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小川正賢** (1995年10月13日受理)

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(1)

STS教材モジュール作成実習受講者のSTS教育意識に関する追跡調査・

小川正賢**

(1995年10月13日受理)

Follow− up Survey on STS Education Awareness of Participants       in Developing STS Modules Program*

 Masakata OGAwA**

(Received October 13,1995)

は じ め に

 一般に,STSとは,科学(Science)や技術(Technology)を社会(Society)との相互作用のなかに 位置づけようという研究活動や教育活動のことを指している(小川1991,小川1993)。この中で,生

命倫理,医療倫理,環境問題人口問題原子力問題など,科学や技術が複雑に絡んで生じるさま

ざまな社会問題(STS問題)について,一般の人々が,主体的に社会的合意形成に加わっていけるた めの素養(STS Literacy)を身につけるように支援する教育をSTS教育と総称することができる。 STS

教育は,近年,学校教育の場でもしだいに実践されてきているが,その趣旨から言って,児童・生 徒を学習対象者とするだけでなく,一般市民,とりわけ,科学技術関連の情報網から疎外される傾 向の強い,老人層,成人層の人々に対しても,それにあった教育プログラムが開発されるべきであ

る。

 小川(1989)は,このような観点から,[家族を基盤としたSTS教育]という教育プログラムを提

唱し,具体的な教材モジュールを試作し,公開している。その開発過程は,Ogawa(1989)に詳しい。

ところで,この過程で,STS教材モジュールを作成するという活動それ自体が,実は,有効なSTS教

育プログラムであるということが明らかになり(Ogawa 1991),これを,平成元年から3年間,毎年 夏に茨城大学で開催された文部省主催の社会教育主事認定講習会において,[社会教育特講]の一部

として,3時間の教育プログラム,[STS教材モジュール作成実習]として実施する機会を得た。社 会教育,生涯学習という枠の中に,新しいタイプの科学技術教育を導入する試みの一つであるとい

える。 [STS教材モジュール作成実習]の詳細については,すでに報告している(Ogawa l991,小

川1993)ので,ここでは,図1(小川1993)を示すにとどめる。この3年間の試行において,講習

*本研究の遂行にあたっては,平成6年度カシオ科学振興財団による研究助成ならびに,平成7年度,文部省  科学研究費補助金,一般研究C(課題番号:07808017)の援助を受けた。

**茨城大学教育学部理科教育研究室(〒310水戸市文京2丁目1番地)

(2)

参加者に受講後の感想を記載してもらったが,おおむね,好評であった(小川 未発表)。ただし,

教材モジュール作成実習という授業方法が目新しかったことが影響したのかもしれないが,この教

材モジュール作成実習という授業方法それ自体のことを[STS]であると勘違いしている事例が少な からず存在した。

 ところで,このような新しい試みは,短期的にはともかく,長期的には,その効果が継続してい るのだろうか。もし,たった1回,3時間だけの[STS教材モジュール作成実習]プログラムを受講

することで,STSに関する意識が高まるのであれば,この方法をさまざまな場で,さまざまな人々を

対象として実施することによって,社会全体のSTS意識を高揚させていくことが可能であろう。逆

に,長期的には,あまり効果がなければ,ある一・定期間ごとに,学習機会を設定するといった新し

い工夫が必要になろう。このような問題を考えるためには,受講生に対する追跡調査が不可欠であ

ろう。しかしながら,STS教育に関して,このような追跡調査は世界的にみてもまだほとんど実施さ

事前指導

予告 読本指定 資料収集

事前調査

STSとは何か STSを学ぶ意義

価値教育としてのSTS教育

価値教育の方略

教材作成実習の目標(表の目標,裏の目標)

事例・目的・対象・方法の特徴

(興味別orランダム)

STS教材モジュール作成作業(個人作業)

STS教材モジュールの検討(グループ作業)

