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゛学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) 松 元 咼 峰

    

学位論文題名

Hydrological characteristics and their seasonal changes     of drainage systems of maritime temperate glaciers

(海洋性温暖氷河における流出システムの水文学的特徴とその季節変化)

゛学位論文内容の要旨

  氷河 にお ける 水 循環 プロ セス は 、氷 河上 ・内 ・底 面 にお ける 様々 な特 徴 を持った流出シス テムの存在 と、それらが季節とともに大 きく変化するという点によ って特徴づけられる。たとえ ば 氷 河 上 の 積 雪 内 や 底 面 の 一 部 にお け る流 出シ ステ ム の内 部に は融 解水 が 貯留 され るが 、 そ の分 布や 構造 の 変化 にと もな っ て排 水が 起こ り、 流 域の 水収 支に 大き な 影響を及ぼす。こ の うち 氷河 底流 出 シス テム は、流速の大きな管 状の水路系(channelized system)と、連結した 間 隙水 脈網 (linked cavity system)をはじめ とする流速の小さな流路系と の2種類に大別され る(Fountain and Walder, 1998など)。Nienow et al.,(1998)の研究により、融解期の初期には 間 隙 水 脈 網 が 氷 河 底 面 全 域 に 分 布し て いる が、 次第 に 末端 付近 から 管状 水 路系 が発 達し 、 両 シス テム の境 界 は常 に季 節的雪線の付近にあ ることが明らかになってい る。また、このよう な 構 造 変 化 に 対 応 し て 、 流 出 河 川水 の 化学 成分 にも 系 統的 な変 化が 現れ る こと も知 られ て し、る(Tranter et al.、1996)。

上 記の よう な知 見 は、 主と して ア ルプ ス・ 北欧 の氷 河 にお ける これ まで の 観測に基づぃてい る 。本 研究 では 、 アル プス ・北欧とは大きく異 なる気候条件下にある、多 涵養・多消耗の温暖 氷河(ロシ ア・カムチヤツカ半島、南米・パタゴニアの氷河)を対象とした。そのような気候環境 下 の氷 河に おけ る 水収 支の 特徴 を 明ら かに する こと 、 また 流出 シス テム の 季節変化、とくに 氷 河底 流出 シス テ ムの 構造 変化 プ ロセ スを 明ら かに す るこ とが 本研 究の 目 的である。現地観 測 は1996、19972000年に カム チ ヤツ カ半 島カ レイ タ 氷河 で、 また1998年 には北パタゴニア 氷原ソレ― ル氷河において実施した。

カ ム チ ヤ ツ カ 半 島 カ レ イ タ 氷 河 に お け る20008‑9月 の 水 文 気 象 観 測 の 結 果 か ら 水 収 支 各 項を 計算 した 結 果、 氷河 流域 か らの 流出 量が 流域 へ のイ ンプ ット (融 解 量十降水量)を上 回っており 、氷河内に貯留していた融解 水が期間を通じて排出して いることが明らかになった。

氷 河 表 面 の 沈 下 量 か ら 底 面 に お ける 間 隙水 脈の 体積 縮 小量 を推 定し て比 較 する と、 この 期 間 の全 貯留 量変 化 の約20% が、 間 隙水 脈の 縮小 にと も なう 排水 によ って 説 明されることが分 か った 。し たが っ て貯 留水 の多くは主に氷河上 の積雪・フィルン層や氷河 内部にあったものと 考 えら れる 。ま た 、観 測期 間以外の水収支項を 推定した結果、融解期前半 もアウトプットがイ ン プッ 卜を 上回 り 、氷 河内 への貯留は前年の冬 から春にかけて起こること が示唆された。さら に 年 間 で も 負 の 貯 留 量 変 化 が 推 定さ れ 、氷 河の 水収 支 には 大き な年 変化 が 見ら れる こと が 分 かっ た。 この よ うな 貯留 パタ ー ンは 北米 にお ける 多 涵養 ・多 消耗 の氷 河 にも同様に見られ

‑ 194

(2)

ることから、海洋性温暖氷河の特徴であると考えられる。

  次に、2つのタンクからなる流出モデル(linear reservoir model)と、氷河底流出システムご との寄与を示す化学指標とを用いて、カレイタ氷河における流出システムの季節変化のパタ ーンを検証した。流出モデルの2つのタンクはそれぞれ「涵養域表面から間隙水脈網まで」と

「管状水路系」とを通過する流出経路を表現しており、両システムの境界が季節的雪線の位 置にあるという仮定にもとづぃて、それぞれのタンクへのインプットを配分した。その結果、モ デルによる流量の計算値は実際の流出量の卜レンドと日変化をよく再現した。ー方、間隙水 脈網起源の水の寄与を示す、硫酸イオンの重炭酸イオンに対する比は、融解期前半に大きく、

後半にかけて小さくなる。したがって、融解期後半ほど間隙水脈網起源の水の寄与は少ない ことが分かった。以上から、異なる気候条件下の氷河と同様に、カレイタ氷河おいても管状水 路系が季節的雪線の上昇にともなって上流方向へ発達していくことが確かめられた。また末 端か ら約2 kmの地点にあるム―ランに食塩を投入するトレ―サ―流下実験によって、管状 水路系内の平均的な流速が0.3ms 1程度であることが分かった。

  2000年の融解期後半において、カレイタ氷河流出河川の流量が1時間のうちに6 ir13s.tも 増加するイベント(outburst event)が発生した。またこのイベントに先立つ3日問には、河川水 中の浮流土砂濃度と流量の関係が通常とは大きく異なり、流量が小さいにも関わらず土砂濃 度が大きくなるというイベント(Sediment event)が観測された。このイベン卜中には、浮流土砂 の粒径組成が氷河底ティルの粒径組成に極めて近づく場合があることも明らかになった。さ

