Ⅰ はじめに
新体操競技は1963年ハンガリーのブタペストに おいて第1回の世界新体操選手権大会が開催され てから1984年に初めてオリンピック競技種目となり今 日に至っている。この競技は採点競技であり国際体 操連盟(F. I. G)が定める採点規則に従って競技が 行われている。採点規則の内容の変化が演技構成 に影響を及ぼすであろうと考える。演技構成にはジャ ンプ、バランス、ピボット、柔軟などの徒手要素とロー プ、ボール、リボンなどの手具を操作する手具要素 とがある。手具の種類と徒手の要素は1973年の採 点規則から変化していないがルールの改正と共に変 化しているのは手具要素ではないかと考える。手具 要素の内容と重要視されているのは何か、構成に及 ぼす影響について世界選手権大会のトップ選手と日 本選手を比較研究してこれからの日本の新体操の進 むべき方向性を追求したい。
Ⅱ 方法
2010年第30回モスクワ世界選手権大会で個人 総合優勝したKANAEVA Evgenia(RUS)選手、3 位のSTANIOUTA Melitina(BLR)選手と19位の ONUKI Yuria(JPN)選手、国別競技に出場した YAMAGUCHI Runa(JPN)選手のボールとリボン の演技をVTRで分析する。申告された難度の価値点
とリスク要素の価値点により、難度要素と手具要素の 内容を以下の点について採点規則と文献により比較 研究する。採点規則によると難度は(D)とされており、 その中でも身体の難度(D1)と手具の難度(D2)に分
類されている。
1)身体の難度(D1)と手具の難度(D2)の内容分析 2)(D1)と(D2)の実施された時間配分と構成方法 3)手具要素と難度の関連
4)効果的な手具操作の構成方法 5)空間利用及びリスク要素の分析
Ⅲ 結果・考察 1.難度(D)について
国際体操連盟の2009年~2012年度版採点規則 によると構成は身体の難度(D1)と手具の難度(D2) に分かれておりそれぞれ10点満点でD1+D2を2で
割った点数がDの得点となる。そのほかに芸術(A) と実施(E)がありこの3つの合計得点で競われる。 今回着目したのは手具(D2)についてである。採点 規則には難度(D)の価値は、最高12個の難度を有 することが出来る、その価値点は10点とされ、身体の 要素によって決められる。しかし、手具の熟練度と関 連なく実施された身体の難度は、難度として認められ ない。つまり、構成の中に身体の難度と手具の難度 があるが、身体の難度においても手具の使用が重要 な関連を持ち、手具の熟練度無しでは難度の価値
女子新体操 の 構成 における 手具要素 に 関 する 研究
―
手具要素が個人演技構成に及ぼす影響―
A Study of Elements of Apparatus in the Composition of Rhythmic Gymnastics:
The Influence of the Elements of Apparatus on the Composition of Individual Competition キーワード:女子新体操、構成要素、手具要素
高橋 衣代
が認められないのであるという事がわかる。各手具に は必須の身体のグループ(GCO)が定められている。 ボールは柔軟と波動(表1)とジャンプである。全て の種目において12個から10個の難度を有する演技 では少なくとも8個のGCOが必要である。9個あるい はそれより少ない難度を有する演技では少なくとも6個 のGCOが必要とされている。
(1)各選手のボールの身体の難度(D1)について KANAEVA(RUS)選手は柔軟5個(F 0.6点1個 G 0.7点2個 I 0.9点1個 J 1.0点1個)ジャンプ4個(G 0.7点1個 H 0.8点3個)ピボット2個(H 0.8点2個)
バランス1個(N 1.4点1個)合計12個の難度で構成 されている。
STANIOUTA(BLR)選手は柔軟6個(F 0.6点1 個 G 0.7点2個 I 0.9点1個 K 1.1点1個 L 1.2点 1個)ジャンプ4個(E 0.5点1個 G 0.7点2個 H 0.8 点1個)ピボット1個(M 1.3点1個)バランス1個(G 0.7点1個)合計12個の難度で構成されている。
ONUKI(JPN)選手は柔軟4個(F 0.6点2個 G 0.7点2個)ジャンプ4個(E 0.5点2個 F 0.6点1個 H 0.8点1個)ピボット1個(2.7点1個)バランス3個(G
