小安峡大境湯 における河風 呂構想 に関す る水文学的研究
柏 木 麻 子
キーワー ド:河風 呂 河川水温 熱水 小安峡大境湯
Ⅰ は じめに
1. 従来の研究
温泉の研究 としては、温泉成分 についての研究 は 多 く、特 に衛生化学、地球科学などの分野で進め ら れている。各湧出口の湧出量 についての論文 として は、本研究対象地域である秋田県皆瀬村小安峡を事 例 として、大境湯付近での湧出量を観測 し、河川水 温 にどのような影響を与えるかを明 らかに した広川
(2001)がある。
2.研究の目的
本研究では、秋 田県皆瀬村小安峡大境湯付近 にお ける、熱水の湧出位置 と湧出量および湧出 した熱水 が河川水温へ及ぼす影響 について明 らかにすること、
第1図 研究対象地域図 (2004年) (1:4000ゼ ン リン住宅地図 「皆瀬村」 および現地調査 より作成)
さらに河川 自体が天然の河風 呂としてどのように活 用で きるかについて考察す ることを目的 とす る。な お、観測 は2003年11月か ら2004年11月までの期間に おいて行 った。
Ⅱ 研究対象地域の概要
秋田県皆瀬村 は秋田県の南東端 に位置 している。
研究対象地域である小安峡大境湯 は皆瀬村のほぼ中 心部 に位置 している。川原の絶壁の割れ 目か ら熱水 の噴出による白煙が立 ち上 る大境湯 は、皆瀬村の主 要な観光資源 とな っている。研究対象地域 は第1図
に示 した。
Ⅲ 熱水の湧出および河川水温 に関する観測結果
1. 湧出口の分布 と湧出量 1) 湧出口の分布
熱水の湧出量に関す る観測 は2004年7月か ら11月 までの計4回に渡 って行 った。
湧出口は主 に河川の左岸側で多 く見 られる。湧出 口の大 きさは大小様々である。小 さい湧出口は数多 く見 られるが、河川の上流部 と大境湯の中心部に特 に多 く見 られ るため、 それ らの位置を確認 した。 こ れ らの小さい湧出口は、岩の問か ら流れ出るように 湧出 している。大境湯付近では、岩の間か ら上方‑
自噴するように噴出 している湧出口や、真横へ噴出 して.いる湧出口が見 られた。
大 きい湧出口においては、湧出量を継続 して観測 しJた。湧出口は計8箇所ある。データを比較 しやす 1.‑よう.7=、各湧出口は広川 (2001) と同 じナ ンバ リ
ン グ;=した。
三二 湧出量
湧出量の観測結果 は第1表 に示 した。各湧出口の 湧出 達は 1L/秒未満か ら25L/秒 と幅広 い値 とな っ たこ最大湧出量 は湧 出口4で観測 され、12L/秒か
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第1表 各湧出口における湧出量 (2004年)
地点1地点2地点3地点4地点5地点A 地点B 地点C 2001.6,1 × × × 16.92 〉く × 〉く × 2001.7.ー7・ 0.19 0.41 ‑0.ー5 19.56 ・1.43 × 〉く × 2001.8.9 0.17 0.29 0.12 19.32 1.31 × × × 2001.10,6 0.23 0.48 0.12‑ 21.43 1.27 0.23 0.26 0.32 200日一.26 .0.24 0..52 0.28 15.1 1.18 0.22 0.34 ×
2003.7.24 × × × × 1.6 × × 0.29 2003,7.25 × × 0.12 16.7 × × × × 2003.ll,18 〉く × × × 1.28 0.24 0.29 0.27 2004,7,4 〉く 0.37 0.13 25.46 × 0.26 0.52 × 2004.9.5 × × × 20.99 0.95 0.26. × 1,48 2004.ll.8 × 0.26 0,17 12.74 × 〉く × 1.34
注 1)現地調査 よ り作成 注2)×は未計測
注3)2001年6月〜11月 までの値 は広川 (2001)よ り引用
