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ドイツの社会法典における給付主体

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ドイツの社会法典における給付主体

一その「協働」(Zusammenarbeit)と第三者との関係をめぐる予備的考察一

古 屋    等

一 はじめに      であるω。

これら社会法典の適用領域において,社会権 ドイッにおける社会保障の中核をなす社会保険  (Soziale Rechte)(5)の実現のために提供される社 は,19世紀後半のいわゆるビスマルク立法に源流  会給付(Sozialleistung)を担当する機関は,同 を有し,その後の適用人員や対象とされるリスク  法典の第1編12条において,給付主体(Leistungs一 の拡大によって,随時必要な修正と追加を経て立  trager)の名称により総称されている(6)。ただし 法化されてきた。したがって,必ずしも統一的な  この給付主体は,社会法典に含まれる各社会立法 プランにしたがって体系化されてきたものではな  の歴史発展の経緯を反映して極めて多様であり,

く,またその時々に,新たな社会的必要を満たす   なかでも伝統的な社会保険の領域では,当事者の 各種の施策や保障領域を積み重ねる形で拡大し,   自治による多元的・分権的な運営組織が維持され 発展してきたものであるω。その結果,ドイツの   ているω。

社会保障制度は膨大化し,その全体を見通すこと   すなわち疾病,労働者災害および年金保険の領 ができないまでに複雑な体系を擁する結果となっ  域では,職業別あるいは産業別に組織された独立 ている。そこで,このような体系を支える社会立  の機関によって自立的に運営されてきた点に特色 法を一定の観点に基づいて再構成・簡素化し,統   があり,そこでは,構成員相互の連帯と自助に基 一的な法典に集大成しようとする試みは,ドイツ  づき,共通の代表者を通じて管理される組合形式 では1970年の社会法典専門家委員会の発足にはじ  による保障形態がとられてきた。その他にも,社 まり,今日まで続けられている。社会法典(So一  会保障における補完性の原則に合致して,社会扶 zialgesetzbuch:SGB)の編纂がそれである(2>。   助(Sozialhilfe)や青少年援助(Jugendhilfe)

この法典は,社会立法を適用・解釈する行政や  の領域では,公的な機関以外の民間福祉団体 司法にとって,その理解を助けて適正な法律の運  (freie Wohlfahrtspflege)による活動の優先性 用を確保するとともに,個々の市民にとっても,  が以前から承認されてきた(8)。したがって,それ

自らに保障された法律上の権利や地位についての  らによる援助に足らない部分がある場合にのみ,

見通しを与えることにより,それを発揮できる機  国家は救済を与えることになる。そしてその運営 会を公正かつ均等に保障することを目的として編  はもっぱら,地域レベルで住民福祉に責任を負う 纂されたものである(3)。現在社会法典は,第1編  州,あるいは地域団体(Gebietskδrperschaft)

〔総則〕(Allgemeiner Teil),第4編〔社会保険  としての郡(Kreis)または郡に属しない市 共通規定〕,第10編〔行政手続〕の他,つぎの領  (Kreisfreie Stadt)によってなされている。

域の法典化を完成している。第3編〔雇用促進〕   以上の例からみても明らかな通り,ドイッにお

(Arbeitsf6rderung),第5編〔法定疾病保険〕,第  ける社会保障は,決して一元的な機関によって行 6編〔法定年金保険〕,第7編〔法定災害保険〕,第  われてきたものではなく,またその実施について,

8編〔児童青少年援助〕,第11編〔社会介護保険〕  国家その他が一貫して主導権を握ってきたわけで

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もない。いいかえれば,社会法典はその領域に含  機関と州または郡などの地域団体,あるいは民間 まれる社会法(Sozialesrecht)については統一を  福祉団体という全く異質な団体どうしの問で,社 果たしえたが,その運営主体としての給付主体に  会福祉の実現にむけた協力が行われなければなら は一元化をもたらすことはなかったのである。む  ないということである(1°)。また社会保険は,ただ しろ社会法典は,各領域において社会保障の実質  単にその組織内においてのみ業務を遂行しうるも を担ってきた従来からの主体の活動を承認し,そ  のではなく,たとえば被保険者の健康状況の認定 れらを法典化に際して改めて給付主体として総括  にかかる業務において明らかなように,医師など することにより,その給付活動における法的な主  との関係も問題とされるものである。したがって,

体性を追認したかのようである。そのことは,社  これらの民間機関を含めた第三者との関係も,相 会法典の編纂が,従来からの法体系に抜本的な変  互の協働にむけて取り上げられるべき問題である 革をもたらすことを意図するものではなかった点   ということになる。

からも伺うことができる(9)。しかし問題は,これ   そこで本稿では,このような給付主体の相互関 らの給付主体の林立によって,その管轄が細分化  係を検討する前提として,ドイッにおける社会保 されることになり,その結果,社会権の主体とし  障がいかなる機関によって運営されているのか,

ての国民が,自らの権利を主張する上において何  そして,その提供される給付にはどのような種類 らかの不利益を被ることはないかということであ  があるのかを,社会法典第1編の規定に基づいて る。特に,所轄の給付主体の特定に際して困難が  明らかにしていきたいと思う。

生じることが予想されるのみならず,迅速な給付

の提供という点においても問題がある。      二 社会法典における給付主体 さらに,社会保障は,一つの給付主体による行

為によってのみ完結するものではなく,また,個々   (1)給付主体の概念

の主体の給付内容の広範性ともあいまって,他の   社会法典第1編では,まず第1章2条以下におい 保障領域と同様の給付について,複数の給付主体   て,この法典に含まれる社会法の各領域において が同時に管轄を有している場合がある。そこで,  国民が有する社会権を明示し,社会給付を請求し 被保険者,または請求者たる個人の社会状況の変  うる法的な地位を明らかにするとともに,あわせ 化により,その必要に応じる給付がその時々に変  て18条から29条において,当該権利に基づいて請 化する場合には,所轄の給付主体にも変更が生じ  求しうる具体的な社会給付の内容と,これを主張 ることになる。したがって,二重の給付を回避し,  しうる所轄の機関を明らかにしているω。そこで,

あるいは,従前の給付主体によって肩代わりされ  本法において社会保障を担当する給付主体とは,

た費用等の償還のために,給付主体相互の連携が  社会法典第1編12条によれば,その18条から29条 必要となるといわざるをえない。これは,給付の  に掲げられた団体(Kdrperschaft),施設(An一 シームレスな提供という点においても問題となる。  stalt)および官庁(Beh6rde)であるとされてい このような給付主体の相互の関係における「協働」  る。しかし,この規定から給付主体の法的性質を

(Zusammenarbeit)については,社会法典第1編  一義的に導きうるものではない(12)。すなわち,こ において若干の規定が置かれており,さらに,同  れらの機関は組織的な独立性,内部機構,および 法典の第10編第3章に詳細な規定が置かれている。  連邦における活動領域の点において,それぞれ異

