ くりプ ログラ ム MJU11012 杉本 和哉

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目次

目次

目次

目次

1. はじめにはじめにはじめにはじめに ... 1 2. 高齢運転者高齢運転者高齢運転者 の高齢運転者のの 交通事故の交通事故 の交通事故交通事故ののの 状況状況状況状況 及及 び及及びびび 一連一連一連一連 のの 道交法改正のの道交法改正道交法改正 の道交法改正のの 概要等の概要等概要等概要等 ... 2 2.1 高齢 運転者 の交通 事故の 状況 ... 3 2.2 一連 の道交 法改正 の概要 ... 5 2.3 「高 齢運転 者標識 」及び 「高齢 者講習 」の制 度概要 ... 6 3. 「「「「 高齢運転者標識高齢運転者標識高齢運転者標識高齢運転者標識 」」 及」」及及及 びびびび 「「「「 高齢者講習高齢者講習 」高齢者講習高齢者講習」」」 ののの 効果の効果効果 に効果に 関にに関関 する関するする 理論分析する理論分析理論分析理論分析 ... 8 3.1 「高 齢運転 者標識 」の効 果に関 する理 論分析 ... 8 3.2 「高 齢者講 習」の 効果に 関する 理論分 析 ... 10 4. 「「「「 高齢運転者標識高齢運転者標識高齢運転者標識高齢運転者標識 」」 及」」及及及 びびびび 「「「「 高齢者講習高齢者講習 」高齢者講習高齢者講習」」」 ののの 効果の効果効果 に効果に 関にに関関 する関するする 実証分析する実証分析実証分析実証分析 ... 11 4.1 デー タの説 明 ... 11 4.2 推定 の方法 ... 13 4.3 政策 全体の 効果を 捉える モデル ... 13 4.4 「高 齢運転 者標識 」の効 果を捉 えるモ デル ... 15 4.5 「高 齢者講 習」の 効果を 捉える モデル ... 16 5. 「「「「 高齢運転者標識高齢運転者標識高齢運転者標識高齢運転者標識 」」」 及」及 び及及びびび 「「「「 高齢者講習高齢者講習高齢者講習高齢者講習 」」」」 のの 効果のの効果効果 に効果にに 関に関関 する関するする 実証分析する実証分析 の実証分析実証分析ののの 推推推推 定定定定 結果結果結果結果 ... 16 5.1 政策 全体の 効果を 捉える モデル の推定 結果 ... 16 5.2 「高 齢運転 者標識 」の効 果を捉 えるモ デルの 推定結 果 ... 18 5.3 「高 齢者講 習」の 効果を 捉える モデル の推定 結果 ... 19 6. 考察考察考察考察 ... 20 6.1 政策 全体の 効果 ... 20 6.2 「高 齢運転 者標識 」の効 果 ... 21 6.3 「高 齢者講 習」の 効果 ... 21 7. 政策提言政策提言政策提言政策提言 ... 21 8. まとめまとめまとめまとめ ... 22 参考文献 参考文献 参考文献 参考文献 ... 24

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- 1 - 1. はじめにはじめにはじめにはじめに∗ 平成22年 末現在 ,70歳以 上の高 齢者の 運転免 許(原 付以上)保 有者数 は約7,246千 人であ り ,平 成6年 と比較 し4倍近 く増加 してお り,高 齢化の 進行と ともに 今後も 増加が 続くこ と が見込 まれる .交通 事故(原付 以上)件 数全体 は平成16年以降 一貫し て減少 を続け ている の に対し ,70歳以上 の高齢運 転者の 交通事 故件数 は平成20年に わずか に減少 した ものの , 平 成6年 以降平 成22年まで 増加を 続けて いる. ま た,平 成 18年 に内閣 府が 発表し た「交 通安全 に関す る特別 世論調 査」で は,「 高齢運 転 者標識 1 」の表 示につ いて ,『何 らか の形で 義務付 けるべ きだ』と回答 した割 合は81.2% 2 で あ った .また ,高 齢運転 者の 認知機 能検査 の導入 につい て,『医 師の検 査で問 題が あれば免 許 の 取 消し な ども 行う べ きだ 』 と 回答 し た割 合は 55.9%と , 高 齢 運転 者 に対 する 交 通 安全 政 策の必 要性は 国民に も認め られて いるも のと考 えられ る. このよ うな状 況にお いて政 府は, 平成9年 に道路 交通 法 3 (昭和35年 法律第105号 .以下 「 道交法 」と いう)を 改正した .そ こでは ,高齢運 転者の 交通安 全政策 として ,75歳 以上の 高 齢運転 者を対 象とし た「高 齢運転 者標識」の表 示努力 義務及 び運転 免許更 新時4の「 高齢 者 講習」 が導入 された .そし て,平 成13年 には対 象を70歳以 上の高 齢運転 者に 拡大する よ う改正 された .「高齢 運転 者標識 」の 目的は ,周 囲の 運転者 に対し て標識 を表示 した高齢 運 転 者 を 保 護 する 義 務 を 課し , 高 齢 運 転 者の 交 通 事 故を 減 少 さ せ る こと に あ る .し か し, そ の表示 は,平成23年1月 末現在 におい ても努 力義務 である ことや ,表 示の対象 となる 車 種 が 普 通 自 動 車に 限 定 さ れて い る こ と 等 の制 約 が あ る. そ の よ う な 状況 に お い て, 標 識の 普 及率(75歳以 上)は平 成 20年9 月 時点 で75.4% 5 と 発表 されて おり, ある程 度浸透 してい る と み て よ い .し か し , 標識 が 高 齢 運 転 者の 交 通 事 故件 数 に 対 す る 影響 は 証 明 され て いな い . ま た,「 高 齢 者講 習 」に つ い て は , あく ま で 高 齢運 転 者 に 運 転 技術 の 現 状 を認 識 さ せ, 安 全運転 教育を 通して ,技術 の低下 に応じ た安全 運転の 実施を 促すと いうの が導入 の目的 6 で あ っ た . つ まり , 講 習 の結 果 に 基 づ い て運 転 技 術 が不 十 分 と し て 免許 の 更 新 を認 め ない こ と が そ の 意 図で は な い .実 際 に 自 身 の 判断 に よ り 免許 を 更 新 せ ず に失 効 さ せ たと 考 えら れ る者は 平成22年講 習受講 者の0.3% 7 程 度に とどまっ ている .運転 技術に 不安を 抱える 高 齢 運 転 者 も 引 き続 き 運 転 を続 け て い る 可 能性 が あ り ,高 齢 運 転 者 の 交通 安 全 政 策と し て効 果 があっ たのか 検証す る必要 がある . そこで ,本 稿では ,「高齢 運転者 標識 」及び「高 齢者 講習 」が高 齢運転 者の交通 事故件 数 ∗ 本稿は筆者の個人的な見解を示すものであり,内容の誤りは全て筆者に帰属することを予めお断りい たします. 1 いわゆる「もみじマーク」のことであるが,本稿においては「高齢運転者標識」で統一する. 2 内訳は ,「もっと高齢の運転者(例えば,75歳以上)には表示を義務付けるべき」17.4%,「70歳以上の高 齢運転者のうち,身体機能と運転に必要な記憶力や判断力などの認知機能が低下している者には表示を 義務付けるべき」19.1%,「70歳以上の高齢運転者に表示を義務付けるべき」44.7%となっている. 3 本稿においては,改正道交法の成立・公布時を捉えて「平成○年法改正」と呼ぶ. 4 優良もしくは一般運転者に関わらず,免許証の有効期間は更新日における年齢が70歳は4年,71歳 以上は3年(道交法第92条の2第1項). 5 出典:内閣府HP『国政モニターお答えします』中「もみじマーク義務化の撤回について(平成21年3 月)警察庁回答」(http://www8.cao.go.jp/monitor/answer/h20/ans2103-001.pdf) 6 出典:(財)全日本交通安全協会・警察庁『自分のためみんなのための新しいルールです』 (http://www.npa.go.jp/annai/license_renewal/ninti/leaflet_menkyo.pdf) 7 警察庁交通局『運転免許統計 平成22年版』中の「平成22年中の都道府県別の講習予備検査及び高 齢者講習状況」を参考に筆者算出.