0.7点2個 H 0.8点1個)合計12個の難度で構成さ れている。
YAMAGUCHI(JPN)選手は柔軟5個(E 0.5点2 個 F 0.6点1個 G 0.7点1個 H 0.8点1個)ジャン プ4個(E 0.5点1個 F 0.6点1個 H 0.8点2個)ピボッ ト2個(M 1.3点1個 2.1点1個)バランス1個(H 0.8 点1個)合計12個の難度で構成されている。採点規 則に定められているのは難度の数と徒手の要素であ る。ボールは柔軟波動とジャンプである。この点に ついては全ての選手が8個以上入っている。必須で ないバランスとピボットの数は少ないが入っており徒 手要素のバランスは保たれている。
KANAEVA選手のD1は合計12個10点の申告で平 均0.83点となり高い数値を示している。STANIOUTA 選手は合計12個9.9点の申告で平均0.82点となる。
この選手も高い数値である。ONUKI選手は合計12 個9.9点の申告で平均0.82点となりSTANIOUTA選 手と同点であるが1つの難度価値が突出しているの で全体を平均して価値点が高くなると世界のトップ選 手に匹敵すると考える。YAMAGUCHI選手は合計 12個10点の申告で平均は0.83点であるが1つの難 度価値が突出している、全体を平均して価値点が高
表1 柔軟および波動の難度表
くなることが必要である。
(2)ボールのD1の演技構成について
図①~⑧は各選手のボールとリボンの演技構成 で難度が行われた時間(秒数)と申告された難度の
価値点をグラフに表したものである。
KANAEVA選手は最低価値点が0.6点、最高価 値点は1.3.点である。上下の幅が少なく全体を通じ て0.8以上の高い価値点を持つ難度で構成されてい ることがわかる。演技構成の流れを見ると、山場が2 箇所あり、前半に1回、そして終盤で1回あり後半か
らラストに向けて盛り上がりがある。(図1)
STANIOUTA選手は最低価値点が0.5点、最高 価値点は1.3点である。全体が0.7以上の高い得点 で占めている。山場は大きく3箇所ある。前半に1回 中盤に1回後半に1回で終盤は高度な難度は入れず に終わりになっている。これは均等に高い難度を取り
入れた演技構成であり、終盤は危険を避けて確実に 終われるように構成していることがわかる。(図3)
ONUKI選手は最低価値点が0.5点最高価値点
は2.7点で大きな落差があることがわかる。2.7点以 外の難度価値は0.5点から0.8点にとどまっている。こ 図1 KANAEVAのボール 図2 KANAEVAのリボン
図3 STANIOUTAのボール 図4 STANIOUTAのリボン
図5 ONUKIのボール 図6 ONUKIのリボン
図7 YAMAGUCHIのボール 図8 YAMAGUCHIのリボン
れは2.7点のフェッテピボットにより得点を獲得しよう という構成である。高得点の難度を入れていることは その選手の特徴にもなる。しかし全体の流れから考え ると、山場が1つに見えて盛り上がりに欠ける(図5)
YAMAGUCHI選手は最低価値点が0.5点、最 高価値は2.1点と大きな差がある。全体の流れを見る と2つの山場があり、前半に1回後半に1回である。
後半に山場を構成している点は効果があると言える が、中盤が盛り上がらず終盤は低い価値点で納めて いる。終盤の盛り上がりが欠如している。(図7)
(3)各選手のリボンの身体の難度(D1)について KANAEVA選 手は ピ ボ ット5個(M 1.3点1個 L 1.2点1個 H 0.8点2個 F 0.6点1個)ジャンプ5 個(G 0.7点1個 H 0.8点4個)バランス1個(G 0.7 点)柔軟1個(G 0.7点1個)合計12個の難度で構成、
10点の申告で難度の平均点は0.83点、価値点につ いては最低価値点が0.6 点、最高価値点が1.4 点で 大きな差はない。前半に1回山場があり、中盤に1回 後半にも1回ある。ボールに比べて山場が多く、両 種目とも終盤に高い価値点の難度を使用することで、
演技を効果的に構成していることがわかる。(図2) STANIOUTA選手はピボット4個(M 1.3点1個 J 1.0点1個 H 0.8点2個)ジャンプ4個(H 0.8点2 個 E0.5点2個)バランス1個(G 0.7点1個 柔軟3 個(K 1.1点1個 J1.0点1個 G 0.7点1個)合計12 個の難度で構成、10点の申告平均0.83点価値点に ついては最低価値点0.5 点最高価値点1.3 点である。 山場は4箇所ある。この選手はボールの種目もリボン も均等に山場があり、終盤は高い価値点の難度を使