ただし,社会保障領域における協働の特殊性と  なった属性を有すると考えられるからである。

して典型的なことは,前述のように,これらの給   (2)給付主体の組織的な多様性

付主体が様々な法的性質を有する団体から構成さ   まず社会法典第1編12条の意味での「団体」に

れていることにより,社会保険にかかる自主管理  は,社会保険の各領域,すなわち疾病保険(Kran一

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古屋:ドイツの社会法典における給付主体       71

kenversicherung),介護保険(Pflegeversiche一  て社会法典では,機能的意味での官庁概念が用い rung),災害保険(Unfallversicherung)および  られているようであり(16),社会法典の目的(任務)

年金保険(Rentenversicherung)の領域において,  を実施するために設置された,行政の内部機構を 保険業務の遂行にあたる運営主体としての保険者  構成する各行政機関を指しているように考えられ

(Versicherungstrager)があてはまる。これらは  る。これには,後述するような保障領域のうち,

権利能力を有する公法上の団体であり,またその  連邦の委任により,あるいは連邦法の執行のため 活動が国家の間接的行政を形成するところから,   に,州以下の地域団体に設置されたすべての機関 国家の監督に服するのであるが,人事管理を含め  ( amt , stelle の名称を有するもの)があて た組織上の自治権が承認されており,したがって  はまる。したがって,組織的な独立性を有するも 一般行政からの独立性が認められている点に特色  のではなく,また財源に関する自主性も存在する がある(13)。このような自主管理(Selbstverwa1一  ものではない。

tung)は,被保険者と事業主により,社会選挙   (3)機能的な給付主体概念

を通じて選出された代表者会議(Vertreterversamm一   このように考察してみると,社会法典における 1ung)と理事会(Vorstand)を通じて,定款に  給付主体とは,その組織上の法形態にかかわらず,

より行われており(社会法典第4編29条以下参  この法典に定められた任務としての社会給付を,

照)(14),その独立性は,財源における自立性(保   自らの権限と責任において実施する地位を与えら 険料徴収など)にも現れている。        れた機関であると換言できるように思われる。し これに対して「施設」とは,同じく公法上の団  たがって,その機能的側面に着目した概念であっ 体であり権利能力を有するのであるが,組織的な  て,社会権の実現を法典によって命じられた名宛 独立性を有しない非自律的な機関をさすようであ  人たる機関,あるいは請求者にとって,その権利 る。その例として連邦直属の公法上の団体である  を主張するにあたり所轄を有する機関であると考

「連邦労働施設」(連邦雇用庁)(Bundesanstalt  えることができる。

fUr Arbeit)があげられている(15Lこの機関は,   したがって,社会法典によって具体的な社会給 後述するように連邦の雇用政策に任務を有してお  付の権限を付与された以外の機関は,以上の給付 り,そのため「連邦雇用庁」と呼ばれることを常  主体に該当するものではない。たとえば,給付主 とするところから,本稿でもこれに従うことにし  体による具体的な業務遂行に関与する第三者的な たい一。この機関は,連邦の各レベルにおいて任  機関があてはまる。すなわち,以上の意味での給 務遂行のために設置された内部機構としての「州  付主体から区別される概念として,しばしば「社 雇用庁」および「労働局」(職業安定所)を有し  会役務」(Sozialdienst)および「施設」(Einrich一 ており,組織的には連邦雇用庁に組み入れられる  tung)概念が引き合いにだされている。たとえ のであるが,社会法典ではそれぞれが給付主体と  ば,老人のためのホーム(Heim)や診療所・病 して,雇用促進にかかる管轄を有するとされてい  院などの施設,そして,施設の内外において提供 る(社会法典第1編19条参照)。         される役務給付を含んだ概念として用いられる社

これに対して官庁は,行政機構内部に配置され  会役務には,ソーシャルステーションや在宅看護

た行政機関であって,そのうち特に,その部局の  などがあげられている。これらは社会権の実現の

意思を外部に代表する権能を有する職を組織法的  ために直接に関与する人的・物的手段の総体であ

には意味している。しかし社会法典第10編1条は,  り,社会法典による具体的な給付を現実に実施す

給付主体としての「官庁」について,「この法典  る主体であると考えられる(17)。そのため,社会法

の意味での官庁は,公行政の任務を遂行するすべ  典第1編1条2項では,これらが適時にかつ十分に

ての機関である」ことを明示している。したがっ  提供される機会が確保されるように,社会法典が

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一定の役割を果たすべきことを宣言するとともに,  在を考慮せざるを得ない。したがって,その時々 同様の義務を給付主体自身に対しても課している  の請求者の社会的な要求を満たす円滑で迅速な給

(同法17条1項2号)。というのも,社会権の実現は  付のためには,給付主体相互の管轄や権限の調整 法律による保障のみによって達成されうるもので  のための手続のみならず,これら第三者との連携

はなく,このような事実上の手段が用意されてい  のための手続が不可欠となると考えられるのであ なければ,社会給付の請求も,内実のないものに  る。

なりかねないからである。

ただし,これらの社会役務および施設を通じて  三 社会法典における個々の給付主体 の給付は,給付主体の意思によらず,民間の非営

利の団体によって任意に実施されている場合があ   1 社会保険における組合形式による保障 る。すなわち,各種の宗教団体や労働団体などの   社会法典第1編4条によれば,「何人もこの法典 民間福祉団体によって行われてきた慈善的事業と  の範囲内で社会保険を求める権利を有する」(1項)。

しての給付であり,これは社会法典の領域では,  そのため,社会保険の被保険者は,法定の疾病・

青少年援助や社会扶助の領域において伝統的に行  介護i・災害および年金保険(農業従事者の老齢保 われてきた(18>。これらの団体も同様に給付主体に  険を含む)の範囲内で(2項),健康および生業能 属するものではないが,社会法典第1編は社会保   力の保護・維持・改善および回復のために必要な 障の経済性,および補完性の原則にしたがって,   措置(同1号),ならびに,疾病・妊娠・生業能力 以上の領域ですでに行われてきたこれらの団体の  の低下および老齢に際しての経済的保障(2号)

活動を尊重し,給付主体の活動がそれらの独立性  を請求する権利を有している。そこで,これらの を侵害することがないように留意する義務を課し  権利に対応して社会法典第1編では,21条(法定 ている(同法17条3項)。      疾病保険給付),22条(法定災害保険給付),およ

(4)給付主体の事物管轄と第三者         び23条(農業従事者の老齢保険を含む法定年金保 以上のような考察に基づくならば,社会給付は   険給付)において,各領域に対応する社会保険給 法的に多様な性質を有する組織によって提供され  付の内容と所轄の機関が明示されており,社会法 うるものであり,ただそのうち,社会法典に定め  典第4編の共通規定を通じて,それぞれ,社会法 られた具体的な給付行為の権限を与えられた機関  典第5編から第7編に詳細な規定が置かれている。

のみを「給付主体」として呼んでいると理解する  また,ドイツにおける「介護保険法」(Pflegever一 ことができる。社会法典第1編11条によれば,本  sicherungsgesetz)の成立により(1994年5月26 法における社会給付には,役務給付,現物給付お   日公布,1995年1月1日施行),その給付に関する規 よび金銭給付の3つが属している(19)。したがって,  定が,社会法典第1編に21a条として挿入され,

