洪水流による河口砂州と河川構造物周辺河床の変動に関する研究
Study on the bed variations around river mouth sandbars and river structures due to flood flows
土木工学専攻
25号 立山 政樹
Masaki TATEYAMA1.序論
阿賀野川河口部では,平均粒径0.5mmの砂で構成され る河口砂州が両岸より大きく発達しており,河口を一部 閉塞している.平水時の河口砂州は,河道内への波浪の 進入を防ぐことで水面の静穏を保ち,塩水遡上距離を抑 制する役割を持つ.一方,洪水時には河口砂州が洪水流 下の妨げとなるため,洪水水位の上昇を引き起こす.更 に河口砂州は洪水時に周辺河床の大幅な変動を引き起こ しつつ,自身も洪水時間経過と共に変化するため,それ に応じて河口砂州による水位上昇量も時間的に変化する.
洪水水位ピークと河口砂州による水位上昇のピークが近 い時間帯に発生すると堤防からの越流や漏水,パイピン グ等の水害リスクが高まり危険であることから,洪水時 における砂州の崩壊の変化過程を明らかにすることが求 められている.また,9.0kmから22.0km区間では連続し た湾曲部外岸の局所洗掘対策としてベーン工や水没水制 工等の河川構造物が設置されている.しかし,洪水中そ れぞれの構造物が洪水流や河床変動に対し,果たす機能 は明確でないため,これらのことを明らかにすることが 求められている.本文では,観測データを用いて洪水時 の河口砂州変化についての検討を行う.次に,一般底面 流速解析法を用いた解析の結果より,河口砂州と周辺河 床の変動について検討する.
2.阿賀野川平成
23年
7月洪水の概要
図-1に対象河川とする阿賀野川の河口から22.0kmま での平面図を示す.0.0km付近で両岸から河口砂州が発 達している様子が分かる.9.0kmより上流の河道線形は3 度大きく湾曲しており,外岸側の局所洗掘対策工として
10km付近にはベーン工,15km付近には水没水制工が設置されている.図-2には,横越水位流量観測所(13.6km) 地点と新潟西港(日本海)で観測された水位ハイドログラ フを示す.対象洪水が三山のピークを持った継続時間の 長い洪水であったことが分かる.本研究ではこれらのピ ークを発生時間順に“Peak1” , “Peak2 ” , “Peak3”と定義 する.また,横越観測所における観測ピーク流量は約
11,000m3/sに達し,計画高水流量13,100m3/sに匹敵する観測史上最大規模の出水であった.
3.洪水観測データ等による河口砂州変化の推定方法 (1) 阿賀野川における洪水観測体制
水面形の時間変化データには,全ての洪水現象が積分 された形で含まれていることから, 阿賀野川河口部では,
洪水時の河口砂州による水位上昇と河口砂州挙動を把握
するため, 図-1 に示すように時空間的に密な水位観測体 制が整備され, 平成
23年
7月洪水時の水面形の時間変化 データを取得することが出来た.また,阿賀野川では多 数の河川監視用定点カメラ(以下,CCTV カメラ)によっ て洪水時の河川の様子を監視している.この内,0.8km 右岸堤防上(図-4)に設置された
CCTVカメラによって図 -3 に示すような洪水中の右岸河口砂州の写真が断続的 に得られた.
(2) 洪水観測データ等を用いた洪水時河口砂州形状変 化の検討方法
CCTV
カメラ画像より水没していない右岸河口砂州先 端の位置を調べ,洪水時における右岸河口砂州拡幅の検 討を行う.検討方法について図-3 に示す洪水時撮影画像 を例に説明する.まず,新潟空港進入灯と左岸先端の間 を距離
aとし,左岸先端と右岸河口砂州先端の間を距離
bとする.次に図-4 に示す平面図上で
CCTVカメラ位置 と空港進入灯先端を結んだ直線の延長線と左岸の交点と 左岸先端の間を距離
Lとする.これは
CCTVカメラ画像
(図-3)上の距離a
に対応するものである.CCTV カメラ
画像のひずみを無視し,a:b=L:x の関係から
xを求め,x の先端とカメラ位置を結び,河口砂州幅算定位置と交わ
図-1 阿賀野川水位流量観測位置と水制設置位置
0 1 2 3 4 5 6 7 8
0 50 100 150 200
Water level (T.P.m)
Time in the computation (hour)
Observed at Niigata West Port Observed at Yokogoshi (13.5km) Peak3(86h)
Peak2(69h) Peak1(52h)
151h
水位(T.P.m)
計算内時間(hour)
新潟西港水位観測値 横越水位観測値(13.5km)
図-2 平成 23 年 7 月洪水観測水位ハイドログラフ
0.0km 1.0km 2.0km 3.0km 4.0km
5.0km 0k 2k
4k 6k 8k 10k
12k 14k16k
18k20k 22k
:水位観測位置
:流量観測位置
:低水路肩
松 ヶ 崎 水 位 観 測 所 (1.2km)
胡 桃 山 外 水 水 位 観 測 所 (5.0km)
横 越 水 位 流 量 観 測 所 (13.6km)
横越地区水制工設置区間 灰塚地区ベーン工設置区間
沢海第一床固 沢海第二床固
る位置を写真撮影時の河口砂州先端とする.そして,洪 水前の河口砂州先端から写真撮影時の砂州先端までの後 退距離を本研究では拡幅量と定義し,河口砂州の形状変 化を追う.