わないことが特徴である。(図4)
ONUKI選手はピボット4個(2.6点1個 0.9点1 個 F 0.6点1個 D 0.4点1個)ジャンプ4個(H 0.8 点1個 G 0.7点1個 F 0.6点1個 E 0.5点1個)バ ランス2個(J 1.0点1個 G 0.7点1個)柔軟2個(G 0.7 点1個 E 0.5点1個)合計12個の難度で構成10点 の申告、平均0.83点価値点については最低価値点 0.4点、最高価値点は2.6点で大きな落差がある。こ れはこの選手の特徴であり、次に高いのが1.0点で ある。高い山場がいくつも存在すれば、構成にもっと
変化や盛り上がりが得られると考える。(図6) YAMAGUCHI選手はピボット4個(M 1.3点1個 L 1.2点3個)ジャンプ4個(H 0.8点1個 F 0.6点1 個 E 0.5点2個)バランス1個(H 0.8点1個)柔軟3 個(J 1.0点1個 F0.6点1個 A 0.1点1個)合計12 個の難度で構成、9.8点の申告、平均0.81点で4選 手において最も低いことがわかる。価値点については 最低価値点0.1点最高価値点1.2点で落差が大きい。
全体には4回山場があるのは効果があるが、終盤に 最低価値点があるため終盤の盛り上がりが欠如して いる。これはボールにも共通している。難度価値の 平均点を上昇させる課題がある。(図8)
構成面ではKANAEVA選手は前半から中盤まで ほぼ同じ価値の難度で後半に高い価値の難度をい れて盛り上げている。
STANIOUTA選手は初めに高い難度を入れて後
半はむしろ低い難度を入れ最後まで盛り上がらない 無難な構成となっている。
ONUKI選手は前半に高い難度価値のものを入
れ、中盤からほとんど同等の価値の難度で最後まで 続いており、後半の盛り上がりに欠ける。
YAMAGUCHI選手は細かい起伏が見られる、3 回の山場があり、盛り上がりのある構成であると言え る。最後の難度が最も低い難度であることは安全で あるが盛り上がりには欠ける。
2.手具の難度(D2)について
手具を使用することは新体操の特徴である。この 手具要素(D2)に関しては採点規則に内容が定めら れている。
(1)各個人演技は数の制限なしに、手具操作の 熟練度を最高10点の価値点で含むことができ る:投げを伴う、又は伴わない、リスクの受け を伴う熟練度およびオリジナル要素。
(2)熟練度を含む要素が有効となるには、手具 操作においていかなる手具の技術的ミスもな く実施されなければならない。熟練度の基準 が複数組み合わさっている場合、その手具の ベースが不正確に実施されると、審判はその コンビネーション全体を無効とする。
(3)ベースの基準(ベースとは手具操作の熟練度 の価値決定の基盤となる動作)
熟練度の定義と規定
・投げを伴うおよび伴わない熟練度・リスク・プレア クロバット要素・手具のオリジナル
1)ボールの種目のベースについて
・腕の回旋運動を伴う又は伴わないボールの位置 を変える動き(ボールは手あるいは身体の一部で
バランス状態)
・手のボールの回りでの回転(徒手のジャンプも含 む)
・身体あるいは床上での小さなころがしのシリーズ
・手を添えたころがしのシリーズ
上記の全ては徒手のバランス、ピボット、柔軟、リズ ミカルなステップと組み合わせて実施する
2)リボンの種目のベースについて
・身体上でのスティックのころがし・手の回りでのス ティックの回転・スティックの身体でのつき返し、そ のほか手具要素について詳細に定められている 3)熟練度の基準
規則によるとボールの場合、 つきという動作は ジャンプ、バランス、ピボット、柔軟および波動を伴 えば0.10の価値が申告出来る。転がしという動作は 視野外、手以外でなど横の欄に示してあるそれぞれ の条件により価値点が申告できる。その内容をミスな く実施すれば得点が獲得出来ることになる。1973年 度版の採点規則にも徒手の難度とともに手具操作の
表2 熟練度の基準
重要性、徒手要素と手具要素の調和があげられてお り、この点は変化していない。これまでに構成の中の 身体の難度要素の価値点は変化してきた。手具の 種類はロープ、フープ、ボール、クラブ、リボンの 5種目で変化していない。しかし、手具の操作におけ る内容の変化、得点の確保の方法は変化してきた。