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- 2 - に 与えた 影響に ついて,平成6年か ら平成20年までの 都道府 県パネ ルデー タを用 いて実 証 分 析を行った.結論から先に 述べると,「高 齢運転 者標 識」及び「高齢 者講習 」を 一つの 交 通 安 全 政 策 と みな し た 場 合,政策全体として高齢運転者が 被害 者となる交通事故を減少さ せ る効果 がある ことが 確認された.また,個々の政策について,「高齢 運転者 標識 」は ,高 齢 運 転 者 で あ るこ と を 周 囲の 運 転 者 に 知 らせ る こ と によ り 事 前 に事故を回 避 する運転を行 う ことを 容易にし,交通 事故 を予防 する効果があることが確認された.その結 果を 踏まえ, 今 後の高 齢運転 者の交 通安全 政策の 改善を 提言した. 高 齢 運 転 者 の 交 通安 全 政 策に 関 す る 先 行研究としては次 のようなものがある.まず, 榊 原 (2008)は, 経済 学的な視点から高齢者の自動車利用に関する分 析を行い,自動車 利用の 選択 を政府が一方 的に 奪 うべきではなく,選択 の 余地を 残 したうえで,道路交通環境 や駅 構 内 等の ハ ー ド面 の 整備 が必要 であると 提言 している.ま た, 池田他 (2004)は ,(財)交 通 事 故 総 合分 析セン ターの交通事故 例 調査データに基づき,高齢運転者が事故を 起こしやす い 環境 は, 無信号交 差 点における 出会 い 頭事故であると示し,事故 抑制のために交 差 点の 視 認性の 確保,信 号機の 設置 を提言 している.その ほか,交通安 全プロ ジェクト (2009)は, 池田他と 同様に(財)交通事故 総合分 析セン ターの交通事故例調査データに基づき,高齢運 転 者 の 交 通 事 故 の要 因 として失 敗経験 をその後の行動に反映 させる能力の低下があると示し, 運 転 能 力 の 低 下を 気 付かせる ド ラ イビン グレコ ー ダ ーの 活 用や交通安全教育が必要である と 提言している. こ の よ う に ,高 齢 運 転 者の 交 通 安 全 政 策に つ い て 論じ た 研 究 に は ,道 路 交 通 環境 に 着目 し た も の や , 高齢 者 の 身 体的 ・心理 的特性に 着 目したものをはじめ 多様 な 視 点から分 析し た ものが ある .しか し,高齢 運転者 の交通 安全政 策の中 でも道交法の改正に 着目し,「高齢 運 転 者 標 識 」 及び 「 高 齢 者講 習 」 が 高 齢 運転 者 の 交 通事 故 件 数 に 与 えた 影 響 を 分析 したも の は確認できなかった.その 点で ,事 故の当 事者や事故 類型別の交通事故データに 着目し, 高 齢 運 転 者 に 対す る 交 通 安全 政 策 の 効 果 を明 ら か に しよ う と す る 本 稿の 研 究 は ,今 後 の高 齢 運 転 者 の 交 通安 全 政 策 を考 察 するうえで,一定の意義をなすものと考える.また,こう し た 効 果 を 検 討することは,今後,高齢化を 迎 える アジア諸 国をはじめとする 諸外 国にお け る交通 安全政 策に対 する示 唆となりうる. 本 稿の構 成は次 のとおりである.第 2 章 で,高齢運転者の交通事故に関する近年の状況 及 び平成9年か らの一 連の道交法改正の概 要等について 概観する.第3章 では,「市場の失 敗 」の 解 消に 着目し,「 高齢 運 転 者 標 識 」及 び 「 高 齢者 講 習 」 の 効 果を 理 論的に分 析 する. 第 4 章 では, 前章の 理論分析 で示した仮説 を踏まえ,実際にどのような効果があったのか 明 らかに するた めの実 証分析 の手法等を示し,第5章で 推定結果を,第6章でその考察を 示 す.そ して, 第 7 章で高齢運転者の交通安全政策の一 環として政策の改善 を提言 する. 最 後に,第8章 において分析 から導かれた結論と今後の課題について要約する. 2. 高齢運転者 の高齢運転者高齢運転者高齢運転者ののの 交通事故交通事故 の交通事故交通事故のの 状況の状況状況状況 及及及及 びび 一連びび一連一連 の一連のの 道交法の道交法 改正道交法道交法改正改正改正 のののの 概要等概要等概要等概要等 本章では,まず,統計 データを基に平成6年か ら平成22年まで の高齢 運転者の 交通事 故 等 の状況 を示す .そ して ,平 成9年 以降の 一連の道交法改正の 概要を示したうえで.「高齢 運 転者標 識」及 び「高 齢者講 習」の 制度概 要を説 明する.

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- 3 - 2.1 高齢高齢 運転者高齢高齢運転者運転者運転者 のの 交通事故のの交通事故交通事故交通事故 のののの 状況状況状況状況 図 1は70歳以 上の高 齢者の 平成6年 から平成22年まで の運転 免許(原付 以上)保有 者数の 推移を示している.ここからは,平成22年 の運転 免許 保有者 数が平 成6年 の4倍 近く増 加 し ,同期間における70歳以 上の高 齢者の 人口の増加率(約1.9倍)と 比較し ても高 齢運転 者 の 増加の 速度が 著しいことが 推察できる. 1 1 , 3 5 7 2 1 , 2 1 1 1 , 8 9 2 7 , 2 4 6 0 5 , 0 0 0 1 0 , 0 0 0 1 5 , 0 0 0 2 0 , 0 0 0 2 5 , 0 0 0 平 成 6 年 平 成 8 年 平 成 1 0 年 平 成 1 2 年 平 成 1 4 年 平 成 1 6 年 平 成 1 8 年 平 成 2 0 年 平 成 2 2 年 ( 千 人 ) 7 0 歳 以 上 の 人 口 7 0 歳 以 上 の 運 転 免 許 保 有 者 数 図1 70歳以上 人口及び運転免許保有者数の推移8 ま た,平成6年末 と平成22年 末現在 におけ る年齢 階層別の運転免許保有者数を比較する と ,この 期間で運転免許保有者層が高齢者 側にシフトしていることが明らかである.さら に ,平成22年末現 在におい て運転 免許保 有者数 の比率 が相対的に高い55~64歳 が引き 続 き 免許を 保有し 続けた 場合,70歳 以上の 高齢運 転者が今 後も暫 く増加し続けるものと容易 に 推察できる(図2). 0 1 , 0 0 0 2 , 0 0 0 3 , 0 0 0 4 , 0 0 0 5 , 0 0 0 6 , 0 0 0 7 , 0 0 0 8 , 0 0 0 9 , 0 0 0 1 0 , 0 0 0 16-1 9歳 20-2 4歳 25-2 9歳 30-3 4歳 35-3 9歳 40-4 4歳 45-4 9歳 50-5 4歳 55-5 9歳 60-6 4歳 65-6 9歳 70-7 4歳 75歳 -( 千 人 ) 平 成 2 2 年 末 平 成 6 年 末 図2 平成6年末及 び平成22年末の 年齢階層別運転免許保有者数 9 8 データ出所:警察庁交通局『運転免許統計 』,総務省統計局『人口推計年報 』・『平成22年国勢調査』 9 データ出所:警察庁交通局『運転免許統計』

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- 4 - 次に,図3は平 成6年から 平成22年 まで の交通 事故(原 付以上)件数の 推移を第1当事者 及 び第2当事者 10 別 に示 したも のであ る,こ こから は,第1当事者,第2当事者ともに平成 13 年をピ ークに増加した後,暫く 横ばいの状態 が続いたが平成 16 年 以降は 一貫 して減少 を 続けて いるこ とが分 かる. 698,736 910,794 907,584 692,145 517,097 663,830 659,328 495,899 300 400 500 600 700 800 900 1,000 平成6年 平成8年 平成10年 平成12年 平成14年 平成16年 平成18年 平成20年 平成22年 (千件) 第1当事者 第2当事者 図3 交通事 故(原付以 上)件 数の推移 11 一 方,70歳以上 の高齢 運転 者の交 通事故 件数は 第 1 当 事者,第2 当 事者ともに平成 20 年 にわず かに減 少した ものの ,平成6年か ら平成22年 まで増 加して いる. 平成22年末現 在 ,平 成6年 と比較 して第1当事者は約3.7倍 ,第2当 事者は約2.7倍の 増加とな ってい る (図4). 17,279 63,998 8,795 23,849 0 10 20 30 40 50 60 70 平 成 6 年 平 成 8 年 平 成 1 0 年 平 成 1 2 年 平 成 1 4 年 平 成 1 6 年 平 成 1 8 年 平 成 2 0 年 平 成 2 2 年 ( 千 件 ) 第 1 当 事 者 第 2 当 事 者 図4 70歳以上 高齢運 転者の 交通事 故(原付以 上)件数の 推移 11 10 第1当事者とは,最初に交通事故に関与した車両等の運転者又は歩行者のうち,当該事故における過 失の大きい者をいい,過失が同程度の場合には負傷程度が軽い者をいう.なお,本稿では,第1当事者 を加害者相当として取り扱う.また,第2当事者とは,最初に交通事故に関与した車両等の運転者,歩 行者又は構造物等の物件のうち,第1当事者以外の者をいう.なお,本稿においては第2当事者を被害 者相当として取り扱う. 11 データ出所:日本交通政策研究会「平成23年度共同研究『地域特性に着目した高齢者の交通事故分 析』プロジェクト」で使用された(財)交通事故総合分析センターからのデータを基に筆者算出

