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組織的現象の説明方法--現代ドイツ経営学における人間像に関連づけて---香川大学学術情報リポジトリ

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香 川 大 学 経 済 論 叢 第68巻 第 2・3号 1995年11月 335-370

組織的現象の説明方法

一一一現代ドイツ経営学における人間像に関連づけて一一一

渡 辺 敏 雄

I 序 企業が組織をなすことに関しては,今日疑いがない。このことを踏まえて, われわれは,組織的現象のどのような側面がどのように解明されるのかについ て当然ながら大きな関心を寄せている。こうした課題に答えていくためには, やはり確固とした基本的立場をもった学説から,組織的現象のどのような側面 がどのように解明されるのか,を究明して,また,その学説についてそこから 先は取り零さざるを得ない限界をわきまえていく必要がある。 この関心に関して,われわれは,主としてドイツの現代的経営経済学説のな かから比較的基盤の確固としている学説を選抜し,それらによってそうした現 象のどのような側面がどのように説明されうるのかを画定していきたいのである。 われわれはその際,まず,シャンツ

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G S

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)

の行動理論的経営経済学説 における説明を取り上げたい。かれの経営経済学説は,出発点に,心理学的な 基本的仮説を置いて,そこから,組織内の現象を説明していこうとしている。 またその際,主として説明の対象として措定されているのは,組織内の現象の うちでも作業現場の現象なのである。 われわれの関心は,かれのこうした基本的立場を維持したままで,説明の対 象の方が組織内の,作業現場以外の現象の側面に拡大された場合に,何が究明 されうるのかということなのである。なぜなら,われわれのこの関心を追求す ることによって,かれの基本的立場によって組織的現象のどの側面がどのよう 香 川 大 学 経 済 論 叢 第68巻 第 2・3号 1995年11月 335-370

組織的現象の説明方法

一一一現代ドイツ経営学における人間像に関連づけて一一一

渡 辺 敏 雄

I 序 企業が組織をなすことに関しては,今日疑いがない。このことを踏まえて, われわれは,組織的現象のどのような側面がどのように解明されるのかについ て当然ながら大きな関心を寄せている。こうした課題に答えていくためには, やはり確固とした基本的立場をもった学説から,組織的現象のどのような側面 がどのように解明されるのか,を究明して,また,その学説についてそこから 先は取り零さざるを得ない限界をわきまえていく必要がある。 この関心に関して,われわれは,主としてドイツの現代的経営経済学説のな かから比較的基盤の確固としている学説を選抜し,それらによってそうした現 象のどのような側面がどのように説明されうるのかを画定していきたいのである。 われわれはその際,まず,シャンツ

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の行動理論的経営経済学説 における説明を取り上げたい。かれの経営経済学説は,出発点に,心理学的な 基本的仮説を置いて,そこから,組織内の現象を説明していこうとしている。 またその際,主として説明の対象として措定されているのは,組織内の現象の うちでも作業現場の現象なのである。 われわれの関心は,かれのこうした基本的立場を維持したままで,説明の対 象の方が組織内の,作業現場以外の現象の側面に拡大された場合に,何が究明 されうるのかということなのである。なぜなら,われわれのこの関心を追求す ることによって,かれの基本的立場によって組織的現象のどの側面がどのよう

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~336 香川大学経済論叢 532 に解明されうるのかがより明確になると考えられるからであるO そしてまた, そうした方途を採ることによって,組織的現象の説明の学説としてシャンツの 経営経済学説にはどのような限界があるのか,ということも見えてくるはずな のである。 われわれはシャンツ学説のこうした限界を見ることによって,組織的現象に おいてかれの学説によっては説明され得ない領域を明らかにできる。 そこでわれわれはそうした領域に関して,かれの学説に続き,キルシュ

(W

Kirsch)の意思決定過程論を取り上げ,そこにおける説明の対象領域を画定し ていきたい。またわれわれはさらに,エアランゲン学派(dieErlanger Schule) の経営経済学説に見られる説明を視野に入れ,その説明の対象領域を画定して いき,キノレシュの説明の対象領域もまたそれとの関連において位置づけていき たい。 すなわちわれわれは,本稿では,シャンツの行動理論的経営経済学説におけ る説明,キルシュの意思決定過程論における説明,エアランゲン学派の経営経 済学説における説明の3つを取り上げて,そのそれぞれが,組織的現象のどの ような部分の説明に振り向けられているのかという意味におけるそのそれぞれ の説明方法の守備範囲を考察したいのである。 II シャンツの経営経済学説と組織における個人行動 シャンツは,かれの提唱する行動理論的経営経済学(die verhaltenstheore -tische Betriebswirtschaftslehre)において,組織のなかの個人(Individuumin der Organisation),組織のなかの集団(Gruppenin der Organisatio叫,組織 の準行動(Quasiverhaltenvon Organisation)を問題にしようと試み,その際, 基礎に心理学的法則を置いていた。 このうち心理学的法則の現象に対する適用が成功していると思われる「組織 のなかの個人」においては r作業能率J(Arbeitsleistung)と「作業満足J (Ar -beitszufriedenheit)の問題が主として取り上げられている。特に,このうち作 業能率の決定要因については,シャンツが考えている,方法論的指導原理なら ~336 香川大学経済論叢 532 に解明されうるのかがより明確になると考えられるからであるO そしてまた, そうした方途を採ることによって,組織的現象の説明の学説としてシャンツの 経営経済学説にはどのような限界があるのか,ということも見えてくるはずな のである。 われわれはシャンツ学説のこうした限界を見ることによって,組織的現象に おいてかれの学説によっては説明され得ない領域を明らかにできる。 そこでわれわれはそうした領域に関して,かれの学説に続き,キルシュ (W Kirsch)の意思決定過程論を取り上げ,そこにおける説明の対象領域を画定し ていきたい。またわれわれはさらに,エアランゲン学派(dieErlanger Schule) の経営経済学説に見られる説明を視野に入れ,その説明の対象領域を画定して いき,キノレシュの説明の対象領域もまたそれとの関連において位置づけていき たい。 すなわちわれわれは,本稿では,シャンツの行動理論的経営経済学説におけ る説明,キルシュの意思決定過程論における説明,エアランゲン学派の経営経 済学説における説明の3つを取り上げて,そのそれぞれが,組織的現象のどの ような部分の説明に振り向けられているのかという意味におけるそのそれぞれ の説明方法の守備範囲を考察したいのである。 II シャンツの経営経済学説と組織における個人行動 シャンツは,かれの提唱する行動理論的経営経済学(die verhaltenstheore -tische Betriebswirtschaftslehre)において,組織のなかの個人(Individuumin der Organisation),組織のなかの集団(Gruppenin der Organisatio叫,組織 の準行動(Quasiverhaltenvon Organisation)を問題にしようと試み,その際, 基礎に心理学的法則を置いていた。 このうち心理学的法則の現象に対する適用が成功していると思われる「組織 のなかの個人」においては r作業能率J(Arbeitsleistung)と「作業満足J (Ar -beitszufriedenheit)の問題が主として取り上げられている。特に,このうち作 業能率の決定要因については,シャンツが考えている,方法論的指導原理なら