2009年2010年度版の採点規則では手具操作の熟 練度を構成に最高10点の価値点で含むことができる と定められている。熟練度の基準については熟練度 の基本的原則に従い、基礎技術要素が手具のミスな く実施された場合カウントされる。(表2)
4)身体が空間にある際の条件
・身体が空中にある場合:すべてのジャンプの難度、
ホップ、スキップ、またはシャッセより高い跳躍
・身体がバランスの状態にある場合;すべてのバラ ンス難度、すべての徒手要素で胴または動脚の ポジションが片足の爪先立ち、または片膝で固定 され保持されているもの
・すべてのピボット難度;すべての徒手要素で胴ま たは動脚のポジションにかかわらず、片足、また は両足支持(最低360度)によるまたは片手あるい は両手による垂直/水平/矢状軸での回転あるい は転回(最低360度)
・回転を伴う跳躍:すべてのジャンプの形で回転(最 低180度)を伴うもの・回転を伴う柔軟:胴の前屈を 伴う(最低360度)胴の後屈を伴う(最低180度)す べての柔軟あるいは波動の難度と定められている。 5)実施方法による条件
シリーズでの実施、リズミカルなステップ、手を用 いずに実施した操作、床上の位置で実施した場合、
視野外で実施手具および選手の面・方向・高さ・リ ズムの変化を伴って実施、ジャンプにより、またはジャ ンプなしで手具の上部または手具の中を通過した場 合などがある。得点はボールの技術的特徴である 投げ、つき、ころがし、操作にリズミカルなステップや、
床上、視野外などの条件を考慮して得点が決められ る。例えば、ボールを徒手の難度によりついた場合 は0.10点、視野外で転がした場合は0.1点というよう に加算されていく。最高10点まで加算することができ、 これを申告用紙に定められた記号により実施する順
番に記載しなければならない。(2)この申告された内 容がミスなく実施された場合得点となる。この規則は 手具の違いによって各手具の特徴を生かして演技を 構成することを示している。また、その特徴をシリーズ、
手以外、床上などによって多様に実施しなければな らないことになる。今回は世界選手権大会のメダリス ト、優秀選手、日本代表選手の演技内容に手具要
素が及ぼす影響を追求してみよう。
3.ボールの種目
(1)ボールの手具要素について
KANAEVA選手はころがし7回、つき3回、8の 字運動3回、そのほかに投げは12回ある。ころがし においては身体の腕上、胴体、背中、床上での実施、
難度を伴って、動きを伴ってなど多様に実施されてい る。つきはピボットの難度中、柔軟の難度中など難 度と共に実施されていた。8の字操作は動きを伴って 実施、この他にボールを背中に挟んで難度を実施、
足でボールを挟むなどの方法により、演技構成に豊 かな変化をもたらしていることがわかった。また、投 げの回数は多く、難度のジャンプでの投げ、ジャン プ中の受け、転回しながら、視野外から、手以外で 投げるなど徒手の要素を伴い、多様な方法で実施さ れている。投げは空間の利用をすることで空間構成 の多様性を高め、演技にダイナミックな要素、スピー ドの変化をもたらし、演技構成に流れの変化や盛り 上がりをもたらしていることがわかる。さらに左手によ る操作は5回あり、ピボットの難度中、ジャンプの難
度中などに実施され左右の手の使用にバランスを持 たせている。独創性のある手具の操作、難度を伴う 構成は高い能力を有していること、技術の熟練があり 確実な実施がなされている。
STANIOUTA選手はころがし4回、つき4回、投 げ10回、ころがしは身体の腕上をころがす、胴体か ら背中そして脚上など多面に渡ってのころがしや違う 場所を連続して転がしている。また、ころがして首の 後ろでバウンドさせるとか、足に挟んで難度を実施す るなど多様である。左手は4回ジャンプ中に実施して いる。投げはジャンプで投げる、転回しながら投げ る、床上で足を使用して投げるなど変化のある方法
でバラエティに富んだ構成で高い能力があることが わかった。
