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情緒的問題を有する児童の行動観察から行動の意味を探る

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情緒的問題を有する児童の行動観察から行動の意味を探る 相 馬壽明*

問     題

情緒的な問題を有する児童・生徒に対してどのような教育的かかわりが可能かという問題は,各種特 殊学校における重要な課題である。そのため,各特殊学校では個々の子どもの障害の程度や発達段階に 応じた教育的工夫がなされている。そのような工夫の1っとして,自由で保護された状況下で一対一の 個別的なかかわりを通して行動を観察することは,子どもの行動を理解する上で有効な方法である。し かし,自由な状況は要因が複雑であり,行動の意味が理解し難いことから,自由な状況下における行動 観察は,子どもに関する周辺的事実を得るにとどまっている。また,制度上の問題や指導形態の問題か ら,一対一の密接な個別指導は困難な状況にあると言わざるをえない。筆者は,学校側の協力を得て,

数年来子どもを抽出して自由観察する機会を得てきたので,その中の一事例をここに報告することによ って,子どもの行動が多重な意味を担っていることを示したい。特に,反復される事象を手がかりにし て,行動の多層構造的な意味を探ることを目的とする。

方    法

1.対象児:Y児(女児)。観察開始時9歳 1養護学校小学部3年生。

①家族構成:両親と弟の4人家族。

②生育歴:周産期に問題はなく,母乳で育つ。定頸3ケ月,初歩1歳1ケ月,初語1歳7ケ月,とて も健康な子どもであった。

③問題歴:1歳半のころ,4ケ月間ほぼ1日おきに夜泣きが続く。それまで出ていた「ママ」「バイ バイ」などの言葉が消失する。落ち着きがない,まねをしない,指さしがないなどの理由で,2歳過ぎ に某センターで脳波検査を受けるが,異常なしと診断される。幼児期に掃除機の音を嫌い,耳を塞いだ

り,わけもなく犬を恐がり逃げ回るようなことがあった。4歳ころ,海に行った時に,見知らぬ子ども のまねを1時間くらいしたことがあり,それ以降まねをすることが多くなった。障害児保育を行ってい る幼稚園に入園するが,1ケ月ほど登園拒否を示す。1年目は集団になじめなかったが,2年目からは 他児の世話もあって,元気に遊べるようになった。運動会も1年目は母親が付き添ったが,2年目は先 生の補助だけで参加することができた。

④入学後1年間の状態:〈学校での状態〉一人遊びが多く,多動で,見知らない人に対しては視線が 合わない。特定の先生に対しては自分から接触を求めることもあり,自分に対する指示にはだいたい従

うことができる。集団行動に適応するのに時間がかかる。特定の子どもに対応した行動(例えば乱暴

*茨城大学教育学部

(2)

な子どもが近づくと逃げる)が見られる。学校には行きたいようすだが,スクールバスに乗るのをいや がる。宿泊学習に対する不安感が強い(5月)。プールは大好き。他児にやり返せるようになった(7 月)。スクールバスに乗っても,以前は一人で後ろに座っていたが,他児の側に座るようになった(11

月)。

〈家庭での状態〉不慣れな道に対して不安を示す。Y児が大事にしている物を弟に取られるとパニッ クを起こす。TVで若い歌手をうっとり見ていたり,コントを見て笑う(5月)。自転車に乗れるよう になる(8月)。初めて本を読んでほしいと要求するようになる(10月)。マニキュアや口紅をつけて 鏡を見たり,母親の顔に化粧する。家のパンフレットが好きで,気に入った物は自分のバックに入れる。

(11月)。TVを見て指さしする。以後さかんに指さしが見られ,発声するのが楽しい感じ(12月)。

母親がTVの音を小さくしてと言うと,「チィ,チィ」と言う(1月)。母親ができないような風船を ふくらませることができる。弟のミニカーに興味をもつ(2月)。母親が寝込むと,Y児がお手伝いす

る(3月)。

2.行動観察:参加観察法により行動を観察した。すべて直接観察であり,VTRなどの機器による間 接的観察は行っていない。観察された行動は,観察直後に行動描写法により記録した。自由な状況での 行動観察をねらいとしたため,課題を与えたり,行動を統制することはできるだけ避けた。

