ドイツの社会法典における給付主体
一その「協働」(Zusammenarbeit)と第三者との関係をめぐる予備的考察一
古 屋 等
一 はじめに であるω。
これら社会法典の適用領域において,社会権 ドイッにおける社会保障の中核をなす社会保険 (Soziale Rechte)(5)の実現のために提供される社 は,19世紀後半のいわゆるビスマルク立法に源流 会給付(Sozialleistung)を担当する機関は,同 を有し,その後の適用人員や対象とされるリスク 法典の第1編12条において,給付主体(Leistungs一 の拡大によって,随時必要な修正と追加を経て立 trager)の名称により総称されている(6)。ただし 法化されてきた。したがって,必ずしも統一的な この給付主体は,社会法典に含まれる各社会立法 プランにしたがって体系化されてきたものではな の歴史発展の経緯を反映して極めて多様であり,
く,またその時々に,新たな社会的必要を満たす なかでも伝統的な社会保険の領域では,当事者の 各種の施策や保障領域を積み重ねる形で拡大し, 自治による多元的・分権的な運営組織が維持され 発展してきたものであるω。その結果,ドイツの ているω。
社会保障制度は膨大化し,その全体を見通すこと すなわち疾病,労働者災害および年金保険の領 ができないまでに複雑な体系を擁する結果となっ 域では,職業別あるいは産業別に組織された独立 ている。そこで,このような体系を支える社会立 の機関によって自立的に運営されてきた点に特色 法を一定の観点に基づいて再構成・簡素化し,統 があり,そこでは,構成員相互の連帯と自助に基 一的な法典に集大成しようとする試みは,ドイツ づき,共通の代表者を通じて管理される組合形式 では1970年の社会法典専門家委員会の発足にはじ による保障形態がとられてきた。その他にも,社 まり,今日まで続けられている。社会法典(So一 会保障における補完性の原則に合致して,社会扶 zialgesetzbuch:SGB)の編纂がそれである(2>。 助(Sozialhilfe)や青少年援助(Jugendhilfe)
この法典は,社会立法を適用・解釈する行政や の領域では,公的な機関以外の民間福祉団体 司法にとって,その理解を助けて適正な法律の運 (freie Wohlfahrtspflege)による活動の優先性 用を確保するとともに,個々の市民にとっても, が以前から承認されてきた(8)。したがって,それ
自らに保障された法律上の権利や地位についての らによる援助に足らない部分がある場合にのみ,
見通しを与えることにより,それを発揮できる機 国家は救済を与えることになる。そしてその運営 会を公正かつ均等に保障することを目的として編 はもっぱら,地域レベルで住民福祉に責任を負う 纂されたものである(3)。現在社会法典は,第1編 州,あるいは地域団体(Gebietskδrperschaft)
〔総則〕(Allgemeiner Teil),第4編〔社会保険 としての郡(Kreis)または郡に属しない市 共通規定〕,第10編〔行政手続〕の他,つぎの領 (Kreisfreie Stadt)によってなされている。
域の法典化を完成している。第3編〔雇用促進〕 以上の例からみても明らかな通り,ドイッにお
(Arbeitsf6rderung),第5編〔法定疾病保険〕,第 ける社会保障は,決して一元的な機関によって行 6編〔法定年金保険〕,第7編〔法定災害保険〕,第 われてきたものではなく,またその実施について,
8編〔児童青少年援助〕,第11編〔社会介護保険〕 国家その他が一貫して主導権を握ってきたわけで
もない。いいかえれば,社会法典はその領域に含 機関と州または郡などの地域団体,あるいは民間 まれる社会法(Sozialesrecht)については統一を 福祉団体という全く異質な団体どうしの問で,社 果たしえたが,その運営主体としての給付主体に 会福祉の実現にむけた協力が行われなければなら は一元化をもたらすことはなかったのである。む ないということである(1°)。また社会保険は,ただ しろ社会法典は,各領域において社会保障の実質 単にその組織内においてのみ業務を遂行しうるも を担ってきた従来からの主体の活動を承認し,そ のではなく,たとえば被保険者の健康状況の認定 れらを法典化に際して改めて給付主体として総括 にかかる業務において明らかなように,医師など することにより,その給付活動における法的な主 との関係も問題とされるものである。したがって,
