戦後の算数・数学教育一学習指導要領の変遷をもとにして_
平 岡 忠
(1980年11月15日受理)
は じ め に
本論では,第2次世界大戦後(以下,簡単に戦後という)の主として昭和20年代(1945〜1958頃)
を中心にした小学校の算数教育および中学校の数学教育(以下,算数教育,数学教育という)につ いて学習指導要領の変遷をもとにして考察することにする。
1.昭和22年の学習指導要領時代の算数・数学教育 1.1 新しい教育への改革
従来主としてドイツの観念的・理知的な教育学説に基づき,特に第2次世界大戦中は皇国民の錬 成を旗印にして進めてきた教育は,昭和20年(1945)8月15日の終戦を境にして,その在り方が一 変した・つまり・そのときから,教育も連合国軍のCIEを通して行われるようになり,昭和21年
(1946)3月にGHQの懇請で来日した第1次米国教育使節団によって,我が国の教育の新しい方 向への改革が勧告され,その中で男女共学による6・3・3制も示された。1)
そして,新しい教育が何を目あてとし,どのような点に重きをおき,それをどういう方法で実行 するかについての教育者の手引きとして,文部省はr新教育指針』というパンフレットを編集して 昭和21年(1946)5月から翌年2月にかけて4回に分けて配布したがこの指針はその後の教育に
大きな影響を与えた。2)3)
ついで,昭和22年(1947)3月に「教育基本法」,「学校教育法」,5月に「学校教育法施行規則」
などが公布され,この年の4月から義務教育が3ケ年延長されて新制の中学校が発足し,また,新 制高等学校は翌23年(i948)4月から,新制大学は24年(1949)4月から発足し,いよいよ6・3・
3・4制の新学制が実施されることになった。
1.2 昭和22年の『学習指導要領』
新学制の発足とともに,教育課程の手引きとして文部省からr学習指導要領』が発行されること になった(学習指導要領は昭和33年(1958)の改訂以後は教育課程の基準を示すものとなる)。つ まり,昭和22年(1947)3月に, 我が国で初めて学習指導要領というものが発行されたが,これは アメリカのCourses of Study
学年 小1 小2 小3 小4 小5 小5 中1 中2 中3 に相当するものであった。
時数 3
4
4 4〜5 4〜5 4〜54 4 4
その『学習指導要領一般編』26 茨城大学教育学部教育研究所紀要13号特集(1980)
4)
i試案)での当時の算数・数学科の週当たり時数は前頁の表のようである。
また, r学習指導要領算数科・数学科編』 (試案)は昭和22年(1947)5月に発行され,その 構成は次のようになっていた。
はじめのことば 第1章 算数科・数学科の目的 第2章 算数科・数学科学習と子供の 発達 第3章 指導内容の一覧表 第4章 算数科・数学科の指導法 第5章 指導結 果の考査と活用 第6章 第1学年の算数科指導 …… 第14章 第9学年の数学科指導 ここで,算数科・数学科の目的は, 「小学校における算数科,中学校における数学科の目的は,
日常の色々な現象に即して,数・量・形の観念を明らかにし,現象を考察処理する能力と,科学的 な態度を養うことである」とし,さらに,「この目的を具体的に考えてみると,次のようなことが あげられる」として,「1.数と物とを対応させる能力を養い,数える技能の向上をはかること」か ら「20.他の分野を研究したり,数学を更に研究したりする場合に必要である基礎的な数学的知識 を与えること」まで20の具体的な項目を掲げている診
なお,この学習指導要領からみられる特徴的なこととして,次のような点をあげることができる。
(1)前記の第2章で,上述の目的達成のため,子供に身につけたい能力を,子供の発達程度に応 じて,目的の所で掲げた具体的な項目に類別して示した能力表というものを示している・
(2)第5章では,従来の考査は主として計算力については行われてきたが,計算力だけで算数・