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- 5 - な お,70歳 以上の 高齢者 の運 転免許 保有者 数に占 める交通事故件数の割合は,運転免許 保 有者数 及び交 通事故 件数の 双方が増加していることから,第1当 事者及び第2当 事者と も にほぼ横ばい状態で 推移している(図5). 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 平 成6 年 平 成8 年 平 成 1 0 年平 成 1 2 年平 成 1 4 年平 成 1 6 年平 成 1 8 年平 成 2 0 年 平 成 2 2 年 (%) 第 1 当 事 者 ( 7 0 歳 以 上 ) 第 2 当 事 者 ( 7 0 歳 以 上 ) 第 1 当 事 者 ( 全 年 齢 ) 第 2 当 事 者 ( 全 年 齢 ) 図5 運転免 許保有 者数に占 める交通事故(原 付以上)件 数の割 合の推移 12 2.2 一連一連 の一連一連ののの 道交法道交法 改正道交法道交法改正改正改正 のののの 概要概要概要概要 本 節では,高齢運 転者の 交通 安全政 策とし て行わ れた道 交法の 改正の 概要を示す.な お, 本 稿にお ける分 析の対象ではないが,平成13年 より後の 法改正 につい ても併 せてその概要 を 示す. ① ①① ① 平成平成平成平成9年年年年 法改正法改正法改正法改正(法律第法律第法律第法律第41号 号号号 平成平成平成平成9年年年年5月月月月1日公布日公布日公布日公布/平成平成平成平成9年年年年10月月月月30日日 施行日日施行施行施行) 免 許の更 新期間満了日 に75歳以 上の者 は,期間満了日前2月 以内に 第108条の2第1項 第12号 13 に掲げる公 安委員会 が行う高齢者講習を受けなければ,免許証の更新ができなく な った(第101条 の4). また ,大型 自動車免許又 は普通自動車免許を受けた者で75歳以上 の 者 は , 老 齢に伴 って 生 じる身体の機能の低下が自動車の運転に影響を及 ぼ すおそれがあ る と き は , 普 通自 動 車 の 前面 及び後 面 に「高齢運転者標識」を表示して運転するように努 め なけれ ばなら ないこ ととな った(第71条 の5第2項).「 高齢運 転者標 識 」を表 示し ている 普 通自動 車に対 する幅寄せや,前方への割り込みは禁止 され, 当該行 為に対して 5 万円以 下 の罰金 が科されることとなった(第71条 第5号 の4). ② ②② ② 平成平成平成平成13年年年年 法改正法改正法改正法改正(法律第法律第法律第法律第51号号号号 平成平成平成平成13年年年年6月月月月20日公布日公布日公布日公布/平成平成平成平成14年年年年6月月月月1日施行日施行日施行日施行) 免 許更新 時に「 高齢者 講習」 を受け る必要 がある 者が75歳以 上か ら70歳以上に 拡大さ れ た(第101条の4 及び第108条の2第1項第12号).ま た,「 高齢運 転者標 識」の表 示の努 力 義務の 対象者 も同様 に75歳以 上から70歳以上 に拡大 された(第71条の5第2項). 12 出所:警察庁交通局『運転免許統計 』,日本交通政策研究会「平成23年度共同研究『地域特性に着目 した高齢者の交通事故分析』プロジェクト」で使用された(財)交通事故総合分析センターからのデータ を基に筆者算出 13 文書中の条文は法改正当時のもの(以下,同様 ).

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- 6 - ③ ③③ ③ 平成平成平成平成19年年年年 法改正法改正法改正法改正(法律第法律第法律第法律第90号 号号号 平成平成平成平成19年年年年6月月月月20日 公布日日日公布公布公布/平成平成平成平成20年年年年6月月月月1日日日日 及及 び及及びびび 平成平成平成平成21 年 年年 年6月月月月1日日日日 施行施行施行施行 14 ) 免 許の更 新期間満了日 に75歳以 上の者 は,更新 期間満了日前6月以 内に認 知機能 検査を 受 けなけ ればな らず, 検査結 果に基 づいて 高齢者 講習を 受ける ことと なった(第101条の4 第2項).また ,75歳以 上の 者は ,「高 齢運転 者標識」 の表示 が義務 となり 違反者には罰則 が 科されることとなった.ただし,70 歳以 上 75 歳未満 の者については,これまでどおり 努 力義務 のまま とされ た(第71条の5第2項 及び第121条第1項第9号の3). ④ ④④ ④ 平成平成平成平成21年年年年 法改正法改正法改正法改正(法律第法律第法律第法律第21号号号号 平成平成平成平成21年年年年4月月月月24日日日日/平成平成平成平成21年年年年4月月月月24日施行日施行日施行日施行) 平 成19年法 改正に よる75歳 以上の 者に対 する「 高齢運 転者標 識」の 表示義 務は(平 成20 年 6月 1日施行),「 高齢運転 者標識 」の普 及状況 や交通 事故の 状況等 の推移 を見守 ること と なり 15 , 当分の 間,適 用されないこととなった(附則第22条). 2.3 「 高齢運転者標識「「「高齢運転者標識高齢運転者標識 」高齢運転者標識」」 及」及及及 びびびび 「「 高齢者講習「「高齢者講習高齢者講習 」高齢者講習」」 の」ののの 制度制度制度 概要制度概要概要概要 「高 齢運転 者標識 」導 入の 目的は ,「周囲 の運転 者に 対して 標識を 表示し た自動 車に対す る 幅寄 せ,割込みを 禁止 し,高齢運転者を保護すること」であり, 当該 行 為 に対しては罰 金 が科せられることとなる.しかし,「高齢 運転 者標識 」と 同様に車両に表示する標識であ る「 初心運転者標識」は,表 示義務 違反に対し罰則 (道 交法第71条の5第2項)や 行政処 分 (違反 点数1点)が設 けられているが,「高 齢運転 者標識」は,平成21年法改 正時点 で努力 義 務 の ま ま で あ る. ま た , 標識 の 表 示 は , 普通 自 動 車 を運 転 す る 際 の 努力 義 務 で あり , 大型 バスや中型自動車以上のトラ ック等については表示の対象に入っていない. 「高 齢者講 習」導 入の目的 は,「自 動車等 の運転 や器材による検査を通じて,加齢に伴 う 身 体 機 能 の 低 下と そ の 運 転へ の影響を受講者一人 ひ とりに自 覚 してもらい, 個々の特性に 応 じ た 安 全 運 転の 方 法を 個別 ・具 体的に 指導することにより,高齢者による交通事故の防 止 を図ること」であ る.あく まで ,高齢 運転者 に対する 交通安 全教育 が主たる目的であり, 講 習の結 果に応 じ,免許証の 更新を 行わな いとい うこと は想定されていない.平成19年法 改 正の施 行時点(平成21年6月1日)の運 転免許 更新に係 る高齢者講習の仕組 み及び 各講習 の 内容は図6及 び表7のとお りであ る. 14 「認知機能検査 」に係る改正は平成21年6月1日施行,「高齢運転者標識 」に係る改正は平成20年6 月1日施行. 15 平成20年5月20日付警察庁丙交企発第59号,丙交指発第23号,丙規発第15号,丙運発第14号警 察庁交通局長「道路交通法の一部を改正する法律の一部の施行等に伴う交通警察の運営について」中「第 3高齢運転者対策等の推進を図るために規定整備」の項参照.

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- 7 - 高齢者講習 次の①~④いずれかの講習を受講 ①高齢者講習 ②特定任意高齢者講習 (シニア運転者講習) ③運転免許取得者講習3号課程 ④チャレンジ講習 +特定任意高齢者講習 (簡易講習) 免 許証の更新期間満了日に70~74歳の者 免許証の更新期間満了日に75歳以上の者 高 齢 者 講 習 の 通 知( 誕 生 日 の 5 か 月 前 ) 運 転 免 許 証 の 更 新 講 習予備 検査(認知機能検査) 高齢者講習 次の①~④いずれかの講習を受講 ただし、④については講習予備検査で 「記憶力・判断力に心配がない」とされ た者に限る ①高齢者講習 ②特定任意高齢者講習 (シニア運転者講習) ③運転免許取得者講習3号課程 ④チャレンジ講習 +特定任意高齢者講習 (簡易講習) 図6 高齢運 転者の 免許証更 新手続き 16 表7 高齢者 講習等 の概要 16 名 称 (根拠 法令) 目 的 内 容 講 習予備 検査(認知 機能検査) (道交 法第101条の4第2項) 記 憶 力 や 判 断 力 の 状 況 を 理 解 し てもら うもの . 時 間の見 当識, 手がかり再生 , 統計描画 の3つの検 査項目の結 果 に応じ「記憶力・判断力が低 く なって いる 」,「記憶力・判断 力 が少し 低くな ってい る」,「 記 憶 力・判断力に心配 がない」に 判 定され る. 高 齢者講 習 (道交 法第108条の2第1項第 12号) 加 齢 に 伴 い 生 じ る 運 転 者 の 身 体 機 能 の 低 下 が 自 動 車 等 の 運 転 に 影 響 を 及 ぼ す 可 能 性 を 理 解 してもらうもの. 座 学講習(安 全運転 の知識等,デ ィ ス カ ッ シ ョ ン), 実 技 講 習(運 転 適性の 診断・指導,運転行動 の 診断・指導). 特 定 任 意 高 齢 者 講 習(シ ニ ア 運 転者講 習) (運 転 免 許 に 係 る 講 習 等 に 関 す る 規則(平 成 6 年 国 家公 安 委員会規則第4号)第2条第1 項 第1号の 表の区 分欄の 二の 項 及び同項第2号 の表の 区分 欄 の二の 項) 運 転 者 と し て の 資 質 の 向 上 そ の 他 自 動 車 等 の 運 転 に つ い て 必 要 な 適 性 並 び に 道 路 交 通 の 実 態 に つ い て 理 解 し て も ら う も の. 座 学講習(安 全運転 の知識等,デ ィ ス カ ッ シ ョ ン), 実 技 講 習(運 転 適性の 診断・指導,運転行動 の 診断・指導). 16 警視庁HP『70歳から74歳までの方が運転免許証を更新する際の講習(平成21年6月1日施行)』 (http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/menkyo/kousin/kousin05.htm) 及び『75歳以上の方が運転免許証を更新する際の検査・講習(平成21年6月1日施行)』 (http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/menkyo/kousin/kousin05_2.htm)を 基に筆者作成.