体性を追認したかのようである。そのことは,社 これらの民間機関を含めた第三者との関係も,相 会法典の編纂が,従来からの法体系に抜本的な変 互の協働にむけて取り上げられるべき問題である 革をもたらすことを意図するものではなかった点 ということになる。
からも伺うことができる(9)。しかし問題は,これ そこで本稿では,このような給付主体の相互関 らの給付主体の林立によって,その管轄が細分化 係を検討する前提として,ドイッにおける社会保 されることになり,その結果,社会権の主体とし 障がいかなる機関によって運営されているのか,
ての国民が,自らの権利を主張する上において何 そして,その提供される給付にはどのような種類 らかの不利益を被ることはないかということであ があるのかを,社会法典第1編の規定に基づいて る。特に,所轄の給付主体の特定に際して困難が 明らかにしていきたいと思う。
生じることが予想されるのみならず,迅速な給付
の提供という点においても問題がある。 二 社会法典における給付主体 さらに,社会保障は,一つの給付主体による行
為によってのみ完結するものではなく,また,個々 (1)給付主体の概念
の主体の給付内容の広範性ともあいまって,他の 社会法典第1編では,まず第1章2条以下におい 保障領域と同様の給付について,複数の給付主体 て,この法典に含まれる社会法の各領域において が同時に管轄を有している場合がある。そこで, 国民が有する社会権を明示し,社会給付を請求し 被保険者,または請求者たる個人の社会状況の変 うる法的な地位を明らかにするとともに,あわせ 化により,その必要に応じる給付がその時々に変 て18条から29条において,当該権利に基づいて請 化する場合には,所轄の給付主体にも変更が生じ 求しうる具体的な社会給付の内容と,これを主張 ることになる。したがって,二重の給付を回避し, しうる所轄の機関を明らかにしているω。そこで,
あるいは,従前の給付主体によって肩代わりされ 本法において社会保障を担当する給付主体とは,
た費用等の償還のために,給付主体相互の連携が 社会法典第1編12条によれば,その18条から29条 必要となるといわざるをえない。これは,給付の に掲げられた団体(Kdrperschaft),施設(An一 シームレスな提供という点においても問題となる。 stalt)および官庁(Beh6rde)であるとされてい このような給付主体の相互の関係における「協働」 る。しかし,この規定から給付主体の法的性質を
(Zusammenarbeit)については,社会法典第1編 一義的に導きうるものではない(12)。すなわち,こ において若干の規定が置かれており,さらに,同 れらの機関は組織的な独立性,内部機構,および 法典の第10編第3章に詳細な規定が置かれている。 連邦における活動領域の点において,それぞれ異
ただし,社会保障領域における協働の特殊性と なった属性を有すると考えられるからである。
して典型的なことは,前述のように,これらの給 (2)給付主体の組織的な多様性
付主体が様々な法的性質を有する団体から構成さ まず社会法典第1編12条の意味での「団体」に
れていることにより,社会保険にかかる自主管理 は,社会保険の各領域,すなわち疾病保険(Kran一
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kenversicherung),介護保険(Pflegeversiche一 て社会法典では,機能的意味での官庁概念が用い rung),災害保険(Unfallversicherung)および られているようであり(16),社会法典の目的(任務)
年金保険(Rentenversicherung)の領域において, を実施するために設置された,行政の内部機構を 保険業務の遂行にあたる運営主体としての保険者 構成する各行政機関を指しているように考えられ
(Versicherungstrager)があてはまる。これらは る。これには,後述するような保障領域のうち,
