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地域 の 日本語教 室のための人材育成 †

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秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要

2 4

2 0 0 2

地域 の 日本語教 室のための人材育成 †

松岡 洋子 * 秋 田大学教育文化学部非常勤講師

宮本 律子日 秋 田大学教育文化学部助教授

地域在住外国出身者を対象 とした 「地域 の 日本語教室」 は体系的言語知識習得支援, コ ミュニケーション能力習得支援,多文化共生社会推進 の三つの機能がある. これ らの機能 を遂行す るためには, それぞれ内容 と方法が異 なる人材育成が必要である. それは一般的 な 日本語教師養成 とは異 なる.求 め られ る人材 を育成す るためのプログラムを提案す る.

キーワー ド:第二言語 と しての日本語,地域 の 日本語教室,体系的 日本語知識,生活 のた めの 日本語 コ ミュニケーション能九 多文化共生 ,人材育成

0 .

は じめに

筆者 は

1 9 9 0

年代 は じめよ り,秋田および岩手県内 において地域在住外 国人 の 日本語学習 を支援 す る

「日本語 ボラ ンテ ィア」 の養成 にかかわ って きた.

一般的に日本語 ボランテ ィア養成講座 は短期間で行 われ,必要 な知識,技能 を十分 に研修で きない. ま た,地域 の日本語学習支援 に必要 な人材 とはどのよ うな ものか,基本的な ことが明確 にされないまま養 成講座が続 け られて きた ことも否定で きない.

本稿では,現在行われている地域在住外国出身者 のための 日本語学習支援の問題点 を整理 し,必要 な 人材の資質 を指摘 した上で,新 たな人材養成 プログ

ラムを提言す る.

1

. 地域の 日本語教室の現状

1 . 1 .

特徴

1 9 9 0

年前後か ら出入国管理及 び難民認定法の改定 による外国人 の在留資格の拡大 に伴 い,研修,配偶 者,定住等の資格 を持っ外国出身者が 日本各地 に急

2 0 0 2

1

2 2

日受理

千HumanResourcesTralningforCommunlty JapaneseLanguageClasses

辛YokoM ATSUOKA,FacultyofEducatlOnand HumanStudleS,AkltaUnlVerSlty,Aklta 辛RltSukoM IYAMOTO,FacultyofEducationand

HumanStudies,AkltaUniverslty,Akita

増 した.地域の 日本語教室 とはこのような新来外国 出身者 を対象 とした日本語学習 の場 であ る1. 地域 の日本語教室 には,主 に市民 ボランテ ィアが直接運 営す るものと, 自治体,財団法人 などが開設,運営 す るものがある. 日本語学校等 の教育機 関uにお け る日本語教育 と異 なる特徴 と しては次の ことが挙 げ られ る.

①学習者が多様であること (出身, 年齢, 学歴, 母語,滞 日理由,既習歴, 日本語学習 目的,動 機,到達 目標 など)

② 自由な学習であること (開始 ・終了時期が不定, 到達度 などの枠組みが個人 によって異 なる,学 習 に対す る義務がないなど)

③教授者のほとん どが市民 ボラ ンテ ィア皿で あ る こと

④非集中型学習であること (週 1

, 2

回,各

2

間程度 の学習)

⑤学習者側の負担が少 ないこと (受講料,教材費 など)

教育機関の学習者 は大多数が留学生,就学生であ り, 日本語学習その ものが大 きな滞 日目的 とな る.

学習者 は基礎学九 学歴,経済的能力等の審査 によ り選抜 され,学習は一定のカ リキュラム,スケジュー ルに沿 って進 め られ る.学習者 に は授業 に出席 し, 評価 を受 ける義務が課せ られ る.一方,地域 の 日本

(2)

語教室 においては,学習 は基本的に参加者の自由意 志で行われ,学習 に対す る義務 はない.仕事,個人 的な事情 などによる学習者 の欠席、遅刻 な どは 日常 的であ り, また,時期 にかかわ らず学習者 の新規参 加, あるいは退出がある. このように,地域の教室 は希望す る者が希望す るときに学習す る場であるこ とが大 きな特徴である. また, 日本語学習だけでな く,地域住民 としての外国出身者 と日本人, あるい は外国出身者間の交流,情報交換の場 としての機能 は,地域社会 における多文化共生推進 の実践例 とし て注 目されているⅣ.

1 . 2 .

学習内容

前項で述べたように,地域 の教室の学習者 は多様 である.従 って, その学習内容 も多様であるが,塞 本的には生活 に必要 な日本語力の習得が目的である.

多 くの地域在住外国出身者 は日本語 が十分 に理解, 使用で きずに生活上困難 を感 じる状況 におかれてお

り, 日本語 によるコ ミュニケーション能力の習得を 望んで教室 に通 う.