社会保障の個々の領域ごとに,その目的に応じて  その内容が社会法典第11編に具体化されている(2°)。

これらの給付が提供されるわけであるが,以下に   (1)法定疾病保険給付(21条)

詳しく述べるように,給付主体の事物管轄の細分    まず,医療保険に相当する疾病保険は,1883年

化に起因して,目的において同様の給付行為が,   の疾病保険法により創設されたドイツで最も古い

管轄を別にする複数の機関によって分断的に処理  歴史を有する保険制度である。その沿革から,当

されていることに留意される必要がある。また,  初は労働者の保護に主眼がおかれていたのである

このような給付行為のうち,特に役務給付につい  が,法律の拡充によってその対象者は次第に拡大

ては,さきに社会役務・施設について述べたとこ  され,今日では公務員など,その被用者により直

うからも分かる通り,その実際の提供にあたって,  接保障される者や,一部の加入義務を免除された

給付主体以外の第三者(特に民間福祉団体)め存   者を除く他は,地域別,企業別あるいは職業別に

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古屋:ドイッの社会法典における給付主体      73

組織されたいずれかの疾病金庫に被保険者として  地区疾病金庫の加入者となる伽)。また,これらの 所属している⑳。       疾病保険の運営主体は,効率的な保険業務を遂行 社会法典第1編21条は,疾病保険法により請求   するために,各金庫ごとに,連邦および州レベル しうる医療給付の種類として,つぎの給付を用意  で「連合体」(Verband)を形成しているが,こ している。健康の促進,疾病の予防および早期発   れらの上部団体自身は,社会法典上の社会給付の 見のための措置(1項1号),疾病に際しての医療  権限を有しないために,給付主体には該当しない 処置,特にa)医師(歯科医)による治療,b)  ものとされている圏。

薬剤等医療品の供与,c)家庭内疾病介護および   なお,以上の疾病金庫の下に「介護金庫」

家計援助,d)病院看護, e)リハビリテーション  (Pflegekasse)が併設されており,これが介護保 のための医療的給付および追加給付,f)営農援  険の運営主体として所轄を有することが定められ 助,g)疾病手当(同2号),妊娠時および母子に   ている(21a条2項)(26)。

対する医師の診療,助産婦援助,産院(病院)に   (2)法定災害保険給付(22条)

おける出産,家庭内介護,家計援助,営農援助,   つぎに災害保険の領域について,社会法典第1 母子手当,出産手当(3号),家族計画のための援   編22条は以下の給付を求める機会を保障している。

助,ならびに,違法ではない断種(Sterilisation)  労働災害,職業病,および労働による健康上の危 および妊娠中絶に際しての給付(4号),死亡手当  害を予防するための措置(その初期段階での援助

(5号)である。したがって,疾病の事前予防と事  を含む),ならびに,それらを早期に発見するた 後の治癒,妊娠出産と家族計画にかかわる援助,  めの措置(1項1号),生業能力の維持,改善およ そして死亡にわたる,幅広い給付が内容とされて  び回復のための治療行為,雇用促進その他の給付 いるということができる幽。       (同2号),生業能力の低下による年金(3号),遺 これらの疾病保険は,ビスマルクが疾病保険法   族年金,死亡手当および付加手当(4号),年金の の制定にあたって,労働者や職員による既存の共  一時払い(5号),家計援助(6号),農業従事者の 済組合を医療保険者として再編成して以来,保険   営農援助(7号)である。したがって,労働災害 者たる疾病金庫による組合管掌方式での実施が維  の事後的な処置のみならず,その発生を防止する 持されてきた。この疾病金庫には,地区疾病金庫  ための措置,ならびに改めて職業生活に編入させ

(Ortskrankenkasse),企業疾病金庫(Betriebs一  るための回復的な措置を含んでいるところに特色 krankenkasse),同業組合疾病金庫(Innungskran一  がある( )。

kenkasse),海員疾病金庫(See−Krankenkasse),   このような労働災害保険は,1884年に制定され 農業疾病金庫(Landwirtschaftliche Kranken一  た「災害保険法」(Unfallversicherungsgesetz),

kasse),連邦鉱山従業員金庫(BundesknappschaftL  および1911年7月19日の「ライヒ保険法」(Reichs一 および労働者・職員の代替金庫(Ersatzkasse)  versicherungsordnung)を経て,ドイツにおける がある(21条2項)㈱。そこで,強制被保険者につ  労働者災害補償の中心的な役割を担ってきた。そ いていえば,それらの勤務する事業所等の別に応  して現在では,1996年8月7日の社会法典第7編 じて,企業疾病金庫が設立されている事業所で勤   (災害保険)の成立により(翌年1月1日より施行),

務する被用者は企業疾病金庫に,手工業を営む事   同法によって統一的な労災保険給付が実施されて 業所に勤務する従業員は同業組合疾病金庫に,海   いる(28)。ただし,同法によっても,産業別あるい 員は海員疾病金庫に,農業従事者とその家族は農   は業種別に設けられた組合形式による保険業務の 業疾病金庫に,鉱山従業員は連邦鉱山従業員金庫  運営は解消されたわけではない。これらはおもに,

に加入することになる。そしてこれらのいずれの  商工業労災保険,農業労災保険および海員労災保

疾病金庫の被保険者にもならない者は,勤務地の  険の3分野について自治的な保険組合を形成して

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おり,当該業種に属する事業の経営者を被保険者   にわけて記載されている。

として,労働災害にかかわる包括的な任務を遂行    まず法定年金保険においては,a)経済的援助 している。      と併せた生業能力の維持,改善および回復のため

労災保険の運営主体について,社会法典では第  の治療行為,雇用促進その他の給付,b)老齢に 1編22条2項の他,第7編5章以下に詳細な規定が置   よる年金,生業能力の減退による年金,および鉱 かれている。そこで第7編114条1項によれば,法   山従業員調整給付,c)遺族年金, d)寡婦および 定の労災保険の運営主体として,労災保険組合   寡夫一時金ならびに保険料還付,e)疾病保険の

(Berufsgenossenschaft)(1号),農業労災保険組  保険料支払いのための補助金, f)児童養i育給付,

合(Landwirtschaftliche Berufsgenossenschaft)  が保障されている岡。

(2号),その雇用する職員について連邦自体(3号,   また農業従事者の老齢保険については,a)営 115条),鉄道労災保険局(Eisenbahn−Unfallkasse)  農援助または家計援助と併せた生業能力の維持,

(4号),郵便電信労災保険局(Unfallkasse Post  改善および回復のための治療行為その他の給付,

und Telekom)(5号),州の労災保険局(Unfall−  b)生業不能(1999年12月31日まで,2000年1月1 kasse)(6号),市町村の労災保険団体(Gemeinde一  日より所得の減少)および老齢による年金, c)

unfallversicherungsverband)および市町村の労  遺族年金, d)農業従事者の死亡の場合における 災保険局(7号,117条),消防災害金庫(Feuer一  所得確保のための営農または家計援助, e)農業 wehr−Unfallkasse)(8号),州および市町村に及  従事者の確保のための給付,がある。