ONUKI選手はころがし7回、つき5回、8の字操 作2回、左手5回、投げは10回ある。個人総合3 位のSUTANIOUTA選手よりころがし、つきは上回っ ている。投げの回数も同数である。ころがしは身体 の腕上、胴体、背中、脚上など多面にころがし、床 上でもころがしており多様に構成に取り入れていると 言えよう。つきは背中から首、胸など多様性がある。 投げはジャンプの難度中、バランスの難度中、ピボッ トの難度中など、難度と共に投げを取り入れて高度 な技術があることがわかる。高度な技術が変化に富 んだ構成の要因にもなっていることがわかった。投げ の回数が多いが、限られた演技時間内に難度の要 素と手具の要素を入れなければならず、手具の技術 的能力の高さが必要とされる。
YAMAGUCHI選手はころがし9回、つき4回、8 の字操作3回、投げ7回でころがしが多く身体の腕上、
胴、背中、脚、頭のまわりもありころがしに多様性が あることがわかる。投げは少なく、ジャンプの難度中、
背中から首など変化はあるが空間の利用が少なくダ イナミックな要素が不足していると言える。左手は5 回ころがし、ピボットの難度中、ジャンプでの難度中 のつき、また、左手での操作が取り入れられており多 様な構成である。
4.リボンの種目
KANAEVA選手はらせん形を伴う難度を7回実 施、蛇形を描いて難度の実施5回、振り及び回旋 は6回、図形を伴う動きも取り入れている。ブーメラ ンという操作(リボンの先端を保持していてスティック を投げて引き戻す操作)が4回あり、ブーメラン中に 足で操作して引きもどす、足でリボンの図形を作るな ど独創的で難しい操作が構成に取り入れられている。
左手の操作が6回と多く、左手でスティックを跳ね返 す、ブーメランを左手でとる、ジャンプの難度中に左 手で受ける、ジャンプの難度で投げる、連続投げで 実施する、左手でピボットの難度を実施するなど高 度な技術と難度の熟練度があることがわかる。さらに 投げに関しては11回と多い。方法は足で投げる、回
転のジャンプ中に投げる、回転ジャンプ中に受ける、 回転を伴いながら足で投げるなど多種類にわたる変 化のある投げがある。
STANIOUTA選手はらせん形を描いて動きや難
度を7回実施、蛇形を描いて動きや難度を3回、振り および回旋は3回、らせん形は多く含まれているが難 度中に実施されており、方法に多様性が見られない。 左手は4回難度中に持ち変える、ジャンプの難度中 に投げる、左手でピボットの難度を実施するなどが あった。投げは7回投げて転回しながら受ける、ジャ ンプの難度中に投げる、転回しながら手以外の操作 で投げるなどがあったが、手具操作方法に独創性 がなく変化に乏しいと言える。
ONUKI選手はらせん形を描いて動きや難度を9
回と世界選手権のメダリストを超える回数実施してい る。蛇形を描いて動きや難度を7回、振りおよび回 旋は5回でどちらも多く実施している。数は多いが図 形の実施に不正確さがあるのは問題である。投げ は9回、投げ方に独創性のあるのは1回、床上で回 転運動しながら投げる、ジャンプの難度中に投げる、 ジャンプの難度中にブーメラン投げをする、視野外 で投げるなどがあるが、更なる変化を持つ操作、独
創性のある操作方法が必要である。
YAMAGUCHI選手はらせん形を描きながら動き
や難度を6回、蛇形を描きながら動きや難度を6回、
振りおよび回旋は2回、左手は5回、ピボットの難度 中に実施、ジャンプの難度中に受けるなどがある。 左手の回数は他の選手と比較しても少なくない。操 作が難度と共に実施されているが、独創性が欠如し ている。手具操作の方法も多様性が不足していること がわかる。投げは6回で他の選手と比較して少ない と言える。エシャッペ(小さな投げ)でジャンプの難 度中に投げる、連続して投げるなどで実施されている が方法に独創性は見られない。各選手の2つの種目 の図を見ると、STANIOUTA選手とYAMAGUCHI は難度の配置に差異がみられる。KANAEVA選手
とONUKI選手は両種目ともほぼ同じ配分で構成さ
れていることが特徴である。
図9 KANAEVAのボール 図10 KANAEVAのリボン
図11 STANIOUTAのボール 図12 STANIOUTAのリボン
図13 ONUKIのボール 図14 ONUKIのリボン
図15 YAMAGUCHIのボール 図16 YAMAGUCHIのリボン
5.投げの操作による空間利用と投げ以外の操作 図9~図16は各選手のボールとリボンの手具操 作を投げによる空間利用している時間と、投げ以外 の手具操作による時間に分けて円グラフにしたもので ある。
KANAEVA選手のボールは投げによる空間利用