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533 組織的現象の説明方法 びに理論的指導原理の2つからなる指導原理が一貫して適用され, で,作業能率の決定要因を巡る論述が中心となる。 -337-その意味 そしてその場合,シャンツが最終的に問題にしようとする組織的効率は,組 織構成員の行動に立ち返ることによって説明がつくと考えられている。つまり シャンツが主として説明しようとしているのは,何故ある組織の組織的効率が 高いあるいは低いのか,である。こうして,われわれは,シャンツの場合には, 被説明項は組織全体の効率であると言うことができる。また,かれにおいては, この組織全体の効率が,組織を構成する個人の能率から説明されると考えられ ている。 それでは,組織構成員の作業能率はどのように説明されたかo

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*

織構成員の 作業能率は,主として組織構成員の能力(Fahigkeit)と動機づけ(Motivation) によって決定されると考えられ,そのうち特に動機づけについて,その規定要 因を巡って期待理論(Erwartungstheorie)の枠組に沿いつつ,次のように考え られている。 期待理論の枠組においては,期待が,人間の努力が帰結につながる見込みに ついての期待(努力・帰結・期待Anstregung-Resultat-Erwartung )と, 帰結が賞罰につながる見込みについとの期待(帰結・賞罰・期待Resultat Gratifikation -Erwartung )との2つに分割される。シャンツの見解によれ (1) シャンツの見解については,例えば次の書物を参照のこと。 G Schanz, Einfuhrung zn die Methodologze der BetriebswZrtschu舟lehre,Kδln1975 (邦訳,森川八洲男・風間信隆(訳),現代経営学方法論,白桃書房, 1991年。) G Schanz, Grundlagen der verhaltenstheoretis(hen Betriebswirts(hajtslehre, Tubingen 1977 G Schanz, BetriebswZrts(hajtslehre als Sozialwzssen日hajt-Eine Ezゲ 仙 川zg-,Stutt gart1979 (邦訳,小国 主主・岡市1政昭・渡辺朗(訳),悶ドイツ経営学の新潮流,千 倉吉房, 1989年。) また,以下のシャンツの見解についてのわれわれの議論に関しては,次の拙稿,特に 後者を参照のこと。 渡辺敏雄(稿),行動理論的経営経済学の検討一一ギュンター・シャンツの学説を中 心 に し て 一 一 , 一 橋 研 究 第 7巻 第 3号, 1982年10月。 渡辺敏雄(稿),行動理論的経営経済学に関する考究 ギュンター・シャンツの見 解を中心に一一,香川大学経済論叢第60巻 第 3号, 1987年12月。 533 組織的現象の説明方法 -337-びに理論的指導原理の2っからなる指導原理て貫して適用され, で,作業能率の決定要因を巡る論述が中心となる。 その意味 そしてその場合,シャンツが最終的に問題にしようとする組織的効率は,組 織構成員の行動に立ち返ることによって説明がつくと考えられている。つまり シャンツが主として説明しようとしているのは,何故ある組織の組織的効率が 高いあるいは低いのか,である。こうして,われわれは,シャンツの場合には, 被説明項は組織全体の効率であると言うことができる。また,かれにおいては, この組織全体の効率が,組織を構成する個人の能率から説明されると考えられ ている。 それでは,組織構成員の作業能率はどのように説明されたか。組織構成員の 作業能率は,主として組織構成員の能力(Fahigkeit)と動機づけ(Motivation) によって決定されると考えられ,そのうち特に動機づけについて,その規定要 因を巡って期待理論(Erwartungstheorie)の枠組に沿いつつ,次のように考え られている。 期待理論の枠組においては,期待が,人間の努力が帰結につながる見込みに ついての期待(努力・帰結・期待Anstregung-Resultat-Erwartung )と, 帰結が賞罰につながる見込みについての期待(帰結・賞罰・期待 Resultat-Gratifikation -Erwartung )との2つに分割される。シャンツの見解によれ (1) シャンツの見解については,例えば次の書物を参照のこと。 G Schanz, Einfuhrung zn die Methodologze der BetriebswZrtschajぉlehre,Kδln1975 (邦訳,森川八洲男・風間信隆(訳),現代経営学方法論,白桃書房, 1991年。) G Schanz, Grundlagen der verhaltenstheoretisじhenBetriebswirtsGhajtslehre, Tubingen 1977

G Schanz, Betriebswzァtschajお,lehreals Sozialwzssenschajt-Eine Emj誌かung-,Stutt gart1979 (邦訳,小田章・岡部政昭・渡辺朗(訳),問ドイツ経営学の新潮流,千 倉吉房, 1989年。) また,以下のシャンツの見解についてのわれわれの議論に関しては,次の拙稿,特に 後者を参照のこと。 渡辺敏雄(稿),行動理論的経営経済学の検討一一ギュンター・シャンツの学説を中 心 に し て 一 一 , 一 橋 研 究 第 7巻 第 3号, 1982年10月。 渡辺敏雄(稿),行動理論的経営経済学に関する考究一一ギュンター・シャンツの見 解を中心に一一,香川大学経済論叢第60巻 第 3号, 1987年12月。

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338 香川大学経済論議 534 ば , 組 織 構 成 員 の 動 機 づ け は , 努 力 ・ 帰 結 ・ 期 待 , 帰 結 ・ 賞 罰 ・ 期 待 お よ び 賞 罰 の 誘 意 性(Valenz)の 3つの要素によって規定されるのである。 期 待 理 論 に 沿 っ た 枠 組 に は 2種 類 の 期 待 な ら び に 賞 罰 の 誘 意 性 の 高 い 個 人 の 動 機 づ け は 高 く な り , 動 機 づ け が 高 い 個 人 の 作 業 能 率 は 高 い と い う 経 路 が 表 現されている。 シャンツはさらに,そうした2つ の 期 待 と 賞 罰 の 誘 意 性 が ど の よ う な 要 因 に よって決まってくるかを論じている。 シ ャ ン ツ は , 作 業 能 率 の 決 定 要 因 に つ い て 考 察 を 加 え て い る の で あ る が , 就 中 , 特 に 賞 罰 の 誘 意 性 に つ い て 問 題 に し て い て , こ の 点 に 関 し て か れ が 注 目 す るのは,最近しばしば問題とされる「職務の特質」を巡る議論である。かれは, 生 理 的 欲 求 や 安 全 性 欲 求 と い っ た 比 較 的 低 次 元 の 欲 求 が 広 範 に 満 た さ れ て い る 現 代 社 会 に お け る 職 務 の 特 質 と , そ れ に 対 す る 個 人 の 反 応 に つ い て , 主 と し て 英米の研究成果を参照して議論している。 特 に シ ャ ン ツ は , 内 容 的 に 自 己 実 現 欲 求 に 相 当 す る と 考 え ら れ る 成 長 欲 求 (Wachtumsbedurfnis)に 注 目 し , そ う し た 欲 求 を 強 く も つ 個 人 は , ど の よ う (2 ) 動機づけはより端的に,次の式で表される。 動機づけ 二 努力・帰結・期待 × 帰結-1.'i罰・期待 × 賞罰の誘意性 (3 ) 賞罰の誘定性の決定要因は,個人の欲求であり,個人が作業状況においてどのような 欲求を満たそうとしているのかということなのである。つまり,たとえ