らにSedimentイベントの前後には、硫酸イオンの重炭酸イオンに対する比など溶存化学成分

に変 化がみられた。またSedimentイベント時には、季節的雪線付近での氷河表面流速が一 時的に急増加していることも観測されている。以上のことから、この2つのイベントの組み合 わせ は氷河底における間隙水脈網から管状水路系への構造変化にともなうものであると考 えられる。っまり、氷河底面への融解水流入が増加して底面水圧が高まると、間隙水脈が拡 大を 始め、 それによ ってま ず間隙周 辺に堆 積してい たティルが管状水路系へと流入して

Sedimentイベントが発生し、次いで融解水が急激に排出して流量増加イベントが発生したも

のであると推測される。

(3)

学位論文審査の要旨

主 査

  

助 教 授

  

成 瀬 廉 二 副 査

  

教 授

  

大 畑 哲 夫

副 査

  

助 教 授

  

知北 和 久( 理 学研 究 科)

副 査

  

教 授

  

平 川 一 臣 副 査

  

教 授

  

小 野 有 五 副 査

  

助 教 授

  

山 田 知 充

    

学位論文題名

Hydrological characteristics and their seasonal changes     of drainage systems of maritime temperate glaciers

(海洋性温暖氷河における流出システムの水文学的特徴とその季節変化)

  氷 河にお ける水 循環過程 は、氷 河表面・ 内部・底 面にお ける様々 な形態 と性質を も つ 流 出シ ステム の組み合 わせから なる。 また、そ の流出 システム の構造 や特性が 氷河 の融解にともなって変化を示すこと、とくに底面における流出システムが、「流速の小さ い 網状の水 脈」か ら「流速 の大き な管状の水路」へと変化することによって、氷河流域 の 水 収支 や流出 特性は顕 著な季節 変化を 示す。し かし、 そのよう な流出 システム の構 造 変 化 がど の よ うな 過 程 で発 生 す る かに っ い ては 、 直 接的 な観 測が困 難である ため に 、従来ほ とんど 明らかに されて いない。また水収支にっいても、これまでの研究によ っ て氷河ご との相 異が大き いこと は知られているが、研究事例が少なく、気候がおよば す影響などの詳細は明らかになっていない。

本 研 究 は、 水 循 環過 程 の 季節 変 化 が 大き い と 予想 さ れ るに もか かわら ず、これ まで 研 究 の 少な か っ た海 洋 性 温暖 氷 河 に おい て 現 地観 測 を 行な い、 氷河流 域の水収 支と 氷 河 底 流出 シ ス テム の 季 節変 化 と いうスケ ールの異 なる2つの現 象に注 目して、 その 特徴を詳細に明らかにしたものである。

本 論 文 は 全7章 か ら な り 、 第1章 で は 温 暖 氷河 に お ける 水 循 環過 程 と その 変 化 に関 す る 既 存の 研 究 を概 観 し 、本 研 究 の位置づ けを示し ている 。第2章では 現地調査 を実 施した2カ所の氷河゛(カムチャツカ半島カレイタ氷河、北ノくタゴニア氷原ソレール氷河)

に つ い ての 概 要 が、 ま た 第3章 で は各氷 河におけ る観測 方法と、 その結 果にもと づい て 調 査 流域 全 体 の水 収 支 項を 算 出 する 方 法 と が記 述 さ れて い る 。第4章 では 観 測 結 果 を ふ まえ て 、2カ 所 の 氷河 に お ける水 収支の特 徴が示 されてい る。海 洋性温暖 氷河

(4)

においては水収支の経年変化が大きく、融解期以前に貯留された融解水が融解期を 通じて排出されるというパターンを示すことが明らかになった。また氷河底面における 貯留の 寄与が氷 河表面低 下量を用いて議論された。第5 章では、既存の研究で知ら れている氷河底流出システムの季節変化パターンが海洋性温暖氷河の場合にもみら れることを、流出モデルと溶存化学成分とを用いて確認した。また管状水路における 流速の推定も行われた。第6 章では、カレイ夕氷河の底面からの急激な排水に先立ち、

流出河川中の浮流土砂濃度が顕著な増加を示すイベントにっいて議論している。同 じ期間に浮流土砂の粒径分布、溶存化学成分、氷河表面流速などにもみられた変化 を考慮することで、このイベントが氷河底における流出システムの構造変化にともなっ て発生した現象であることを明らかにし、その過程にっいて議論が行われた。第7 章で は、本研究における成果が結論としてまとめられている。

以上、 本研究は 温暖氷河 の水循環 過程に関す る解明に重要な貢献をなすものと言

うことができる。とくに、氷河水系の通年の水収支を定量的に見積もったこと、および流

出・土砂イベントと氷河底構造変化との関係を明らかにしたことは、高く評価すべき点

である。また、氷河底流出システムの構造変化に関する浮流土砂を用いた研究手法

は、他の温暖氷河に応用され、さらなる発展が期待される。以上のように、スケールの

異なる現象にっいて、複数の手法を併用した観測と解析とを申請者自らが計画し、実

施 し 得 た こ と は 、 研 究 者 と し て の 資 質 の 高 さ を 示 す も の で あ る 。

審査委員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱心である

こと、大学院課程における研鑽や取得単位などもあわせて、申請者が博士(地球環境

科学)の学位を受けるに十分な資格を有するものと判定した。

参照

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