4.一般底面流速解析法と河床変動解析法の概要 (1) 一般底面流速解析法
一般底面流速解析法
1)は,平面二次元解析の枠組みの 中で鉛直方向流速と非静水圧成分の鉛直分布を解かずに,
流れの三次元性を考慮し,底面流速を求めることが出来 る特徴を持つ.本解析法では,河床面より僅かに z
bだ
け上の面を底面
zbとし,この面での底面流速 u
bを解く
ことを考えている.ここで
zb/h1である.
底面流速は,水平方向の渦度の定義式を底面 z
bから水面 z
sまでの水深hで積分した式(1)より評価する.
i b b i s s i j
ij si
bi x
w z x w z x h Wh u
u 3 (1)
ここに
i,j1,2(x,y方向
), u
si:水表面流速,
ij3:エディト
ンのイプシロン,
j
:水深平均水平方向渦度,W:水深平 均鉛直方向流速である.水面,底面の鉛直方向流速
ws,
wbは,それぞれ水面と底面での運動学的境界条件 より表すことが出来る.底面流速を式(1)から求めるため,
流速鉛直分布式(2)を用い,水深積分連続式,水深積分運 動方程式,水深積分渦度方程式,水表面流速方程式,水 深積分鉛直方向流速の時間変化ポアソン方程式,水深積 分鉛直方向運動方程式が解かれる.流速鉛直分布式(2)は,
三次式を仮定し,境界条件与えることで式(2)のように表 すことができる.
1122123
3243
i i i i
i u U u u
u (2)
ここに,
Ui:水深平均流速,i si
i u U
u
,
bi si
i u u
u
,
zsz
h ,us,ub:
それぞれ水面,底面での流速であ る.詳細は文献
1)を参考されたい.
(2) 河床変動解析法
従来の河口砂州の崩壊解析に用いてきた平面二次元解 析法による河口砂州変動解析では,砂州近傍の流れの三 次元性を考慮することが出来ず,底面流速を正しく評価 することが出来ないため,流砂量の計算精度が低く河床 洗掘と河岸浸食を分けて計算されてきた.しかし河口で の河床の粒径が小さいことから,河岸と河床は連続的に 接続し川底を成していると見なせるため,これを区別し
て別々に計算することは河口砂州フラッシュの本質的な 解析法に成り得ないと考える.本研究では,河岸は河床 と連続する斜面とみなして,一般底面流速解析法より流 れの三次元性と底面での非静水圧分布を考慮した河岸と 河床での底面流速を評価し,河床縦横断勾配を考慮した 福岡・山坂の式(3),(4)より掃流力を計算する.
2 2
y
x
(3)
x z x
z b
s c x x b s c x
x
0 , 0 (4)
ここで
:斜面上の無次元掃流力,
x,
y:それぞれ x,y方向の斜面上無次元掃流力,
x,
y:それぞれ x,y方向 の平坦河床の無次元掃流力,
c0:平坦河床の無次元掃流力,
s:静止摩擦係数である.計算された斜面上の無次元掃流力を芦田・道上式に代入することで河床・河岸の掃 流砂量を求め,合わせて浮遊砂を考慮し,流砂の連続式 より河床高を計算する.浮遊砂濃度の計算には,水深積 分した平面二次元移流拡散方程式,鉛直濃度分布式には
Lane-Kalinske
の式,浮上量には板倉・岸の式,沈降速度
式には
Rubeyの式をそれぞれ適用した.
(3) 解析条件の設定
解析の境界条件は,図-2に示す横越と新潟西港におけ る観測水位ハイドログラフをそれぞれ13.6kmと日本海
(-3.0km)地点に与えている.