n

認に達する見 込みが大きいとしても,個人のそのときそのときの欲求しだいでは賞罰自体の魅力が小 さくなり,その場合には動機づけは小さくなってしまうのである。ここにどういう欲求 を強くもつ人が,どういうことに魅力を感じるのか,つまり何が賞罰として作用するの か,という認識が必要となり,動機づけ理論の情報が必要となってくるのである。 次に,努力・帰結・期待の決定要因は,実際の状況(tatsachliche Situation),他人と の情報交換(Kommunikationmit anderen Personen),人格的要素 (Personlichkeitsfa k-tor)であり,このうちシャンツが最も重要としているのは実際の状況であり,努力・帰 結・期待との関連で問題となる実際の状況は,職務の特質(Aufgabenmerkmal)である。 最後に,帰結・賞罰・期待の決定要因は,実際の状況,他人がその状況についてどう言 うか(wasander巴泊berdi巴:seSituation sagen),過去の経験 (Vergang巴nheitserfahrung), ならびに努力・帰結・期待である。このうちシャンツが最も重要だとしているのは,ここ でも実際の状況であり,帰結-11罰・期待との関連で問題となる実際の状況は,職務の 特質,リーダーシァプの様式(Fuhrungsstil),賃金制度 (Gehaltssystem)および昇進制度 (Beforderungssystem)である。かれは,期待については,こうした方向で,それに関する 決定要因をあげ,それと期待とを結びつけた仮説を考えようとしているのである。 -338 香川大学経済論叢 534 ば , 組 織 構 成 員 の 動 機 づ け は , 努 力 ・ 帰 結 ・ 期 待 , 帰 結 ・ 賞 罰 ・ 期 待 お よ び 賞 罰 の 誘 意 性(Valenz)の 3つの要素によって規定されるのである。 期待理論に沿、った枠組には 2種 類 の 期 待 な ら び に 賞 罰 の 誘 意 性 の 高 い 個 人 の 動 機 づ け は 高 く な り , 動 機 づ け が 高 い 個 人 の 作 業 能 率 は 高 い と い う 経 路 が 表 現されている。 シ ャ ン ツ は さ ら に , そ う し た2つ の 期 待 と 賞 罰 の 誘 意 性 が ど の よ う な 要 因 に よって決まってくるかを論じている。 シ ャ ン ツ は , 作 業 能 率 の 決 定 要 因 に つ い て 考 察 を 加 え て い る の で あ る が , 就 中 , 特 に 賞 罰 の 誘 意 性 に つ い て 問 題 に し て い て , こ の 点 に 関 し て か れ が 注 目 す るのは,最近しばしば問題とされる「職務の特質」を巡る議論である。かれは, 生 理 的 欲 求 や 安 全 性 欲 求 と い っ た 比 較 的 低 次 元 の 欲 求 が 広 範 に 満 た さ れ て い る 現 代 社 会 に お け る 職 務 の 特 質 と , そ れ に 対 す る 個 人 の 反 応 に つ い て , 主 と し て 英米の研究成果を参照して議論している。 特 に シ ャ ン ツ は , 内 容 的 に 自 己 実 現 欲 求 に 相 当 す る と 考 え ら れ る 成 長 欲 求 (Wachtumsbedurfnis)に 注 目 し , そ う し た 欲 求 を 強 く も つ 個 人 は , ど の よ う (2 ) 動機づけはより端的に,次の式で表される。 動機づけ 二 努力・帰結・期待 × 帰結・賞罰・期待 × 賞罰の誘意性 (3 ) 賞罰の誘定性の決定要因は,個人の欲求であり,個人が作業状況においてどのような 欲求を満たそうとしているのかということなのである。つまり,たとえ

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部に達する見 込みが大きいとしても,個人のそのときそのときの欲求しだいでは:t:i罰自体の魅力が小 さくなり,その場合には動機づけは小さくなってしまうのである。ここにどういう欲求 を強くもつ人が,どういうことに魅力を感じるのか,つまり何が賞罰として作用するの か,という認識が必要となり,動機づけ理論の情報が必要となってくるのである。 次に,努力・帰結・期待の決定要因は,実際の状況(tatsachliche Situation),他人と の情報交換(Kommunikationmit anderen Personen),人格的要素 (Persδnlichkeitsfak -tor)であり,このうちシャンツが最も重要としているのは実際の状況であり,努力・帰 結・期待との関連で問題となる実際の状況は,職務の特質(Aufgabenmerkmal)である。 最後に,帰結・賞罰・期待の決定要因は,実際の状況,他人がその状況についてどう言 うか(wasander巴泊berdi巴seSituation sagen),過去の経験 (Vergang巴 出eitserfahrung), ならびに努力・帰結・期待である。このうちシャンツが最も重要だとしているのは,ここ でも実際の状況であり,帰結

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罰・期待との関連で問題となる実際の状況は,職務の 特質,リーダーシァプの様式(Fuhrungsstil),賃金制度 (Gehaltssystem)および昇進制度 (Beforderungssystem)で、ある。かれは,期待については,こうした方向で,それに関する 決定要因をあげ,それと期待とを結びつけた仮説を考えようとしているのである。

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535 組織的現象の説明方法 ← 339-な仕事の特質に良好な結果をもって反応するのか,を問う。シャンツは,仕事の 特質を「職務の特質」という概念で表現し,職務の特質のなかで r変化性J(Va -rietat), r完結性J (Identitat), r職務の重要性J (Aufgabenwichtigkeit)およ び「自律決定性J(Autonomie),結果に関する情報の「還流J(Ruckkopplung) が行なわれているかどうか,という属性を考える。 そして,自己実現欲求に相当すると考えられる成長欲求を強くもつ個人は, 変化性,完結性,職務の重要性,自律決定性の各特質が高度に現れ,結果に関 する情報の還流が行なわれるという特質をもっ職務に対して,高い作業動機づ け(hoheArbeitsmotivation),高い作業の質 (hoheArbeitsqualitat),高い作 業満足(hoheArbeitszufriedenheit)および低い移動率と欠勤率(geringeFluk -tuations-und Absentismusrate)をもって反応するのである。 ところが,これに対して,成長欲求の弱い個人は,そのような「職務の特質」 に対しては,必ずしも高い作業動機づけや高い作業満足をもって反応するわけ ではない。つまり,成長欲求の弱い個人は,それらの特質に対しては,必ずし も肯定的な反応をするわけではなしここに,成長欲求の存否ないし強弱によ って,特定の職務の特質への反応が明確に異なるという姿が見てとれるのであ る。 職務の特質とそれに対する個人の反応に関するこうした認識は,どのような 欲求をもっ人が,どのようなことに報酬を感じ高い動機づけを経験するかを巡 るものである。 以上のように,シャンツは,作業能率の決定要因を,期待理論の枠組に関連 づけながら挙げているのであるO ここに,行動理論的経営経済学の指導原理の 「組織のなかの個人」への適用の意味が見られるのである。 ここで述べられた作業能率の決定要因の考察をもって,現状の説明は,どの ように行なわれることになるのか。かれの構想、の場合,作業職場の生産能率の 説明は r職務の特質」と r{固人の欲求」との適合関係をもって説明されるこ ととなるであろうことは明白である。こうした r職務の特質」と「個人の欲 求」との適合関係からの説明という営為を超えてさらに,成長欲求とそれを満 535 組織的現象の説明方法 ← 339-な仕事の特質に良好な結果をもって反応するのか,を問う。シャンツは,仕事の 特質を「職務の特質」という概念で表現し,職務の特質のなかで r変化性J(Va -rietat), r完結性J (Identitat), r職務の重要性J (Aufgabenwichtigkeit)およ び「自律決定性J(Autonomie),結果に関する情報の「還流J(Ruckkopplung) が行なわれているかどうか,という属性を考える。 そして,自己実現欲求に相当すると考えられる成長欲求を強くもつ個人は, 変化性,完結性,職務の重要性,自律決定性の各特質が高度に現れ,結果に関 する情報の還流が行なわれるという特質をもっ職務に対して,高い作業動機づ け(hoheArbeitsmotivation),高い作業の質(hoheArbeitsqualitat),高い作 業満足(hoheArbeitszufriedenheit)および低い移動率と欠勤率(geringeFluk -tuations-und Absentismusrate)をもって反応するのである。 ところが,これに対して,成長欲求の弱い個人は,そのような「職務の特質」 に対しては,必ずしも高い作業動機づけや高い作業満足をもって反応するわけ ではない。つまり,成長欲求の弱い個人は,それらの特質に対しては,必ずし も肯定的な反応をするわけではなしここに,成長欲求の存否ないし強弱によ って,特定の職務の特質への反応が明確に異なるという姿が見てとれるのであ る。 職務の特質とそれに対する個人の反応に関するこうした認識は,どのような 欲求をもっ人が,どのようなことに報酬を感じ高い動機づけを経験するかを巡 るものである。 以上のように,シャンツは,作業能率の決定要因を,期待理論の枠組に関連 づけながら挙げているのであるO ここに,行動理論的経営経済学の指導原理の 「組織のなかの個人」への適用の意味が見られるのである。 ここで述べられた作業能率の決定要因の考察をもって,現状の説明は,どの ように行なわれることになるのか。かれの構想、の場合,作業職場の生産能率の 説明は r職務の特質」と r{固人の欲求」との適合関係をもって説明されるこ ととなるであろうことは明白である。こうした r職務の特質」と「個人の欲 求」との適合関係からの説明という営為を超えてさらに,成長欲求とそれを満