ぶ共同の労災保険局(9号)があげられている(29)。   このようなドイッの年金保険を運営する給付主 このうち,もっとも数の多い労災保険組合は,  体は,農業従事者に対する老齢保険を含んで,ま 商工業労災保険組合(Gewerbliche Berufsgemein一  ず被保険者の就業の形態(労働者か職員か)によ schaft)とも呼ばれており,各分野の業種に応じ  り,そして労働者については,さらにその者が属 て(小売業労災保険組合,食肉業労災保険組合な   する業種の別(海運・鉄道・鉱業・農業)により,

ど),あるいは一部は地域別(ハンブルクやバイ  別個の組合によって管掌されている。このような エルンの建設業労災保険組合など)に組織されて  給付主体の分立は,ドイツの年金保険の歴史的沿 いる(3°)。なお,商工業労災保険,農業労災保険お   革によるものであり,1992年1月1日の社会法典第 よび市町村・州地域での労災保険の運営主体は,  6編の成立によっても変更は加えられていない。

それぞれ上部団体としての中央商工業労災保険組   同法は,第3章において年金保険の組織に関す 合連合会,連邦農業労災保険連合会および公的労   る定めを置いている。年金保険の給付主体の別お 災保険連合会を有しており,各保険組合はこれら  よびその管轄については,125条および127条に規 に加盟し,そのもとで結集している。これらは登  定されている。労働者の年金保険の保険者として 記された社団であるとされている(31)。       は,州保険庁(Landesversicherungsanstalt),

(3)法定年金保険給付(23条)         連邦鉄道保険庁(Bahnversicherugsanstalt)お そして,1889年の「廃疾・老齢保険法」(Gesetz  よび海員金庫(Seekasse)が,職員については,

面er die Invaldit翫s−und Altersversicherung)  連邦職員保険庁(Bundesversicherungsanstalt に起源を有するドイッの年金保険は,現在では職  f廿rAngestellte)が,そして鉱山従業員につい 員年金保険,鉱山従業員年金保険を含んで,社会   て連邦鉱山従業員組合(Bundesknappschaft)が 法典の第6編に統合されている。そこで,これら  所轄を有している(お)團。

の年金給付に対する権利を宣言した社会法典第1   これらの年金保険の運営主体の別は,社会法典 編23条では,そのための給付を,法定年金給付   第1編23条においても明記されており(同条2項),

(同条1項1号)と農業従事者の老齢保険(同2号)   さらに農業従事者の老齢保険についても,農業養

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古屋:ドイツの社会法典における給付主体      75

老金庫(Landwirtschaftliche Alterskasse)が  であるが,労働者,使用者および公共団体の代表

所轄を有することが明らかにされている。また,  者からなる自治的な組織(Selbstverwalung)に       他の社会保険の運営主体と同様に,年金保険の領   より運営されている点に特色がある(同367条,

域でも一元的な上部団体が形成されている。ドイ  380条1項)。連邦雇用庁は,その本庁(Hauptste1一 ッ年金保険者連合会(Verband Deutscher Ren−  le)のもとに,下部組織として州労働局(Landes一 tenversicherungstrager:VDR)がそれである。  arbeitsamt)および労働局(職業安定所)(Ar一 年金保険の主体は,法律に基づき個々の被保険者  beitsamt)を擁しており(368条),地域レベル に対してなすべき任務を共同して,ドイツ年金保  での業務を担当する労働局が,連邦雇用庁の任務 険者連合会に委ねることができ,これは,個々の  を実施する第一次的な官庁とされている(371条1 運営主体による任務の履行が,非合理な多大の出  項,社会法典第1編19条2項)。また自主管理機関と 費を伴う場合にのみ許されている(社会法典第6  して,連邦雇用庁には管理評議会(Verwaltungs一 編146条1項)。      rat)および理事会(Vorstand)が,州労働局お

よび労働局には管理委員会(Verwaltungsaus一 2 職業生活にかかわる経済的援助と連邦雇用庁  sch廿sse)が置かれている(37}。

(1)雇用促進給付(3条・19条)      (2)重度障害者のための付加的給付(20条)

「職業生活に加わり,あるいは加わろうと欲す   また,このような雇用政策に関連して,重度障 る者は,教育の途および職業の選択に際しての助  害者は,社会法典第1編20条1項により,適切な職 言,個人の継続的な職業教育の促進,適切な職場  場の獲得または職場の維持のための付加的な援助 の確保・維持のための援助,そして,失業および  (同1号,2号),および,労働生活における随伴 使用者の支払不能に際して,経済的保障を請求す  援助(3号)を請求することが認められている。

る権利を有する」(社会法典第1編3条2項)。した  ここで重度障害者(Schwerbehinderte)とは,

がって雇用促進は,国の労働市場政策の中心をな   「重度障害者の労働,職業および社会への編入を すものであり,その内容は職業教育・職業訓練か  保障するための法律」(Gesetz zur Sicherung ら雇用の創設,職業の紹介斡旋と安定的な職場維  der Eingliederung Schwerbehinderter in Arbeit,

持の措置,ならびに,職場復帰のためのリハビリ  Beruf und Gesellschaft),すなわち「重度障害 テーションあるいは失業保険金の給付等にまで及  者法」(Schwerbehindertengesetz:SchwbG)に ぶ,包括的で積極的な雇用政策を含んでいる闘。  よれば,正常ではない身体的,精神的および心理

この目的を達成するために,1969年6月25日に   的状況に基づく機能障害が,一時的ではなく6ケ それまでの「職業紹介および失業保険法」(Gesetz  月以上継続する者であって,その程度が少なくと 賛ber Arbeitsvermittlung und Arbeitslosenver一  も50パーセント以上に及ぶ者とされている(同法 sicherung)に代わって「雇用促進法」(Arbeits−  1条,3条)(銘〉。

f6rderungsesetz:AFG)が制定されている。さ   このような障害者に対する雇用規定は,従来,

らに現在では,同法の改正法により,雇用促進に  戦争犠牲者あるいは労働災害者に対して保障され かかわる法体系は,1998年1月1日から社会法典の  ていたものであり,各州によっても逐次,補充的 第3編に編入されている圃。       に立法がなされてきた。しかし第二次世界大戦後,

社会法典第3編に基づく業務は,ニュルンベル   重度障害者雇用法によって連邦に一元的な立法が

クの連邦雇用庁(Bundesanstalt f廿r Arbeit)に  施されるにいたり,さらに1974年5月1日の重度障

よって実施されている(同法369条1項,370条1項)。  害者法の制定により,障害の種類および原因にか

この機関は権利能力のある団体であり,基本法87  かわらず,広く障害者の社会的編入のうち,特に

条2項による連邦直属の公法上の団体にあたるの  経済活動への適応を実現する導邦法の実現をみた

(8)