ブイードバック

STS教材モジュールの試用と評価

価値分析

対象・目的との照合 方法・活動の妥当性

資料の妥当性

教材のシリーズ化の可能性 詳しい資料の必要性

 プログラム全体の評価   教材提出

      教材分析結果提出       感想文提出(事後調査)

       (自分の作った教材に自分の意識が       投影されているのではないかとい       う問いかけと自分自身の意識が変       化したかどうかという問いかけを       行う。)

図1:rSTS教材モジュール作成』実習プログラムの流れ

  (小川正賢『序説STS教育一市民のための科学技術教育とは一』, p.52より)

(3)

れていないと言ってよい。

 本報は,このような問題意識にたって,4−6年前,たった1回,3時間だけの[STS教材モジュー ル作成実習]という内容的にも方法的にも新しい教育プログラムに参加した人々が,現在,その内 容であったSTS教育,あるいは, STS問題というものについて,どのような理解状態,あるいは意

識状態にあるのか,について追跡調査を行った結果を報告するものである。

調 査 方 法

 調査は,平成7年6月29日に,資料1のような質問紙を用いて,郵送調査の方法で実施された。

調査対象は,平成元年,2年,3年の夏にそれぞれ茨城大学で開催された文部省社会教育主事認定講 習会で,[STS教材モジュール作成実習]プログラムを受講した参加者全員である。各年度の参加者 数は,それぞれ,113名,124名,131名であり,合計368名が本調査の対象者である。このうち,

女性の参加者は,各年度それぞれ,5名,3名,16名であった。これらの参加者は,当時,社会教育

主事の資格を獲得しようとしていた,小中学校,高等学校の教諭,教育委員会の社会教育担当職員,

社会教育施設の職員などであった。当時の修了者名簿を用いて,各受講者の自宅に調査票を郵送し

た。このうち,転居先不明等によって,受講者に届かず,差出人にもどってきたものが21通あった。

 8月末において,調査票が返送されてきたのは,平成元年の受講者分が19名,平成2年の受講者 分が13名,平成3年の受講者分が29名,合計61名であった。一般に郵送調査の場合,回収率は極

めて低いことが予想され,「20 一 30%」(続・村上1975)とか「2割足らず」(飽戸1987)とか言わ

れているが,今回の調査もほぼその程度の回収率に留まった。無作為抽出によるサンプルへの郵送 調査という一般的な調査法と異なり,今回の調査は,全数調査であること,さらには,元受講生に 対する元講師からの調査依頼であること,などから,もう少し高い回収率を期待したが,結果的に は,郵送調査の場合の常識的な低い回収率のレベルに留まった。当時の受講者は現在,教育現場や 社会教育の現場でもっとも多忙な立場にあることが容易に予想されるので,調査票に回答する時間 がなかなかとれないということも影響したと考えられる。実際,返送された調査票の投函された時 期は,消印から,7月1日から8月14日であった。しかしながら,督促状を発送することは敢えて 行わなかった。元受講生に対する元講師からの調査依頼であるという特殊性から,無理に調査の返 送を強いることによって,回答に何らかの偏りが生じることを恐れたからである。もちろん,この ことは,得られた回答自体が,調査対象となった全受講生の適切なサンプルになっているというこ とを保障はしない。「回答者はおそらく,全標本の代表者ではありえない。彼らは,一般により興

味を感じ,より教育のある,より党派的な人々(群)である」という続・村上(1975,pp.18−19)の

指摘は,無視できない。そのような前提を含んだ上で,以下において本調査の結果を考察していき

たい。

(4)

結果 と 考察

 本調査は,フェイスシート部分,社会教育主事講習会全体に関する質問部分,そして,STS教育な

らびに[STS教材モジュール作成実習]プログラムに関する質問部分の3部から成り立っている(資

料1参照)。回答者のフェイスシート部分については,次のように集約できる。参加年度については,

平成元年度が19名(うち,女性が3名),平成2年度が13名(うち,女性0名),平成3年度が29 名(うち,女性が3名),合計61名(うち,女性6名)であった。年齢の分布は,20−35歳の回答 者が8名,36−45歳が37名,46−55歳が16名,56歳以上はいなかった。また,講習会当時の 職種と専門については,教育委員会等の行政関係者が14名,小学校教師が20名,中学校教師が20