権利能力を有する公法上の団体であり,またその 連邦の委任により,あるいは連邦法の執行のため 活動が国家の間接的行政を形成するところから, に,州以下の地域団体に設置されたすべての機関 国家の監督に服するのであるが,人事管理を含め ( amt , stelle の名称を有するもの)があて た組織上の自治権が承認されており,したがって はまる。したがって,組織的な独立性を有するも 一般行政からの独立性が認められている点に特色 のではなく,また財源に関する自主性も存在する がある(13)。このような自主管理(Selbstverwa1一 ものではない。
tung)は,被保険者と事業主により,社会選挙 (3)機能的な給付主体概念
を通じて選出された代表者会議(Vertreterversamm一 このように考察してみると,社会法典における 1ung)と理事会(Vorstand)を通じて,定款に 給付主体とは,その組織上の法形態にかかわらず,
より行われており(社会法典第4編29条以下参 この法典に定められた任務としての社会給付を,
照)(14),その独立性は,財源における自立性(保 自らの権限と責任において実施する地位を与えら 険料徴収など)にも現れている。 れた機関であると換言できるように思われる。し これに対して「施設」とは,同じく公法上の団 たがって,その機能的側面に着目した概念であっ 体であり権利能力を有するのであるが,組織的な て,社会権の実現を法典によって命じられた名宛 独立性を有しない非自律的な機関をさすようであ 人たる機関,あるいは請求者にとって,その権利 る。その例として連邦直属の公法上の団体である を主張するにあたり所轄を有する機関であると考
「連邦労働施設」(連邦雇用庁)(Bundesanstalt えることができる。
fUr Arbeit)があげられている(15Lこの機関は, したがって,社会法典によって具体的な社会給 後述するように連邦の雇用政策に任務を有してお 付の権限を付与された以外の機関は,以上の給付 り,そのため「連邦雇用庁」と呼ばれることを常 主体に該当するものではない。たとえば,給付主 とするところから,本稿でもこれに従うことにし 体による具体的な業務遂行に関与する第三者的な たい一。この機関は,連邦の各レベルにおいて任 機関があてはまる。すなわち,以上の意味での給 務遂行のために設置された内部機構としての「州 付主体から区別される概念として,しばしば「社 雇用庁」および「労働局」(職業安定所)を有し 会役務」(Sozialdienst)および「施設」(Einrich一 ており,組織的には連邦雇用庁に組み入れられる tung)概念が引き合いにだされている。たとえ のであるが,社会法典ではそれぞれが給付主体と ば,老人のためのホーム(Heim)や診療所・病 して,雇用促進にかかる管轄を有するとされてい 院などの施設,そして,施設の内外において提供 る(社会法典第1編19条参照)。 される役務給付を含んだ概念として用いられる社
これに対して官庁は,行政機構内部に配置され 会役務には,ソーシャルステーションや在宅看護
た行政機関であって,そのうち特に,その部局の などがあげられている。これらは社会権の実現の
意思を外部に代表する権能を有する職を組織法的 ために直接に関与する人的・物的手段の総体であ
には意味している。しかし社会法典第10編1条は, り,社会法典による具体的な給付を現実に実施す
給付主体としての「官庁」について,「この法典 る主体であると考えられる(17)。そのため,社会法
の意味での官庁は,公行政の任務を遂行するすべ 典第1編1条2項では,これらが適時にかつ十分に
ての機関である」ことを明示している。したがっ 提供される機会が確保されるように,社会法典が
一定の役割を果たすべきことを宣言するとともに, 在を考慮せざるを得ない。したがって,その時々 同様の義務を給付主体自身に対しても課している の請求者の社会的な要求を満たす円滑で迅速な給
(同法17条1項2号)。というのも,社会権の実現は 付のためには,給付主体相互の管轄や権限の調整 法律による保障のみによって達成されうるもので のための手続のみならず,これら第三者との連携
はなく,このような事実上の手段が用意されてい のための手続が不可欠となると考えられるのであ なければ,社会給付の請求も,内実のないものに る。
なりかねないからである。
ただし,これらの社会役務および施設を通じて 三 社会法典における個々の給付主体 の給付は,給付主体の意思によらず,民間の非営