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- 8 - 運 転免許 取得者講習3号 課程 (道交 法第108条の32の2第 1 項 ,運転免許取 得者教育の 認 定に関 する規則(平成21年 国 家 公 安 委員 会規則 第 4 号) 第1条第3号) 運 転 技 能 を 向 上 さ せ る と と も に 道 路 交 通 に 関 す る 知 識 を 深 め て も ら う も の .(高 齢 者講 習 と 同等の効果を有する講習) 座 学講習(安 全運転 の知識等,デ ィ ス カ ッ シ ョ ン), 実 技 講 習(運 転 適性の 診断・指導,運転行動 の 診断・指導). チャレンジ講習 (道交 法第108条の2第2項) 加 齢 に 伴 い 生 じ る 身 体 機 能 の 低 下 が 運 転 に 著 し い 影 響 を 及 ぼ し て い な い か 確 認 す る も の . 教 習 所 コ ー ス 内 で 普 通 自 動 車 を 使用して走行 評価を行う.評 価 点 が 基 準 点 に 達 し な か っ た 場 合は,再度 チャレンジ講習を 受 講する か,ほかの講習を受講 す ること となる . 特定任意高齢者講習(簡易講習) (運 転 免 許 に 係 る 講 習 等 に 関 す る規則 第2条 第1項 第1号 の 表 の 区 分 欄 の 一 の 項 及 び 同項第2号 の表の 区分欄 の一 の 項) チ ャ レ ン ジ 講 習 で 確 認 を 受 け た 者が受 講 座 学講習,運転 適性検査 3. 「「「「 高齢運転者標識高齢運転者標識高齢運転者標識高齢運転者標識 」」 及」」及及 び及びび 「び「「 高齢者講習「高齢者講習 」高齢者講習高齢者講習」」」 のののの 効果効果効果効果 にに 関にに関関関 するするするする 理論分析理論分析理論分析 理論分析 本 章 では,高齢運転者に対する交通安全政策である「高齢運転者標識」及び「高齢者講 習 」が ,「 市場の失敗 」をどのように解消し,高齢運転者の交通事故件数を減少させるのか 理 論的に明らかにする. 経済学において,政府が市場に介 入することが 肯定されるのは,「市場の失 敗」が存 在し て いる場 合に限られている 17 .本分 析に関わる「市場 の失敗 」と して次の2つ が考えら れる. ひ とつは,どのような運転技術を有する者が自動車運転を行っているのか周囲の運転者や 歩 行者が分からないという「 情報 の 非 対 称」である.いま ひ とつは,交通事故が発 生 した 場 合,事故の当 事者以 外の第 3 者 の生命 や財産 が損なわれるほ か,渋滞や交通取締 りの費 用 等社会 が負担 するコスト 18 が 発生するという「負 の外部 性」で ある.この ような状 況に対 し て 政 府 は , 自動 車 運 転 によ り 社会 が 負担する コストも 含 めた運転技術の 水準 を設 定し, そ の 水準 以上の技術を有する者にのみ運転を認める免許制度を導入している.このことに よ り,「情報の非 対称」を解 消する スクリ ーニン グが行われ,理論上,社会には一定水準 以 上 の 運 転 技 術 を有 す る 運 転者 し か 存 在せず,周囲の運転者や 歩 行者が安 心 して 生活 できる 環境が維持されていると考えてよい.また,免許取得後であっても,運転技術が未熟な免許 取得直後は「初心運転者標識」の表示を義務付け,さらに,免許の停止や取消しにより危険 運転者を交通社会から排除するなど「市場の失敗」の解消を図る諸制度が存在している. 3.1 「「 高齢運転者標識「「高齢運転者標識高齢運転者標識 」高齢運転者標識」」」 のののの 効果効果 に効果効果にに 関に関関関 するするする 理論分析する理論分析理論分析 理論分析 前章 2.3 節 のとおり,政策の目的は,周囲の運転者に対して「高齢運転者標識」を表示 し て い る 高 齢 運転 者 に 対 して 保 護 義 務 を 課し , 高 齢 運転 者 が 他 の運転者の 危険 な運転によ り 交 通 事 故 に 巻き込まれることを 予防 することである.つまり,運転者は安全運転により 得 られる 便益及び安全運転に要する 費用を 負っており,そ れぞれ限界便益曲線(MB1)と限界 17 N.グレゴリー・マンキュー (2005)16,209,660頁参照. 18 交通事故による損失に係る分析は,交通安全プロジェクト (2004)に詳しい .

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- 9 - 費 用曲線 19 (MC1)と し て表すこ とがで きる.MB1とMC1の 交点A の左 側に 位置 する運転者 は , 安 全 運 転 によ る 便益 が費 用を上回るため安全運転を行うが, 右 側に 位 置 する者は安全 運 転に要 する費 用が便益を上回るため危険 運転に 陥る(図8). p  MB1: 安 全 運 転 の 限 界 便 益 曲 線 A MC 1: 安 全 運 転 の 限 界 費 用 曲 線 0 X1 q 安 全 運 転 量 安全運転 危険運転 限 界 便 益 ・ 限 界 費 用 図8 運転者 の安全 運転に対 する限界便益 曲線・ 限界費 用曲線 「 高 齢 運 転 者 標 識」 の 表 示に よ り , 高 齢 運 転者 に 対 する 「 情報 の 非 対 称」が 解 消され周 囲 の 運 転 者 は 高齢 者 が 運 転し て い る 普 通 自動 車 を 容易に見分けることができ,安全運転に 要 するコストを低下させることができる.このことにより,限界 費用曲線はMC1か らMC2 に 下 方シフトし, 他の 条 件を一定とすれば,限界 便益曲線(MB1)と 限界費 用 曲線(MC2)の均 衡 点はBとなり ,安全 運転を 行う運 転者数 は,X1からX2に 増加す る(図9).この とき危険 運 転 か ら 発 生 する事故の 確率を一定とすれば 危険 運転の減少に 伴 い,高齢運転者が 被害者 と なる交 通事故 件数が 減少す ること になる . p  MB1 A MC 1 B MC2 0 X1 X2 q 安 全 運 転 量   安全運転 危険運転 限 界 便 益 ・ 限 界 費 用 図9 「高齢 運転者 標識」が 安全運 転量に与える影響 19 限界費用は運転量に関わらず一定であると仮定する.以下の分析においても同様とする.

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- 10 - 3.2 「「 高齢者講習「「高齢者講習高齢者講習 」高齢者講習」」」 のののの 効果効果 に効果効果ににに 関関関関 するするする 理論分析する理論分析理論分析理論分析 前章 2.3 節 のとおり,政策の目的は,高齢運転者に対して加齢による運転技術の低下を 認 識 さ せ , 安 全運 転 教 育 を通 し て 技 術 の 低下 を補 う安全運転を促すものであり,効果は, 高 齢 運 転 者 の操作ミ ス や判断 ミ ス が原 因 で発 生 する交通事故の減少となってあらわれる. つ ま り , 高 齢 運転 者 は 運 転に よ り 得 られる便益 及び運転に要する 費 用を 負 っており,それ ぞ れ限界 便益曲線(MB2)と限界費用 曲線(MC3)として表 すこと ができ る.MB2とMC3の 交点 C の左 側に 位置 する高齢運転者は,運転による 便益が費 用を上回るため運転を続けるが, 右 側に位 置する者は運転に要する費 用が便益を上回るため運転を回避 する(図10). p  MB2: 高 齢 者 が 運 転 か ら 得 る 限 界 便 益 曲 線 C 0 X 3 q 運 転 量  運転する     運転しな い 限 界 便 益 ・ 限 界 費 用 MC3: 高 齢 者 が 運 転 に 要 す る 限 界 費 用 曲 線(私的費用) 図10 高 齢運転 者の運 転に対 する限界便益 曲線・ 限界費 用曲線 「 高 齢 者 講 習 」 によ り , 高齢 運 転 者 は 運 転 に要 す る コスト として自身が設 定している 水 準(私 的費用)が,本来社会的に必要な水準(社会的費用)よ り低い ことを 認識させ られる .こ う して,限界費用 曲線はMC3か らMC4に 上方シフトし,自身の 運転に より社会的に発生 す る コスト(「負 の外部 性」)を 内部化できる.したがって,他の条 件を一定とすれば,限界便 益 曲線(MB2)と限界 費用曲線(MC4)の均衡点はDと なり ,高齢 運転者 の運転量はX3からX4 に 減少す る(図11).こ のとき,高齢運転者の運転から発生する交通事故の確率が一定とすれ ば高齢運転者の運転量の減少に伴い,高齢者の運転が原因となる交通事故件数が減少する. p  MB2 D MC4( 社 会 的 費 用 ) C MC3 0 X4 X3 q 運 転 量 運転する   運転しな い 限 界 便 益 ・ 限 界 費 用 図11 「高 齢者講 習」が 高齢 者の運 転量に与える影響