ら25L/秒 とい う結果であ った。他 の湧 出口につ い て は、湧 出量が1L/秒前後 もしくは1L/秒未満 と ほぼ変わ らない値を示 した。
湧出口1か ら湧出口3にかけては共通 して、2001 年の11月に最大湧出量を記録 した。そ して、湧出口 4か ら湧出口Bにかけては共通 して、2004年の7月
に最大湧出量を記録 した。
また、最小湧出量 はすべての湧出口において秋 口 に確認 された。
2.河川の水温 1) 河川水温の概観
河川水温の観測結果 は第2表 に示 した。観測箇所 は第1図に示 してある。観測箇所 は上流のTlか ら 始 まり、T13までの13個所である。大境湯付近では 河川へ熱水が流入 している。そのため大境湯付近を 河川の水が流下 した後、河川の水温 は上昇す るもの と考え られる。 しか し、すべての調査 日において下 流で温度が高 くなるという結果 にはならなか った。
河川 の水温 と水位 の関係 につ いてみてい くと、
2003年の11月や2004年の7月など、河川の水温が高 い日はど河川の流出量が少な く、2004年の4月や11 月など、河川の水温が低い日はど流出量が多いこと が確認 される。 こめ ことか ら、河川の水温 は河川の 流出量 に大 きく影響 され ることが確認 された。 しか し、2004年の11月8日においては現地調査の値 と資 料上での値が異なる結果が得 られたので、例外 とし て考えることとした。
2) 縦断面の水温分布
縦断面の水温計測結果については第2図に示 した。
2004年7月4日 (図中のA)と、2004年9月5日 (図中の B) の水温分布では、水面で50℃ とい う高 温の値が確認 された。 また、水温 は水面か ら深 さ20
cm前後 で40℃か ら45℃、深 さ40cm前後で30℃か ら35℃、 さ らに深 さ1m以下 で30℃前後 とい う帯 状の水温分布を示 した。 このよ うに水面か ら河床 に 向けて水温 は段々と低下 した。2004年11月8日 (図 中のC)では、水温 は水面で最高30℃前後 という値 を示 した。 この 日は河川の流出量が多 く、流速 も速 か ったため、流入 した熱水 も水流の影響を受 け、温 度 は帯状を示 さなか ったものと考え られる。2004年 11月21日 (図中のD)で は、 水面 で最高18℃ と4 回の観測の中で最 も低 い値を示 し、 この 日は、河川 の流量が多 く、流れ も渦を巻 くように乱流 にな って いたため、河川の水温 は帯状を示 さなか った。
2004年7月 と2004年9月の計測時は、河床が水面 よ り深 さ2m前後 の位置 にあ ったため、観測す る ことがで きたが、2004年11月の2回の観測時は河床 が水面 よ り深 さ3m以上 もあ ったため、観測 をす る用意がな く、観測で きなか った。
3)横断面の水温分布
横断面の河川水温の計測は2004年9月5日に行 っ た。横断面の水温分布 は第3図に示 した。横断面 は a‑a■断面 (図中のA)、b‑b'断面 (図中のB)の
2箇所 を測定 した (第1図参照)。a‑a.断面、b‑
b一断面 ともに、水面 の一部 で50℃以上 とい う高温 を示 し、水面か ら深 さ20cmまでは40℃以上 の層 と
第2表 皆瀬川大境湯 における河川水温 (2004年)
観測地 点 2003,ll,18 2004,4,29 200417.4 2004,日,8 2004,ll,21
T1 25.3 ・7.2 28.7 12.2 10.7 T2 26,5■ 33.4 .27.5 12.0 10.5 T3 ■40.5 7.5 28.6 12.9 ll.0 T4 47.0 10.0 41..8 19.6 18.0 T5 38.5 7.8 33.0 14.3■ 12.8 T7 38.9 × 34.5 × ×
T8 40.0. × 33.4 ..× ×