図-5には河口部の解析メッシ
ュを示す.河口砂州周辺の流線の曲がりに起因する流れ の三次元性を考慮するため,解析メッシュサイズは,河 口砂州周辺で縦横方向に5mとしており,それ以外の場所 では10mから20mとしている.河口砂州上を越流する流 れの有無が河口砂州及び周辺河床の変化に大きく影響す るため,精度の高い初期地形を設定する必要がある.図 -6には,定期横断測量線と洪水前観測河床高コンター図 を示している.初期の河口砂州周辺地形(図-10(a))を設 定する際には,200m毎の定期測量横断図を用いた上で,
洪水前観測河床高コンター図を正確に再現することに努 めた.また,初期右岸河口砂州形状の設定には,図-7に 示す洪水時空撮写真より水際線位置(図内黒破線
)を判読し,その水際線の標高を写真撮影と同時刻の0.4km観測 水位から推定することで得られる等高線を用いている.
初期左岸河口砂州形状も右岸河口砂州形状設定時と同様 図-3 0.8kmCCTV カメラ画像 図-4 河口砂州拡幅量の算定方法 写真-1 洪水直後航空写真
a b
新潟空港進入灯 右岸河口砂州
航空写真:2010年11月撮影 :浜松橋右岸CCTVカメラ(0.8km) :河口砂州の拡幅量算定位置
L x
:0.4km水位計
にして設定を行うが,左岸側では左岸痕跡水位を参考に 標高の推定を行っている.
5.洪水流による河口砂州及び周辺河床の時間的変化 (1)洪水観測データ等による河口砂州形状変化の推定
図-8には,3章で示した手法より得られた河口砂州拡 幅量の時間変化と0.4km観測水位ハイドログラフとの関 係を示す.この手法により求めた洪水後の右岸河口砂州 拡幅量は写真-1に示す洪水直後航空写真から読み取れる ものよりやや小さく見積もられている.これはa, bを決定 する際に遠近補正を行わなかったことが原因として考え られるがその差はあまり大きくないと判断される.この 検討より洪水時の右岸河口砂州はPeak2の後からPeak3の 後にかけて急激に拡幅が進行し,減水期後半の拡幅量が それほど大きくない河口砂州挙動が明らかとなった.ま た,右岸河口砂州は洪水ピーク直後に少なくとも140mか ら最大175mまで拡幅されていることがわかった.左岸砂 州を確認できる写真は洪水中に撮影されていないが,洪 水前後の航空写真より100m程度の拡幅を確認した.
(2)一般底面流速解析法による河口砂州及び周辺河床の 時間変化解析
図-9 には,3 つのピーク時の解析と観測水面形及び痕 跡水位の比較を示す.解析水位は,概ね観測水位と痕跡 水位を再現している.0.2km から
4.0kmまでの左岸痕跡 水位は,ほぼ直線河道であるにもかかわらず縦断的に左 右岸で
0.5mの差があることから,痕跡水位の精度があ まり高くない.図-10 には,河床変動解析結果と洪水後 観測結果より得られた河床高コンター図を示す.図-11 には,横断面の河床変動解析結果と解析水面形及び洪水 後観測結果を示す.ここで示す洪水後観測データは,洪 水終了
5か月後の観測結果である.この間,海からの漂 砂や波浪等の影響を受け,河口形状が大きく変化してい ると考えられ,参考値として議論されるべきものである と考える.図-11(a)に示す
0.2km断面において,Peak1
から
Peak2の間では,河口砂州の拡幅は小さい.一方,
Peak2
から
Peak3の間に河口砂州は比較的大きく拡幅し
ている.これは, 図-11(b)に示す
0.25km断面をみると,
Peak2
付近でこの断面上を越流する河口砂州上の流れが
生じ,河口砂州前面部の流失を引き起こしている.その
ため
Peak2以降,0.2km 河口砂州上を越流する流れが生
じ,Peak3 までに拡幅されたと考えられる.しかし,左 岸河口砂州の拡幅は十分に再現されていない上,堆積が 生じている. 図-12 には,
Peak3時の河口砂州周辺の流れ 場を示す.これより左岸砂州先端の海側が剥離域となる ため土砂堆積が生じたことが分かる.また,河口砂州が 大きく拡幅した右岸砂州上を越流する流れは,越流水深
2m,底面流速2
から
3m/s程度であるのに対し,左岸砂州
上では越流水深
1m,底面流速が1m前後であるため,左 岸砂州の拡幅が生じなかったと考えられる.このことか ら越流を伴う洪水流による河口砂州変動を解析する上で 河口砂州上の越流水深が重要であるため,初期河口砂州 形状を精度よく把握する事が必要であると言える.