一方,実際の多 くの教室においては,コミュニケー ション能力習得 のため とい うより,一般的な日本語 教育機関 と同様 の言語形式習得を目的 とす る教材 を 使用 した学習が行われている. その理由は三つある.

一つ は

,

生活 のための 日本語 コ ミュニケー シ ョン 能力」 について, その学習内容,方法 に関す る研究 が少 な く,地域在住 の外国出身者 の希望 に応え られ るような教授内容,教材の整備が遅れていることで ある.二つめは,地域 の教室 の多 くの教授者が,地 域 の 日本語学習者の特徴 に対す る配慮のない,一般 的な言語形式中心 の日本語教育 の研修を受 けるため である.三つめとして,現在広 く使用 されている市 販教材 は,主教材,副教材,複数言語版の文法解説 書,教師用指導書等の関連書籍などによってマニュ アル化 され, これ らの教材を使用すれば,経験の浅 い教授者で もある程度 は言語形式を教え られるとい う側面 も大 きい.

このような地域 の日本語学習 について二つの問題 が指摘 されている. その第一 は,効率,効果の問題 である.一般的な言語形式中心 の教材を使用 した場 令,地域 の教室 のように週 1

, 2

時間程度の学習進 度で は,初級基礎文型前半の学習を終了す るために 1年以上 の期間を要す る. したが って,期間に比 し て効果が現れに くく,学習動機を維持す るのが困難

になる.第二 は,内容 の適切 さの問題である.実際 のコ ミュニケーシ ョン場面 において 「こんな とき日 本語で どのように表現す るのか」 とい う判断力,言 語操作能力を獲得す るためには言語形式 を学習す る

だけでは不十分である.

以上 の指摘 に対 して

,

入門期 か らの基礎 的 な言 語形式 の積み重ねは生産的な言語習得 に絶対不可欠 で,多少学習 に時間がかか って も継続 させるべきだ」

とい う反論がある.学習者がうまくコミュニケーショ ンがで きない原因 は文法 の知識 および操作能力の欠 如であ り,不足す る文法知識 を補 うことで コ ミュニ ケーシ ョン能力 も高 まると考え る教授者 は少 な くな い. しか し, コ ミュニケーシ ョンは文法能力,社会 言語能力,社会文化能力が複雑 に関係 して成立す る ものである.地域で学 ぶ学習者か ら,教室で学習 し た知識 を実際のコ ミュニケーシ ョン場面でどのよ う に使用す るのかわか らない,使 い方 も教えてほしい, とい う声 を聞 く.第二言語におけるコミュニケーショ ン能力 に対す る文法能力の貢献度, あるいは社会言 請,社会文化的能力 に関す る習得研究が進 め られな

ければな らない.

一方, いわゆる 「日本語教室」で上述 のようなEj 本語教育 を行 うので はな く,交流活動 を通 した日本 語習得支援 を行 う場 も存在す る. さまざまな交流活 動を通 じて 日本語, 日本 の文化,習慣等 についての 知識 ・技能 を外国出身者が 自然 に習得す ることが期 待 され る. このような活動 は,未知の言語学習 に対 す る不安 をやわ らげ,楽 しんで参加す ることがで き る反面,内容が懇意的にな りがちで,学習者が 日本 語能力の向上 を自覚 しに くい. そのため,学習者 の 側か ら体系的な日本語学習 も必要だ とい う要望が出

され ることがある.

1 . 3 .

教授者

地域 の教室の教授者 は市民 ボランテ ィアが中心で ある. これ らの教授者 の多 くは日本語教育 に関す る 知識 を有 し, また活動 しなが ら研修 を続 けることが 多 い.

地域の教授者が 日本語教育 に関す る知識,技能を 習得す る機会 は大 き く分 けて二つある.まず,大学, 専門学校,通信教育 などで実施 され る日本語教員養 成課程である. これ は 「日本語教員養成 のための標 準的な教育内容

'に基づ いた, 日本語学校や高等教 育機関などで 日本語教師 になるための人材養成課程

(3)

である.全課程で

4 2 0

時間を要す るとされ る. 日本 国際教育協会が主催す るE]本譜教育能力検定試験合 格者 はこの課程 を修了 した ものと同等 と認められる.

もうひとっ は,各地で開催 される 「日本語ボランティ ア養成講座」 と称 され る市民 ボランティア対象 の講 座である. この多 くが 日本語教員養成課程 を縮小 し た形のカ リキュラムによって

,1 0 ‑5 0

時間程度 の短 時間で実施 され る.