ものである倒。そのような趣旨は,実際にも,重  ために創設されたものである働。

度障害者法による各種の雇用確保措置に見てとる   このうち児童手当は,1996年の租税法(Jahres一 ことができる。たとえば,公的機関および民間企  steuergesetz 1996)により,税の支払い(Steuer一 業の重度障害者の雇用義務(同法5条),およびそ  vergUtung)の方式での児童扶養控除に一元化さ れを達成できない場合の負担調整賦課金(Aus一  れ,納税義務のない児童扶養者についてのみ,

gleichsabgabe)の支払い(同11条),一定期間の  「連邦児童手当法」(Bundeskindergeldgesetz:B一 解雇からの保護i(15条以下),事業所内における  KGG)に基づいて支給されるものになった㈹。

重度障害者の権益を代表する委員の選出(23条以   そのため,社会法典第1編25条にも変更が加えら 下),その他の職業生活編入のための追加給付が   れており,「所得税法31条による家族負担調整を それである(社会法典第1編20条1項参照)。     適用できない場合にのみ,児童手当を主張しうる」

重度障害者法に基づく任務は,主要援護事務所   と改められている(同条1項)。その所轄機関には,

(HauptfUrsorgestelle)および連邦雇用庁(労働  児童手当の受給資格の証明書の交付機関として,

局)との密接な協働によって実施されている(社  連邦雇用庁の「家族金庫」(Familienkasse)が 会法典第1編20条2項,重度障害者法30条1項)。主  あてられている(同3項1文)。また育児手当につ 要援護事務所は,負担調整賦課金の徴収および管  いては,「連邦育児手当法」(Bundeserziehungs一 理,解雇からの保護,労働・職業生活における随  geldgesetz:BErzGG)10条の定める機関がその 伴援助,および重度障害者保護の一時的な停止に  所轄を有することとされており,そのためこの点 任務を有し,連邦雇用庁は,重度障害者の職業相   に関して,社会法典第1編では所轄機関の特定は 談・労働紹介,職場等への受け入れに際しての雇  行なわれていない(同法25条2項)( )。

用主への相談,重度障害者の採用および就業の特

別の促進,および雇用義務の監視等の任務を有し   3 就学促進・社会援護における委任行政 ている(重度障害者法31条,33条)。また,主要援   (1)就学促進給付(3条・18条)

護事務所および連邦雇用庁の下には,障害者の労   社会法典第1編3条では,「興味,適性,能力に 働生活への編入を促進し,この法律の実施に際し  応じた教育を受けようとする者が,必要となる学 てこれらの機関を支援する,障害者のための諮問  費を他の方法で調達することができない場合には,

委員会の設置が定められている(同法32条,34  個人的な就学促進を受ける権利を有する」と定め 条)圃。       られている。その目的は,公的資金による個人単

(3)児童手当・育児手当(6条・25条)       位の就学促進を通じて,経済的困難が原因となっ 社会法典第1編6条および25条に定められた,児  て生じる就学機会の格差を是正し,公平な教育の 童扶養者の経済的な負担軽減のための児童手当  機会を提供しようとするところにある㈲。その

(Kindergeld)および育児手当(Erziehungsgelt)  ために18条では,生計の維持(Lebensunterhalt)

の支給は,育児休暇(Erziehungsurlaub)や年金  および教育のための補助金(Zusch飴se)および における育児休業期間の算入とならんで,ドイッ  貸付金(Darlehen)を請求する機会が保障され における家族政策の一翼を担う給付制度であ  ており,さらに,その内容が「連邦就学促進法」

る(4 )。このうち児童手当は,児童を扶養する者  (Bundesausbildungsf6rderungsgesetz:BAf6 G)

とそうでない者との間の経済的負担の不均衡を調  によって具体化されている。ただし,すべての就

整することを目的とし,また育児手当は,子育て  学促進措置が連邦就学促進法により網羅されてい

の専念のために就業しないことに伴う経済的不利   るわけではない。特に,雇用促進に関連して実施

益を調整することによって,公平かつ均等な児童  される職業訓練にかかわる援助については,雇用

養育の機会を保障し,児童の健全な育成を期する  促進法が参照されることになる㈹。

(9)

古屋1ドイツの社会法典における給付主体       77

連邦就学促進法に基づく任務は,連邦の委任に  いる。このような社含権に基づく請求は,具体的 基づき,各州によって実施されている(同法39条)。  な法律による根拠を必要とすることは前述した通 そのため,州はその郡(Kreis)および郡に属し  りであるが,ドイツでは従来,社会援護による健 ない市(Kreisfreie Stadt)に就学促進局(Amt  康被害の救済は,「戦争犠牲者の援護に関する法 f茸rAusbildungsf6 rderung)を設置することが  律」(Gesetz廿ber die Versorgung der Opfer 定められており(同40条1項),この官庁が,この  des Krieges),すなわち「連邦援護法」(Bundes一 法律の実施に必要な任務を遂行する第一の主体と  versorgungsgesetz:BVG)を通じて行われてき

されている(41条1項)。また州は単独で,あるい  た。その適用対象者には,軍務を通じて直接に戦 は他の州と共同して州就学促進局(Landesamt  争に関与した者のみならず,捕虜となった者,ま f廿rAusbildungsfδrderung)を設置することが  たはドイッ国籍・ドイッ民族であることを理由に でき,その限りで,この法律の実施の一部を担当  抑留された者を含んでいる。しかし現在では,こ することになる(40a条参照)。また,連邦就学  の法律を一部準用する形で,さまざまな方面へ社 促進法は,その対象者に学生を含むところから,  会援護による健康被害者の救済は拡大されている。

国内の大学に通う者のために,国立大学内または  予防接種に関して連邦伝染病予防法,犯罪被害者 学生互助会の下に就学促進局を置くことが定めら  補償法などがそれである(51>。

れている(40条2項)(47)。社会法典第1編では,    社会法典第1編24条では,健康被害に際して請 以上の連邦就学促進法の規定を援用して,就学促   求しうる具体的な社会給付の類型が列挙されてい 進にかかわる所轄機関の特定が行われている(同  る。それによれば,連邦援護法の定める基準に従 法18条2項参照)。       い,関係者は治療および療養処置,ならびに経済

(2)健康被害に際しての社会援護(5条・24条)   的援助を含む生業能力の維持,改善および回復の 社会法典第1編5条および24条は,ドイツにおけ  ためのその他の給付(同条1項1号),雇用促進を る社会保障の第3の柱でもある社会援護(Soziale  含む個々の場合における特別の援助(同2号),生 Entschadigung)について規定している㈹。ここ  業能力の低下に基づく年金(3号),遺族年金,埋 でいう社会援護とは,何人も被る可能性のある身  葬手当および死亡手当(4号),および,住居取得 体,生活および財産上の損失が,偶然にある特定   のための資本供与(5号)を受給する地位を有し の個人あるいは集団に生じた場合であって,それ  ている。

が本人の責に帰せられない特別の犠牲といいうる   このような戦争の結果に関する費用は,基本法 場合に保障される援助を指している(49)。したがっ  120条により連邦が負担するものであり,戦争犠 てそのような犠牲は,国家の責任の下で社会全体  牲者援護にかかる費用についても同様であるが,