が全体の36.7%であり、他の選手と比較して最高の タイムを確保している。空間を利用するのは投げによ る操作を伴って動きを実施、難度を伴いながら投げ る、リスク要素を実施するなどに分けられる。手具が 空間にあることは手に持って操作するより難しく、高 度な技術を要する。空間を利用することで演技にダイ ナミックな要素をもたらし、スピード感や多様性のあ る操作による構成がされている。投げ以外の操作は
63.3%、この内容は前に述べたが多様な操作で構成
されている。リボンは35.6%これも選手の中で最も多 い。投げ以外の操作は64.4%である。リボンは長さ のある手具なので操作が難しく、図形を描くことも難し
い。KANAEVA選手は巧みな操作技術で多様に手
具を操作している、空間利用の多さも複雑な操作技 術の熟練と徒手の難度の熟練の両方が調和していな ければ実現不可能である。世界のトップの座を獲得 するには、空間利用も多く使用して多様に構成する 事が重要である。また、投げ以外の操作も多く使用 しており、徒手の技術と空間利用が共に構成に大き な影響をもたらすことがわかった。(図9、図10)
STNIOUTA選手のボールは投げの操作による
空間利用が35.6%で多くの数値を示している。内容 は変化があり、徒手の難度は高い熟練度を必要とす るが、手具操作でミスがあった。手具操作に変化を 持たせることは高得点に結びつく重要な要因である が、熟練度が不足するとミスを招き構成が生かされ ないことになる。投げ以外の操作は64.4%、これは
KANAEVA選手のボールの演技の数値と同じであ
る。高い技術を有することがわかる。内容に独創性 のあるものがなく、変化に乏しい点がある。リボンは 投げの操作による空間利用は25.6%とボールに比べ て10%も少なくなっている。投げ以外の操作は74.4%
となる。リボンという手具の特徴から投げの操作が難 しいこと、難度中も難度無しの場合においても常にリ
ボンは動かし続けなければならない。したがって投 げの操作による空間利用も少なくなっているのである。 投げ以外の操作に独創性や多様性が必要となるが 不足している。(図11、図12)
ONUKI選手のボールは投げの操作による空間
利 用は34.4%でSTANIOUTA選 手より1.2%少な い投げ以外の操作も65.6%となる。投げの方法も変 化は考慮されてはいるが、空間利用が少なく世界の トップレベ ルに達するには、空間利用のパーセン テージを増加させて、内容を豊富にしてレベルアッ プを図る必要がある。リボンは投げの操作による空
間利用が33.3%でKANAEV選手には届かないが
STANIOUTA選手を超えている。投げ以外の操作
も66.7%となる。この点は日本の選手にも手具操作 によって高得点につなげられる可能性があることにな る。リボンにおいても独創性のある手具操作を考案 して変化に富んだ構成につなげられると考える。(図
13、図14)
YAMAGUCHI選手のボールは投げの操作によ
る空間利用は21.1%低い数値を示している。したがっ て投げ以外の操作は78.9%となる。これは手具を手 で利用していることが多く、多様性が不足していること を示している。空間の利用が少なく、演技にダイナミッ クな要素の欠如、スピード感が少なく世界のトップ レベルに追いつくには課題があると言える。リボンは 投げの操作による空間利用が24.4%これも少ない数 値である。投げ以外の操作は75.6%となる。空間利 用はダイナミックな要素のほかに手具が空間にある 時、受ける時の動作や方法に多様性がある事が可 能となり、演技の構成の良さに通じる重要な要因であ る。(図15, 16)
6.リスク要素について
今回は熟練度の中のリスク要素について取り上げ てみよう、1973年の採点規則にはリスクは存在しな い。2010~2012年の採点規則によれば、各演技に は、最低3回の「リスクの実施」が必要である。リス クの不足は不足するごとに0.2点の減点となる。これ らの「リスクの実施」はそれぞれの「リスク」で実施さ れる。回転の数に関わらず、異なるものでなくてはな
らない。リスクは手具の投げを伴うものと手具の投げ を伴わないものがある採点規則に内容を示す記号が
定められていて申告できる。