①予備観察:事前の観察として,学習場面などにおけるY児の行動を観察した。観察期間および回数 はX年4月と5月の2回である。

②本観察:Y児を個別に抽出し,遊具のある部屋(以下PRと略す)で行動を観察した。観察期間お よび回数は,X年9月からX+2年1月までの約1年半の間に13回である。原則として同一曜日の同一 時間帯(30分間)に観察を行ったが,学校の教育課程を優先したため,観察期間に比べて観察回数は少

ない。

結果及び考察

1.予備観察

先生の指示には従うことができ,状況に応じた行動(名前を呼ばれるとハイと手を挙げる)が見られ る。授業中,気が向かないと自分の気にいった物を触っている。図工の時間では,器用にテープを貼り,

色塗りも枠内にきちんと塗ることができる。また,先生のする手順を見て,それに合わせて作業するこ とができる。時折発声あるいは発声のない口形が見られる。

先生から次のような情報を得る。色が好き(特にピンク)。下着のパンツが好き。先生のすることを よく観察していて,後で自分でやってみている。宿泊学習は落ち着いてできた。

行動観察を行うのに先だって,個別に児童を抽出することによって日常の教育や指導の流れを損なう ことがないように学校側から次のようなことに留意してほしいとの要請があった。①最近集団に入れる ようになってきているので,抽出することが集団からの逃避をまねかないように配慮すること。②教材 やおもちゃをPRに持ち込んだり持ち出したりしないこと。

2.本観察

第1回(X年9/24):担任の先生の導入で観察者(筆者,以下Tと略す)と手をっないでPRへ。

(3)

棚からガソリンスタンド(以下GSと略す)を出すが, GSの照明を壊してしまう。「アッ」「コッ」

という指示代名詞のような発声がみられる。ままごとセットのテーブルを出し,人形を寝かせたまま四 方に並べる(テーブルに4人が座っているっもりらしい)。重ねハウスのからくりを確かめる。Tがブ ロックを導入するが拒否する。ミニチュアの滑り台,ブランコ,ベンチを出し,下に芝生を敷いて公園 らしきものを作る。テーブルに椅子を2っ置いて,テープルの上に皿やケーキやリンゴを並べる。タイ ムアップを告げ,指示すると片付けるが,何か持って帰りたいようす。ピンクの皿を持って出ようとす るので禁止すると,皿を床に落として割ろうとする。滑り台の持ち出しも禁止する。退出後Tが手を出 すが,握らないでTの手首を持つ。教室に帰った後,Y児がニコニコしてTの手を取りにくるので, P

Rに戻りたいのかなと思ったが,Tの手を引いてブランコの所へ連れて行き,ブランコに座って「イー ッ」と言う。押してという要求だと思い,数えながら背中を押してやると,うれしそう。

観察時の印象:おもちゃの持ち出しと禁止は,Y児とTの関係の展開をめぐって,今後のテーマの1 っになると思われる。

振り返っての考察:おもちゃを持って出たいというY児の欲求は,持ち出し禁止の原則にしたがって Tに拒否される。皿を壊すという行動は欲求阻止に対する代理的解消であるが,Y児を拒否したTへの 攻撃性が物に向けられたものと思われる。しかし,Y児はTにブランコを押してもらうことで不満を解 消した。おもちゃの滑り台から野外のプランコへという転換は,欲求の内容を無視すれば,不満足から 満足への移行であり,Tの役割を禁止から受容へと変換させ,関係の展開を促している。室内の不満感 を室外で解消するというY児のはたらきかけは,内と外を区別した上で結びっけるY児の力を感じさせ るものである。ピンクの皿はおそらくY児の気にいった物という意味であろうが,Y児を受け入れる受 け皿器,Tの受容に関連して捉えると,皿の破壊は関係の拒否を意味しているとも考えられる。

第2回(10/1):Tの導入で手をっないで入室する。GSを出したので, Tが〈クルマ取ろうか?〉

と言うと,Y児は「マ」(「クルマ」の一音節か)と言う。描画が好きと聞いていたのでホワイトボー ドに誘ってみるが,のらない。箱庭を見ているので,誘ってみる。Y児が箱庭の砂をかき分け,青い底 が見えたので,Tが〈みず?〉と言うと, Y児はタンバリンに水を入れて運ぶ。ミニバケツを渡すと,