T9 ー39.6 7.7 31.■9 13二9 12.4 T10 ・39.5 7.8 32.7 23.1 18.5 Tll ・39.5 × × × × T12 38.5 × × × ×
丁13 38.5 × × × ×
川の流出量 × ×390旦′秒 × ×
水位 × ×2.83m2.57m 2.4m
注 1)現地調査 よ り作成 注2)×は末計測
注3)11月8日と11月21日は水量が多か ったため流出量 は測 れなかった。
注4)水位 とは地点Aの真上の岩 を基準 と し、基準か らの 距離 である。
注5)流 出量 とはダムで計測 している資料 による。
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L.1 (m)
0
‑ 1
・‑2
(m) 0
‑ 1
‑2
0 2 4 6 8 10 12 14 (m)
LI Ll'
50℃ 46℃ 46℃ 46℃ 水面 45℃
■43(
B
0 2 4 6 8 10 12 14 (m)
‑ 20℃ レ
3JOtZ,{16℃ lBJ℃ 水面 . ▲ 1
0 2 4 6 8 10 12 14
(m)
L・1 15℃ L‑1'
1軽 ,1/1℃ 11℃ 水面
し /
0 2 4 6 8 10 12 14 (m)
第2図 縦断面の水温分布
(2004年 現地調査より作成) A 2004年7月4日 C 2004年11月8日 B 2004年9月5日 D 2004年11月21日
なった。そ して深 さ1mまでは30℃以上の層 とな っ てお り、河床 にむけて温度 は低下 した。a‑a■断面 の河床付近で温度が逆転 しているのは、河床 にある 湧出口より熱水が湧出されているためと考え られる。
Ⅳ 河風呂利用についての考察
河風 呂として使用す るために必要な第 1条件は河
らo℃ 45℃ 水 面
第3図 横断面の水温分布
(2004年 現地調査 より作成) A a‑a' 断面 B b‑b'断面
川が入浴可能な温度であること、第2条件 は安全 に 入浴が出来 る場所を選定することである。
1.河風 呂使用の時期 について
河風 呂 (温水が流れている河川その もの) は、河 川の流出量や季節、天候の影響を受 け易 いため、毎 日使用できるわけではない。河川の流出量が増加す ると、河川の水温が風 呂として使用で きる温度でな くなって しまう。河川の水温が風 呂として使用で き る温度を40℃ とす る。調査の結果 より、河川の水温 が40℃ にな るのは、水面が湧 出口Aの真上 にある 水平の岩 より2.83m下方 にあるときであった。水面 の高 さは毎 日計測 してはいないので、 この値を毎 日 の値がある皆瀬 ダムでの河川流入量 に重ね合わせて み ると、 この 日の流 出量 は5.72L/秒 であ った。 つ ま り、 河川 の流出量 が5.72L/秒以下 の 日を河風 呂 として入浴が可能である日と考え られる。 このこと か ら2003年、2004年の河川流出量の変化 より、入浴 可能であると考え られる日数を数え、その結果より 考察を行 った。
それによると2003年、2004年 ともに4月、5月 と いった春の新緑の時期 における入浴可能 日はゼロで ある。 これは、皆瀬川上流部 より融雪水が流れて く るため、河川の流量 は増加 していることが原因であ ると考え られる。 また、秋の入浴可能 日が月の半分
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程度 と多 く見 られ る。 冬 の入 浴可能 日は月 の2/3
以上 の24日前後 と最 も多 く見 られ る。そのため、入 浴 に向いているといえるが、本地域 は降雪が多 い地 域であ り、河川へ降 りるための遊歩道が雪で埋 もれ て しまう。
以上の ことよ り、河川への下 りやすさや入浴可能 日の多 さか ら、秋が入浴 に最適だ と考え られ る。 ま た、秋の入浴 は紅葉 の時期 とも重 なるため、紅葉 に 注 目した河風 呂とす ることも可能である。