投げを伴うリスクは、手具が空中にある間に身体 が回転して常に手具との視野のコンタクトを失う、身 体の回転中または直後に受ける。表3に示されるよう に身体の回転軸を変える、選手の高さを変える、身 体の軸回転中又は直後に手具を受けてダイレクトに 身体でころがす、身体の軸回転中又は直後に手具を 2度投げする。身体の軸回転中又は直後に視野外で 受けるなどがある。注意の項目に次の点がある。
(1) 手具の受けは身体の難度中又は徒手要素中 にも可能であるが、ただしそれはその難度ま たは徒手要素が、直前の回転動作と完全に 結びつき、視野の喪失を妨げないという条件 においてである。
(2) ミスによる両手受けはいかなるものでも(全て
の手具で)リスクの価値点を0.10点下げる。
このような条件からリスクは投げによる場合と 投げを伴わない場合があるが、回転動作を 伴い、手具との視野のコンタクトを失うまた、
回転の直後に受けるなどリスクを伴う事を意味 している。
(3)演技構成の中のリスク要素を取り上げ、それ ぞれの選手の内容を見てみよう。
図17~図24は各選手のリスク要素のみを取り上 げ実施されたタイムと申告された価値点をグラフにし たものである。
KANAEVA選手のボールのリスクは合計5回含
まれており、演技の中盤に集中している。最低の価 値点は0.3点、最高の価値点は1.1点でこれが2回も ある。他の選手にはない価値点のリスクである。リス ク要素は最低3回あれば良いが多く演技に取り入れ ている。方法は難度中の投げ、回転または転回をし
表3 投げを伴うリスク
ながらの投げ、手具が空間にあるときの内容も回転 が含まれる。受けの方法もジャンプの難度中、柔軟 の難度中で回転要素を伴う、床上でしかも視野外で の受けなど複雑で高度な技術を要する。手具操作の 確実さが必須であり、身体の徒手要素も確実で、し かもスピードを要する、視野を失う条件の中で申告し た内容を実施しなければならない。リボンのリスクは 5回含まれており、数も多い。演技の時間配分では 中盤から後半に取り入れ、最後のリスクは演技のラ ストに入れられている(図17、図18)。これは非常に
危険度が高く、よほど実施が確実でなければこのよう な構成は出来得ないと考える。投げを伴うリスクでは 回転、または転回の直後に手具を受けなければ無効 となってしまう。手具の操作と身体の動きが調和して
いなければ実現しないものである。
構成に及ぼす影響については新体操の本髄であ る手具と身体運動の調和、手具操作の技術の高さ、
熟練度が身体運動と共に不可欠であり、盛り上がり や、スピード感があり、変化や、手具操作と徒手要 素の多様性があることが優位な構成の重要な因子で 図17 KANAEVAのボール 図18 KANAEVAのリボン
図19 STANIOUTAのボール 図20 STANIOUTAのリボン
図21 ONUKIのボール 図22 ONUKIのリボン
図23 YAMAGUCHIのボール 図24 YAMAGUCHIのリボン
ある。
STANIOUTA選手のボールのリスクは4回含まれ ているが最高の価値点が0.9点で1回のみ、他は0.4 点、0.7点、0.8点である。演技の中での実施タイム はバランスよく配分されているが、最後のリスクが76 秒に入れられており、終盤の危険性を避けている。こ のことはスピードの変化があまりなく、平坦な構成の 要因となっている。リボンのリスクは4回中盤に集中 している。しかもすべてのリスクの価値点が0.6であり、
平坦である。(図19、図20)
ONUKI選手のボールのリスクは5回と多く入って いる。最高の価値点が0.9点でSTANIOUTA選手 を上回っている。演技の実施タイムは中盤から後半 に集中している。終盤に最も高い価値点の0.9点のリ スクを入れている。このことは演技の終盤に向けて盛 り上がりを持たせている。しかも危険の高い終盤にリ
スクを入れることで熟練度のある技術があることを示 していると言える。リボンのリスクは5回、最高の価 値点が1.2点でKANAEVA選手より高い価値点の リスクを構成している。実施タイムは中盤から終盤 に実施されていて効果的な構成である。(図21、図 22)
YAMAGUCHI選手のボールのリスクは4回、価 値点は0.3点から0.9点実施タイムは、はじめて5秒 で0.9点のリスク、中盤で最後のリスクを入れている。 これは危険性を避け、終盤は確実に実施できるよう
構成している。リボンのリスクは4回、価値点が0.5 点から1.0点この種目も最初に1.0点のリスクを入れ、