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- 11 - 4. 「「「「 高齢運転者標識高齢運転者標識高齢運転者標識 」高齢運転者標識」 及」」及及及 びびびび 「「「「 高齢者講習高齢者講習 」高齢者講習高齢者講習」」 の」のの 効果の効果効果 に効果に 関にに関関 する関するするする 実証分析実証分析実証分析実証分析 本 章 では,道交法の改正により導入された「高齢運転者標識」及び「高齢者講習」が, 前章 の 理 論どおり高齢運転者の交通事故件数の減少に繋 がったかどうかを実証分析 により 明 ら か に す る . まず , 分 析に用いるデータを説 明し,次 に, 推 定の 方 法の 概 要を示す.そ し て,政 策の効 果を捉 えるために用いる推 定モデルを示す. 4.1 データデータ のデータデータののの 説明説明説明説明 分 析には平成6年から 平成20年まで の都道 府県パ ネルデ ータを 用い,高 齢運転 者の 交通 事 故 件 数 を 被説明 変 数とし,交通事故に影響があると考える要 因 を 説明 変 数とする.本節 で は,変 数として用いた各データの特徴及び出典 等を示す. (1)被説明変数被説明変数被説明変数被説明変数 被説明変 数には,「高齢 運転 者標識 」及 び「高 齢者講習 」の 効果を 計測するため事故の当 事 者及び 事故類型に着 目した4種類 のデータを用いた.各 都道府県の交通事故件数(第1当 事 者),交 通事故 件数(第2当事者),追突事故件数 20 (第2当事者)及び単独事故件数を集 計し, さ らに, 3つ の年齢 階層別(65~69歳,70~74歳,75歳 以上)に集 計した.なお,交通事故 件 数(第1当 事者)及 び交通事 故件数(第2当事者)は原付 以上の 交通事 故件数 を,追突事故件 数(第 2 当 事者)及び単独事故件数は政策の対象である軽 自動車及び普通自動車の交通事故 件 数を集 計した.データは,日本交通政策研究 会「平成23年度共 同研究『地 域特性に着 目 し た高齢 者の交 通事故 分析』プロ ジェクト 」で使 用された(財)交通 事故総 合分析センターか ら のデー タを使 用し, 筆者がそれを本稿の 趣旨に合うよう編成した. (2)説明変数説明変数説明変数説明変数 説 明 変 数には,交通事故に影響があると考える要 因 として都道府県の特性を表す以下の デ ータを 用いた . 人 口の増減に伴 う交通事故の発生件数を表す指標として人口(千人)の対数値を用いた.人 口 が増加するに 伴い交通事故に 遭遇 する可能性が高くなると考えられるため, 予想 される 符 号は正である.データは, 総務省 統計局 『人口推計年 報』を 利用した. 道路交 通環境 の混雑 度に伴 う交通事故の発生件数を表す指標として可住地面積1 平 方キ ロメ ー ト ル 当 たりの人 口 密度の対数 値 を用いた.人 口密 度が高くなるに 伴 い 居住地 域 にお け る 道 路 の混雑が増加し,交通事故が発 生する可能性も高くなると考えられるため, 予想 さ れる符 号は正である.可住 地面積 のデータは,総務省 統計局『社会生活統計指標 - 都道 府 県 の 指 標 - 』及び国 土 地理 院『全国都道府県 市区 町村 別 面 積 調』を利 用し,これを人口 で 割るこ とによ り算出 した. 自 動 車 に 対 す る 必要 性 を 表す 指 標として人 口千人 当 たりの自動車保有 台数の対数値 を用 い た . 自 動 車 保有台 数が増加するに 伴 い,人 々 の自動車に対する 依 存度が高くなり交通事 故 が 発 生 する可能性も高くなると考えられるため, 予想 される 符 号は正である.自動車保 有台 数のデータは,自動車検査 登録 情報 協会 『自動車保有 台 数 統計 データ』 中 「都道府県 別 ・車種別自動車保有 台数表」を利 用し,これを人口で割ることにより算出 した. 高 齢 運 転 者 の運 転 機 会 の増減に 伴 う交通事故の発 生件数を表す 指 標として人 口千人 当た り の年齢 階層別(65~69歳,70~74歳,75歳 以上)運転 免許保 有者数 の対数値を用いた.本 20 追突事故件数には,進行中に発生した事故及び駐・停車中に発生した事故の件数が含まれている.

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- 12 - 来 ならば,高齢運転者の交通事故発 生確 率を コント ロールする 説 明 変数としては高齢運転 者 の 走 行 距離 や走 行時 間 を用いることが 望ましいと考える.しかし,これらのデータを入 手 することが 困難 であるため, 代替 するデータとして運転免許保有者数を用いた.また, 運 転免許 保有者 の中には,ペ ーパー ドライバーが 存在していることが 想定されるが,現在, ペ ーパー ド ラ イバ ーに関する正 確 な調査は行われていないため,運転免許保有者を運転者 と みなし て推定を行う 21 も のと した .高齢 者の運 転機会が 多いほ ど運転技術が低下した高齢 運 転 者 が 多 く 存在する可能性が高いことから,交通事故が発 生 する可能性が高くなると考 え ら れ る た め ,予想 される符 号は正である.運転免許保有者数のデータは, 警 察庁 に対す る開示請求及び 警察庁 交通局 『運転免許統計』補足資料2 の 「年齢 別・種 類別運転免許保 有 者 数(都 道 府 県 別 ・ 計)」 を 利 用 し, これ を人 口 で 割る こと によ り 算 出 し た. なお ,平 成 12年以前 については都道府県別データが取 得できなかったため,平成13年 から平 成20年 ま で の デ ー タ より 年 齢 階層別の都道府県別構 成比の平均値 を 算 出 し,これを用いて年齢階 層 別の全国データを按 分することにより都道府県別の運転免許保有者数を推計した. 安 全 に 対 す る意 識 の 高 低に 伴 う交通事故の発 生 件数を表す 指 標として自動車保有 台 数 1 台 当 たりの交通違反 取 締 件数の対数 値 を用いた.交通違反 取 締 件数が多 い ほ ど安全運転に 対 す る 意 識 が 低く , 交 通 事故 が 発 生 する可能性が高くなると考えられるため, 予想 される 符 号は正である.交通違反取 締件数のデータは,(財)交 通事故 総合分 析セン ター『交 通事故 統計年報』中「都道府県(方面)別 道路交 通法違反取締件数の推移」を利 用し,これを自動車 保 有台数で割ることにより算 出した. 道路の 整備状況の変 化に伴 う交通事故の発生件数を表す指標として自動車保有台 数1 台 当 たりの 舗装道路延長(メー トル)の対 数値を用いた.舗装された道路では運転の安全性が 向 上 し交通 事故が 発生する可能性が低くなると考えられるため,予想される符号は負 である. 舗装 道路 延長 のデータは,国 土 交通 省 道路局 『道路 統計 年 報 』 中 「道路種 類 別 整備 状況」 を 利用し,自動車保有 台数で割ることにより算出 した. 公共交通の発 達度に 伴う交通事故の発生 件数を表す指 標として可住 地面積1 平方 キロメ ー ト ル 当 た り の 鉄 道 の 駅 数 を 用 い た . 公 共 交 通 が 発 達 し て い る ほ ど 自 動 車 を 利 用 す る 機 会・ 頻 度が少なくなり,交通事故が発 生 する可能性が低くなると考えられるため, 予想さ れ る符 号は 負である. 駅数のデータは,(財)運輸政策研究機 構『 地域 交通年 報』を 利用し, こ れを可住地面 積で割ることにより 算出した. 交 通 事 故 に よ り 失わ れ る 期待 利得 の 多 寡 に 伴う交通事故の発 生 件数を表す 指 標として 1 人 当たりの県民 所得(千円)の 対数値 を用いた.所得が多 いほど交通事故により失われる期 待 利得 が大きくなるため,安全運転に対するインセン ティ ブ が高くなり,交通事故が発 生す る 可能性 が低く なると 考えら れるた め,予想 される 符号は負である.デ ータは ,内 閣府『県 民 経済計 算年報 』から「県民一人あたり所得」を 利用した. 経 済 活 動 の 活 発さ に 伴 う交通 事 故の 発 生 件数 を表 す 指 標 と して 製造 品 出 荷額(百 万 円)の 対 数値 を用いた. 出 荷額 が多 い ほ ど 経済活動が 活 発であり,それに 伴い自動車の往来 も盛 ん になることから交通事故が発 生 する可能性が高くなると考えられるため, 予想される符 号 は正で ある.デー タは,経済産業省『工業統計調査』中「都道府県別製造品出荷額等(従 21 交通安全プロジェクト (2007)57頁参照.