3杯も箱庭に水を入れる。水を使うというより,砂を泥にする感じ。最初に箱庭の周囲に木と棚を配置 する。Y児は何か意図して箱庭を作っているようすだが,しだいに混沌としてくる。タイムアップを告 げても,「イッ」と言って続ける。持ち出したいおもちゃをTが禁止すると,それを箱庭に置く。さら に小さなハウスを持ち出そうとするので,〈だめ〉と言うと,歯で噛んで壊す。教室に帰る途中,二度 戻ってくるが,Tを見ると,逃げる。

印 象:Y児がときどき発する「イッ」は,.「…  してもイイ」という承認とも,「…  しなく てもイイ」という拒否ともとれる。箱庭の周囲に置かれた木と棚が印象に残る。木と棚で作られた枠は,

混沌を護るようでもあるし,制限の枠内での混乱を示しているようでもある。Y児の制限を破るという 行動は,Tがどこまで許容するのかという問いかけを含んで,今後繰り返し試されるであろう。

考 察:Y児の「イッ」と言う言葉は,文脈で意味が異なる言葉の多義性を表しているように思われ

る。話し手と聞き手が同じ文脈を共有しているなら,多義性は言葉の綾として生きているが,両者が異

なった文脈を保持していたなら,話し手の意図は聞き手に理解されず,コミュニケーションは成立しな

いことになる。木や棚で作られた枠は,箱庭の枠内の枠であり,Y児は混沌や混乱から自らを保護する

たあには二重の枠を必要としているように思われる。それはまた,Y児の内なる部屋であり,外に持ち

出せないものをしまう(禁止された物を置く)場でもあろう。退出後の戻ることと逃げることは,接近

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と回避の二重性を意味しており,Tの役割の二重性っまり禁止と許容の矛盾と無関係ではないだろう。

第3回(10/15):入室後,Tの手を持って(いわゆるクレーン現象)クレヨンを要求し, Tに描け と要求する(前回Tがホワイトボードに誘ったことの逆転した反復)。Tはクマを描く。糊をたくさん カップに入れて持っている(持ち込み)ので,女の子の貼り絵をTが作る。Y児も糊をそえて手伝う。

箱庭を要求し,ままごとテーブルを出す。食器を取ろうとするが,柵が高くて届かないので,Tが支え ると,からだを預けて取る。レンジを出し,ポットに水を入れ,糊を釜に入れるという料理ごっこ。そ の後箱庭作りを始めるが,家を固定するために,芝生に糊をベッタリつける。Tが〈あ一,ベタベタ〉

と言うと,声を出して笑う。箱庭は前回ほど木は多くなく,柵もない。サメの口に指を入れ,持って出 ようとするので禁止すると,箱庭に置く。お箸も禁止すると,箱庭に刺す。Y児は持ち出したいものを 後ろ手に隠す。禁止しても,前のように怒らず,スムーズに退室。貼り絵は持って帰ってもいいよ,と 言うが,「イッ」と言って置いていく。入室するときは手をっなぐが,帰りはTの手首を持っ。走って 帰るが,追いかけてほしそうで,追いかけると笑って逃げる。

印 象:前回から2週間後であるが,遊びに継続性が認められる(関係の持続)。Tにからだを預け たり,笑いがみられたり,禁止に対する反応や退室後のようすや,箱庭に枠がなくなったことなどから,

少しラポートが形成されたように思われる。

考 察:前回Tが誘った描画が,Y児からみれば描かせられるから描かせるへTからみればその逆 の形で反復されている。ただ,Y児自身は一度も描いておらず,描くという主体的行為を欠いている。

Y児は糊を持ち込み,持ち出しを禁止していたTはそれを許容し,原則を破っている。押して開かぬ扉 も引けば容易に開いてしまうということか。Tが持ち出しを許可した貼り絵はY児にあっさりと拒否さ れた。強烈なしっぺ返しである。持ち出しに関する行動が,異なった形で反復され,その意味が変容し てきている。隠すという行動は,持ち出しの事前の表示であるが,Tの見えないところに持ち込むとい

う意味では,持ち出したことと同じであろう。

第4回(12/10):入室後,1mほどの大型人形を抱く。ミュージックベルをPRの窓から捨てる。

(いっも持ち出しを禁止されるので,まず出しておいて後で取るっもりなのか。)電話を出し,ニケ所 に置いて受話器を持っ。Tが〈Yさん?〉と呼びかけると「アーイ」と返事したように聞こえた。ホワ イトボードに描画してと要求する。水が乾いて固くなった箱庭の砂を中央に集め,テーブルを置くが,