短期間で行われ る日本語 ボランテ ィア養成講座を 受講 した者 は,体系的な日本語教育がで きるまでの 知識,技能 は得 られていないため,中途半端な能力 で教室 にかかわ り始 める.教室 において このよ うな 短期研修 を受 けた教授知識 ・技能が不十分 な者 をど のように活動 にかかわ らせてい くか, あるいは教授 能力向上 のための研修 と実際の教授活動 をどのよう に並行 させてい くか といった ことで,既 に活動 して いる教授者側が苦慮す る例が多 く見 られ る. また, ボランテ ィア養成講座修了者が集 まって教室活動 を 始 め,知識,技術 に不安 を抱え,大学等 の 日本語教 師に助言 を求 め,研修を依頼す ることがある. しか し,依頼 を受 けたE]本語教師が地域の教室 の多様性 や現状を認識 していない場合 は,的確 な助言,指導 が行 えないばか りか,言語形式中心 の一斉授業がで きなければ教授能力が不十分 だという不適切 な認識 を地域の教室の教授者 に与 え,混乱 を招 くこともあ

る.

もうひとつの研修機会である日本語教師養成講座 の修了者 は, プロの 日本語教師 として学習者 に日本 語を教えることがで きる知識,技能 をひととお り習 得 し,地域の 日本語学習者 にとって も理想的な教授 者 として見 られ る. しか し, 日本語教師養成課程で 得 られ る知識,技能 は一定の レベルの学習者 を対象 とした一斉授業 についての ものであるため, それを 使 って地域 の教室のように多様 な学習者 に対応す る のは困難である.特 に日本語 による日常 のコ ミュニ ケーション能力を効率 よ く高めるためのノウ‑ ウに ついて 日本語教師養成課程ではほとん ど扱 われてい ないため,教授者 は地域の教室のそのようなニーズ に十分 に応 え られない.

2 .

問題点の整理

ここで, これまで述べた地域 の日本語教室の現状 の問題点 を整理 したい.

教室の問題 は,(1)学習者 の多様性, (2)教材, (3)

室の持つ複数 の機能, (4)教授者 の人材養成, の四点 に分現 され る.

まず,(1)はカ リキュラムに則 った一斉授業が成立 しに くい大 きな原因である. しか し, 日本語 を学 び たいと希望 して教室 に来 る外国出身者 を, 出身,年 鶴,来所時期などによって拒否することはできない。

教育機関 と異なる教授内容 と方法が求 め られ るもっ とも大 きな背景である.(2)の教材についても同様に, 第二言語 としての日本語 についての研究 に基づ く教 材作成が必要である.(3)の教室が持っ複数 の機能 と は, 日本語学習 という機能 のほかに,外国出身者 と 日本人, あるいは,外国出身者同士 の交流 の場 とし ての機能や,外国出身者の抱える諸問題解決 の支援 機能である.時 には法律や医療 の専門家 しか扱えな いよ うな問題 も持 ち込 まれ,教室関係者が問題を抱 え きれな くなっている.(4)の人材養成の難 しさにつ いては, 日本語学習支援 に必要 な専門性が問題 の鍵 となる.以上四点 の中で筆者が最 も関心 を持 ってい るのは,人材育成 の問題である.

市民 ボランテ ィアの教授者 にとって,先 に述べた ような

4 2 0

時間相当の研修 は,時間的、経済的負担が 大 きい. その上、そ こで得 られ た知識 ・技能 が地域 の日本語学習支援の適切 さの点で問題があることは 先述 のとお りである.学習者 の多様性 に対応す るこ と, あるいは言語形式だけでな く, さまざまな要素 を体系的に学習活動 に反映 させ,学習者の コ ミュニ ケーション能力を高めるための知識,能力 に対す る 視点が現在 の養成 カ リキュラムには欠 けている.

一方,短期間で行われ る 「日本語 ボランティア養 成講座」 は,大学や 日本語学校等の 日本語教師に依 頼 されることが多 い. しか し, その理論,方法,効 果 について十分 な検討がな く, 日本語教師養成講座 のダイジェス ト版 のような ものが安易 に実施 され る ことも多 い.受講者 は短期間で基礎 的 な知識、技能 を得 ることを期待す るが, このような短期間では日 本語教授者 として必要 な知識,技能 を養成す ること

は困難である.

以上,人材育成 の問題点 は,①現行 の日本語教師 養成 プログ ラムは地域 の 日本語学習者支援 の視点 (学習者,学習形態の多様性,第二言語 と しての 日 本語習得支援 など)が不十分,②短期 のE]本譜 ボラ ンテ ィア養成 プログラムは期間,内容が不十分であ り, また養成 プログラムその ものの効果の検証がな されていない, とい う二点 にまとめ られる.

(4)

3 .