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- 13 - 業 員4以 上の事業所)」を利 用した. 4.2 推定推定 の推定推定ののの 方法方法方法方法 ま ず,「高 齢運転 者標識 」及 び「 高齢者 講習 」が ,政策 全体と して高 齢運転 者が加 害者又 は 被害者となる交通事故件数に与えた影響について分析 する.次に,「 高齢 運転者 標識 」及 び 「 高 齢 者 講 習」 が , そ れぞ れ 個 別の政策として交通事故件数に与えた影響について分析 す る . し か し ,分 析 にあたっては,政策の導入時 期 が同 一であることや事故車 両に関する 「 高 齢 運 転 者 標識 」 の 表 示の 有 無 に関するデータが入手 できないなど制約が 存 在する.そ こ で , 本 稿 の 実証 分 析 においては,それ ぞれの政策の効果を 強 く受ける事故の 当事者及び 事 故 類型 に 着 目した 被説 明変 数を用いることで 個々 の政策の効果を 捉えることとする.ま た ,各 分析においては,平成9年及 び平成13年の一連 の法改正全体が交通事故件数に与え た 平均的な影響や,平成9年 の政策 導入時 の影響 及び平 成13年の 対象年 齢拡大時 の影響 に つ いても 明らか にする . 交 通事 故件 数に 関す る実 証分 析については,斉藤 (2004)に指 摘されるように交通事故の 要 因 と考えられる 説 明 変 数を全て取り入れることがデータ制約上 困難である以上, 確 定値 に はバイアスが発生する可能性がある.その ため ,本稿の 実証分 析における推 定モデルは,

Difference-in-differences estimator(以 下「DID 推定量 」という)を用 い,政 策の影響 を受け て

い ないグ ループ の交通 事故件 数の推移との比較を行うこととする.なお,DID 推定 量を用 い る こ と で 政 策以 外 の交通事故の要 因 は全て 同 一と 仮定され,政策の対象となった高齢運 転 者 が 受 け た 影響 を 分 析 することが可能となる.また,政策導入時及び対象年齢拡大時の 前 後における高齢運転者の変 化を見るために,トリ ート メント グループは,75歳以 上の高 齢 運転者 及び70~74歳 の高齢 運転者の2つと し,コント ロールグループは,政策の対象外 の65~69歳の 高齢運 転者とす る. 4.3 政策全体政策全体 の政策全体政策全体ののの 効果効果効果効果 をを 捉をを捉捉捉 えるえるえるえる モデルモデルモデルモデル 政 策 全 体 の 効 果 を捉 えるため,高齢運転者が加 害 者となる交通事故件数に政策が与えた 影 響を推 定する.モデル(a)で は,平成9年及 び平成13年の 一連の法改正全体が交通事故件 数 に与 えた 平均 的な影響を, モデル(b)では, 政策 導入時 及び 対象 年齢 拡大 時の法改 正が そ れ ぞれ交通事故件数に与えた影響を分析する.

(a)交通 事故件 数(第1当 事者)it11(TIME)it2(AGE)it3(POLICY)it4Xit1it

(b)交通事 故件数(第1当事者)it25(TIME)it6(AGE)it7(POLICY09*TARGET09)it

+β8(POLICY13*TARGET13) it +β9Xit+ε2it 被説明変 数は,年齢 階層別(65~69歳 ,70~74歳 ,75歳 以上)に集 計した交通事故件数(第 1当事者)を用い る. POLICYは 法 改正 ダミーであり,一 連の法改正全体の平 均的な影響を表す.平成10年以 降 で75歳以 上また は,平成14年以降 で70歳以 上であ れば1を,それ以 外の期間 及び年齢 階層について0をとる . POLICY09は 平成9年法 改正 ダミーであり,政策導入時の前後を表す.平成10年 以降に

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- 14 - つ いて1を,そ れ以 外の期間 について0を とる .POLICY13は 平成13年 法改正 ダミ ーであ り ,対 象年齢 拡大時 の前後を表す.平成14年以降 につ いて1を,それ以 外の期間 について 0をと る. ま た,TARGET09は平 成9年 対象ダ ミーであり,政 策導 入時か らの対 象であ る75歳以 上 の 高齢運 転者を 表す. 平成 9 年以 降 で 75歳以上 であ れば 1, そうで なけれ ば 0 を とる. TARGET13は平成13年対象 ダミーであり,平成13年 法改正 で新た に対象 となっ た70~74 歳 の高齢 運転者 を表す .平成14年以降 で70~74歳であ れば1,そう でなけ れば0をと る. そ して,POLICY09*TARGET09及び POLICY13*TARGET13 はそれ ぞれ政策導入時及び対 象 年齢拡 大時の 法改正 の影響 を表す 交差項 である.なお ,改 正法の 施行は 平成9年10月及 び 平成13年6月で あること から,本来ならば平成9年11月及び 平成13年7月以 降につ い て1とす べきで あるが ,デー タが年単位であることから施行年の翌年以降を1とし た. Xは,交通事 故に影 響がある と考え る要因 を表す 変数である.各 都道府県における人口, 可住 面 積 当 たりの人 口 密 度,人 口 千人 当 たりの自動車保有 台 数,人 口千人 当 たりの運転免 許 保有者 数,1 台当 たりの交通違反 取締件数,1 台当たりの舗装道路 延長, 1 人 当たりの 県 民 所 得 , 製 造 品 出 荷 額 の 対 数 値 及 び 可 住 面 積 当 た り の 駅 数 を 用 い た . そ の ほ か ,TIME は 年次ダ ミーであり,年 次ご との異 なる要 因をコントロールする.AGEは 年 齢ダミ ーであ り ,年齢 階層(65~69歳,70~74歳,75歳 以上)ごとの 個体差 をコントロールする. αは 定 数項,βはパラメーター,εは誤差項 ,iは都 道府 県,tは 年次を表す. こ れらの変数の基本統計量は表12のと おりで ある. 表12 基 本統計 量

  Obs Mean Std.Dev. Min Max

交 通 事 故 件 数 ( 第1当 事 者 ) 2115 531.012 498.154 15.000 3729.000 法 改 正 ダ ミ ー 2115 0.400 0.490 0.000 1.000 平 成9年 法 改 正 ダ ミ ー 2115 0.733 0.442 0.000 1.000 平 成13年 法 改 正 ダ ミ ー 2115 0.422 0.494 0.000 1.000 平 成9年 対 象 ダ ミ ー 2115 0.333 0.472 0.000 1.000 平 成13年 対 象 ダ ミ ー 2115 0.667 0.472 0.000 1.000 ln( 人 口 ) 2115 7.593 0.734 6.389 9.460 ln( 可 住 地 面 積 当 た り の 人 口 密 度 ) 2115 6.929 0.701 5.471 9.166 ln( 人 口 千 人 当 た り の 自 動 車 保 有 台 数 ) 2115 6.466 0.170 5.880 6.758 ln( 人 口 千 人 当 た り の 運 転 免 許 保 有 者 数 ) 2115 -1.102 0.550 -2.711 -0.194 ln(1台 当 た り の 交 通 違 反 取 締 件 数 ) 2115 -2.354 0.337 -3.133 -1.130 ln(1台 当 た り の 舗 装 道 路 延 長 ) 2115 1.434 0.285 0.622 2.250 可 住 地 面 積 当 た り の 駅 数 2115 0.107 0.090 0.000 0.580 ln(1人 当 た り の 県 民 所 得 ) 2115 7.926 0.141 7.604 8.449 ln( 製 造 品 出 荷 額 ) 2115 15.228 0.956 13.144 17.676 ( 注 ) 年 齢 ダ ミ ー 及 び 年 次 ダ ミ ー に つ い て は 省 略 し た . 次 に,高齢運転者が 被害 者となる交通事故件数に政策が与えた影響を 推定する.モ デル (c)では,平 成9年 及び平 成13年の一 連の法改正全体が交通事故件数に与えた平均的な影響 を ,モ デル(d)では ,政 策導入 時及 び対 象年 齢拡 大時の法 改正 がそ れぞ れ交通事故件数に与 え た影響 を分析 する.