数学教育の効果を評価することはできないとして,計算力を使って処理していくもとになる能 カー見ぬくカーの評価を重視している。また,考査はその時間の授業が適切に行われたかどう かを調べるという立場を強調しており,考査には長期にわたった教育の効果を考査するものと いっている。
1.3 国定教科書r中等数学』
新制度の教育になっても,当初の教科書は,小学校では戦時中のものを改編しても何とか間に合 わせることもできたが新制の中学校ではどうしようもないので,この新制中学校発足の昭和22年
(1947)に文部省は大急ぎで国定の教科書r中等数学』(第1学年用上下,第2学年用(1)(2),第3 学年用(1)②)を作成し発行した。これらの各学年の内容は次のようになっている曾
主食の統算1学年用 i賃銀繍2学年用 1数と計算第3学年用
灘伝達 i欝定 i議繊艦1力とはかりH摩擦皿.iI.翻H.運動の伝達皿.i数の性質孤分数剛数比例取こ肌いろいろi力と翻W.動と安定}皿.無騰旺の数・
計鱗VL滑軸幌繍題 i問畠の数
增Xの陥 i夏休みの天気 i稲作の研究夏休みの研究 i計算練習 iI・反当たり収穫高の変化1・茂の研究H・秋子の研究i量をはかること 11・作がらと気温計算練習 1.いろいろな測定の方法 i家計の研究
形と図 i丑三平方の定理 iI・家講の研究H.物価の 1.いろいろな表し方皿.1計算練習 : 研究投影図皿.測量 瞳々の問題 i結核の研究
計鰍習 i式とグラフ 鰍の問題種々の問題 lI・座標皿・1次麟とグラ…1。表とグラフ賦
正の数・負の数 i フ皿.1次方程式とグラフ 計算練習 3
@1.正,負の符号皿.加法i IV.連立方程式とグラフV. i直線と角
v@喉法・除法i1次不等式とグラフ 1.平行蛤同と相似
計算練習 ;計算練習 i 皿.三角比 種々の問題 i種々の問題 i種々の問題
i i数表
i i 平方・立方・平方根・立方 根の表三角函数表 この内容をみると,身の周りの生活と関連があるものが多いことからも,生活場面から取られた 問題を解決していく中で学習していく単元学習の萌芽をこの時期からみることができる。
肇.4 「算数・数学科指導内容一覧表』
前の1.2で述べた昭和22年の『学習指導要領算数科・数学科編』に示された内容は,程度が高く,
新しい教育方針に則った指導をするには,困難であるという理由から,学年的水準を下げることに なり,翌23年(1948)9月に文部省からr算数・数学科指導内容一覧表』が出された」) この内容 の程度を戦前のものと比較するとおよそ
右表のようになる§) くり上がりくり下がり鮪る加法小学校1年から2年へ これは,概略,旧制の小学校第6学年
ワでの内容が新制の中学校第1学年まで
乗法九九 小学校2年から3年へ Q位数による除法 小学校4年から5年へ ェ数の乗法除法 小学校6年から中学校2年へ になり,旧制の中学校第1学年までの内
百分率 小学校5年から中学校1年へ 容が新制の中学校の第3学年までになっ
三角形,円の求積 小学校6年から中学校2年へ たといえる8)
比例 小学校6年から中学校2年へ このため,昭和24年(1949)の算数・ 正数,・負数 中学校1年から中学校2年へ 数学教育は1,2学年程度足踏みをして指 座標 中学校2年から中学校3年へ 導する格好になり,全国的に大きな混乱 三角比 中学校2年から中学校3年へ を来たした。
1.5 検定教科書r小学生のさんすう』・「中学生の数学』
教育基本法によって,教科書もこれまでの国定教科書制度に代わって検定制科書制度になり,昭
28 茨城大学教育学部教育研究所紀要13号特集(1980)
和24年(1949)「教科用図書検定基準」が設けられた。そして,同年文部省はこの新しい検定制度 によるいわば見本を示すものとしてr小学生のさんすう 第4学年用』 (1,2,3の3冊からなる)
とr中学生の数学 第1学年用』 ((1),(2>の2冊からなる)を作成した紗皿) これらは,単元学習 の内容で,はっきり単元構成の形をとっているものであった。