名,高校教師が7名,教師の専門はほとんど全部の教科に分布するが,特に,社会科,保健体育科が

突出している。また,現在の職種と専門については,教育委員会等の行政関係者が17名,社会教育 主事が11名,小学校教師が18名,中学校教師が10名,高校教師が5名というようにまとめられる。

 社会教育主事講習会全体に関する質問部分は,講習会全体の評価を意図したものではなく,[STS 教材モジュール作成実習]プログラムというものを思い出してもらうための手がかりを与えるため,

あるいは,当時の状況に元受講生の意識を立ち戻らせるための手段として,本調査に含めたもので ある。したがって,その結果は,社会教育主事講習会そのものの評価を下すには不十分なものであ

るということになる。ここでは,その結果は,ごく簡単にまとめておくにとどめる。

1社会教育主事講習会全体について

 まず,「認定講習でもっとも印象に残っていること」を尋ねたら,[グループ活動](6人),[暑さ]

(6人),[講義](6人),[レクレーション](5人),[参加者との交流](5人)というのが主な回答 であった。次に,「講義や実習でもっとも印象に残っていること」については,[グループ研究](14 人),[レポート](4人)という回答が主なものであった。また,「教室外の諸活動の中でもっとも印 象に残っていること」を尋ねると,[施設見学](19人),[宿泊研修](13人),[レクレーション活 動(含 オリエンテーリング)](13人),[グループ研究](7人)という回答が得られた。「不満に 思ったこと」については,[暑さ](7人),[学習環境](6人),[講義](4人)という回答が主なも のであった。「改善したほうがいいと思うこと」については,多様な回答があったが,[講義を減ら

し,演習,実習,見学といった学習活動を増やしてほしい](8人)という要望と[学習環境を整備 してほしい](5人)という要望に集約される。最後の「今後も継続したほうがいいと思うこと」に 対する回答は,[グループ研究](13人),[宿泊研修](8人),[施設見学](6人)が主なものであ

った。

 この調査の範囲で,全体として言えることは,夏の集中講習であること,不十分な学習環境であ ること,素朴な教育方法による講習であることに不満が集中しているということである。時期や学 習環境の問題は別として,教育方法に関しては,多様な試みが開発される必要があるのかもしれな

い。

(5)

2 STS教材モジュール作成実習プログラムに関して

2−1STSという言葉を覚えているか

 この問いに対する回答分布は,次の通りである。

      全く覚えていない      22       言葉は覚えているが内容は忘れた     20       内容はある程度覚えている        15       STSという言葉の意味も内容も覚えている  4

 約1/3は全く覚えていないが残り2/3は何らかの形でSTSについての記憶があるということに

なる。しかし,STSという言葉を全く覚えていないという人でも,[STS教材モジュール作成実習]と

いう活動について覚えている人は,5人いるから,全体としては,STSに関する何らかのイメージが

残っている人は比較的多いということになろう。

2−2 教材つくりの材料は?

 この問いに対する回答分布は,次の通りである。

      新聞記事     26       雑誌記事      4

      データベース     0

      その他       3       複数回答      13

 どのような材料を使ったかが問題ではなくて,何を使ったか記憶していることが重要である。な ぜなら,当時の実習活動についての具体的な記憶があることを意味するからである。その意味でい えば,46人/61人が使った材料の記憶があるということで,当時の実習活動の具体的な記憶がまだ

残っていることになる。

2−3教材作りのテーマは?