利の団体によって任意に実施されている場合があ 1 社会保険における組合形式による保障 る。すなわち,各種の宗教団体や労働団体などの 社会法典第1編4条によれば,「何人もこの法典 民間福祉団体によって行われてきた慈善的事業と の範囲内で社会保険を求める権利を有する」(1項)。
しての給付であり,これは社会法典の領域では, そのため,社会保険の被保険者は,法定の疾病・
青少年援助や社会扶助の領域において伝統的に行 介護i・災害および年金保険(農業従事者の老齢保 われてきた(18>。これらの団体も同様に給付主体に 険を含む)の範囲内で(2項),健康および生業能 属するものではないが,社会法典第1編は社会保 力の保護・維持・改善および回復のために必要な 障の経済性,および補完性の原則にしたがって, 措置(同1号),ならびに,疾病・妊娠・生業能力 以上の領域ですでに行われてきたこれらの団体の の低下および老齢に際しての経済的保障(2号)
活動を尊重し,給付主体の活動がそれらの独立性 を請求する権利を有している。そこで,これらの を侵害することがないように留意する義務を課し 権利に対応して社会法典第1編では,21条(法定 ている(同法17条3項)。 疾病保険給付),22条(法定災害保険給付),およ
(4)給付主体の事物管轄と第三者 び23条(農業従事者の老齢保険を含む法定年金保 以上のような考察に基づくならば,社会給付は 険給付)において,各領域に対応する社会保険給 法的に多様な性質を有する組織によって提供され 付の内容と所轄の機関が明示されており,社会法 うるものであり,ただそのうち,社会法典に定め 典第4編の共通規定を通じて,それぞれ,社会法 られた具体的な給付行為の権限を与えられた機関 典第5編から第7編に詳細な規定が置かれている。
のみを「給付主体」として呼んでいると理解する また,ドイツにおける「介護保険法」(Pflegever一 ことができる。社会法典第1編11条によれば,本 sicherungsgesetz)の成立により(1994年5月26 法における社会給付には,役務給付,現物給付お 日公布,1995年1月1日施行),その給付に関する規 よび金銭給付の3つが属している(19)。したがって, 定が,社会法典第1編に21a条として挿入され,
社会保障の個々の領域ごとに,その目的に応じて その内容が社会法典第11編に具体化されている(2°)。
これらの給付が提供されるわけであるが,以下に (1)法定疾病保険給付(21条)
詳しく述べるように,給付主体の事物管轄の細分 まず,医療保険に相当する疾病保険は,1883年
化に起因して,目的において同様の給付行為が, の疾病保険法により創設されたドイツで最も古い
管轄を別にする複数の機関によって分断的に処理 歴史を有する保険制度である。その沿革から,当
されていることに留意される必要がある。また, 初は労働者の保護に主眼がおかれていたのである
このような給付行為のうち,特に役務給付につい が,法律の拡充によってその対象者は次第に拡大
ては,さきに社会役務・施設について述べたとこ され,今日では公務員など,その被用者により直
うからも分かる通り,その実際の提供にあたって, 接保障される者や,一部の加入義務を免除された
給付主体以外の第三者(特に民間福祉団体)め存 者を除く他は,地域別,企業別あるいは職業別に
古屋:ドイッの社会法典における給付主体 73
組織されたいずれかの疾病金庫に被保険者として 地区疾病金庫の加入者となる伽)。また,これらの 所属している⑳。 疾病保険の運営主体は,効率的な保険業務を遂行 社会法典第1編21条は,疾病保険法により請求 するために,各金庫ごとに,連邦および州レベル しうる医療給付の種類として,つぎの給付を用意 で「連合体」(Verband)を形成しているが,こ している。健康の促進,疾病の予防および早期発 れらの上部団体自身は,社会法典上の社会給付の 見のための措置(1項1号),疾病に際しての医療 権限を有しないために,給付主体には該当しない 処置,特にa)医師(歯科医)による治療,b) ものとされている圏。
薬剤等医療品の供与,c)家庭内疾病介護および なお,以上の疾病金庫の下に「介護金庫」