r小学生のさんすう 第4学年用』の内容をもくじからみてみると次のようになっている。
この書物を用いられる先生方に
課単 元 i
h勉強の臆 iv測定
閧ゥんたんな側ざん i&かんたんなちず帥ものとりいれ P遠足のしたく2ならびかたa学iVIかんたんなわりざん
@ 級のひ。う i1・.おじさん11磁とむかし12.こよみ M小数のよせざん.ひきざん i冊かけざん
Sお店謝のあんなげ i1糊品のかいいれ]4お店しらべIV ひょうとグラフ iV皿わりざん
6.およぎくらべ 7夏やせ 1 15.いね作り 16.はんのひょうのせいり 上の「この書物を用いられる先生方に」の中で,この教科書の編集の趣旨については,社会的に 有用なものとしての算数指導を強調し,また,算数科指導の目標として,1つは数についての基礎 的な概念を理解させることと,他の1つとして社会の要求や活動を子供の中に見出し,それらにつ いての適当な資料をもとにして,正しい判断ができるようにすることをあげている。つまり,この
『小学生のさんすう」のねらいは,数の概念の理解と子供の生活指導とを目指していたといえる塑 また, r中学生の数学 第1学年用』の内容も目次からみると次のようになっている。
この書物を用いられる先生方に
第1単元 住宅 } 第12章整数の計算 第13章分数の計算 第1章生活と住宅 第2章住宅問題 i 第14章小数の計算
第弾元私たちの測定 i第騨元売買と数学
}
謔R章昔の人たちの測定 第4章私たi 第15章商店 第16章買い物
ソの齪ω第5章私たちの測越)i第騨元私たちの膳
第III単元 よい食事 i 第17章貯蓄と生活 第18章銀行と郵便局 : 第6章偏食と食事 第7章栄養と食品i第V皿単元予算と生活
謔W章鹸な食生活 i第19章予算と生活
第IV単元産業の進歩 i第D(単元数量と日常生活
@ 第9章産業と測定第1・章農地改革i第2・章数量と瞠生活
謔P1章工業の進歩 i第X単元図形と生活第V単元 私たちの言1算 i 第21章物の形 第22章形のきれいさ
ここでも,上の「この書物を用いられる先生方に」の中で,この教科書の編集の趣旨に関して,
「数学的な知識・技能が,子供の中に有機的な組織となり,生きた道具となるように指導されなけ ればならない。指導の重点を,有機的な社会人となるのに必要な部面において,数学科が指導され なければならない」として,また「数学において指導しなければならないことがらを,次の四つの 点に要約することができる」として
(a)日常生活から問題を作る。 (b)問題に適した資料を集める。 (c)資料について計算したり,グラ フ・表あるいは絵や図をかいたりなどして,資料の処理をする。 (d)得られた結果について検討する。
をあげている。これを今日的にいえば,人間形成のうえから数学教育のねらいとして極めて大切な 事象を数理化して表現し処理する能力や態度の育成を目指していたといえよう翻
そして,指導には学習指導の目標をはっきり確立してかからなければならないとして,学習指導 の目標の模範として, 知識・理解 や 技能 だけでなく 態度・心がまえ や 習慣 もあげら れていることに注目したい。14)
これらの教科書を模範として,其の後,民間の教科書会社から検定の教科書が出版されることに
なった。
2. 単 元 学 習
他方,戦後の教育の特徴の1つとして,子どもたちの生活経験を重視し,身の周りの具代的な生 活場面から問題を取り上げ,その問題を解決するいわゆる「問題解決学習」の形で学習指導を進め