発展しない。木馬を上下逆にして置き,乗ってみる。Tにも入れと要求し, Tの足が木馬に挟まって動 けないのを見て笑う。再びミュージックベルを窓から捨て,1っを教室に持って帰る。しばらくしてP Rに戻ってくるが,TがPRをロックアウトしていると, PRの電気を消していく(部屋の照明スイッ チは室外にある)。

〈先生からの情報〉教育実習中,教生からの規制が多く,よく泣いたり,不安定であった。着衣を前 後反対にしたり,これまで消失していた常同行動(紐いじり)が再現している。最近荒れている感じで,

自分の好きなことをしているときはいいが,強制されるとだめ。以前に比べれば集団に入れるようにな ってきたが,それはY児ががまんしているからで,教育実習中にそれが切れた感じで,かなり攻撃的に なり,集団から離れてフラフラしている。自分の大切な物にあたる(制服,カバンを放る,濡らす。日 誌を破く)。

印 象:持ち出したい物をまず室外に出して置いて後で取りに行くという巧妙な作戦を示す。持ち出

すことは禁止されるが,何も持って出ないで外にある物を拾うのは文句あるまい,ということであろう

か。また,勝手に退室したから終了するというTの意志表示(ロックアウト)は,Y児自ら終了すると

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いう意志表示(電気を消す)で終わる。閉め出したっもりが逆に閉じ込められたことになる。

考察:持ち出したい物を隠すことから室外へ持ち出した。前回Tに抱かれて今回人形を抱く,呼び かけられて返事する,拘束されることからTを拘束すること(木馬)へ閉め出した者を閉じ込める。

これらはすべて内から外へ,受動から能動への働きの反復とも考えられる。

第5回(12/10):教室で一人で折り紙を作っている。手をっないでPRに行く途中, Tの袖口をつ かむ。PRに入った後,折り紙を置きに教室へ戻る(持ち込まない)。再び入室すると,電話遊び。 Y 児は一一音節の発声をするが,なかなか二音節にならない。棚の上のおもちゃがほしいと,手で指す(ク

レーンではなく,いわゆる手さし)。Tが抱き上げ,取った魚などのおもちゃで洗面器に水を張って,

釣り遊び。その後箱庭を指さすので,Tが箱庭を出すと固くなった砂を手で均す。 Tに泥をかけて笑う。

レンジを置き,釜に入れた水を砂に流した後,バケツの水で箱庭を水浸しにする。レンジに泥をかけて 窓の外に放る。小人形に泥を塗って外に放る。Y児が好きな大型人形を裸にし,人形のからだに泥を塗 る。特に顔と股間を念入りに塗る。別の人形にも泥を塗ろうとするので制止する。大型人形をストーブ の上に寝かせて泥をかける。Y児の荒れ方がひどいと感じられたので,10分前にタイムアップを告げる。

手を洗わせ,退室させるが,なかなか退室しない。Tが抱いて退室させようとすると, Y児は泥だらけ の人形を椅子に座らせて退室する。(なお,担任と相談し,泥だらけになった人形は後でY児に洗わせ ることにした。)

〈先生からの情報〉集団に入れないことが多くなったという意味では以前の状態に戻っている。服を 汚したり,切ったり,Y児の攻撃性は以前と異なった感じを受ける。 Y児は制止されると,その物にあ たるというより,もっと大きな混乱を招くようである。荒れた後すっかり落ち着くこともある。Y児は 最近よくパンツを洗うという。

印 象:箱庭を水浸しにしたり,人形に泥を塗ったり,Y児の荒れた感じは,すさんでいるとさえ感 じられた。大好きな人形の顔や股間を泥で汚すことは,Y児自身を汚しているように感じられ,制止せ ざるをえなかった。理由は不明だが,やり場のない攻撃性が感じられ,汚れた人形はY児自身に他なら ないように思われた。手や人形を洗浄させたのは,汚れがなくなること,もとに復元しうることを伝え,

経験させるためであって,決してしっけるためだけではない。

考察:Y児の抑制力を越えて,かなり無理に強制されることが重なり,痛手を被っていると思われ る。服を切ったり,汚したりする行動は,人形に泥を塗る行動として反復されており,防護壁が崩壊す る危険性を示していると思われる。Y児の受け入れがたい状態は, Tの受け入れがたい感じとして反復 されており,観察を途中で中止せざるをえなかった。しかし,自傷行為に至るほどではない。Tに泥を かけたり,泥で汚れた人形を外に放出したことは,受け入れがたいものを排出することのできるY児の 強さを感じさせる。