教室の機能 と必要な人材

前項で述べたように,現行 の養成講座 の問題 はす べて,地域 の 日本語教室 はどのような役割 を果 たす べ きかにつ いての十分 な議論や認識がないことに起 因す る.現在,市民 ボランティアによる地域 の 日本 語教室が どのよ うな役割 ・機能を担 うべ きかについ てはさまざまな意見があるが,筆者が考える日本語 教室の機能 は次 の三つである.

①体系的な基礎知識習得支援 の場

②地域住民 との交流 による日本語運用力

,コミ

ニケーション能力習得支援の場

③地域住民 と外国出身者 との交流 を通 じた地域社 会 の多文化共生推進 の場

これ ら三機能 に対 して,現行 の多 くの人材養成 は

① の視点で しか行われていない. カ リキュラムは一 般的な日本語教師養成 と基本的に同様 の もので,地 域 の日本語教室 の特殊性 に対す る配慮 はない. この 問題 を解決す るためには,上記の三機能を果 たせ る ような人材養成 プログラムを再構築する必要がある.

以下,三機能 の詳細 とそれぞれに必要 な人材 につい て考察す る.

3 .1 .

体系的な 日本語の基礎知識習得支援

体系的な日本語の基礎知識 とは,生活 に必要 な日 本語の基礎 となるものである. これを外国出身者 に 教授す るためには,専門的な知識,技能が必要 とな る. このよ うな専 門的 な知識 を持 つ者 を本稿 で は

「日本語教授者 (‑以下,教授者 と略す)」 と称す.

文化庁国語課 は 「日本語教員養成の新たな教育内

」( 2 0 0 0 )

「日本語教員 として望まれる資質 ・能力」

について次のように整理 している. まず基本 として

「自身が 日本語を正確 に理解 し的確 に運用 で きる能 力を持 っていること」 とある. これを前提 と して, コ ミュニケーション能力,言語感覚,国際的感覚 と 人間性,仕事 に対す る自覚 と情熱, の四点 を基本的 な資質 としてあげている.次 に,①言語 (日本語構 追,言語使用,言語発達,言語習得 などの知識 とそ の活用能力)②教授 (教育課程編成, 授業 ・教材分 析 などの知識 とその活用能力)③ 日本語教育の背景 (歴史 ・文化事情 の知識,学習者 ニーズの把握 ・分析 能力) の

3

分野の知識 ・能力を専門的能力 と して求

めている.

これ らの知識 ・能力の必要性 を地域 の教授者 につ いて考えてみたい. まず

,

言語」 につ いて は, 坐

活上,最低限必要 となる言語知識 につ いて把握 し, 体系化す る能力が必要である.「教授」 については, 地域の教室の特性 を把握 ・分析 し, それを教室活動

に反映 させ る能力が求 め られ る.学習者個々の学習 環境を把握 し,基礎的な言語能力を養成す るための 学習活動 を創造す る力である. カ リキュラムが定型 化 された教育機関の教授者 よりも高度な能力が求め られ る部分 と言える.三っめの 「日本語教育の背景」

では特 に,学習者 ニーズの把握 ・分析能力が地域 の 教室の教授者 には不可欠である.教授者 はさまざま な背景を持っ学習者 に対応 しなければな らない。

3 . 2 .

コミュニケー シ ョン能力習得支援

地域 の教室 は

,

地域住民 との交流 を通 した 日本 語運用力, コ ミュニケーシ ョン能力習得支援 の場」

という機能を有す る.生活 に必要 な 日本語 運用力, コ ミュニケー ション能力の習得 には,実際に外国出 身者が生活す る地域社会 において, 日本語 を使用す る相手 と意味交渉す ることが必要である. その機会 は外国出身者 の居住す る地域社会 こそが提供できる.

外国出身者 を受 け入れ る地域住民 は,外国出身者 の 日本語 によるコ ミュニケーションにおける疑問, あ るいは困難,誤用などを把握 し, それについて とも に考え,彼 らの コ ミュニケーション能力の向上 を支 援す る活動がで きる. そのためには, 日本語, ある いは地域社会の コ ミュニケーションの実態を客観的 に観察 し,分析す る能力 と,それを説明す る能力が 必要である. このよ うな人材 を 「コ ミュニケーショ

ン能力習得支援者 (以下,支援者 と略す)」 と称す.

3 . 3 .

多文化共生推進

言語能力, あるいはコ ミュニケーション能力習得 の枠を超え,相互理解 と共生 の方法を模索す るのが 多文化共生推進 の機能である. この よ うな機能 は, 外国出身者 のためばか りでな く,地域社会全体にとっ て有益 な もの となる.すなわち,外国出身者の 日本 社会 に対す る理解を高 め,対処能力を向上 させ ると ともに,異文化 の流入 による地域社会 の不安 を取 り 除 き,相互適応 を促 し,安定 した多文化社会 を実現 す ることに資す る. この活動 の参加者 は理想的には 外国出身者を含 めたすべての地域住民である. また 活動の計画,実施 にあたって必要 となるのは,外国 出身者の直面す る問題への対応,地域住民 と外国出 身者 との相互理解のための活動 の立案,実施 などを

(5)

促す人材である.異文化理解,法律、医療 , 行政 な ど外国出身住民 に関わる知識 と情報収集, そ して関 係各機関や個人 とのネ ッ トワーキ ングなど, その活 動 は多岐 にわたる. このよ うな人材を 「多文化共生 社会推進 コーデ ィネーター (以下,コーディネータ‑

と略す)」 と称す.