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たす「職務の特質」との聞の関係を示す仮説から,直ちに,成長欲求の強い個 人に対して形成すればさまざまな肯定的な帰結が得られる職務の特質を知るこ とができるのである。 シャンツ的な説明方法の特質が以上のようであるとすると,そこでの説明対 象が作業職場を巡る現象であることが確認されるのである。 それを踏まえると,われわれの関心は,シャンツ的な説明方法が,単に作業 職場を巡る現象のみではなくて,組織のその他の部分にも適用できるのかどう かに向うことになる。なぜなら,このことを究明することによって,われわれ はシャンツの説明方法の少なくとも 1つの限界を知りうるからである。 その際の関心を導く問いは,こうした,シャンツ的な議論の本領たる方途を, 組織の他の部分,特に管理組織に相当する部分で生じる現象に援用し適用して (4 ) シャンツの見解についてのドイツにおける研究としては,例えば次のようなものがあ る。 G R巴ber,(Buchbesprechung), Gunther Schanz, Grundlagen der verhaltenstheore -tischen Betriebswirtschaftslehre, J C B Mohr (Paul Si巴beck),Tubingen 1977, 373 Seiten, in: IournalfurBetrzebswzrtschajt, 30. Jahrg,1980, SS 96-99 G. Reber, Brauchen wir eine neue Betriebswirtschaftslehre?, in: NKoubeck/H-D Kuller/IScheibe-Lange (Hrsg), Bet円ebswz巾cha)守luheProbleme der MZtbestimmu珂:g, Kδln 1980, SS.163-176 R. Elschen, Bet:ァzebswirおじhajtslehreund Verhaltenswissenschajten -Probleme einer ErkenntnisubernahmeωηBei

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enentscheidungen一, Frankfurt a. M 1982, insb.. SS. 37-48 また,シャンツの見解についての本邦における研究としては,例えば次のようなもの カまある。 小島三郎(稿), Gシャンツの科学理論と経営経済学方法論に関する学説史的考察, 三 田 商 学 研 究 第26巻 第2号, 1983年6月。 今野登(稿),行動理論的経営経済学について一----Gシャンツの評価と位置づけの ために一一、三田商学研究第28巻特別号, 1986年4月。 今野登,現代経営経済学一一多元論的展開一一,文民堂, 1991年,第6章 行 動 理 論的経営経済学の成立一一也シャンツ一一。 風間信隆(稿),現代ドイツ経営経済学のー動向一--Gシャンツの行動理論的経営経 済学を中心にして一一,明大商学論叢第70巻 第 l号, 1987年10月。 丹沢安治(稿),行動理論的経営経済学の理論構造一一也untherSchanzの二つの橋渡 し問題一一,専修経営学論集 第47号, 1989年3月。 永田誠,現代経営経済学史,森山香庖, 1995年,第7章行動理論的経営経済学。 ただし,本稿におけるシャンツに関するわれわれの関心は,必ずしも,これらの研究 のいずれにおける関心とも軌をーにしない。 340ー 香川大学経済論叢 536 たす「職務の特質」との聞の関係を示す仮説から,直ちに,成長欲求の強い個 人に対して形成すればさまざまな肯定的な帰結が得られる職務の特質を知るこ とができるのである。 シャンツ的な説明方法の特質が以上のようであるとすると,そこでの説明対 象が作業職場を巡る現象であることが確認されるのである。 それを踏まえると,われわれの関心は,シャンツ的な説明方法が,単に作業 職場を巡る現象のみではなくて,組織のその他の部分にも適用できるのかどう かに向うことになる。なぜなら,このことを究明することによって,われわれ はシャンツの説明方法の少なくとも

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つの限界を知りうるからである。 その際の関心を導く問いは,こうした,シャンツ的な議論の本領たる方途を, 組織の他の部分,特に管理組織に相当する部分で生じる現象に援用し適用して (4 ) シャンツの見解についてのドイツにおける研究としては,例えば次のようなものがあ る。 G R巴ber,(Buchbesprechung), Gunther Schanz, Grundlagen der verhaltenstheore -tischen Betriebswirtschaftslehre, J C B Mohr (Paul Si巴beck),Tubingen 1977, 373 Seiten, in: IournalfurBetrzebswzrisιhajt, 30. Jahrg,1980, SS 96-99 G. Reber, Brauchen wir eine neue Betriebswirtschaftslehre?, in: NKoubeck/H-D Kuller/IScheibe-Lange (Hrsg), Betriebswzrtschajtlzche Probleme der MZtbestimmung, Kδln 1980, SS.163-176 R. Elschen, Bet:ァzebswirtschajtslehreund Verhaltenswissenschajten -Probleme einer Erkenntnisubernahmeωη Beispzel des Riszkoverhaltens bei GruJぅρenentscheidungen一, Frankfurt a. M 1982, insb SS. 37-48 また,シャンツの見解についての本邦における研究としては,例えば次のようなもの カまある。 小島三郎(稿), Gシャンツの科学理論と経営経済学方法論に関する学説史的考察, 三 田 商 学 研 究 第26巻 第2号, 1983年6月。 今野登(稿),行動理論的経営経済学についてー----Gシャンツの評価と位置づけの ために一一、ござ田商学研究第28巻特別号, 1986年4月。 今野登,現代経営経済学一一多元論的展開一一,文民堂, 1991年,第6章 行 動 理 論的経営経済学の成立一一也シャンツ一一。 風間信隆(稿),現代ドイツ経営経済学のー動向一----Gシャンツの行動理論的経営経 済学を中心にして一一,明大商学論叢第70巻 第l号, 1987年10月。 丹沢安治(稿),行動理論的経営経済学の理論構造ー----GuntherSchanzの二つの橋渡 し問題一一,専修経営学論集第47号, 1989年3月。 永田誠,現代経営経済学史,森山香庖, 1995年,第7章行動理論的経営経済学。 ただし,本稿におけるシャンツに関するわれわれの関心は,必ずしも,これらの研究 のいずれにおける関心とも軌をーにしない。