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(c)交通 事故件 数(第2当 事者)it310(TIME)it11(AGE)it12(POLICY)it13Xit3it

(d)交通事 故件数(第2当事者)it414(TIME)it15(AGE)it16(POLICY09*TARGET09)it

+β17(POLICY13*TARGET13)it +β18Xit+ε4it 被説明変 数は,年齢 階層別(65~69歳 ,70~74歳 ,75歳 以上)に集 計した交通事故件数(第 2当事者)を用い る.説 明変数は,モ デル(a),(b)と 同じものを用いる. こ れらの変数の基本統計量は表13のと おりで ある. 表13 基 本統計 量

  Obs Mean Std.Dev. Min Max

交 通 事 故 件 数 ( 第2当 事 者 ) 2115 252.170 229.682 7.000 1495.000 (注1)そ の ほ か の 変 数 は 表12と 同 様 で あ る . (注2)年 齢 ダ ミ ー 及 び 年 次 ダ ミ ー に つ い て は 省 略 し た. 4.4 「「 高齢運転者標識「「高齢運転者標識高齢運転者標識 」高齢運転者標識」」」 のののの 効果効果 を効果効果をを 捉を捉捉捉 えるえるえる モデルえるモデルモデルモデル 「 高 齢 運 転 者 標 識」 の 効 果が 特徴 的に表れると考える高齢運転者が 被害者となる追突 事 故 22 件 数に 政策が 与えた 影響を 推定する.モデル(e)で は,平成9年及 び平成13年の 一連の 法 改 正 全 体 が追突事故件数に与えた平 均 的な影響を,モ デル(f)で は , 政 策 導 入 時及 び 対象 年 齢拡大 時の法 改正が それぞ れ追突 事故件数に与えた影響を分 析する.

(e)追突 事故件数(第2当 事者)it519(TIME)it20(AGE)it21(POLICY)it22Xit5it

(f)追突事故件数(第2当事者)it623(TIME)it24(AGE)it25(POLICY09*TARGET09)it

+β26(POLICY13*TARGET13)it +β27Xit+ε6it 被説明変 数は,年齢 階層別(65~69歳 ,70~74歳 ,75歳 以上)に集 計した 追突事故件数(第 2当事者)を用い る.説 明変数は,モ デル(a),(b)と 同じものを用いる. こ れらの変数の基本統計量は表14のと おりで ある. 表14 基 本統計 量

  Obs Mean Std.Dev. Min Max

追 突 事 故 件 数 ( 第2当 事 者 ) 2115 69.557 84.097 0.000 568.000 (注1)そ の ほ か の 変 数 は 表12と 同 様 で あ る . (注2)年 齢 ダ ミ ー 及 び 年 次 ダ ミ ー に つ い て は 省 略 し た. 22 「高齢運転者標識」は車両の前方と後方に表示する必要があるが,特に後続車両の運転者は視線を動 かさずに容易に標識を認識できるものと考えられる.その結果,後続車両の運転者は標識表示車両に対 して車間距離をとる,追い越す等追突事故を予防する運転が可能となり,高齢運転者が被害者となる追 突事故は減少するものと考えられる.

(18)

- 16 - 4.5 「「 高齢者講習「「高齢者講習高齢者講習 」高齢者講習」」」 のののの 効果効果 を効果効果ををを 捉捉捉捉 えるえるえる モデルえるモデルモデルモデル 「 高齢者 講習 」の効 果が特徴 的に表れると考える高齢運転者の 単独事故 23 件数 に政策 が与 え た影響 を推定する.モデル(g)では ,平成9年 及び平成13年の一 連の法改正全体が単独 事 故 件数 に与 えた 平均 的な影響を, モデル(h)で は, 政策導 入時 及び 対象 年齢 拡大時の 法改 正 が それぞ れ単独 事故件数に与えた影響を分 析する.

(g)単独事故件数it728(TIME)it29(AGE)it30(POLICY)it31Xit7it

(h)単独事故件数it832(TIME)it33(AGE)it34(POLICY09*TARGET09)it

+β35(POLICY13*TARGET13)it +β36Xit+ε8it 被説明変 数は,年齢階層 別(65~69歳,70~74歳,75歳 以上)に集 計した 単独事故件数を 用 いる. 説明変 数は, モデル(a),(b)と同じものを用いる. こ れらの変数の基本統計量は表15のと おりで ある. 表15 基 本統計 量

  Obs Mean Std.Dev. Min Max

単 独 事 故 件 数 2115 14.478 12.792 1.000 77.000 (注1)そ の ほ か の 変 数 は 表12と 同 様 で あ る . (注2)年 齢 ダ ミ ー 及 び 年 次 ダ ミ ー に つ い て は 省 略 し た. 5. 「「「「 高齢運転者標識高齢運転者標識高齢運転者標識 」高齢運転者標識」」」 及及 び及及びびび 「「「「 高齢者講習高齢者講習高齢者講習高齢者講習 」」」 の」の 効果のの効果効果 に効果ににに 関関関 する関するするする 実証分析実証分析 の実証分析実証分析ののの 推推推推 定定定定 結果結果結果結果 本 章では,前章4.3節,4.4節 及び4.5節 で示したモデル(a)~(h)の推定結果を 順に示す. 5.1 政策全体 の政策全体政策全体政策全体ののの 効果効果効果 を効果ををを 捉捉捉捉 えるえる モデルえるえるモデルモデルモデル ののの 推の推推 定推定定 結果定結果結果結果 モ デル(a)~(d)の 推定結果を表16~表19に掲げ る. 表16 モ デル(a)の推定結果 被 説 明 変 数 : 説 明 変 数 標 準 誤 差 法 改 正 ダ ミ ー -4.797 24.183 ln( 人 口 ) 323.691 *** 30.634 ln( 可 住 地 面 積 当 た り の 人 口 密 度 ) 52.621 ** 25.974 ln( 人 口 千 人 当 た り の 自 動 車 保 有 台 数 ) 424.509 *** 122.092 ln( 人 口 千 人 当 た り の 運 転 免 許 保 有 者 数 ) 232.915 *** 63.818 ln( 1 台 当 た り の 交 通 違 反 取 締 件 数 ) 170.375 *** 33.021 ln( 1 台 当 た り の 舗 装 道 路 延 長 ) -107.183 *** 35.384 可 住 地 面 積 当 た り の 駅 数 -123.154 182.649 ln(1人 当 た り の 県 民 所 得 ) -636.100 *** 118.861 ln( 製 造 品 出 荷 額 ) 150.914 *** 24.643 定 数 項 -1470.692 1214.765 観 測 数 補 正 R 2 (注1)***,**,*は そ れ ぞ れ1%,5%,10%の 水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る こ と を 示 す . (注2 )年次ダミー及び年齢ダミーについては 省略した. 交 通 事 故 件 数 ( 第1当 事 者 ) 2115 0.613 係 数 23 「高齢者講習 」に,高齢運転者の運転技術の改善や,安全運転の促進に対する効果があるならば,運 転者自身の運転技術や注意・判断力に拠るところが大きい高齢運転者の単独事故は減少するものと考え られる.

(19)

- 17 - 表17 モ デル(b)の 推定結果 被 説 明 変 数 : 説 明 変 数 標 準 誤 差 平 成9年 法 改 正 ダ ミ ー*平 成9年 対 象 ダ ミ ー -33.181 33.453 平 成13年 法 改 正 ダ ミ ー*平 成13年 対 象 ダ ミ ー 38.370 27.198 ln( 人 口 ) 321.331 *** 30.605 ln( 可 住 地 面 積 当 た り の 人 口 密 度 ) 53.638 ** 26.049 ln( 人 口 千 人 当 た り の 自 動 車 保 有 台 数 ) 428.480 *** 122.673 ln( 人 口 千 人 当 た り の 運 転 免 許 保 有 者 数 ) 214.470 *** 66.248 ln( 1 台 当 た り の 交 通 違 反 取 締 件 数 ) 171.129 *** 33.006 ln( 1 台 当 た り の 舗 装 道 路 延 長 ) -108.469 *** 35.367 可 住 地 面 積 当 た り の 駅 数 -137.833 182.765 ln(1人 当 た り の 県 民 所 得 ) -632.288 *** 118.817 ln( 製 造 品 出 荷 額 ) 152.086 *** 24.630 定 数 項 -1547.173 1220.260 観 測 数 補 正 R 2 (注1)***,**,*は そ れ ぞ れ1%,5%,10%の 水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る こ と を 示 す . (注2 )年次ダミー及び年齢ダミーについては 省略した. 交 通 事 故 件 数 ( 第1当 事 者 ) 係 数 2115 0.613 一 連の法改正が,高齢運転者が加害 者となる交通事故件数に与える影響について分 析を 行 ったと ころ ,表16の とお り,法改正 ダミーの係数の 符号は 負であったが,統計 的に有意 で はなか った. また, それぞ れの法改正が,高齢運転者が加害 者となる交通事故件数に与 え る影響 につい て分析 を行ったとこ ろ,表17のとおり ,平成9年法 改正ダ ミー*平 成9年 対 象ダミ ーの係 数の符 号は負 であるが,統計的に有意ではなかった.平成13年法 改正ダ ミ ー*平 成13年対 象ダミ ーの係 数の符 号は正であるが,統計的に有意ではなかった. 表18 モ デル(c)の推定結果 被 説 明 変 数 : 説 明 変 数 標 準 誤 差 法 改 正 ダ ミ ー -25.413 ** 10.527 ln( 人 口 ) 111.777 *** 13.335 ln( 可 住 地 面 積 当 た り の 人 口 密 度 ) 39.491 *** 11.307 ln( 人 口 千 人 当 た り の 自 動 車 保 有 台 数 ) 211.160 *** 53.147 ln( 人 口 千 人 当 た り の 運 転 免 許 保 有 者 数 ) 123.095 *** 27.780 ln( 1 台 当 た り の 交 通 違 反 取 締 件 数 ) 94.070 *** 14.374 ln( 1 台 当 た り の 舗 装 道 路 延 長 ) -41.423 *** 15.403 可 住 地 面 積 当 た り の 駅 数 -60.406 79.508 ln(1人 当 た り の 県 民 所 得 ) -355.979 *** 51.741 ln( 製 造 品 出 荷 額 ) 86.792 *** 10.727 定 数 項 -259.356 528.793 観 測 数 補 正 R 2 (注1)***,**,*は そ れ ぞ れ1%,5%,10%の 水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る こ と を 示 す . (注2 )年次ダミー及び年齢ダミーについては 省略した. 交 通 事 故 件 数 ( 第2当 事 者 ) 係 数 2115 0.655