次項では, これ ら三っの機能 を遂行 す る人材育成 について論 じる.

4 .

人材育成プ ログラム

4 . 1 .

教授者養成

従来の 日本語教員養成では,一般言語学, 日本語 学の知識の習得が重視 されて きた.地域 の 日本語教 授者 にとって もそれ らの知識 は不可欠 である. しか し,地域 の教授者が必要 とす る言語学, 日本語学 の 知識 は,生活上 の コ ミュニケーションに現れる異体 的な言語表現 の視点 に基づ くものであ る.地域 の 日 本語教室 は 「生活 のための 日本語 コ ミュニケーショ ン能力習得支援の場」であ り,学習過程 においては 言語を正確 に理解,生成す る能力だけでな く,場面 や状況 に対 して的確 に対処 し,課題を遂行す る能力 の習得 を支援することも重視すべきである. したがっ て,人材養成 においては

,

生活 のための 日本語 コ ミュニケーシ ョン」 に必要 な,1)言語形式 の知識,

2 )言語運用 の知識,3)それ らの教授法の知識,4)

教材開発 の知識,5)非集中型 の学 習過程 での習得 に関す る知識 と,それ らを教授活動 において活用す る技能 の習得が必要 となる. また,多様な学習者の 背景 を理解す るために,地域在住の外国出身者 の出 身国の現状や 日本での社会的立場 などに関す る知識 も必要である. そ して, 日本語習得 の進 まない理由 を学習者の熱意 のなさ,年齢,学歴 な どに帰すので はな く,学習を希望す るすべての者 に対 してそれぞ れ適 した方法を考え,教授す るための,多様な知識, 技能が養成 されなければな らない.教案を立て, そ れに従 って画一的な授業がで きるだけでは,地域の 教室では対応で きない. その多様性を知 るためにも, 実践力を養成す るためにも,養成課程 には,実地見 学,実習 などをで きるだけ多 く取 り入れ ることが有 効である.

4 . 2 .

支援者養成

コ ミュニケーション能力習得の支援者養成にあたっ ては,先述 したとおり日本語によるコミュニケ‑ショ

ン場面を言語,非言語,文化等 の諸相か ら客観的に 捉える能力を高めることが重要 となる. 日常生活 の コ ミュニケーションがどのような文型 ・語嚢 ・表現 形で成立 しているのか, また,非言語行動 はどのよ うに現れ, どのよ うな意味を有す るか, あ るいは, 言語行動、非言語行動が起 こる文化 的背景 は何 か な

どを客観的に観察 し,分析す る習慣 を身 に付 けるこ とが重要である.

では,具体的に養成課程で取 り上 げる知識 につい て考えてみよ う.文型 ・語嚢 などの言語形式につい ては,現在 日本語教育で利用 されている リス トを参 考 に,生活 に必要 な ものを再構築す ることが可能で あろう. しか し,非言語行動や社会言語的,文化社 会的要素 については,第二言語 としての日本語習得 に必要 な リス トは存在 しない.言語 と社会がどのよ うに関係 しているのか は複雑であ り,体系化す るこ とは困難である.言語の使用 される状況 は無限 にあ り,そのために言語形式 のようにガイ ドライ ンとな るものを作 ることがで きない. しか し, それで は, 支援者がなにをどのように外国出身者 に提示す るべ

きか,判断 に迷 う.外国出身者 は 「こんなときどの ように表現 した らよいのか

「今 の表現 は この状況 ではどのよ うな意味なのか」 とい うことを知 りたい と思 い, 日本語教室でその疑問を解消することを願 っ ている.先 に述べたよ うに,無限 に存在す るすべて のコ ミュニケーション状況を一つ一つ教 えることは 不可能 であるが, 日本語教室で扱える状況について,

ある程度のガイ ドライ ンを設定す ることで,学習者 の 「知 りたいこと」 に対す る答えを示す ことがで き るのではないだろうか.養成課程では, これに基づ いて 日本語 コ ミュニケーシ ョン場面を客観的に捉え 説明す る作業 を行 うべ きである. このよ うなガイ ド