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組織的現象の説明方法 341 いくとしたらどのようになるのか,というものである。このこと,つまり管理 組織における現象にシャンツ的な説明方法を適用するとどのようになるのか, をわれわれは以下で議論しよう。 その際の議論は,かれの採っているような方途が,作業職場における労働で はなく,今度は管現組織における労働,つまり管理労働について,どれほど有 効利用されうるのかという議論になるのである。 シャンツの採っていた説明方法の本領は,期待理論の枠組にしたがって,欲 求に関する議論をそこに盛り込みながら,ある種の欲求の存在と特定の職務の 特質との適合関係によって,個人行動を説明していこうとすることなのであった。 そうした方途をそのまま管現組J織における現象に移行するならば,それは, 期待理論の枠組にしたがって,管理者に関して,かれらの欲求に関する議論を 展開し,一方での管理者の欲求と,他方での管理者に与えられた仕事の特質と の適合関係を問題にしていくという方途になるであろう。 ここに言う方途は,かれらの行なっている管理労働がかれらに費す作用につ いての法則的認識によって,管理者の行動を説明しようとするものである。こ の場合,明らかにされるべきは,直裁的に言えば,かれらの労働効率である。 つまりシャンツ的な説明方法においては,作業能率が問題にされているのと同 じような意味で管理組織に関して説明が試みられるならば,管理労働の労働効 率が取り上げられるべきであろう。 総じて,われわれが検証するべきは,シャンツ的意味での説明方法がこのよ うな場面でどれほど有効利用されるのか,その際有効利用されるまでの途上に は,どのような克服されるべき問題が横たわっているのか,という問いなので ある。 だが,われわれはこの間いを巡る議論に立ち入る前に,シャンツ自身によっ ても,作業職場以外における現象の説明努力は意識的に行なわれていたので, それに関して一瞥しておこう。 そうした議論のひとつは,権力を巡る議論であり,他のひとつは,組織目標 を巡る議論でbあった。 537 組織的現象の説明方法 341 いくとしたらどのようになるのか,というものである。このこと,つまり管理 組織における現象にシャンツ的な説明方法を適用するとどのようになるのか, をわれわれは以下で議論しよう。 その際の議論は,かれの採っているような方途が,作業職場における労働で はなく,今度は管理組織における労働,つまり管理労働について,どれほど有 効利用されうるのかという議論になるのである。 シャンツの採っていた説明方法の本領は,期待理論の枠組にしたがって,欲 求に関する議論をそこに盛り込みながら,ある種の欲求の存在と特定の職務の 特質との適合関係によって,個人行動を説明していこうとすることなので、あった。 そうした方途をそのまま管理組織における現象に移行するならば,それは, 期待理論の枠組にしたがって,管理者に関して,かれらの欲求に関する議論を 展開し,一方での管理者の欲求と,他方での管理者に与えられた仕事の特質と の適合関係を問題にしていくという方途になるであろう。 ここに言う方途は,かれらの行なっている管理労働がかれらに費す作用につ いての法則的認識によって,管理者の行動を説明しようとするものである。こ の場合,明らかにされるべきは,直裁的に言えば,かれらの労働効率である。 つまりシャンツ的な説明方法においては,作業能率が問題にされているのと同 じような意味で管理組織に関して説明が試みられるならば,管理労働の労働効 率が取り上げられるべきであろう。 総じて,われわれが検証するべきは,シャンツ的意味での説明方法がこのよ うな場面でどれほど有効利用されるのか,その際有効利用されるまでの途上に は,どのような克服されるべき問題が横たわっているのか,という問いなので ある。 だが,われわれはこの間いを巡る議論に立ち入る前に,シャンツ自身によっ ても,作業職場以外における現象の説明努力は意識的に行なわれていたので, それに関して一瞥しておこう。 そうした議論のひとつは,権力を巡る議論であり,他のひとつは,組織目標 を巡る議論であった。

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-342← 香川大学経済論叢 538 権力を個人主義的な立場から位置づけるシャンツは,権力を個人間の関係の なかで定義していた。われわれは, この事態に, シャンツが権力を巡る現象に かれの基本的立場の一つである個人主義的立場から接近しようとしていること を窺い知ることができるO その際,権力を巡るかれの議論における最大の問題は,組織の意思が, ヲ ヲ て 」 の構成要素の権力に遡るという方向によってのみ有効に説明されうるのかどう カミ, という問題なのである。 この問題を巡っては,当該の組織の当該の意思決定に関する権力者を正確に 画定しつつ,かつまた,かれの意思決定過程参加の時の意見を正確に知りつつ, ある組織のある意思決定の成立の理由を探るということは,研究上容易ならざ ることではないかと考えられる。単に,単数の権力者あるいは権力をもった集 団の場合でも予想されうるこうした困難は,複数の集団が影響を与え合いなが ら意思決定をなしている場合には,一層増幅してあらわれてくるであろう。 また,権力を巡る議論におけるこうした説明方法の向かう方向性が正しいと しでも, 今度は, シャンツの議論の本領であった,期待理論の枠組にしたがっ て,欲求に関する議論をそこに盛り込みながら,ある種の欲求の存在と特定の 職務の特質との適合関係によって,個人行動を説明していこうとする方途は, そこでは必ずしも見られないということが指摘される。 次にわれわれは組織の目標に関するシャンツの議論を振り返ろう。 シャンツは,比機的な意味においてではあれ,経済組織を,売上高(Umsatz), 利潤額 (Gewinn),市場占有率 (Marktanteil)等の高揚に向かつて努力するも のとして特徴づけることは可能だ,として,その存在を前提した上で,かれは, 組織の目標もまた個人主義的に説明が可能であると考え,売上高,利潤額,市 場占有率への志向を, 意思決定過程の固有の担当者たる個人の欲求構造に立ち 戻りつつ説明することが可能であるとしている。 シャンツは実際には,組織の目標をかれ自らで説明していないので, われわ れは, かれがとろうとした説明について敷街した。 結論的には,利潤額を含めて, シャンツが挙げている組織の目標の背後に共