2.人浴場所 について
第2条件である入浴場所 の選定 について は調査結 果 よ り河川 を3つの地区に区分 した。上流部か ら河 床階段部、深部渓谷部、河川広域部 とした。
1) 河床階段部
河床階段部 は水深が2mほどの深 さか ら河床 が 階段状 にな っている。河川 の水温 は熱めである。大 人で も立 って足がっかないほどの深 さである。 そ し て大境湯の前 とい うことで人 目につ く場所であると いえ る。 これ らの ことか ら、河床階段部 は
・泳げる人
・大人 の人
・人 目について もかまわない人
・熱めの湯を好む人 に適 している地区 といえ る。
2) 深部渓谷部
深部渓谷部 は3つの地区の中で もっとも狭 い河川 の幅を持っ地区で、両側 を高 さ2mほどの切 り立 っ た岩で区切 られている。遊歩道か らも人 目につ きに くい。 これ らの ことか ら、大人 の人、泳 げる人を前 提に
・人 目を避 けて入浴 したい人
・自然 をよ り一層身近 に感 じたい人 に適 している地区 といえ る。
また、河川 の両側が滑 りやすい岩 なので、人々が 手す り代 わ りに利用で きるよ うな、 自然 にな じむ太 く長 い流木 を河川 に渡すなどの工夫が必要である。
3) 河川広域部
河川広域部では川幅が広 いため、流速 も遅 い。入 浴 している間 はほとん ど流れを感 じることのない程 度 の流速である。 また深 さも左岸では大人が座 って 腰 くらいの浅 さか ら、河川 の中央か ら右岸 にかけて は足が届かな くなる深 さまで と幅広 いことか ら、 こ の地区は子供で も大人 と一緒であれば入浴可能であ り、 ファミリー向けともいうことができる。また広々
とした空間を生か し、浮 き具の使用 も可能であるた め、泳 ぎに自身がない人 も入浴で きる。以上 の こと か ら、 この地区 は、
・子供づれの人
・泳 ぎが得意でない人
・のんび りと露天風 呂を楽 しみたい人 に適 している・地区 といえる。
以上 のように河川 を3つの地区に区分す ることに よ り、 自分 に見合 った入浴場所で入浴す ることで、
よ り安全 に、 よ り楽 しく入浴 して もらうことが可能 になる。
また、 河川 の流量 が多 い際 には、 湧 出口Cが河 川へ流れ込んでいる場所で足湯が可能である。
Ⅴ おわ りに
本稿で は小安峡大境湯付近 における湧 出量 と熱水 による河川への影響 を調査 し、 その結果 を用 いて河 風 呂構想 を考案 した。他県 には河川 をそのまま露天 風 呂と して使用 し、人気 を得ている例 もある。本地 域 も構想 としてだけはでな く、実際に使用で きる河 風 呂として売 り出す と、集客が見込 めると考え られ
る。
今後 の課題 としては、河風 呂の安全性 を高 めるた めに も河床の定期的観測、河川 の流出量 と水温の関 係、 さらに今回の調査で不足 していた入浴場所 にお ける流速 を継続 して計測 ・調査す ることが必要であ ろ う。入浴可能 日数 については過去 の諸資料 を重ね 合わせ ることによ り各月 ごとの平均値 を抽出 して、
さ らに安全な時期 を定 めたい。
本論文を作成す るにあた り、秋 田大学地理学研究 室 の肥 田 登先生か らご指導 をいただ きま した。現 地調査では、秋 田県皆瀬村役場、皆瀬 ・板戸 ダム管 理事務所の方 々か らご協力を賜 りま した。 また現地 調査においては、秋 田大学地理学研究室の利部慎氏、
湊聖佳氏、若狭真紀氏か ら多大 な ご協力を得 た。末 筆 なが ら、以上 の方 々に深 く感謝 申 し上 げます。
文 献
広川 信也 (2001);温泉湧 出量 と河川水温 に関す る水文学的研究一秋 田県皆瀬村小安峡温泉 を事例 として‑.秋大地理第49号,65‑69.
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