家計援助,d)病院看護, e)リハビリテーション (Pflegekasse)が併設されており,これが介護保 のための医療的給付および追加給付,f)営農援 険の運営主体として所轄を有することが定められ 助,g)疾病手当(同2号),妊娠時および母子に ている(21a条2項)(26)。
対する医師の診療,助産婦援助,産院(病院)に (2)法定災害保険給付(22条)
おける出産,家庭内介護,家計援助,営農援助, つぎに災害保険の領域について,社会法典第1 母子手当,出産手当(3号),家族計画のための援 編22条は以下の給付を求める機会を保障している。
助,ならびに,違法ではない断種(Sterilisation) 労働災害,職業病,および労働による健康上の危 および妊娠中絶に際しての給付(4号),死亡手当 害を予防するための措置(その初期段階での援助
(5号)である。したがって,疾病の事前予防と事 を含む),ならびに,それらを早期に発見するた 後の治癒,妊娠出産と家族計画にかかわる援助, めの措置(1項1号),生業能力の維持,改善およ そして死亡にわたる,幅広い給付が内容とされて び回復のための治療行為,雇用促進その他の給付 いるということができる幽。 (同2号),生業能力の低下による年金(3号),遺 これらの疾病保険は,ビスマルクが疾病保険法 族年金,死亡手当および付加手当(4号),年金の の制定にあたって,労働者や職員による既存の共 一時払い(5号),家計援助(6号),農業従事者の 済組合を医療保険者として再編成して以来,保険 営農援助(7号)である。したがって,労働災害 者たる疾病金庫による組合管掌方式での実施が維 の事後的な処置のみならず,その発生を防止する 持されてきた。この疾病金庫には,地区疾病金庫 ための措置,ならびに改めて職業生活に編入させ
(Ortskrankenkasse),企業疾病金庫(Betriebs一 るための回復的な措置を含んでいるところに特色 krankenkasse),同業組合疾病金庫(Innungskran一 がある( )。
kenkasse),海員疾病金庫(See−Krankenkasse), このような労働災害保険は,1884年に制定され 農業疾病金庫(Landwirtschaftliche Kranken一 た「災害保険法」(Unfallversicherungsgesetz),
kasse),連邦鉱山従業員金庫(BundesknappschaftL および1911年7月19日の「ライヒ保険法」(Reichs一 および労働者・職員の代替金庫(Ersatzkasse) versicherungsordnung)を経て,ドイツにおける がある(21条2項)㈱。そこで,強制被保険者につ 労働者災害補償の中心的な役割を担ってきた。そ いていえば,それらの勤務する事業所等の別に応 して現在では,1996年8月7日の社会法典第7編 じて,企業疾病金庫が設立されている事業所で勤 (災害保険)の成立により(翌年1月1日より施行),
務する被用者は企業疾病金庫に,手工業を営む事 同法によって統一的な労災保険給付が実施されて 業所に勤務する従業員は同業組合疾病金庫に,海 いる(28)。ただし,同法によっても,産業別あるい 員は海員疾病金庫に,農業従事者とその家族は農 は業種別に設けられた組合形式による保険業務の 業疾病金庫に,鉱山従業員は連邦鉱山従業員金庫 運営は解消されたわけではない。これらはおもに,
に加入することになる。そしてこれらのいずれの 商工業労災保険,農業労災保険および海員労災保
疾病金庫の被保険者にもならない者は,勤務地の 険の3分野について自治的な保険組合を形成して
おり,当該業種に属する事業の経営者を被保険者 にわけて記載されている。
として,労働災害にかかわる包括的な任務を遂行 まず法定年金保険においては,a)経済的援助 している。 と併せた生業能力の維持,改善および回復のため
労災保険の運営主体について,社会法典では第 の治療行為,雇用促進その他の給付,b)老齢に 1編22条2項の他,第7編5章以下に詳細な規定が置 よる年金,生業能力の減退による年金,および鉱 かれている。そこで第7編114条1項によれば,法 山従業員調整給付,c)遺族年金, d)寡婦および 定の労災保険の運営主体として,労災保険組合 寡夫一時金ならびに保険料還付,e)疾病保険の
(Berufsgenossenschaft)(1号),農業労災保険組 保険料支払いのための補助金, f)児童養i育給付,