る「単元学習」が強調されたことがあげられる。これにはverginia案とかcalifornfa案などが考え られるが,我が国の単元学習は,昭和22年(1947)の学習指導要領は主として前者に則っとり,後 述の昭和26年(1951)の学習指導要領は主として後者に則って行われたといわれているま5)これを 算数・数学教育についていえば,算数科や数学科は前者では技能を指導する分野に組み込まれ,後 者では国語科などと同様に内容教科(oontent su厨ects)に対する用具教科(tool subjects)とし て扱われることになり,いずれにしても,中核(core)的なものとしての社会科や理科などに対し て周辺に位置づけられるものとなった。
3.昭和26年の学習指導要領時代の算数・数学教育 3.1 新学習指導への改訂
昭和25年(1950)8月に第2次米国教育使節団が来日し,昭和21年からの4年間の我が国の教育 改革の成果を検討すると同時に,初等・中等教育の行政や教育活動と教員養成,さらに,高等教育,
社会教育,国語の改革等について,報告書で第2次の勤告を行った86)その中ではまた,我が国で行 なわれた教育改革にっいて賛意を表し,道徳教育の必要なことなども強調していた。
このような方向に沿って,新しい教育課程へと改訂されることになり,昭和26年(1951)に改訂 学習指導要領が発表された。
前の学習指導要領では,小学校の算数科と中学校の数学科の分が合本になって高等学校数学科の 分が別になっていたのが,この昭和26年のは小学校の算数科の分が1冊になり中学校と高等学校の 数学科の分が合本になった。こうして,同年7月発行のr学習指導要領一般編』 (試案)に続いて,
r中学校・高等学校学習指導要領数学科編』 (試案)およびr小学校学習指導要領算数科編』 (試 案)が発行されたが,後者の 2冊はいずれも300頁前後の大部のものであったま7)18)19)
r学習指導要領一般編』 学年 小1 小2 小3 小4 小5 小6 中1 中2 中3
(試案)で示された算数・
矧w科の週当たり時数は 時数
2.4
̀2.7
2.5〜2.8 3.2〜3β 3.6〜3.9 3.9〜4.5 3.9〜4.5 生.5 亀.5 3〜5
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昭和22年のものよりさらに削減され,前頁の表の程度となった。
(この表は,一般編に示された配分の事例をもとにして計算によって求めた週当り時数である)2°)
3.2 昭和26年のr小学校学習指導要領算数科編』
昭和26年(1951)12月に発行されたr小学校学習指導要領算数科編』(試案)の構成を目次でみる と次のようになっている。
まえがき 1 算数についての学習指導の改善 皿 算数科の一般目標 皿 各学年の 指導内容 IV算数についての学習指導法 V 算数についての評価
ここで,上記のHにおいて,算数科の目標は,次の(1)の 社会的な目標 と(2)の 数学的な目標 とに大別して,それらのそれぞれについてさらに詳細に述べている31)
(1)算数を,学校内外の社会生活において,有効に用いるのに役だつ,豊かな経験を持たせると ともに,物事を,数量関係から見て,考察処理する能力を伸ばし,算数を用いて,めいめいの 思考や行為を改善し続けてやまない傾向を伸ばす。
(このあとの詳細な(a)〜倒の6項目は省略する)
(2)数学的な内容についての理解を伸ばし,これを用いて数量関係を考察または処理する能力を 伸ばすとともに,さらに,数量関係をいっそう手ぎわよく処理しようとして,くふうする傾向 を伸ばす。
(このあとの詳細な㈲〜㈲の8項目は省略する)
なお,この学習指導要領からみられる特徴的なこととして,例えば,次のような点があげられる。
① 上記の(1),(21にもみられるように,算数科の目標の中で,思考や行為を改善し続けてやまな い傾向とか,数量関係をいっそう手ぎわよく処理しようとしてくふうする傾向を伸ばすという ように,傾向(態度)の育成・伸長を強調している。そして,1のまとめにおける「算数と 教育の一般目標」では,算数教育を通した人間形成の面を重視していることがわかる。
② IVでは,「1.学習指導法についての基本的な事がら」をおさえ,「3.自主的な学習」や「4.