河口砂州周辺では,右岸河口砂州を回り込むような洗 掘や河口砂州上流の河道中央における堆積等の範囲や位
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
-3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
水位(T.P.m)
縦断距離(km)
図-9 解析・観測水面形と洪水痕跡水位の比較
Peak1観測 Peak2観測 Peak3観測
Peak1解析(L) Peak2解析(L) Peak3解析(L)
Peak1解析(C) Peak2解析(C) Peak3解析(C)
Peak1解析(R) Peak2解析(R) Peak3解析(R)
右岸痕跡水位 左岸痕跡水位
右岸痕跡水位 左岸痕跡水位
-0.6km
-0.6km
0.0km 0.0km 0.2km
0.2km 0.4km 0.4km
1.0km
1.0km
図-5 河口砂州周辺の解析メッシュ形状
0.0km 0.2km
0.4km 0.6km
0.8km 1.0km
図-6 洪水前観測河床高コンター図
0.4km観測水位 (2.3T.P.m)
0.2km左岸痕跡水位 (1.8T.P.m)
図-7 ラジコンヘリコプターを用 いた洪水時空撮写真
図-8 河口砂州拡幅量と観測水位の時間変化の関係
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 2000.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5
河口砂州拡幅量(m)
観測水位(T.P.m)
観測水位0.4km CCTVカメラ(右岸砂州) 洪水直後航空写真(右岸) 洪水直後航空写真(左岸)
置を概ね捉えられている.また,周辺の水表面流速と底 面流速の方向が大きく異なるため,流線の曲がりによる 流れの三次元性を考慮することが重要であると言える.
図-10(c)(d)(e)より,河口砂州の上流に堆積する土砂が
Peak3
頃までに河口狭窄部まで遷移し,その後も遷移が
継続するため,相当量の河口河床の埋め戻しが生じたこ とが分かる.河口部の海側では,peak1 の時点で既に海 に向かって広がる形の土砂堆積が確認でき,その後も洪 水中継続的に堆積が生じることが分かる.
6.結論
本研究では,平成23年7月阿賀野川洪水時の河口砂州 と周辺河床の変化を明らかにするため,洪水実測デー タの検討と一般底面流速解析法を用いた洪水流河床 変動解析を行った.主な結論は以下のとおりである.
(1)洪水時のCCTVカメラ写真と一般底面流速解析法を用
いた河口砂州変動解析によって,河口砂州がPeak2から
Peak3にかけて大きく拡幅され,減水期後半にはほとんど拡幅しないことが明らかとなった.また,河口砂州 上を越流する流れが大きいほど,河口砂州が拡幅され ることを示した.河口狭窄部は,洪水ピーク頃から河 口砂州上流に堆積した砂州によって埋め戻されるこ と,河口砂州の海側に海に向かって広がる形の土砂堆 積が生じることを示した.
(2)
河口砂州と周辺河床の変動を解析する際には,水深 スケール以下のメッシュサイズを用い,流れの三次元 性を考慮することが重要であり,その高精度な解析を 行うためには,河口砂州上を越流する流れが重要であ るため,詳細な観測によって初期河口砂州形状及び周 辺地形が把握されることが不可欠であることが示さ れた.
参考文献
1)内田龍彦,福岡捷二:浅水流の仮定を用いない水深積
分モデルによる底面流速の解析法,土木学会論文集
B1(水工学),第56巻,I_1225-I_1230,2012.図-11 横断面の河床,水位解析の時間変化と洪水後観測河床の比較 図-10 洪水前, 洪水解析後,洪水後観測の河床高コンターの比較
-25 -20 -15 -10 -5 0 5
-50 50 150 250 350 450 550 650 750 850 950
河床高・水位(T.P.m)
横断距離(m)
-25 -20 -15 -10 -5 0 5
-50 50 150 250 350 450 550 650 750 850 950
河床高・水位(T.P.m)
横断距離(m)
(a)0.2km 横断面 (b)0.25km 横断面
洪水前 解析:Peak1 解析:Peak2 解析:Peak3 解析:洪水後 洪水後 解析水位:Peak1 解析水位:Peak2 解析水位:Peak3 解析水位:洪水後
-0.6km
0.4km 0.6km 0.8km 0.2km
0.0km -0.1km
-0.6km
0.4km 0.6km 0.8km 0.0km
-0.1km 0.2km
-0.6km
0.4km 0.6km 0.8km 0.0km
-0.1km 0.2km
-0.6km
0.4km 0.6km 0.8km 0.0km
-0.1km
0.2km -0.6km
0.4km 0.6km 0.8km 0.0km
-0.1km
0.2km -0.6km
0.4km 0.6km 0.8km 0.0km
-0.1km 0.2km
河床高(m) (m)
洪水前 解析:Peak1 解析:Peak2 解析:Peak3 解析:洪水後 洪水後 解析水位:Peak1 解析水位:Peak2 解析水位:Peak3 解析水位:洪水後
(a)初期地形 (b)Peak1 (c)Peak2
(d)Peak3 (e)洪水解析後 (f)洪水後観測
(参考値)
(参考値)
0.0km
0.0km 0.2km 0.2km
0.4km
0.4km