 この問いに対する回答分布は,次の通りである。

      覚えていた人   29

      忘れた人       32

 前間で使った材料を記憶している人でも,具体的なテーマが何であったのかを記憶している人は その中でも2/3である。何かをやった記憶はあるが,それが具体的にどんな内容であったかは,忘

れてしまった人もいるということである。

2−4他の受講生が何を作っていたか?

 この問いに対する回答分布は,次の通りである。

      覚えていた人    7       忘れた人     54

 これは,他の受講生の作ったものまでは,記憶にないということを示している。

(6)

2−5教材モジュール作成活動で最も印象に残ったこと

 この問いに対する回答分布は,次の通りである。

      記載した人     27       記載しなかった人  34

 具体的な記載を類型化してみると,[資料収集が大変であった][資料収集が重要である][作業が 楽しかった]といった資料収集に関連する記載が9人で最も多くかった。また,[価値観教育という 観点が重要][教材作成者自身が一番勉強になった][問題を多面的に眺める視点][自分の考えを明 確にすること]といった記載があった。これらは,[STS教材モジュール作成実習]の目標そのもの

であるから,受講してから3−5年たった今でも,その目標が記憶にあるということを意味している

といえる。さらに,[作業が楽しかった][作業がむずかしかった][主体的な学習だった]といった 記載もあった。なかには,この実習の影響で,STS問題に関する資料の収集を継続するなど,意識の 高揚した事例もあった。

[「問題を提示するということは,解答を把握している」ということ。自分でわからないのに,む やみに問題を作れないこと。確かに自分自身勉強になった。しばらくの間,新聞の切り抜きを続

けていた。〜約2年間〜。でも,今はしていない。](S2−3)

この受講生は,平成2年度の受講生で年齢は20−35歳の若手で,教師ではなく,当時は,教育委員

会で社会教育の仕事をしていた職員であったが,今は,一般行政職の役場職員として勤務している。

感想欄には次のような記載がある。

[STSにっいて,詳細は忘れてしまったが,講習を受ける以前は,「こんなことは簡単だ]と思って いた。しかし,講習を受けるにつれ,けっこう難しいと頭をかかえてしまった。熱中しやすい私 は,この実習に知らず知らずにのめり込んでいったような記憶がある。そして,帰宅しても,新 聞の切り抜きを始めたりと,関心を慕(ママ)らせていったような気がする。](S2−3)

このような潜在的なSTS意識の持ち主に対して,継続的な支援プログラムの開発が急務であると考 える。たった1回,3時間の教育モジュールに参加したことで,その後,約2年間にわたって,STS 問題に関する[切り抜き]を自発的に継続していたという事実は,重く受け止めるべきだし,それ だけ支援プログラム開発の責任を痛感する。また,このような人材を,社会教育の前線から,役場

の一般行政職に配置替してしまう現在の社会教育関連職員の人事問題も今後の大きな課題であろう。

2−6講師の述べたことで印象に残っていること

 この問いに対する回答分布は,次の通りである。

      記載した人     22       記載しなかった人  39

 [作成者自身が一番学習する][価値観教育である][市民の力で科学をコントロールする] [科

学の制度][科学観][新しい学力]といった記載が主なものであった。もちろん,講師の話した内

(7)

容が曲解されている回答事例も多々存在するが,それでも,今でもなお,そのような記憶が残って いるということではある。次の回答は,まさに本プログラムの目的そのものであり,的確な把握が

今でもできていることを示す。

[教材モジュールを作ることが,作成者のSTS問題に対する問題意識を高める有効な方法である]

(S3−2)

2−7講習会後の自身の変化について

 これらの問いは,講習会修了後,受講生たちが,自分自身のSTS問題等に関する心情,態度に変

化があったかどうかを調べるものである。

(1) テレビ番組や新聞・雑誌記事を見るとき,科学技術に関連する問題に対して気になるようにな   ったか。

 この問いに関する回答分布は,次の通りである。

      以前とかわらず興味はない    7       以前とかわらず興味がある   28       以前のほうが興味があった   0       以前よりも興味がでてきた   18