一意思

342← 香川大学経済論叢ー 538 権力を個人主義的な立場から位置づけるシャンツは,権力を個人間の関係の なかで定義していた。われわれは,この事態に,シャンツが権力を巡る現象に かれの基本的立場の一つである個人主義的立場から接近しようとしていること を窺い知ることができる。 その際,権力を巡るかれの議論における最大の問題は,組織の意思が,そこ の構成要素の権力に遡るという方向によってのみ有効に説明されうるのかどう か,という問題なのである。 この問題を巡っては,当該の組織の当該の意思決定に関する権力者を正確に 画定しつつ,かつまた,かれの意思決定過程参加の時の意見を正確に知りつつ, ある組織のある意思決定の成立の理由を探るということは,研究上容易ならざ ることではないかと考えられる。単に,単数の権力者あるいは権力をもった集 団の場合でも予想されうるこうした困難は,複数の集団が影響を与え合いなが ら意思決定をなしている場合には,一層増幅してあらわれてくるであろう。 また,権力を巡る議論におけるこうした説明方法の向かう方向性が正しいと しても,今度は,シャンツの議論の本領であった,期待理論の枠組にしたがっ て,欲求に関する議論をそこに盛り込みながら,ある種の欲求の存在と特定の 職務の特質との適合関係によって,個人行動を説明していこうとする方途は, そこでは必ずしも見られないということが指摘される。 次にわれわれは組織の目標に関するシャンツの議論を振り返ろう。 シャンツは,比機的な意味においてではあれ,経済組織を,売上高(Umsatz), 利潤額 (Gewinn),市場占有率 (Marktanteil)等の高揚に向かつて努力するも のとして特徴づけることは可能だ,として,その存在を前提した上で,かれは, 組織の目標もまた個人主義的に説明が可能であると考え,売上高,利潤額,市 場占有率への志向を,意思決定過程の固有の担当者たる個人の欲求構造に立ち 戻りつつ説明することが可能であるとしている。 シャンツは実際には,組織の目標をかれ自らで説明していないので,われわ れは,かれがとろうとした説明について敷街した。 結論的には,利潤額を含めて,シャンツが挙げている組織の目標の背後に共

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539 組織的現象の説明方法 343 通に横たわっている「利潤動機」については,それを個人主義的に説明するこ とは一層困難となり,ついに企業が置かれている経済体制からでなければその 説明は不可能ではないかと考えられたのである。 シャンツは,純粋な徹底した個人主義的立場ではなくて,複数の個人が集積 した際に創発する特性を,特に個人にまで遡って説明しなくてもよいとする制 度論的個人主義を主張しているが,この立場からすれば,利潤動機ならびにま たそれらの発現形態である売上額,利潤額,市場占有率のそれぞれの高揚とい った組織の目標については,それが一種の社会的枠条件と解されうる故にそれ らを説明せずに考察に取り込んでもよいということになる。しかし,かれは同 時に,そうした説明が不必要だが可能ではあるとしていたと解されたのだか ら,組織の目標を個人主義的に説明できなければならないことになる。シャン ツによる組織の目標の議論に関してわれわれが考えていることは,結論的に は,そうした説明は不可能なのではないかということなのであった。組織の目 標についてもこれを創発的特性として,つまり,これを個人にまで遡ることの できない社会的枠条件として承認しつつ,制度論的個人主義を採用していくこ とにわれわれは与したい。 シャンツは,権力に関する議論をかれ自身で進めているわけでもなかった。 (5 ) われわれはシャンツの見解における組織の目標について旧稿で次のように議論した。 (次の拙稿を参照のこと。渡辺敏雄(稿),行動理論的経営経済学に関する考究-ーギ ュンター・シャンツの見解を中心に一一一,香川大学経済論叢第60巻 第3号, 1987年 12月。) シャンツが挙げている売上額,和IJj関額,市場占有率のうち,売上額ならびにそこには 含まれていない成長率 (rateof growth)については,なぜ企業がそれらを重視するのか, が説明されることがあることを,われわれも知っている。しかも,その場合の説明は, 何故,利潤極大化ではなく売上額あるいは成長率の極大化がとられるのか,という問い に答える形になっているのである。ボーモル

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J.Baumol)やマリス(R.Marris) による説明がそれに当たることについては多言を要しないであろう。 売上額極大イじならびに成長率極大化についてのかれらの見解においては,われわれの 知る限りでは,所有と経営の分離した事態を想定しつつ,経営者の効用がどのような方 向で極大化されるのかについて仮説が立てられ,それに説明が加えられている。売上額 極大化がとられるか,あるいは成長率極大化がとられるか,がシャンツ流の個人主義に よって説明されるためにはそれらのそれぞれと対応する欲求があると考え,この欲求の 違いによっ、て,経営者の追求する目標が違ってくるという方向で説明が進んでいる必要 があると解されるが,かれらの説明はそのような方向には進んでいないと考えられる。 539 組織的現象の説明方法 343 通に横たわっている「利潤動機」については,それを個人主義的に説明するこ とは一層困難となり,ついに企業が置かれている経済体制からでなければその 説明は不可能ではないかと考えられたのである。 シャンツは,純粋な徹底した個人主義的立場ではなくて,複数の個人が集積 した際に創発する特性を,特に個人にまで遡って説明しなくてもよいとする制 度論的個人主義を主張しているが,この立場からすれば,利潤動機ならびにま たそれらの発現形態である売上額,利潤額,市場占有率のそれぞれの高揚とい った組織の目標については,それが一種の社会的枠条件と解されうる故にそれ らを説明せずに考察に取り込んでもよいということになる。しかし,かれは同 時に,そうした説明が不必要だが可能ではあるとしていたと解されたのだか ら,組織の目標を個人主義的に説明できなければならないことになる。シャン ツによる組織の目標の議論に関してわれわれが考えていることは,結論的に は,そうした説明は不可能なのではないかということなのであった。組織の目 標についてもこれを創発的特性として,つまり,これを個人にまで遡ることの できない社会的枠条件として承認しつつ,制度論的個人主義を採用していくこ とにわれわれは与したい。 シャンツは,権力に関する議論をかれ自身で進めているわけでもなかった。 (5 ) われわれはシャンツの見解における組織の目標について旧稿で次のように議論した。 (次の拙稿を参照のこと。渡辺敏雄(稿),行動理論的経営経済学に関する考究-ーギ ュンター・シャンツの見解を中心に一一一,香川大学経済論叢第60巻 第3号, 1987年 12月。) シャンツが挙げている売上額,和IJj関額,市場占有率のうち,売上額ならびにそこには 含まれていない成長率 (rateof growth)については,なぜ企業がそれらを重視するのか, が説明されることがあることを,われわれも知っている。しかも,その場合の説明は, 何故,利潤極大化ではなく売上額あるいは成長率の極大化がとられるのか,という問い に答える形になっているのである。ボーモル

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J.Baumol)やマリス(R.Marris) による説明がそれに当たることについては多言を要しないであろう。 売上額極大イじならびに成長率極大化についてのかれらの見解においては,われわれの 知る限りでは,所有と経営の分離した事態を想定しつつ,経営者の効用がどのような方 向で極大化されるのかについて仮説が立てられ,それに説明が加えられている。売上額 極大化がとられるか,あるいは成長率極大化がとられるか,がシャンツ流の個人主義に よって説明されるためにはそれらのそれぞれと対応する欲求があると考え,この欲求の 違いによっ、て,経営者の追求する目標が違ってくるという方向で説明が進んでいる必要 があると解されるが,かれらの説明はそのような方向には進んでいないと考えられる。