ライ ンの例 と して, 国際 日本語普及協 会 作 成 の,

「リソース型生活 日本語」Ⅵが あ る. しか し, 単 に, 場面,言語機能 などの リス トだけでは, それを使 っ てどのよ うにコ ミュニケーシ ョン能力習得支援がで きるのかわか りに くい. リソースを提供す るだけで な く,活用方法 につ いての研修が求 め られ る. 日常 におけるコ ミュニケーシ ョン場面を映像などによっ て観察 し, そ こか らさまざまな要素 を取 り出 し,分 析す る作業 の繰 り返 しは, コ ミュニケーション場面 の客観的分析力向上 のために有効 な研修方法 ではな いだろうか.筆者 は

CD‑ ROM

版 の地域 の 日本語学 習支援者用 ソフ トを開発中であるyi.

(6)

また,教授者 と同様 に,地域在住の外国出身者 を 理解す るために, その出身国,渡 日理由, 日本 にお ける生活などに関する背景知識,および異文化 コ ミュ ニケーシ ョンに関す る知識 を得 ることは不可欠であ る.地域在住外国出身者 を単 なる弱者 として支援す るのではな く,同 じコ ミュニテ ィに住む住民同士 と して関わ る態度,認識 を持 った支援者を育て ること が重要である.

4 . 3 .

コーデ ィネーター養成

この人材養成 は,異文化 コ ミュニケーション,異 文化理解教育 の分野 を中心 に,外国人問題 に関連す る法律,医療,行政 の各機関,専門家および社会教 育, 日本語教育 などの分野が連携 して行 うべ きであ る. これは 「地域の 日本語教室」本来 の日本語 を学 ぶ機能を超えた部分であるが,非常に重要な機能で,

日本語教育関係者が片手間に遂行で きるものではな い. これまでの経験 ・知識を活用 し, 各分野 が協 力 して新 しく人材育成 プログラムを作 り上 げてい く必 要がある. これについては,現在,国際 日本語普及 協会が実施 している 「地域 日本語 コーデ ィネーター 養成講座」yiの中に実践例 が見 られ るが, カ リキ ュ ラムは主 に日本語教育を中心課題 として構成 されて お り, それ以外の各分野の連携 による検討が不十分 である.多文化共生 の視点を中心 に した学際的な実 践が求め られ る.

今後,外国出身住民 の増加 に従 って, このよ うな 日本人住民 と外国出身住民 との共生を推進す るため のコーディネーターが求 め られるようになるだろう.

日本社会 の閉鎖性 は外国出身者 にとって生活を困難 にす る一因 となる.未知 な ものに対する抵抗は偏見 差別 につなが る.差別か らは有益 な ものは何 も生 じ ない.無意味な抵抗 を廃 し,多文化が共存で きる地 域社会を実現 させ るために, このよ うな人材養成が 急がれ る.

5 .

プ ログラム構築のために

5 . 1 .

大学の役割

上記 のような養成 を行 うために,大学が果 たすべ き役割 は大 きい.地域 の 日本語学習支援 はこれまで 多 くが市民 ボランティアにゆだね られ,行政,専門 家が積極的に関わ って こなか った分野である. しか し, 日本各地の地域社会が多文化 ・多言語化す るこ とは不可避の状況 にあ り,上述 の人材育成 に大学 は

地域社会 のために積極的に貢献すべ きである.

まず,第二言語 としての日本語習得 に関す る基礎 研究を早急 に行 う必要がある.

第二言語 としての日本語 によるコ ミュニケーシ ョ ン能力構成要素 と しての文法能力, 社会言語能力, 社会文化能力 につ いての研究 の必要性 は本稿

2

項 に 指摘 したとお りである.従来,留学生や研究者, ど ジネスマ ンなどを対象 とす る外国語 と して 日本語教 育の研究 は進 め られて きた. しか し,一般の生活者 が使用す る第二言語 と しての日本語 に関す る研究 は 少 ない.具体的には,(彰生活 に必要 な第二言語 と し ての 日本語 の基礎的言語形式 (文法,語嚢,表現形 および表記 を含む)の リス ト作成,② 日常生活 の コ

ミュニケーションにおける非言語行動, 社会言語, 社会文化的要素 に関す る リス ト作成, の二つの研究 を行 う必要がある.

さ らに,多様 な学習者がそれぞれ どのように第二 言語習得を行 うか 1X,それに対 して どの よ うな習得 支援が行え るのか という,体系的知識およびコ ミュ ニケーション能力習得支援 の手法の開発が必要 にな る. これ らの研究 は日本語学,社会言語学, 日本語 教育, コ ミュニケーション学 などの専門分野が連携

して進 めることが重要である.