今現在興味を持っている人が46人と蹄』的である・この種の調査に対する回答であることを考慮

しても,なお,相当数の元受講生が科学技術に関連する問題に対して問題意識があるというのは,重

要な結果であろう。なかでも,受講後,興味が増してきたという意識を持つ人が,18人と全体の3

割存在するということは,[STS教材モジュール作成実習]履習の長期的効果と言っていいであろう。

(2)テレビ番組や新聞・雑誌記事を見るとき,STS教材のネタになりそうだなといった感想を持つ

  ことがあるか。

 この問いに関する回答分布は,次の通りである。

      まったくない      12       ほとんどない      22       たまにある       18       しばしばある       2

[たまにある][しばしばある]と答えた人は,その時の記事のテーマは何かという問いに対して,[環

境問題][開発と自然][石油エネルギー][森林資源][食糧問題][新薬開発][水不足][ゴミ問題]

[医療と健康][オーム][長良川]といった回答をしている。

(3)STS教材モジュール作成実習のような試みを身の回りでやってみたことがあるか。

 [やってみたことがある]という人は,わずか5人であった。このうち1人は,記事の切り抜き作 業まではやったが,それ以上はやっていないという答だった。残り4人は,教師という立場から,学

(8)

校の授業の一環として,このような取り組みを行ったと答えている。

[ディベート授業のとき,環境問題と人間倫理の授業のとき](高校社会科)

[授業中での討論(テーマ設定)](高校国語科)

[小学校社会科の中で,阪神大震災関連の記事を集め,発表会をした(6年生)](小学校社会科)

[社会科の授業の中で,歴史や政治・経済などの世の中の動きについて,テーマを決めて,学習

させた](小学校社会科)

もともと,[STS教材モジュール作成実習]は,作成者自身のSTSに対する意識の高揚を目的として いるのであるから,このような実習プログラムを自分で,他の人々に対して実施してみることを求 めてはいない。しかしながら,各自が,他の人々に対して,このような実習プログラムを実施する ことによって,その人々のSTSに対する意識を高めようとすることは,それ自体,その人のSTSに 関する意識が,格段に高まっていることを示す指標といえる。いわゆる,社会教育や生涯学習の文 脈では,科学技術教育というものが制度化されていないので,今のところ,実施する場面がないよ うである。やろうとしても,やれる状況に遭遇しない立場にいる人は,このような試みは不可能な のである。いずれにしても,ごくわずかながら,高度なSTS意識高揚の事例がいくつかあったとい うことは確iかである。

(4)rSTS」といったことを他人に話したり説明したことがあるか。

 上司や同僚との雑談などで紹介したことがあるという人は6人で,これらには具体的な状況記載は なかった。何かの会合などで話題提供をしたことがあるという人は2人で,学年会という回答と,学

会という回答があった。児童・生徒の学習活動に何らかの形で導入を試みたことがあるという人は

11人であった。ほとんどが,学校の授業,特に,社会科でのディベートの授業が多かった。また,理

科の自由研究のテーマとしたという回答もあった。そして,学校教育以外の場での活動に何らかの

形で導入を試みたことがあるという人が1人であった。これは,教育委員会で社会教育に携わってい た方で,職員研修の場で試みてみたという。またこの4つの問の中の複数について,「ある」と答え た人が3人いた。

(5)講習以後,書店で「STS」に関するような本や雑誌を手にすることがあったか。

 本や雑誌を手にすることがあったという人は,わずかに3人であった。科学が好きで,科学図書を 購入するという人(小学校の社会科の教師),科学雑誌(rウータン』)を継続講読するようになった という人(小学校で家庭科を専科としている女性教師),そして,「講習でやったという思い出があ ってなんとなく科学に関する本を手にした」という人(中学校の体育の教師)である。

(6)講習を受けた頃と現在を比較して,STS問題に対する意識に変化があったか。

 「変化があった」という人は,9人であった。当時の職種現在の職種等に特定の傾向は見られな いから,STS問題に関して意識を持つかどうかは,個人的な性向によるものと推察される。

(9)

(7)講習後,STS問題に関する教育を,子供(G),一般の人々(H),お年寄り(1),に対してする べきだと思うか?