合(Landwirtschaftliche Berufsgenossenschaft) が保障されている岡。
(2号),その雇用する職員について連邦自体(3号, また農業従事者の老齢保険については,a)営 115条),鉄道労災保険局(Eisenbahn−Unfallkasse) 農援助または家計援助と併せた生業能力の維持,
(4号),郵便電信労災保険局(Unfallkasse Post 改善および回復のための治療行為その他の給付,
und Telekom)(5号),州の労災保険局(Unfall− b)生業不能(1999年12月31日まで,2000年1月1 kasse)(6号),市町村の労災保険団体(Gemeinde一 日より所得の減少)および老齢による年金, c)
unfallversicherungsverband)および市町村の労 遺族年金, d)農業従事者の死亡の場合における 災保険局(7号,117条),消防災害金庫(Feuer一 所得確保のための営農または家計援助, e)農業 wehr−Unfallkasse)(8号),州および市町村に及 従事者の確保のための給付,がある。
ぶ共同の労災保険局(9号)があげられている(29)。 このようなドイッの年金保険を運営する給付主 このうち,もっとも数の多い労災保険組合は, 体は,農業従事者に対する老齢保険を含んで,ま 商工業労災保険組合(Gewerbliche Berufsgemein一 ず被保険者の就業の形態(労働者か職員か)によ schaft)とも呼ばれており,各分野の業種に応じ り,そして労働者については,さらにその者が属 て(小売業労災保険組合,食肉業労災保険組合な する業種の別(海運・鉄道・鉱業・農業)により,
ど),あるいは一部は地域別(ハンブルクやバイ 別個の組合によって管掌されている。このような エルンの建設業労災保険組合など)に組織されて 給付主体の分立は,ドイツの年金保険の歴史的沿 いる(3°)。なお,商工業労災保険,農業労災保険お 革によるものであり,1992年1月1日の社会法典第 よび市町村・州地域での労災保険の運営主体は, 6編の成立によっても変更は加えられていない。
それぞれ上部団体としての中央商工業労災保険組 同法は,第3章において年金保険の組織に関す 合連合会,連邦農業労災保険連合会および公的労 る定めを置いている。年金保険の給付主体の別お 災保険連合会を有しており,各保険組合はこれら よびその管轄については,125条および127条に規 に加盟し,そのもとで結集している。これらは登 定されている。労働者の年金保険の保険者として 記された社団であるとされている(31)。 は,州保険庁(Landesversicherungsanstalt),
(3)法定年金保険給付(23条) 連邦鉄道保険庁(Bahnversicherugsanstalt)お そして,1889年の「廃疾・老齢保険法」(Gesetz よび海員金庫(Seekasse)が,職員については,
面er die Invaldit翫s−und Altersversicherung) 連邦職員保険庁(Bundesversicherungsanstalt に起源を有するドイッの年金保険は,現在では職 f廿rAngestellte)が,そして鉱山従業員につい 員年金保険,鉱山従業員年金保険を含んで,社会 て連邦鉱山従業員組合(Bundesknappschaft)が 法典の第6編に統合されている。そこで,これら 所轄を有している(お)團。
の年金給付に対する権利を宣言した社会法典第1 これらの年金保険の運営主体の別は,社会法典 編23条では,そのための給付を,法定年金給付 第1編23条においても明記されており(同条2項),
(同条1項1号)と農業従事者の老齢保険(同2号) さらに農業従事者の老齢保険についても,農業養
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老金庫(Landwirtschaftliche Alterskasse)が であるが,労働者,使用者および公共団体の代表
所轄を有することが明らかにされている。また, 者からなる自治的な組織(Selbstverwalung)に 他の社会保険の運営主体と同様に,年金保険の領 より運営されている点に特色がある(同367条,