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344ー 香川大学経済論叢 540 この事情は組織の目標に関するかれの議論においても同様であった。権力に関 する議論については,たとえわれわれが敷桁したとしても,そうした説明の方 向が果たしてシャン、ソ的な期待理論に沿った欲求理論に基づく説明の方向にな っているのかどうかについては大いに疑問が湧くこととなったし,また,組織 の目標に関するかれの議論については,結局,シャンツの構想、を含む個人主義 的な説明方法では,説明しきれない利潤動機なるものがそこに残存せざるを得 ないこととなったのである。 これらはいずれもシャンツ的な説明方法の限界を示唆している。かれの説明 方法の限界の画定は,企業が置かれた体制的特質を説明できるのかどうかの検 討に結局は行き着かざるを得ないにしても,まず,われわれのなすべき作業は, 上記でも触れた,作業職場に対するシャンツ的説明方法の管理組織への適用が どのように押し進められるのかを,見極めることである。このことを抜きにし て,シャンツ的説明方法の限界を語ることは,一足とびの詩りをまぬかれない であろう。この適用は,管理者の行動を,かれらの行なっている管理労働がか れらに費す作用についての仮説的認識によって説明しようとするものである。 この場合に明らかにされるべきは,管理者の労働効率である。 この方向における議論を若干先取りしてわれわれは,管理組織に関して,仕 事の内容,すなわち何をなすべきなのか,を決定する側面と,決定された仕事 すなわちこの場合管理労働がそれをなす管理者に対して何を粛すのか,という 側面を区別しておきたい。作業職場に対するシャンツ的説明方法のそれと同義 的な管砥也織への適用の行く末を見極めようとするわれわれの次なる作業は, この区別された

2

つの側面のうち,特に後者,すなわち,決定された仕事すな わちこの場合管理労働がそれをなす管理者に対して何を粛すのか,という側面 に直接的にはかかわっていくのである。 次節におけるわれわれの課題は,作業職場に対するシャンツ的説明方法のそ れと同義的な管理組織への適用の行く末を見極めようとする次なる作業を進め ながらも,その側面ともう一方の側面つまり管理組織における仕事の内容の決 定の側面との関連についての整理をなすことである。

『鳴

344ー 香川大学経済論叢 540 この事情は組織の目標に関するかれの議論においても同様であった。権力に関 する議論については,たとえわれわれが敷桁したとしても,そうした説明の方 向が果たしてシャン、ソ的な期待理論に沿った欲求理論に基づく説明の方向にな っているのかどうかについては大いに疑問が湧くこととなったし,また,組織 の目標に関するかれの議論については,結局,シャンツの構想、を含む個人主義 的な説明方法では,説明しきれない利潤動機なるものがそこに残存せざるを得 ないこととなったのである。 これらはいずれもシャンツ的な説明方法の限界を示唆している。かれの説明 方法の限界の画定は,企業が置かれた体制的特質を説明できるのかどうかの検 討に結局は行き着かざるを得ないにしても,まず,われわれのなすべき作業は, 上記でも触れた,作業職場に対するシャンツ的説明方法の管理組織への適用が どのように押し進められるのかを,見極めることである。このことを抜きにし て,シャンツ的説明方法の限界を語ることは,一足とびの詩りをまぬかれない であろう。この適用は,管理者の行動を,かれらの行なっている管理労働がか れらに費す作用についての仮説的認識によって説明しようとするものである。 この場合に明らかにされるべきは,管理者の労働効率である。 この方向における議論を若干先取りしてわれわれは,管理組織に関して,仕 事の内容,すなわち何をなすべきなのか,を決定する側面と,決定された仕事 すなわちこの場合管理労働がそれをなす管理者に対して何を粛すのか,という 側面を区別しておきたい。作業職場に対するシャンツ的説明方法のそれと同義 的な管理組織への適用の行く末を見極めようとするわれわれの次なる作業は, この区別された

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つの側面のうち,特に後者,すなわち,決定された仕事すな わちこの場合管理労働がそれをなす管理者に対して何を粛すのか,という側面 に直接的にはかかわっていくのである。 次節におけるわれわれの課題は,作業職場に対するシャンツ的説明方法のそ れと同義的な管理組織への適用の行く末を見極めようとする次なる作業を進め ながらも,その側面ともう一方の側面つまり管理組織における仕事の内容の決 定の側面との関連についての整理をなすことである。

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541 組織的現象の説明方法 -345-III 企業の論理と管理労働の特質 われわれは,上述において,シャンツ的な説明方法においては,作業能率が 問題にされているのと同じような意味で管理組織に関して説明が試みられるべ きであるならば,管理労働の労働効率が取り上げられるべきであることに触れた。 われわれは,シャンツ的な説明方法を管理労働の労働効率に何らかのかたち で適用する方向に関して考察したい。 まず,われわれの関心をひく事態は,作業職場の労働と管理労働の特質の違 いなのである。 作業職場に関する特質を想起するならば,そこで働く人々の志気(モラーノレ) が,作業職場における労働に大きな影響を与えて,そうした影響の結果として 労働の質と量が規定されると考えられる。管理労働に関しでも,その職務の特 質とのかかわりで労働の質と量に影響が現れると考えても無理はないであろう。 管理労働についての特質においてまずわれわれが最も注目している特質は, 裁量権の広さである。すなわち,われわれは管理労働と作業職場の労働を比較 してその特質上の違いで最も重視しているのは,裁量権が前者において後者よ りも基本的には広いということである。 この特質を前提すれば,管理労働でも下層管理になって,裁量権の余地が殆 ど無いかあるいはあっても狭障な場合には,シャンツ的な,職務の単調性なる 現状認識に根ざす,欲求と職務の特質とのかかわりに関する認識ならびに場合 によってはそうじた認識に基づく提言が成り立つかもしれない。だ、が,裁量権 のより大きい場合になってくると,そもそも職務の特質に関してそれが単調化 していないので,その場合に対してシャンツ的な認識の横滑り的適用を行なう ことは不可能であり,例えば以干のような適用上の修正的工夫が考え出されな ければならない。 欲求から出発する認識と提言が意味をもつのは,成長欲求の下位分類あるい は他の高次の欲求が有意味に職務の特質と結びつけられる場合である。換言す れば,いくつかの高次の欲求に対応させて,それなりに意味のある職務の形を 541 組織的現象の説明方法 -345-III 企業の論理と管理労働の特質 われわれは,上述において,シャンツ的な説明方法においては,作業能率が 問題にされているのと同じような意味で管理組織に関して説明が試みられるべ きであるならば,管理労働の労働効率が取り上げられるべきであることに触れた。 われわれは,シャンツ的な説明方法を管理労働の労働効率に何らかのかたち で適用する方向に関して考察したい。 まず,われわれの関心をひく事態は,作業職場の労働と管理労働の特質の違 いなのである。 作業職場に関する特質を想起するならば,そこで働く人々の志気(モラール) が,作業職場における労働に大きな影響を与えて,そうした影響の結果として 労働の質と量が規定されると考えられる。管理労働に関しでも,その職務の特 質とのかかわりで労働の質と量に影響が現れると考えても無理はないであろう。 管理労働についての特質においてまずわれわれが最も注目している特質は, 裁量権の広さである。すなわち,われわれは管理労働と作業職場の労働を比較 してその特質上の違いで最も重視しているのは,裁量権が前者において後者よ りも基本的には広いということである。 この特質を前提すれば,管理労働でも下層管理になっと,裁量権の余地が殆 ど無いかあるいはあっても狭障な場合には,シャンツ的な,職務の単調性なる 現状認識に根ざす,欲求と職務の特質とのかかわりに関する認識ならびに場合 によってはそうじた認識に基づく提言が成り立つかもしれない。だが,裁量権 のより大きい場合になってくると,そもそも職務の特質に関してそれが単調化 していないの、