中盤で終わりにしている。内容はジャンプの難度中 に投げる、回転要素で受ける、連続投げなどがある が空間の大きさが不足、変化のあるリスク要素の構 成がほしい。(図23、図24)
Ⅳ まとめ
世界のトップ選手と日本の選手をいろいろな角度か ら研究してきた、新体操の演技構成において手具要 素が及ぼす影響は多大であり、身体の難度(D1)と 手具の難度(D2)の両方が高い価値点で取り入れる こと、多様性に富んだ手具操作による構成がなされ
ていなければならないことがわかった。
D1について4名全ての選手が難度は最高12個を 有していた。難度の価値点を獲得するためには手具 の操作が必要とされており、新体操の本髄である手 具操作と身体運動である徒手との調和が必須である ことがわかる。D1の構成方法については世界のトッ プ選手は難度の価値点が平均して高得点となってい る。日本の選手は平均的ではなく、1つの突出した難 度に頼っているため偏りのある構成となっている。日 本の選手は各難度の価値を高めること、演技の後半 に、高い価値を持つ難度を構成できることがより効果 的な演技構成になるということがわかった。
D2についてはほとんどの選手が手具操作の熟練 度を最高10点の価値点で構成している。世界で1
位のKANAEVA選手は手具操作が、巧みに難度
と組み合わせて構成され、変化に富んでいる。ボー ルはリスクを含めて投げの要素が多く、投げの操 作による空間利用は全体の36.7%で他の選手と比較 して最高値を持っている。3位のSTANIOUTA選 手はボールの投げの操作による空間利用が35.6%
で、1位のKANAEVA選手のリボンと同じ数値であ る。これに比較して日本のONUKI選手はボールが 34.4%である。リボンはSTANIOUTA選手の25.6%
を超え33.3%となっている。投げによる空間利用は 世界のトップにも匹敵する数値であることがわかる。 YAMAGUCHI選 手は ボ ー ル でも21.1%リボ ンも 24.4%で4人の選手中、最も低い数値である(図9~ 図16)。日本の選手は空間利用をより多く取り入れるこ と、手具操作の方法も多様性が必要であることがわ かる。リスクについてはKANAEVA選手とONUKI 選手が同数入れているが、投げの方法、手具が空 間にある間の動作、受ける方法内容はONUKI選 手の場合多様性が欠除している。両選手共に終盤 にリスクを入れて演技に盛り上がりを出している。こ の点ではONUKI選手も世界のトップに劣らないこと がわかった。空間の利用は手具の操作の中でも高 度な熟練度を要し、構成に変化と多様性をもたらす 要因である。さらに投げ以外の手具操作において世 界のトップ選手は手具の特徴を生かして、身体の運 動と組み合わせている。また、独創性もあり、多様に
構成されており、効果的な手具操作の構成方法であ ると言える。さらに世界のトップ選手は実施技術の確 実性の高さも持っている。日本の選手は世界のトップ 選手と比較してD1,D2共に手具の操作の多様性が 不足していること、全体的な難度のレベルの向上が 必要であることがわかった。リスク要素は必要な数 が入っているが、変化に乏しく、独創性も見られない。 演技構成において難度D1を配分良く、しかも山場を 作ることが重要である。また、手具操作を徒手と巧み に調和させること、多様性に富んだ手具操作を取り 入れることが、効果的な演技構成方法であるが、日 本選手はこの点がまだ不十分である。今後不足して いる事を改善すれば日本の選手もより効果的で高得
点を確保できる構成となるであろう。
引用文献
(1) 2009-2010年新体操採点規則 (財)日本体操 協会P13
(2) 2009-2010年新体操採点規則 (財)日本体操 協会P48
(3) 2009-2010年新体操採点規則 (財)日本体操 協会P58
参考文献
1 CODE OF POINTS 2009-2010 Federation International Gymnastics
2 新体操採点規則2009-2010 (財)日本体操協 会
3 新体操規則集 1973年4月(財)日本体操協 会
4 高橋衣代他16名共著 新体操教本 図書出 版2009年12月
5 高橋衣代他2名共著 新体操レッスンⅠ 不 昧堂2009年6月
6 高橋衣代「新体操の個人演技における徒手要 素と難度要素に関する研究」日本体育学会 1997年
7 高橋衣代「新体操の歴史的変遷と採点規則の
変化について」東京女子体育大学紀要第29 号 2000年3月