(様式6-A)A. 雑誌発表論文による学位申請の場合
伊東 幸日子 氏から学位申請のため提出された論文の審査要旨
題 目 Repeated administration of duloxetine suppresses neuropathic pain by accumulating effects of noradrenaline in the spinal cord
デュロキセチンの連続投与は脊髄でのノルアドレナリンの蓄積作 用によって神経障害性疼痛を抑制する
Anesthesia & Analgesia, in press
Sachiko Ito, Takashi Suto, Shigeru Saito, Hideaki Obata
論文の要旨及び判定理由
神経障害性疼痛(神経障害性痛)の患者では内因性鎮痛の機能が低下してい るとされる。青斑核を起点とする下行性抑制系は内因性鎮痛を担う重要な系の 一つで、脊髄後角にノルアドレナリン作動性線維を投射している(NA系)。最近、
ラットの神経障害性疼痛モデル(spinal nerve ligation; SNL)において、SNLから 6週後には下行性抑制系の機能が低下すると報告された。伊東らは、神経障害性 疼痛の治療に用いられる抗うつ薬は NA 系の機能改善を介して、内因性鎮痛を 回復させることで神経障害性疼痛を抑制するとの仮説を立てて検証した。
雄性SDラットの左後肢にSNLを行い、6週後に以下の実験を行った:デュロ
キセチン 10mg/kg を 3 日間背部に皮下注射した後の、疼痛回避に関する行動実
験、脊髄後角のマイクロダイアライシス、脊髄後角の NA 含有量の測定、青斑 核での痛み関連マーカー発現量評価。行動実験は、患肢に生じる痛覚過敏をpaw pressure testで評価した。内因性鎮痛の機能評価はNSIA (noxious-stimulus induced
analgesia:SNL対側上肢へのカプサイシン注入後のSNL側鎮痛効果)を用いた。
SNL6週後のラットは痛覚過敏が認められ、NSIA が消失した。デュロキセチ ンを3日間投与したSNLラットは日ごとに患肢の逃避閾値が上昇し、術前と同 等に戻った。消失していたNSIAも回復した。これらはいずれもα2受容体拮抗 薬のイダゾキサンの髄腔内投与で拮抗された。腰部脊髄後角の NA 含有量は両 側性に有意に上昇していた。一方、カプサイシン投与後の脊髄後角の NA 放出 量は不変だった。青斑核神経活動の p-CREB をマーカーとした免疫組織学的検 討では、デュロキセチン投与後の神経活動に変化はなかった。
今回の結果から、脊髄におけるNAの蓄積が鎮痛効果には重要と考えられた。
また、投与終了後にNSIAも回復しており、拮抗試験の結果からは痛覚過敏抑制 も内因性鎮痛の改善も脊髄のα2受容体を介していることがわかった。しかし、
内因性鎮痛の改善がNA系の機能回復によることは示せなかった。これは、NSIA の回復初期には NA系よりも脊髄での NA 蓄積の方が重要であること、SNL に よって青斑核活動はすでに上限に達しておりデュロキセチン投与ではそれ以上 変動しない、などの可能性が考えられた。
今回示された、デュロキセチンの 3 日間連続投与が、脊髄での NA 蓄積と脊 髄α2受容体の関与により SNL6週後のラットの痛覚過敏を改善し、NSIAを回 復させるという研究成果は神経障害性疼痛の治療法改善に有意義と考えられ、
博士(医学)の学位に値するものと判定した。
平成29年8月1日
審査委員
主 査 群 馬 大 学 教 授 ( 医 学 系 研 究 科 ) 脳神経外科学分野担任 好本 裕平 印
副 査 群 馬 大 学 教 授 ( 医 学 系 研 究 科 ) 神経精神医学分野担任 福田 正人 印
副 査 群 馬 大 学 教 授 ( 医 学 系 研 究 科 ) 遺伝発達行動学分野担任 柳川 右千夫 印