○母親との面接(12/22):教育実習以来落ち着きがないことや泥人形の件から,Y児が荒れている,

すさんでいるような感じがすると伝える。母親は家庭ではY児のようすに変化はないと言いながら,最 近忙しくて構ってやれないので,Y児がSOSを出しているような気もすると言う。子どもの気持ちが わからなくては母親失格ですね,と言いながら,弟の方がY児の気持ちがわかるようで,Y児の言葉も 母親よりよく聞き取ると言う。また,切羽詰まると言葉が出るようだ(例えば, 「痛い」)と言う。子 どもの状態が不安定になると,自分も不安定になり,どうしてよいかわからなくなる。そんなことでは いけないと思うのですが,と話す。

印 象:母親はY児の行動をよく観察している。しかし,行動を把握できても,それにどう対応すべ

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きか迷っているようである。子どもの外面的な行動は理解できても,内面的な欲求に応えることがむず かしいのかもしれない。

第6回(X+1年4/22):教室に迎えに行くと,覚えていたようで,手をっないで入室する。魚釣 りのおもちゃを出すが,釣り針が壊れていて釣れない。砂箱の砂がない(予め片付けてあった)ので,

砂のない箱庭で釣り遊び。レンジを出して器に水を入れ火をかける。箱庭の中央にテーブルを置き,皿 を出してケーキをのせ,椅子を配置する。Tが〈ケーキ〉というと「ケ」と言う。プラモデルの人形を Tが椅子に座らせるが拒否しない。Tが動くと「イ」と言う(動かなくていい!)。何度かのタイムア ップ後に退室する。これまで禁止していたが,扇風機とカバンのミニチュアの持ち出しを許す。<今度 持ってくるのだよ〉と言うと,Y児はうなずくようすを示したが,隠して持って出る。

印 象:前回から4ケ月後の観察であるが,関係は維持されているように思われた。明確な理由なく 持ち出しを認あたことは反省しなければならない。Tの緊張感やモチベーションの低下が関係している と思われる。

第了回(5/6):こちらからの呼びかけに対して,一音節で応答が返ってくる。前回のおもちゃの ことを聞いてみるが,増があかない。入室するとまず箱庭を出し,それを一旦片付けてからGSを出す。

そこに椅子を置いたりして家に見立てるが,うまくいかずGSを壊そうとする。 Tが家の代わりに積木 で家を作ろうとする。Y児は再度箱庭を出して,そこに積木を置くが,すぐ片付けて,例によって右上 隅にレンジを置き,水を入れた鍋をかける。全体的に遊びは散漫である。大型人形を箱庭に寝かせて,

パンツの中に手を入れ,股間を触り,Tの方を見てニヤッとする。タイムアップに「イッ」というが,

退室させる。人形を持って出ようとするが,禁止すると,持たないでそのまま退室する。

考 察:遊びの散漫さはTの態度と関係していると思われる。参加的観察の場合,観察者の態度や関 係性が行動に反映されることを示している。Y児が「ニヤッ」と笑ったのはTへの誘いかけであろうか。

第8回(5/13):箱庭を出して,中央にテーブル,左上隅にレンジを置く。しかし,遊びは展開し ない。Tに支えられて棚の上のミュージックベルを取る。鳴らしてみて,「アカ」と言う(二音節は初 めて)。白いベルを「キ」と言う。Tに何か伝えたそうなのだが,うまく伝わらず,もどかしい感じ。

一人遊びの感じがあまりしない。箱にベルを片付けるが,うまく入らない。Tが手伝うと,そのパター ンをすぐに理解して,自分で入れる。タイムアップを告げるが,「イッ」と言って,動かない。ミニお もちゃのカップをもって出ようとするので,〈だめ〉と言うと,噛んで壊す。さらに禁止すると,口に 含んで,ゴミ箱に捨てて退室する。

〈先生からの情報〉最近顔を真っ赤にして泣く。泣いた後,すっきりした感じ。何かを思いだして 泣いているのか,状況との関連がっかめない。

印 象:Y児との間に距離を感じないにもかかわらず,Y児が伝えようとすることをTがうまくつか めていないことに余計もどかしさを感じる。

考 察:禁止に対するY児の行動パターンは変わっていない。口に含むことは口に隠し持つことであ り,砂箱ではなくゴミ箱に捨てたことは,TがY児を支える機能が弱かったためであろう。