の負担により調整されなくてはならない。そのた  連邦援護法の実施については,基本法85条により めその財源は租税により,またその認定にあたっ  委任が行われ,州は当該任務を自己の事務として ては,特別の犠牲を生ぜしめるに至った事情と,  執行するものとされている。そこで州では,この その結果もたらされた損失との間に因果関係が存  任務の実施のために,援護局(Versorgungsamt)

在することが要件とされている(5°)。        および州i援護局(Landesversorgungsamt)を設

そこで社会法典第1編5条は,その結果について  立しており,また必要に応じて,連邦労働大臣お

国家が特別の犠牲の補償により,あるいは,その   よび連邦財務大臣との協力により,整形外科援護

他の援護法上の原則に基づく理由から責任を負う  所(orthopadische Versorgungsstelle)の設立

健康被害を受けた者に対して,健康および生業能  が認められている。したがって以上の給付につい

力の維持,改善および回復のため必要な措置,な  ては,一般的にこれらの官庁があたるわけである

らびに,相当な経済的援助を求める権利を認めて  が,社会法典第1編の24条1項2号に定める個々の

(10)

場合における特別援助については,その内容が社  社会法典第1編27条1項では,そのために請求し 会扶助と類似するところから,郡および郡に属さ  うる具体的な給付の種類と内容があげられている。

ない市,ならびに主要援護所(HauptfU rsorge一   社会法典第8編(児童青少年援助法)2条によれ stelle)の所轄とされている。また,同じく24条1  ば,青少年援助の任務として認められる給付には,

項1号の治療および療養処置の実施については,  つぎのものがある。青少年活動,青少年社会活動 その給付の性質上,法定疾病保険の保険者との協   および児童および青少年の保護のための教育的給 力および事務分担が不可欠となる國。これらの  付(同法11条〜14条),家庭内における教育促進 点を含めて,以上の連邦援護法の管轄の定め(同  のための給付(同16条〜21条),幼稚園や保育所 法18c条参照)は,同様に社会法典第1編24条2項  などの昼間施設(Tageseinrichtungen),および においても反映されている。      ベビーシッターなどの昼間保護者(Tagespflege)

を通じての児童促進給付(22条〜25条),教育相 4 地域福祉としての州による保障       談等を含む教育や補充的給付のための援助(27

(1)住宅手当(7条・26条)      条〜35条,36条,37条,39条,40条),若年成人 ドイッでは経済・社会政策の一貫として,でき  (junge Volljahrige)の人格形成や,自己責任の る限り良好な居住環境を確保することを目的とし  ある生活を送るために必要とされる場合の援助 て,社会住宅(Sozialwohnung)の供給とあわせ  (41条)である岡。なお,社会法典第1編27条1 て,住居の維持のために,賃料補助金および住宅  項には記載されていないが,児童青少年援助法に 手当(Wohngeld)の支給が行われている(53)。そ  は,これらの給付の他に,心理的な障害を有する こで,社会法典第1編7条では,「ふさわしい住ま  児童および青少年のための援助や補充的給付が含 いのために過大な費用を負担しなければならない  まれている(35a条〜37条,39条,40条)。

者は,家賃またはこれに相当する費用の補助を求   これらの青少年援助の任務は,地域運営主体 める権利を有する」ことが宣言されている。そし  (6rtlicher Trager)としての郡および郡に属し て26条では,住宅手当法を援用して,そのための  ない市,ならびに広域運営主体(Uberortlicher 援助として補助金を請求しうる地位を確認したう  Trager)により実施されている。それぞれの運 えで,その所轄の機関を「州法によって定められ  営主体には,これまでの伝統に則して,具体的な た官庁」としている。それは,このような住宅手  業務を遂行するための青少年事務所(Jugendamt),

当による居住環境の維持改善は,身近な地域団体  あるいは州青少年事務所(Landesjugendamt)

との協働によってなされることを本則とする㈲   が置かれている(社会法典第8編69条1項,3項)。

という理由によるものといわれている。したがっ  ただし,広域の業務を担当する広域運営主体は,

て,以下に述べる保障領域とならんで,州による  州法によって定められることとされており,した その地域的特性を配慮した個別の施策が,その所   がってこのレベルでの給付主体の一元性は存在し 轄の機関を別にして実施されているといえる。   ていない。当初の社会法典第1編(1975年法)の2

(2)児童青少年援助給付(8条・27条)       7条2項では,児童青少年援助にかかる所轄官庁 児童青少年の健全な育成を促進し,その社会性   として,これらの青少年事務所の名称が明記され のある人格形成に寄与するために,社会法典では   ていたが,現在の法律では,社会扶助における給 第1編8条において,児童青少年およびその親権者  付主体と同様に,ただ単に郡および郡に属しない 等に対して公的な青少年援助を求める機会が認め  市が管轄を有すると規定されているのみであ

られている(55)。そして現在,社会法典の第8編と  る(57)。したがって青少年事務所は,社会法典第 して組み込まれた「児童青少年援助法」(Kinder−  1編12条による給付主体に該当するものではない。

und Jugendhilfegesetz:KJHG)と連係して,   社会法典第8編69条2項によれば,郡に属する市

(11)

古屋:ドイツの社会法典における給付主体      79

町村も,その給付能力がこの法典による業務の遂  かれており,さらに同法典では,同条1項3号お 行に耐えうる限り,その要請に基づいて,州法に   よび4号において,障害者自身またはその保護者

より地域運営主体と定められることが認められて  に対する相談(3号),および,住宅の取得および いる(58>。したがって,社会法典第1編27条2項に  維持に際しての扶助(4号)があげられている。

おいても,この点を反映した規定が付加的に置か   ただし,社会扶助法による救済は,上述の点か れている。なお,伝統的に認められてきた民間福  らも分かる通り,自己の資本(労働力または資産)

祉団体による青少年援助活動については,児童青   あるいは他者からの援助が受けられない場合に限 少年援助法4条,および,74条から76条において  り認められている。これは,社会扶助法における その活動の優先性が認められており,また,社会  後置性(Nachrang der Sozialhilfe),あるいは 法典第1編27条2項においても,同様に協働に関す  補完性の原理(Subsidiaritatsprinzip)の採用を る規定が置かれている(59)。       明らかにするものである。したがって,社会扶助

(3)社会扶助給付(9条・28条)         の認定にあたっては,私人からのみならず,すで 各人に人間の尊厳に値する生活を保障し,自立   に他の社会保障の領域から具体的な給付が支給さ 的な生活へ復帰するための支援を目的として,ド  れている場合には,必要額の算定に際して,それ イッでは1961年に「連邦社会扶助法」(Bundes一  らの給付は考慮されることになる。反対に,連邦 sozialhilfegesetz:BSHG)が制定され(1962年6  社会扶助法の定める給付の中に必要とされる同様 月1日より施行),社会法典第1編9条および28条に  の給付が含まれる場合であっても,他の社会保障 おいて,この社会扶助法に基づく具体的な権利と  領域(たとえば疾病保険,年金保険災害保険等)