これらの問いに対する回答分布は,次の通りである。

      子供に 以前からそう思っていた

講習後そう思うようになった 最近そう思うようになった 以前からあまり思わなかった 最近思わなくなった

一般の人々に    8    9    8

  12

   4

お年寄りに

  4   7   9

  12

  6

 STS問題に関する教育の必要性に関するこれらの問いに対して,有効回答は全体の約65−70%で,

さらにその中で肯定的な回答はその約55 一 60%という結果である。たった1回,3時間の教材モジ

ュール作成実習の受講者であることを考えれば,まずまずの定着率ということができよう。これら の回答のクロス集計をすると,三つの問いに対して同じ回答をする人が22人であった。これは,有

効回答の約半数にあたる。さらに,[子供に対して]と[一般の人々に対して]との回答が同一であ った人の比率は,45/61(0.74)であり,[一般の人々に対して]と [お年寄りに対して]との回 答が同一であった人の比率は,49/61(0.80),さらに, [子供に対して]と[お年寄りに対して]

との回答が同一であった人の比率は,41/61(0.67)であった。いずれも,高い類似性を示してい る。以上の結果は,元受講生たちの間では,STS問題に関する教育について,その対象者まで考慮さ れるような実態にはないことを示しているといえる。講習会では,[家族を基盤としたSTS教育]と いうことを盛んに強調したので,とくに,[どの世代に対して]という意識が表面化しなかったのか

もしれない。

2−4 もっとも関心のあるSTS問題を三つ選ぶ

 この問題は,講習会の当日の実習前に実施した調査問題である。今回,回答の多かったものから 順に並べると,

    病気と健康 (26人)大気汚染 (22人)人口問題 (16人)

    水資源 (14人)土地利用 (14人)有害物質 (12人)

    原子力 (11人)生物絶滅 (10人)飢餓と食糧 (9人)

    エネルギー不足 (6人)戦争とテクノロジー (4人)鉱物資源(12人)

となった。この結果は,講習会当日の結果(Ogawa 1992)と多少の相違がある。頻度分布を比較す

ると,両者の間に有意な差(X 2= 25.17,df=ll, p<0.01)が見られた。さらに,対数線形モデルに

よる分析の残差分析から,この頻度分布の有意差の原因が,[飢餓と食糧][エネルギー不足][土地 利用] [原子力]の4項目にあることも明らかとなった。前者2項目は,今回の調査結果のほうが,

頻度が低く,また,後者2項目は,頻度が高かった。また,講習会当日の結果の順位と今回の調査結

果の順位との間の関連についてケンダールのτ係数を計算するとτ=O.462(p<0.05)となり,両者

の順位に有意な相関が見られる。今回の調査の回答者は対象者全体の約2割であるから,結果を直ち

に比較することには,問題があるのだが,特に,結果に著しい相違が見られたのは,講習会当時は

低順位だった,[水資源],[土地利用]の順位が高くなっていることと,講習会当時は高順位だった,

(10)

[飢餓と食糧],[エネルギー不足]の順位が今回の結果では,きわめて低くなっている点であった。

それらの回答をするときに頭に浮かんだイメージは,講習会当日のそれと今回の調査結果のそれと の間に大きな違いはないから,このような順位の相違が出たことの原因は,現時点では特定できな

い。

2−5 感想欄から

 STS・STS教育に関する自由記述の感想の例を,いくつかに類型化して,以下に示しておく。

(1) 「忘れた」

  ・ノート類を開いてもSTSという言葉が見つかりませんでした。ずいぶん以前のことなので,記

  憶も薄らいでしまい,キーワードを忘れてしまってはいけないと思います。(S1−4)