第9回(5/20):砂箱で遊んでいる。新しいおもちゃが入ったので,それをまねてY児も作る。古 いおもちゃに団子をのせると,古いおもちゃは片付けろ,という感じで放り投げる。川やトンネルを作 るが,のってこない。Y児は水洗いに専念している。日差しが強いので, Y児は砂場の縁に横たわる。

Tがくすぐると,いやがらずに笑っている。Tが〈教室に戻る?〉と言うと, Y児はPRに向かった。

その時新しい青のスコップを持って行き,Tにだっこを要求して,棚の上のミュージックベルの箱に隠

(7)

アーに横になる。Tが見ている前で上着を整えるしぐさに,女の子らしさが感じられる。退室はスムー

ズ。

印 象:身体接触に抵抗なく,親密感があり,TもY児に対して自由に振る舞うことができる。

考 察:古いおもちゃから新しいおもちゃへの移行は,Tとの関係の移行と対応しているように思わ れる。大事なものをPRに隠したことは, PRがY児にとって保護的な空間としての意味をもっている からであろう。持ち込んで隠した(しかも箱に)ことは,大事なもの(秘密)の共有を意味していよう。

第10回(5/27):三輪車を少し分解している。Tの方に手を出して, PRに向かう。入室すると,

すぐに箱庭を出すが,使用しない。ミニカーで遊ぶ。ヘリコプターを分解する。リムジンバスを覗いた り,ハッチバックのクルマの中にギターを入れたりする。「パーピー」と救急車のような発声をする。

何か(Tには見えないが救急車か)や病院を触っている。Y児の隣に座るが拒否しない。箱の中から,

何か(救急車?)を見っけ,「アッタ」というように聞こえた。やはり救急車であり,その中にミニチ ユアのギターを入れる。大きな箱庭の枯木も入れようとする。タイムアップを告げると,ミニバケツを 持って出ようとし,禁止すると,バケツの取っ手を壊す。退室後の教室でのようすに特に変化はない。

考 察:分解や覗くことは,物のしくみを探索することであり,Y児の遊びは(女性の)からだのし くみに対する関心の現れとも考えられる。

第11回(11/4):ほぼ半年ぶりなので,呼んでもなかなか来ない。やっと手をっないで入室する。

気分がいいのか,表情はよい。入室すると箱庭の箱をテーブルの上に出し,おもちゃを指さして発声。

Tに何かを伝えたいようすだが,一音節のたあよくわからない。小人形(家族人形)を4体出し,服を 脱がせようとするが,服が縫い込められていてできない。Tが〈パパ〉と言うと「パ」としか言えない が,後で自発的に「パパ」と言う。Y児が大型人形の服を脱がせているので, Tが〈寒いよう〉〈いや だよう〉と言うと,ケラケラ笑う。人形を逆さにして,股間に顔を埋める。Tが〈おしり〉と言うと,

人形のおしりを触る。大型人形の服を脱がせ,もう一度全部着せたところでタイムアップ。大型人形を 片付け,9回目に持ち込んだお気にいりのスコップを持って,笑いながら逃げて行く。

印 象:Tの言葉に対応したり,言葉の模倣がみられる。最近,音楽の時間に歌うことができるらし く,発語への準備性が高まっている。人形遊びはやや性的な感じもするが,身体接触を楽しんでいるよ うな感じである。

第12回(12/9):ニコニコして手をっないで入室する。箱庭を出すが,人形遊びに終始する。お気 にいりのピンクのジャージを着ていたせいか,「アカ」という発語がみられた。人形の肌を指さして,

「キイロ」のような発語。遊びながらときどき鏡を見ている。大型人形の服を脱がせ,表裏と前後を逆 にして,着せ替える。ボタンもじょうずにはめられる。Tが〈寒い,いやだ〉と言うと,ニコニコして いる。タイムアップを告げると,男の大型人形の着せ替えを済ませて退室する。