(20)

- 18 - 表19 モ デル(d)の 推定結果 被 説 明 変 数 : 説 明 変 数 標 準 誤 差 平 成9年 法 改 正 ダ ミ ー*平 成9年 対 象 ダ ミ ー -60.952 *** 14.511 平 成13年 法 改 正 ダ ミ ー*平 成13年 対 象 ダ ミ ー -18.429 11.797 ln( 人 口 ) 111.472 *** 13.275 ln( 可 住 地 面 積 当 た り の 人 口 密 度 ) 35.996 *** 11.299 ln( 人 口 千 人 当 た り の 自 動 車 保 有 台 数 ) 188.742 *** 53.210 ln( 人 口 千 人 当 た り の 運 転 免 許 保 有 者 数 ) 147.547 *** 28.736 ln( 1 台 当 た り の 交 通 違 反 取 締 件 数 ) 94.423 *** 14.317 ln( 1 台 当 た り の 舗 装 道 路 延 長 ) -41.537 *** 15.341 可 住 地 面 積 当 た り の 駅 数 -50.661 79.276 ln(1人 当 た り の 県 民 所 得 ) -356.720 *** 51.538 ln( 製 造 品 出 荷 額 ) 86.798 *** 10.684 定 数 項 -70.452 529.297 観 測 数 補 正 R 2 (注1)***,**,*は そ れ ぞ れ1%,5%,10%の 水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る こ と を 示 す . (注2 )年次ダミー及び年齢ダミーについては 省略した. 交 通 事 故 件 数 ( 第2当 事 者 ) 係 数 2115 0.658 一 方,一 連の法改正が,高齢運転者が被害 者となる交通事故件数に与える影響について 分 析を行ったところ,表18のと おり, 法改正 ダミーの 係数の 符号は 負であり,1%水準で 統計的に有意であった.また,それ ぞれの法改正が,高齢運転者が被害者となる交通事故 件 数に与 える影 響につ いて分 析を行ったところ,表19のと おり, 平成9年法改正 ダミー* 平 成9年 対象ダ ミーの 係数の 符号は 負であり,1%水準 で統計 的に有意であった.平成13 年 法改正 ダミー*平 成13年対 象ダミ ーの係 数の符 号は負 であるが,統計的に有意ではなか っ た. 5.2 「 高齢運転者標識「「「高齢運転者標識高齢運転者標識 」高齢運転者標識」 の」」のの 効果の効果効果効果 ををを 捉を捉 える捉捉えるえる モデルえるモデルモデル のモデルの 推のの推推推 定定定定 結果結果結果結果 モ デル(e),(f)の 推定結果を表20及び表21に掲げ る. 表20 モ デル(e)の推定結果 被 説 明 変 数 : 説 明 変 数 標 準 誤 差 法 改 正 ダ ミ ー -14.026 *** 4.086 ln( 人 口 ) 53.580 *** 5.176 ln( 可 住 地 面 積 当 た り の 人 口 密 度 ) 11.196 ** 4.389 ln( 人 口 千 人 当 た り の 自 動 車 保 有 台 数 ) 111.503 *** 20.629 ln( 人 口 千 人 当 た り の 運 転 免 許 保 有 者 数 ) 18.332 * 10.783 ln( 1 台 当 た り の 交 通 違 反 取 締 件 数 ) 29.707 *** 5.579 ln( 1 台 当 た り の 舗 装 道 路 延 長 ) -7.313 5.979 可 住 地 面 積 当 た り の 駅 数 -18.235 30.861 ln(1人 当 た り の 県 民 所 得 ) -74.596 *** 20.083 ln( 製 造 品 出 荷 額 ) 15.434 *** 4.164 定 数 項 -652.972 *** 205.253 観 測 数 補 正 R 2 (注1)***,**,*は そ れ ぞ れ1%,5%,10%の 水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る こ と を 示 す . (注2 )年次ダミー及び年齢ダミーについては 省略した. 追 突 事 故 件 数 ( 第2当 事 者 ) 係 数 2115 0.612

(21)

- 19 - 表21 モ デル(f)の 推定結果 被 説 明 変 数 : 説 明 変 数 標 準 誤 差 平 成9年 法 改 正 ダ ミ ー*平 成9年 対 象 ダ ミ ー -33.262 *** 5.602 平 成13年 法 改 正 ダ ミ ー*平 成13年 対 象 ダ ミ ー -13.395 *** 4.555 ln( 人 口 ) 53.602 *** 5.125 ln( 可 住 地 面 積 当 た り の 人 口 密 度 ) 9.074 ** 4.362 ln( 人 口 千 人 当 た り の 自 動 車 保 有 台 数 ) 98.109 *** 20.543 ln( 人 口 千 人 当 た り の 運 転 免 許 保 有 者 数 ) 34.137 *** 11.094 ln( 1 台 当 た り の 交 通 違 反 取 締 件 数 ) 29.849 *** 5.527 ln( 1 台 当 た り の 舗 装 道 路 延 長 ) -7.271 5.923 可 住 地 面 積 当 た り の 駅 数 -11.315 30.606 ln(1人 当 た り の 県 民 所 得 ) -75.351 *** 19.897 ln( 製 造 品 出 荷 額 ) 15.339 *** 4.125 定 数 項 -536.575 *** 204.349 観 測 数 補 正 R 2 (注1)***,**,*は そ れ ぞ れ1%,5%,10%の 水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る こ と を 示 す . (注2 )年次ダミー及び年齢ダミーについては 省略した. 追 突 事 故 件 数 ( 第2当 事 者 ) 係 数 2115 0.619 一 連の法改正が,高齢運転者が被害 者となる追突 事故件数に与える影響について分 析を 行 ったと ころ,表20のとお り,法 改正ダ ミーの 係数の 符号は 負であり,1%水準 で統計 的 に 有意で あった .また ,それ ぞれの法改正が,高齢運転者が被害者となる追突事故件数に 与 える影 響につ いて分 析を行ったところ,表21のとお り,平 成9年 法改正 ダミー*平 成9 年 対象ダ ミー及び平成13年 法改正 ダミー*平 成13年対 象ダミ ーの係 数の符 号はともに負 で あ り,1%水準で統計的に有意であった. 5.3 「 高齢者講習「「「高齢者講習高齢者講習 」高齢者講習」 の」」のの 効果の効果効果効果 をををを 捉捉 える捉捉えるえる モデルえるモデルモデル のモデルの 推のの推推推 定定定 結果定結果結果結果 モ デル(g),(h)の推 定結果を表22及び 表23に掲げる. 表22 モ デル(g)の 推定結果 被 説 明 変 数 : 説 明 変 数 標 準 誤 差 法 改 正 ダ ミ ー 1.143 * 0.674 ln( 人 口 ) 6.090 *** 0.854 ln( 可 住 地 面 積 当 た り の 人 口 密 度 ) -0.480 0.724 ln( 人 口 千 人 当 た り の 自 動 車 保 有 台 数 ) 10.677 *** 3.404 ln( 人 口 千 人 当 た り の 運 転 免 許 保 有 者 数 ) 11.097 *** 1.779 ln( 1 台 当 た り の 交 通 違 反 取 締 件 数 ) 8.195 *** 0.921 ln( 1 台 当 た り の 舗 装 道 路 延 長 ) -0.265 0.987 可 住 地 面 積 当 た り の 駅 数 -19.659 *** 5.093 ln(1人 当 た り の 県 民 所 得 ) -20.075 *** 3.314 ln( 製 造 品 出 荷 額 ) 5.492 *** 0.687 定 数 項 3.774 33.872 観 測 数 補 正 R 2 (注1)***,**,*は そ れ ぞ れ1%,5%,10%の 水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る こ と を 示 す . (注2 )年次ダミー及び年齢ダミーについては 省略した. 単 独 事 故 件 数 係 数 2115 0.544

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