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-346- 香川大学経済論議 マ ド ト ト ド

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相互に区別的に考えることができる場合である。 つまり,上層管理になってくると,裁量権の範囲が広くなり,成長欲求から 言えることは尽くされており,もし,そうした場面において,欲求と職務の特 質とのつながりから何か意味のあることを言おうとすれば,一方における成長 欲求の下位分類あるいは他の高次の欲求と,他方における職務の特質とのつな がりを問題にせざるを得ないと考えられるのである。 われわれは,上記で,管理労働には裁量権があるということから出発してき たわけであるが,そうした管理労働に共通して存在すると考えられる裁量権の 内容に一層立ち入って考察を施して,管理労働における職務の特質をとらえ て,これと欲求との関連の認識を深めたい。 裁量権のある管理労働について共通に言えることは,それが与えられた目的 を達成する方途を代替的に考えながら,それらのなかから適切な代替案を選択 していくという意思決定の特質をもっていることである。 そして,われわれの見解によるならば,与えられた目的を達成する方途を代 替的に考えながら,それらのなかから適切な代替案を選択するということこ そ,裁量権の意味なのである。 われわれは,シャンツによる作業職場の議論と同等の議論をしようとするの ならば,一方で成長欲求と,他方で職務の特質の存在を前提して,次にそれら の関連を問題にせざるを得ないと考えたわけであるから,成長欲求の方につい てはわれわれはこれを今措くとしても,他方における,管理労働における職務 の特質というものがあるとしたらそれは何であるのか,を問題にせざるを得な いわけである。 われわれは,直上で,管理労働の裁量権の意味は,与えられた目的を達成す る方途を代替的に考えながら,それらのなかから適切な代替案を選択していく ということであると指摘した。そしてそうした意味をもっ管理労働は,意思決 定をなすことをその重要な特質としている。 われわれがこうして思考を進めてくると,作業職場に存在する職務の特質に 匹敵するものが管理労働に存在するとするならば,それは,意思決定の結果に -346- 香川大学経済論議 542 相互に区別的に考えることができる場合である。 つまり,上層管理になってくると,裁量権の範囲が広くなり,成長欲求から 言えることは尽くされており,もし,そうした場面において,欲求と職務の特 質とのつながりから何か意味のあることを言おうとすれば,一方における成長 欲求の下位分類あるいは他の高次の欲求と,他方における職務の特質とのつな がりを問題にせざるを得ないと考えられるのである。 われわれは,上記で,管理労働には裁量権があるということから出発してき たわけであるが,そうした管理労働に共通して存在すると考えられる裁量権の 内容に一層立ち入って考察を施して,管理労働における職務の特質をとらえ て,これと欲求との関連の認識を深めたい。 裁量権のある管理労働について共通に言えることは,それが与えられた目的 を達成する方途を代替的に考えながら,それらのなかから適切な代替案を選択 していくという意思決定の特質をもっていることである。 そして,われわれの見解によるならば,与えられた目的を達成する方途を代 替的に考えながら,それらのなかから適切な代替案を選択するということこ そ,裁量権の意味なのである。 われわれは,シャンツによる作業職場の議論と同等の議論をしようとするの ならば,一方で成長欲求と,他方で職務の特質の存在を前提して,次にそれら の関連を問題にせざるを得ないと考えたわけであるから,成長欲求の方につい てはわれわれはこれを今措くとしても,他方における,管理労働における職務 の特質というものがあるとしたらそれは何であるのか,を問題にせざるを得な いわけである。 われわれは,直上で,管理労働の裁量権の意味は,与えられた目的を達成す る方途を代替的に考えながら,それらのなかから適切な代替案を選択していく ということであると指摘した。そしてそうした意味をもっ管理労働は,意思決 定をなすことをその重要な特質としている。 われわれがこうして思考を進めてくると,作業職場に存在する職務の特質に 匹敵するものが管理労働に存在するとするならば,それは,意思決定の結果に

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543 組織的現象の説明方法 -347ー 至るまでの「過程の特質」であろうと考えられるのである。 なぜ、なら,裁量権のある管理労働において,労働に相当するものは選択行為 に他ならず,そしてそれが特徴をもっとするのならば,選択するまでの過程に それは現れると考えられるからなのである。 つまり,われわれの見解によるならば,裁量権の存在する管理労働における 過程の特質が,作業職場において職務の特質と言われたものに相当するという ことになる。 さて,上記でわれわれは,一方における成長欲求と,他方における職務の特 質の存在を前提して,次にそれらの関連を問題にせざるを得ない,と言ったが, 上記の成長欲求と何が関連せざるを得ないのかということになれば,それは意 思決定の結果に至るまでの「過程の特質」との聞の関連ということになるので, われわれは,こうした両者の関連を敷街しておきたい。 まず,管理労働における仕事の本質的形態たる意思決定なる仕事は,そもそ も選択行為であるから,われわれの見解によれば,それが単調であるなどとい うことはないのである。そこで管理労働の過程の特質をより区別して示すべ く,われわれは試みに,管理労働の過程の特質を,単調ではない,ということ 以外の他の特質に求めてみよう。 そうした意味での他の特質としてわれわれは,例えば,選択行為を個人的に するのか,集団的にするのかという側面を挙げることができるであろう。この 例によって,われわれは議論を続けよう。 管理労働に就く個人が,選択行為を個人的にするのか,集団的にするのか, ということのどちらにより強い魅力を感じるのかは,単に,かれに成長欲求が あるのかそれとも無いのかという事態からでは言い切れない問題であると判断 されうる。 職務の特質に関して,欲求から何か言えるという立場に固執して,こうした 問題を割り切っていく 1つの道は,管理労働の過程のそうした特質と,成長欲 求の下位分類あるいは他の高次の欲求とのつながりに関する仮説的認識を求め ていって,どのような欲求をもっている人が個人的な選択行為に魅力を感じ, 543 組織的現象の説明方法 -347ー 至るまでの「過程の特質」であろうと考えられるのである。 なぜ、なら,裁量権のある管理労働において,労働に相当するものは選択行為 に他ならず,そしてそれが特徴をもっとするのならば,選択するまでの過程に それは現れると考えられるからなのである。 つまり,われわれの見解によるならば,裁量権の存在する管理労働における 過程の特質が,作業職場において職務の特質と言われたものに相当するという ことになる。 さて,上記でわれわれは,一方における成長欲求と,他方における職務の特 質の存在を前提して,次にそれらの関連を問題にせざるを得ない,と言ったが, 上記の成長欲求と何が関連せざるを得ないのかということになれば,それは意 思決定の結果に至るまでの「過程の特質」との聞の関連ということになるので, われわれは,こうした両者の関連を敷街しておきたい。 まず,管理労働における仕事の本質的形態たる意思決定なる仕事は,そもそ も選択行為であるから,われわれの見解によれば,それが単調であるなどとい うことはないのである。そこで管理労働の過程の特質をより区別して示すべ く,われわれは試みに,管理労働の過程の特質を,単調ではない,ということ 以外の他の特質に求めてみよう。 そうした意味での他の特質としてわれわれは,例えば,選択行為を個人的に するのか,集団的にするのかという側面を挙げることができるであろう。この 例によって,われわれは議論を続けよう。 管理労働に就く個人が,選択行為を個人的にするのか,集団的にするのか, ということのどちらにより強い魅力を感じるのかは,単に,かれに成長欲求が あるのかそれとも無いのかという事態からでは言い切れない問題であると判断 されうる。 職務の特質に関して,欲求から何か言えるという立場に固執して,こうした 問題を割り切っていく 1つの道は,管理労働の過程のそうした特質と,成長欲 求の下位分類あるいは他の高次の欲求とのつながりに関する仮説的認識を求め ていって,どのような欲求をもっている人が個人的な選択行為に魅力を感じ,

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