  ・記憶にありませんでした。(S2−1)

  ・STSという語句そのものに記憶がない。 (S2−4)

  ・日々の教育活動に追われて5年もたつと,「講習会」で学んだことも忘れてしまいます。STS   教材モジュール作成実習プログラムについても大変申し訳ないことですが忘れてしまいまし    た。 (S2−11)

  ・STSについてまったくといっていいくらい覚えていません。ただ,質問に答えるうちに新聞記    事等を利用して,科学教材として教えるというようなシステムであったかな,ということをす    こし思いだしました。しかし,自分でそういうものを作成したという記憶はありません。(S2

   −9)

(2) 「記憶が薄れた」

  ・STSを当時受講してすばらしいとかんげきし,自分も新しいテーマでやってみようと思ったが,

   それから,4年すぎるときおくもうすれてきてしまった。 (S3−14)

  ・詳細については,忘れましたが,講習を受ける以前は,「こんなことは簡単だ」と思っていた。

   しかし,講習を受けるにつれ,けっこう難しいと頭をかかえてしまった。熱中しやすい私は,

   この実習に知らず知らずにのめり込んでいったような記憶がある。そして,帰宅しても,新聞    の切り抜きを始めたりと,関心を慕(ママ)わせていったような気がする。(S2−3)(前出)

(3)「やってみたい・勉強したい・がんばれ」

  ・これからは課題意識を持って保健の授業で取り上げたい。 (S1−9)

  ・久しぶりに内容を思い出しました。STSについて,さらに詳しく,べんきょうしたくなった次   第です。 (S2−5)

  ・STS教材モジュールを作ることを社会教育活動の場でやってみたい。(S3−2)

  ・講習をうけているときは,「なるほど。こんな方法もあるのかと感心したが,それを実践しな

   いまま今日に至っております。もっと勉強して教材として活用すれば,興味のある,授業等が

   展開できたのではないかと反省しています。今回の講習でも是非取り入れてほしいと思いま    す。 (S3−4)

(11)

・STSはまだマイナーですが,内容はすばらしいと思います。頑張って下さい。(S3−11)

(4)「支援プログラムがほしい」

  ・1年に1回位,STSモジュール作成と,その活用について,オープンな講座を開いてくれると,

  大変うれしいと思います。(S1−11)

  ・物理,生物,社会科(現代社会)を体系化したカリキュラム開発をお願いしたい。 (S2−7)

(5)「その他」

  ・実際の職場でも実践しているのかもしれないが,どの部分がSTSなのか,理解できない。(S3

   −12)

  ・最近の社会問題宗教と若者,特にオウム教の出現と繁栄,そして破滅などについて考えてみ

  てもおもしろい。 (S3−15)

  ・STSは,自分達の足もとを見直すための教育と思っています。日々の生活がいかに問題を含ん    でいるか,一人一人が考えられれば,人類の未来も明るくなることでしょう。 (S3−28)

  ・さまざまな情報が氾濫する中で,主体的に情報をとり入れ,正しい判断をしていくことが要求    される,と思います。また,関心のない人にも,意識を喚起することが時代の要請かとも思わ   れます。 (S3−29)

 これらの感想から言えることは,まず第一に,4−6年経過すると,忘れてしまっている人が多い ということである。これは,当然の成行きであろう。第二に,それでもなお,今回のアンケート調 査が引金になって,記憶がよみがえってきたり,意欲がよみがえってきた人が何人か存在するとい うことである。アンケートというほんのささいな刺激が4−6年後に与えられただけでも,記憶や意

欲がよみがえるということは,数年に1回,なんらかの刺激を当時の受講生に与える方途を開発すれ

ば,STS教育の,あるいは,[STS教材モジュール作成実習]の趣旨通りの効果をある程度継続させ うるという可能性が見えてくる。この点は,重要である。たとえば,講習会の場合と全く同様の機