給付の内容が明らかにされている(6°)。すなわち,  から同様の請求をなしうる場合には,そちらの請

「自力で生活費を賄うことができない者,または,  求が社会扶助の受給に優先する(連邦社会扶助法 特別の生活状況により自活することができない者  2条参照)(62)。

であって,他からも十分な援助を受けていない者   連邦社会扶助法では,この法律より扶助が与え は,その特別の必要に応じて,社会生活への参加  られるべきことが定められている限りで,社会扶 を可能にし,人たるに値する生活を確保する自立  助の請求に対する法的な権利性が承認されており 的な能力を与える,人的および経済的援助を求め   (同法4条1項),また社会扶助の開始には,申請に る権利を有する」のである(同法9条)。      基づくことなく,その要件が運営主体またはその

この規定に基づいて,28条では社会扶助法に基  委託を受けた機関に明らかになった時点で開始さ つく給付の内容を,生計維持のための扶助と特別  れる,職権主義の原則が採用されている(同5条1 の生活状況における扶助の二つに分けて記載され  項)(63)。連邦社会扶助法の実施に関する事物管轄 ている(連邦社会扶助法1条1項参照)。特別扶助   は,地域運営主体と広域運営主体によって分掌さ として,連邦社会扶助法では,生活の基礎の構築   れており,郡に属しない市および郡が地域運営主 または確保のための扶助(同法30条),予防的保  体として,広域運営主体の事物管轄に属しない事 健扶助(同36条),医療扶助その他の扶助(37条,  項について事務を担当している(96条1項,99 37a条),家族計画扶助(37b条),妊産婦扶助(3  条)岡。他方,広域運営主体は各州によって定め 8条),障害者編入扶助(39条〜47条),視覚障害  られることとされており(96条2項),その事物管 者扶助(67条),介護扶助(68条〜69c条),家政  轄(100条)についても,州法により,連邦社会 の継続のための扶助(70条,71条),特別な社会的  扶助法と異なる定めを置くことが認められている。

困難を克服するための扶助(72条),および老人   したがって,州により所轄の広域運営主体の別,

扶助(75条)の11種類が定められている(61)。同  および事物管轄の範囲に相違が生じることになり,

様の規定は,社会法典第1編28条1項2号にも置   また上述のように,地域運営主体の事物管轄の範

(12)

囲が広域運営主体のそれに依存する結果,双方の   または改善することによって,健全な社会生活へ 運営主体間における事物管轄の配分にも,州ごと  復帰するための,一定の措置が必要とされる場合 の相違がもたらされている。したがって,多くは  があることに変わりはない。そのような要請は,

州自体(またはこれと同格の特別市)が担当して  後述するように,健康面や労働活動について,ま いるが,州福祉連合(1.andeswohlfahrtsverband)  た,基本的な生活環境の維持の面について認めら や地域連合(Landschaftsverband)などの地域  れるべきものである。したがって,本条にいう 団体が(運営)主体となっている場合がある圃。  「障害」の概念は広範であり,それが用いられる また,社会法典第1編28条1項3号に定められた障  保障領域の特性に応じて多義的に用いられている 害者,またはその保護者に対する相談は,連邦社  ということができる㈹。

会扶助法126条により,保健所(Gesundheitamt)   社会法典第1編10条によれば,身体的,精神的 がその任務にあたるものとされている(66)。     または心理的な障害を有する者,あるいはそのお

なお,児童青少年援助におけると同様に,これ  それのある者は,障害の原因にかかわりなく,編 らの運営主体および保健所と,民間福祉団体の協  入の援助を受ける権利を有している。ここで「編 働に関する規定が,社会法典第1編28条2項ならび  入」とは,「リハビリテーション」(社会復帰)と に連邦社会扶助法2条および10条に置かれてい  もいいかえることができる概念であって,障害を る〔67>。      予防,除去,改善し,その悪化を防止もしくは結

果を軽減する措置,ならびに,その適性および能 5 複数の所轄にかかわるリハビリテーション給付   力に応じて,社会における場所,とりわけ労働生

(1)障害者の編入規定の意義と障害の概念     活における場を確保する措置が該当する(同条1 最後に,社会法典第1編10条および29条では,  号,2号参照)。

障害者の編入(Eingliederug Behinderter)につ   したがって,この意味での編入は,これまで述 いて規定されている(68)。すなわち,障害を有す  べてきた社会給付の類型のうちにすでに含まれて る者といえども,健常者と同様に,公平な社会給  いるということができるのであって,法定疾病保 付を受ける機会を有することはいうまでもない。   険,法定災害保険,法定年金保険,戦争犠牲者援 しかし個々の事情により,その障害が原因となっ  護,雇用促進および社会扶助の範囲内で,各領域 て,具体的な生活状況において不利益や異なる取  の個別法にしたがってそれぞれ実施されてい 扱いを受けることになる場合には,個別的に,こ  る(7°)。したがって,この29条が挿入された意義 れに対して特別の配慮がなされることが必要とな  は,これらの各領域において保障されているリハ る。      ビリテーションの給付を改めて包括的に規定する 前述の通り,重度障害者については,すでに社  ことにあり(71),さらにその目的の達成を担保す 会法典第1編20条において,その経済活動への編  るために,各領域において個別に定められてきた 入が規定されており,また,特別の国家的・社会  リハビリテーション給付の基準の統一と調整を確 的原因により健康被害を受けた者に対しては,社  保し,その任務にあたる運営主体の協働と連携を 会援護を定めた24条によって特別の補償がなされ  維持することにある。以上のような目的から,リ ている。ただし,それ以外の者についても,たと  ハビリテーション調整法(Rehabilitationsanglei一 えば重度障害者法の適用を受けない一時的な障害  chungsgesetz:RehaAnglG)が制定されている。

を有する者(同法3条1項参照)のように,社会   (2)障害者の編入給付(29条)と給付主体 生活上または職業生活上,一定の機能的な障害    リハビリテーション調整法は,リハビリテーショ

(支障)が認められる場合には,その程度,ある  ンのために採られる措置を,医療的給付(同法10

いは発生の原因にかかわらず,その障害を除去し  条),雇用促進的給付(同11条)および補充的給

(13)

古屋:ドイッの社会法典における給付主体      81

付(12条)の3つに分けている。ただし,社会法  見地から,リハビリテーション給付の所轄機関は,

典第1編の29条1項3号に含まれる「社会編入」   日常的に編入の援助について住民に適切な方法で

(Soziale Eingliederung)のための給付について  教示する義務を負うとともに,リハビリテーショ は規定しておらず,これはもっぱら,連邦社会扶  ンの可能性について,障害者に有益な情報を提供 助法(39条以下)の定めるところによっている。   し,また,その所轄の範囲内で早期に包括的な諮 そこで,リハビリテーション調整法2条は,この  間(相談)を行うことを義務づけられている(リ 法律が,前記のような法定の疾病保険その他の領  ハビリテーション調整法3条,5条1項2文)。また各 域に適用があることを確認するとともに(同条1  機関は,リハビリテーション措置が適切であると 項),リハビリテーションの給付主体を,それら  認めた場合には,所轄の給付主体に報告し,その の領域においてリハビリテーション措置を法律上  申請を遅滞なく移送する義務を負うとともに,従 義務づけられた団体,施設および官庁としている  前の機関の下で受領された申請は,所轄の給付主