そ して,人材育成 プログラムの開発,提供である。

必要 な知識、技能 について研究 し, 人材育成 の方法 を構築すべ きである. たとえば,①地域社会 に異文 化が流入 した際に起 こる,対立,排斥 などの社会問 題,②同化ではな く相互適応す るための方法論,③ 人材育成 プログラムの構築, などに関す る研究 を学 際的に実施す る.近年,大学教育で はグローバルな 環境で活躍す るための人材育成 を 目指 して いるが, 同時 に多文化化の進 む日本の地域社会 を形成す るた めの リーダー育成 も必要 である.大学 は現状把握 と 将来予測 に基づ き,行政,地域社会 に対 して理想的 な多文化社会 についての展望を示す立場 にあ り, そ こに必要 な人材育成 を行 う責任 もある.

5 . 2 .

行政の役割

日本語 の体系的基礎知識習得支援 については,節 来外国出身者 に対 して,国, 自治体等がその場 を提 供すべ きだ とす る意見がある. 日本 の地域社会が労 働力 として, あるいは農村部 における配偶者 として など新来外国出身者 の受 け入れをす る際,言語保障 の観点か ら,行政 の多言語対応か, 日本語学習 の機

(7)

会提供 のいずれかを行政 として行 うべ きであるとい う指摘 は多い.行政サー ビスの多言語対応 も可能 な限 り進 め られ るべ きだが,現在 の日本 において地 域社会 の一員 として生活す るためには日本語能力 は 不可欠である. 日本語が理解で きず に外国出身者が 被 る不利益 は大 きい.地域社会 に長期間滞在, ある いは定住す る外国出身者 に対す る日本語学習機会 は 政府, 自治体 によって提供 され るべ きであるとの意 見を筆者 も支持す る. これまで,中国残留孤児の帰 国に際 して, あるいはイ ン ドシナ難民 の受 け入れに 際 して, その定住促進のために日本語教育が公的事 業 として実施 されて きた. これ らは当該施設 に対象 者が一定期間滞在 して行われているが, このよ うな 集中的な方法 は配偶者や労働者 といった,す ぐに地 域社会で生活す る新来外国出身者 に対 しては施設整 備の点で も,外国出身者 の生活の都合上 も実現 は難 しい.新来外国出身者が地域で生活 しなが ら日本語 学習の機会を得 られ るよう,各 自治体が必要 に応 じ て新来外国出身者 に対 して 日本語学習の機会 をす る ことが理想的である.新来外国出身者を受 け入れ る 自治体 は日本語学習機会 の提供のため,教授者育成, 確保の システムを整備す る必要が あ る. これ まで, ボランテ ィアに全面的に依存 して きた社会 コス トを ある程度負担す る必要があることを,行政 は認識 し なければな らない.本稿で述べた人材育成 に関す る コス トについては

,

「日本語 ボランティア養成講座」

を無料で提供す ることによって既 に負担 している自 治体 も多 いが,すべての自治体が実施 しているわけ ではな く, また,県 レベルで負担す るのか市町村 レ ベルで負担す るのか という議論 も絶 え ない. まず, 国が,基本的人権 と しての言語保障を再認識 し,多 文化 に向か う日本社会 の現実 を的確 に捉 えた指針 を 出す ことが望 まれ る.

i 文化庁文化部国語課調査 による 「国内の日本語 教育の概要」 では,地域 の居住者 を対象 とす る日 本語教育機関 ・施設数 は平成

1 0

年度調査では

5 5 9

, 平成11年度調査では

6 0 8

とな って いる. また, 学 習者数 は,平成

1 0

年度調査で

2 5, 5 8 8

名,平成 11年 度調査では

2 7, 3 2 7

名である.

ii ここでい う教育機関 とは, 日本語学校,大学等, 教育機関 として正式 に認可 されている機関を示 し, 単 に日本語教育 を行 う団体 とい う意味合 いではな

い.

ii ボランテ ィアには,経費 まで含 めて完全 に無償 のケース,交通費などの経費 を支給 されるケース, 若干の謝金 を支給 される有償のケースがある.文 化庁国語課調査 によると,平成

1 0

年度調査では地 域の居住者 を対象 とす る日本語教育機関 ・施設の 教員 は,平成

1 0

年度調査で は

1 0, 8 4 8

名中, ボ ラ ン テ ィア等が

9, 5 2 2

名,平成 11年度調査 で は同 じく

1 3, 0 3 5

名中

1 2, 0 2 6

名がボランテ ィア等 とな って い る.

iv 内海他

( 1 9 9 9 )

は, 日本語教室の機能 を 「学習 機能」 と 「チ ャンネル機能」 の二つの側面か ら捉 えている.