理解をもっての学習」を強調する反面で「7.有効な反覆練習」も強調している。
③ Vの評価では,子どもの能力の評定から教師の診断や指導の修正のための判断の資料という 立場に立って,評価のねらい,対象,時期,評価者,報告,方法等について詳しく述べている。
3.3 昭和26年のr中学校・高等学校学習指導要領数学科編』
昭和26年(1951)11月に発行されたr中学校・高等学校学習指導要領数学科編』(試案)の構成を 目次からみると次のようになっている。
まえがき 第1章 中学校・高等学校の数学科の一般目標 第H章 生徒の必要と,数学 科の指導 第皿章 中学校数学科の一般目標と指導内容 第IV章中学校数学科の指導内 容の説明 第V章 高等学校数学科の各科目の一般目標と指導内容 第VI章 数学科にお ける単元による学習指導 第V皿章数学科の学習指導における評価 附録 生徒用参考図 書目録
ここで,数学科の目標としては,数学の有用性・審美性の理解に立つとともに,正確化・的確化・
能率化の観点から,思考や行為を改善していくような態度の養成を目指すなど,極めて人間的な目 標を掲げて1〜10の10項目を掲げている誓)それらのうちの2,3をあげれば「1数学の有用性と 美しさを知って,真理を愛し,これを求めていく態度を養う」,「2.明るく正しい生活をするために,
数学の果している役割の大きいことを知り,正義に基いて自分の行為を律していく態度を養う」,
「4自主的に考えたり行ったりする上に,数学が果している役割の大きいことを知り,数学を用いて 自主的に考えたり行ったりする態度を養う」,「5.数学がどのようにして生れてきたかを理解し,
その意義を知る」,「7数量的な処理によって,自分の行為や思考をいっそう正確に,的確に,し かも能率をあげるようにする能力を養う」などをあげることができる。
なお,特に,第皿章の中学校数学科の目標としては,次のAとBに大別し,Aについては1〜ユ3 の項目を,Bにっいては14〜21までの項目をあげて詳述している茗3)
A 数学を手ぎわよく用いていく際の数学についての理解および能力 B 数学を用いて問題を解決していく面での能力や態度
この学習指導要領からみられる特徴的なこととしては,次のような点をあげることができよう。
① 上記の第皿章では,生徒の必要を強調し, 数学科の指導は「数学を」教えるのではなく,数学 で「生徒を」教育していくことである といっており,また 「生徒中心」というとき,これを
「自由放任」の教育と同一視することは大きな誤りである;とも警告している。
② 第皿章の「指導内容一覧表」では,指導内容が生活経験をもとにして組織し配列されており,
「生活経験」,「理解および能力」,「用語」の3つの欄に分けて示している。
③ また,第IV章の「指導内容の説明」では,主要な指導内容として,§ヱ数,§2四則,§3計 量,§4比および数量関係 §5表・数表およびグラフ §6代数的表現 §7図形による表 現(縮図。地図・投影図) §8簡単な図形 §9実務 を取り上げ,これらの内容のそれぞれ について「A長所」と「B・理解事項」と「C指導」とに分けて詳述しているのは貴重である。
④ 第VI章での,「単元による学習指導のねらい」においては,単元学習での問題解決の過程と 書かれた問題 を解決していく過程との相違を次の4点から分析的に述べている蒼4)
L問題の把握 2.問題の分析 3解決の多様性 4解決の限界 また,単元による学習指導のねらいとして,次の4項目をあげている。
1.数学を用いて,生活を改善し続けてやまない人間の育成 2.自主的に学習していくこども の育成 3個人差に応じて問題を解決しながら,しかも,みんなが協力して仕事をしていく 人間の育成 4.今までに得た能力を用いて問題を構成することや,既習の技能の用い方の適 宜な指導
そのほか,単元の構成法や学習指導上の留意点,単元による指導計画の立て方等についても 詳述している。
⑤第田章では,評価の意味やねらい,手順と方法などについても丁寧に述べている。
3.4 単元学習に対する反省
前の2でも述べたように,昭和22年および昭和26年発行の学習指導要領は単元学習に沿ったもの であったことから,其の後,この方向の教育が行われるようになった。昭和27年(1952)には講和 条約が成立して我が国は独立を回復したがその近くになるにつれ,社会も漸次落ち着きを取り戻し
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つつあった。その頃から,単元学習に対する反省や批判の声が現われるようになった。単元学習は 生活経験を重視し,算数・数学の系統を小間切れにして扱うので時間がかかる割りに学力がつかな い,いや学力も低下したなどといった意見もあり,「問題解決学習」か「系統学習」かといった論争も