会を数年に1回与えなくても,ちょっとしたアンケート調査用紙を送付したり,簡単なショートメー

ル(たとえば,最近のSTS教育の話題や文献などを簡単に紹介したようなハガキによるダイレクト メール)を送付したりすることでも,十分な効果が上げられる可能性があるということである。も

ちろん,数年に1回,フォローアッププログラムを準備して公開講座等でこれを実施し,当時の受講

生に参加を促すというような正当な方策も一方で必要な試みではあろう。しかし,ちょっとしたダ イレクトメールの葉書といった手段でのフォローアップという方法も,今後の社会教育プログラム や生涯学習プログラムの教育効果をより高めるための手段として研究していく価値があるものと考

える。

お わ り に

社会教育主事の認定講習会について,講義形式のものと演習,実習形式のもののとのバランスに

(12)

ついて,言及している回答が目についた。講義形式のものは概して不評であるのに対して,演習,実 習形式のものは好評であり,しかも,受講者が今でも,印象に残っている授業内容のほとんどが,演 習や実習形式のものであった。そういう意味で,[STS教材モジュール作成実習]という教育プログ

ラムについての記憶がある程度残っていたのは,その授業スタイルと関係するのかもしれない。も

し,ほとんどの受講生が全く聞いたこともない[STS教育]に関して,講義形式で授業を実施したな

らば,このような記憶が残るかどうか疑問である。教育方法の目新しさ,それ自身に意味があるの ではなくて,そのような目新しさという印象,記憶が,結果的に,その教育内容に関する記憶を併

せて呼び起こすという面で,教育方法を工夫する意義があるということができよう。

 以上のように,[STS教材モジュール作成実習]という教育プログラムは,4−6年前にたった1回,

それも3時間だけ実施したものであるにもかかわらず,少なからざる受講生の脳裏に今でもその印象

が残っているということが明らかになった。もともと,この教育プログラムを実施した時点での受 講者の感想によれば,この教育プログラムは方法の点でも,内容の点でも,興味深かったという評

価であった。したがって,短期的にも,長期的にも,このような教育プログラムは,STS教育とかSTS

問題とかいった新しい教育内容に関して学習する場合には,有効な一つの方法であるということは いえよう。

 ただし,現在のところ,受講生にある程度継続的に,再履修する,あるいは,関連する教育プロ グラムを履修する機会が与えられていないので,その効果を持続,あるいは発展させるという点で 問題が残る。せめて2−3年に1回ずつくらいの頻度で,関連した講習会や研修会を企画できれば,

もっと,STS教育に関して,興味や関心を持つ人々を育成できるのかもしれない。今後は,そのよう な継続的プログラムの開発研究が必要となろう。

 さらに,もう一つ,そのような正当な取り組み以外に,先に述べたような,元受講生への継続的 なダイレクトメール送付といった⊂ゲリラ的]な取り組みも,十分に検討する余地があるように思

われる。

引 用 文 献

飽戸弘.1987.r社会調査ハンドブック』(日本経済新聞社).

小川正賢.1989.r科学技術社会における市民教育としての科学技術教育(昭和62年度カシオ科学振興財団

  助成研究報告書)』.

Ogawa, M.1989. Family 一 based STS education:A new approach . Bulletin(of Science, Technology,&

  Societソ,9,239−244.

Ogawa, M.1991. Let s make students develop STS modules:Amini −course . Bulletin()f Science ,

  Technology,&Society,11,21−23.

小川正賢.1991.rSTS教育にみる科学と日常性の結合」『理科の教育』40(5), pp.20 一 23.

Ogawa, M.1992. Awareness of prospective community education leaders of STS related global

  problems . Bulletin Of Society ofJapan Science Teach in8 ,33(2),9−16.

小川正賢.1993.r序説STS教育一市民のための科学技術教育とは一』(東洋館出版社).

続有恒・村上英治Wt .1975. r質問紙調査』(東京大学出版会).

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