(同2項)。したがって,社会法典第1編に定めら  体に提出されたものとみなす規定が置かれている れた給付主体の類別からいえば,19条から24条,   (同法4条2項)。

および28条の各条項に掲げれられた運営主体が管   (3)リハビリテーション給付主体間の協働 轄を有することになる(社会法典第1編29条2項   このように,リハビリテーション調整法は,措 参照)。      置の早期の開始と迅速な実施によって,障害者の しかし,具体的な場合に,いずれの機関がリハ  永続的な社会編入を実現するために,総合的なリ ビリテーションの担当者となるかについては,明  ハビリテーション給付が行われることを目指して 確な定めが置かれているわけではない。すなわち,  いる。そのために,所轄の給付主体は相互に密接 自己の障害に応じて,どのようなリハビリテーショ  に協働する義務を負い(同法5条1項),その所轄 ン措置をいかなる機関が担当することになるかは,  の範囲内で,個々の状況に応じて必要な給付を,

各領域でリハビリテーション措置を義務づけられ  他の主体による措置が必要とされないように,完 た給付主体に適用される法律の定め(管轄)によ  全かつ包括的になすことを義務づけられている らざるをえないからである(リハビリテーション  (同2項)㈲。これは,生業能力の低下や,その不 調整法6条1項,9条1項)。たとえば,医療的リハビ  能を理由とする年金の支給に先行して,リハビリ

リテーションは,疾病保険,年金保険,労災保険   テーション措置が実施されることを定めた7条の 社会扶助の運営主体等が所轄を有し,雇用促進の  規定と同様に,社会保障における経済性および節

リハビリテーションについては,年金保険労災  約性の原則の法文上へのあらわれであるといえ 保険,社会扶助の運営主体等が所轄を有してい   る㈹。

る㈱。そのため,所轄のリハビリテーション機   また,一つのリハビリテーション手続に複数の 関が不明であり,またはそれ以外の理由からこの  給付主体および機関が関与している場合において,

措置が遅滞なく開始される必要がある場合には,  適切であると認められる場合には,所轄の給付主 応急的に,医療的給付については,その障害者を  体はリハビリテーションのための全体計画を作成 受けもつ法定年金保険の保険者,その他その所在   しなければならない(5条3項)。それは,相互の 地を管轄する州保険庁が,また雇用促進給付につ  関係を明らかにすることによって,リハビリテー いては連邦雇用庁が,遅くとも6週間の経過の後,  ション措置の重複などの経済的不合理を回避する 事前給付をなさなければならないこととされてい  とともに,その措置の一体的でシームレスな実施

る(同法6条2項)㈹。       のためにも必要とされている(同条6項参照)。

このような管轄の分裂に基づく不利益を克服し,

また公平なリハビリテーションの機会を保障する

(14)

四 むすびにかえて      して,社会法典はさらに,管轄を有しない給付主 体に提出された申請書の所轄機関への移送,およ 以上の考察から明らかなように,社会保障の領  び,不備のある申出の補正に関する定めを置いて 域において,その実際の運営にあたる給付主体は  いる(同2項,3項)㈹。また,州法により管 多様であり,また組織の性質および独立性につい  轄を有する機関,法定疾病保険および社会介護保 ても,それぞれの保障領域の歴史的発展の経緯を  険の運営主体は,社会法典の定めるすべての社会 反映して,極めて異なるものであることが理解で  業務に関して,教示(Auskunft)をなす義務を きる。      負う(15条1項)。これは,ある特定の社会給付に

そこで,ドイツの社会保障における給付主体を  ついて管轄を有する給付主体の指定(Benennung)

類別してみると,社会保険の領域において特徴的  に及ぶものであり,その内容は,教示を要請した な,組合の形式で組織された団体において,構成  者にとって重要性があり,教示提供者が回答する 員相互の自助により自律的に運営される領域,連   ことができるすべての事実問題と法律問題にわたっ 邦の委任に基づき州の事務として,その官庁によっ  ている(同2項)圃。

て処理される領域,および,行政が民間の自由な    また一般的に,このような社会法体系の複雑性 活動を補完する形で,住民に身近な地域団体,特   に由来する国民の不利益を排除するために,社会 に州法により郡および郡に属しない市を運営主体  法典第1編は,説明(Aufklarung)を通じて,国 として指定することにより,地域の実情や要請に  民にこの法律に基づく権利および義務に関して一 根ざした福祉の実現を期待しているとみられる領  般的な啓蒙をなす義務を,給付主体,その連合体,

域,の3つに分類しうると考えられる。ただし,  その他この法律に掲げられた公法上の団体に課し その実施が州法に委ねられる場合には,州ごとに  ており(同法13条),その権利および義務に関し 異なった主体に管轄が付与されることになり,そ  て,所轄の給付主体による相談(Beratung)を の実施の形態にも差異が生じることはいうまでも  受ける権利を保障している(同14条)⑳。

ない。さらに障害者の社会編入にみられるように,   しかし現実には,そのような事前段階での広報 その管轄が複数の給付主体にわたる場合には,給  や相談,あるいは,具体的な申請段階での所轄機 付主体の特定に際して困難を伴うことになる。   関の指定や申請書の移送などによっても,社会給 ここで,社会給付の実施に際して給付主体を拘  付が,その内容に応じて給付主体によって分断的 束する基本的な原則を,社会法典第1編17条が定   に処理されている事実を鑑みれば,給付が相互に めている㈹。すなわち「各権利者が社会給付を,  重複する場合や,請求者の社会状況の変化に応じ 時宜にかなった方法で,包括的かつ迅速に受給す  て所轄の機関に変更が生じ,あらたな給付主体と ること」に努めることであり(同条1項1号),そ  の間で給付の調整を行わなくてはならない事態も の結果,給付主体はこの法律の適用に際して,こ  考えられる。その調整のための方策として,社会 の迅速化の要請を義務づけられることになる㈹。  法典第1編43条では,「社会給付請求権が成立し,

また同3号においても,一般的に理解しやすい申  かつ,複数の給付主体の間で,いずれが給付の義 請書類(Antragsvordruck)を使用することによっ  務を負うか争いがある場合には,それらのうちで て,社会給付へのアクセスが可能な限り簡易にさ  一番最初に対応した給付主体が,仮の給付を提供 れることが要請されている㈲。      することができる」ことが定められている(同条 すなわち,社会給付の申請はまず,管轄を有す  1項)。この場合,事後に正規の給付主体が明らか る給付主体に提出されなければならない(社会法  になった時点で,仮の給付をなした給付主体は,

典第1編16条1項)。しかし,以上のような管轄の  その給付分に対して有する求償権を行使すること

錯綜に基づく給付の遅滞を防止することを目的と  になる。社会法典第10編の償還(Erstattung)

参照

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