あった。しかし,当時,文部省におられた和田義信氏は,算数・数学の学習指導の中で,もっと上 の数学をやっていくことが可能な状態をつくり上げようとして単元学習に切りかえていくように骨 を折られたとのことである35)
他方,昭和24年(1949)の国立教育研究所,昭和26年(1951)の日本教育学会,昭和27年(1952)
の日本教職員組合の学力調査などで基礎学力の低下ということが取り上げられた。しかし,日本教 育学会の学力調査の結果をまとめた昭和29年(1954)の書物「中学校生徒の基礎学力』の序文では,
城戸幡太郎氏は「講和条約が締結されてから,アメリカの占領政策に対する批判もあらわれ,国民 も自己を反省するようになったが,教育に対してもその傾向があらわれた。学力低下の問題は,
その一つのあらわれであったが,おそらく新教育に対する最も手ごわい国民の批判であり,教師の 反省であったといえよう。しかし,義務教育課程における生徒の学力は果して低下したかどうか,
もし低下したとすればその原因はどこにあったか,それらの問題については科学的な方法による解 一明が必要であった」といっている36)また単元学習に批判的な立場のものとして,昭和26年(1951)
に遠山啓氏らによって数学教育協議会が結成され,この会は「水道方式」による計算の指導などを 推し進めた邑わ28)其の後,この水道方式をめぐっての話題も起こった♂9)30)
上記のような背景から基礎学力の充実が叫ばれ,また社会的面からは科学技術教育の振興という ねらいもあり,教育課程も次の昭和33年(1958)の学習指導要領の改訂の方向へと歩を進めていく
ことになった。
お わ り に
以上,昭和20年代を中心した1945年〜1958年頃までの小学校の算数教育と中学校の数学教育につ いて特に,当時の学習指導要領の変遷をめぐっての考察を述べた。当時は終戦直後からという精神 的にも物質的にも特殊な状態にあったが,教育面では,アメリカからの問題解決学習による単元学 習を導入した教育が推進されたわけである。
終戦から30余年を経た今日,人間性豊かな児童・生徒の育成を強調しているが,こういった観点 からみるとき,昭和22年(1947)や昭和26年(1951)発行の学習指導要領は極めて参考になると
ころが多いといえる。
注
1)伊ケ崎暁生・吉原公一郎・解説『米国教育使節団報告書』現代史出版会(1975)P,93
2)近代日本教育制度史料編纂会『近代日本教育制度史料』第19巻 大日本雄弁会講談社(1957)P.3 3)中島太郎『戦後日本教育制度成立史』岩崎学術出版社(1970)p.36
4)文部省『学習指導要領一般編』(試案)文部省(1947)P.2,p.18 5)文部省『学習指導要領算数科・数学科』(試案)文部省(1947)PP 3〜4 6)文部省『中等数学』(第1学年用,第2学年用,学3学年用)文部省(1947)
7)近代日本教育制度史料編纂会『近代日本教育制度史料』第30巻大日本雄弁会講談社(1958)PP・67〜101 8)赤摂也『算数・数学教育の理論と構造』学習研究社(1979)P.145
9)小倉金之助・黒田孝郎『日本数学教育史』明治図書出版KK(1978)p.85 10)文部省『小学生のさんすう』(第4学年用)文部省(1949)
11)文部省『中学生の数学』(第1学年用)文部省(1949)
12)上掲書9)PP.86〜89 13)上掲書9)P.89 14)上掲書9)P皿90〜91
15)奥田真丈他『教育学大事典』団第一法規出版KK(1979)p.205 16)上掲書1)PP.121〜142
17)文部省『学習指導要領一般編』(試案)文部省(1951)
18)文部省『中学校・高等学校学習指導要領数学科編』(試案)文部省(1951)
19)文部省『小学校学習指導要領算数科編』(試案)文部省(1951)
20)上掲書17)P.18,P.30 21)上掲書19)pp60〜62 22)上掲書18)PP.1〜2 23)上掲書18)PP.33〜34 24)上掲書18)pp.重80〜187
25)「初等教育資料」Nα244 東洋館出版社(1969)p.53
26)佐伯正一「読・書・算」=基礎学力の考え方一戦後の基礎学力論争にみる「基礎」のとらえ方一
「現代教育科学lNα289明治図書出版KKq980)pp.14〜15 27)遠山啓『新しい数学教室』 新評論社(1953)
28)遠山啓・銀林浩『水道方式による計算体系』 明治図書出版懸(1960)
29)毎日新聞社『算数に強くなる一お母さんの算数教室一』 毎日新聞社(1962)
30)塩野直道『水道方式を批判する』 新興出版社啓林館(1962)