昭和

6 0

5

月 に文部省 日本語教育施策 の推進 に 関す る調査研究会か ら出された 「日本語教員の養 成等 について」 の報告書 の中に示 されている.大 学等の 日本語教員養成課程では, この枠組みに従 っ た内容の教育が行われている. この内容 は, 日本 の大学等 に留学す る外国人留学生 を対象 とす る日 本語教育 を基準 と して構成 されている.

v

i 平成

1 3

4

月よ り,㈲国際 日本語普及協会 ホー ムページにて公開 されている リソース集.登録す れば無料で使用で きる.

vi 松 岡他

( 2 0 0

1)

vB 平成

1 3

年度 よ り柳国際 日本語普及協会 によ り実 施 されている講座.

A,B,C

3

種類 の講座 が あ り,Cでは, カウ ンセ リング,行政 との連携方 法などコーデ ィネータに必要 なさまざまな知識 の 習得 を目指 したプログラムが実施 されている.

i x

なお,学齢期 の子 どもの 日本語習得については, 生活言語 だけでな く,学習言語 の習得が不可欠で ある.

x

例えば,水谷

( 1 9 9 3 )

は 「対談 日本語教育の ゆ くえ」 (外国人への日本語 の教え方入門‑アル

語保障 について触れている. また, 山田

( 1 9 9 7)

も同様 の指摘を している. ほかに も社会教育 に関 す る参考文献を参照 されたい.

参考文献 (書籍 ・論文)

内海 由美子,富谷玲子

( 1 9 99 )「日本語教室 で活動

す る支援者 のための支援 の可能性」 『中国帰 国者 定着促進 セ ンター紀要第

7

号』

鐘 ケ江晴彦

( 2 0 01 )

外国人労 働者 の人権 と地域社

(8)

会 一日本の現状 と市民の意識 ・活動 ‑』明石書店 月刊社会教育編集部

( 1 9 9 3 )

『日本で暮 らす外国人

の学習権』国土社

日本社会教育学会編

( 1 9 9 5 )

『多文化 ・民族共生社 会 と生涯学習』東洋館出版社

長沢成次

( 2 0 0 0 )『

多文化 ・多民族共生 のまちづ く り一広がるネッ トワークと日本語学習支援 ‑』 エ イデル研究所

松岡洋子,足立祐子,福永由佳,植木正裕

( 2 0 01 )

地域の日本語学習支援者用 自律型研修 ソフ トの 開発」『

2 0 01

年度 日本語教育学会秋季大会発表予 稿集』

松岡洋子

( 2 0 0 2

予定)「生活 日本語コミュニケーショ ン能力の構成要素 一映像教材調査分折か らの一考

‑ 」『 1 9 9 9

年度 トヨタ財団研究助成報告書 「地 域で展開される外国人居住者支援のための総合的 研究 ‑日本語教育が提言する外国人居住者 と日 本人居住者の地域密着型の新 しい関係‑」

山田泉

( 1 9 9 7 )

地域 における日本語教育

『日本語

学』vo

l . 1 6 5

月臨時増刊号 明治書院

( URL)

www. bunnka. go. j p/ 5 /1 / C1 . ht ml

今後の日本語教育施策の推進 に関する調査研究報 告」

( 1 9 9 9 )

文化庁文化部国語課

www. bunnka. go. j p/1 / 2 /1 ‑ 2 ‑ E. ht ml

「日本語教育実態調査 一平成1

2

年度国内の日本語教 育の概要

‑」( 2 0 0 0 )文化庁文化部国語課 www. bunnka. go. j p/ 2 /1 / 0 0 ‑ 4 ‑ 2. ht ml

「日本語教育 のための教員養成 につ いて」 (

2 0 0 0)

日本語教員の養成 に関する調査研究協力者会議

www. aj al t . or g/ r e s our r c e

「リソース型生活 日本語」(

2 0 0

1)㈲ 国際 日本語普 及協会

Summar y

Japane s el anguagec l as s e si nc ommuni t i e shave t hr

e

edi f f e r e ntf unc t i onsf ors uppor t l ngnOn‑ Jap‑

ane s es pe ake r s:s ys t e mat i cl anguageac qul S l t l On

,

C ommuni c at i ons ki l l sac qul S i t l On,andpr omot i ng mul t i c ul t ur als ymbi os i s .Thi spape rdi s c us s e st he humanr e s our c epr ogr amsr e qui r e df o rt hede ve l op‑

me ntoft hef unc t i ons .

Ke yWor ds: Japane s easaSe c ondLanguage , Com‑

munl t y Japane s el anguageCl as s e s

,

Sys t e mat i cJapane s el angua geKnow1 ‑ e d ge , Dai l yJapane s eCommunl C at i on Ski l

l

s , Mul t l C ul t ur alSymbl OS

I

S , Tr ai n‑

1 ngPr o gr amsf o rHumanRe s nl 汀C e S

( Re c e i ve dJanuar y2 2,2 0 0 2 )

参照

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