印 象:前回から人形遊びと並行して発語が多くみられる。

考 察:人形の着せ替えは鏡像遊びに類似したものであろうか。鏡像は自分の写り姿であると認知で

きなければ他者の像として認知される。鏡像が自己の像であると認知できるためには,見る自己と見ら

れる自己との二重性が理解されていなくてはならない。言葉も同じ構造をもっている。自分が話した言

葉は,他者に理解されることによって,自分の言葉として機能する。そうでなければ,言葉は受け手を

失って反響するだけであろう。特に一人称の場合,「私」は話す行為そのものの主体と話されたことの

主体を同時に示している。鏡像の理解や言葉の表出は,自我機能の重要な指標であるが,Y児はその基

(8)

盤ともいうべき身体自我がいまだ充分に形成されていないように思われる。

第13回(X+2年1/13):手をつないで,入室する。大型人形を出して,「アカ」「キ」と言う。

青い服を着た男の子の人形なので,Tが〈あお〉と言うが,応答なし。女の子の人形を見て「ピ・ン・

ク」と言う。絞り出すような発声である。語音をっくることがむずかしいようだが,明瞭に聞こえる。

Tも〈そう,ピンクね,Yさんの好きなピンクだね〉と言う。二人の人形の服を脱がせて,テーブルに 横たわらせる。青い服をTに見せて,「アカ」と言うので,Tが〈あお〉と言うと,「アオ」と言い換 える。男の子の人形に服を着せて, 「アー」と要求するので,Y児を抱き上げると,棚の上に人形を寝 かせる(隠す)。女の子の人形にも服を着せるが,ピンクの服を自分のポケットにしまい, 「ポ」と言

う。 (ポケットに入れて,持って出ていい?)。Tは〈だめ〉と言う。 Tが〈寒いよう〉とか,クシャ ミをすると,笑う。PRの外で声がしたので, Y児はドアのノブを閉めに行く。Tがドアをロックして あげようとすると,ドアを開けられると思ったのか,制止する。ドアの側で人形の着せ替え。人形の帽 子を自分で何度もかぶってみて,鏡を見る。女の子の人形のパンツを破れるくらいに強く引き上げる。

Tが〈だあだよ,痛いよう〉と言うと,余計に引っ張る。着せ終わると,棚に寝かせる。小人形も出し て,着せ替えようとするが,縫い込められていてできない。タイムアップを告げると, 「イヤ」と言う。

さらにうながすと, 「イッ」と言って,人形を片付け,退室する。

〈先生からの情報>12月から生理が始まったが,特にY児のようすに変化はない。母親が去年面接を 受けてから,少し変わったという。初潮があったとき,母親はY児のために赤飯を炊いてあげた。Y児

は安定しており,動作の模倣や,言語の了解はとてもいいが,ことばをまねさせることが非常にむずか しい。気にいらないとまねないが,後で自発的に言葉が出ることもあるという。

*学校側の事情により今回が最後の観察となった。

印 象:自発的な言葉の修正がみられ,発語へのモチベーションが高いと感じられる。しかし, 「ピ

・ン・ク」に示されるように,相手に向かって明確な伝達意図をもった発語は困難なようで,発語の経 験不足が発語へのモチベーションを強く抑制しているように思われる。

考 察:Y児は人形を媒介としてTとの言語的交流が可能であり,言葉の前提条件としての象徴機能 を獲得し始めている。しかし,人形の帽子をかぶって鏡を見る行動に示されるように,事物の具体性か

ら離脱した,より高次の代表機能を獲得する段階には至っていない。また,Y児の見立て遊びはいまだ 一人遊びの段階にとどまっており,共同遊びとして展開するには至っていない。

結     語

一般に行動観察においては客観性が重視され,観察者の印象は主観的なものとして排除される傾向に ある。しかしながら,参加的観察においては観察者の存在や振る舞いは被観察者の行動の意味を理解す る上で重要な要因であり,相互作用の影響を排除することは不可能である。被観察者が示す行動の反復 は,決して同じ事象の繰り返しではなく,被観察者のおかれた内的状態や外的状況による微妙な差異を 含んでいるはずである。したがって,行動の意味を理解するためには内容的類似性だけでなく構造的類 似性に注目する必要があるだろう。繰り返し示される行動は様々な形態をとりながら1っのことを表現

している場合があるので,行動内容の単純さや複雑さに拘泥して行動の真の意味を理解することができ

ないという陥穽を避けねばならない。

(9)

参  考  文  献

Winnicott, D. W.(牛島定信訳)r情緒発達の精神分析理論』岩崎学術出版社1977.

Zulliger, H. (堀要訳)r遊びの治癒力』黎明書房,197&

参照

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